【安価SS】飛び級少女がトレセン学園でGIを目指す話
1 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 05:30:15 ID:jpgfrBfaDo
がたん、ごとん。だっだっだっ……。
電車に揺られ、乗り換えて、後は駅から走って、合計1時間……今はお昼の1時くらい。
そこに、わたしの目的地はありました。

「わぁっ……!!」
そこは……門の外から見えるだけでも……とっても広くて、大きくて、通っていた小学校の何倍でしょうか?
明日から通うことになる、トレセン学園を目の前にして、わたしは思わず驚いちゃいます。
たぶん、耳もぴょこぴょこしてるはずです。ウマ娘なので!

学園に見とれていると、緑の帽子を被った女の人が話しかけてきました。
「あなたは……明日からの転入生の方ですね?お待ちしていましたよ。私、学園の事務担当……駿川たづなと申します」
「たづなさんですね!よろしくお願いしますっ!!わたしの名前は______」
わたしの方もきちっと自己紹介をした後、たづなさんに案内されて寮にやってきました!
ここはどうやら、栗東寮というらしく、寮長のウマ娘さんが案内を引き継ぐそうです!
「おやおや、本当にポニーちゃんがやってくるとはね。あ、私の名前はフジキセキ。
これからよろしくね」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
優しそうな寮長のお姉さんに案内されて、私は寮の中をひと通り見て回りました!
そして……。
「______じゃあ、キミの部屋なんだけど……色々あって誰か2人の部屋に3人目として入ってもらうことになっているんだ。その部屋は……」
>>3(公式で判明済み同室コンビの部屋。調べて★)
260 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/19 02:41:36 ID:yQzkYFulXQ
『______熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』

突然の放送事故から1分後、映像と音声が回復した。

『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』

その瞬間映ったのは、ムーントラックのラストランが1着であったということを示すものだった。
大歓声に包まれながら、姿勢良く深々と礼をするムーン。
この映像を見ていた誰もが、レースがまともに見られなかったことよりも、今この瞬間に"衝撃"を受けている。

(終わり……引退……いつか、わたしにも来るのでしょうか……)
シュガーとて例外ではなく、彼女の心に"引退"というワードを深く刻みつけていた。
そうした点では、ムーンの思惑通りになったと言えるだろう。

夜頃、URAからお詫びのメッセージとスプリンターズステークスのアーカイブ映像が配信された。
トラブルの原因は雷雨による配信機材の故障で、撮影・保存はできていたが送信の部分に影響が出たという。

夕食の際に、皆でそれを見ることにした栗東寮の面々。
特に、シュガーとフラワーは今か今かと待ち遠しくしていた。

「ほいほーい。それじゃ、映像出すよん」
栗東寮1のガジェット使い・トランセンドの操作により、テレビとケーブルで繋いだノートPCから、アーカイブ動画が出力される。
(どきどき……)
シュガーは、早く見たくて仕方がなかった。どのように走ったのか、どんなレースであったのか。
そして、映し出された映像に刻まれていた記憶が、読み解かれる______。

レース展開>>261
261 : トレーナー君   2024/09/19 07:29:05 ID:uXThdvtgtA
周知の通り、当日の中山は小雨でバ場は重。一番外の8枠16番ムーンはまずまずのスタートで先頭から10人目。
最初のコーナーで内枠の数名のウマ娘がカーブでスピードを落とすのを見逃さなかったムーンが一気に抜いて4~5人の先頭集団に加わる
向正面に入り、重いバ場でやや疲れてきたと思われる一番先頭のウマ娘がズルズルと順位を落とす。
ムーンは先頭集団の3番手にまで順位を上げていた。
第3コーナーは3人が団子状態で通過し、最終コーナーを抜けていよいよ最後の直線。
中山の坂でついに1位のウマ娘と、いつの間にか1人抜かして2位に上がったムーンの一騎打ちに。
このまま1位が逃げ切って1着・・・と思いきや、重バ場+坂という悪条件が重なりゴールまで残り僅かの所で1位のウマ娘がまさかの転倒。
その事態に動じず、落ち着いて差したムーンが1着でゴールした。
262 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/19 08:09:27 ID:yQzkYFulXQ
なんか前スレから転倒好きな人がいるな……?
263 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 07:07:13 ID:EWaN7mhWzc
『今、スタートしました!』
ゲートが開き、16人のウマ娘が一斉に走り出した。
その瞬間、激しい光と音の雷がレース場を覆う。

が、走り出した彼女たちにとって、そんな現象は恐れるに足らないこと。
一部の機材が止まろうと、会場が停電しようと、ウマ娘は走り続けるのだ。

『会場が大変なことになっておりますが、観客の皆様は係員の指示に従って行動してください。ウマ娘たちは走るのをやめていません!
なので、実況に戻りましょう!』
実況席の女性も、一切動じずに実況を続ける。
1番人気のムーントラックは、ラストランでも動じずに最後方……いつものスタイルを貫いている。
対抗として挙げられた2番人気のアストンマーチャンは現在、先頭から4番目ほどの位置。
しかし最初のコーナーで、後続の数名のウマ娘がスピードを落としたのを見たムーンは、覚悟を決めた。
(この重バ場……"いつも通り"だと、バ群に飲まれかねませんわ!)
スローペース化すると最後方から行っても届かなくなる。
ならば、いま位置を上げてもプラマイはゼロだ。
そう思い、ムーンはそのウマ娘たちの間を駆け、前へ進出していく。
(絶対に、勝ちますのよ)
ラストラン……もう、脚質も何も関係ない。
ただただ走って、勝つ。もはやそれだけである。
264 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:10:45 ID:EWaN7mhWzc
『さあ、電撃戦もいよいよ終盤!逃げる4番、じわじわ後退っ!ここで先頭変わって、アストンマーチャンっ!!』
先団4番手をキープしていたアストンマーチャンが、圧倒的な回転数のピッチ走法で一気に前に出る。
ここで逃げて突き放して、勝負を決めるつもりだ。

しかし、まだ。一人、負かしていない。
「ここからっ!ですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あ……っ!?」
マーチャンは、数日前の併走を思い出す。
あの日と同じような……いやそれ以上の熱・気迫……そして、勝利への執念。
後ろから迫ってくる雄叫びに、様々なものを感じる。
『ここで中団からムーントラックが上がってきたぁぁぁ!これはアストンマーチャンとの一騎打ちッ!!』
最終直線には高低差2.4mの坂がある。ここを乗り越えた者が、勝者となるにふさわしい。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
残り310m。二人が併(なら)び、両者一歩も譲らない。
が、僅かに______。
265 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:11:01 ID:EWaN7mhWzc
『僅かに突き放して、ゴォォォォォルっ!!熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』
半バ身差であった。だが、その僅かな差で、ムーントラックがゴールした。
『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』
(あ……やり、ましたのね……わたくし……)
ムーンはゆっくりと減速し、呼吸を整える。今まで起きていた症状はない。本気で走って、勝てたのだ。
観客からの大歓声を浴び、その衝撃に浸る。
「ああ、もっと走っていたかった。こんなにも素晴らしい気分が、これっきりだなんて」
自分はもう衰えた。最後に、凄く頑張れただけだ。次はない。
そう思うと、自然と名残惜しくなってしまう。
「これっきり……では、ないですよね?」
「え?」
諦めの表情を浮かべていたムーンに、アストンマーチャンが声を掛けた。
「このレースを見た、たくさんのヒトもウマ娘も、今日はきっとあなたの走りに感動したことでしょう。
そしてそれは、次の世代へと繋がっていく……マーちゃんはそう思います」
「わたくし……そのような存在に、至れたのでしょうか?」
「はい、きっと」
自分が走れなくなっても、その意志は誰かの心に火をつけ、次へと繋がっていく。
そう思えたら、少しだけ気分が軽くなった気がしたムーンであった。

(___わたしも、もっと……!)
アーカイブ動画を見て、シュガーライドは改めて感じていた。"引退"というものを。
彼女の心のなかにも、きっとムーンの意志は受け継がれている。
そしてシュガーは誓うのだった。こんなふうに、感動させられるレースをしてみたいと。
266 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:31:30 ID:EWaN7mhWzc
それから1ヶ月後。寒さが目立ち始めてきた、11月の半ば。
早朝のトレセン学園グラウンドに、ウマ娘が一人。
(ふぅ……なかなかさむいですぅ……)
機能性に優れたトレセンジャージだが、寒いものは寒い。
シュガーライドは身体を温めるため、軽く走っていた。

今日は、10月に行ったムーントラック・アストンマーチャンとの併走以来の、先輩ウマ娘との合同トレーニングだ。
GI・ホープフルステークスも近いので、より強くなるためのトレーナーからの提案ということだが……?

