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【SS】マートレとマーチャンのデート
1 :
お姉さま
2026/02/14 06:08:04
ID:S2oF4S2lR6
寒さがピークを迎える、2月のある日。
俺は今日、担当のウマ娘であるアストンマーチャンとともに、繁華街まで遊びに来ていた。
「マーチャン、寒くないか?」
そう尋ねると彼女は、
「大丈夫。マーちゃん、ウマ娘なので」と、健気に返事をする。ウマ娘は体温が高いとは聞いているが、いつかのバレンタイン衣装をモデルにした白いふわふわのコーデを「映え」に回す余裕があるほど、マーチャンは寒くないらしい。
かくいう俺のほうは寒がりなので、薄いダウンジャケットと大きなコートの2枚重ねで完璧な寒さ対策だ。
「……いつもの格好でも、よかったのでは?」
「いやいや」
マーチャンの発言に、俺は苦笑して返す。いつもの格好といえば着ぐるみのことだろう。
変な噂やネットミームがあるが、俺は四六時中着ぐるみで過ごしているわけではない。断じて。
……”今日くらい”は、普通の服装で過ごしたいのだ。
2 :
アナタ
2026/02/14 06:09:05
ID:S2oF4S2lR6
こうして俺たちはまず、品ぞろえナンバーワンと呼ばれるほどの某家電屋に足を運んだ。
大から小まで最新家電がたくさんあるが、見ているだけでも楽しくなるが……目的はそうではない。
「ふむふむ。カメラといっても、様々なものがありますね」
「そうだな……君を写すためのカメラだ。じっくり選ばないと」
「大事ですね……!!」
俺たちがやってきたのは、個人用カメラのコーナーだった。
小型デジカメから本格一眼レフまで、よりどりみどりのラインナップである。
いつもはスマホで撮影していたのだが、「本格感」が欲しいと思い、今日ここに来たのだ。
だが……カメラって、どう選べばいいんだ?
マーチャンを写せる、最高の1機……わからん!
「カメラのことで、お悩みのようですね」
「あなたは……クロノジェネシスさん!」
悩んでいると、どこからともなく葦毛の少女が姿を現した。彼女の名前はクロノジェネシス。
レースの歴史の探求家であり、学園内で連載しているコラムはとても面白い。
「ああ、そうなんだよ。クロノジェネシスはカメラに詳しいのか?」
「はい。ある程度ならお助けできるかと」
……どうやらこの少女は、レース観戦を中心として一眼レフを持ち歩いて撮影するスタイルを主としているらしい。
そして1時間ほど店内を歩き回り、基礎から叩き込まれた。
一眼でしか得られないマニュアル操作による恩恵や、レンズ交換による撮影の変化などだ。
3 :
モルモット君
2026/02/14 06:09:13
ID:S2oF4S2lR6
「とても奥深い内容だった。ありがとう、クロノジェネシス」
「いえいえ。お返しは、マーチャンさんを撮影した素晴らしい1枚で……なんて。ふふっ」
最後は、クロノジェネシスのおすすめで、コンパクトデジタルカメラを1台購入した。
いわく、「あなたはまだこちら側に来るべきではない」というが、どういう事だったんだろうか。
「では、トレーナーさん。さっそく1枚、どうでしょう?」
「そうだな。撮ってみようか」
マーチャンから促され、店の前で彼女を撮影してみた。近頃のスマホの高性能化で、もはやデジカメでは画質の差が見えないが……求めていた「本格感」は得られたと思う。
4 :
トレーナー
2026/02/14 06:10:01
ID:S2oF4S2lR6
……次にやってきたのは、大きなゲームセンターだった。どうもサトノグループ経営のブランドのようだ。
「いざ来てみると、遊べるものが多すぎて……何がしたかったか忘れることってないか?」
「あるあるですね」
そんな会話をしながら、俺とマーチャンは店内へ。
「トレーナーさん、トレーナーさん。ぱかプチ、やっていきませんか?」
マーチャンが指さしたのは、ウマ娘のぬいぐるみがゲットできるキャッチャーだった。
だが、筐体の前に来るなり、彼女は少しむすっとしていた。
「どうした?」
