【SS】凱旋門賞談義をするクロノとジャーニー
1 : お前   2025/09/20 05:33:17 ID:WuXJi26drs
海を超えたフランスで行われる、世界最高峰のGI・凱旋門賞。

門の扉へ最初に手をかけたのは、スピードシンボリ。
その後も、幾多のウマ娘が凱旋門賞へと挑んだが……

誰一人として、勝てた者はいない。
そのレースを目指すことは、呪いだとさえ言われている……。


時は流れ、2025年の初秋。
前週のスプリンターズステークスから開幕した秋のGIシリーズの影響で、
日本中のレース熱に火が付いている。

今年もまた、凱旋門賞の日が近づいていた。



ここトレセン学園でも、話題の中心にあるのは凱旋門賞であった。

『前哨戦を勝利した今年のダービーウマ娘、本番に向けて絶好調!』

お昼時、生徒たちが騒がしく動き回る学園の廊下に貼り出されている、ネットニュースの切り取り画像……そこに映るのは、
日本ダービーを勝ってフランス遠征に出発した一人のウマ娘の写真。
ロンシャン開催のGIIIの前哨戦を勝ち、日本からの出走者の中で特に期待を持たれている少女だ。
2 : お兄さま   2025/09/20 05:33:44 ID:WuXJi26drs
「___その記事、気になりますか?クロノジェネシスさん」
「……あ。ドリームジャーニーさん……ええ、そうですね」

貼り出された画像を見つめる芦毛のウマ娘・クロノジェネシスに、
とても小柄だが見た目以上のクールさを纏ったウマ娘・ドリームジャーニーが話しかけた。

二人はカフェテリアに席を移すと、紅茶を共にして雑談を始める。

「クロノさん……いつもレースコラムを拝見させて頂いています。あなたの知識、執筆力……どれを取っても素晴らしいです」
「そ、そんな!あなたほどの人に褒められるとは……!」
「で、なのですが……今年の凱旋門賞、日本からの出走は3名です。それぞれにあなたの意見を伺いたい」

クロノが定期的に執筆・投稿しているレースコラムは様々な層から好評だ。クロノ自身が楽しみかき集めた長年のレース歴史が、
独特の熱量で語られているものだ。
ドリームジャーニーもそれを高く評価したうえで、10インチほどのタブレット端末をクロノに手渡す。
その中には、今年の凱旋門賞に挑む3名のウマ娘のデータが記載されていた。

クロノは最初少し驚くも、ジャーニーが<遠征支援委員会>を運営しているのを思い出して納得する。
3名とも、彼女の支援含めて万全の状態でフランスへ遠征していったのだから。
3 : トレピッピ   2025/09/20 05:33:52 ID:WuXJi26drs
「……ふむふむ」
タブレットを見つめるクロノジェネシス。時折フリックやスワイプをしながら、それぞれのウマ娘のデータを真剣に読み取っている。
そして数分後、説明を始めた。

「まず、”最初にフランス重賞で勝利したウマ娘さん”から……。
彼女はエアグルーヴさんの元で修練を積んでいたようですね。そして弥生賞・皐月賞と進むも、3着と8着で終わっています。
しかし、その後の日本ダービーなどには出走せず、一足先にフランスへと発っていますね。そして勝利……この娘を語るには、
メイクデビューからのバ場条件を含めてお話しなければなりません」

「……ほう? お聞かせください」
4 : あなた   2025/09/20 05:34:23 ID:WuXJi26drs
すでに長話になっているが、ドリームジャーニーは気にしなかった。
クロノジェネシスが得たであろう知見に、自分自身も興味があり、得たいのだ。

「まず、この娘がデビューをしたのはジュニア期の11月。東京開催のメイクデビューでしたが、
このレースは小雨により稍重の芝になっていました。その条件で2着に2と1/2バ身で勝利しています。
その後はクラシック期に1度出走するも2着。この週の中山も小雨で、良寄りの稍重な芝だったはずです。
そして弥生賞。ここは勝ったウマ娘さんが予想外の大まくりをしたことで展開が荒れています。
更にここもまた、稍重な芝。
しかし皐月賞は曇りながらも良芝となり、つまり……」

