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1989年のイナリワンとイナリトレ
1 :
トレーナー君
2026/06/25 22:29:15
ID:gH//pCuoOM
【このSSはフィクションです。時代考証などで違和感があっても、どうかご容赦ください】
2 :
あなた
2026/06/25 22:30:35
ID:gH//pCuoOM
「君、やっぱりこの企画は却下されたよ」
「そうですか……」
「着眼点はいいと思うんだけど、上の人には理解できないみたいでね」
「分かりました、かけあってくれてありがとうございます」
上司に一礼し、イナリトレは自分のデスクに戻る。
ため息をつくと、デスクに積み上がった書類に取り掛かる。
ここはとある商社。イナリトレはここのマーケティング部に勤めている。
この部では一番若手なため、先輩が立てた企画のための資料作りが主な仕事だが、いずれは大きな取引を扱いたいと考えていた。
3 :
トレーナー
2026/06/25 22:33:31
ID:gH//pCuoOM
資料作りがひと段落して、時計を見れば午後6時を回っていた。
カレンダーを見る。大きく書かれた1989年の文字、それと今日の日付。金曜日だ。
明日は休みだし、せっかくだから呑みにでも行くかな、と考えていると、デスクの上の電話が鳴った。
受話器を取り、こちらが会社名と自分の名前を言うと、威勢のいい声が返って来た。
「おうダンナ!そろそろ終わりそうかい?」
イナリワンの声だ。
「ああ、もう終わる所だけど」
「だったら呑みに行こうぜ!7時に駅に来てくんな!」
「分かった」
電話が切れた。
ちょうどいい、今日はもう切り上げよう。
イナリトレは荷物をまとめると、デスクを立った。
4 :
お兄ちゃん
2026/06/25 22:38:25
ID:gH//pCuoOM
駅に着くと、待ち合わせの掲示板の前に、イナリワンが居た。
今は営業の職で都内を駆けまわっているという彼女の恰好は、紫色のレディースのスーツ姿。身長の低さを補うように、大きめの肩パットを入れて、威圧感を出している。
それだけでも目を引くが、特に目立つのは髪型で、ボリュームのある髪をツインテールに分けて、ソバージュをかけている。かつてはリボンで髪をまとめていたが、今は真珠付きのヘアゴムでまとめている。
5 :
トレーナー君
2026/06/25 22:40:13
ID:gH//pCuoOM
大学で知り合った頃より、ずいぶんと垢ぬけたなあ、と見るたびに思う。
数年前。大学時代、イナリワンはウマ娘レース部で活躍し、イナリトレは部のマネージャーをしていた。
イナリワンの走りに魅入られたイナリトレは、我流で勉強し、プロ並みのトレーニングをイナリワンに提案した上、全力でイナリワンのサポートを行った。
そして、イナリワンはG1レース制覇を成し遂げたのだった。
当時はまさに息ぴったりの相棒で、イナリワンのトレーナー、略してイナリトレと呼ばれたのはその頃だ。
かつては何をするにも一緒だったが、今はこうして、たまに会って酒を呑むくらいの仲である。
6 :
モルモット君
2026/06/25 22:45:53
ID:gH//pCuoOM
「イナリ」
声をかけると、イナリワンは尻尾をぶんぶん振りながらイナリトレに笑顔を向ける。
「おうダンナ!待ってたぜ!」
「なあ、ダンナって呼ぶのは……」
「てやんでい!ダンナはダンナだろ?」
大学時代、レースで結果を出して相棒になった頃に、イナリワンがダンナと呼んでくるようになった。
トレーニングの組み方と、繊細なサポートが職人技のようだから、という理由らしい。
今もその呼び方をされると、誤解を招く気がするのだが、呼び方を変えるつもりは無いようだ。
7 :
トレピッピ
