狐の嫁入りに巻き込まれたイナリワン
1 : 大将   2025/06/03 21:16:08 ID:rNAMfMv.o6
 イナリワンとイナリトレの昼寝は、習慣になっていた。
「おうダンナ!寮には畳を置けねえからよ、こっちに置かせてもらうぜ」
 と、イナリワンが昼寝用の畳をトレーナー室に持ってきてから、4年が過ぎた。
2 : アナタ   2025/06/03 21:18:20 ID:rNAMfMv.o6
 トゥインクルシリーズが終わった後も、イナリワンは昼休みになるとトレーナー室にやってきて、畳に寝転んで昼寝をしている。
 そして、デスクで仕事をするイナリトレを見て、
「ダンナも一区切りつけて、昼寝でもしたらどうだい?ここが空いてるぜ」
 と、畳をぽんぽんと叩く。
 その申し出にイナリトレは、仕事の手を止めてイナリワンの隣に寝転び、愛バの寝息を聞きながら、つかの間の微睡みに浸るのだった。
3 : トレーナーさま   2025/06/03 21:21:10 ID:rNAMfMv.o6
 その日もいつものように、二人は並んで畳の上に寝転んでいた。
 イナリワンはすーすーと寝息を立てていたが、イナリトレはまだうとうとと夢と現を行ったり来たりしている。
 畳1枚の中に二人の身体を収めるために、何度も身体を動かしているためである。
 しばらくして、身体がちょうどいい位置に収まると、イナリトレは目を閉じて夢の世界に落ちていった。
4 : アンタ   2025/06/03 21:22:36 ID:rNAMfMv.o6
 気が付くと、神社の境内にいた。
 夢の世界の、特に美しい部分だけを切り取って作られたような場所だった。
5 : あなた   2025/06/03 21:24:35 ID:rNAMfMv.o6
 落ち葉ひとつ無い石畳と砂道、社は歳月を感じさせる古さがありながらも荘厳な雰囲気を纏い、境内を取り囲む森は、季節外れの紅葉に彩られている。
 空は晴天。しかしさらさらと小雨が降り、青い空に薄ぼんやりな虹がかかっている。
6 : トレーナー君   2025/06/03 21:28:12 ID:rNAMfMv.o6
 そして、白い狐がそこかしこにいた。
 ほっそりとした体を和装に包み、二本の後ろ脚で立って身を寄せ合っては、「おめでたや、おめでたや」と口々に言い合っている。
 まるで鳥獣戯画の、着物を着た動物たちだ。
 イナリトレは、彼らに近づいて聞いた。
7 : アナタ   2025/06/03 21:31:07 ID:rNAMfMv.o6
「何がおめでたいのですか?」
 すると、白狐たちは一斉にイナリトレに振り向き、驚きの目で見つめた。
「婿殿、遅刻ですぞ。支度をして下され」
 と一匹が言うなり、白狐たちはイナリトレの身体を持ち上げて、えっさほいさと神輿を担ぐように運び出した。
 そうやって運ばれているうちに、イナリトレは自分の恰好がころころと変わっていくのが感じられた。 
 
8 : お兄ちゃん   2025/06/03 21:34:19 ID:rNAMfMv.o6
 気が付くとイナリトレは、黒い羽織りと袴の姿で、行列に並んでいた。
 豪勢な行列である。
 前も後ろも、和装の白狐の群れが列を作り、色鮮やかで複雑な模様の和傘を差す者、小太鼓を叩く者、紙吹雪を参列者の頭上に降らせる者、もろ手を上げて「おめでたや、おめでたや」と騒ぐ者などがいた。
9 : トレーナーちゃん   2025/06/03 21:36:29 ID:rNAMfMv.o6
 石畳の道を、騒がしい雰囲気をまき散らしながら行列が進む。
 ぽん、ぽん、ぽん、と太鼓が打ち鳴り、行列に一定のリズムを作っている。
 それに合わせて歩くうち、イナリトレは隣に並んで歩く者がいることに気づいた。
 顔を綿帽子で隠し、身体を白無垢に身を包んだその女性は、イナリトレの視線に気が付いたのか、わずかに顔を上げた。
10 : トレぴっぴ   2025/06/03 21:39:21 ID:rNAMfMv.o6
 イナリワンだ。口紅を塗り、髪を結わえている。
 イナリトレは息を呑んだ。白無垢のイナリワンはあまりに美しかった。
「ダンナ、こいつはどういうことだい?」
 イナリワンは、困惑しているようだった。