「わかっています。わかっていますが……まだ、この中に、マーちゃん人形はありません」
マーちゃん人形とは、アストンマーチャン本人による手製の本人ぬいぐるみの事である。
個人的にフリマ等で売り出して、まあそれなりに収益を出せてはいるが、正式なグッズ化への道はまだ遠い。
「……トレーナー室に、1体置いてるだろ?今からこの筐体の人形をいっぱい獲って、帰ってたくさん飾ってやろう」
「そうですね。トレーナー室に誰もいなくても、マーちゃん人形がさみしくないように……わたし、頑張るのです」
「マーチャンがやるのか!!」
1000円ほど小銭を作ってきた俺は、それを気合十分のマーチャンに渡した。
「さあ、ぱかプチのみなさん……新しいおうちに行きましょう……!!」
5 :
モルモット君
2026/02/14 06:10:10
ID:S2oF4S2lR6
結果、なんと6体も手に入れることができ、店員さんからもらった袋に詰めて持ち運ぶこととなった。
マーチャンが楽しそうに遊ぶ様子や、一喜一憂する様子を、俺は何枚もデジカメに収めていく。
「……トレーナーさんも、何か遊びませんか?」
「そうだな。何がいいだろうか」
写真を撮ってばかりなのを気にしたのか、マーチャンが声をかけてきた。
ぬいぐるみは十分あるし……。
結果俺は、ドライブゲームやシューティングゲームで、童心に帰るようにはしゃいで楽しんだ。
なんかシャッター音が聞こえていた気がするが……。
6 :
貴方
2026/02/14 06:11:24
ID:S2oF4S2lR6
「ふー。遊んだな」
「遊びましたね」
その後俺たちは、なんと店内に常設されているフードコートで軽食を取りながら休憩していた。
するとそこに……。
「あらっ?マーチャンさん!」
「マートレさんも一緒ね?」
「あなたがたは……」
声をかけてきた二人の少女は、サトノダイヤモンドとサトノクラウンだった。
「丁度、私たちも来ていたのよ。そういえばさっき、ぬいぐるみをたくさん獲った客の話を……って、マーチャンだったのね」
「どやや」
サトノクラウンが、袋いっぱいのぱかプチに驚き、マーチャンがどや顔をしている。
「マートレさん!ダイヤにはわかります。まだ遊び足りないってお顔をしています!」
「そ、そうだな……」
なぜか気持ちを見透かされてしまった。確かに、サトダイヤモンドの言うとおり、もっと遊びたい。
「それでは、こちらへ来てください!」
……サトノダイヤモンドたちに促されるままにやってきたのは、まさかのスタッフルームであった。いいのか?と聞くと、サトノの特権でOKということらしい。
「こ、これは」
目の前に置かれた、カプセルベッドのような筐体……まさしく、VRウマレーターだった。学園で様々な行事に活用されているが、ゲームセンターにも存在しているのかと、俺は驚きを隠せない。
「これはちょっとしたベータ版よ。しばらくのテストを終えたら、一般向けに開放するのだけれど……せっかくだし、遊んでいかない?」
7 :
お兄ちゃん
2026/02/14 06:12:14
ID:S2oF4S2lR6
サトノクラウンの話によると、今回搭載されているプログラムは「過去のレースを追体験できるもの」らしい。
3女神のAIを作り出せるほどの膨大なデータを駆使して、あらゆる年代のレースを可能な限り再現し、ウマ娘だけでなくヒトにも楽しめるものを目指しているのだとか。
「ほうほう……いろんな年代で、マーちゃんをアピールできるというわけですね」
「いや、相手もAIだけどな」
「それはそれですよ、トレーナーさん」
軽いツッコミ会話をした後、俺たちは2台のウマレーターの中にそれぞれ乗り込んだ。
「それじゃ、中に入ったのを確認できたら、音声通信を開始するから」
「お二人とも!楽しんできてくださいね」
サトノの二人の声は、それを最後に途切れた。
視界が暗くなる。現実を手放し、一瞬にして電脳の世界に落ちていく感覚だ。
どうやら今回の俺は応援する役らしいが、電脳世界には着ぐるみがあったかな……。
8 :
トレーナー君
2026/02/14 06:12:39
ID:S2oF4S2lR6
……目が覚めた。