(はふぅ……今日は誰が来るんでしょう……)
いろいろな先輩と会ってきて、だいぶ顔を覚えてきたシュガー。
が、併走の経験はあまりないので、誰が来るかドキドキしている。
そして数分後、彼女は姿を現した。
「______ほう、お前だったか」
(……っ!?)
シュガーは感じた。とてつもない"威圧感"を。
同時に、寒さが吹き飛ぶような熱も。
堂々とした態度で、ゆっくりと歩いてくるそのウマ娘は……金色の暴君、オルフェーブルであった。
(いつかのクセの強いイケメンウマ娘さんー!?)
しかし、シュガーの第一印象はそれであった。
267 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:31:44 ID:EWaN7mhWzc
「お前のトレーナーから頼まれた。GI初挑戦に向けて、実力のある我に併走をしてほしいと」
(やっぱりナルシストなんですかね)
「……我に、並ぼうというのか?」
(!!)
ナルシストな発言の中に、その一つ一つに、圧を感じる。
まだ幼いシュガーにも、伝わるものがあった。
絶対的に手が届かない、圧倒的な実力。
隣に居てはいけないと思うような、空気感。
だが、彼女はひるまない。
「……はいっ!並んで、いつか追い越しますっ!」
強気な態度で返事をするシュガーに、オルフェーブルは。
「……姉上が見込むその力、全て発揮して見せなければ許さぬぞ?」
姉・ドリームジャーニーは、シュガーに目をかけている。
自身が最も慕う存在が注目するウマ娘なのだから、当然の走りを見せられるだろう……そう思っている。
「はいっ!!」
シュガーもそれに答えるように、返事をした。

併走の展開>>268
268 : トレーナー   2024/09/21 08:56:12 ID:ggpr/EdL9A
コイントスの結果、内枠がシュガーで外枠がオルフェと決まる。

いざスタートすると、さすがは暴君と言われるだけあってオルフェからグイグイと引き離されるシュガー。
「やっぱり先輩は強いや...」シュガーが第1コーナーに差し掛かった時、オルフェはすでに第2コーナーを抜けていた。
第2コーナーを抜けたシュガーのはるか前方、オルフェはもう向正面の終わりに近い位置。
しかし、ここでシュガーの中の「何か」が吹っ切れた。
「やはりその若さで我に勝つ…いや、並ぼうというのは無謀だったようだな……」
第4コーナーに差し掛かったオルフェは少し残念そうに、少し軽蔑するかのように後ろを振り向く。すると

シ ュ ガ ー が そ こ に 居 た

「!?」

何かが吹っ切れたシュガーが猛烈なスパートで追い上げ、オルフェにわずか2バ身差まで迫っていたのだ。
「こやつ、何者!?」
第4コーナーを過ぎ、最後の直線。さきほど2バ身差あった差はもう1バ身差も無い。
「何故だ!そんなパワーとスタミナがその小さな体のどこにあるというのだ!?」
どんどん追い上げるシュガー、オルフェは焦っていた。
「姉上の前で醜態など晒せられない!でもこれでは勝ち目が無いではないか!!」
残り100mでついにオルフェはシュガーに並ばれて・・・

結果、アタマ差とはいえ勝ったのはシュガーだった。
269 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 18:58:07 ID:g.d1pB4DW.
なんかずっと"ブル"って書いてました
270 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 19:28:12 ID:g.d1pB4DW.
オルフェーヴルが律儀にも用意していた、どこの国の物かも分からない黄金のコインを使い、コイントスで外枠・内枠を決める。
結果、オルフェが外でシュガーが内枠となった。

そして、二人並んで一斉にスタートを決める。
最初はオルフェーヴルがペースを作り、少しばかりのバ身があったが……。
(ほう、悪くはない動きだ)
1コーナーを抜けた所で、シュガーは彼女と並んでいた。
自分に遜色なくついてくるシュガーに、オルフェーヴルは僅かだが感心を寄せる。
(これが、超強いってひょーばんの、オルフェーヴルさん……ついていくだけで結構きついかも……!)
しかしシュガーの方は、並んで走るのがやっとの様子。
(だが、それがやっとであるなら……)
オルフェーヴルはそれに気づくと、ペースを上げた。
シュガーをどんどん引き離し、5バ身ほどのリードを作る。
(は、速いっ!!すっごく引き離されてます!!)
力の底が見えない。その感覚を言葉にすることは、シュガーはまだ難しかったが、なんとなくわかっていた。
だが、だからこそ。シュガーライドは、燃えるのだ。
(あんな人にも……追いつきたいッ!!)
271 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 20:10:28 ID:g.d1pB4DW.
___2コーナーを抜けて、向正面を独走するオルフェーヴル。
(やはり、まだ若いか。しかし姉上が気に掛けるその才能……いつかは我と対等に走れる日が……)
今はまだ足元にも及ばない。しかし、もっと経験を積み……身体も成長すれば、もっと走れるようになる。
シュガーに悪くない評価を下したオルフェーヴルは、4コーナーまで来たときに一瞬ふと、後ろを向いた。
「……ッ!?」
「つかまえっ、ましたっ!!」
シュガーライドが、背後に迫っているのだ。
まさか。そう思った。あれ以上は、走れないと思っていたのに。
(我としたことが……傲慢であったッ!)
オルフェは、今までの油断的な行動を全て流すように……加速した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
残り400mの最終直線。シュガーを引き離そうとする。しかし……。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シュガーもまた、オルフェに迫る。
得意の走法が、暴君を追い抜かんと。
(お前は……強い……しかし、しかしッ!!!)
今にも追いつかれそうだ。だがオルフェーヴルは、それを認めなかった。
最強なのは自分だ。シュガーライドが強くなるのは、もっと先の話。
「我は……我が頂点なのだあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
玉座に君臨するのは、自分自身でなければならない。
そのプライドが、彼女にさらなる力を与える。
シュガーをまた、どんどん突き放していき……最終的に、1着でゴールするのだった。
272 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/25 04:50:40 ID:JiJbEjh4XI
「はぁっ……はぁっ……」
ギリギリで突き放され、ゴール地点で息を荒げるシュガーライド。
いけたと思った。このまま追い越せると思った。
だが、眼の前にいるそのウマ娘は、信じられないほど強かったのだ。

(なんて、強さなんですか……それに、息が、みだれてない……)
シュガーが驚いたのは、オルフェーヴルが息を一切乱していなかったところだ。
あれだけのペースで走って、まだもう一周も行けそうな雰囲気の、余裕の表情を浮かべている。

「……良い」
「えっ?」
「貴様の強さ、認めよう。だが……まだ我には届かぬ」

オルフェーヴルは、シュガーの強さを……潜在能力の高さを認めた。
そして、ゆっくりと近づいてくると、あるものを手渡す。

「GIで、我に勝つその時……これを返すのだ」
(えっ、これっ。えっ……?)
手渡されたモノに驚愕するシュガーを置いて、オルフェーヴルはグラウンドを去ってしまった。
シュガーの手の中には、コイントスに使った"どこの国の物かも分からない黄金のコイン"が握らされているのだった……。
そして日は流れ、ついにホープフルステークス当日を迎える。

次の展開>>273
273 : お前   2024/09/25 10:44:16 ID:O05YrWhJo.
師走の中山レース場、気温は低いが快晴だ。
出走は18人。シュガーは2枠4番からのスタートだ。スターターが旗を振り、各バがゲーに収まり・・・

スタート!

ホームストレッチを2回走るので、いったんゴール板を素通り。逃げも数名居るが、シュガーは約6名の第2集団につけた。
1コーナーで坂の頂点に達し、向こう正面までは下り。これを利用してシュガーは第2集団の先頭に。

向こう正面で特に順位に変化は無く、そのまま第3コーナーへ。
だが第3、第4コーナーではスピードに乗ったまま小回りするため馬群が膨らみやすく、先頭集団がスピードを落としたのをシュガーは見逃さなかった。

第4コーナーで先頭集団に並び、最後の直線でついに先頭集団を抜いて先頭に立ったシュガー。
持ち前の強い心肺で2度目の坂でも他を差しバを寄せ付けず、2バ身差の1着でゴールした。
274 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/27 05:45:12 ID:ucKb9iSs0o
12月、下旬。師走の中山レース場。
GI開催も最終週を迎えるだけあって、とても多くの観客が足を運んでいる。
日曜日には有馬記念が開催されるが、前日の土曜日に開催されるのは……。

『ここ中山レース場では、ジュニア級GI・ホープフルステークスの発走が迫っています。ここで勝利し、来年のクラシック戦線に名乗りを上げるのはどのウマ娘か!?』

___控室で中継を聞きながら、シュガーライドとトレーナーは"最後の準備"を整えていた。

「一応、サイズ合わせは事前にやったけれど……合ってる?」
「はい!とってもばっちりですよ!!」

それは、GIに挑むウマ娘の誰もが通る道。シュガーライドも、何度それを夢見たことか。
『勝負服』。ウマ娘たちの走る力の源となる、特別な衣装。
どれだけ派手な装飾で彩っていても、それを着るウマ娘一人一人に合ったものなら、
GIでも超人的な走りを発揮できるのだ。

「ゆ、URAのデザイナーさん、すごいです!」
自らが纏っている勝負服を鏡で確認しながら、シュガーは驚いていた。
GIに出るなら、かっこよくもかわいくも走りたい……という願いで、日曜朝のプリファイシリーズを思わせるようなデザインを提案したシュガー。
ポップ感のある黄色の水玉リボンを両耳に装着し、
白を基調としたインナーに制服スタイルの黄色アウターを重ね、
スカートもフリフリ感にこだわった仕立てをしてある。

「ほとんどのウマ娘は片耳に飾りをすることが多いけど……シュガーはこれが良いのよね?」
「はい!なんかしっくりくるので!」

色々話していると、発走までもう少しの時刻となった。
初めてのGI挑戦……勝つことはもちろん、楽しんで走ってこようという気持ちで、
シュガーライドは控室を後にするのだった。

