イナリワンのハロウィンイベント
1 : 使い魔   2024/10/27 23:54:55 ID:wEY2DObA9A
 その日はハロウィンに近い休日で、イナリワンとイナリトレは大井の商店街でちょっとしたイベントを依頼されていた。
 仮装して、子供たちにお菓子を配ったり、ちょっとした小噺をするという趣旨のイベントだ。
 イナリトレの衣装は、主役のイナリワンを邪魔しないような地味な包帯男であり、それを着てイナリの着替えを待っていた。
「へへっ、どうだいダンナ?なかなか様になってるだろ?」
 寝室から出て来たイナリの姿は、まさにキツネそっくりだった。
 耳にはキツネのように尖がった耳に見える耳カバーを付け、尻尾にはモフモフの毛がついた尻尾カバーをつけている。
 上は小麦色のパーカーを着て、下はベージュのズボンを履いており、手にはキツネの脚を真似た手袋をつけて、見事にキツネに化けていた。

2 : 相棒   2024/10/27 23:55:37 ID:wEY2DObA9A
「すごいな。キツネそっくりだ」
「けどなあ、本当にこれでいいのかい?いつも世話になってるから、もう少し凝ったほうが……」
「いや、このくらいの方が親しみがあっていいと思うよ」
 商店街からイベントの打診が来た時、なんなら勝負服を着てこようか?とイナリは提案したのだが、主に子供たちを相手にするイベントのため、引っ張られたりして勝負服が傷ついたらいけないと、商店街側からイナリ用の耳カバーと尻尾カバーと手袋を用意されたのだった。
「それに、とてもよく似合ってると思う」
「ダンナ……へへっ、そう言われたら無下にできねえな」
 イナリは手袋で頭を掻いて、照れくさそうに笑う。
「そんじゃ、出発しようぜ。子供たちが待ってるからよ」
「ああ、行こう」
3 : アナタ   2024/10/27 23:56:37 ID:wEY2DObA9A
 イベントを行う商店街には、人だかりができていた。
 一年前に引退したとはいえ、G1ウマ娘のイナリワンにはまだまだ根強いファンが多い。
 それを見越して、商店街の一角をベルトパーテーション(列を仕切るシートベルトみたいなアレ)で区切り、その中にイナリワンとイナリトレと仮装した子供たちだけを入れ、観客やメディアはその外に出すことで、人だかりでイベントが台無しにならないように配慮されていた。
「ほらほら、まだまだカチューシャはあるから、そんなにがっつくなって」
 イナリはキツネ耳のカチューシャの束を手に持って、子供たちに付けてあげようとするが、ヤンチャ盛りの子供たちがイナリの服やら髪の毛やらを引っ張るせいで、悪戦苦闘していた。
 イナリトレは(勝負服じゃなくて良かった……)と思いつつ、カボチャの形をした籠を持っては、子供たちにお菓子を配ってコントロールしようとするが、なかなかうまくいかない。
 子供の無尽蔵とも言える元気に、イナリワンとイナリトレは苦笑いするしかない。
4 : モルモット君   2024/10/27 23:58:10 ID:wEY2DObA9A
 しかし、商店街は甘くなかった。
 イナリを困らせる子供たちの中には、商店街の意思を実行する、刺客たる子供が紛れていたのだ。 
 イベントを成功させる任務を帯びて紛れ込んだ子供たちは、わいわい騒ぐフリをしつつ子供の群れを操作して列にまとめ上げていく。
 数分もすると、子供たちはすっかり整理され、イナリは子供たちにカチューシャを付け、イナリトレはお菓子を配ることができるようになっていた。
 カチューシャとお菓子が子供たちに不足なく行き渡ると、イナリは小噺を始める。
「そんじゃ、一つ話を始めさせてもらうぜ。ハロウィンっていうのは元々アイルランドってえところのお祭りで、収穫祭と悪霊よけを兼ねたお祭りだって言われているんだが、日本には、ハロウィンの悪霊とお狐様が戦ったってえ話が伝わっていてな……」
 イナリの話は、江戸時代に日本侵略を企むハロウィンの悪霊と、それを阻止するために立ち上がったキツネの神様が戦うという、子供たちが楽しめる活劇めいた話であった。
