3レス毎に湿度が増すナイスネイチャ
1 : 使い魔   2023/05/17 08:34:41 ID:x6ORtBQkds
お金持ちのイケメン彼氏募集中だぜ⭐︎
レース頑張ろうぜ⭐︎

786 : トレーナーちゃん   2024/02/25 23:40:08 ID:mYh6oc.942
できた
これで3月末まで猶予ができる
787 : トレピッピ   2024/02/29 19:37:00 ID:EPSMBHDz3Y
もう2月も終わりか
788 : トレーナーさま   2024/03/01 18:56:37 ID:U3pMVRJeUo
お金持ちのイケメン彼氏が遠くへきたもんだ
789 : トレーナーちゃん   2024/03/01 20:13:02 ID:pvfMfGvxY6
某パン祭りのお皿欲しいけどさ・・・そもそもパンが買えない・・・
790 : 大将   2024/03/03 08:27:50 ID:TbihGNpVB.
じゃあ三月分
791 : トレーナー君   2024/03/03 08:28:22 ID:TbihGNpVB.
はい、寝る前にネイチャさんのお話聞こうね
トレーナーさんの一着はゆずらないとか言ってたアタシだけどふと――――今のナイスネイチャの価値ってどれくらいなんだろって、思い込んだわけなのね。言い換えればアタシはアタシを一着と納得させるだけの指標が欲しくてさ、とはいえまだまだ学生のアタシにできる事なんて片手で数えるほどしかなくて、逆に言えばそれは他の女にお先に失礼される可能性も高いよね、心当たりも一人いるし……
その心当たりが、珍しく上げた写真をよくよく見てみれば――――ああ、映っている本人の右後ろあたりに、トレーナーさんが映っている。顔どころか体の三割も映ってはいないけど、その指の先はアタシに幾度となくトロフィーを折ってくれた優しさを持つ指。
もうこれは、さ――――匂わせどころか宣戦布告なわけ、アタシがスタート地点に立つ前に全て決めるつもりだと言外に示してた
そうなると、もうアタシだってなりふり構ってられない。どうにかしてトレーナーさんの視線をナイスネイチャに留めさせておくって言うのが発端だった。そうして、グランドライブという舞台を共同で作ったアタシとその心当たりは、不日水面下での攻防を始める事となったんだ
でも結果から言えば――――さ、アタシは負けちゃった。
792 : トレーナー君   2024/03/03 08:29:46 ID:TbihGNpVB.
今でも思い出せる当時の頃はハロウィンだったかな。……うん、皆思い思いに仮装してたからちゃんと覚えてる、商店街の皆もこれ幸いとちなんだ催しものをしてて商魂たくましいというか、なんというか。
あの人らだってもうそんなイベントに適応する若い柔軟性なんてないと思ってたんだけどね――――あ、失礼だって? そうかな、そうだったかもね
アタシも言葉の上では一歩引いた態度をとってたけど、ターボやマチタンは全力で楽しめるタイプの子だし、若いっていいね、なーんて話してた先のイクノまでなんかやる気でさ当然ネイチャさんだって押し切られちゃうじゃん?
知り合いのギャル勢はここぞとばかりにとんでもない衣装来てるし、パーマーとかなにあれ完全に担当のトレーナーさん落としに来てるじゃん。
そりゃこれ以上なく似合ってるけどさー
まあそんなこんなで、時計の針が寛容な顔を見せる間にネイチャさん達は学園やら町やらへと繰り出していったんだけど、あちこちでお決まりの文言を流せば流す程アタシたちの手に収まらないほどのトリートが返ってきてさ、ターボ辺りはもうその辺で食べてたんだけどアタシは何か、なんていうか女の勘って言うのかな――――ともかく何かを感じて一度お菓子を部屋に置いてくるって言う理由づけと共に学園に戻っていったのね
そしたらさあ、……居たのよ。
793 : アナタ   2024/03/03 08:30:14 ID:TbihGNpVB.
アタシのトレーナーさんの隣に、ライトハローさんが仮装をしてさ、恐らく彼の前でしか見せないような笑顔で二人で歩いてた。まあさ――――正直、心に来るよね。うん、やられたって思う暇もなかったし考える余裕もなかったわけなんだけど、そうこうしているうちに目ざとくトレーナーさんがアタシを見つけて近寄ってきたんだ。
けど実際最初に話しかけてきたのは魔女の仮装をした妙齢のウマ娘の方。
トレーナーさんはトレーナーさんでまたなんか別の人と話しこんじゃったし、うーん……いや何話せばいいってのよ、恋敵と――――なんてアタシが考えていたそれ自体がもう甘かった、甘すぎたんだよね。十月の終わりに昇った輝く月は、輪郭や表情こそはっきりしていなかったとはいえ、門限前の西日の残響に煽られても尚輝きを損なうことなく綺麗だった。それは欺瞞なく、きっとトレーナーさんに取ってもついにぞ感想は変わらなかっただろうことは明らかで、ただ一つだけ――――月が綺麗な事を談笑する相手はアタシでなかったって言うだけ。
夏目漱石だっけ、名前と逸話だけはよく知ってる。愛をああいう言葉で訳せるのはそれだけ感性が独特だった証拠なんだろう。はたして彼はどの言葉を持ってライトハローさんにそれを囁いたのか、なんてアタシの届く範疇にはないけれどさ?
794 : アナタ   2024/03/03 08:32:55 ID:TbihGNpVB.
ナイスネイチャは学生、あの人は成人済み。どちらを選ぶかなんて初めからわかりきっていたことって言えばそうなんだけど、この期に及んでもアタシは心のどこかでスタート地点に立てることを疑いもしてなかったんだよね。
だってトレーナーさんはいつもそうしてくれて、有馬に三度も挑めたの何てまさにその手腕ありきでしょ? そ、今目の前で話を聞いているアンタ、トウカイテイオーって言うウマ娘に挑めたことも含めてね?
でも、屈託のない顔で笑みを浮かべる隣の魔女が――――ああ勿論ハロウィンの恰好の身に限った話だよ?
……建前上は、ね……言い換えればアタシからトレーナーさんを奪っていく女の口から当人同士の結婚話がいざ持ち上がった時、アタシったらまず呆けちゃってさー。そんな話があった事はおろか今日彼の隣に立ってる現実――――ライトハローさんと会うなんてトレーナーさんの予定も約束すらもアタシは知りもしなかった。
言い換えれば二人の間に入れていなかったことを如実に示されてマウントを取られながらも努めてアタシは平常であろうとしたって言えばそれっぽいけど。真実は逆で、アタシは学生――――繰り返すようだけど、そんな人生経験二十もない小娘に何ができたか、そんなのは耐える事しかできなかったが正解だった。
795 : アンタ   2024/03/03 08:37:20 ID:TbihGNpVB.
昔、冗談交じりであの人に――――トレーナーさんはアタシに首ったけか。
なーんて言ったら、当然――――って返してくれたトレーナーさんもまあまあ悪いけど。順位は三番でも一番努力したのはアタシだと思ってたし、だってトレーナーさんの時間のほぼ全てをアタシは独占して浪費していたんだから
実際はそう思ってただけだったんだから笑っちゃうよね、笑っちゃう
アタシの心から熱が逃げていくのと、夕日が完全に沈むのはどっちが早かったんだろうね。門限が近づくにつれてだんだんと数を増していた忙しない帰りの足音はある時からぱったりと消えて、気が付けば周りには誰もいない――――夜が来るまで嬉々としてライトハローさんが話してたトレーナーさんとの思い出はどこか別の話のようで耳に入らなかった……けど当のトレーナーさんは少し離れたところで、何かの対応に追われてて、ネイチャさんの事を話しながらアタシを見てないその声だけは素直に耳に入ったんだ
お前は負けた、アタシは負けた、負けたんだ――――月を背にした夜はアタシの顔を隠してはくれたけれど、そんな心配りもむなしくナイスネイチャはもう涙も出なかった、本当に絶望した時って、そういうものだってアタシは知りたくなかったよ。
796 : トレ公   2024/03/03 08:37:50 ID:TbihGNpVB.
そうして――――いくつかの季節が過ぎた後、結論から言えばトレーナーさんは学園に併設されている寮を出て、ライトハローさんのマンション……正確にはライトハローさんの部屋だと二人以上は狭いんで、二人で新しく部屋を借りてそこに籍を移す事になる。ネイチャさんの恋心は土に堕ちたまま芽も出ず水も与えられず、心にぽっかり空いた穴の中で小さな竜巻がいつまでも叫び続けているような――――まあ、丁度半年後かな。日取りのいい時に、二人の式は行われてさ。
光を受けて輝く二人、ああ……綺麗だったなあ――――アタシが喉から手が出るほど欲しかった主人公の輝きとは全然違うのに、それに負けないような眩しい笑顔が皆から溢れてた。教会の鐘も、どこからやって来たか小鳥の声も、テレビで聴くそれとは違って洗練すらされているような錯覚すら覚えてさ。まあトレーナーさんならここで閃いたーとか、トレーニングに活かせるかもしれないーだなんだとかいうんでしょうねー。ずっと見てきたからワカリマスヨー
……なんだっけ、地獄への道は善意で舗装されているだっけ――――?
797 : トレ公   2024/03/03 08:38:20 ID:TbihGNpVB.
式の数か月前にトレーナーさんがおずおずとできれば参列してほしいって言った時、二つ返事で諾したのはアタシの最後の意地だった、涙よりも先に鬱屈した感情が胸から口から吹きこぼれそうな心地になりながらも――――G1、予断を許さない状況で調整に調整を重ねてきた宝塚記念の出走を見送りまでして、この地獄に足を踏み入れたのもすべては諦める為だった。
だからその時点でって言っちゃあなんだけど、トレーナーさんはトレーナー業より……って感じで、ともかくナイスネイチャって言う物語は最終章――――三年の契約が終わり、アタシも大人になるしかなくて、本格化の時期はとうに過ぎ伸びしろどころか能力は下降の一途をたどって――――有馬までは、正確に言えば四年目の有馬までは持たない、現実的には夏まで騙せるかどうかの体。そんなアタシにとって宝塚記念はそれこそ最後になるかのG1挑戦だった……って言えばその思いがどれほどなのかわかるとおもう。
ああ、すごい皮肉だなあって自分でも思うよ――――出会った当初はアタシはどちらかと言えば諦めがちな気質でさ、でもそれを少しずつでも前向きにしてくれた人を、今ナイスネイチャは永遠に諦めなきゃいけないんだから。アタシの心を誰であれアタシが殺し切らなきゃならない――――どんな勝負に、どんな相手に負けたってここまでの激烈は覚えなかったと言えるほどの、熱。
悔しいなんて言葉じゃ一端だって言い表せないようなそんな熱が、じゃあ果たして殺し切れるかって言ったら――――主人公でもないアタシにそんな膂力はなかったって言っちゃうね、世間なんて知らない女がさ、何言っちゃってるのかって思うでしょ? アタシも成長していけばあの人以上の男が徒党を成してやってくるってテイオーは思う?
798 : トレピッピ   2024/03/03 08:38:56 ID:TbihGNpVB.