275 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/28 10:01:16 ID:qPNrzRqKW2
『ここ中山レース場。現在のバ場状態は、芝ダート共に良の発表です。ホープフルステークスに出走するウマ娘たちが、続々とターフに姿を現しています』

ジュニア級といえど、GIレース。観客の歓声がピークを迎える中、ウマ娘たちが集う。
デビューから好成績を残している者、やや遅咲きでGIに間に合わせた者など、彼女たちの戦績は様々だ。その中に、シュガーライドの姿もあった。

『シュガーライド、現在一番人気です。メイクデビューから無敗の2連勝を重ねながら、トレーニングではGI最前線を走るウマ娘たちと切磋琢磨しているとのことで、大きく期待が持てます』

(た、確かにそうなんですけど!!そんなにですか!?)
実況の解説を聞きながら、シュガーは少し恥ずかしくなっていた。
正直なところ、自分はただ練習に付き合ってもらっていただけであり、
さらには若さ故か、その行動の重さ・尊さ・影響力を理解しきれていない部分もあるのだ。
永世3強、メジロ家、黄金世代、暴君……みな強さと実績を持つウマ娘たち。
そんな環境でトレーニングしたともなれば、注目されぬ訳が無い。
276 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/28 10:01:29 ID:qPNrzRqKW2
(それにしても……風が冷たくて寒いのに、寒くない……ふしぎです)
ターフの感触を確かめ、ウォーミングアップをしながら、変な感覚に陥る。
寒いはずなのに、どこからか熱気が伝わってくる。
彼女は気づいた。観客たちから来ているものだと。
初めてのGI挑戦。それを見に来る観客たちから、とても強い熱が伝わる。

同時に、それを周りのウマ娘たちからも感じた。
(……!これが、そうなんですね)
過去、メジロブライトから言われたことを思い出すシュガー。
『___GI……たくさんの”勝ちたい”が集まってきますの~。それはもう、押しつぶされそうなくらいに』
たくさんの”想い”が集まって、それは熱と同時に大きなプレッシャーを生む。

「でも、わたしは……わたしのペースで!」
しかし、シュガーはそれに潰されない。
自分の最大限の走りで、勝ちを目指す。


______各ウマ娘がゲートイン。
シュガーライドは内枠4番ゲート。
ついに、始まる。GIが。
277 : トレぴっぴ   2024/09/28 22:22:31 ID:DDI.VDZZw6
ところでこの子の外見って>>274な感じなん?
278 : トレーナーちゃん   2024/09/28 22:23:42 ID:qPNrzRqKW2
>>277
そうれす
279 : 使い魔   2024/09/28 22:26:00 ID:qPNrzRqKW2
絵は描けないけど形にしないと文章に出来なかったので、アバター作成サイトを使いました
280 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/29 06:47:44 ID:aEC0jkX3D.
吹奏楽隊による生ファンファーレと、それに合わせた観客のコール。
GIに欠かせないこの二つが完了したとき、レースは幕を開ける。

『各ウマ娘、体勢完了。……スタートしました!』

18人のウマ娘が一斉にスタート。出遅れなく、スムーズな出走だ。

(は、始まりましたーっ!!)
スタート直後。自分がGIを走っているという実感がわいてきたシュガーライド。
しかしここはじっくり、冷静に。彼女は後方に位置取った。

先頭を走るのは2名の逃げウマ娘。両者が競り合うことでレースのペースが作られていく。
しかし、逃げウマ娘とそれを追う4名の先行集団のペースは、それほど速くはない。

『さあ、スタート直後には登り坂があります。ここでのペースはややスローか』
1コーナーへ向かう途中、高低差2.2mの坂を登ることになる。
このあたりではペースが速いと、後半で先行勢の脚が鈍ってしまうことが多い。

一部の観客たちはこの模様を見て、
(ジュニア級でこの走りができるのはとてもレベルが高い……来年からのクラシックも期待できる……)と思うのだった。

シュガーライドは現在、6名ずつで2分割された後方集団の2つ目……その中の3番手ほどにいる。
(坂では、おさえておさえて……)
彼女はメイクデビューで同じコースを勝っているが、今回はGIというのもあってしっかりと対策を学習して臨んでいる。同じく、ペースが速くなることはない。

『各ウマ娘、坂を登って1コーナーへ。その後はグーっと下り坂』
1コーナーを抜けると、スピードに乗りながら向正面へ進む。
シュガーはこの勢いで僅かに前に出て、集団の先頭に。
道中で1000mを通過し、タイムは59.5。坂の影響か、やや速いペースだ。
281 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/29 06:48:15 ID:aEC0jkX3D.
が、レースが動くのはここからである。
坂を下った勢いのスピードのまま、各ウマ娘たちが3コーナーへ進出。
中山のコーナーは小回りがあり、スピードを落とさなければ外へ大きく膨らんでしまうことになる。

(……ここですッ!)
シュガーは、しばらく続いていた速いペースが落ち着いた一瞬を狙って、
じわじわと前に進出していく。

『3コーナー・4コーナーを回って、1番人気シュガーライドが上がってきた!小回りのコーナーを苦にせず、先頭集団に並びかける!』
小回りの強い部分ではピッチ走法に切り替えて、小柄な体躯も利用してバ群をするすると抜けていくシュガー。
(よしっ、できてますできてます!あともう少しっ!)
あとは最終直線を競り勝つだけ。ここで彼女のスイッチが入る。
「行くぞーっ!!」
310mの短い最終直線。シュガーはピッチxストライド走法を惜しみなく発揮し、
ラストの急坂で先頭のウマ娘を追い抜く。
『ここでシュガーライド先頭ッ!そのままゴールインッ!!』
1バ身ほどの差でゴールした。……1着で、ゴールしたのだ。

「はぁっ……はぁっ……あ、わたし……勝ったんです?じ、GI……?」

勝者を称える大歓声に包まれながら、シュガーはまだ実感がわいていないようだ。

『勝ったのはシュガーライド!無敗の3連勝で、見事ホープフルステークスを制しました!!』
が、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、世間の目は“二人目”の天才少女の出現を称え、クラシック期への期待を寄せるのだった……。
282 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 22:42:59 ID:Rp6tDt3Oxg
年明けに組まれた、とある特番。
それは、クラシック級に昇格したての二人のウマ娘へのインタビュー番組であった。
『本日は、クラシック世代での活躍が期待され、”小さな天才少女”との呼び声が多い2名のウマ娘さんにお越しいただきました!』
明るい雰囲気のセットに、番組メインMCの女性が一人と、インタビュー対象である二人の席が並んでいる。そこに座っていたのは……。

「ニシノフラワーです!今日はよろしくお願いしますっ!」

「しゅ、シュガーライドですっ!よよ、よろしくです!!!!!」

ジュニア級で輝かしい戦績を残し、二人はどちらも飛び級であったことから、小さな天才少女と呼ばれるようになったニシノフラワーとシュガーライド。

フラワーはテレビ出演であっても緊張や物怖じせずに挨拶できたが、シュガーの方は少し固めな表情だ。

『それではまず、お二人のジュニア級での活躍を振り返ってみましょう』

VTRに切り替わり、まずフラワーのレース映像が流れる。
彼女はメイクデビューから3戦3勝で、阪神ジュベナイルフィリーズに挑んだ。
前目の先行策で走り、後半一気に押し切っての勝利。
283 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 22:43:11 ID:Rp6tDt3Oxg
次に、シュガーのVTRが流れる。
シュガーもメイクデビューから2戦2勝。
ホープフルステークスに挑み、器用な後方策で勝利した。

ジュニア級GIの無敗制覇ウマ娘が、二人も誕生……世間の目は、SNSなども含めて彼女たちに集中している状況だ。
そういった書き込みなども、VTR中に取り上げられている。

「わぁー!応援してくれている人が、こんなにいるんですね!」
「す、すげーのです……」
世間からの反応に喜びと興奮の表情を浮かべるフラワーに対し、シュガーの方はそれらにとても驚き、困惑していた。
トゥインクルシリーズを走り出して、いきなりのGI制覇。
とても嬉しかったが、GIをたった一度勝つだけで、こんなにも沢山の人の心を動かすものなのだと、影響力の高さに驚いているのだ。
284 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 23:42:23 ID:Rp6tDt3Oxg
クラシック級でのフラワーの目標>>285
シュガーの目標>>286
285 : トレピッピ   2024/09/30 23:59:30 ID:pIjjWpDtI.
牝バ三冠です!
286 : トレーナーちゃん   2024/10/01 00:00:00 ID:1AYxpaAtgE
私も同じです!
287 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/02 11:25:33 ID:EALMat.7vs
『ではここで、お二人に伺ってみましょう!ずばり、クラシック級での目標は?』

MCの話振りとともに副題テロップが変化し、「天才少女ふたりの目標は!?」というものになる。

少し悩むシュガーとフラワーだったが、結論が出るのは同時であった。

「クラシック3冠です!!」
「トリプルティアラです!!」


皐月賞・日本ダービー・菊花賞の3つを勝つ、クラシック3冠。そして桜花賞・オークス・秋華賞を勝つトリプルティアラ。……どちらも、大きな望みだ。だが、それを笑う者はあまりいないだろう。
小さな身体に宿るのは、とてつもない潜在能力と競争能力。
ジュニアGIを無敗で勝利したこの二人なら、目指せないことはない。
ふと、カメラに抜かれたシュガーの表情は……とても自信に満ち溢れていた。

