イナリワンの誕生日に夜酒を呑む話
1 : トレ公   2026/05/06 22:21:06 ID:lUQfBCCDDA
「「乾杯!」」
 イナリワンとイナリトレは、お猪口を軽くぶつけて乾杯した。
 そして、ぐいと中身を一気に飲み干す。
 雑味のないすっきりした味わいが、喉の奥に消えていく。酒なのに水のように飲めてしまう。
「かーっ!こいつはうめえや!こんなに旨い酒を貰っちまうなんて、なんだか悪いなあ」

2 : トレーナーさん   2026/05/06 22:25:32 ID:lUQfBCCDDA
 今日はイナリワンの誕生日だ。
 商店街の定食屋で、豪勢な誕生日パーティーが開かれ、イナリワンは商店街のみんなや、大井レース場の仲間たちから祝われた。
 そして、誕生日プレゼントとして、今、二人が飲んでいる日本酒が贈られたのだった。
 なぜ二人で酒を呑んでいるのかというと、誕生日パーティーが終わった後、二人で夜酒を楽しみたいということで、イナリワンがイナリトレを誘ったためである。
 畳敷きの寝室で、二人並んであぐらをかき、卓にいなり寿司と酒を並べ、窓に写る夜空には上弦の月。
 酒に酔うにはぴったりの、しんみりとした夜。
 酔いに任せて眠れるように、布団も敷いてある。
3 : キミ   2026/05/06 22:29:36 ID:lUQfBCCDDA
「みんなイナリの事が好きなんだよ。ほら、もう一杯」
 イナリトレは、イナリワンが持っているお猪口にとくとくと酒を注ぐ。
「おっとっと……へへっ、ありがとなダンナ」
 イナリワンは、味の濃いいなり寿司を口に放り、ぐいと酒を呑んだ。
 その豪快な姿を、イナリトレは複雑そうに眺める。
「その、制服姿でそういうことをされると、ちょっとなあ……」
「なんでい、天下のトレセン学園の制服姿が気に入らねえってのかい?」
4 : モルモット君   2026/05/06 22:31:12 ID:lUQfBCCDDA
 イナリワンが着ているのは、名門トレセン学園の制服だ。
 長い伝統と誇りを表す制服である。
 それを着た姿で酒を呑むのを見るのは、法を破っているような気分になる。
「ダンナが着てくれって言うから、引っ張り出したんじゃねえか」
「酒を呑むとは思わなかった」
「酒抜きで、こんな酔狂に付き合ってられるかってんだ。ほら、ダンナも呑みな」
 イナリワンは、イナリトレのお猪口に酒を注ぐ。
 イナリトレは、ぐいと喉で酒を味わう。
 瓶の中身は半分ほどになり、二人とも顔が赤い。
5 : 使い魔   2026/05/06 22:33:11 ID:lUQfBCCDDA
 イナリワンはお猪口に描かれた狐の絵を眺めて、にんまりと笑う。
「へへっ、それにしても、こいつは中々の品だな。絵もいいし、焼きもいい。最高のプレゼントだぜ」
「良かった。喜んでくれたなら何よりだよ」
「商店街にはこれほどの職人はいねえはずだし……どこの職人の腕前だい?」
「この間の出張先で、イナリのファンの職人さんと会ってね。誕生日に合わせて作ってもらったんだ」
「へえ、そいつは嬉しいねえ。あたしのファンだってんなら、今度顔を出してやるか!」 
「そりゃいい。喜ぶと思うよ」
6 : トレーナーさま   2026/05/06 22:37:52 ID:lUQfBCCDDA
 イナリワンは、窓の外を眺めながら、お猪口を傾ける。
 夜が、静謐な空気を漂わせながら横たわっている。時が止まっているかのように。
 気づけば、いなり寿司の皿が空になっていた。
「ダンナ」
「ああ、作ろうか?」 
「いや、いいんでい。それより、出張で思い出したんだが、あん時は長く放って置かれたなあと思ってよ」
 くくっ、とイナリワンは意地悪く笑う。彼女には、イナリトレと二人きりの時だけ、酔っぱらうと粘っこくなる癖があった。
「相棒を放りやがって……」
「一週間だろ」
「べらぼうめい、10日だったぜ」
「悪かったよ」
「あん時もそう言って、それだけじゃねえか」
7 : 貴様   2026/05/06 22:39:21 ID:lUQfBCCDDA
 もちろん、埋め合わせのために、週末二日かけてのデートをしたし、一緒に豪勢な寿司も食べた。
 それを忘れているのはわざとだと、イナリトレは分かっていた。
 それに、イナリワンのにやにやとした笑みを見れば、酔いに乗じたおふざけだと分かる。
「あーあ、トレーナーさんに放っておかれるわ、卒業した後も手は出されねえわ、どっかに飛んで行っちまおうかねえ」
 イナリワンは敷かれた布団に寝転がる。
 演技じみたにやにや笑いはそのままに、仰向けの恰好で、制服を見せびらかすように。
 