「このウマ娘が力を発揮できるのは、重バ場。ですね?」
「はい。その後のフランスで走ったときは重バ場であり、戦法も逃げに変更しての圧勝……ロンシャンでも有利に走れると思います。
単騎の逃げに持ち込んでも、終盤までに垂れることすらないかもしれません」
5 : お前   2025/09/20 05:34:37 ID:WuXJi26drs
ドリームジャーニーはとても感心した。一人のウマ娘に対して、これ程の分析ができるとは……と。
しかしまだ終わりではない。残り2名もこの調子で話してくれるのだろうと、少しばかりワクワクしている。

「なるほど、素晴らしい知見です。では次______」

「次は、昨年の菊花賞で5着だったウマ娘さんですね。この娘が重バ場で結果を出すのはフランスでのフォワ賞からになりますが……
特に注目したいのは、やや小柄な体格からは考えられない無尽蔵のスタミナの持ち主であることです。菊花賞では5着でも上がりタイムは最速を記録していて、
その後サウジアラビアで3000m戦を勝ち、天皇賞・春も2着。おそらく、距離が伸びるほど良化するタイプです。そして同様に換算することでクラシックディスタンスにおいての重バ場適性にもなっている……と言ったところでしょうか。走り方は差し・追込が得意そうで、終盤の瞬発力勝負になるロンシャンでは強みになるでしょう……最初のウマ娘さんとも、いい勝負になりそうです」

(聞いていた以上の熱弁……いやこれくらいないと、あのコラムは書けないか……)

クロノジェネシスの分析を聞きながら、ドリームジャーニーは無言で頷き続ける。
割といつまでも聞いていたくなった。紅茶も3杯目に突入していた。
6 : あなた   2025/09/20 05:35:11 ID:WuXJi26drs
「そして最後に、今年のダービーウマ娘さん。
彼女はジュニア期のデビューから連戦連勝で、ホープフルステークスを勝っています。
その後は直接皐月賞に進むも、ギリギリの2着。……しかしっ、日本ダービーではしっかりと押し切っての1着!
あのときわたし現地にいまして、とてもとても感動して写真もいっぱい……!!」

(ん????)

フランス遠征最後の一人の話になると、クロノジェネシスは人が変わったように時折涙を見せながらの熱弁を始めた。
ドリームジャーニーも驚きを隠せず、呆気にとられたような表情だ。

「ああっ、失礼しました!話を戻しましょう。
このウマ娘が得意としているのは先行押し切りのレースですね。しなやかで強さを感じさせる肉体から繰り出されるあの走りは、
見ていて「負けないな」と思わせてくれます。そしてこの娘のバ場適性についてですが……
正直に言うと、個人的には不安のほうが大きかったんです」

「不安、ですか?」

「はい。日本国内で走ったレースはすべてが良バ場でした。重いロンシャンの地に適応できるか……これは過去の歴史から考えて思うことなのですが、
重バ場の経験無しにロンシャンで好走できたウマ娘は、ほんの僅かです。
大半のウマ娘は重バ場巧者と呼ばれるほど、評判の良い方々ばかりで……まあ、それでも勝ててはいないんですけどね」
7 : トレぴっぴ   2025/09/20 05:35:17 ID:WuXJi26drs
(オルも……重バ場巧者の側だったか)
ジャーニーは、愛妹である暴君オルフェーヴルを思い出す。
オルフェーヴルといえばクラシック3冠や多数のGIを勝った名ウマ娘の一人であり、
凱旋門賞で2度も2着に輝いている。
日本国内でもダービーを勝ち、前哨戦であるフォワ賞も2度勝ち、重バ場への適性は確かなものであった。