>>288 (皐月賞までの展開)
288 : トレぴっぴ   2024/10/02 12:31:22 ID:bpOrArTAqo
(両方トリプルティアラなのでは…)
289 : ダンナ   2024/10/02 12:36:02 ID:EALMat.7vs
>>288
違うんだ……シュガーの方は3冠なのだ……
290 : 貴様   2024/10/02 12:37:54 ID:EALMat.7vs
トリプルティアラの主人公はもう書いたので……

再安価>>291
291 : キミ   2024/10/02 13:21:00 ID:oBEV8yTMpU
なら最初からそう宣言してから書きなよ
安価両方トリプルティアラで、それをガン無視するような書き方したら突っ込まれて当たり前
自分の説明不足を棚に上げて他所で愚痴るとか女々しい真似すんなよ
292 : 使い魔   2024/10/02 13:27:58 ID:EALMat.7vs
>>291
ごめん、そこは悪かった。ところで流れを止めるよりあっちで話したほうがいいと思う
293 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/02 13:41:02 ID:EALMat.7vs
ということで大変申し訳無い。この路線で進めさせてください。
最安価>>294
294 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:46:43 ID:pSqjmPwIQs
もう少し書きます。

テレビ収録・放映から数日。
トレーニング休養日に出かけると、街の人の明るい視線を受けるようになり……少し恥ずかしいシュガー。
(これアレですか、時の人ってやつですか?)
ここに来てようやく、GI制覇の重みをなんとなく理解したような気がするが、
彼女の目標はこれ以上のその先を目指している。

クラシック3冠。その名の通り、クラシック級のウマ娘にしか目指せない栄光。
そしてシュガーは、今のところ3戦3勝の無敗だ。
まずは4月の皐月賞だが、トレーナーいわく目指せるかもしれない。
……無敗の3冠ウマ娘を。

無敗3冠。それはただクラシック3冠を勝つだけではなく、最終戦の菊花賞で勝つまでに"すべてのレースで負けないこと"。
3冠レースはおろか、叩きの前哨戦を挟む場合はそれすらも負けてはならない。

(……でも、やれるなら、やりたいなぁ)
今の自分に、それほどの力があるかはわからない。
だから、"やれるならやりたい"レベルの感情に留めるシュガー。

「あーっ!キミはーっ!」
(ん!?)
すると突然、後ろから声をかけられた。
やや甲高いその声に振り向くと……。
295 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:47:25 ID:pSqjmPwIQs
キミ、この前ホープフルステークスで勝ったし、テレビにも出てたよねっ!?カッコよかったー!まあ、カイチョーには及ばないけどねっ」
「あ、あなたは……トウカイテイオーさん!?」

シュガーに声をかけたのは、かつて無敗で皐月賞・日本ダービーを制覇したウマ娘、トウカイテイオーであった。

「いやぁ寒いねー!そうだ、なにかの縁だし、あったかはちみー奢るよ!」
「えっ、ありがとうございます」

テイオーから冬仕様のはちみードリンクを奢ってもらったシュガーは、二人で公園のベンチに腰を下ろす。

(あ、あまい……!)

ハチミツといえば、温めると甘みの低下を引き起こしてしまうものだが、
このはちみーは普段の冷製はちみーより甘かった。
おかわりしたくなるほどに。

「……もう一杯欲しそうだね?」
「はいっ!!」
それを察したテイオーに、2杯目も奢ってもらうのだった
296 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:47:33 ID:pSqjmPwIQs
「___無敗の3冠かぁ。すごく大きな目標だよ?それ」
シュガーの夢と、その上を行く大きな到達点。それを聞いたテイオーは、少し困ったような顔をした。
「いい?無敗の3冠ウマ娘っていうのは、ただ速いだけじゃなれないんだ。なんというか……一番運が強いウマ娘が、それを得られるんだと思う」
「運、ですか?」
「いくら脚が速くても、心肺能力が強くても、レース展開っていうのはどうなるか最後までわからない。それに……」
「それに??」
「すごくいいところで故障して、その夢を絶たれてしまうウマ娘だっている。……ボクとかね!」
(あ……)
シュガーは思い出した。このトウカイテイオーというウマ娘は、ダービーのあとに故障して菊花賞を断念せざるを得なくなったことを。
それに、フジキセキやアグネスタキオンなど、夢を絶たれたウマ娘は過去にも大勢いる。
「だから、"運"なんですね」
「でも、そこからやり直せたウマ娘だっている。……これまた、ボクもそうなんだけど」
「えっ!あ、そういえば……」

『______トウカイテイオー奇跡の復活ーッ!!』

長い休養期間を越えて、目の前にいる少女は有馬記念を勝った。
それを思い出したシュガーは、

(あれ?なんかものすごい人とお話してます!?)
まるでスター芸能人と会話しているかのような状態に陥ったのだった。
297 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:48:34 ID:pSqjmPwIQs
それから数日後。
1月の終わりごろ……。

トレーニングを終えたシュガーは、休憩しながらトレーナーとミーティングをしていた。

「いい?シュガー。次の目標……皐月賞へ進むには、いくつかの重賞で好成績を出す必要があるの」
「え、まだわたしは駄目だったんですか!?」
「あっ、違うわね。あなたの場合はもうGIを勝っているから、戦績としては十分よ。ごめん」

軽く頭を下げたあと、トレーナーはホワイトボードを少し書き直した。
「……つまりはこの重賞には、あなたのライバルとなるであろうウマ娘が出走してくることになるわ」
「ライバル……」

3月期に開催される3つのレース……「弥生賞」・「若葉ステークス」・「スプリングステークス」で最低でも2着以内という成績を残せば、
皐月賞への優先出走権が与えられる。
ここで勝ったウマ娘が、シュガーライドを追う形になるのだ。

「3月は皐月賞へ向けての最終調整期間よ。だから、あまり他に時間を割けない……けれど、1つくらいなら、このトライアルレースの観戦に行ってもいい。どこにする?」
「そうですね……」

>>298
298 : 貴方   2024/10/03 07:05:36 ID:vHLG2Mw8CE
若葉ステークスで行きましょう
299 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/04 14:33:05 ID:uWXxKCbK.M
「若葉ステークスがいいです!」
このレースは、他2つと違って重賞ではなく、ひとつ下のリステッド競走と呼ばれるクラスだ。
しかし、集まってくるウマ娘は重賞出走にも劣らない実力を持っている。
そしてその中からの勝者ともなれば……ライバルとして警戒すべき相手となるだろう。

(わかばって、なんかかわいい響きじゃないですか!)
……シュガー本人は、そこまで考えてはいないのだが。

どのトライアルレースも、開催は3月。
それまでにも、しっかりとトレーニングをしておかなければならない。

(GIを勝ったことで、今のシュガーには自信も満ち溢れているでしょう。
そんな中で、本番までどうトレーニングをすればいいのかしら?)
皐月賞はホープフルステークスと同じレース場・距離で開催される。
走りに対する不安は一切ないのが現状であり、今後のトレーニング方法に悩むトレーナー。

「シュガー。どんなトレーニングがしたい?4月の皐月賞までの間、あなたの意見も取り入れてみようと思うの」
「えっ、わたしのですか! いざそう言われると、うーん……」

数分悩んで、シュガーは自分の考えを伝えた。
>>300
300 : 相棒   2024/10/05 04:58:54 ID:n9GCN0Nafs
age安価下
301 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 12:08:48 ID:n9GCN0Nafs
「……そのままで!いつもしてるトレーニングを頑張りたいです!」
「そのまま?」
「はいっ!何事もきそが大事って言うじゃないですか!」

シュガーは、普段通りのことをしたいと言った。
それを聞いて、トレーナーはハッとする。
(そっか、そうよね。何もすることが思いつかないなら、いつもしていることに真剣に取り組めばいい。結果はそれについてくるもの……か)

______結局、普段通りのトレーニングを続けるということで、話がまとまった。

それから2ヶ月後、3月中旬。


阪神レース場・11R「若葉ステークス」

『勝ったのはホワイトテイル!2着のウマ娘の追走をものともせず、逃げ切ってのゴールイン!』

良バ場開催となったこのレースで、ホワイトテイルというウマ娘が逃げ切った。
このレースでは2着までの優先出走権があるが、
1着のホワイトテイルが見せつけた圧倒的な走りはまるで「主役は自分だ」と言っているかのようであった。

(す、すごい……たしか、1000mのタイムが57.8って言ってましたよね……そんなに飛ばして、逃げ切るなんて……!)

レースの観戦に来ていたシュガーを驚かせたのは、先頭で走り続けたホワイトテイルが出した1000m57.8というタイムであった。

後半は少し鈍ったものの、それでも後続に3バ身という差での勝利。

(きょ、強敵になりそうですぅ……!!)