うーん、そうかもしれないけど――――さ、でも逆なんだよ、世間を知って他の男を色々と見て知ってきたら、そりゃあ乗り換えるのも胴体着陸とはいえできるのね――――でもね、未だ無知なアタシの世界にはトレーナーさんが太陽の様な物だった。その太陽が選んだ月が綺麗って言う話に戻ると収集付かないから外すけど、人は太陽がなければ生きてなんか行けないし、話を戻すけど太陽の熱をすべて殺し切れるか――――要はそのレベルだったって事。
トレーナーさんは言ってたんだけどね、太陽ひとつ~って、直径約140万キロメートルの、世界で1番大きい金メダルは、彼女の手にこそ相応しい~ってさ――――あの子が太陽を掴む時、そのやわい手が焼けてしまわぬよう包んでやれるのが自分でありますように。
ひどい嘘吐き――――大嘘吐きだよ、あの人は。アタシの太陽はあなただけだったのに、ふさわしいって言ってくれたのにね。
まあ……そう、結局アタシは諦めきれなかった――――そして道を踏み外しちゃったんだ。
どこから話せばいいかなー、発端はトレーナーさん……もう元が付くけどまああの人がトレーナー寮を引き払う際の事から始まるのね。よくよく考えてみれば二人で引越しするってことは家具とかも一新するわけでどうしてもマンションだとキャパシティを越えちゃって処分する物も少なからず出てきちゃうって訳、寮にあるトレーナーさん……彼の私物の中でいくつかはもう持って行ったらしいんだけどまあ新婚さんにくたびれたあれやこれは必要ないってことでイスや机や什器漆器のetc.はさ、処分する事になったのよ。
799 : マスター   2024/03/03 08:40:04 ID:TbihGNpVB.
正直あんまり気分はよくなかったよ、二人で練習や出走するレースの会議をした部屋程ではないけど、トレーナーさんが大まかな練習メニューや戦略を一人で練っていたこの部屋全体もまたアタシと彼が駆け抜けた三年間の香りを色濃く継いでいるわけで、トレーナーさん……ううんあの人がアタシとの思い出を捨てた――――ナイスネイチャが片付けの手伝いをすることの意味がそんなふうにも思えたから。
トレーナーさ…彼は未来を、アタシは過去を選んだだけの話――――
まあ思い出もいい事ばかりじゃないし、処分も悪い事ばかりじゃなかったんだけどね?
……そう、悪い事ばかりじゃない。正直、アタシがその事について比較的早めに考えが及んだのは幸運だったかな――――そんなこんなで、ネイチャさんは処分品をまとめ、使える者は許可を取ってもらった後、部屋を引き払う準備を終えたのでした。粗大ごみの時期はまだ先、ごみは腕力のあるアタシが処分するからって言う事で話は終わる――――筈だったんだけどね、少なくともトレ……あー、もういいやトレーナーさんで。
テイオーも想像できるんじゃない?
まずナイスネイチャは家具を捨てる事はしませんでした、って事。まあそれはおいおい話すとして、次に行くね。で、次にアタシは家具の配置を手伝って――――ウマ娘が台頭してきて一番割喰ったのは引っ越し屋さんかもしれないね、本格化が終わったアタシやライトハローさんでも家具の移動ぐらいならできるから、二人が新居用に買った家具は自宅郵送か車に積めるものはつめていたのか知らないけど、もうあとはレイアウトを決めるだけの状態だったからライトハローさんに挨拶をするついでに、少しトレーナーさんの新居を見させてもらったんだ。
800 : トレーナーさん   2024/03/03 08:42:32 ID:TbihGNpVB.
そんでまあ――――彼に連れられて新居にお邪魔した時、ふと部屋に入った時に覚えた違和感を、アタシは一生忘れない。
まずさ、酒の気配がどこにもなかったのよ。ライトハローさんって結構酒飲む人で、トレーナーさんは程々人程に飲むって感じだったからそれを鑑みるとどこにも酒瓶やビール缶もないのが少し違和感を覚えるって言うか。冷蔵庫には入っているかもしれないけど、二人分に足りるかは程遠いんだよね――――それだけならまだ買い足してないからって考える事も出来たけど、問題は次。
家具の配置量なんだけどさ、これウマ娘二人も必要かなって。
ライトハローさんとトレーナーさん二人で十分いけるんじゃないかって思ったんだ。そう、逆に言えば何らかの理由でライトハローさんを動かしたくない、彼女の体に負担をかけたくない思惑の気配がしてさ――――ああ、さすがテイオーだね。
もう言わなくてもわかったか、そうそう後に生まれた娘ちゃんの誕生日からすればもうこの時点でデキてたんだよね。
ウマ娘かどうかはこの時点ではわからないし、まあわからないとはいえお腹の子供の為に酒は控えるかって感じでしょ。
それでさ――――その時かな、部屋に盗聴器を仕掛けたのは。
801 : 大将   2024/03/03 08:43:53 ID:TbihGNpVB.
アンタはいきなり何言ってんだって顔しないでほしいんだけど、よくあるコンセント型――――だといくらなんでもちょっとばれちゃうから、少しひねって延長コードのコンセントハブに擬態した……そう、よくアタシとトレーナーさんが部屋で使ってた見覚えのあるそれと同型の奴にして色々と忍ばせておいたんだ。
あっちにしてみれば新婚生活で見慣れないものなんかがあったらすぐにばれちゃうからね、懐かしさに付け込んでまだ使えるから持って来たなんて言えばまああの人の性格なら通るでしょ――――ううん…通ると思いたかったってのが本音。
まあ他にもダミー用のをいくつか持ってきてはいたんだけど、ライトハローさんにばれる危険性が高かったからそっくりそのまま全部仕掛けずそのまま撤収したよ。まあ一番発見しにくいのは有線式っていう電波を全く発さないタイプのなんだけど、そんなのアタシに用意も設置もできる訳ないじゃん?
逆に――――そもそも、どっから調達してきた話は戻るけど。どこから話そうか……うん、うーん……まずさアタシは色々と絶望してたわけよ、でまあ…そうね。
絶望しているのはアタシだけじゃなかったって言うか、なんというかさ………歴史上でそういう事になったウマ娘、担当トレーナーに恋して破れた子なんてそれこそ掃いて捨てるほどいたってことなんだね。そう言った子が、多分己の恋情や性に基づいて設立したのが、アタシが見つけた盗聴器を扱っている会社だったって感じ。
802 : マスター   2024/03/03 08:45:02 ID:TbihGNpVB.
社長さんも今のアタシと似たような境遇で会社を興す事を決意し、同じような悲しみを持った子を勧誘して少しずつ人脈を増やしていったらしくてどんな形でも、どんなに時間をかけたとしても諦められない誰かと繋がっていたいって言うのが理念にあったんだ。
まあ多分その分野に限らず失恋をエネルギーにして同志を集めた会社なんて知らないだけど結構あるんじゃないかな――――例えば酒販とか、……いや本当に知らないけどさ?
さっきのトレーナー室の処分する家具類とここでつながってくるんだけど、アタシはまずアタシの城を作った。
盗聴器の電波範囲はせいぜい100から200メートル、当然その近辺にアタシの実家も何もないし、アタシたちの耳がいいって言ってもさすがに届くわけもない距離――――じゃあどうしたかって言えばさ、トレーナーさん達の部屋からその範囲にあった貸倉庫、湾岸にある様なでかい奴じゃなくよく個人個人の荷物を詰め込むストレージ式の奴あるでしょ?
あれを借りる事にした――――なんでって……倉庫には物を入れるでしょ?
さっき言ったように家具類はそこに詰め込んで青春の抜け殻を飾る様に?
ナイスネイチャはどこか自分と重ねて――――デスヨ?
思い出を捨てられないのは良いけどやっぱり扱いにはアタシも困ってたから、そのまま収納できる倉庫は一石二鳥だったって訳。ただ、倉庫の多くは防音じゃなくて――――防音だったら中で楽器とか弾き鳴らされる例もあったからそういった処置は仕方ないって言えば仕方ないんだけど、仕方ないから通販で買った防音用のシートをこれでもかっていうほどにはった。後で言うけどそれがなかったら大変なことになっている所だったわ。
803 : トレぴっぴ   2024/03/03 08:46:04 ID:TbihGNpVB.
当然の如くに盗聴機器の代金も合わせて、まーいろいろ出費は確かに嵩んだけど、これでアタシはまだトレーナーさんと繋がれる位置にいられるって思ったら嬉しさの方が勝って、アタシは夜な夜な世間様が寝静まってから盗聴器の受信機を持って、倉庫に向かってた。
テイオーは知ってる? 最近の盗聴器ってすごいんだよ?
音声検知自動録音機能だっけかな……V? ……O…S? とかいうの周囲が無音の場合は録音を自動的に停止してくれて音声を効率よく確認できる奴。
盗聴器と受信機は一対一の関係、チームトレーナーさんとウマ娘のように一対多はできないんだってさ、まああの長いタップに盗聴器を二つ受信機を二つ紐付すればいいだけなんだけど――――問題が一つあって、倉庫の中には電源がないのよ。乾電池やUSBケーブルで充電運用できるんだけどね。だからアタシのルーティンは、夜倉庫に入ってトレーナーさんとライトハローさんの生活を聞き取りながら、充電された新しい受信録音機器と今まで稼働していたそれとを交換して古い方をまた家かなんかで充電するって感じ。
おふくろもウマ娘だからね、部屋で聴いてたりしたらもしかしたら聞こえちゃうかもって思ったらやっぱり防音仕様にした倉庫の中が一番安全で……卒業も果たして門限が無くなったに等しいアタシは、実家の手伝いをしながらそこに足繁く通ってた。
804 : トレーナー   2024/03/03 08:50:12 ID:TbihGNpVB.
ところで現在のトレーナーさんの担当は居残り練習をよくするタイプのウマ娘ちゃんだったみたいだね、聞いている分にはなんというか寮の門限ギリギリまで練習をみてから明日の調整やレースへの出走手続きやらなんやらやってたみたい。
世間様がもう寝る準備を始める頃合いから仕事から帰ってきて食事って感じでさ、まあ帰ってくるころにはライトハローさんが食事を作っているんだけど、基本的に二人でするってことはあんまりなかった印象だね。
二人で話しながら食事をして風呂に入って……そのまま倒れるように寝るっていうのが彼の方のルーティンだったから、聞くのは毎日数時間。
なんならアタシの方がトレーナーさんより先に倉庫にたどり着く事もあったかな。
そういう時は録画分を先に聞いてトレーナーさんが返ってきたらそっちに切り替えるんだけど――――正直ライトハローさんの独り言とかあんまり興味ないからほぼ聞き流してたし、さっき言った通り無音の時間は基本的に盗聴器は稼働してないから、二人それぞれがどの時間に帰ってきてどんなふうに過ごすのかも、稼働した時間から逆算出来たってワケ
そしてある日の事、いつもの通りアタシが倉庫に行って盗聴を始めた時――――ついにって感じだった。なんていうかさ――――考えてなかったわけじゃないのよ、ただ想像よりちょっと……いや大分…なんていうか…重すぎる現実って言うのが寝室のコンセントを通してアタシに語りかけてきてた。
そ、――――寝室。まあ、アンタにはもう言わなくてもわかるか。
805 : トレーナー君   2024/03/03 08:51:38 ID:TbihGNpVB.