11 : お姉ちゃん   2025/06/03 21:41:41 ID:rNAMfMv.o6
「俺も分からない。気が付いたらここにいたんだ」
「あたしも同じでい。狐どもに運ばれて、気が付いたらこの格好だったってわけよ」
 それから、イナリワンは顔を赤らめて、
「でも、悪い気分じゃねえな」
「いいのか?勝手に結婚式をさせられてるんだぞ」
「て、てやんでい!ダンナとならまんざらでもねえっていうか……」
12 : トレーナー君   2025/06/03 21:44:49 ID:rNAMfMv.o6
 イナリトレは、イナリワンの手を握った。
 イナリワンはびくりと身体を震わせ、イナリトレを見上げる。
「い、いきなり何するんでい」
「俺の目の黒いうちは、相手が誰であろうとイナリを守ってみせる。絶対に」
「ダンナ……」
13 : ダンナ   2025/06/03 21:46:24 ID:rNAMfMv.o6
 イナリワンはイナリトレの顔に見とれたようになったが、はっと気が付いて首を振った。
「けどよ、どうするんだい?夢の中に閉じ込められるなんて、初めてのことだしよ……」
「とにかく逃げよう。夢から覚めないと」
「逃げるったって、どこに……」
14 : アナタ   2025/06/03 21:47:29 ID:rNAMfMv.o6
 その時、紙吹雪を山盛りにしたざるを持った白狐が、二人の前にやってきて、
「おめでたや!おめでたや!」
 と、紙吹雪を二人の上にばらまいた。
 視界が紙吹雪で埋まっていく……
15 : お兄ちゃん   2025/06/03 21:49:30 ID:rNAMfMv.o6
 気が付くと、二人は神社の本殿の中にいた。
 目の前では、烏帽子を頭に乗せた白狐が、朱い盃をイナリワンに差し出している。
 イナリトレが止める間もなく、イナリワンは盃の中身を飲み、それを白狐に返す。
 続けて、白狐は同じ盃をイナリトレに差し出す。
 飲め、ということなのだろうか。
16 : トレぴ   2025/06/03 21:52:45 ID:rNAMfMv.o6
「ダンナ」
 イナリトレがためらっていると、イナリワンが青い瞳をイナリトレに向けた。
 契りを結ぶことを選んだ、力強い目だ。
 その目を見て、イナリトレは覚悟を決めた。
 結婚式がなんだというのだ。イナリに付いて行くと決めたのだ。遅いか早いかの違いしかないじゃないか。
17 : 相棒   2025/06/03 21:57:37 ID:rNAMfMv.o6
 イナリトレは、盃をぐいとあおり、中の液体を飲んだ。
 酒の味がした。そういえば、神前式では神酒を呑む、と聞いたことがある。
 酒があまり得意ではないイナリトレは少し心配したが、実際に飲んでみると神酒は心地良い甘みがして、苦も無く飲み干してしまった。
 イナリトレが盃を返すと、白狐は満足そうにうなずいた。
18 : トレぴっぴ   2025/06/03 21:59:32 ID:rNAMfMv.o6
「良きかな、良きかな。さあ、指輪を……」
 白狐にそう言われて初めて、イナリトレはいつの間にか指輪を握っていることに気づいた、
 手を開いて眺める。飾り気のない、シンプルな指輪だ。
19 : 相棒   2025/06/03 22:01:13 ID:rNAMfMv.o6
 イナリワンは、左手をイナリトレの前に差し出している。
 頬を赤らめ、恥ずかしそうでもあり、嬉しそうでもあった。
 イナリトレはその手を取り、薬指に指輪を通す。
20 : ダンナ   2025/06/03 22:04:07 ID:rNAMfMv.o6
 指輪は、彼女のために作られたように、薬指にぴたりと嵌った。
「それでは、誓いの言葉を……」
 白狐の声の通りに、イナリトレが誓いの言葉を口に出そうとした瞬間、視界は白く染まっていった。 
21 : キミ   2025/06/03 22:06:48 ID:rNAMfMv.o6
 イナリトレは、畳の上で目を覚ました。
 身体を起こすと、隣にイナリワンの姿が無いことに気づく。
 もしかして、夢の中から出られなくなっているのではないか?と考え、イナリトレの背筋にひやりと怖気が走った。