本番でも同様の走りをしてくるのであれば、最終的に追い抜かなければならない相手ということになる。
皐月賞まで数週間。最終調整として、越えなければならない壁ができたシュガーであった。
302 : トレぴっぴ   2024/10/05 19:00:37 ID:0jKUN0WUw6
取り急ぎ私服verをば

303 : ダンナ   2024/10/05 19:26:15 ID:n9GCN0Nafs
>>302
ねえ!?うちのここんな美少女で良いんですか!?
304 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:45:38 ID:n9GCN0Nafs
次の日。
シュガーはとあるウマ娘に、併走をお願いしていた。
「私と併走を……?」
「はい!皐月賞のイメージトレーニングに、スズカさんの大逃げがぴったりなんです!」
異次元の逃亡者、サイレンススズカ。
彼女もまた、1000m57.4などのハイペースなタイムを出しながらも後半の逃げ切りに定評のある、中距離が専門の逃げウマ娘の一人だ。

若葉ステークスで見た、ホワイトテイルの逃げ。それに追いつくためには、近いかそれ以上の走りをするスズカこそ併走相手にふさわしいと、シュガーは考えたのだ。

「……わかったわ。私が持ってるものを、できる限りあなたにぶつけてみようと思う」
「ありがとうございます!」
305 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:45:52 ID:n9GCN0Nafs
そして放課後、シュガーとスズカはグラウンドにやってきた。
異次元の逃亡者と、これから皐月賞に挑む”天才少女”。
見ごたえのありそうな併走ということで、周りには少しばかりの人だかりができている。
そんな中で、シュガーたちはウォーミングアップをしていた。

「ちょっと……きんちょーしますね?」
「そうね。でも、走れば気にならないわよ」

視線が気になるシュガーに対し、スズカは自分の世界に入る術を熟知しているようだ。

(走れば気にならない……)
スズカの見ている世界がどんなものか、静かに興味を馳せるシュガー。
……気がつくと、軽く心拍数が上がり、やや高揚した状態になっていることに気づく。
ウォーミングアップが終わったのだ。
(こ、これがそうなんでしょうか!?)
いわゆる”ゾーン”の片鱗に触れるシュガーなのであった……。

「距離は2000mで、良かったわよね?」
「はい!お願いします!」

スタート位置に立つ二人。今日は朝からずっと晴れていて、春の陽気が気持ちいい天気である。芝の状態も良好で、殆どのウマ娘にとって最高のコンディションだ。

「スタート、行くわよ」

シュガーのトレーナーがスターターとなり、片手を天に突き出す。
「よーい……ドン!」
掛け声とともに片手を振り下ろした直後、両者が一斉にスタートを決めた。
306 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:47:41 ID:n9GCN0Nafs
>>302
遅れながらも感謝を。大感謝。ありがとうございます
307 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 21:05:44 ID:n9GCN0Nafs
スタート直後、サイレンススズカが一気に前に出る。
(はやいっ!これが、スズカさん!!)
最序盤からのハイペースな逃げを見せつけられ、驚くシュガー。だが、自身は追い込みウマ娘なので、まだ前には出ない。逆転のチャンスは絶対にあると信じて。

______中盤、向正面を回って3コーナーへ差し掛かったところで、レース展開が変わる。
(ここから……っ!!)
シュガーが動いた。6バ身ほどの差で走るスズカに対し、ギアを上げて近づいていく。
「ここで引き離しますッ!!だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
このあたりでもう、距離を突き放しておいたほうがいいと思ったのだ。
4コーナーを回る頃には、スズカとその前を走るシュガーの差は3バ身はあった。
残り310の短い最終直線のコースは、中山レース場を想定したものだ。
が、異次元の逃亡者がそれを黙ってみているわけもない。
(先頭の景色、返してもらうわッ!!)
1着しか見られないその景色を、勝つことで返上してもらう……スズカの脳内も走りも、先頭の景色を見ることだけでいっぱいであった。
308 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 00:23:18 ID:OTW287ZlNE
うちのこにはスッと勝たせちゃったけど凱旋門賞の壁はまだまだ高い。
309 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 06:01:42 ID:OTW287ZlNE
______静かに、プレッシャーが襲いかかる。

(っ……!?)

すべてを押しのけるようなそれを感じたと思った次の瞬間、シュガーの目の前にはスズカが走っていた。

(譲らない……!!)
(わたしだってっ!!)

最終直線でさらにバ身を開こうとするスズカに、シュガーが必死に猛追する。
この短い直線では、圧倒的回転数のピッチ走法では有利に働いているのだ。
しかし、結果は……。

スズカが1バ身差での1着。
シュガーはギリギリ、異次元の逃亡者を捕らえることはできなかった。

「はぁっ……はぁっ……」
流石はGIを走る大先輩だと、悔しさと同時に感激すら覚えているシュガーの内心。
疲れながらも微笑んでいるその表情に、スズカは。

「何か、掴めたかしら?」
「……はい!ありがとうございましたっ!!」

シュガーの中に芽生えた確信を感じ取り、皐月賞に向けてのエールを送るのだった。

それから数日後。4月に入り、桜が舞う春の季節がやってきた。

まずは、ニシノフラワーの出走する「桜花賞」
ここから始まる、クラシックGIシーズンの開幕である。
310 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 12:20:19 ID:OTW287ZlNE
『ここ阪神レース場は桜満開の快晴模様です。バ場状態は良の発表で、もうすぐ発走となる桜花賞では、スピード勝負に期待がかかります』

スマホのラジオ機能を横に置きながら、シュガーはトレーニングに励んでいる。
桜花賞観戦は兵庫まで出向く必要があるので、スケジュールに余裕のない今回は断念することにしたのだ。

(フラワーちゃん……頑張って!)
心の中でエールを送りながら、シュガーは走り込みを続けた。
ふと思い出すのは、代わりにスイープトウショウが応援に行っているらしいが……。


「フラワー!ここで勝ってGI2勝目よっ!」
「もちろんです!がんばります!!」

阪神レース場の控室で、発走を待つフラワーにスイープが応援をしに来ていた。
自身のデビューはまだ先であるが、スイープのトレーナー曰く「今後のための視察」も兼ねてとのこと。

(うう……この前のチューリップ賞で、”無敗”じゃなくなっちゃって……)
フラワーは、前哨戦であるチューリップ賞に挑んだのだが、2着となってしまった。
持ち前の明るさとやる気で、どうにか繋いできたのだが、本番前になって蘇ってしまったようである。

「……しっかりしなさいよっ!」
「あ……」
フラワーの心境の変化になんとなく気づいたスイープが、背中を叩くように言葉をかける。
「たった一度負けたくらいじゃ、アンタがレースに掛けた”魔法”は消えないのよ!なんだったら、アタシが掛けなおしてあげるわ!」

(スイープさん……そうだ。わたしはまだ全然、がんばれますっ!)

スイープの言葉で、魔法にかかったかのように自身を取り戻したフラワー。
その後、トレーナーからもエールをもらい、ニシノフラワーはトリプルティアラ1戦目・桜花賞へと向かっていくのだった。
311 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/08 07:39:22 ID:1jZU3PZW6s
「はっ、はっ、はっ……」
グラウンドでトレーニングを続けるシュガーライド。
フラワーのことは気になったが、自身も皐月賞のために頑張らなければならないのだ。

(いいわね……ホープフルステークスの時よりも、仕上がりがいい。8割ってところかしら?)

それを見守るトレーナーは、シュガーの成長に感心していた。今の時点で8割なので、事後報告で知ったサイレンススズカとの併走では、それよりも低い仕上がりで僅差に迫ったということになる。

(本番も、やれそうね)

トレーナーは、自信を持って確信していた。シュガーなら皐月賞を勝てると。

……そんな時だった。周りのウマ娘たちがざわつき始めたのは。

「あの人よ……!」
「今度皐月賞に出るっていう?カッコイー!!」
(誰??)

声が向けられているその主を見つけると、トレーナーは驚く。

(あの娘は……ホワイトテイル!)

雪のような白毛。尻尾までふわっとしている白毛。
美青年と見紛うくらいの、整った顔立ち。
そして、実力。

……シュガーの次に皐月賞制覇に期待のかかっているウマ娘・ホワイトテイルが、
グラウンドに姿を見せたのだ。
312 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/10 05:40:39 ID:vaPKi5llv.
(……あの人、この前の!!)
暖かくなってきた春だというのに、一瞬だけ冬のような寒気と空気感を覚えたシュガーも、
グラウンドにやってきたホワイトテイルに気付く。

周りからの視線も歓声も、全く微動だにせず、
ホワイトテイルはゆっくりと歩き、シュガーライドの目の前まで来た。

「併走、良い?」
「えっ、あっ、どど、はいっ!」
(なんかいきなり、一緒に走ることになっちゃいましたー!?)

突然の誘いに驚いて語彙力も変になるシュガーであったが、半分は意図しない形で皐月賞のエキシビジョンマッチが実現したことに対する驚きである。


「これはチャンスよ、シュガー。リステッド勝ちでありながらも一番注目されている、スノーホワイトと走れるのは……」

「ですよねっ!本番に向けて、GIウマ娘としてがんばっちゃいます!」

「ま、まあ……油断はしないようにね?」

準備をするシュガーに言葉を送りながらも、トレーナーは少し不安であった。
GIウマ娘であることへの自信……それは時に、油断や慢心へと繋がってしまう。
だが、こうも考えた。それを本番前に解消できる機会が得られたことに、ホワイトテイルへ感謝したいと。


「……何歳なの?」
「歳ですか!?えっと……この前、たんじょうびを迎えたので……11歳ですっ!」
「……そう。私は14歳。それだけ」
(んんー!?!?)

スタート地点に立ち、ただお互いの年齢を知り合う会話を交わす二人。
それだけで終わってしまったので、シュガーは困惑しまくっている。
(14歳のお姉さん……でも、わたしはいつもどおりにっ!)