5 : アナタ   2024/10/27 23:58:59 ID:wEY2DObA9A
「クックック、ハロウィンの祭りでアイルランドから追い出されたなら仕方ない。まだハロウィンの祭りが無い日本を襲って、我らの住処にしてやるぞ」
「てやんでい!そうは問屋が卸さねえ。このキツネのイナリ様が悪霊なんざ追い払ってやらあ!」
 と、語りに合わせてイナリがキツネの神様、イナリトレが悪役であるハロウィンの悪霊を演じることで、小気味よいテンポで話が進んでいくのだった。
「ぐわあああああああああッッッ!!!やられたー!!!」
「へへっ、これに懲りたらもう日本に来るんじゃねえぜ!っとまあ、こういうわけで、悪霊は追い払われたってわけよ。だが、いつまた悪霊が来るか分からねえ。だから日本でもハロウィンの祭りが開かれるようになったってわけでい!めでたしめでたしってな!」
「わあああああああああああ!!!」 
 話が終わると、子供たちは拍手喝采で喜んだ。
6 : 大将   2024/10/27 23:59:35 ID:wEY2DObA9A
 続いて、子供たちからイナリワンへの質問タイムが始まった。
「どうしてイナリワンはいつも元気いっぱいなんですか?」
「おう!毎日きちんとご飯を食べて、よく走って、しっかり寝ているからでい!それに、ダンナが傍にいてくれるってなりゃ、元気のねえ姿は見せられねえってもんよ!」 
 別の子供にマイクが渡され、
「私もイナリワンみたいに、レースで大活躍したいです。どうすればいいですか?」
「好き嫌いせずによく食って、よく走って、よく寝る!これに尽きるってもんよ!それと、信頼できる相棒を見つけりゃ言う事なしでい!ダンナみてえに信頼できる相棒に肩を貸してりゃ、思うようにいかない時も道を見失わずに走り続けられるってもんよ!」 
 また別の子供にマイクが渡され、
「イナリワンとトレーナーさんはいつ結婚するんですか?」
 ここでイナリトレの口出しが入る。
「えっと、イナリが答えにくい質問はちょっと……」
「おっとダンナ。あたしは困ってねえぜ。いつ結婚しようかい?」
7 : お姉ちゃん   2024/10/28 00:00:27 ID:q0NKch.4JM
 商店街は甘くなかった。
 イナリワンが引退した後、大井のウマ娘レースチームのトレーナーに就任したイナリトレは、中央で得た経験を糧に大井のレースのレベルを格段に引き上げる成果をあげていた。
 その成果は商店街の売り上げにすら少なからず影響し、今はイナリワンと大井で同居しているとはいえ、なるべく早くイナリワンと共に腰を落ち着けて欲しいという考えが、商店街には存在していた。
 今質問した子供は、その考えを実現するために送り込まれた刺客の一人であった。もちろん、ベルトパーテーションの外では地元メディアのカメラも回っている。
「えっと、その、そのうちかな……」
「おう!もうすぐだとさ!」
 しどろもどろにイナリトレが答えると、イナリがはきはきと答えた。
8 : あなた   2024/10/28 00:01:04 ID:q0NKch.4JM
 そこからの質問は矢継ぎ早であった。
「二人は仲がいいんですか?」
「おう!仲良しこよしでい!」
「ベッドはひとつですか?」
「布団はひとつでい!」
「コンコンしたんか!?」
「タマは帰りやがれ!」
 質問タイムが終わると、「これからもこの商店街をよろしくな!」というイナリワンの一声で、イベントは終了した。
9 : アネゴ   2024/10/28 00:02:13 ID:q0NKch.4JM
「いやあ、無事に終わって良かったぜ!」
 イナリワンとイナリトレは、ファンや商店街の人たちとの交流をそこそこに、二人は手を繋いで商店街を歩いていた。
 商店街はイナリのイベントに合わせて、カボチャの飾りやオバケの白い風船人形などがそこかしこを彩り、ハロウィンの雰囲気を出している。
 それを、せっかくだから見て回ろうとイナリが言ったのだった。
 キツネの仮装で、楽しく跳ねるように歩くイナリワンを見て、イナリトレは心を和ませながら、