視界に映るのは、慌てふためくサトノのウマ娘二人。
「は……?」
思わず、声が漏れる。ここはゲームの中ではない。現実だ。
二人の様子もおかしいし、何かあったのだろうか。
「マートレさん!大変ですっ!!」
「アストンマーチャンが……ゲームの中に閉じ込められたわ!」
「え……えっ?」
隣のマシンを見る。静かに目を閉じているアストンマーチャンの姿が、瞳に写った。
9 :
アナタ
2026/02/14 06:13:19
ID:S2oF4S2lR6
目を開ける。
自分の体が、ある。
周りは、暗い。
どうしてしまったんだろうか。
隣には、誰もいない。
頼れる、安心できる、最高のトレーナーがいない。
「……海、でしょうか。ここは」
思い浮かんだのは、ここはすでに「海」であるということだ。
ゲームに入るときの、事故……なくはないだろうと思った。
こうなるのは、いつでも覚悟している。
生けるものはみな、いずれそうなるのだから。
『マーチャン!!!聞こえるか!!!!!!!」
「あ……」
だが、頭の中に響いた。一番聞きたかったその声が。
そして思った。まだわたしは生きている、と。
……直後、真っ暗だった世界に、色がついていく。
さわやかな芝の香りに、冷たい風の感触。
人々の歓声も、大きくなっていく。
「トレーナーさん!!マーちゃん、どうしてしまったのでしょうか!!」
『どうやら、ごくまれに起きる不具合に遭遇したらしい!!君だけがゲームに入り、出られないようだ!!!』
普段出さないような大きな声で、トレーナーさんと情報確認をする……その直後だった。
視界に映る景色が、レース場になった。
そして一人のウマ娘が現れたと同時に、トレーナーさんの声が重なる。
『今現れたそのウマ娘に、レースで勝利しない限りっ!!!!!』
10 :
お兄さま
2026/02/14 06:14:13
ID:S2oF4S2lR6
……中の様子というのは、グラフィックで確認できない。普段はできるはずだが、今はテキストデータでのみ状況が送られてきている。
マーチャンの生体反応に、今いる地点に、そして新たなウマ娘の反応が1つあるということが、今わかっていることだった。
「は……!?何よこれ!?」
パソコンでデータ解析をしていたサトノクラウンが、驚いて叫ぶ。
「どうしたのクラちゃん!!」
「こんなウマ娘……いるはずがない……」
対戦相手のデータを見たのだろうか。
気になって、俺もパソコンを覗く。
「……なんだ、これ」
そのテキストデータは、戦績を表していた。
GI6勝含め、芝もダートも合わせてレースを17連勝……香港の短距離ウマ娘であることが分かった。
いや、この戦績はどうなっている?サトノクラウンの言うとおりだ……”短距離”で、ここまでの戦績を出しているウマ娘は……いない。
【高みへ上昇していく者】とだけ書かれているそのウマ娘に、俺は寒気すら感じていた。
今まで、幾多のレースを勝ってきたアストンマーチャンを、信じなければならない。それなのに、怖い。とても怖い。
勝てなければ、彼女はこのまま……。
「大丈夫です!マートレさん!」
「だ、ダイヤ……」
「この不具合、今のところ生還率は100パーセントなんです。つまり、乗り越えられないジンクスではありません!」
サトノダイヤモンドの言葉で、少しだけ安心する。
これに遭遇した誰もが、勝って帰ってきたというなら、マーチャンも勝利できる……帰ってこれると、そう思えた。
11 :
トレピッピ
2026/02/14 06:14:45
ID:S2oF4S2lR6
「……香港、ですか。マーちゃん、フランスに行ったことはありますが」
レース場の景色が、完成した。ここは海外、香港らしい。
そして、トレーナーさんたちの声でわかった……目の前にいるウマ娘は、おそらくスプリンター最強であると。
現実にも、サクラバクシンオーさんやニシノフラワーさん、ヤマニンゼファーさんなど凄く強いスプリンターウマ娘はいるが……
【高みへ上昇していく者】さんの戦績は、現実離れしている。
そして何より怖いのは、影に覆われて姿がちゃんと見えないのだ。
「ですが……やりましょう。香港でも、マーちゃんをみんなに、刻み付けてやります」