そして、併走……というか模擬レースが始まった。
313 : トレぴっぴ   2024/10/11 13:42:27 ID:5JVEnlQu.I
せいふくのすがた。
身長サバ読んだせいで少しサイズが大きいとかなんとか。

314 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/11 14:02:05 ID:ajotV/KjO6
>>313
あり、がとう……ありがとう……!!
315 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/11 20:59:10 ID:rbTx7fk8zI
2000m設定で、併走が始まった。
両者ともに良いスタート。

ホワイトテイルは若葉ステークスの時と同じく、序盤からペースを上げて飛ばしていく形に。
(思ったとおり、です!)
が、それはシュガーライドの思惑通りであった。
スズカとの併走で、大逃げに対する走り方を見出しているシュガーにとって、
もう同じような走りは怖くない。

淡々とペースを刻むホワイトテイルに対して、シュガーライドは4バ身ほど後ろでしっかりと脚をためる。

(いいわよシュガー。ハイペースで飛ばす相手にも、しっかりとマイペースでついて行っている。あとは終盤で追い越せば……)
シュガーのスタミナと、適応力の高さ。この2つにトレーナーはとても感心していた。
相手が逃げの手を打っても、自分自身が走れるペースで追走できれば、攻略しきれるかもしれない。レースの定石の一つであったが、トレーナーの中ではそれをシュガーに対して実感している。

1コーナー、2コーナー、向正面と行っても、レースは淀みなく進む。
1000mは58秒台と少し早めのペースであった。

シュガーが仕掛け始めたのは、3コーナーを過ぎた時。
「行きますッ!!だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スズカの時よりも仕掛けをやや遅くすることで、レース最終盤までしっかりと全力の脚を使い切れるように、トレーナーが考えた走りだ。
4コーナーを曲がりながら、小回りの効いた加速でホワイトテイルを追い抜き、先頭に立つ。
……はずだった。
316 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/12 05:02:45 ID:FUQraIS7lQ
追い抜いた直後だった。シュガーに変化があったのは。

(っ……!? なに……?脚、うごかないっ……)
ほんのコンマ1秒にも満たない、しかし何秒にも感じられるような感覚。
シュガーは実感したのだ。”脚が完全に止まって、動かなくなってしまう”のを。

その僅かな瞬間に、ホワイトテイルは二の脚でシュガーを差し返し、振り切る。

(あ……っ!)
「くぅぅぅぅぅっ!!」
シュガーは我に返り、ホワイトテイルを追いかける。
しかし、僅かなフリーズが命取りの超速レースの世界……その差は縮まらなかった。

……結果は、3バ身差でホワイトテイルの1着。

周りの観衆たちは「惜しかった」という感情を抱く者が多かった。
しかし、シュガー自身は納得していない様子。

「はぁっ……はぁっ……あのとき……なんで……!?」

ほんの一瞬だった。4コーナーでホワイトテイルを追い抜いた時、シュガーの脚は確実に”動かなくなっていた”。

トレーナーにそれを伝えると、彼女はまず顔を真っ青にした。

「しゅ、シュガー……脚の精密検査を、受けてみましょう……」
「えっ!?」

トレーナーが疑ったのは、脚の故障。
皐月賞前にそれが発生したとなると、まずは出走を断念せざるを得ない。
さらには、それがどこまで深刻な症状であるか……もしや選手生命にも関わるレベルかも知れないのだ。

「わ、わかりました!」

が、シュガーには内心の大部分は伝えていなかった。今から不安にさせてしまっては、まだ幼い子供心を傷つけすぎてしまうからだ。

そして大病院へ行き、シュガーは検査を受けることになる。
317 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 04:17:29 ID:oEOUlCNK4E
出た結論は……「異常なし」。

MRI検査などを行い、徹底的に身体の不調や異常をチェックしたのだが……シュガーはあまりにも健康体そのものであったのだ。
もちろん、脚部不安なんてものもなく、近頃は食事に対する血糖値スパイクも抑制できている。

検査の後でトレーナーから真意を聞かされたシュガーは「そんなに心配してくれたんですか!?大げさですよ~」
とその場では笑って流したのだが……。

(……じゃあ、あのときのアレはなんなんでしょう!?)
4コーナーでホワイトテイルを追い抜いた瞬間の、脚のフリーズ。
医者からも異常なしと言われてしまえばそこまでであり、あと数日に迫った皐月賞に不安を残す結果となってしまった。


次の日。栗東寮では、桜花賞を勝利したニシノフラワーのための祝賀会が開かれていた。

前目につけての好位抜け出しで、トリプルティアラの1冠目を掴んだフラワーの目前には、好みの料理がたくさん並べられている。

「わぁ……!こんなに、食べてもいいんですかっ!!」

夢のような空間に目をキラキラとさせるフラワー。

「はい。今日はあなたのためのお祝いです。"モード変更、楽しむ"に移行しましょう。フラワーさん」

ルームメイトのミホノブルボン含め、上の学年のウマ娘たちがサプライズで仕込んだものである。

(……いいなぁ。わたしも、皐月賞で勝ったら……)
今日は参加者の一人として……シュガーライドは、お祝いイスに座るフラワーに自分を重ねていた。

(でも……なんだろ……こんなに不安で……)

前日のホワイトテイルとの併走で、シュガーの心に影を落とすこととなってしまった謎の現象……解決策が見出せないままで皐月賞当日を迎えてしまうことに、
心の中で焦りも少し出ている。
318 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 04:18:09 ID:oEOUlCNK4E
そんな時だった。
「……シュガーライドさんも、食べて良いんですよ?」
「あ、ジャーニーちゃん!」

不安な表情を浮かべるシュガーに声をかけてきたのは、ドリームジャーニー。
シュガーが学園内で出会った先輩ウマ娘の一人であり、なんとオルフェーヴルの姉である。
歳の離れた先輩でありながらも"ちゃん"付けで呼ぶシュガーだが、ジャーニーの方は気に入っているとか。

「なんというか、しょくよくが……」
「それは……いけませんね。レース前に節制気味であるならまだしも、食欲が無いとなれば本番に響いてしまう。……何か、悩みでも?」
「そ、それは……」
何かを心中に抱えている事を察していたドリームジャーニーと、それを見抜かれたシュガーライドは、話してみることにした。

シュガーは語った。皐月賞への優先出走権を手に入れたホワイトテイルとの併走の話……そこで起きた不可解な現象の事を。


「……なるほど。ではシュガーさん。軽く食べたら、少し併走をしませんか?」
「えっ!?ジャーニーちゃんと!?」
ジャーニーからの突然の申し出。走れるのは嬉しいが、それで何か解決の策が見つかるのかと心配するシュガーだったが、
そこはウマ娘としての本能が前に出ることになり、それを承諾するのであった。
319 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 19:14:03 ID:oEOUlCNK4E
昼食を兼ねたパーティーを抜け、ドリームジャーニーと併走をすることになったシュガーライド。
二人はトレセン学園に行き、ジャージに着替え、グラウンドへとやってきた。

(ジャーニーちゃんと走れるんだ……オルフェーヴルさんもすっごく速かったけど、ジャーニーちゃんはどうなんだろう?)

シュガーから見て、ジャーニーの走りはひたすらに未知数だ。”暴君”オルフェーヴルの姉であること、自分と同じぐらい小柄なこと……その2つの要素が上手く混ざりきらず、予想も何も無い。

「……どうかしましたか?」
「あっ、ジャーニーちゃんと走るの、楽しみだなって!」
「そうですか。私もです、シュガーさん」

自身をじっと見つめるシュガーに、笑顔で返すジャーニー。
一瞬、シュガーは背筋がゾクッとした気がしたが……違和感はすぐに消えたので、気のせいだと思うことにするのだった。


(……姉上、催しを突然抜けられたかと思えば、こんな所に)

木陰から二人を見つめるウマ娘……オルフェーヴル。
ドリームジャーニーたちの不審な行動に目をつけ、真意を探るべく追ってきた。

「それにしても、久しいな……”あのような状態”の姉上を見るのは」
320 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/15 00:45:43 ID:MS2V7DzGv2
「______私も追い込み脚質なので、シュガーさんの好きなタイミングでスパートを掛けてください」

その申し出の通り、スタート直後からドリームジャーニーとシュガーの走るペースはほとんどピッタリであり、同じ歩幅で走っていると言っても過言ではなかった。

(シュガーライドさん……思った以上の成長を遂げているようだ)
(ジャーニーちゃんっ! あなたのおかげなんですけどね!!)

シュガーと並びながら、ジャーニーは心のなかで驚いていた。去年の夏のデビューからの、この少女の進化に。

シュガーもなんとなくジャーニーの考えていることを理解し、返事をするようにアイサインを送った。

そして展開が動いたのは、4コーナーに差し掛かってからである。

(じゃあっ、ここからっ!!)

シュガーは広めのストライドに超人的なピッチを加え、歩幅を強化しながらスパートを掛け始めた。
ドリームジャーニーを3、4バ身も突き放し、一気に先頭に立つ。

その瞬間であった。先日と同じく、足がすごく重たくなり、走っていないようにも感じてしまう。そして、するどい刃物か何かで刺されたような、冷たい衝撃。
同時に湧き上がってくる、恐怖。

(やだっ、なんで、なんで。……っ!?)