2026/06/25 22:52:35
ID:gH//pCuoOM
「それより、早く行こうぜ。店は電話で取ってあるからよ」
そう言って、イナリワンが得意そうに、肩にかけたバッグから取り出したのは、『携帯』するにはあまりに大きい電話だった。
プラスチックの角材みたいな機械から、無線機のような長いアンテナが伸び、簡素な液晶と1から9までのボタンが付いている。
写真でしか見たことが無い機械に、イナリトレは驚く。
「携帯電話か?」
「おうよ!ダンナの会社にも、こいつでかけたんだぜ」
「ずいぶんと高かったんじゃないか?」
「てやんでい。話は後にして、店に行こうぜ」
駅の出口へ向かいだしたイナリワンの後を追って、イナリトレも歩き出すのだった。
8 :
お兄さま
2026/06/25 22:57:33
ID:gH//pCuoOM
「どこで手に入れたんだ?」
居酒屋の個室に腰を落ち着けると、イナリトレは対面に座ったイナリワンに聞いた。
「地元の電気屋のおっちゃんが持たせてくれたんでい。取引先にいち早く連絡できるから便利でよ。ま、ちょいと金はかかるけどな」
「見てもいいか?」
「いいぜ!大切な商売道具だけどよ、ダンナなら構わねえぜ!」
イナリワンから、携帯電話を渡される。
電子機器としては重い。少なくとも1キロはありそうだ。イナリワンが軽々と扱えるのは、ウマ娘の筋力のおかげだろう。
分厚くて持ちにくく、耳に当てても話しているうちに手が疲れそうだ。長電話はできそうにない。
9 :
アナタ
2026/06/25 23:02:15
ID:gH//pCuoOM
「これは、扱いにくいな」
「へへ、便利さと引き換えにってやつでい」
携帯電話を返すと、イナリワンは笑って言う。
「なんでも出始めなんて、そんなもんよ。おっ、酒が来たみたいだぜ」
生ビールで乾杯すると、イナリトレはふと考えついたことを、ぽつりぽつりと話し出す。
「その携帯電話だけどさ、もっと扱いやすくなると思うんだよ」
「ほう、もっと軽くなるってことかい?」
「それだけじゃなくてさ、その電話、画面がついてるだろ?そこに数字の代わりに文字を入れて、手紙みたいにやりとりしたりさ」
「はあ、なんとも想像できねえなあ」
10 :
キミ
2026/06/25 23:07:32
ID:gH//pCuoOM
「少し調べたんだけど、コンピューター通信ってのがあってさ、電話回線で文章をやり取りできるらしいんだ。携帯電話があるなら、携帯コンピューターだって出てくるはずだろう?」
「たしかにそうだな」
「コンピューターって言うなら、ファミコンだってコンピューターだ。もしかしたら、ファミコンも携帯電話でできるようになるかもしれない。そもそも、ゲーム&ウォッチがあるじゃないか」
「そういうもんかねえ。そもそも、電話とゲームを一緒にしてどうするんでい」
イナリトレはビールを飲んで続ける。
「文章が作れるなら、駅の掲示板みたいな、文章を集める場所が出来て……なんといえばいいのか、もっと軽くなった携帯電話で、大勢の人に文章を見せたり、逆に大勢の人の文章が見られたりするようになるんじゃないかって。もしかしたら、世界中の人に、簡単にメッセージを送れる時代が来るかもしれない」
「いやはや、なんとも壮大な話だねえ。頭がこんがらがりそうでい」
11 :
お兄さま
2026/06/25 23:08:12
ID:gH//pCuoOM
イナリワンはビールをあおる。
イナリトレは、がくりとうなだれる。
「だからだろうな、これからコンピューターの時代が来るから、その材料や部品をもっと取り扱うべきだって上司に申告したんだけど、分かってくれなくてさ……」
「まあ、みんな土地の値段の話ばっかりだからなあ、仕方ねえさ。そら、じゃんじゃん呑んで、嫌な気分はすっとばしな!」
イナリワンがビールのおかわりを注文し、イナリトレは鬱憤と共にそれらを飲んでいった。