 もう一度寝て、イナリワンを探しに夢の中に入ろうとした時、
「おうダンナ!目が覚めたかい?」
 イナリワンが部屋の奥からやってきた。
22 : 相棒   2025/06/03 22:08:01 ID:rNAMfMv.o6
 両手に、湯呑みが二つ。
「あんまりぐっすり寝てるもんだから、茶を淹れて来たってわけよ」
 イナリワンはイナリトレの横に腰を下ろして、片方の湯呑みを差しだす。
 イナリトレは、ほっと安心しながら受け取る。熱い緑茶だ。
23 : お姉さま   2025/06/03 22:11:50 ID:rNAMfMv.o6
「こいつを飲んで、午後もがんばろうぜ」
「ありがとう、イナリ。……なあ、さっき夢を見たんだが」
「ダンナ」
 イナリワンは顔を赤らめ、片手で頭を搔きながら言う。
24 : アネゴ   2025/06/03 22:12:24 ID:rNAMfMv.o6
「ああいうのはまんざらじゃねえけどよ、今のあたしたちには、こいつで十分ってもんじゃねえかい?」
「……そうだな」
 二人は、湯吞みを軽くぶつけ合うと、熱い緑茶を一口あおり、午睡が見せた不可思議な夢を、頭から振り払うのだった。
25 : ダンナ   2025/06/03 22:12:55 ID:rNAMfMv.o6
 その夜。
 寮の部屋の扉を開けて、イナリワンが入って来た。
「ただいま、ターボ」
「おかえり、イナリ!」
 イナリワンを笑顔で迎えたのは、勉強机に向かうツインターボだ。
26 : トレーナーちゃん   2025/06/03 22:16:18 ID:rNAMfMv.o6
 勉強机にはノートパソコンが置かれており、液晶にはツインターボの趣味である動画編集の画面が映っている。夜更かししないといいんだが、とイナリワンは思った。
 ツインターボは出迎えもそこそこに、ノートパソコンに目を戻そうとして、ふと何かに気づいたようにイナリワンを見る。
 その視線は、イナリワンの左手に向けられていた。
27 : ダンナ   2025/06/03 22:16:48 ID:rNAMfMv.o6
「ねえ、イナリ」
「なんだい、ターボ」
「指輪なんてつけてたっけ?」  
「えっ?ああ、こいつは……」
「しかも、左手の薬指!もしかして、ついにトレーナーにプロポーズされたのか!?」
「お、おいおい!でかい声出すなって!」
28 : トレーナーさま   2025/06/03 22:18:06 ID:rNAMfMv.o6
 ツインターボは満面の笑みを浮かべ、椅子を揺らして嬉しそうに叫ぶ。
「イナリがプロポーズされた!イナリがプロポーズされた!」
「て、てやんでい!べらぼうめい!夜遅いんだから静かにしやがれってんだ!それに、パソコンばっかやってねえでさっさと寝やがれ!!!」
「照れ隠しだ!やっぱりプロポーズされたんだ!」
「うるせえやい!」
 イナリワンは、ベッドにごろりと寝転がった。
29 : アナタ   2025/06/03 22:19:03 ID:rNAMfMv.o6
「……どうすっかね、こいつは」
 イナリワンは、左手を天井に掲げて呟く。
 その薬指には、夢の中の存在であるはずの、飾り気のない指輪が嵌められていた。
「へへっ……せっかくだし、付けさせてもらうとするか」
 イナリワンは嬉しそうに言うと、頭から布団をかぶって、にやけた顔をツインターボに見られないようにするのだった。
30 : 使い魔   2025/06/03 22:19:27 ID:rNAMfMv.o6
 翌日。ツインターボが騒いだことで、イナリワンがイナリトレにプロポーズされたという噂が学園中に広がった。
 そしてイナリトレは学園長室に呼び出され、卒業後ならともかく、在学中の担当ウマ娘には節度をもって接するように。と秋川学園長とたづなさんからお叱りを受けるのだった。
31 : トレーナー君   2025/06/03 22:21:18 ID:rNAMfMv.o6
【終わり】 

32 : タマ命   2025/06/03 22:44:52 ID:w99tod3RQs
ここのBBSってたまによく文豪湧きますよね。

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