普段はそれぞれ一人ずつが入る風呂に、二人が一緒に入って、いつもより早い時間に寝室に入って、息遣いに色めくものがあって――――後でわかったんだけどこの安定期に入ったからか、二人は新婚の夫婦に違わず二人でお互いを貪るように求め始めた。
それと分かった時のナイスネイチャは尋常じゃいられない、背中からうなじから、普段汗なんてかかない所からもう言いようもない感情が吹き出るように、その奔流たるやレースの前の緊張なんて目じゃないよ。
なんなら――――アンタに負けた時でさえこんな気持ちにはならなかった。アタシも一度、二度、幾度となく録音を進めてはその度に手が二人の営みを拒絶した。
止めて、進めて、止めて、進めて――――耳が絶望したってああいう事を言うんだろうね――――ウマ娘の耳はさ、テイオーも知っての通り聴力が人のそれより優れてるわけ、だから人間なら或いは聞こえない音も鮮明に、さ――――ごめん、ちょっと待ってて、話してたら気分が悪くなってきちゃった。
……あはは、大丈夫。別に悲しくて泣いてるわけじゃないから――――ちょっと殺した感情がせりあがって来ただけ
806 : トレーナー君   2024/03/03 08:53:55 ID:TbihGNpVB.
ともかく……さ、盗聴器を仕掛けた…時、に………あの部屋で見た新しいベッドがギシギシギシギシギシギシギシギシキシキシミシミシギシギシキシキシキイキイキシキイと
その――――なんだ、あ…抽送に合わせてすごく……ひどく耳障りで微かな悲鳴を上げている様子や………………それよりも遙かに鮮明で不快な水音。今聞いても吐きそうな肉同士がぶつかるあの独特の手拍子を思わせる音。
……なにより極めつけはアタシの決して届かない所でアタシ以外から呼ばれるトレーナーさんの名前。惚れた男の聞いた事のない――――おそらくこんなことまでして聞こうと思わなければ一生聞く事のなかった字の通りの成人した男の性――――綺麗ごとだけじゃない生々しさを含んだ性の声
それがネイチャさんの耳を陵辱したかと思えばライトハローさんはもう何度も果てるような様子が見てとれた――――聞いて取れた、時には声を我慢するような装いが聞こえてきたしかと思えば快楽の大波にのまれたのかネイチャさんもドン引く様な嬌声を上げちゃってさあ
……あんなに嫌がってないイヤなんて言葉そうそうないよ、なんて言ったらいいのさ。
でもそれはある意味二人の中では通過儀礼でもあったようでさ、その言葉を皮切りに明らかにトレーナーさんの動きと言うか意識が変わったの、三年間アタシが見てた頃は歩くにしろ走るにしろ運ぶにしろそんなに早く動けなかったでしょって言う過去すら振り切る様な、彼主体の交合の音がね。
807 : 使い魔   2024/03/03 08:54:48 ID:TbihGNpVB.
ひとしきり低い声と湿ったような吐息、さっきまでしていた不快感を形にしたような耳障りな音が消えて逆に現れ祟った数秒の、それでもなお上回る様なさらに言いようもない嫌悪感。
ああ、トレーナーさんはあの女の中で吐きだしたんだって――――暗闇に任せてとんでもない悲鳴を上げちゃってさ、頭を抱えてもう自分でもどんな顔をしてたかなんか考えたくない位に、もしもあの時に鏡なんて見たらその醜さに耐えられずアタシはアタシの首を絞めてたよ。
それぐらいに命の危機もかくやなんて声を倉庫の中で上げ続けて、気が付けばアタシの肌に爪が喰い込んで血が滲んで、その痛みすらどこかに置き去りにして、凌駕するほどに喉が完全に枯れてた。アタシとトレーナーさんの、二人だけの思い出にも同じように爪を立てられて血が滲んでいるような、いくら回顧しようとするもライトハローさんの嬌声があちこちにこびりついてきてさ。
もう完全にネイチャさんの情緒は犯されて汚されちゃった――――ひとしきり冷静になってきたら、自分のしたことに背筋が寒くなってきて、まあ幸い入口もしっかり締めてたし、さっき言ったよね?
なにより倉庫は防音じゃない所も多いからってことで自腹で買ってきた防音シートをこれでもかとはってたせいか、或いは人が出歩くような時間帯でもなかったから誰にも聞かれず通報もされずに済んだんだけど――――って、いやー……たはは……悪くすれば人生終わってたわー。
……いやわかってるって、そんな顔しなさんなー。
808 : トレーナーさん   2024/03/03 08:55:29 ID:TbihGNpVB.
アンタだって、他人事じゃなくなる時が来るかもしれないんだから――――さ?
しっかり捕まえておかないと、テイオーだってこうなるかもよ?
はいお話終わり、寝ていいよ
809 : アナタ   2024/03/03 08:55:53 ID:TbihGNpVB.
――――って訳でもなく、……まだ終わらないんだよね。
810 : トレーナーさま   2024/03/03 08:57:13 ID:TbihGNpVB.
ぐしゃぐしゃになった心を持ち帰ったアタシが、理由をつけて翌日新居にお邪魔して――――いや、わかってるって…どんな顔していったんだって話でしょ?
一睡もできなかったせいか顔はやつれて、歯を何度も磨いたはずなのに口からは吐き戻した胃液の匂いがまだ漂っているような気すらした。
まああっちにしてみれば盗聴されているなんて夢にも思ってないし、カワイイ教え子が顔を見せに来たってことで断る理由は特にないみたいなんだよね。ただ――――偶然を装ってトレーナーさんのいる時にお邪魔したのはまずかったかなあ、今思えば毎日夜まで忙しいトレーナーさんが偶然に休んでかつ二人でどこにも出抱えていない時に訪ねてきたって、これ本当に偶然かなんて疑念を持たれてもおかしくなかった。
手土産だけ渡して帰ろうとすれば逆に見かねてあっちは部屋に上げてくれるってことはアタシの想像通り、途中で御手洗いとか嘘ついてこっそり寝室に忍び込んだんだけどそこに漂ってた情事の残り香を一口吸ったとたん胸に猛烈な吐き気と記憶の底にかさぶたのように張り付いたトラウマがフラッシュバックしちゃってさ――――トイレをお借りして――――早い話二人の新居で吐いちゃった。
たはは……どう言いつくろったかって言えばさ、言いつくろう必要なんてなかった。
811 : 使い魔   2024/03/03 08:57:49 ID:TbihGNpVB.
だって――――ライトハローさんにもあったんだね、今度はあっちの記憶の底にあった苦い経験を引き出して――――どうやらあっちからみればナイスネイチャはつわりなんだってさ、現役妊婦が言うから間違いないんじゃないかな……っていやいやネイチャさんにそんな予定あるわけないでしょ、想像妊娠じゃあるまいし? そもそも当時のアタシ幾つよ、まあそこまで考えが至る人だったらとっくに盗聴器なんてばれてるでしょうけどさ
まあ……ね、なんて適当に言葉を濁して。当たり障りの無いように数か月後に流れたとか別れたって言い訳をした裏で――――遂にトレーナーさんとハローさんとの間に娘さんが生まれたわけよ。
事件は……そうだね、その娘ちゃんの事。少し時間が飛んで数年後のことになるからしっかり聞いてね、因みにその間何度もアタシは、二人の情事を聞いた。
胸を引き裂かれながら春が過ぎて、涙を嗄らしながら夏を迎えて、肺腑をえぐりながら秋を見送って、暗闇を食みながら冬に迎えられて――――娘ちゃんが生まれたとしても昼間は保育園で、大体はお母さん時折にお父さんが迎えに来て、殆ど変わり映えしない時間にこれまた変わり映えしない日常があてはめられる――――ああ、こういう抗いがたい流れの中で全ては風化していくんだなって、ナイスネイチャは悟った。
いいかえればさすがにアタシも、もうやめようかな。潮時かななんて思ったんだ――――思ってたんだよ、これは本当に。
812 : ダンナ   2024/03/03 08:58:37 ID:TbihGNpVB.
でも現実ってかなり残酷だよね、ウマ娘は知っての通り人とは比べ物にならない膂力や強靭さを思っているけど、それっていつのころからだと思う?
例えば小学校の頃なんかでももう既に同世代の男の子でも追いつけない足の速さを持つ子もいるんだってね。でもその子は――――娘ちゃんはどうやら相当の才能を持って生まれてきたらしく、まだまだ赤子の分際で既にウマ娘の膂力の片鱗を見せていた。
さてもあの年の頃といえば様々な事に興味が出るようでアタシの所にも弟がそうだったからよくわかる、だけどその子はアタシの想像すら超えていた。初めて自分の足で歩いて嬉しかったんだろうね、歩くって言うのは走るの前段階だから壁に捕まって何処へ行きたい気持ちはわかる――――この部屋じゃなく、もっと広い所で。外に出たいって言う願望が彼女の頭の中にあったかは知らないよ?
あのマンションの一室の中で、外に出るのは玄関だけど――――そこはお母さんが目を光らせているから、勝手に出たら怒られるし鍵もチェーンも厳重にかけてある。じゃあってことで、娘ちゃんは窓に目を付けたんだろうね――――外は夜で、逆に言えば窓から街灯やら目を引く光が彼女を誘ってた。それこそ玄関に比べれば窓なんて簡単に開く、鍵を開いて横にずらすだけでいいんだから
813 : トレーナーさん   2024/03/03 08:59:16 ID:TbihGNpVB.
普通の人間には、何ならウマ娘の大半、正直ナイスネイチャにだって無理だよ? でも娘ちゃんには才能があった、そうしてベランダに出てきた娘ちゃんは人の膂力に収まらない腕力で自分の体をベランダから乗り出させて……でもこの年で自分の体を全部自由に扱えるわけもないし、あの年の子が自分の頭の重さを理解しているわけもない。何かの拍子に暗い中でバランスを崩して頭が下になる、手すりにひっかけようとした手が空を切って、重力に従って――――確か下は生垣も何もないコンクリート、猶予なんて数秒もない。
814 : ダンナ   2024/03/03 08:59:41 ID:TbihGNpVB.
――――ドンッ……
815 : アネゴ   2024/03/03 09:00:30 ID:TbihGNpVB.
なーんてさ、ドサッって言うレベルじゃない何か重い物が固い地面に落っこちた大きな音が――――アタシの頭の中でだけ響いてた。
うん、アタシの頭の中でだけ。
いわゆる錯覚、願望ともいうかもだね。
実際はハローさんが娘ちゃんの体を掴んで落ちる事もなく大事にはならなかった、盗聴器から聞こえてくる怒号を聞く限りそうみたいだね。
安心と残念さが奇妙な混ざり合い方で同調したアタシの心にも、一つの確たる信念が生まれたのがその時かな――――アタシとトレーナーさんとは一心同体だから、トレーナーさんの禍福はナイスネイチャもまた受け入れるべきだと思ったの。
現金な物だよね、少し前まであれほどやめておこうかなって思った口が今や掌を返してもっと続けるべきだーなんて。もしここで娘ちゃんが助けられずに落ちてても、その時の衝撃は盗聴器を通してアタシの心の中にきちんと落ちてくる――――トレーナーさんも娘ちゃんの訃報は見る訳じゃなく聞くはず。ある意味アタシと同じようなもんじゃんって思った時、アタシのぐちゃぐちゃに壊された心に一筋の安らぎがともったってワケ
トレーナーさんはもうアタシの誕生日より娘の誕生日を嬉しく思うようになっているけど、じゃアタシもこの娘ちゃんがどういうマツロをたどるのかトレーナーさんと一緒に見ていこう、……聞いていこうって思ったのね。
816 : 相棒   2024/03/03 09:02:19 ID:TbihGNpVB.