誰かの記憶に、残る走り……それがわたしの、走る理由。
相手がAIでも、ここがどこでも、なんでもいい。
いつもどおり、逃げ切ってやればいいんだから。
……そうして始まろうとしているのは、マッチレース。
突然出現したゲートの中に他のウマ娘は一人もおらず、そこへ収まろうとしているのは【高みへ上昇していく者】さんと、わたしだけ。
観客たちは、伝説的な王者とわたしの対戦カードを見に来た……というところだろう。
12 :
アナタ
2026/02/14 06:15:07
ID:S2oF4S2lR6
ふと、眼の前に文字が浮かび上がってくる。
[シャティン 芝 1200m 晴 重]
「天気がいいのに、重ですか……」
軽く足元を踏んでみた。やわらかい。
ロンシャンほどではないけれど、重いのは伝わってきた。
問題はバ場ではなく、香港のレース場そのものだ。走ったことがない。
ついでと言わんばかりにコース図も浮かび上がってきているので、短い時間でそれを頭に叩き込む。
「……よし」
VRだから、だろうか。割とすぐに記憶した。
そして気がつけば、わたしはいつもの赤い勝負服を身にまとっていた。
「あ、これ……GIなんですね」
それがわかると、わたしは心のなかで喜んだ。
とても強いウマ娘に勝って、わたしを見せつける……GIは、ふさわしい舞台じゃないかと。
『頑張れ!マーチャン!!』
ゲートに入ると同時に、トレーナーさんの応援が聞こえた。
そして直後、「ぷつん」となにかを遮断されるような感覚。外と会話できなくなったようだ。
でも、関係ない。
「……マーちゃんの走り、見逃さないでくださいね」
わたしはいつもどおり、余裕を見せて、静かに返事をする。トレーナーさんも、わたしがそうしていると思っているだろうから。
さあ、始めよう。最高のレースを。
13 :
トレーナーちゃん
2026/02/14 06:15:46
ID:S2oF4S2lR6
「香港スプリントは右回り。スタートは直線から入って、強烈なコーナーをぐるりと回って最終直線に行く、シンプルなコース……」
「クラちゃん、どうしたの急に」
「種目は違うけど、私も一応香港勝ちなのよダイヤ。コースを思い出していたの」
ゲーム内との通信が途切れたあと、ゲートが開くまでの間、俺達は会話をしているしかなかった。
サトノクラウンは香港ヴァーズを勝っているウマ娘だ。今の状況では心強い。
「サトノクラウン。マーチャンは……どうだ?」
「根性論を抜いて考えるなら……厳しいと思う」
険しい顔をしながら、サトノクラウンがPCの画面を見せてきた。
「このウマ娘に設定された戦績……尋常じゃないわ。ほとんどのレースを逃げて、さらにかなりの着差をつけて勝っている。逃げよ?短距離よ?」
ウマ娘においての逃げ方は、色々ある。
最初から飛ばして粘る、絶妙なスピード感覚で前にいながら脚を温存するといったやり方が定石だが……。
「これじゃまるで、サイレンススズカさん……」
サトノダイヤモンドが、少し声を震わせて呟いた。
サイレンススズカといえば、マイルから中距離で圧倒的な大逃げを披露するウマ娘だ。
逃げて差す……つまり大逃げから更に余裕で脚を伸ばしていくのが彼女の持ち味であるが、
……それをハイペースになりやすい短距離で?
14 :
お兄さま
2026/02/14 06:16:32
ID:S2oF4S2lR6
大歓声の中、レースが始まった。
わたしは持ち前のスタートダッシュで、真っ先にゲートから出る。
よし、前には誰もいない。最速で出た。
……そう思っていた。
「えっ……!?」
”影”は、前にはいなかった。でも、前じゃない。
隣だった。併せるように、逃げるわたしの隣を走っていたのだ。
(そう簡単には、逃がしてくれそうもないですね)
わたしはここでペースを上げず、並ぶことを選ぶ。
いつもどおり、ピッチ走法で、バ場を崩すように駆けていく。
(短い直線を抜けたら、あとはしばらくコーナー!)
内をキープしながら、コーナーへ入った。ここで膨れれば絶対にロスをしてしまう。
”影”もまた、わたしの隣に並び続け、ロスなく入ってきたようだ。
(次のコーナーを抜けたら、そこが勝負……!!)