「だからこそ、ダービーウマ娘さんが勝てるかどうか……そもそもちゃんと走れるかどうか……心配でたまりませんでした。
でも……それは杞憂に終わりました。2000mという距離ではありましたが、この日のロンシャンは結構な重バ場だったのです。
だけど彼女はしっかり走りきって、勝ってしまったのですから」
8 : 使い魔   2025/09/20 05:37:19 ID:WuXJi26drs
「ジャーニーさん、私は……ダービーウマ娘さんを一番応援したいんです」
「ほう。……それはなぜ?」

クロノは少しもじもじとしながら、内心に秘めた思いを話しだした。

「あの娘に、”運命的な何か”を感じるんです。
それは一見、無関係で何も繋がりのない細い線……だけど、遠い場所に置いてきたものを、
あの娘は拾ってくれる気がすると言うか……」

「それは……あなたも凱旋門賞を走ったから……でしょうか?」

ジャーニーの指摘に、クロノはハッとする。

「……ああ、そうかもしれません。あの日、私とトレーナーさんが勝ち取れなかったものを、
あのウマ娘さんなら持って帰ってきてくれる……なぜか不思議と、そう思います」

クロノジェネシスも、凱旋門賞に挑んだウマ娘の一人だった。
グランプリ3連覇を記録したあと、渡仏。しかし彼女の挑戦は7着で終わってしまっている。

クロノは、今年のダービーウマ娘に……希望を見出していた。
とてもとても深い所にある繋がりを感じて、託したのだ。

「だけど……今年は特に、”最強”と呼べそうな日本のウマ娘さんが3人も凱旋門賞を走ります。ジェネシスファクターにも前例のない状況です。」
「つまり、こう言いたいのですか?」
「ええ、ジャーニーさん」

お互い、紅茶の最後のひとくちを飲み干すと、
声を揃えて一言だけ発した。

「______誰が勝っても、アツい」
9 : トレーナー君   2025/09/20 05:38:19 ID:WuXJi26drs
はい、以上です。
今年の凱旋門賞はマジでアツいので、皆さん応援しましょう。
誰が勝ってもアツい。
10 : キミ   2025/09/20 05:41:08 ID:WuXJi26drs
あ、私の夢はクロワデュノールです
11 : トレぴ   2025/09/20 11:12:53 ID:Rlh6oOkdrk
良いSSでした。
私の夢もクロワデュノールです
12 : トレーナー君   2025/09/20 11:30:55 ID:WuXJi26drs
>>11
ありがとうございます
13 : あなた   2025/09/21 14:06:52 ID:L9HvsnDmKE
本番になったら続きを書きますわ
14 : お姉ちゃん   2025/09/29 02:09:26 ID:PfC6dBJt4Y
当週あげ
15 : アンタ   2025/10/03 05:13:09 ID:.NqjbgTksE
凱旋門賞が3日後に迫った日の夕方……。

ドリームジャーニーは遠征支援委員会室で一人、書類整理に励んでいた。

「ふう……早く終わらせて、オルの元へ帰ってあげないと」

彼女の脳内は、ほとんどが愛しの妹のことでいっぱいである。
オルフェーヴルのためならあと3分で書類の山を片付けることだってできる。

そんな時だった。
スマホから「ニュースアプリ」の通知音が鳴ったのは。

「おや、これは……ああ」
内容に目を通したジャーニーは、とある人物へとビデオ通話を繋ぐのだった。
16 : 貴様   2025/10/03 05:13:31 ID:.NqjbgTksE
「ジャーニーさぁぁぁぁん!!!」
「その様子だと、クロノさんも見られましたか……枠順確定の一報」

通話相手は、先日カフェテリアで熱く会話を交わしたクロノジェネシス。
画面の向こうの彼女はジャージ姿のまま、とても興奮してさらに狼狽えているような様子であった。

さて、今回ふたりの会話が始まるそのきっかけは、
フランスで行われた「凱旋門賞・枠順抽選会」の結果が報じられたからである。

「お、大外……ダービーウマ娘さん……大外17ゲートです……」
「18ゲートのウマ娘が検査不良で出走を取りやめたことで、結果的にそうなってしまいましたね」

クロノが推し、夢を託した今年のダービーウマ娘は、なんと大外に入ってしまった。
外目であるほどゴールまで余分に走らされてしまい、それは競走という文化においてはとても不利な状況だ。