12 :
お兄ちゃん
2026/06/25 23:10:10
ID:gH//pCuoOM
「おいおい、大丈夫かい?」
「ああ、ごめんイナリ……」
泥酔したイナリトレは、イナリワンに背負われていた。
吐くほどではないとはいえ、足元は完全にふらついて、家に帰ることさえできそうになかった。
「てやんでい、酒は呑んでも呑まれるなって」
「本当にごめん……」
「まあ、あたしが呑ませすぎたってのもあるけどな……よし、ここにするか」
イナリワンが足を止めたのは、きらびやかなネオンで飾られた建物の前だ。
「ここでちょいと休憩しようぜ」
「どこ……だ?」
泥酔しているせいか、視界はぼんやりして、ろれつが回らない。
「ま、すぐに分かるさ」
13 :
ダンナ
2026/06/25 23:15:10
ID:gH//pCuoOM
気が付けば、ホテルの一室のような場所に運ばれていた。
ふかふかのベッドに寝かせられ、白い天井を見上げている。
シャワーの音、薄暗い明かり、ぼーっとした頭の中。
やがて、シャワーの音が途絶え、泥のように時間が流れる。
少しずつ、視界がはっきりしてくる。酔いが醒めかかっていた。
「なあ、ダンナ」
イナリの声が、すぐそばからした。
14 :
トレピッピ
2026/06/25 23:17:20
ID:gH//pCuoOM
「大学の頃、なんでこうならなかったんだろうな」
腰の上に、何かがのしかかる感触。
「あんなに一緒だったのにな」
大学生の頃。イナリと一緒にレースの挑むのに全てをかけていた。
相棒として、イナリと一緒に居るのが楽しくて、それがずっと続くと思っていた。
どこかに出かけよう、何かをやろう、そんな時は当たり前のように一緒だった。
けど、こうして社会に出れば、そんな繋がりはどんどん薄くなって。
気が付けば、理由を付けないと会えなくなってしまっていた。
15 :
ダンナ
2026/06/25 23:17:56
ID:gH//pCuoOM
「ダンナ」
目の前に、青い瞳。
決意を秘めたイナリの眼光を見るのは、久しぶりで、懐かしい気分になった。
「いいかい?」
しばらくの逡巡の後、頷く。
かつての繋がりを取り戻すように、熱い夜が二人を包みこんだ。
16 :
お兄さま
2026/06/25 23:19:42
ID:gH//pCuoOM
「独立するよ」
朝日が差し込む窓の前で、イナリトレは言った。
「そうかい」
スーツを着て、身支度を終えたイナリワンが言う。
「俺の信じることを、やれるだけやってみるよ」
「それで?」
「一緒に来てくれないか?」
「てやんでい!」
イナリワンが、笑いながらイナリトレの背中を叩く。
理由はもう、必要なかった。
「どこにだって付いて行くぜ、ダンナ!」
17 :
キミ
2026/06/25 23:22:13
ID:gH//pCuoOM
イナリトレとイナリワンが立ち上げた会社は、主に電子機器の部品を扱う会社であり、設立当初は利益が安定しなかったが、相棒として互いを支え合い、苦難を乗り越えた。
そして、90年代初頭にポケベルが流行すると、莫大な利益を上げることに成功。
現在は、スマートフォンの部品の流通に携わっており、安定した利益を上げ続けている。
設立者の二人は、今もなお夫婦という名の相棒として、公私共に支え合っている。
18 :
貴様
2026/06/25 23:22:52
ID:gH//pCuoOM
【終わり】
19 :
モルモット君
2026/06/25 23:48:54
ID:e/Lhn9FZ5s
どんなシチュエーションでもコンコンに持ち込むその意思や誉れ高い。
それにお互い成人して社会人ならだれも止めやしない。健全で良し!
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