早仕掛けは考えない。いつもどおり、得意なやり方で。
まだ脚がある。ペースが速くても支える脚がある。
「ふぅっ……ここから……っ!?」
直線が見えた。瞬間的に強く呼吸をし、仕掛けようとしたその瞬間だった。
”影”はもう、眼の前にいた。
15 :
トレーナー君
2026/02/14 06:17:01
ID:S2oF4S2lR6
「敗北……」
パソコンの画面上に、その2文字が浮かび上がったのも、10回目のことだった。
アストンマーチャンは、10回走って10回とも勝てていないのだ。
どれだけ効率のいい走りをしても、最後は逃げて差されてしまう。
「クラちゃん!緊急停止は……」
「無理よ、ダイヤ。このバグ厄介なの。回線を引き抜いても、VRウマレーターは動き続けてしまう」
「そんな……」
まるでこのマシンそのものが、何らかの意思を持っているかのような挙動。
なぜこんな現象が起きるのか。何が起こしているのか。
アストンマーチャンが立ち向かっているのは、人智を超えたものかもしれない。
「サトノクラウン!!俺も入る!!」
黙ってみているのも、限界が来た。
もう一度入って、彼女を応援したい。元気づけたい。
「でも、最初に弾かれたのよ!」
「くうっ!!」
それも思い出した。ウマ娘しか入場させてくれない、未知の空間……俺は入れなかったのだ。
「でも、でもっ……」
拳を握る。強く握る。
悔しい、だからこそ考えなければ。何か、なにか。
なにか!!!!!!
16 :
トレーナー君
2026/02/14 06:17:24
ID:S2oF4S2lR6
「はぁっ、はぁっ……」
また、負けた。
レースのたびに体力は回復しているが、それでも、勝てない。
完璧にレースを運んでも、駄目だった。
【高みへ上昇していく者】さんは短距離とは思えない脚で、わたしを突き放していく。
「はぁ、ふぅ……へとへと、ですね……」
思わず、そう呟く。
さっきから、息が荒いままだ。
こうも負け続けてしまうと……つらくなってくる。
でも、勝たなければ出られない。
現実でまた、トレーナーさんと会いたい。
そうだ、わたしの夢は、世界一のマスコット。
それを応援してくれる人が、いつも隣にいる世界に戻らなければ……!!
「マーチャン!!!!!!!!!!!!!!!」
(え……?)
声が聞こえた。頭に響いてくるものではなく、この風景の中から聞こえた。
大歓声の中から聞こえた。埋もれず、確かに聞こえた。
「あ……!!」
わたしは、見た。確かに見た。
手作り感あふれる、チャーミングでずんぐりと大きな”わたし”を。
その中にいる、トレーナーさんを。
17 :
トレピッピ
2026/02/14 06:18:07
ID:S2oF4S2lR6
柵をのっそのっそと乗り越えて、トレーナーさんがわたしに駆け寄ってきた。
嬉しいとかそういう感情も吹っ飛んで、わたしはぎゅっとトレーナーさんを抱きしめる。
「会いたかった、です……!でもっ、なんで入れて……」
「結構無理やり頑張ったんだぜ?」
……いわく、トレーナーさんは急いで学園に戻り、着ぐるみ一式を運び出してきたとか。
それを装着し、なんとかVRウマレーターに収まって……。
すると魔法みたいなことが起きて、今ここにいる。
「理由についての分析は、ここから出たらクラウンたちから聞こうじゃないか。……まだ、行けるか?」
「はいっ、はいっ……!!」
トレーナーさんが今ここにいて、喜びと一緒に大きな力が湧いてくるのがわかった。
精神的な疲れも、もうない。
走れる、まだ……また走れる。
「”わたしたち”を、見せつけてやりましょう!」
そしてもう一度、ゲートに入る。
【高みへ上昇する者】さんも、変わらぬ態度でゲートイン。
どう攻略する?そんなもの、走ってみなきゃわからない。
11回目で負けても、”わたしたち”は何度だって戦ってみせるんだ。
18 :
アナタ
2026/02/14 06:18:39
ID:S2oF4S2lR6
大歓声の中、ゲートが開いた。
わたしは、ワンテンポ落としてゲートを飛び出す。
”影”が目の前にいる。出遅れと思われるかもしれないが、それでもいい。
相手の強烈なスピードに、後ろから食らいつくことで……
(狙い通り……ですっ!!)
”風の壁”(スリップストリーム)が出てきた。
ハイペースになりながらも、わたしはわたしを温存して走れる。
あっちの走りは寸分の狂いもないからこそ、それを後ろから見れるというメリットだってある。
その流れのまま、コーナーへ突入。
前が最内を走っている状態なので、それについていくわたしも自然と、コーナーに吸い付くように走る。
コーナー出口が勝負どころなのは、10回走って10回ともそうだった。
でも10回とも、相手は完璧に抜け出して前に立っていた。
(でも、今は……)
10回目までとは、わたしは違う。
コーナー出口が近づくと同時に、ペースを上げていく。
後ろから一気に抜け出す。
”影"もすごいスピードを出してくるだろう。
だけど、その瞬間。
「頑張れ!!!アストンマーチャン!!!」
わたしにだけ届く”声”が、わたしをすごく強くするのだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
10回目までよりも溢れてくるパワーで、わたしは加速した。
”影”が追ってくる。並んでくる。だけどわたしはいつも通りに、でもより強く、重い芝を蹴り上げる、
(見逃さないでくださいね)
心のなかでそう思いながら、観客たちに見せつける。
この最終直線で、”わたしたち”を……!!
