学生風デートをするヴィル夫婦の話
1 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:11:04 ID:C/GVNVOHQ6
衣替えの時期が過ぎたある夜の話、今晩も夫婦は晩酌に酔いしれていた。
酔っ払うと甘えん坊になるヴィルシーナはかつてのトレーナーであるヴィルトレにべったりくっついており、対して酔っ払うと褒め上戸になるヴィルトレは結婚を前提とした同棲中の大学生のヴィルシーナと肩を寄せ合い、二人で止めどない談笑を続けていた。

「それにしても衣替えのシーズンね、学生時代に制服を夏服から冬服に取り替えたのを思い出すわ」
「お、制服か〜、シーナならまだまだ着れるんじゃない?スカートは難しいかもしれないけど?」
「ちょっと!私が太ったって言いたいの!?」
「そんなことないよ、今でもスタイル抜群の最高のお嫁さんだよ〜」
「もう、あなたってば調子いいんだから〜」

至極いつもの甘々な時間を過ごしていた、この時までは。
「ねぇ〜?本当に私が制服着てる所、見たい?」
「見たい!超見たい!!なんなら制服の君とデートしたい!!!おねが〜い」
まるでヴィルシーナの妹のようなおねだりまでする男、そんな彼に対し、すっかり顔の緩まっている彼女は「しょうがないですね〜」と残し席を立つ。

しばらくすると、トレセン学園の制服をその手に持って帰ってきた。
そして彼女はおもむろに今着ているパジャマの上を脱ぎ、薄手のインナー姿になる。
そしてかつての制服に袖を通していくが・・・
2 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:11:38 ID:C/GVNVOHQ6
「あ、あら?変ね?おっぱい、つっかえちゃってる?」
「胸の大きいお嫁さんもサイコー!」
ヴィルシーナはよいしょよいしょとつっかえるものを服の下に押し込み、裾を下に下げていくと・・・
『ビリッ』
「あら?」
「ありゃ?」
衣服の破ける音がした、見れば右脇の辺りから縫い目がほつれ、大きく開いてしまっていた・・・

場は一瞬にして固まり、次の瞬間一気に酔いが冷めたヴィルトレの顔は青ざめ、ヴィルシーナは泣き始めてしまった。
「ヒック… 私の制服… 壊れちゃった…」
「あ、あ~!あーー!あーーー!ほ、ほら!今は悪い夢の最中かもしれないから!ほら、もう寝よう?ぎゅっとしてあげるから・・・」
そして2人はそのまま、事実から目を逸らすように眠りにつくのであった。

3 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:12:36 ID:C/GVNVOHQ6
夫婦は目を覚ますと状況を理解し、昨晩のことを悪夢ではなかったことを再確認する。
ひとまず制服は縫い目から壊れていたので、縫い直すことにしたヴィルシーナ。
着れなくなったとはいえ思い出の品の為、壊れたままにしておくのは忍びなかったのだろう。

針仕事が終わった所で朝食の用意ができた事を伝えるヴィルトレ、本当なら手際の良い裁縫の光景を見ていたかったので、若干がっかりしている。

そうして朝食の時間が始まると、ヴィルシーナが躊躇いがちに口を開く。
「あの、〇〇さん、制服の件なんですけれど・・・」
「すまん!詫びて済む問題じゃないだろうけど、この通りだ!気が済まないのなら何だってする!」

相手の勢いに飲まれた彼女は呆気にとられていたが、こほんと一息整え再び口を開く。
「えっと、制服の方は時間が経ってましたし仕方ないと思います、というか私その件では怒ってないですし・・・ そもそも高校を卒業する頃には、その・・・ 結構キツかったですし・・・」
えっ!?と顔を上げ反応した彼に対し彼女は「本当に怒りますよ?」と顔を赤くして恥ずかしそうに返す。

「それでは話を戻しますね、昨晩〇〇さん言っていましたよね、『制服デートがしたい』って」
「えっ、あっ・・・ ソンナコトイッテマシタネ・・・」
昨晩のことを思い返す、今度は彼が顔を赤らめる。
「ま、まぁ、酔っ払いの軽口だから、ね?この際忘れてくれても・・・」
「別にしたくないとは言ってません」
「えっ・・・!?」
4 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:13:22 ID:C/GVNVOHQ6
「とはいえ、トレセン学園の制服はもうサイズが合わないですし・・・」
「あぁ、そうだよね・・・」
「なので、次のお休みに制服デートをしましょうか」
「えっ!?いいの・・・!?」
「あら?別にしたくないのなら構いませんが?」
「したいです!君と制服デートを…!」
「ふふっ、もう・・・ では次のお休みの日、覚悟してくださいね?」
覚悟とは何をだろう?彼女の言葉に首を傾け、そのまま朝食に戻るのであった。