それから盗聴の目的に、少しの不幸を願う心が見え隠れするようになった――――今までで一番心躍ったのは不始末から来る火事になる直前かな。
ただ、集めた情報を使って少し考えれば無数に出てくる悪意の手管に身を任せなかったのは、ひとえに盗聴と言う繋がりを断たれることを恐れる可能性を見越したもので――――例えば方法は問わず沢山の男にライトハローさんや娘ちゃんを浚わせて襲わせるなんて、どう考えたって渡りをいれたアタシへのリスクの方が高い。
大事な物を手の届かない所で玩弄されたトレーナーさんの心を思うと、盗聴の先で寝取られたアタシの心と更に一体化したって気分になれるから惜しいって言えば惜しいんだけどね。
きっとここまで盗聴がばれていないのは、あの家に実害がないから――――盗聴した後誰もいない時に泥棒が入ったって感じだったら、或いは疑われるかも?
まあもう盗聴器入りのコンセントハブの出所なんて時間の経過の中で忘れ去られているかもしれないけど、だったら仮に盗聴がばれてもアタシにたどり着かない可能性もあるなあ。
817 : トレーナー君   2024/03/03 09:02:40 ID:TbihGNpVB.
盗聴器の電波範囲は100から200メートル……それだけ言われると当然その間に受信機及び本拠地があるって考えるけどアタシの実家やらははその範疇にないし、あーでも盗聴器の方からメーカーに問い合わされたら顧客情報ってどうなんだろ?
警察が提出しろって言ったらさすがに出されちゃうかな?
…やっぱこのまま潜伏が吉かも、ね?
まあいろいろで、現在――――トレーナーさんはアタシのレースの映像を見せたみたいね。ライトハローさんじゃなくアタシなのはそれだけウマ娘としてアタシの方を評価したのか、それともただの回顧で初めて育てたウマ娘の至らなかった点でも面白おかしく話しているのかな?
どっちでもいいわ、聞けば分かるから……ただ娘ちゃんの目の色だけは、今のアタシには届かないなあ。もう中学校に上がる彼女が、アタシにどんな感情を抱いているのかはわからない。だから今度また、行ってみるよ。
818 : 貴様   2024/03/03 09:03:06 ID:TbihGNpVB.
娘ちゃんの趣味嗜好はもう聞いてわかってるし、それ持っていけば食いつくでしょ――――ここまでが、まあネイチャさんの長い長~いストーカーの歴史デスヨ。もう十年位かな?
はい、お話終わり。今度こそ寝ていいよ
819 : マスター   2024/03/03 09:05:29 ID:TbihGNpVB.
じゃあまた四月に
820 : お前   2024/03/03 14:06:09 ID:3BXzeVVsME
闇が深すぎる
821 : トレーナー君   2024/03/04 01:17:40 ID:q79uXH127.
こっわ
822 : あなた   2024/03/04 06:06:02 ID:Sr36Qq8pB.
モチベーションどっからでてんだこれ…
823 : 貴様   2024/03/04 13:50:13 ID:736tUNNr6E
深度が800を越えました
可及的速やかに浮上して下さい
824 : お姉さま   2024/03/04 19:22:29 ID:Sr36Qq8pB.
不浄せよ
825 : キミ   2024/03/08 20:52:11 ID:scoebDErZY
雪!!
826 : あなた   2024/03/09 23:34:19 ID:6EwkBcO9/6
年明けてからかっ飛ばしてんな
827 : キミ   2024/03/13 00:18:58 ID:2mlUUPk2LQ
大雨
828 : 大将   2024/03/14 00:55:31 ID:he5U7Xudlo
3月もう半分とか嘘でしょ…
829 : トレーナーさん   2024/03/17 22:28:11 ID:RvOwfCogL6
生きろ
このスレは悍ましい
830 : トレピッピ   2024/03/20 20:58:05 ID:j4ZaFI2h7g
もうそろそろ3月も終わりか
831 : 相棒   2024/03/21 07:04:55 ID:sxLkyqmLa6
ネイチャ-1.0
832 : トレーナー   2024/03/24 17:00:45 ID:dPSIQuQbLs
超深海の住人で草
これここのことだろww

833 : 貴様   2024/03/28 13:26:40 ID:ZAL833ZPL.
深海ネイチャ

834 : トレぴっぴ   2024/03/30 18:37:34 ID:y.Yx53FYoM
まだ生きてたのかここ
835 : アンタ   2024/03/30 19:46:10 ID:9.muLX4.Ls
たった一人に生かされてるゾ
836 : お兄さま   2024/03/30 23:59:59 ID:YhAgEaCz.o
まあ今書いてるのあの人しかいないし
837 : 使い魔   2024/04/05 16:31:14 ID:D6rtpxIcIc
度々深海から顔を出す
838 : トレーナーちゃん   2024/04/05 21:54:52 ID:g3j7gf40Tk
最近雨が多いのは
839 : 使い魔   2024/04/07 23:04:28 ID:OWk2gBKchE
できたわ
クッソが
840 : トレーナーさま   2024/04/07 23:08:58 ID:OWk2gBKchE
――――その日は酷い雨だった、ただ冷たい雨ではなかったことを記憶している。
暦に綴られた六月という時期は例年通りに雨の気配が濃く、常に傘を携帯せねばならぬほどに太陽は萎縮していた。
このままの環境が続くならば、次のレースは重バ場の可能性が高い――――そんな予感を覚えながら、帰り道に丁度降られた通り雨に追われる様に、傘を抜けて叩いてくる風の吹き抜けに邪魔をされつつ俺と、俺の担当バであるナイスネイチャは、靴の泥を落とし、一先ずトレーナー寮に割り振られた部屋へと避難した。
俺が乱雑に脱いだ靴を彼女が直しつつ、体に這う怖気を思わせるようなそぞろの寒気と共に出たくしゃみを見かね、これ以上体が冷えぬようにと俺は彼女に先にシャワーを浴びさせた。着替えはとりあえず適当に見繕うとして、何か良い物はあったかと思案しつつクローゼットから適当に二、三枚引っ張り出し、体を温められるものを探しコーヒーかホットミルクでもと冷蔵庫の中身に足を進めた途中、俺は何かに足を引っかけてしまう。
841 : モルモット君   2024/04/07 23:10:21 ID:OWk2gBKchE
部屋の薄暗さにまだ目が慣れていなかったかと思ったが――――真実は概ね逆であった。
それは理由の一部分だけにすぎず、言い換えればこの部屋の全体を俯瞰で見れば、何かを取るにも散らかった無精の日々の重ね、不規則につまれ埃をかぶっている付喪神のなりそこないで溢れており、どこかへ向かうにも家主である俺の躓きを待つ罠となっている。
我々を掃除せず放っておいて、良いご身分だな――――外を叩く雨よりも雄弁に、今日この現在においてそれらは俺が強いたぞんざいな扱いに対し見事に報復を果たし。
やや、見事なり――――とはやし立てるかのように舞い上がった埃が、小さくせき込む俺を尻目に、薄暗い外よりもさらに薄い色をした影ともつれ合う様に舞曲を演じていた。
湿気を吸い本来は重く舞い上がりにくい埃が舞った事実は目を逸らす事を許してはくれない、そもそも思い返せば、稲光に追い立てられるように部屋に一歩入るなり、或いは着替え一つとるその間にみせたネイチャが部屋か俺かに向けた視線の色が、忘れられない。
そう――――恐らく永遠に、……忘れられないのだ。
ところがその当時の俺と言えば、ああ、まあそうだよな――――と。そんな暢気も暢気な一言で――――汚い、それに尽きる部屋に彼女が不快感を覚えたのだろうという感覚しか抱いてはいなかった。いや、恐らくそれは当たっていたのだろう……幾分かはと言う枕は付くにしても、だ。だが逆に少しは当たっていたからこその――――後手であった。
842 : アナタ   2024/04/07 23:11:23 ID:OWk2gBKchE
ところで俺は自分が片付けに無頓着であると自覚をしている。
というか片付けよりも多くの優先順位が目の前にありすぎてどうしてもそちらを後回しにしてしまうと言ったところで、まあ惰性に似た義務感からそれでも無精無精とアイロンをかけたスーツやシャツに比べ、私服は本当にただ雑然と洗濯後干されたままの状態で食事は菓子パンやカップめんの遺骸、時折エナジードリンクの抜け殻も――――不摂生ここにありという面持ちで
だから、見かねたネイチャが掃除をします……などと言ってても特に苦笑いを返すだけで否定も肯定もしなかった。
聞き流せば、或いは他の道があったのだろうか――――そうではなく、既に先の一文をくどくもなぞる様だが、聞き流してしまったから俺は現在の苦境に立たされていると言っても過言ではないのだろう。確かにこの時の浅慮が、後に腐臭を放つ結末になるとは――――まったくこの時の俺という奴は度し難いほどに愚かであった。
せめて、家からなくなった物を埃や塵以外に認知さえしていたらと思わずにはいられない。
よりにもよって、あれを、……あれを、持ち出されるとは――――
もう遠い昔の様な錯覚と、もう遠い昔の様な正確が矛盾をはらんだまま歪なメビウスの輪を形成している。
どれが本物で、どれが錯覚なのかという問いすら今の俺自身が発したものかどうか――――確証が持てなかった
843 : アンタ   2024/04/07 23:12:53 ID:OWk2gBKchE
①ともかく次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。
概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺に、他の誰でもない俺が――――違和感を覚える。カレンダーを見れば、本日は休養日で、明日からはトレーニングである――――筈だが?