直後、シュガーのスローになった視界に映ったのは……獣のような目つきで自分を追い抜くドリームジャーニーの姿であった。
321 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/15 04:10:25 ID:MS2V7DzGv2
そして結果は、ドリームジャーニーの圧勝。
ホワイトテイルの時よりもバ身が開くことになってしまった。

「はぁっ……はぁっ……また、だ……」
息を荒げながら、あの感覚を思い出し続けるシュガー。
ハッキリと理解した。
自分は、怖かったのだと。


「……すみません、あの様な走り方をシュガーさん相手に」

立ち尽くすシュガーに、ジャーニーは頭を下げて謝罪した。
同時に、この併走の真意を伝えた。

「ホワイトテイルというウマ娘は……恐らく先程の私と同じ様に、自分の前を走ったシュガーさんに”ぶっ潰す”という強い感情をぶつけたのでしょう」
「ぶっつぶすっ!?」
「あくまで競争の中でですが、ある意味それを逸脱した物だとも言えます。私にもあるんですよ、とても強いライバルがいたら……喉元に食らいついてやるとか思うこと」

(わ、わぁ……)
いつもは平静で優しいドリームジャーニーにも、そんな一面があるのだと……心のなかで語彙力を失うシュガー。

「お話を聞いて、もしかしたらと思って……かなり近いと思う感情をむき出しにしてみたのですが、やはりという感じですね。あなたは……とても強い感情をぶつけられて、恐怖心が勝ってしまっている」

「きょ、恐怖心……わたしの心に……」

理解したつもりだった。だが、ジャーニーの説明でさらに腑に落ちた。
自分の脚は不調というより、ライバルからのプレッシャーによる強い恐怖心で止まってしまったのだと。
本番まで時間がない。シュガーは新たな課題の登場に、焦りを見せ始めるのだった。
322 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 04:48:46 ID:n8d0UQ0gn6
皐月賞、当日。

かなりの快晴に恵まれ、バ場状態もいい。

桜吹雪の中で、絶好のレース日和であった。


「ああああああっ!どうしましょおおおおおおおっ!!」

「落ち着きなさいシュガー」

ついに課題を解決できないまま本番を迎えてしまったシュガーライド。
トレーナーとも協力して色々考えたが……あまりにも時間が足りなかった。

(レースが動くのは終盤……恐らく、ホワイトテイルとシュガーの一騎打ちになる……問題はその瞬間よね……)

シュガーから事情をしっかり聞いたトレーナーも一人で出来ることを探したが、解決には至らずである。
後方にいる、バ身が近いウマ娘から強いプレッシャーを受けたとき、一瞬でも脚が止まってしまうという問題……実戦にそれを持ち込んでしまえば、GIで1着を目指すのはとても困難だ。

……しかし、いくら狼狽えていようとも、シュガーライドは走る気だ。

なぜなら、彼女は既に勝負服へと着替えているからである。

「……はぁ。こ、ここまで来たら……やるしかないんですよね。いいですよ、やってやります。そして、勝ってきますから!!」

トレーナーは正直なところ、行かせたくなかった。皐月賞が穫れなくても、ダービー・菊花賞がある。しかし、そんな話をしてしまえばシュガーはとても怒ってしまうだろうというのは目に見えていたので、

ターフに向かう小さな天才少女の後ろ姿を……見送るしかなかったのだ。
323 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 06:42:39 ID:n8d0UQ0gn6
ちょっとここで安価復活>>324(ホワイトテイルの勝負服)

容姿
・雪のような白毛
・イケメン寄りのお顔
・尻尾はもふっとしている
324 : 使い魔   2024/10/17 07:00:00 ID:YFFPHpKrmE
自分同様、真っ白な燕尾服。
325 : モルモット君   2024/10/17 07:22:33 ID:n8d0UQ0gn6
>>324
デュランダルさん!?
326 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 07:56:53 ID:n8d0UQ0gn6
いやこれデュランダルじゃない……アルダン??
327 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 08:17:28 ID:n8d0UQ0gn6
地下バ道を進むシュガーライドの視界に、一人のウマ娘が映る。

(あれ、は……あっ!)

彼女にとっては、見覚えがありすぎる相手であった。
それと同時に、今回立ちはだかる強大な壁。

「……あなた、この間の」

足音と気配に気づいたのか、ホワイトテイルが振り向く。

彼女の勝負服は、燕尾服を思わせるデザインのものだ。
細身ではあるがそのスタイルの良さが際立つ、おそらくパドックでもビジュアルだけで注目を集めるであろうそれに、

(かっこいい……)
思わず見惚れてしまうシュガーであった。
「何か用でも?」
「あっ!すみません、勝負服がかっこよくてついつい……」
「……なんだ、それだけか」

ホワイトテイルは踵を返してターフへと向かう。
そんな彼女をシュガーは大声で呼び止める。

「あのっ!!」
「……だから何なの?」
「こっ、この前はギリギリで負けちゃいました!でもっ、今日は負けません!皐月賞、わたしが勝ちますからっ!!」

シュガーが言い放った宣戦布告は、ホワイトテイルだけに向けられているものではない。
自分自身への言葉でもあった。絶対に勝つ。恐怖にも、勝負にも。
そんな思いを込めながら、シュガーは叫んだ。

「……同じ」
「えっ?」
「私も、同じ。一番人気である、あなたにだけじゃない。全員に勝つ」

それに答えるように、ホワイトテイルも宣戦布告。あっけにとられるシュガーに背を向け、今度こそターフへと歩いていくのだった。

(全員、かぁ……)

そう、ライバルとなるウマ娘はホワイトテイルだけではない。
全員を追い抜かなければ、一着はありえない。
シュガーは両頬を叩くと、気合を入れる。

そして自分も、ターフへと向かうのだった。
328 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 19:14:51 ID:n8d0UQ0gn6
『快晴に恵まれた中山レース場。クラシック3冠の第1戦・皐月賞がまもなく発走となります』

桜花賞から続く、クラシックGIの2戦目……会場には大勢の観客たちがいて、既に大歓声だ。

パドックで、ポージングによる自己アピールをする出走ウマ娘たち。その中に、シュガーライドの姿もあった。

(わ、わたし、ついにこのレースまで来ちゃったんですね……!)

まだ着慣れていない勝負服に身を包み、クラシック3冠の舞台に立っていることを驚く少女は、圧倒的一番人気である。
ホープフルステークスでの勝利もあるが、まだ小学生というハンデすら感じさせない圧倒的な走りが、ファンの心を掴んでいるようだ。

(不安なことはまだあるけど、後はもう走るだけ。ですっ!)

走ってみないことには何もわからない。上手くいくかもしれない。
だから自分は自分の走りをするだけ。
強い意志に飲まれるなというメジロブライトからのメッセージも思い出し、
シュガーライドは前を向く。

シュガーの枠>>329
ホワイトテイルの枠>>330
レース展開(中盤まで)>>331
329 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 20:27:58 ID:n8d0UQ0gn6
あー待ってこれは自力がいいかぁ……
330 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 20:50:45 ID:n8d0UQ0gn6

シュガーの枠は18枠中の最内1番ゲートであった。
ロスなく走れるポイントではあるものの、追い込みのウマ娘にとってはバ群からの抜け出しが必須になってくる場所でもある。
対して、ライバル・ホワイトテイルの枠は大外。
逃げを打つのならば、臨機応変な展開が求められる。外目はスタミナを多く消費するというのは、レース界での常識である。

(……)
ゲートの中で、出走を待つシュガー。
太陽の日差しに温められた中山の芝はとてもふかふかしていて、
踏んでいるだけでも気持ちがいいようだ。

『さあ、最後に大外枠・2番人気のホワイトテイルがゲートイン。これで18人がゲート入りして、体勢完了です』

「よしっ……!」

実況が聞こえて、シュガーは気持ちを切り替える。

『最初の1冠目を掴むのはどのウマ娘か?皐月賞……今、スタートしました!』


ちょうど埋まるから>>331だけ安価
331 : アンタ   2024/10/17 21:07:13 ID:YFFPHpKrmE
皐月賞は芝2000m。後方に居ると不利なのでシュガーは集団の中程に位置を取る。先頭から数えると5番手。ホワイトテイルは7番手だ。
スタート地点から約275mは下り坂が続き、体力の消耗は少なめ。第1コーナー、そして第2コーナーを無事通過。
向正面でシュガーは1人抜いて4番手に位置を上げた。ホワイトテイルも6番手。
第3コーナーを周り、そして最終コーナーを周ると「中山の坂」が待ち構える。約2.4mの高低差をたった300mで駆け上がるのだ。
332 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/18 03:59:18 ID:gLUKOWhDoM
『4番・5番が逃げてペースを作ります。1番人気シュガーライド・2番人気ホワイトテイルは
共に中団。後半の末脚に期待がかかります』

スタートしてすぐ、会場のざわつきが大きくなった。
各ウマ娘が揃っての駆け出しだったのだが、逃げると思われていたホワイトテイルは先頭から7番手ほどに構えたのだ。
(えっ!?逃げないんですか!?)
驚くシュガーも5番手の位置を走っている。今回は中団で脚を溜め、最後の短い直線で爆発させるという計画があるのだ。
だからこそ、ホワイトテイルのポジション取りは都合がいいと思った。
一番警戒したいライバルがもしも埋もれるようなことがあれば、あとは独走するだけなのだ。

