ウマ娘プリティーダービー オリウマSS 「月光の蹄跡」
1 : 使い魔   2025/07/09 17:40:18 ID:gwmk7DwAlw
第1話「出会いは月光の下で」

欲しい参考書を探して本屋を巡っていたら、すっかり日が暮れてしまった。
明日も学園内でいろいろ動き回らなければいけないのに、今からもうトレーナー室で残業をすることになった私は、
春からトレセン学園に赴任した新人トレーナーの狼咲あゆみ。
まだ右も左もわからず、流れていく時間に身を任せているだけの存在だ。

(でもいつかは、GIを獲れるようなウマ娘を育てたい……)

そんなことを考えながら、学園のすぐ近くまで戻ってきた。
「よし、じゃあ資料の準備を……ん?」

すぐ通り過ぎた横目に、何かが映りこんだ事に気づく。
5歩くらい戻ってみた。すると、

「え……ウマ娘??」
トレセン学園指定の赤いジャージを着た一人のウマ娘が、茂みのそばで眠っているのだ。
おそらく150cmほどのスラッとした体格で、茂みの中にすっぽりと入り込んでいる。
目を引いたのは、ふわふわなしっぽまで届くんじゃないかという長い髪(こちらもふわもこ)……それらの毛色は、あまり見ない色をしていた。
___ふと、夜空を見上げる。
「月……そっか、この娘の毛色って」
それは、彼女を照らし出す月光にも負けないぐらいに輝く、不思議な色。
月毛と呼ばれる、珍しい毛色であった。
2 : お前   2025/07/09 17:40:47 ID:gwmk7DwAlw
(って、浸ってる場合じゃない。この娘を起こしてあげないと)
時計は夜の21時30分。そろそろ生徒の寮の門限の時間が迫っている。
「こんなところで寝てると、風邪引くよー……」
声をかけ、ゆっくりと肩に手を置き、軽くゆさってみた。
「……ぇ、だれですかぁ……ふわぁ……」
ウマ娘の少女はすぐに覚醒した……透き通るような水色の目は、あまり開いていない気もするが。
何時間くらい寝ていたのだろう。そもそもなぜここで寝ていたのだろう。
「私はトレセン学園のトレーナーよ。あなたも学園の生徒なんだろうけど、どうしてここで寝てるの??」
「トレーナーさんでしたかぁ……あ、私はですね……走りすぎてすごく疲れちゃって……いつの間にかって感じなのです」
ついうっかりみたいな調子で話している、目の前の少女。
そもそも、「バテて眠る」ほどの運動量はどれ程のものだったのだろうか。
「……やばっ、門限が近いのですー!トレーナーさん、起こしてくれてありがとうございましたー!」
スマホで時間を確認したその少女は、一瞬にして起き上がり、すごい速さで寮へ走っていってしまった。
(のんびり系かと思ったけど、すごい瞬発力だったな)
起き上がる速さ、そして両手の支え無しで瞬時に立てる体幹……
私は正直、あのウマ娘は只者ではないと思った。
だが、名前を聞き忘れてしまったじゃないかと少し落胆。

(また会えるかな……)
そんなことを思いながら、私はトレーナー室で書類整理に勤しむのであった。
3 : アネゴ   2025/07/09 17:41:00 ID:gwmk7DwAlw
第2話「お昼時の再会」
それから数日。
月毛のウマ娘の少女とは、未だ再会できていない。
いや、実はどこかで会っているのかもしれないが……私が日々いそがしすぎて、
会っていることを自覚していないのだと思うこともある。