口で言い表せない、漠然とした不安感から俺の長い旅路が始まり――――そして…未だ漂着に至ってはいない。ともかくその第一歩目が、ここだった。
彼女とはとりとめのない話を一通りした後に電話を切り、それでもまだ頭がぼんやりとしている俺は、一度両腕を高く伸ばしていく。伸ばした筋と骨が少し穏当でない音を立てながら、体の内の空気をあくびで一度すべて出し切り、新鮮な朝の光と共に再び体に入れる。
始まる朝は――――いつかと変わらずさわやかな陽気であった。
844 : お兄ちゃん   2024/04/07 23:14:06 ID:OWk2gBKchE
俺は冷蔵庫にあるネイチャが作り置きしてタッパーに詰め込んだ食材を手に取り、レンジで温めると同時に、綺麗にアイロン掛けされて畳まれた私服を手に取り組み合わせを考えていると、判断が遅いと言わんばかりにこれ見よがしの音を立ててレンジが朝食を温め終わった。結局コーディネートが決まらずトランクスとシャツだけを無造作に袖を通し、空いた手でタッパーと箸をテーブルに持ち込み、作法も何もない様子でかっ込んでいく。朝は、鮭の塩焼きと甘めに味付けられ巻かれた卵焼き、もう一品きんぴらでもつけるべきかと思い至ったが、朝目覚めたばかりの腹にはその席がない。
ふと時計を見れば時刻は七時を少し過ぎて、食べたら七時半ほどにはなるだろう。まだまだ慣れぬものである、自分の部屋では無いように思える埃ひとつない部屋も、ネイチャが作った惣菜がふんだんに詰め込まれ充実した冷蔵庫も――――この着替えを待つしっかりと張りの付いた服にも、何もかも。逆に亡くしたものは罪悪感と、躊躇と……どうせ、ぞんざいに扱ってももう意味はない物ばかりだ。担当する生徒にここまでの事をさせて、どの口で罪悪感などと言えるのか。
845 : トレーナー   2024/04/07 23:14:47 ID:OWk2gBKchE
途中で二、三度水を取りに行き、やがて朝食を平らげ空になったタッパーをシンクに沈め、こんなことをしているから部屋が片付かないのだと自分を律しつつも――――俺は二度寝を決め込んだ。私服を選んでいる時は確かに外出も少しは考えたのだが、結局レポート作成にて質の良い睡眠から遠ざかっていたという理由も相成ってか、質の良い指導は質の良い睡眠と食育からと自分に言い訳を許し――――ネイチャの心遣いにも感謝せざるを得なかった。
事実、先ほどネイチャとは今日は休養の日であるから、掃除や家事の礼にどこかに連れて行ってあげようか――――俺の提案は、少し呆れたような口調からまた今度ねと彼女に断られてしまっていた。
どうやらあちらはこちらの状態が手に取るようにわかっているらしく、どうせ徹夜してて、もう今は寝たいんでしょ……などと言う皮肉めいた声の調子に諭されればこちらは無言で首を縦に振るしかない――――ただ今回は本当に機が悪く、どうやらネイチャも試したいことがあるそうだ。
846 : トレぴ   2024/04/07 23:15:04 ID:OWk2gBKchE
基本的に、ウマ娘自身の体に影響がなければ俺は彼女に放任主義を許している――――放任主義を許されていると言ったほうが正しいやもしれないが。ともかくとして彼女のやりたい事というのが何であるかは明日にでも聞けばいいだろうと、休養日とあって全力でだらける事。己の中には一片の罪悪感も存在せず、狭く仕切られた自分だけの世界で惰眠を貪る意志を空の向こうのネイチャに示し、心の中でおやすみという挨拶をし、朝日に晴れた部屋の中でもう一度俺は眠りにつく。
ところで――――ここで出たネイチャのやりたいこととは、確かに振り返ってみれば明日にはわかる物であった。
そう、明日――――には――――
ともかくとしてその日の以降の記憶としては、時間の感覚が曖昧な事と泥の様な眠気に纏わりつかれた何時かに雨が降っていたような感覚が残響の様に頭の中に残っていた。
たったそれだけだ――――
847 : マスター   2024/04/07 23:16:40 ID:OWk2gBKchE
②ともかく次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。
概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺に、彼女は少しトーンの落とした声で――――今日は遊びに連れて行ってくれる日でしょと、忘れちゃいましたかねーなどと念を押すように非難をする。
カレンダーには確かに休養日と書かれてはいるが、それ以外に予定が入っていた記録はない。
ただいつもの癖で何か忘れたかやらかしたかと――――そう促している様にも聞こえた彼女の中に、いつもと違ってどこか白々しいような雰囲気があったような気がしたが、何かを隠しているのかと頭の片隅で他人事のように思いつつも、昨日の雨が体に障ったのではないかと彼女の体の調子を問いただしつつ、ややあってすまないという謝罪から始まる朝は――――始まる朝は――――いつかと変わらずさわやかな陽気であった。
848 : トレーナーちゃん   2024/04/07 23:18:23 ID:OWk2gBKchE
俺は冷蔵庫にあるネイチャが作り置きしてタッパーに詰め込んだ食材を手に取り、レンジで温めると同時に、綺麗にアイロン掛けされて畳まれた私服を手に取り適当な組み合わせで試し試し着ると、いつの間にかレンジの中の食材は温めるを通り越して少し冷め始めているようだった。
ずいぶん放置してしまったか、中にあった牛肉の時雨煮が不機嫌そうな顔をして無言のままこちらを糾弾しているのが目に入る。時雨煮というより牛丼の上側と言った方が通りがいいかもしれないが、今日はそれに少し贅沢をして卵も付けようか。
――――などと考えていた俺がふと時計を見れば時刻は七時を大幅に過ぎて、食べたら八時近くにはなるだろう。平時であれば急ぐところだが、遊びに行くなら話は別だ。
あまり急いでも目的地の方が開いていないこともありうるため、準備の方を念入りにしておいた方が良い。さて、それにしてもまだまだ慣れぬものである。
自分の部屋では無いように思える埃ひとつない部屋も、ネイチャが作った惣菜がふんだんに詰め込まれ充実した冷蔵庫も――――この着替えを待つしっかりと張りの付いた服にも、何もかも。逆に亡くしたものは罪悪感と、躊躇と……どうせ、ぞんざいに扱ってももう意味はない物ばかりだ。
担当する生徒にここまでの事をさせて、約束すらも忘れてどの口で罪悪感などと――――……?
849 : お前   2024/04/07 23:19:25 ID:OWk2gBKchE
一度……顎に――――首に近い場所に右手を沿わせる。
その行動は考える時の所作であるものの、後になって考えてみればその行動自体にも、大きく意味があった。
ただ当時はと言えば頭の隅に芽吹いたというには憚られる、疑問の形を保てもしなかった違和感も、その正体の輪郭もつかめぬままであって、最終的には時雨煮をこれ以上待たせてはならないという焦りと服の装いの話題に塗りつぶされ、どこか優しい醤油の匂いに呼び起こされた空腹の導きに従い作法も何もない様子でかっ込んでいく。
途中で二、三度水を取りに行き、やがて朝食を平らげ空になったタッパーをシンクに入れ、こんなことをしているから部屋が片付かないのだと自分を省みつつも――――自分の中にあるネイチャが占める割合の大きさに嬉しいような複雑なような表情をかもしてしっかりと部屋に鍵をかけ彼女との待ち合わせ場所に出向いて行った。
850 : アンタ   2024/04/07 23:20:08 ID:OWk2gBKchE
その日の記憶は、まあまあ楽しかったという漠然とした輪郭で縁取られてはいるが、各々の激務の中で生じたわだかまりを一つ一つ解いていくような一日であった。
お出かけ途中でテイオーを始めとしたほかのウマ娘とも出会いはやし立てられ、結局夕方を過ぎ門限近くになるまで遊び歩いてしまった。
ネイチャ自身最初は強張っていた機嫌もだんだんと氷解を果たし、午後に入る頃には完全に自分の知っている彼女に戻っていた。
さても明日は何を食べようかなどと言う他愛のない会話をしながら最後に二人でファミレスに入り、カバンに詰めていた練習方法のレポートを交えつつ次のレースの事を話し合いながらにんじんハンバーグに舌鼓を打つなどをして――――そういえば、彼女はどんな服装をしていただろうか。
囃し立てられた時にテイオーは服装にも言及はしていたはずだが……思い出せないのは……なぜだろうか
ちなみにだが、結局牛丼に卵は付けなかった――――何故か彼女の服装よりも、そちらの方を思い出すのは、不思議でしかない。
851 : トレーナーさま   2024/04/07 23:21:43 ID:OWk2gBKchE
③ともかく次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺――――は?
不可解な沈黙が、不意にそこに転がった――――当時の俺は何故かこの後、ネイチャが俺に連絡をしてくるような気がしたのだ。
そしてその答えが正しかったのを知るのにそう時間はかからない。こちらの漠然とした霧が滑稽ともいう様に、ネイチャの感情は快活な声から始まりを告げた、確かに少しばかりいつもの声とは高さが違う物の、朝と言う事を鑑みればあちらもまだ体が起きてないと見える。
だが今日は――――言いよどんだ俺の態度に何か思う所があったのだろうか、昨日の雨で体の調子を落としちゃいましたか――――果たしてその言葉と同じ様な事をいつか誰かが、誰かに同じように言った気がする。
曖昧な返事しか返せなかった俺を、彼女はどう見たのであろうか。
気が付けば電話は切られており、後でネイチャにはフォローをせねばならないと切り替え、首の骨と筋をゆっくりと伸ばして小気味の良い音を立てながら始まる朝は――――いつかと変わらずさわやかな陽気であった。
852 : お姉ちゃん   2024/04/07 23:23:42 ID:OWk2gBKchE
………いつか――――とは?
という言葉を飲み込んだ事を、初めて自覚したのもこの時点である。夢の奥から何か恐ろしい物が現実に這い出てくるような不安さえあった、根腐れた夢の終わりは――――おそらく近い。
ともかく俺は冷蔵庫にあるネイチャが作り置きしてタッパーに詰め込んだ食材を手に取り、レンジでたたき込んだ。レンジが回っている間にそのまま歯を磨くためコップに入れた水、薄く揺れる波紋に映る己の顔色に、再び思案に浸る。
何かが、おかしい――――心の底からわくような正体のわからない焦燥に侵されながらしかして時計の針がその逡巡を咎め。
鼓動の速さが時計の秒針を追い越し、しばらくして並び、再び先を譲る頃になれど、未だにレンジからの応答もなく――――もうなってもよさそうな物なのにと思いながら様子を見やれば、どうやら叩き込んだだけで実際に温めてはいなかったようだ。
それならもういいと、冷えたままのごはんをインスタントの味噌汁の中にぶち込み、おかずも冷えたままでこれ見よがしの音を立てて朝食をすすっていく。
853 : 相棒   2024/04/07 23:24:55 ID:OWk2gBKchE
口の中に何か――――にんじんハンバーグのような風味が残っているような、漠然とした不安ごと俺は味噌汁で全てを流し込んでしまったのだ。
そこが間違いでもあったのだろう、俺という奴は大事な選択肢をいつも外してしまう。
食事を終えれば時刻は七時を大幅に過ぎて――――直感に、そんな気がしていた。
平時であれば急ぐところだが、例えば遊びに行くなら話は別だ。だが、今日は結局どちらであったのか――――再びネイチャに連絡する事は俺の中で何となくの範囲ではあるが好ましくはないと……いや――――はっきり嫌だ、と言ってしまうべきか……?
自分の部屋では無いように思える埃ひとつない部屋は何も語らない、時間の感覚を狂わせ己の存在すら希薄にする様な。
――――あり得ない、その言の葉は何に対して発したものだったか。
この部屋を片付けてくれたネイチャに何か作為的な物を感じてしまった事だろうか、もしくはこの部屋がまるで獲物を絡め取る様な蜘蛛の巣を思わせる何かになってしまったような感覚か、或いはネイチャにフォローも今日の予定すらも聞くことなく、このままどこかに姿を晦ましてしまいたいと思う己自身にだろうか。
亡くしたものは罪悪感と、躊躇と……本当にそれだけだろうか?