―数日後。
「それでは〇〇さん、こちらに着替えてください。」
ヴィルトレは渡された紙袋を受け取る。
「ヴィルシーナ、これは?」
「では私も着替えてきますね。」
質問には答えずに、そのまま寝室へ入ってしまった。
残された彼はひとまず脱衣所で着替えることにした。
「さて、紙袋の中身は・・・」
中には白色のYシャツに紺色のスラックス、明るめのネクタイと袖の無いクリーム色のベストが入っていた。
「成程、制服風か・・・」
コーディネートの方向性を理解し、袖を通していく。
着替えが終わり鏡を見る、見た目は確かに体の大きい学生に見えなくもない。
5 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:13:42 ID:C/GVNVOHQ6
「流石に、これで学生を名乗るのはキツくないか・・・?」
自分の顔を見た途端にそんな言葉が漏れる、自慢ではないが顔の良いトレーナーとして評される事もある、しかし今の自分はどちらかといえば老け顔寄りの普通だと認識はしている。
以前、義兄弟や同期のトレーナーにそんなふうに言ったことがあるが、「もっと自信を持て」「鏡で自分の顔を見たことないのか」と言われた事を思い出す。

顔を洗い、少しでも見た目を良くするために深剃りしすぎない位にヒゲを処理してからリビングに向かう。
彼女はまだ着替え終わっていなかったらしく、まだ誰もいない。
「〇〇さん、着替え終わりましたか・・・?」
不意に寝室から声が聞こえる。

「あぁ、終わったよ」
「はい、では失礼します」
扉を開けて入ってきた彼女に思わず目を見開いた。
白色のシャツの上に自分と同じベスト、胸元にはトレセン学園の付けリボン、紺を基調とした緑が差し色のチェック柄なプリーツスカートに膝丈のスカートの下で程良い肉付きに貼り付く黒色のソックス、そして何より目を引くのは古典的な文学少女を彷彿とさせる三つ編みの後ろツインテールと大学でよく使っている黒縁の眼鏡。
誰がどう見ても真面目さが取り柄の大人しい女子高生がそこに居た。
6 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:14:30 ID:C/GVNVOHQ6
「あの、どうでしょうか?」
「そうやって首を傾げるのはやめてくれ、正直可愛らしくて仕方ない」
「え?」

「普段の君は美しさが前面に出ているけれど、今の君は小動物的な可愛らしさが前面に押し出されている。
それでいて着崩さないキッチリしたところから感じられる真面目さと美意識の高さ、それでいて・・・」
「あの、もういいですから…」
この男に語らせたら本当にいつまでも止まりそうにない。

「ほら、早く行きましょう?先輩・・・」
「センパイ…?」
「え?あの、〇〇さんは年上ですし、そちらの方が自然かと思いまして… あ、それとも同級生の方が良かったですか?」
「違う違う!びっくりしちゃっただけだから、そう呼ばれるのが新鮮で・・・」
「そ、そうでしたか・・・」
「ねえヴィルシーナ、もう一回『センパイ』って言って?」
「はい先輩」
「もう一回」
「先輩?」
「もう一回」
「せーんぱい」
「もう一回」
「いい加減にしないと怒りますよ先輩?」
困り顔の彼女に怒られるヴィルトレ、彼女に先輩と呼ばれることがこんなにも光栄で幸せなことだとは知らなかったのだろう。