19 :
貴方
2026/02/14 06:19:23
ID:S2oF4S2lR6
(やっ、た……)
最後、俺は確かに見た。
アストンマーチャンが先に、ゴール板を通過するのを見た。
最強の存在に、勝利したのを見た。
俺は無我夢中で、着ぐるみのまま、のっそのっそと駆け寄る。
今度はちゃんと、勝者としてのマーチャンに。
「トレーナーさん……やりました!勝てました!!」
「ああっ!しっかり、しっかり見てたさ!!」
喜ぶ俺達に向けられる、勝者を称える大歓声。
ここがバーチャルな場所だというのを忘れるレベルの、大歓声だった。
「あれ……?なんでこれが……」
「おやおや」
ふと、きぐるみのポケットに硬い感触。
それはなんと、先程購入して持っていたデジカメだった。
「ここでも、使えるのでしょうか?」
「まあ、やってみようか」
不思議そうに見つめるマーチャンのそばで、デジカメを起動し、構える。
「マーちゃん、香港でも勝ちました!いえい」
ゴール板を背に、満面の笑みの彼女に向けて、俺はシャッターを切った。
その直後、意識が光に包まれていくのだった……。
20 :
お姉さま
2026/02/14 06:20:06
ID:S2oF4S2lR6
……意識が、重い。
暗い……いやこれは、着ぐるみだから、か。
「マートレ!!起きれるかしら!?」
「む……サトノクラウンの声……」
ゆっくりと体を起こす。
頭部のマーチャンフェイスを外す。
パソコンがあって、VRウマレーターがある。
サトノクラウンとサトノダイヤモンドもいる。
どうやら、戻ってこれたらしい。
「……マーチャンは!?」
ハッとする。マーチャンはどこだ。彼女がいなければ意味がないのだ。
「マーチャンはここにいますよ、トレーナーさん」
慌てていると、隣からの優しい声が聞こえた。
振り向くと、彼女はそこにいた。
いつもと変わらぬ、ふわふわとした笑顔で……。
21 :
使い魔
2026/02/14 06:21:17
ID:S2oF4S2lR6
トレーナー室に戻れたのは、夕方になってのことだった。
サトノクラウンによれば、俺がダイブできた理由は、着ぐるみを装着することでヒト認識を阻害できたから……ということらしい。
机の上にはたくさんのパカぷちを並べ、それなりに賑やかになった。
「いっぱい、写真を撮りましたねぇ」
「そうだな」
マーチャンはソファに腰掛けながら、俺のデジカメを操作して、今日の写真を楽しそうに眺めている。
長い一日だった気がする……3日分は過ごしたかのような……は、言い過ぎか。
「おや?この写真は……」
マーチャンが操作の手を止め、カメラを俺に持ってきた。
「なんだなんだ……ああ!こりゃ……」
「不思議なことも、あるものですね」
行けるのかと半信半疑だったが、それはちゃんと記録されていたようだ。
あの場所で激戦を繰り広げた彼女の、満面の笑みの1枚。
俺がちゃんと心に刻みつけた、"香港"でのアストンマーチャンの1枚が、カメラにもしっかりと残っていた。
22 :
貴様
2026/02/14 06:22:27
ID:S2oF4S2lR6
「じぃーっ……」
「な、なんだ?」
マーチャンは俺の顔をぐっとよせて、じっと見つめてきた。
とても真剣な表情で、見つめられている。
「今日は色々ありましたが……ちゃんと、トレーナーさんのレンズには、マーちゃんが写っていますね」
その言葉と同時に、彼女の手には、「ハッピーバースデー」と英語で綴られ、おしゃれな装飾の施された封筒が備えられているのだった……。
おわり。
23 :
アンタ
2026/02/14 06:23:20
ID:S2oF4S2lR6
はい、作者が2月誕生日ということで、思い立って書きました。
なぜかレース要素を入れることになりましたが、終わりです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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