サウジ勝ちのステイヤーウマ娘は15ゲート、ドーヴィル勝ちのクラシックウマ娘は2ゲートと、
3人揃って極端な枠順となってしまっている。

「有利……と定石で言えるのは2ゲートの彼女ですが……」
「隣のウマ娘が気になりますね」

クロノの話に続いて、ジャーニーがビデオ通話画面の中にwebサイトのスクリーンショットを引用する。
17 : 大将   2025/10/03 05:13:51 ID:.NqjbgTksE
「欧州のクラシック級で3つのオークスを勝ち、連勝中の先行ウマ娘……奇しくも脚質が似ています」
「その娘はわたしも気になっていました。連戦連勝の女王が凱旋門賞を勝つとなると、かつてのヴェニュスパークさんを思い出しますし、
ジェネシスファクター的にもアツいです」

オルフェーヴルを下すなど、日本の壁としてかつて立ちふさがった天才少女・ヴェニュスパーク。
彼女を思わせるようなファクターを秘めた、1ゲートのウマ娘。
フランスでも、彼女に夢を賭けているファンが特に多いという。

「しかし……今回のそれは……ジェネシスメソッドで分解することができます」
「ほう?」

ジェネシスファクターが過去の歴史やエモーショナルな展開から出るアツい勝利の形だとすれば、
ジェネシスメソッドは過去のレース展開や勝敗から得られる「数式」。
クロノジェネシスの趣味であるレース予想は、この2つから成り立っているものだ。

「この連勝女王ウマ娘さん……ロンシャンで走ったことがないのです。それどころか、
フランスでのレース経験はおそらく、ありません」
「なるほど。……未経験の舞台で完璧に走るのは難しいと?」
「そういうことです。それに、今回の凱旋門賞は17人で行われますが……彼女は大人数でのレース経験もありません。
先行ウマ娘ですから、後ろから一斉に追われるプレッシャーなどは、未知の世界のはずです」

クロノの言う通り、欧州のクラシック女王はフランスでの出走経験がない。
バ場への慣れや大人数での出走経験もなく、そこは日本のウマ娘が受けるプレッシャーと似ているものがある。

「1、2を争う相手になると思いますが、今挙げた点は日本勢への大きなアドバンテージです」

そう、日本の3人はそれぞれフランスでの前哨戦を勝ち抜き、バ場への適性を証明していた。
18 : モルモット君   2025/10/03 05:14:10 ID:.NqjbgTksE
しかし、レースとは甘いものではない。

「となれば、あまり重視しなくて良い……わけではなさそうですね」
「ええ、ジャーニーさん。揉まれたくないなら、彼女はペースを上げて逃げるか、前2・3番手を追走するでしょう。でなければ最内で揉まれ続けて、進路すら見いだせなくなっても不思議ではありません
2番が逃げ、どのようにペースを作るか……そこが鍵になりますね」

油断せず、戦略的に走ることが重要だと、クロノは語る。
そしてクロノも、資料を一つ転送した。

「次に気になっているのは、去年凱旋門賞2着だったウマ娘さんですね。今回の枠は12で、前回の枠は3でしたね。
見たところ、最後の直線の伸びが悪いように見えましたが……それでも2着に来ているんです。今年はもっと強くなっているでしょう」

現地で2番目の高評価を受けているこのウマ娘は、前哨戦のヴェルメイユ賞を勝っている実力者だ。
昨年よりも戦績が良く、成長分は明らかだ。

「で・す・が!! ここもまた、ジェネシスメソッドで穴を突けるんです!」
クロノはノリノリで説明を続ける。
19 : アネゴ   2025/10/03 05:14:26 ID:.NqjbgTksE
「去年……バ場は重く、勝ちタイムは2分31秒。勝ちウマ娘は2番手追走からの抜け出しでした。しかし今年!
2着のウマ娘さんは前哨戦でヴェルメイユ賞を勝ちましたが……ここは稍重のバ場で、勝ちタイムは2分28秒だったんです」