「それじゃ、どこに行こうか、ヴィルシーナはリクエストある?」
「あの、リクエストというか素朴な疑問なのですけれど、学生のカップルって同じ部屋から出発するものでしょうか?
そういうドラマやお話だと、駅前で待ち合わせするものではありません?」
「・・・あ、それもそうか」
いつもの出掛け方をしてしまった影響なのか、定番シチュを失念していたようだ。
「いやでも、今のヴィルシーナを一人にしたら悪い男達がこぞっと押し寄せて来そうだからな・・・」
「まぁまぁ、そういう設定は気にせず行きましょう・・・」
7 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:15:04 ID:C/GVNVOHQ6
そうして、二人は特に目的地を決めずに駅前を目指すことにした。
「それにしても、学生のデート、ですか・・・」
「うん?」
「私がトレセン学園に居た頃は殆どトレーニングか勉強かであまり毎日遊ぶ時間は無かったですし、残りの休みは習い事や妹達とのお出掛けに費やしましたから、年頃の学生がどこに遊びに行くのかわからないのですよね、先輩はご存知ですか?」
「俺?俺は・・・」
そこで男は言葉が詰まる
「・・・オシャレなカフェとか、ゲーセンとか、かな?」
「なんでそこで疑問形になるんです?」
こんな事ならデートコースについて調べ直しておくべきだったと思うヴィルトレ。

「まぁいいです、ほら行きましょう、先輩」
ごく自然な流れで指を絡め手を繋ぐヴィルシーナ。
「ん?ヴィルシーナ、ちょっといいかな?」
今度はヴィルトレが疑問を投げかける。
「俺たちの今の関係性って、『先輩と後輩』だよな?その2人がこうやって手を繋ぐものなのかな・・・?」
彼女はピタリと固まり、彼はそれにつられて足を止める。
「・・・・・・せ、先輩は、嫌ですか?こういうの…」
「嫌じゃないです」
そういう関係性にするらしい、かわいい後輩のかわいい頼み事ならいくらでも聞いてしまう男は受け入れた。
8 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:15:28 ID:C/GVNVOHQ6


「あらヴィルシーナさん、ごきげんよう」
「すみません人違いです。」
歩くこと数分、二人(特にヴィルシーナ)は今できれば会いたくない人物に遭遇していた。
「あら、そうですの?その額の特徴的な菱形は間違いなくヴィルシーナさんかと思いますが?」
「・・・わ、私は… ブラヴァス… です…」
「別に言いふらす事などしませんから、慣れない嘘をつくのはお止めなさい」
目の前でとうせんぼうをするように陣取る貴婦人にキッパリ言われてしまったため、二人は観念した。

「それにしても、随分と可愛らしいことされているではありませんこと?まだまだ学生を名乗れるのではなくって?」
「・・・っ!余計なお世話です!」
「ホホホ・・・ そちらの方も、学生を名乗るには少々キツいでしょうが、素敵な合わせコーディネートですこと」
「貴婦人のお眼鏡に適ったようで光栄です」

陰鬱な表情でヴィルシーナは尋ねる。
「それで?何のご用事でしょうか?」
「別に?本当にたまたま通りすがっただけですわ、そしたら変わった格好をされている友人が通りがかりましたのよ?」
本当に用事はなかったらしい。
「ではカップルのお邪魔をするつもりはございませんので、これで失礼しますわ、丁度ご用事も出来た事ですし。」
ジェンティルドンナは満足したらしく、そのままどこかへ行ってしまった。
「・・・隣町まで行きません?」
「そうだね、ブラヴァス。」
「っ!?〇〇さんは騙されなくていいんです!」
そんなやり取りをしながら、二人は電車に乗った。
9 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:15:57 ID:C/GVNVOHQ6


「あ、先輩、クレープ食べませんか?」
「お、良いな。」
「・・・・・」
「・・・・・」

ー⏰️ー

「ヴィルシーナ、次はカラオケ行かない?」
「良いですね、行きましょう」
「・・・・・」
「・・・・・」

ー⏰️ー

「楽しかったね、次はどうしようか?」
「でしたら、ちょっとウィンドウショッピングしません?」
「わかった、行こっか」
「・・・・・」
「・・・・・」

ー⏰️ー

「ねぇ先輩、私ふと思ったのですけれども、これいつものデートですよね?」
「奇遇だね、俺もよく行くデートコースだったと思ってた所だ」
一緒にクレープを食べて一口ずつシェアしたり、カラオケでデュエットをしたことも今日が初めてではない。
なんなら、ぶらぶらウィンドウショッピングなんて2人の定番だ、そんな事を思い出した2人は何らおかしいことは無いのに笑い合う。

「おかしな話ですよね、学生らしいデートを目指してたのに、いつものデートになっちゃうだなんて」
「いやいや気持ちの違いはあっても、デートとしてやる事は多分変わりないんじゃない?」
「それもそうですね、それでは次はどこに行きます?」
「ん〜、あっ!じゃああそこ行こうか」