「イナリの語りで、みんなが楽しそうにしていて良かったな」
「へへっ、ああいうのは昔から得意だからよ。本領発揮とはこのことでい!」
 楽しく話していると、喫茶店の前に来た。
「ダンナ、しばらく語りっぱなしだったせいで、喉が渇いたぜ。ちょいとそこの茶屋に入らねえかい?」
 喫茶店の中を覗くと、客がほとんどおらず、人通りが多いのに奇妙なほど静かだった。
 しかし、大井の商店街の店なら大丈夫だろうとイナリトレは思った。
10 : アネゴ   2024/10/28 00:02:37 ID:q0NKch.4JM
「分かった。入ろう」
「よしきた!」
 店内に入った瞬間、イナリトレは喫茶店とは似ても似つかぬ場所にいた。
 そう、まるでホテルのロビーのような…… 
「なあ、イナリ。店を間違えたんじゃ……」
「何言ってるんでい。茶屋は茶屋でも……」
 イナリのキツネの手袋が、イナリトレの腕をがっしと掴んだ。
「引手茶屋だけどな」
 引手茶屋。江戸時代において、吉原遊郭や岡場所で、遊客を遊女屋に案内する茶屋……!
 そこまで考えた時には、イナリトレはイナリによって受付に向かってぐいぐい引っ張られていた。
11 : お姉さま   2024/10/28 00:04:41 ID:q0NKch.4JM
 商店街は甘くなかった。
 イナリトレとイナリワンを結びつけるために、わざわざ大井のうまぴょいホテルの外装をハロウィンよろしく仮装させることで、巧妙な計画の一助としたのだ。
 うまぴょいホテルは歴史の闇に消えた建造物。しかし、大井の商店街の土着的魔術によって冥府の底より再誕したのだった。
「イナリ、これは……」
「まあまあ、ちょいと休憩していくだけでい。イベントやらなんやらで疲れたからよ」
 イナリの口調は有無を言わさぬものとなり、こうなっては何を言っても聞かないことをイナリトレは知っていた。
「まあ、休憩していくだけなら……」
「おう!ダンナもあんなに頑張ったんでい。ここでしばらく休憩しようじゃねえか」
「そうだな……」
 そう言って、イナリトレは受付で手続きするのだった。
 この日、イナリトレはキツネが肉食動物であることを思い知るのであった。
12 : キミ   2024/10/28 00:05:23 ID:q0NKch.4JM
 数日後、イナリトレは友人であるタマモクロスのトレーナーと会った。
「ハロウィンのイベントでうちのタマが紛れてこんだと聞いてな、商店街にサクラとして雇われたとかなんとか言ってたが。とにかくすまなかったな」
「いや、気にしてないさ。それより、手紙は届いたか?」
「式の手紙だろ?もちろん行くよ。それにしても、やたら急じゃないか。ハロウィンに何かあったのか?」
「ああ、キツネにつままれて……」
 そこで、イナリトレは少し考えてから言い直すのだった。
「いや、キツネに包まれたってわけだ」
13 : トレーナーさん   2024/10/28 00:06:04 ID:q0NKch.4JM
【終わり】

14 : トレピッピ   2024/10/28 00:30:59 ID:qp5yzEwEdg
恐るべし商店街
15 : お姉さま   2024/10/28 06:52:03 ID:C2rjwiygo6
⚡結局、コンコンしとるやないけ!!
16 : トレぴ   2024/10/28 16:26:39 ID:EoObnKktkM
狐につままれるなのか。包まれるだとずっと思ってた。
17 : トレーナー君   2024/10/28 17:30:50 ID:vVf0pTW91s
いなり寿司で例えるなら、イナリが油揚げ、トレーナーは白米だ。

たっぷり寿司酢の染み込んだ…な。
18 : キミ   2024/10/28 18:19:14 ID:R4v84JpaK6
>>17
元太帰るぞ
19 : アネゴ   2024/10/28 22:21:56 ID:sFIMT/s5No
⚡トレーナーの白い米を稲荷の皮で包んだんか!?

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