8 : お姉ちゃん   2026/05/06 22:43:33 ID:lUQfBCCDDA
「おい、イナリ……」
「トレーナーさんに、頑張って想いを伝えたってのに、応えてくれねえってのは寂しいねえ」
 イナリトレは、思い出す。
 学園の卒業式の後、大井の商店街で開かれた打ち上げが終わってから、帰りの夜道で、イナリワンに想いを告げられた時の事を。
 肌寒い風がかすかに吹く、もの寂しげな夜のことだった。
 イナリトレは回想ごと、お猪口の中身を一気に飲み干して、寝転がるイナリワンの腕を掴んで立たせようとする。
「ほら、寝るなら歯をみがい――」
 最後まで言い切る前に、強い力で腕を引っ張られ、布団に倒れ込む。
 顔を上げて、文句を漏らしかけた口を、唇で塞がれる。
 困惑しているうちに体勢が入れ替わり、イナリトレが下、イナリワンが上になっていた。 
9 : トレ公   2026/05/06 22:46:51 ID:lUQfBCCDDA
「おい」
「なんでい」
「酔いすぎだ」
「ダンナ、言っただろ。酔ってなきゃ、こんな酔狂はできねえって」
 イナリワンは制服のリボンをほどくと、イナリトレの両手を手首で縛る。
「トレーナーさんが想いを受けてくれねえってなら、こうするしかねえな」 
 酔ってるせいか、まともな結びではなく、少し手を動かすだけでほどけてしまいそうだ。
 しかし、そうしない。もはやこの夜は、酔狂の最中にあるのだ。
10 : 貴方   2026/05/06 22:49:04 ID:lUQfBCCDDA
 イナリトレは、少し考えてから、わざと大げさな調子で言う。
「やめろイナリ、俺とお前は、トレーナーとウマ娘で……」
「てやんでい、そういう決まり文句は聞き飽きたんでい。4年分の想い、いや、もう6年になるのかい?とにかく、しっかりと受け取ってもらうぜ」
「やめろ、やめろー!」
「てやんでい、観念しやがれ!これぞ大捕り物ってな!そらそらそら!」
 まったく力の入っていない取っ組み合い、服が傷まないよう気をつけながらの、のたのたとした動き、笑いをこらえて酔狂な芝居を続ける二人。
 脱力するような空気と、深酔いの熱を帯びながら、誕生日の夜は過ぎていくのだった。
11 : トレーナー君   2026/05/06 22:56:25 ID:lUQfBCCDDA
 さっさと目を開けろと、窓から朝日が差しこんでいる。
 それがまぶたに直撃して、ずきずきと痛む頭を抱えながら、イナリトレは身体を起こした。
 完璧な二日酔いだ。
 隣にいるはずのイナリワンは居ない。卓に置かれていた、いなり寿司の皿も、お猪口も、日本酒の瓶も、全て片付いている。
 それに気づいた瞬間、昨夜のことを思い出し、さらに頭が痛んだ。
 久方ぶりに、イナリに制服を着て欲しいとお願いしただけなのに、なぜああなったのか。
 場の勢いもあったが、あまりにも浮かれていたせいだろう。現に、昨晩のことについては、楽しかったという感想しか出てこない。
12 : あなた   2026/05/06 23:01:01 ID:lUQfBCCDDA
 とにかく水を飲もうと、寝室を出ると、イナリワンが台所に立って、朝食のみそ汁を温めていた。
 制服姿ではなく、タンクトップにドルフィンパンツのラフな恰好だ。
「おはよう」
「おはようさん。もうすぐできるぜ」
 はきはきした声を聞いて、二日酔いとは無縁そうなイナリワンを、イナリトレは羨ましく思った。
「制服は?」
「洗濯してから、クリーニング行きでい。まったく、無茶苦茶しやがって」
「あれはイナリが……」
「あ゛あ゛ん?」
「何でもない。手伝うよ」
「いいから座ってな。頭痛えんだろ?普段飲まない癖に無理するからだぜ」
「ありがとう」
 イナリワンの言う通りに、食卓の前にあぐらをかく。
13 : キミ   2026/05/06 23:06:46 ID:lUQfBCCDDA
 ふと、昨晩の一幕を思い出し、彼女に声をかける。
「なあ、イナリ」
「なんでい?」
「その、あれが演技ってのは分かってるんだが、俺はきちんとイナリの想いに応えられているか……」
 イナリワンはずんずんと食卓の前にやってきて、イナリトレの前に水が入ったコップを置いた。
「野暮なこと言うんじゃねえや」
 歯を見せて笑いながら、イナリワンは左手の薬指の指輪を見せつけるのだった。
14 : アネゴ   2026/05/06 23:07:24 ID:lUQfBCCDDA
【終わり】

15 : トレーナー君   2026/05/06 23:08:30 ID:/VNXGs2wr6
この野生のスレ主は、何故こんなに文才があるのだろう?
16 : お姉さま   2026/05/06 23:09:25 ID:lUQfBCCDDA
なんかこう、普段ははきはきしてるけど、ダンナと二人きりになった時だけだる絡みしたり、ふざけたりするイナリワンを見たくて書きました。まだちょっと早いけど、誕生日おめでとう。
17 : お兄ちゃん   2026/05/06 23:29:36 ID:Ru.PEctAOQ
じゃれつきの中でねっとりした感情が入り交じってるのすごく好き!!!
イナリは絶対こういうことする、ダンナの前でだけねちっこくて女狐みたいな妖艶さと大胆さを発揮してくるんや!!
18 : 相棒   2026/05/07 01:22:40 ID:Rpm3esEqz6
この人のイナリSSはいずれ癌に効くようになる。

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