10 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:16:23 ID:C/GVNVOHQ6
「プリクラですか?」
「あぁ、前に撮った事はあるけど、ここ最近撮ってなかったような気がするしさ」
そう言われてヴィルシーナは思い返す、ヴィブロスや友人とはよく撮ってたけれども、今の彼氏になる前のトレーナーとは1回だけ撮った気がする位しか無かった事を。
正直、今の格好の状態で写真を残すのは気恥かしさが勝りそうだが、今の自分達は学生なのだと自分に言い聞かせ、機械の中に入っていく。

「あ、ヴィルシーナ見てよ、このプリクラポーズ指定してくるんだって」
「へぇ〜楽しそうですね、やってみます?先輩」
勿論と答えた彼は硬貨を入れ、迷いなくモードを選択した。

『カメラの方を向いて、ポーズを取ってね』
機械の案内と共に、モニターにシルエットが表示される。

『まずは『ふたりでハイタッチ』、10… 9…』
「ヴィルシーナ、いえーい!」
「いえーい!」
2人で手を合わせ、顔を向けた所でシャッター音が響く。

『次のポーズは『2人でグッド』だよ、10… 9…』
「ヴィルシーナ、こう胸のあたりで構えようか」
「え?こうですか?」
3… 2… 1… のカウントに続きシャッター音が響く。
この時ヴィルトレの笑みが若干引きつっていた事にヴィルシーナが気が付くのはまた後のことである。

その後は『猛獣のようにガオー』や『ふたりでハート』といったポーズを取らされたり、『密着するポーズ』や『4本腕の人』等の肌が触れ合う位の距離になるポーズも取らせた。
「いや多いな・・・!?」
その機械からのリクエスト(無茶振り)に二人は若干疲労気味になっていた。
11 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:16:48 ID:C/GVNVOHQ6
『それじゃあこれで最後・・・』
ようやく終わりか、二人がそう思い機械からの指示を待つ。
『ふふふ、ちょっと難しいかもね?最後は『ふたりでキス』だよ!』
「は!?」「えっ!?」
同時に反応する、プリクラとはいえ若い子も遊ぶのにそんな不節操な事をやらせるのか・・・
しかしモニターに映し出されたシルエットは、頬やおでこ、手の甲へのキス、中にはキツネの手にして合わせるなんてものもまであったが、口同士でのキスのシルエットは出ていなかった・・・

ここに来ていくつもの選択肢を出したり、そもそも勘違いされるような言い方をする辺りに、この機械を作った奴の底意地が悪さが感じられる。
『10… 9…』
そんな事を考えているとカウントを始められていた。
「とりあえず、頬にキスで良いんじゃないかな?」
「そ、そうですね・・・」

ヴィルトレは少しだけ前屈みになり、ヴィルシーナがキスしやすい位置に頭を持っていく。
『3… 2…』
ヴィルトレは頬への柔らかな感触を待っていた。
だが両の頬に感じられたのは彼女の両手の感触であり、驚く間もなく顔をヴィルシーナの方へ向けられ、そのまま唇に柔らかな感触を当てられる。

彼は突然の事で頭が混乱しかけたが、即座に状況を理解する。
相手の行いに対して追及しようとしたが、当の本人は紅い頬をして「だって、指示ですから・・・」とあざとくはにかんでいたため、男は何も言えなかった。

12 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:17:18 ID:C/GVNVOHQ6
「あんなにポーズを取らされたのにプリントできるのは1種だけで、追加でプリントするなら追加料金取るのか・・・」
「まぁまぁ、この中で一番良いのを持ち帰りましょう?」
そんな感じで2人は選定と加工を始めたのだが・・・

「ハイタッチならこのパーティー会場のフレームじゃないですか?」
「この画角ならこの登山フレームじゃない?」

「先輩?なんで先輩の手がハートマークのになってるんですか?」
「いやいや、こういうネタ写真があってさ・・・」

「見て、雨と傘のフレームだって、これとこの写真を合わせたら、ほら相合傘」
「もう先輩ってば・・・」

「ほら先輩、キラキラお目々」
「いやこの顔でこの目は気色悪いな、自分の顔だけど」
「そんな事ないですって、ほらかわいいですよ」
「かわいくするなら、こっちのテレ線をヴィルシーナの頬に付けたほうが何十倍もかわいいって」