854 : キミ   2024/04/07 23:25:28 ID:OWk2gBKchE
当然本来であれば、俺はネイチャの所に向かうべきであった。だが何を考えたか俺は、ふと――――首の辺りに指を這わせ、一つため息をついた俺は自嘲するように小さく笑い
部屋を出た――――鍵は、あえて特にかけなかった。
理由は……意味がないから――――それに、尽きる。
その日の記憶としては、ふと海が見たくなりスマホを部屋に置き去りにした俺はせめて太陽に己の姿を捧げながらどうか見失ってくれるなと恐々のままで自転車をこぎ出していた――――筈だ、その…筈だ。
……ただ結局俺は海を見られたのだろうか、片隅にある月の景色はどこで見た物であったか。
一度……顎に――――首に近い場所に右手を沿わせる。考える行動の癖としてあるものだが、そういえば――――俺が最後に髭を剃ったのはいつだっただろうかと、つるりとした肉の感触にやはり恐ろしい物を覚えた。
855 : キミ   2024/04/07 23:27:24 ID:OWk2gBKchE
④次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。
概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺に、少し訝しげに――――何言ってんの、レポートができてきたから今日は詰めるって言ってたじゃんと念を押すように彼女は何か含んだような笑い声を電話の向こうで響かせていた。
視線の先にあるカレンダーにはそんなことは書かれていないのだが、最近はレポートに追われていたのだから疲れて書き間違えたのだろう――――そう諭された彼女に対しても何故か俺は、心の内で首を縦に振る事ができない。
856 : アンタ   2024/04/07 23:28:30 ID:OWk2gBKchE
そういえば、この服は何日着ているのだろうか。
答えは昨日雨に奪われた体温を戻す時にシャワーを浴びた時からである――――昨日はそもそも雨であったか? …いや、雨であったその筈なのだが、頭に掛かった靄の向こうに恐ろしい物の姿が見え隠れしているような錯覚を覚えるような。
果たして――――バ鹿げているというしかない、彼女は俺の大事な担当であり常に二人で歩いてきた。彼女が俺を陥れる理由も嘘をつく理由も俺には思いつかず、恨まれる心当たりも詐取されるいわれもない。
そうなれば畢竟彼女の言う事は真実であると結論をつけるしかない。或いはまだ自分が寝ぼけているのだろうと、俺は一度伸びをして不安を振り払うようにいっそ大袈裟をあてこする様にカーテンを開けた。始まる朝は――――いつかと、いつもと――――やはりどこかと変わらずさわやかな陽気であった。
857 : 使い魔   2024/04/07 23:31:52 ID:OWk2gBKchE
俺は冷蔵庫にあるネイチャが作り置きしてタッパーに詰め込んだ食材を手に取り、レンジで温めると同時に、綺麗にアイロン掛けされて畳まれた私服を手に取り適当な組み合わせで着ると、それと同じころをして丁度良く朝食が温まったようだ。
温かなビーフシチューと白米の取り合わせが色合いにも対比となっていて美しい、そういえば世の中にはシチューとごはんを一緒に食べる事を許さない人種もいるようだが、ナイスネイチャはどちら側で、ライトハローさんはどちら側だろうか、正直どちらも許容する性格のような気がするとシチューの人参にかぶりつく。
少し早く起きた為に時刻は七時前というよりも寧ろ六時の中ごろに近い、この分であれば食べた後少しゆっくりしても時間に遅れると言う事はないだろう。レポートの詰めはウマレーターで行い、AIである女神様の監督及び意見を鑑みて行う。
ウマレーター内であれば昨日の天気がどうあれ良バ場、重バ場問わず様々な環境が設定されるため単純に学園のトラックで走るよりも多くの情報や知見が得られたりするのだ。なんなら三女神様にお願いすればグレーには違いないが擬似的な温泉施設にも行け、身体へのフィードバックで疲労は取れる。
勿論現実の肉体が発する発汗などの新陳代謝は抑制できないため現実での栄養補給を始め歯や体や頭は定期的に洗う必要があるが、それを踏まえてもウマレーターの中で眠っていても疲労は取れるというのは素晴らしい、だから見ようによっては、家に帰る必要がなくなるともいえるが――――まあ、それは家が綺麗になった現在において関係はないといえる。
858 : トレーナー君   2024/04/07 23:32:46 ID:OWk2gBKchE
ともかくとしてそんな便利な物が満員になる可能性も考え、当然少し急ぐ必要があるのだが。もう慣れたものである、自分の部屋では無いように思える埃ひとつない部屋も充実した冷蔵庫も――――この着替え方にも、何もかもになれてしまった。
逆に亡くしたものは罪悪感と、躊躇と……どうせ、ぞんざいに扱ってももう意味はない物ばかりだ。
美しい朝日だった、それこそ心が洗われるような――――外の朝日に照らされる部屋にそんなものを持ち込むなどバ鹿げていると言わんばかりに、タッパーの料理を平らげた俺はそのまま少しぼんやりとして――――ふと、首筋に指を這わせている事に気が付いた。
微かな違和感を覚えた様な面持ちでその正体を探ろうとはしていたのだが、あいにく時間が足りない。時間が――――後に考えてみれば、触った場所が顎ではなく首であることとこの時間という語は非情な皮肉を孕んでそこにあったというべきだろう。
859 : モルモット君   2024/04/07 23:33:31 ID:OWk2gBKchE
ネイチャとの待ち合わせは学校で行う事とした――――その日の記憶としては……そうだ。ネイチャが妙にいじらしかった……というのだろうか。
ネイチャは太陽に照らされながら――――トレーナーさんがこんなことするなんて初めてだし、もしかしてアタシの作った料理の中で好みじゃないとかまずかったのかなーなんて思ってさ、ネイチャさんちょっとびっくりしちゃった。でもちゃーんと食べてくれてて安心したよ――――確かにそんなことを言っていた……その時に俺は、この子を疑っていたことを一瞬だけ恥じたのだった。
そうだ、この子に俺を貶める理由などあろうはずがない
だがもしもあるとすれば………それは担当バであり愛バではないから――――どこかで、そういわれた気がした。
860 : マスター   2024/04/07 23:34:44 ID:OWk2gBKchE
⑤ともかく次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。
概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺にも、段々と事態が何か恐ろしい方向に向かっているのではないかという不安感が晴らせぬところまで上がってきている。
考えて考えて無言になったこちらを訝しむようにネイチャが催促を始め。
ああ、すまないという謝罪から始まる朝は――――やはりいつかと変わらずさわやかな陽気であった……などとか次に俺は言うんだろう。
861 : お兄さま   2024/04/07 23:39:16 ID:OWk2gBKchE
晴れと言えば、そういえば昨日は雨だった、……雨だったはずだ――――ただ梅雨の割にはここ最近は晴れが多い。
ネイチャとぬれねずみになって帰ってきた後、次のレースは雨だと懸念した述懐がなかったことの様なと錯覚するほどの晴れが続いて――――いや、カレンダーの上では、雨に濡れてからたった一日しか経っていないはずなのだ。
ここ最近とはいったい俺はいつの事を話しているのだろうか、おかしい――――まるで、まるで――――俺の中に多数の俺である記憶が無造作に詰め込まれているような心地である。
昨日の夕食は白米を食べた俺と、何も食べなかった俺と、パスタを叫んだ俺と、外で食べた俺と、夜更けに雨だった俺と、レポートを破り捨てた俺と、ウマレーターにいた俺と、海で月を見て慟哭した俺と、俺と俺と俺と、俺――――。
今日は……――――先手を取り一人にしてほしいと言った俺の願いを、ネイチャは特に反論もすることなく快諾し、それで担当バとの会話は切れた。
果たして――――ここは、どこか……場所の話ではない。
もっと比べ物にならない事象の話である、次元が文字通り違うのではないか。震える手をどうにか止めようと、俺は冷蔵庫にあるネイチャが作り置きしてタッパーに詰め込んだ食材を手に取り、レンジで温めると同時に、昨日は一体何を食べたのか――――日常であるはずの疑問が拙さを覚える仮面をかぶっているような感覚に襲われる。
これは、何回目の俺であろう――――?
何度も、幾度も手が普段なら止まらない所で止まっている。震えているのではない、止まっているのだ。
それでも綺麗にアイロン掛けされて畳まれた私服を手に取り適当な組み合わせで着ると、それと同じころをして丁度良く朝食が温まったようだ。時刻は……七時よりも大きく過ぎてしまった、当然だが食べたらちょうど八時になるだろう。
862 : あなた   2024/04/07 23:40:19 ID:OWk2gBKchE
もう慣れたものである――――とでも言うつもりか。
錯覚が頭の中で嘲笑を呈し、自分の部屋では無いように思える埃ひとつない部屋も充実した冷蔵庫も――――この着替え方にも、何もかもになれてしまったなどと俺の姿をしているお前は言いたいんだろう。
逆に亡くしたものは罪悪感と、躊躇と……どうせ、ぞんざいに扱ってももう意味はない物ばかりだとも。
だが、その意味合いが、少しずつ変質をしているような――――ぞんざいに扱う理由が剥がされ、その下からさらなる真の理由が見え隠れしてきたような覚えが体を駆け巡り始めていた。
朝食を平らげ空になったタッパーをシンクに投げ込み、一度テーブルを拳で叩く。
手が勝手に怒りを覚えたような心地になった俺はそのままふと――――首の辺りに指を這わせ、一つため息をついた俺は自嘲するように小さく笑い部屋を出た――――鍵は、あえて特にかけなかった。
理由? 理由は……意味がないから――――それに、尽きる……
863 : トレーナー   2024/04/07 23:43:02 ID:OWk2gBKchE
時刻は八時を越えた頃だろうか、待ち合わせ場所に歩いている途中にしまったと――――ネイチャは………――――待ち合わせ?