ウマ娘のトレーニング見学や、校舎内での研修など……新人トレーナーはやることが多い。
だがこれも全部、将来の担当ウマ娘と出会う時のため……。

「だぁぁぁぁぁ疲れたぁぁぁぁぁ!!」
ある昼時。トレーナー室で一人、思い切り叫んでしまった。
やることが多い……!!
……でも、なんというか、私はまたあの少女に会いたいのだ。
それが今の原動力になっていると思っている。
しかし、お腹が空いてきた。
「お昼、食べるかぁ」
今日も今日とてコンビニ弁当ではあるが、安くて助かっている。
部屋にレンジの類はないので、そのまま食べるのだが……まあ問題ない。
(そういえば、お昼ごはんを食べるのに、いい場所があるんだっけ?)
ふと、生徒たちの噂を小耳に挟んだのを思い出す。
お祈りスポットとして有名な「3女神像前・噴水広場」。
あそこは水の音を聞きながらの食事で心も和む、癒しスポットなのだとか。
「……行ってみようかな」
何か、縁起を良くしたいと思った私は、噴水前で昼食を取ることに決めた。
4 : アナタ   2025/07/09 17:41:20 ID:gwmk7DwAlw
「これが……三女神像……」
学園に赴任してから、その姿をしっかりと見る機会は今日が初めてだった。
すべてのウマ娘の血は、伝説の3人のウマ娘から繋がっているという。
近頃はVRウマレーターというフルダイブマシンで、彼女たちの姿と人格を再現したAIによるトレーニングを受けられるらしいが、
担当のいない私にはまだ早い話だろう。
「さてと……」
ベンチに腰を下ろし、プラスチック容器の蓋を開ける。
「いただきま______」
「……隣、いいですか?」
「ん??」

食事の時間が始まるその瞬間、横から声をかけられた。
ベンチのスペースには空きがある。座るのは別に問題なさそうだが……
声の主は誰なのだろうと振り向くと……。

「……あ!」
私は目を見開き、軽く声を上げて驚いた。
そこに立っていたのは、学園のジャージを着た一人のウマ娘。
長く、ふわもこな、月毛色の髪を持つ……あのときの少女であった。
5 : お兄さま   2025/07/09 17:41:47 ID:gwmk7DwAlw
「この前のトレーナーさん!また会えて嬉しいのです!」
「私も嬉しいけど……どうしてここに?」
「あはは……色々と事情があるですが……」

少女いわく、今日は食堂で限定ランチの日らしく、
いつもより室内のウマ娘の数が多いのだという。

「私は上手く入り込めなくて、せっかく用意したお弁当を食べる場所がここになったのです!!」
少女はドヤ顔で、使い古されたキャラ箱に詰め込まれた弁当を私に見せてくる。

「ま、まぁとりあえず……一緒に食べましょうか」
「はいっ!ありがとうございます!」

再会した月毛の少女とともに、私は昼ご飯を食べ始めた。

そして十数分後……。

「ぷふー。お腹いっぱいですー」
「私もよ。でも午後からもいっぱい動かなきゃいけないから……食べないとね」
「午後……そうだ!トレーナーさん、ちょっと聞いてほしいのです」

お腹いっぱいで満足そうな少女は、何かを思い出したかのように1枚のパンフレットを渡してきた。
これはどうやら、定期開催される模擬レースのお知らせのようだ。
「えっと……これ今日のやつね?」
「はいっ!私も、それに出るのです!」
6 : お姉ちゃん   2025/07/09 17:42:33 ID:gwmk7DwAlw
第3話「大敗!!!!!」
『さあ、今週もトレセン学園グラウンドで、模擬レースが開催されます!
未来のスターウマ娘に名乗りを上げるのは、いったいどの娘か!!』
いつもは練習で使われているコースも、今日は実況が盛り上げ、観客で賑わっている。
週に一度の大イベント、模擬レースの日だ。
まだ担当契約やチーム契約をしていないウマ娘が出走可能で、実際のトゥインクルシリーズとほとんど同じ距離で芝やダートのレースを走り、
自分の力をトレーナーたちにアピールするのが主な狙いである。
「で、私も来てみたけど……」
月毛の少女に誘われ、模擬レースの会場にやってきた私。
彼女が今回出走するのは、芝2000mのレースだ。
楕円形の半分の中心からスタートすることになり、反時計回りでぐるっと戻って来る、
シンプルでオーソドックスなコース形状なのだが……

「どう走るんだろう……あの娘」
実際のところ、あの少女が走っているところをしっかりと見たことはない。
あの夜、私をドキドキさせた瞬発力の持ち主であることが、現時点での唯一の情報だ。

『まもなく1Rが開始されます!芝2000m、王道の距離を制するのはー!?』

実況の煽りとともに、9人のウマ娘がコースへ入場してくる。
その中にはもちろん、月毛の少女の姿もあった。

長くふわふわな髪は、なんというか歩くだけでも揺れる。
他のトレーナーたちも、少しは印象の中に彼女を記憶するのではないだろうか。
7 : アネゴ   2025/07/09 17:42:59 ID:gwmk7DwAlw
『各ウマ娘、ゲートに収まっていきます』
模擬レースで使用されるスターティングゲートは、過去に実際のレース場で使われたものの型落ちモデルだという。
しかしメンテナンスは定期的に行われ、こうして明日のスターの誕生を支えているのだ。