「・・・・・・」
「・・・・・・バッチリ写っちゃいましたね、私達のキス」
「これは絶対アイツらに見せられないな・・・」

そんな感じで幾ばくかの時が過ぎ去り、2人はようやくプリクラ機から解放される。
「結局、7種全てプリントすることにしちゃいましたね」
「じゃあ聞くけど、この中で1枚選んでって言われても選べる?」
「・・・・・・やっぱりこの料金システム酷いですね」

13 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:17:53 ID:C/GVNVOHQ6
場所は変わりとあるカフェ、ここで働く1人のバイトの若い女性が居た。
彼女はマスターが定年後の趣味と実益を兼ねた店に雇われているホール担当だ。
だが今の時間はもとより少ない客足も落ち着き、読書や仕事等で利用している人が店員を含めても片手で数えられる位しか居ない。
つまるところ彼女は勤務中ながら暇であり、何度目かわからないテーブル掃除やグラス磨き位しかやる事が無い。
尚マスターは裏でコーヒーの選別と焙煎を行なっている、正直自分も裏に行ったら楽なのだが、そうすると店内に店員が居なくなるので、大人しくカウンターでニコニコして仕事を待っている。

すると店のドアに付いている呼び鈴が来客を知らせる。
その音を合図に彼女は顔を引き締め、お迎えの挨拶をした。
「いらっしゃいませ~、只今のお時間は空いてる席にどうぞ〜」

客は2人、美男美女のカップルだ。
「(ここら辺では見ない制服を身に纏っている、今日は休日なので部活帰りだろうか?それにしてもこんな趣味以外何も無いお店に学生が来るのか?というかそれなら何故休日に制服を?真面目くんちゃんか?)」
バイトの女性はそんな事を考えながらお冷とおしぼりを2つずつ持っていく。
14 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:18:40 ID:C/GVNVOHQ6
「ご注文がお決まりでしたらお呼びください」
そのまま彼女はカウンターの定位置に戻る。
「(いや近くで見ると顔面偏差値めっちゃ高いなこいつら、ドラマの俳優か?
しかも聞き耳立ててれば先輩後輩の関係だと?そうやって一つのメニューを一緒に見てる所なんてもう男女のカップルだろ、大好物だよご馳走様!!)」
何を隠そう彼女は男女の恋愛を見るのが趣味であった。
具体的には初々しいカップルを見守るメシウマな店員のポジションが好きなのである。

「それでは先輩、何にしますか?」
「時間も時間だからあんまりガッツリしたのはやめておこうか」
2人はメニューを決めかねて居るのだと判断したバイトは裏メニュー表を持って2人座るテーブル席の前に立つ。

「失礼します、お二人はカップルかと思われるので特別に本店の裏メニューをご提供させていただきます、特にこちらの『ラブラブカップル食べさせあいっこパフェ』がオススメです!」
そんなものはない、暇だった彼女が無断で考案し、無許可で裏メニューとして始めているのだ。

「カップルパフェですって先輩?頼んじゃいます?」
「いややめとこう、これどういうサイズか書いてないし、それにもしこの絵のグラスが誇張無しだったら確実に太るよ?」
「(そこはしょうがないなぁで頼むところでしょうが!そのためにサイズ誤認しやすいイラストで載せてやってるのよ!あと男がカロリーなんて気にすんな!指摘するとかとんだノンデリ発言だよ!)」
15 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:19:19 ID:C/GVNVOHQ6
「じゃあサンドイッチとコーヒー2杯でいいかな?」
「えぇ、それで」
「それじゃ店員さん、サンドイッチとコーヒー2杯、ミルクと砂糖も一緒にお願いします。」
「(よくねーよ、サンドイッチじゃあーんとかできねぇだろ、うちのサンドイッチはコンビニと同程度の普通のやつだぞ、そんなんでイチャイチャが見れるはず無いだろこのバカ!)サンドイッチとコーヒーが2つ、砂糖とミルクをセットですね、かしこまりました、それでは少々お待ちください。」
心の中はお喋りでやかましい店員はカウンターへ去ってゆく、だがその瞳にはまだ執念の炎が宿っていた。

「(上等だゴラァ、甘酸っぱいサービスを提供してやらァ!)店長、コーヒー2つお願いします。」
そう告げると彼女は冷蔵庫からオーダーされていないメニューの材料を取り出し、テキパキと混ぜていき、最後に持ち込んだハート形のストローを差し、トレーに乗せて二人の下へ運んでいく。