いいや、今日俺は彼女に一人でいたいと伝えたはずだ。だからこれはあり得ない事態なのだ。一人でいたいと思うならば、家に引きこもるという選択肢だってあるはずだった。
何故か俺は私服を選んでまで外に足を伸ばし、適当に放浪でもすればよかった選択肢を投げ捨ててまで何故かその場所にたどり着き、三女神様が見下ろすその噴水の下で何故かナイスネイチャというウマ娘が、まるで、まるで――――全てが分かっていたかのようにおしゃれをしてそこに立っているなどとは。
偶然? ……よくもそういえたものだ、どこかあどけなさを残す少女の顔で、頬を赤くして目を潤ませて、震えを見え隠れさせてはいるが、こちらが断れない事をよく知っているような口調で――――顔を上げた先には常に美しさをたたえる始祖の三女神像がこの日常と変わらず佇んでいる。
私の救済にはなりえない女神様――――あなた方は何故、ここまでの蛮行を許しておくのでしょうか。
その日の記憶など――――思い出したくもない。
だがそういったものこそ、俺の頭の裏にへばりつく類の物なのは皮肉と吐き捨てるしかない。
愛ある罰――――唾棄すべき言葉である
864 : アネゴ   2024/04/07 23:44:08 ID:OWk2gBKchE
⑥ともかく次に目覚めたのはいつだっただろうか、ああ――――そうだ。
確かネイチャのための新たな練習方法についてのレポートを作っている時に、机に突っ伏して寝ていた状態からの覚醒だっただろうか。
概要から大筋はできており後は細かな点をネイチャと詰めるだけにはなっていたが、目覚まし時計が喧しく呼び起こす朝は、それと同時にかかってきた電話からこちらの状況を見透かすような担当の呆れた声、今日は……練習と休養どちらであったかと聞く俺に、他の誰でもない俺が――――俺が――――俺が……何かがおかしい、段々と事態が何か恐ろしい方向に向かっているのではないかという不安感が晴らせぬところまで上がってきて、それすらいつか感じた杜撰な思惑の亡骸であることをなぞる様に、眠っている誰かを殴りつけてでも起こそうとする意志の代理人が、宙に浮いていた右手の形で俺の頬を振りぬいた。
花火を思わせる瞬きが目の中に走ると共に、岩壁を破る様な熱を持ったじんわりとした痛みが流れ込んで、それでも右手は幾度となく自らを殴ってくる――――殴ってきたその単語が霧を掃う様に頭の中を通りすぎ、鼻から血が流れて床に数滴落ちる。
そしてその瞬間に、俺は全てを思い出した――――
話は数日前、と言うと少し語弊があるかもしれない。
この狂ったループが始まる前の正真正銘の数日前――――暦の上ではともかく、感覚的には二度と届かないような遠い昔の風格すらある時の頃。そう、あの時は確か新しいトレーニングを試そうとしていたはずだ。
そう――――ウマレーター、確かそんな名前であったはず。
865 : アナタ   2024/04/07 23:45:47 ID:OWk2gBKchE
VR機器のその中であれば、昨日の天気がどうあれ良バ場、重バ場問わず様々な環境が設定されるため単純に学園のトラックで走るよりも多くの情報や知見が得られたりするのだ。
現実のフィードバックも可能というある種人知を超えた技術だが、更に常駐しているAIの三女神様にお願いすれば、色々とグレーゾーンには違いないが擬似的な温泉施設にも行け、身体へのフィードバックで疲労は取れる。
勿論現実の肉体が発する発汗などの新陳代謝は抑制できないため現実での栄養補給を始め歯や体や頭は定期的に洗う必要があるが、それを踏まえてもウマレーターの中で眠っていても疲労は取れるというのは素晴らしい、だから見ようによっては、家に帰る必要がなくなるともいえる――――だからそれに依存した俺にとって家は、いつの間にか安息の場所ではなく、ウマレーターにそれを求めてしまった。
名目上は睡眠勉強法、ウマレーターのなかでさらに睡眠をすることで疲労回復がフィードバックされるらしい――――そんな眉唾物の話に乗っかっただけだ。
だからこそ、沈黙と埃が降り積もったそこに執着を無くすのにそう時間はかからなかったのかもしれない。……だからこそ、目覚めた時にウマレーターの中ではなく家の中であったことに違和感をまず覚えるべきであったのかもしれない。
ともかくそれこそが命取りであり、せめて――――せめて家からなくなった物を埃や塵以外に認知さえしていたらと思わずにはいられない。
だが――――結果論になってしまうが、ネイチャは気付かせる気など毛頭なかったに違いない。
866 : トレ公   2024/04/07 23:46:38 ID:OWk2gBKchE
いらない物を俺の部屋から追放にするに留まらず、逆に俺の身を案じると偽って――――それが偽らざる善意だったとしても、食事や洗濯物等々の仕事までされては、重荷を一つ卸した心に油断を生じるのも無理はない。
そう、もしも俺が気づくことができたとすればこの一瞬が最初で最後であっただろう、ネイチャの動きに少なくとも違和感を覚える暇はなく、ただたった一つだけ――――ネイチャが俺の部屋に持ち込んだ食料のタッパー、その量だけに関してみればだが、考えてみれば奇妙なほどに多かったと言える。
一週間分、そう彼女は話していたが、実際に持ってきたのは男一人のやもめにしては数週間で三食すべてを賄っても、それでも食いきれないほどの山として鎮座していた。
また種類も多岐にわたり、組み合わせ次第では両の手どころか足の指を含めても優に超えるような、例えば煮つけに合うのは白米か炊き込みご飯か、白米でなければ炊き込みご飯か栗のふんだんに入った栗ご飯か、或いは米から献立を始めるのならば赤飯に逢うおかずは何にするべきかと、こちらに色々と考えさせる喜びを語りかけるような気遣いが合った。
対して俺は、その光景に――――ウマ娘基準ならこれが一週間分なのかもだの、まあ多い分にはいいかなだの――――愚鈍にもほどがある、いうまでもなく最初からネイチャは俺をこの牢獄に閉じ込める気であったのだろう。
毎日同じものを食べるとなると、やはりどこかで無理が出るからだ。或いは、それこそが気づかせないための布石であったのか。
結論、彼女が手にした時の力――――俺の部屋から持ち出された大量の目覚まし時計という箱庭に俺はまんまと閉じ込められてしまったのだ。
867 : お姉ちゃん   2024/04/07 23:48:20 ID:OWk2gBKchE
目覚まし時計と言っても、当然市場に出回る一般的なそれではない。
大きさは流通している物よりははるかに小さいが、無論重要なのはそこではなくその物品が恐ろしい事に、時を戻す事ができるというこれまた人知を超えた危険物であると言う事だ。
俺が知る限り、目覚まし時計が戻せるのは一個につき一日だけ、つまり目覚まし時計を奪ってもあまり早く使いすぎれば、部屋も散らかった状態である昨日に。
言い換えればまた掃除や洗濯をしなければならず、何より持ち出した大量の目覚まし時計自体がネイチャの手から俺の部屋に戻ってきてしまう。
つまりネイチャは全ての準備を終えて、その上であえて最適な日に戻れるように一日待った――――結果的に待つのは一日で済んだという話ではあるが、しかしてその一日で彼女は木下藤吉郎、豊臣秀吉に負けないほどの一夜城を作り上げたと言う訳だ。
だがここまで理解を繋げてきたとしても俺ができる事はなく、はっきり言ってもはや詰んでいると――――目覚まし時計をよしんば取り戻せたとしても、ネイチャが一つも隠し持っていないとは思えない。
隠し持っているその一つを発動すれば、先ほどの話を逆回しにするように、時を戻したせいで取り返したはずの目覚まし時計はネイチャの目論見通り当日朝の座標に、つまり全て再びネイチャの手下に置かれてしまう――――目覚まし時計は時を戻せば役目を終え、その自壊自体は遡行の範疇の外にあり一日に一つ消費するが、さて俺は一体いくつ目覚まし時計を持っていたか。
少なくとも百や二百ではない、恐らく……今からでも三年分は優に賄えるのではないか。
目覚まし時計の入手方法はいろいろあるが確実なのはたづなさんから買う事だろう――――では、何故そんなものをたづなさんが所有しているのかと言えば、一つ……彼女にまつわる噂話がある。
868 : 貴様   2024/04/07 23:50:35 ID:OWk2gBKchE
彼女は人の名前の他に一つ、ウマ娘としての名前を持っておりそのウマ娘は――――東京優駿、早い話ダービーの数週間後に突如引退を喫したらしいのだ。
全戦全勝にしてパーフェクトの異名を持つウマ娘が彼女であるとするならば当然、その無念は期待の高さの裏返しであろう。先の通り目覚まし時計は、過去へと戻れる――――もしも彼女がそう――――望んでいたとするならば、彼女の無念こそが目覚まし時計の正体であり、それを配布という形で実際に使用した際のデータを取っているのではないだろうか。
その遡行の原料と可能性のある物なら、これまた夢の煌めきという――――ウマ娘が夢を掴んだ証と言われるアイテムが存在する。新米トレーナーは何の用途に置かれる物かすらわからず、経験を積んだ中堅及び熟練トレーナーにおいてもウマ娘の強化につながるそれがそもそも何なのかは答えに届いたものはいない。
だがその込められた夢という思いの物品こそが時間遡行装置である目覚まし時計の原料にはなりえないだろうか。
いずれにしろ、とにもかくにもウマ娘の思いの力と言うのはバ鹿にできない、時折女神像から啓示をうけ飛躍的な成長を遂げたりするのを俺は目の当たりにしている。まさしく見方を変えれば目覚まし時計と同種の人知を超えた力である。
さて、そんな目覚まし時計は、供給という方法がある以上ループ開始時よりも増えている可能性も視野に入れるべきかもしれない……当然俺がたづなさんから時計を得たとしても、それで帰れるのは何度も繰り返した今日――――否、俺にとっての昨日だ。
実際には始まりはいつも意識の無い状態から始まるため厳密には昨日の零時に戻るのかそれとも時計を使った時から丸々二十四時間戻るのかの判別がつかないが、一日の始まりに大きな差異がないと言う事はおそらく前者であろう。
869 : トレーナーさま   2024/04/07 23:51:58 ID:OWk2gBKchE
さても千個以上の時計、三年分の煉獄。
ふと――――首の辺りに指を這わせ、一つため息をついた俺は自嘲するように小さく笑い。その感覚が錯覚ではない事を思い出す、あれは夢のようで恐らく夢ではない。
言い換えれば――――何回か前の時間軸において、俺自身が……俺の首を縄で括って彼岸の渡しに逃げたとしても――――時間を戻された結果はこのザマだ。
自分の体重で首や背骨の骨が幾つか脱臼し、それによってすぐに気絶をしたとは言え死を選ぶ恐怖。とりわけ――――自分が自分を殺す恐怖というのは筆舌に尽くしがたい。
人がその恐怖を身近に感じないのはそのまま死と自分との距離が遠いから、明日アナタは車に轢かれて死ぬなんて言われても多くの人はピンと来ないが、逆に戦争の最前線であなたは明日撃たれて死ぬなんて口にも出せば反応は激烈であろう。
死の気配の濃さの違いか、或いは死というイメージがそちらの方が根付いているからか、いずれにせよ日本人の大半はあえてそれを見ないようにして社会を回している。だから逆に言えばその恐怖を、或いはそれもネイチャの計算の上でしかないのかもしれないが、二度三度行えるかと言えば、道の先に無駄という結果しかない事を理解してしまった俺にそんな胆力はなかった。
おぼろげながらも覚えている死後の世界は闇だった、そこから引き上げる光が希望の様相を持っていないのは皮肉であるというしかない。目覚まし時計の仮定限界数、即ち三年でネイチャはこちらの心を完全に砕ききるつもりらしいが――――もはや、俺の心は既に完全に隷属し白旗はあげられていると言わざるを得ない。
870 : 貴方   2024/04/07 23:53:05 ID:OWk2gBKchE
いつだったか擡げた反抗心で、ネイチャが作って冷蔵庫の中に置いていた物を全てぶちまけどこかへと逃げた次の朝、彼女は俺が逃げる前、朝早くに気配を消してループ以前に鍵を開けておいたのであろう窓から部屋に入り込んだ。
その記憶の残滓が、もはや戸締りにどうせ意味などないという歪んだ結論へとこぎつけたのであろう。
やがて風の気配で目覚めた俺の顔先にいつも通りの雰囲気を纏わせながら立ったと思えば徐に台所にあったはずのフライパンで、覚醒しきっておらず反応が遅れた俺の腕と足を砕き、一呼吸おいて絶叫している俺の口を塞ぐようにスプーンで一口ずつタッパーの料理を運んでいった。