(あの娘は9番ゲート、大外か……)
人数が少ないとはいえ、大外が不利になりやすいのは素人目にも見えている。
ならば、彼女はどう走る?どう行く?
発走前から、自分も高揚していた。

『すべてのウマ娘が、ゲートに入って体制完了……今、スタートしました!』

一瞬の静寂のあと、ガッチャン!という音とともにゲートが開き、
9人のウマ娘による模擬レースが始まった。

『さあこのレース、最初に主導権を握ったのは……9番!大外9番のウマ娘が、内に切り込むように早くも先頭!』

おお……!と、周りも少しざわめく。
自分も驚いた。一瞬にして加速し、中々のスタートセンスの持ち主だと思った。あとはこの後、主導権を握り続けられるか……。
8 : お姉さま   2025/07/09 17:43:23 ID:gwmk7DwAlw
______駄目だった。

『1着は3番!模擬レースを制しました!!』

残り800mほどで失速、ギリギリ粘るも6着と掲示板の外だ。

(んー……)
レースが終わってすぐ、私はその場で考える。
インでロスなく走れているように見えたが、何が駄目だったのだろう?
走った本人ならちゃんと理解できるのかもしれないが、自分も考えたいと思った。

そうしながらも、全ての模擬レースを観戦し……夜になった。

「また暗くなっちゃった……早く今日の資料まとめないと」
模擬レースではたくさんの収穫があったので、それを電子で書き出さなければならない。
校庭を抜けて、学園内に戻ろうとしていたその時……

「___くやしいのですぅぅぅぅぅ!!」
「ん!?」
雄叫びが、聞こえた。
9 : アナタ   2025/07/09 17:43:50 ID:gwmk7DwAlw
噂には聞いていた。悔しい思いをしたウマ娘が、その気持ちを吐き出すための切り株があると。
だが、その光景を実際に見るのは、初めてだった。

あの少女が、叫んでいるのだ。

「なんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

切り株に顔を突っ込みながら、ひたすらに叫び続けている。
どうするべきだろうか。
一瞬だけ考えたが、気がつけば身体が動いていた。

「あの……大丈夫??」
「これ、大丈夫に見えますです?」
「……ごめん」

___聞けば、今日のレースにはとても自信があったのだという。
だが、結果は6着。

「うう……スタートもしっかり出来て、最高だと思ったのですが」
「ええ、確かに。レース運びとしてはあまり問題はなかったように見えた。でも……」
「でも??」
少女の話を聞きながら、私の中の疑問が輪郭を作って、形になっていくのがわかった。
そして、口に出してみた。
10 : お姉さま   2025/07/09 17:44:42 ID:gwmk7DwAlw
「……あなた、脚質は?」
「え、あ……追込です」
「やっぱりか」

疑問が、確信に変わる。
この少女の走りは、逃げじゃない。

「……どうしてわかったんですか?」
「初めてであったあの日……なんとなくね」
類まれなる瞬発力、ブレない体幹……それらはレース中にも発揮されていたが、
逃げの脚質で発揮できるほどの強さは無いようにも見えた。
道で爆睡してたあの時みたいに、全力で走ると、バテる……前でペースを握ろうとしても、駄目なのだ。

「ああ……わたし、小学校の頃までは内からぐいぐい押し込んでいくタイプの追込だったので……中学生になってトレセン学園に入って、身体の大きなお姉さんたちの中に入っていけなくなったというか」

(なるほど……)
昼間の食堂の話とも合う。
身体の小さなこの少女は、バ群に入ることを苦手としてしまっているのだ。
だがしかし、慣れない脚質では……。
(でも、それなら……)
その時、私の中に一つの答えが生まれる。
この少女にここまでしている理由は、わからない。
だが、もう止められない。
「次、連闘になるけど……来週も出てみて。模擬レース。それも、大外一気で!」
11 : トレーナー君   2025/07/09 17:45:02 ID:gwmk7DwAlw
第4話「BEGINNING」
私はまだ新米で、素人のトレーナーだ。
でも、思い浮かんだことを、できる限り少女に伝えた。

