ハロウィンイベントに参加するイナリワン
1 : ダンナ   2025/10/30 19:56:20 ID:M4niie8Uyc
 10月の末日。大井の商店街はハロウィンムードに包まれていた。
 街灯や店の壁には、色とりどりのハロウィンの飾りが吊るされ、どの店先にも、ジャック・オー・ランタンの模型が置かれている。
 何よりも目を引くのは、イベント参加者たちの仮装である。
 一般人の参加者も多いが、大部分を占めるのは、大井レース場に所属するウマ娘たちだ。
 このハロウィンイベントの開催も、彼女たちが提案したものである。
 お化けの仮装をして商店街を歩き、地元の人や他所からやってきた参加者と交流する。
 華やかなイベントを開けると同時に、商店街の売り上げも上がるということで、商店街が開催を許可したのだ。
2 : 貴様   2025/10/30 19:59:04 ID:M4niie8Uyc
「しっかしまあ、ここまで盛り上がってると、お祭りみてえだなあ」
 イナリワンは、普段より人通りの多い商店街を見回しながら言う。
 夕方の時間帯。黄昏時の赤い夕陽が、仮装した参加者たちを赤く照らしている。
 学校が終わっている時間なのもあり、学生の参加者が多くなってきていた。
 イナリワンとイナリトレは、イベントに参加するついでに、問題が起きるのを防ぐため、風紀委員よろしく商店街の見回りをしているのだった。
3 : トレ公   2025/10/30 20:03:36 ID:M4niie8Uyc
「どいつもこいつも、可愛い仮装をして浮かれきってるじゃねえか。ダンナも目移りしちまうんじゃねえかい?」
「そりゃ、みんな華やかな仮装をしてるけどさ」
 と、彼女の隣を歩くイナリトレが言う。
「俺は、イナリの仮装が一番可愛いと思うよ」
 イナリワンの仮装は、狐の耳を模した耳カバーを付け、コスプレ用の巫女服を着た、狐の妖怪をイメージしたものだった。
 量販店で購入した安物だが、本物の妖怪と見紛うほどにイナリワンは着こなしていた。
「てやんでい!家で散々、可愛いだの似合ってるだの言ったんだから、外で言うんじゃねえや」
 と、イナリワンはまんざらでもない顔で、イナリトレの腕を軽く殴ってみせる。
4 : トレーナー   2025/10/30 20:06:52 ID:M4niie8Uyc
 そうして、二人で歩いていると、見知った顔が駆け寄ってきた。
「イナリ先輩!トレーナーさん!トリック・オア・トリート!」
 挨拶したのは、大井レース場のチームに所属している、イナリワンの後輩だ。
 魔女をイメージさせる仮装をしており、白いワイシャツの上から黒いケープを羽織り、下は黒のミニスカート、頭には黒のとんがり帽子をかぶっている。手には、お菓子が入った小さなかごを持っていた。
「おう、お疲れさん!」
「イナリ先輩!こういう時は、トリック・オア・トリートですよ!」
「てやんでい!そういうのはなかなか言い慣れなくてなあ……」
「ははは、トリック・オア・トリート」
 イナリワンの代わりに、イナリトレが笑って言った。
5 : お姉さま   2025/10/30 20:08:59 ID:M4niie8Uyc
「はい、トリック・オア・トリート!お菓子をどうぞ!」
 そう言って、後輩ウマ娘はかごを差し出してきた。
 しかし、イナリワンはそれを手で止める。
「いけねえ、あたしたちはまだお菓子を買ってなくてよ。一方的に貰うのもバツが悪いし、お菓子はまた後ででいいかい?」
「はい、大丈夫ですよ!それにしても、イナリ先輩の仮装、昔話の妖怪みたいでとってもよく似合ってます!」
「ありがとよ!お前さんもよく似合ってるぜ!本物の魔女みてえだ!」
 そこで、後輩ウマ娘は何かを思いついたように、目を光らせた。
6 : 貴方   2025/10/30 20:11:14 ID:M4niie8Uyc
「トレーナーさんは、どうです?」
「え?」
「私の仮装、可愛いですか?」
 後輩ウマ娘にじっと見つめられ、イナリトレは言葉を詰まらせる。
 いくらハロウィンとはいえ、相手は年頃のウマ娘だ。
 いきなり可愛いかどうか聞かれて、どう答えればいいか一瞬迷ってしまう。
「よ、よく似合ってると思うよ」
「もし、可愛いと思うなら……」
 後輩ウマ娘が、身を寄せてくる。
「今度二人きりで、トレーニングをお願いできますか……?それで、もしよければ専属トレーナーに……」
7 : 相棒   2025/10/30 20:15:27 ID:M4niie8Uyc
 後輩ウマ娘が、イナリトレの手を握ろうとした時、イナリワンの怒声が飛んだ。
「べらぼうめい!逆スカウトならよそでやってくんな!」
 後輩ウマ娘はクスクス笑いながら、イナリトレから身体を離す。
「はーい!それじゃ、また後で!トリック・オア・トリート!」
 後輩ウマ娘は、ささっと風のように立ち去った。
 イナリワンは、呆れたようにため息をつく。 
「まったく、ハロウィンだからって浮かれすぎでい!」
「いやあ、見事にイタズラされてしまったな」
 今の逆スカウトは本気ではなく、こちらがお菓子を渡せなかったことによるイタズラだろう。とイナリトレは思った。
8 : アナタ   2025/10/30 20:17:14 ID:M4niie8Uyc
 イナリワンは、むっとした顔をイナリトレに向ける。
「てやんでい!ダンナもダンナでい!デレデレしやがってよ!」
「い、いや、デレデレなんて……」
「ちょっとこっちに来やがれい!」
 怒ったイナリワンに、手を引っ張られる。
 連れてこられたのは、通りを外れた脇道の、電信柱の陰だ。
 そこに押し込まれ、イナリトレはイナリワンと顔を突き合わせる恰好になった。
 