「失礼いたします、こちらカップル限定のお通しになります。」
「え?お通し?」
いわゆるカップルストローが刺されたドリンクを出された二人は揃って目を丸くする。
「あの?頼んでないのですが?」
「いえいえ、試作品を作ってしまいましたので、当店からのサービスになります」
それだけ言い残すとバイトの女性はカウンターへ戻り、サンドイッチの用意をする風に見せかけ二人の様子を観察した。
16 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:19:48 ID:C/GVNVOHQ6
「どうします?先輩?」
「貰ったものは仕方ない、飲んじゃおうか」
そうして二人は両端からお通し(おせっかい)を飲み干していく。
「(いやそこは照れるところでしょうが!何当たり前のように顔向き合って飲んでんのさ!?そこは気まずさから顔をそらしたり躊躇う所だろぉ!?)」
「コーヒー2杯、上がったよ」

そこからは特に何のアクションもイベントも起こせず、普通のコーヒーとサンドイッチを提供することしかできなかったバイトの女性であった。

二人は満足したようだ、伝票を持ってレジの方へ向かう。
会計をする瞬間、ふとバイトの女性に天才的なひらめきが舞い降りた。
「お客様、よろしければカップル割はいかがでしょうか?」
「ん?」
二人は揃ってレジまわりを探すが、どこにもそのようなお知らせやポップは無い。

「あの、カップル割ですか?」
「はい、店長の粋な計らいで試験的に運用しております」
かつてここ以外のお店でカップル割を利用しようとした際、連れの男性に否定された苦い思い出のある女性に対して、店員は堂々と嘘をついた。

「せっかくだし適用してもらおうか」
「かしこまりました、ではカップルの証明をお願いします」
「・・・はい?」
またしても二人は困惑の表情になる、バイトの女性はなりふり構わなくなってきたようだ。
「(さぁ照れてどうしましょうか?って相談しろ、そこで私がハグでOKですって言えば必然的に選択肢は一つになる、さぁやれ、幸せな光景を見させてもらうぞ・・・)」
17 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:20:07 ID:C/GVNVOHQ6
そんな事を考えるバイトの女性をよそに、何か思いついたであろう男性が口を開く。
「ヴィルシーナ、さっき撮ったプリクラがあるよね、あれ見せてもいい?」
「プリクラですか?あ~、まぁ仕方ないですね・・・」
「(プリクラだと?今更そんなちゃちなもので仲良さを見せつけられても・・・)ゴハァッッ!!!」
バイトの女性は妄想の血を吐いて膝をついた。

女性客は見せた写真を確認した途端頬を染め、男性客に抗議を始めた。
「ちょっと先輩!いくらなんでもこの写真は… 他にあったでしょう!?」
「あぁごめん、『カップルの証明』ならこのぐらいかなって思っちゃって・・・」

先程からオーバーリアクションを決め込むバイトの女性、彼女の瞳には先程の写真の内容が焼き付いて離れなかった。
「(二人でハートに、ハグ・・・ キス・・・!いや、それよりも・・・)」
バイトの女性は思い返す、見たのは一瞬だったが、写真に書かれていた数字の事を。
「(コイツら学生じゃねぇのかよ!!!)」

「あの、大丈夫ですか?」
「・・・ごちそうさまです…!」
「はい?」
「お会計はサービス価格で550円になります…」
「あっ、はい・・・」
会計を済ませた二人はそのまま店を出ていくのを見計らい、バイトの女性はありもしないスカウターが爆発したような感覚を覚える。
「(恋愛力53万超えだと!?くっ、私の敵う相手じゃなかった・・・っ!)」
彼女は悔しさ(尊み?)をそっと飲み込み、先程の会計の不足分を自分の財布からレジに入れるのであった。

18 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:20:29 ID:C/GVNVOHQ6
カフェで軽食を済ませた二人は帰宅のために駅に入っていた、しかし行きとは打ってかわり車内には多くの乗客が押し寄せていた。

「大丈夫かな、ヴィルシーナ?」
「ええ、はい・・・」
二人は壁際に押し付けられるような形となり、結果的にヴィルトレは彼女を包み込むように立ち、ヴィルシーナは彼の腕の中にすっぽり収まるように立っていた。
所謂『壁ドン』のような状態になっていた。