「あなたはスタートのセンスが高い。なら、どの位置から出ても確実に大外に回れる。それに、後ろで体力を温存して、一気に爆発させるの。できる?」
「わっ、わかりましたです。できます!……なんとなく、トレーナーさんを信じてみていい気がします」

月毛の少女も、私の提案を聞いてくれた。
元々の追込への適性もあるので、後ろから行くことに無理は少ないはずだ。
そして、祈るように過ごしながら、次の週を迎える……。

『さあ、今週もトレセン学園グラウンドで、模擬レースが開催されます!
未来のスターウマ娘に名乗りを上げるのは、いったいどの娘か!!』
いつもは練習で使われているコースも、今日は実況が盛り上げ、観客で賑わっている。
週に一度の大イベント、模擬レースの日だ。
しかし、今日は先週とは違う。
明確な、応援したい相手がいる。
勝って欲しいと願う相手がいる。

今回もまた、9人立てで芝2000mのコース。
入場してくるウマ娘たちを見守りながら、私は発走の時を心待ちにしていた。
12 : トレぴっぴ   2025/07/09 17:45:20 ID:gwmk7DwAlw
『各ウマ娘、ゲートに入って体制完了……スタートしました!』

ガッチャン!とゲートが開き、9人のウマ娘が一斉に飛び出す。
あの少女のゲートは……今回は最内!
上手くやらなければ一気に揉まれてしまうエリアだが……

『1番のウマ娘!良いスタートからの思い切った斜行!大外に回ります!』
また観客たちがざわめく。
主導権を握れる位置に立てたと同時に、一気に大外と後方へ移動したのだ。
(なるほど、これなら後ろに下がりながらも、序盤のペースをコントロールできる!)
最初から後ろに引くように外へ回ると、ペースが他のウマ娘次第となる割合が増えてしまう。
しかしこの状況であれば、最初のペースを握ったのはあの少女自身。
あとは安全かつ大胆に大外へ。他を見ながらスタミナをキープする。

そして残り600m……3ハロンで、レースが動いた。

『先頭を行くのは2番!4番が追走し、他のウマ娘たちも上がっていく最終直線!
……おおっと大外からすごい末脚!1番が上がってきた!!』

(きた!!)
あの瞬発力で、体幹で、月毛の少女が一気に来る。
ここまでいけば、他はもう関係ない。周りがどれだけ大きくても、
武器を最大限活かせている。

『1番が先頭!他のウマ娘に競らせる余裕も与えず、1着で今、ゴールッ!!』
13 : 使い魔   2025/07/09 17:45:46 ID:gwmk7DwAlw
「うおぉぉぉぉ勝っちゃたのですぅぅぅぅぅ!!」
______夜、またあの切り株に叫ぶ月毛の少女。
しかし今回は、勝利の雄叫びだ。

「トレーナーさんのおかげで、模擬レースで勝てました!ほんとうに、ありがとうです!!」
「私も嬉しいな。気になった娘が勝てたのが」
「えっ、気にしてくれたのです!?」
「ま、まあ」

担当契約を結んでいるわけでもない。ただ、少し話して、一緒にお昼を食べただけの仲。
でも、私はこの少女に惹かれていた。誰よりも輝くウマ娘になるんじゃないかと期待を寄せた。

「なら……トレーナーさん!わたしと、契約してほしいですっ!!」
「えっ唐突」
「だって、あなたの指示で、応援で、勝っちゃったのですから!!」

急なお願いをしてくる少女を、最初の夜と同じように月光が強く照らす。
そして少女は……名乗った。
「わたしは、ムーンライト! 太陽よりも眩しく、ぴっかぴかに輝くウマ娘になりたいです!!」

これが、月毛の少女……ムーンライトとの出会い。 
伝説の始まりになることを、まだ私は知らない。
14 : お姉ちゃん   2025/07/09 17:46:27 ID:gwmk7DwAlw
……はい、とりあえず書き溜めた4話ぶんです。好評なら続けるかもしれない。
15 : トレぴっぴ   2025/07/10 01:07:17 ID:dhDvHTTpyA
|д・) ソォーッ…
16 : あなた   2025/07/10 01:17:48 ID:MmSntrurIo
>>15
どうも。月毛ちゃん書きたいなって思って構想したやつです

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