9 : 貴様   2025/10/30 20:20:42 ID:M4niie8Uyc
 イナリワンはむすっとした声で言う。
「……トリックオアトリート」
「え?」
「トリックオアトリートでい!お菓子を出しな!」
「いや、まだ買ってないから……」
「だったら、イタズラだよな」
 イナリワンは、イナリトレの肩を掴んで無理やりかがませると、首筋に噛みつき、歯を突き立てた。
 鋭い痛みが一瞬走り、熱っぽい余韻を残して消えていく。
 首筋から口を離し、イナリワンはにやりと笑って、イナリトレの目を見つめて言った。
「これでもう、誰もちょっかいを出せねえってわけよ」
10 : お姉さま   2025/10/30 20:24:34 ID:M4niie8Uyc
 イナリトレが自分の首筋を指で撫でると、くっきりと噛み痕がついているのが分かった。
 目の前には、青い炎が宿ったようにギラギラと輝いている、イナリワンの青い瞳。
 青い瞳から、心臓を握られるような冷たさと、生暖かい心地よさを同時に感じて、視線を外すことができない。
 ごくりと息を呑む。狐の妖怪が本当にいるなら、こんな感じなんだろうな。とイナリトレは思った。
11 : 貴方   2025/10/30 20:27:21 ID:M4niie8Uyc
 その後、二人は商店街の店を回ってお菓子を買い、友人や後輩たちとお菓子の交換をしたり、談笑して楽しんだ。
 しかし、イナリトレは首筋についた噛み痕をみんなから見られてしまい、また一つ、大井のウマ娘たちの間に、新しい噂が流れるのだった。
12 : アナタ   2025/10/30 20:28:19 ID:M4niie8Uyc
【終わり】

13 : トレーナーさん   2025/10/30 20:30:00 ID:cmX/0ClZLU
そういえば、明日はハロウィンだったか

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