それでも俺が首を体を振って暴れ、途中床に落とした物こそあれど、綺麗にすると言ってそれらを自分の口に放り込み、口移しでそれを流し込んできた――――以降の記憶は頭が封印して思い出せないようにしてしまったようだが、それを見越してネイチャは、その時にいったと推測されるセリフをことあるごとに囁いてくる。
そう、確か校舎で彼女が言ったセリフそのままで――――トレーナーさんがこんなことするなんて初めてだし、もしかしてアタシの作った料理の中で好みじゃないとかまずかったのかなーなんて思ってさ、ネイチャさんちょっとびっくりしちゃった。でもちゃーんと食べてくれてて安心したよ――――などと……
扉を閉じ鍵をかけ鍵穴までも潰した開かずの間――――その外から音は閉鎖の拙さを笑うかのように恫喝を繰り返して。
そしてその後、ネイチャは俺の目の前で窓から飛び降りた。
871 : トレピッピ   2024/04/07 23:54:32 ID:OWk2gBKchE
呆気にとられた俺の前で時間は巻き戻される、彼女がコンクリートの地面にどのような様相を残したかは視界の外にこそあるが、固い地面に肉をぶちまけた様な言いようのない鈍い音は俺の耳の底の底に残り――――漠然とした恐れを次回以降に強いる事になった。
目を逸らしても無駄だと、彼女は聴覚をトラウマに迫る。
そんな事が続いたからだろう……俺はあの子から逃げようという気すら起こらず、あの子の人生に都合のいい存在に成り下がってしまった。
そのラベルにトレーナーだろうがそれ以外の物が付くかなど、些末な問題でしかない。
やがてループが過ぎ去った次の日に、時間軸の影響を受けていないように見える周りからすれば、一日でナイスネイチャのトレーナーは別人のように変わったなどと言われるのだろうか。だがいずれにしろ――――その程度までだ。
時間を遡行し幾度となく繰り返したなどと誰が信じてくれるだろうか。もしかしたらたづなさんだけは信じてくれるかもしれない、時間遡行を繰り返した貴重なサンプルとしてではあるが。カウンセリングを受けて心を癒そうにも、カウンセラーとなるものはこの鬱屈とした熱と質量をもった悪夢に爪を立てて挑まねばならない。
それも、その悪夢に対して遙か格段の理解を持ったネイチャの妨害を受けながらでは、さすがに不可能と言うしかない。
では――――ループさえ過ぎれば、俺も死を選んで真の安寧を得られるのだろうか……
などと思っていたわけではないが、どうやらあちらはそうは思わなかったようだ。
両手で数えるにも飽いた回数に差し掛かったループの途中、不日ネイチャが俺を殺しに来た――――抵抗は障子紙よりも儚く破り捨てられ、俺は様々な――――畢竟人が一生で一回ですら覚えたくない感覚を、無作為に。
872 : お兄ちゃん   2024/04/07 23:55:50 ID:OWk2gBKchE
時には朝扉を開けたら目の目にいて、時にはデートの後に。
なんなら練習が終わって俺が自室やウマレーターの中で眠った後にも彼女の手に掛かったことはあったらしい――――出来るだけ苦しませたくないとは彼女の弁だったが、夢の中で夢を見るそんな夢は、悪夢にさらに悪夢を上塗りした様相となり俺が耐え切れず狂乱すらしても、次の今日に、或いは更に次の今日になりさえすれば再び夢の残滓という形で記憶の一部を持ったまま否応なく復元される。
例えるならばそういう物語の本を読んだ感じに近い。
喜劇であれ悲劇であれ読後は感情を揺さぶられることもままあろうが、数日を過ぎれば日常にならされてしまうのが常だ。
それと同じく元に戻る――――どころか時間遡行をした後は、何故か調子が上がりやすい傾向にある――――昔ネイチャのレースで遡行を行ったところ、彼女の調子が一回目で普通から好調へ、二回目で好調から絶好調に上がっていた。それと同じ事が、恐らく俺の心身にも起こっているのだろう。
自死を選べない俺が、死から遠ざかっていたいと願っていた俺が、死を連れたものに頭を垂れぬ道理がどこにあろう――――心を折らぬ道理がどこにあろう。
873 : トレーナー   2024/04/07 23:56:26 ID:OWk2gBKchE
ところで夢日記、と言う物がある。その名の通りに寝ている時に見た夢の内容を書いた日記の事だが、自信の潜在意識からのメッセージを受け取る、夢を自在にコントロールし、明晰夢を見やすくする効果も期待されるなど――――……ただ、俺が思いついたのは明らかにデメリットの方だ。
本来忘れるというプロセスを経るはずの夢を書き記す事で覚えるという真逆の手順を踏んだ場合薄れるはずの夢の現実性がまし、最悪夢と現実の区別がつかなくなる、またトラウマから発生する夢を書き留めた場合何度もそれがフラッシュバックするなど寧ろ危険の方が大きい。
874 : トレぴっぴ   2024/04/07 23:56:59 ID:OWk2gBKchE
ところで夢日記、と言う物がある。その名の通りに寝ている時に見た夢の内容を書いた日記の事だが、自信の潜在意識からのメッセージを受け取る、夢を自在にコントロールし、明晰夢を見やすくする効果も期待されるなど――――……さて、目覚まし時計は便利を遙かに超えてある種危険な物だが、使う量はトレーナー差の裁定に任せられている。
だが、三年間の内――――或いは同一の担当を行っているうちは決められた数を超えて使用してはならない、現在の指数で言えばおおよそ五つ。
ともかく矛盾をはらんだこの制約の意味がようやくわかってきた。恐らく目覚まし時計を使いすぎると、泡となった世界での記憶が、夢の範疇で収まらず段々と鮮明に定着してしまうのだ。吹けば飛ぶ様な水滴が集まり大きな雫からやがて水たまり、池や海になるまで。
これは本当に夢なのかという疑問から始まり、吹き飛ばされた現実であるという確信にまで至るその危険性は果たしてどう例えるべきか――――俺を見てみれば百聞よりも手早い。
875 : アンタ   2024/04/07 23:57:23 ID:OWk2gBKchE
ところで夢日記、と言う物がある。その名の通りに寝ている時に見た夢の内容を書いた日記の事だが、自信の潜在意識からのメッセージを受け取る、夢を自在にコントロールし、明晰夢を見やすくする効果も期待されるなど――――……そもそもこの世界がループを呈しているのならば、何故記憶を保持しているのが自らとネイチャの二人だけで外部からイレギュラーな干渉が起こらないのか――――その理由として考えられるものといえば、現実的な答えとして目覚まし時計の効果がその周りにまで及んでいない可能性がある。混濁したとはいえ記憶の上では、少なくともそのすべてが目覚まし時計のベルが鳴ってから発動する物である――――逆に言えばその音の届く範囲がそのまま逆行の範囲として適用されるのではないだろうか。目覚まし時計の発動音をそれこそ高い頻度で聴いているのは確かに俺たち以外には存在しない、一度や二度であれば数えるくらい入るだろうが、一度や二度では記憶は定着しないのだろう。
876 : アンタ   2024/04/07 23:59:48 ID:OWk2gBKchE
ところで夢日記、と言う物がある。その名の通りに寝ている時に見た夢の内容を書いた日記の事だが、自らの潜在意識からのメッセージを受け取る、夢を自在にコントロールし、明晰夢を見やすくする効果も期待されるなど――――……だからこそ、ネイチャの言ったような、現在ある目覚まし時計を一度にすべて使ったらどうなるかの答えなど持っていないに等しい。その説明を聞いた俺にも、しばらく何の事かはわからなかった。
目覚ましによって囲われた今の状況を例えるならば、濁った水場だ――――本来清流が流れる川の一部を岩場で多い、周りから隔絶された流れの無い水、時の流れから隔絶されたこのループは記憶から齎される淀みを段々と増していき、やがて腐臭と共にヘドロが堆積するか、口を動かしても息すらできぬ死海にしかならない。然しそんな時の流れから切り取られたその池を、ネイチャはあろうことか真逆の方法で――――その池にダムからの水を多量に放流し囲った岩場ごと汚れも何も根こそぎ洗おうとしているのだ。
一度に三年の逆行は一日を繰り返す小さな世界から見ればまさしく奔流と言うべき物であり、なるほどここまで凝り固まった記憶や汚れは激流の中で散り散りになる公算が高い。
そして逆に言えば、つまり俺がネイチャから仮に二つ目覚まし時計を奪い両方を発動させて二日前に戻ったとしたら、大量の目覚まし時計は片付けのされていない俺の部屋に戻る事になる。或いはそこが盲点であった――――たった一日という大きな壁すら乗り越えられず打ちのめされた俺に二日目が味方となるという発想は出す事が出来なかった。
877 : トレーナーさま   2024/04/08 00:00:55 ID:0TGspofqHM
ところで夢日記、と言う物がある。その名の通りに寝ている時に見た夢の内容を書いた日記の事だが、自らの潜在意識からのメッセージを受け取る、夢を自在にコントロールし、明晰夢を見やすくする効果も期待されるなど――――……だが確かにたづなさんが真に遡行を望んでいたならば、自らの青春であった東京優駿まで一日を繰り返すのは不可能に近く、一度に何個も目覚まし時計を使う方が自然であると見える。
そして、それを承知でネイチャが俺に話したと言う事は――――もはやダムが決壊寸前なのだろうという結論までそれこそ容易にたどり着ける。昔何かで見た事があるが、世界を一巡させると、人は変わらぬ不可避の未来をそれでも予兆という形で見る事があるらしい。
世界を正転させるそれとは違い彼女は世界を逆転させ得た、だからそこに予兆が宿りうるかは正直断定ができない。洪水の後の光景を想像に置くには易くないと言えばいいだろうか、それは海に流れ着くやもしれないし、存外近い陸のどこかで引っかかって残るかもしれない。最善はネイチャも俺もすべての記憶を時の彼方に押し流され夢と認識して、そのままもう一度三年間をやり直す。次善であれば、俺はもう別の子の担当になっている方がよいだろう、ただしその前提としてネイチャの記憶がない事があげられる――――彼女の明確な意思があれば俺を逃がす事は許さないだろう。逆に最悪は俺の記憶だけがないまま、ネイチャに先手先手を取られ、疑う事も知らぬままで依存する事だ。
どうかそれだけは、許してほしい
878 : アナタ   2024/04/08 00:03:32 ID:0TGspofqHM
ところで夢日記、と――――
ところで――――
ところで――――
次に目覚めるのはいつだろう――――
どこかで――――どこかで、目覚まし時計が鳴っているような気がする。
その日は酷い雨だった、ただ冷たい雨ではなかったことを記憶している。暦に綴られた六月という時期は例年通りに雨の気配が濃く、常に傘を携帯せねばならぬほどに太陽は萎縮していた。だからこそそんな雨の中で、なぜ俺の足はそこに向いていたのだろうか。
胸がざわつく様な予感が、正体を悟らせることもないままで。
例えるならばそれはきっと未来の記憶――――過去でも、現在でもなく――――
夢の残滓に示された、予兆と名のつく確信。
パンドラは何故箱を開けたのか、この足が進む先にその答えがあるような気すら覚えている。
心臓の動きが、一歩ごとに早くなり
吐息の強さが、やがて尋常でないものになる
そうして――――聞きなれた様な高い声、初めて聞いたはずなのに、どこか懐かしい遠い昔か、どこか懐かしい遙か未来かに聞いたような出会いの言葉が運命を再び逆廻しに歪めていく。
見つけた、見つかった――――そしてもう――――逃げられない
879 : アナタ   2024/04/08 00:04:01 ID:0TGspofqHM
はいお疲れ次五月
間に合わないと思うけど五月
880 : アナタ   2024/04/11 14:06:25 ID:F6tx24ECQY
特級呪物
881 : お兄ちゃん   2024/04/12 16:29:41 ID:plwNrhruiA
怖えよ
882 : トレーナー君   2024/04/15 06:39:04 ID:VNyMeI7cuM
ここもじき腐海に沈む…
883 : あなた   2024/04/15 20:44:41 ID:hL3H.FbwYQ
ここが腐海だよ
884 : あなた   2024/04/16 23:46:19 ID:ruLyTjECfU
たんおめ
885 : トレーナーちゃん   2024/04/24 02:00:12 ID:7hmOA/.9yE
そろそろ4月も終わりか

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