「ああ……そのウマ娘さんが本番で結果を出せるとは限らない、と?」
「そうですジャーニーさん!本番は、やはり我慢比べになるはずです。必然的なスローペースで……そして重バ場では伸びにくい末脚……そこが弱点なんです!」

ドリームジャーニーはまた感心した。もはやクロノジェネシスは日頃からデータ収集をしているとしか思えない。
自分のレースもあるのに、なんて熱心なのだろうと。

「つまり……日本勢にもチャンスは十分にあります!当日のペネトロメーター予想は3.6~3.9で、今回のメンバーなら走りやすいかと!」

「確かに。重ではありますがね、それくらいならあの3人が攻略できても不思議ではない。
金曜日と土曜日で雨が降り、そこでバ場がどう崩れるかわかりませんが……」
20 : マスター   2025/10/03 05:14:39 ID:.NqjbgTksE
そして最後は、自然との戦いになる。
雨でバ場が想定以上に悪化すれば、もはやどこがどうなるかわからなくなる。
連勝女王どころか日本のウマ娘たちも……。

「てるてる坊主!作りましょう!あと、先日のスプリンターズステークスの新聞記事も添えないといけませんね!」
そんなジンクスを最大限打ち破るべく、クロノは画面の向こうでてるてる坊主を作り始めた。

(通話つながったままなんですけどね……こちらも作りますか。てるてる坊主)
ドリームジャーニーも願掛けを増やすべく、ともにてるてる坊主を作るのだった。

クロノの持つ新聞記事には、スプリンターズステークスの結果とともにこの文章で締めくくられている。


______今年は、何かが変わる年。
21 : アンタ   2025/10/03 05:15:35 ID:.NqjbgTksE
今回は最強牝馬2頭の話になりましたが、日本勢は対抗できると思います。
いや絶対勝てます。応援しましょう。
22 : 貴方   2025/10/05 11:36:32 ID:dZiPJV2K4Y
凱旋門賞、当日。

東京の朝は、やや曇り気味。
しかし雨は降っていないので、朝練日和の時間である。


「はっ……はっ……はっ……」

トレセンジャージを着て河川敷をランニングするウマ娘・クロノジェネシス。
いつもの彼女らしく、冷静な走りをしているように見えるが……。

(今日は凱旋門賞今日は凱旋門賞今日は凱旋門賞……)
内心は、凱旋門賞のことで頭をいっぱいにしながら走っていた。

(いざこの日を迎えてみると、落ち着かないものですね……)
昨日の夜は意外とあっさりぐっすり眠れて、
その様子は同室のラヴズオンリーユーも驚くほどであった。
しかし起きてみれば、軽く洗面と身支度を済ませてのランニング外出。

……いつもより冷静ではない。
もう少しゆっくり準備しても良いものだ。日曜なのだから。
レース場に行く予定もないので、本当にゆっくりしてよかったのだ。
だが彼女は、走ることを選んだ。
23 : あなた   2025/10/05 11:36:51 ID:dZiPJV2K4Y
______しばらくして、走り終わったクロノは、河川敷の原っぱに寝っ転がっていた。