「まさかこんなにも一気に混雑するとはね、苦しくない?」
「いえ、私は大丈夫です、それにこうしてもらってると、先輩に包まれてるような感じがして、嫌じゃないです・・・」
ヴィルトレは思わず目の前で縮こまっている少女を抱きしめたくなった、しかしここはあくまでも公共の場、しかも周囲には人の目があるのでここは耐え忍ぶ。

『この先カーブがございます、揺れにご注意ください』
そんな車内放送が流れると予告通り電車が横に揺れる、慣性の法則に従い他の乗客達が揺られ、その圧力がヴィルトレの背中に襲いかかる。

「おっと・・・」
ヴィルトレの顔がヴィルシーナに近づく、それに伴って彼女の頬に少し紅みが差し、脚で押さえている尻尾が少し揺れる。

「悪い、大丈夫か?」
「いえ、大丈夫です…」
「本当に大丈夫?少しだけ顔が赤いけど・・・」
「えっと、多分人混みの熱に当てられたんだと思います・・・」
本当は大好きな顔が突然近寄ってきたからなんとなく照れくさいのだ、けれどもその事を伝えるのもまた照れくさいヴィルシーナであった。

その後二人の降りる駅までは特に会話は無かったが、周囲から飛び交う「甘酢ッぺぇ〜」「何あれ尊み〜」「推せる〜」という無言の念の中で不思議と居心地の悪くない時間を過ごしていたのであった。
19 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:21:32 ID:C/GVNVOHQ6


「ただいま、〇〇さん」「おかえり、シーナ」
「ただいま、シーナ」「おかえりなさい、〇〇さん」
すっかり二人の決まりとなったお互いへの挨拶をして家に入る。

時刻は夕方、夕食を作り始めるにも家事をし始めるにも少し早い、そう判断したヴィルトレはなんとなくソファに座る。
すると隣にヴィルシーナが座り、肩を密着させるように座り位置を直す。

「ねぇ〇〇さん?聞いてもいいですか?」
学生ごっこはもう終わりらしい、いつもの呼び方に戻した彼女が質問を投げかけてくる。
「今日、いえ前に制服デートしたいって言っていたのは、もしかして学生時代にそういう経験が無かったからですか?」

図星だったようで、彼の顔が若干苦そうに歪む。
間髪入れずに謝罪の言葉を述べる彼女を止めてヴィルトレは口を開く。
「あぁ、恥ずかしながら学生時代は勉強と部活に明け暮れてたからカノジョを作る余裕も時間も無かったんだ・・・
当時はそれでいいと思ってたんだけど、君と出会ってこうして交際をしていく中で、学生時代の君と俺が出会えたら、少しは色付いた青春を送れたのかな、なんてね・・・」
ヴィルトレは苦笑を浮かべる。
20 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:21:40 ID:C/GVNVOHQ6


対してヴィルシーナは少しだけクスリと笑い、隣にいる相手に微笑みかける。
「そんなことありませんよ、現に熱心に勉強して真摯に向き合う姿勢を取っていたからこそ、私と出会ってこういう関係になれたんですよ?もう〇〇さんの青春はとっても素敵な色で彩られていますよ」
「そっか、それなら良いか、うん、やっぱり俺の大好きなお嫁さんは最高だな」
「だっ・・・ えっ!?も、もう!酔ってもないのにそういう事を急に言わないで・・・ いえ、控えてください!」

むくれる彼女の機嫌を見計らい、ヴィルトレは口を開く
「ねぇシーナ、次はどこに行こうか?また制服を着て、今度は遊園地に行こうか?」
「またですか?それならまたおねだりしてくださいね?先輩?」

おわり
21 : 底辺SS作家   2026/08/18 21:22:40 ID:C/GVNVOHQ6
以上、トレ×ヴィルのイチャイチャSSでした。
卒業後の二人ならいくらでも甘々してて良いです。
22 : トレピッピ   2026/08/18 21:23:05 ID:lTQ6.OA8oU
続きを…
23 : ダンナ   2026/08/18 22:02:54 ID:nS4H8Bsvn2
🔷頑張ったのね!未来の私!
24 : 貴方   2026/08/18 22:13:35 ID:PE4u2oEZNE
>>23
いま頑張んなきゃこの世界線には行けないんだよ…
25 : アンタ   2026/08/18 23:31:07 ID:cXO23uXkFk
疲労が吹っ飛ぶ甘さたっぷりのSS最高でした

この2人には際限なくイチャイチャしていてほしいね

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