「ふう……少し、ペースを上げすぎましたか」

いつものランニング終わりより息が荒く、汗も多くかいている。
この走行量は、普段ならレース前に詰めたい時に行うものだ。

そんな彼女を、小さな影が覆った。

「……大丈夫ですか?」
「あら……またあなたなんですね。ジャーニーさん」

影の主……ドリームジャーニーが、すぐそこの自販機で買ってきたであろう、よく冷えたミネラルウォーターを手渡してきた。



「ありがとうございます……」
「いえいえ。でも貴女らしくない。……ふふっ、掛かりの原因は凱旋門賞でしょうか?」
「は、はい……」

草の上で水を一気に飲み干したクロノは、ジャーニーと他愛ない会話を続ける。
クロノはやっと自覚した。凱旋門賞が楽しみすぎて、走りにも悪い影響が出てしまったことを。

「じゃあリラックスついでに……聞かせてください。本番に向けての、予想を」
「えっ、あっ、今ですか!?」
「簡単に……で宜しいですよ」

ジャーニーからの突然の提案。
一瞬焦るクロノだったが、
……スイッチが入った。
24 : お姉さま   2025/10/05 11:37:17 ID:dZiPJV2K4Y
「えっとですね、まず現在のフランスの天候の説明から。
土曜のレース開催では断続的に雨が降り、出走された方からも「粘つくように柔らかかった」との声があったようです」
「では、日曜は?」
「はい。今のフランスは夜ですが、ネットでの情報を見る限りではこれ以上の雨は降らなそうです。
十数時間かけてバ場が良くなっていくのが理想ですね」

土曜のフランスは、残念なくらいの雨天となってしまっていた。
木曜までは現地ペネトロメーターの数値が3.4程を示し比較的良バ場だったのだが、
金土の雨で3.9まで戻ってしまった。

だがクロノは、不思議と悲観的にはなっていなかった。
「最も理想的なのは、バ場がしっかり乾くことですが……」
「……ということは代案があると?」
「はい。万が一、メーター3.9前後で本番を迎えた場合でも……"私の最推しウマ娘さん"なら、やれます」

クロノジェネシスの最推しウマ娘とは、今年の日本ダービーを勝ったウマ娘のことだ。
遠く小さな、でも確かな繋がりを感じるその少女に、クロノは凱旋門賞の夢を託した。

「これは前にも言いましたっけ……彼女が前哨戦を勝ったときの、ロンシャンのバ場は重……ペネトロメーターは3.9でした。
更に陣営コメントで、本番ではより何段階も仕上げるとのこと。トレーニングも順調だったようです」

「その数字の、重バ場を攻略できるという自信が?」
「はい、とてもあります。枠は大外となってしまいましたが……逆に何にも囲まれない位置です。彼女を信じましょう」
25 : トレーナー君   2025/10/05 11:37:41 ID:dZiPJV2K4Y
______その後も、色々な話をして……クロノはすっかり、落ち着いていた。

「……今回も、有益で楽しい話でしたね」
「ジャーニーさんにそう言われると、お恥ずかしくも嬉しいです……!!」

気持ちのいい風に吹かれながら、雑談に花を咲かせた二人のウマ娘は、ゆっくりと立ち上がる。

「……ところで夜、馴染みのあるメンバーで集まって、凱旋門賞の中継を見る予定です。
クロノさんも如何ですか?」

「えっ!!!!!!……そこに私がいても、いいんですか??」

ドリームジャーニーの"馴染みのあるメンバー"とは、俗に言われる「黄金一家」のことだ。
ジャーニーが崇愛するステイゴールドを筆頭に、ゴールドシップやナカヤマフェスタ、オルフェーヴルといった実力者が名を連ねている。

「娯楽は、人が多いほうが楽しいものですから」

「あ、ありがとうございます!ラヴちゃんも一緒にいいですか?」
「ええ、何人でも」

同室のラヴズオンリーユーもメンバーに加え、クロノは凱旋門賞の観戦をたくさんの仲間と共にする約束を取り付けたのだった。
今年は何か、何かが変わる気がしてならない。そう思っているのは、両者同じ。
だからこそ、なるだけたくさんの人数で、感情を分かち合いたい。

______できれば、勝利の喜びで。
26 : トレピッピ   2025/10/05 11:38:29 ID:dZiPJV2K4Y
あと12時間で全てが決まりますが、
クロワデュノールだけでなく日本勢の快勝を信じましょう。

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