『バ群はやや縦長の展開。各ウマ娘、下り坂を超えていきます』
先頭を逃げる二人のウマ娘のペースは速いようで、それに釣られてか全体の空間がやや広くなっている。
その後、滞りなく1コーナーと2コーナーを回り、向正面へ。
(少し、位置を上げないとっ!)
ポジションをキープしていたシュガーだったが、後半の仕掛けどころを確保するために、前を走っている一人を空いた隙間から抜いた。それと同時に最内レーンからも外れている。

……が、シュガーが気づいていないのは、ホワイトテイルも同様にポジションを上げてきている事である。

『さあ、3コーナー・スパイラルカーブに掛かります。ここからが仕掛けどころ!』
333 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/18 03:59:29 ID:gLUKOWhDoM
レース終盤。小回りの強い3・4コーナーに入った。
外目を回るウマ娘や大回りな走りのウマ娘は、ここで脱落するかロスを大きく受けやすい。
(ここからッ!)
『シュガーライド仕掛けたっ!ややインを突く形で前に出て、先頭を捉える勢い!』
前が膨らんだり、逃げのウマ娘たちのペースが下がってきたのを見て、ここで仕掛けることを選択したシュガー。
闘志に火をつけ、脚の回転数を大幅に上げながら、前をどんどん追い抜いていく。
『シュガーライド先頭!シュガーライド先頭ッ!』

(いけますっ!3冠の最初の一つ!わたしがッ!!)
眼の前には誰もいない。あとは最後の坂を登るのみ。
……のはずだった。

(あ。)

感じる、硬直。
まさか?何で?と不思議に思うシュガー。
もう少し、なのに。もう少しで、勝てるのに。

スローになっている視界に入ったのは、後続をぐんぐん抜いて上がってきたホワイトテイルの姿だった。
334 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 04:35:39 ID:N5jlIM3Er6
______動いて、動いて、動いて。
何度そう願っても、先頭からある程度引き離されるまで、
また脚が動き出すことはなく。


『ホワイトテイル1着ーッ!前走とは打って変わった圧倒的な末脚で、皐月賞を制しました!!』

実況とともに、勝者へと送られる歓声。

今年の皐月賞を勝ったのは、2番人気のホワイトテイル。
リステッド勝ちからの大舞台での勝利ということで、SNS等では既に大盛りあがりを見せている。

(まけ、た……)
シュガーライドは最終直線で追い抜かれ、巻き返せなかったものの後続を引き離しての2着。それにより2冠目・日本ダービーへの出走権も獲得したのだが……、

(わたし、かてなかった……1冠目……とれなかった……)

ここでの敗北は3冠ウマ娘への道が閉ざされたことを意味している。
しかも、無敗でもなくなってしまった。
シュガーの心に渦巻くのは、くやしさ。
ただひたすらに、色々な目標が閉ざされた事へのくやしさ。

またやってしまったと思った。ドリームジャーニーから言われた「恐怖心」を克服できずに、
脚が止まってしまった。本番でそれを発生させてはいけなかったのに、やってしまった。
335 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 04:36:04 ID:N5jlIM3Er6
(……)
ターフの上で立ち尽くすシュガー。
そこに……。

「本気じゃなかったね」
「あっ……!」

ホワイトテイルが話しかけてきた。少しばかり苛立ちを見せているようにも感じて、シュガーは驚いてしまった。

「今回、私は勝った。でも、つまらない」
「どう……してですか?」
「最後、あなたを追い抜いても、何も感じなかった。前に走った時と同じで」
「それ、は……」

シュガーはなんとなく察した。ホワイトテイルは、実力を最大限発揮した相手と戦いたいのだ。しかし、2度の対決でも、シュガーは恐怖心によって力を出しきれずに敗北している。

「……ダービー。ここでは見せてくれるかな?あなたの本気」

ホワイトテイルはそう言い残して、記念撮影や勝者インタビューへと臨んでいった。

(わたし……どうすれば……)

シュガーは色々な不安を抱えつつも、その後のウイニングライブ「winning_the_soul」を2番手でしっかり歌って踊り、最後まで気丈に振る舞っていた。

帰りの電車の中ではトレーナーに抱かれながら、降りる駅までずっとすすり泣いていたのだが……それはまた別のお話。
336 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 07:05:07 ID:N5jlIM3Er6
皐月賞が終わって数日。休みも終わったシュガーライドは、トレーニングに復帰していた。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!」
練習コースの最終直線。普段の自分のスタイルを意識して、末脚で駆ける。
「いい上がりタイムよ!シュガー!これなら次の日本ダービーでも……」
計測をしていたトレーナーからも高評価で、皐月賞からの悪影響は感じられない。

次はダービー。今度こそ、負けられない。負けたくない。本気で走って、勝ちたい。
そう思ってはいるのだが……。

(わたし……やれるのかな?)
2本目を走りながら、シュガーは悩んでいた。
ここでいい走りをしていても、本番で最高のパフォーマンスを発揮できるのかと。
何より、恐怖心を克服できていないのだ。後方から強い闘志を向けられた際の、脚のフリーズを。

ダービーでもそうなってしまえば、勝ちはないとわかっている。
ホワイトテイル以外からもそれを向けられてしまうかもしれない……誰が相手でも、
この状態は克服しなければならない大問題なのだ。

______トレーニングが終わり、更衣室で制服に着替えたシュガーは、噴水前のベンチに座っていた。

「はぁ……」
大きなため息を吐き、うなだれるシュガー。
今の彼女の心の中には、おそらく人生最大の不安が詰まっている。
そこに、一人のウマ娘が現れた。

>>337
337 : トレーナー君   2024/10/19 11:05:15 ID:N5jlIM3Er6
安価下 次で来なきゃ自力で

(公式化ウマ娘で)
338 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:37:28 ID:N5jlIM3Er6
書けたので停止で
339 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:52:15 ID:N5jlIM3Er6
「シュガーライドさんも来てたんですね!」
「あ、フラワーちゃん……」

自身も練習終わりなのか、少し火照った様子でベンチに腰を下ろすニシノフラワー。
今のシュガーとは対象的に、明るい表情を浮かべている。

「フラワーちゃんは……いいですよね」
「えっ?何がです??」
「この前、桜花賞で勝てて……次のオークスで勝ったら2冠目……だけど、わたしはもう……」

不安げに話すシュガーを見て、フラワーはグッと彼女の手を握った。

「えっと、そのっ! わたしもっ、ほんとは不安でいっぱいで……しかも1回負けちゃってますし、シュガーさんの気持ち、わかりますっ!!」
(あ……)
熱心に喋るフラワーに、シュガーは思わずハッとしてしまう。
ニシノフラワーも、桜花賞の前哨戦を勝てずじまいに終わっていたじゃないかと。
だけどこの少女は、一生懸命に前を向いている。
そして桜花賞を制覇した。

「だけどっ!負けちゃってもっ!無敗じゃなくなってもっ!1度かけた”魔法”は消えないんですっ!!」
「……まほう?」
「あっ、すみません!スイープさんからの受け売り、です」

そういえばと思うシュガー。
スイープトウショウといえば、いつも熱心に魔法の研究をしている。
彼女が、よく言っていることがある。
340 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:52:37 ID:N5jlIM3Er6
「レースの、魔法……」

ふと思い出す。トレセンに来てからのことを。
色々な人と出会って、様々な形で応援をしてもらっている。
シュガーは気づく。自分の持つ影響力というものを。

それはまるで魔法のように、シュガーから誰かへ、誰かからシュガーへ移っていく。

その魔法は、簡単には消えない。
自分がやってきたことは、負けたくらいじゃ無駄にはならない……!

(応援してくれてるみんなが、いまの”わたし”を作ってる……そうなんですね。
ああ、なんだろう……そう思うだけで、安心してきます)
自分の中の、記憶や経験、想いを改めて感じ取ったシュガー。
そうしているうちに、不安や恐怖心はどんどん薄れていっているのがわかった。

「……ありがとう、フラワーちゃん。わたし、次の日本ダービーは勝ちます!」
「じゃあこっちも、オークスを勝ちますっ!」

前を向いたシュガーはフラワーに向けて誓い、
改めて日本ダービー制覇を目指すのだった。


そして数週間後、5月の半ば。

オークスは、予想外の結末を迎える。

『なんと1番人気ニシノフラワー!7着ッ!着外という結果になってしまいました!!』

最終コーナーまではスムーズに回れたものの、そこから伸びきれずの7着。
テレビで中継を見ていたシュガーにも、衝撃的な出来事となった。

(フラワーちゃん……でも、わたしは絶対、ダービーを勝ちますから……!!)

あの日の誓いを、自分も破ってしまうことだけは避けたい。
きっと、どちらも変な空気が流れてしまうかもしれない。
友人関係的な話でも、シュガーにダービーを勝つ理由が増えてしまった。
341 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:53:10 ID:N5jlIM3Er6
その後シュガーは、今度は自分からドリームジャーニーに声をかけに行く。
「おや、また併走ですか?……あの日よりも、なんだかいい目をしていますね」
「はいっ!今度は負けませんっ!」

1ヶ月前のリベンジで、もう一度併走を行うことになったシュガーとジャーニー。

シュガーは、ただ気持ちを切り替えただけではない。
それをここで試したいのだ。自分の成長を。

「よし、それじゃあ……スタートッ!」

グラウンドに移動し、トレーナーの合図で駆け出す両者。
どちらとも絶好のスタートを切り、そこでのロスは見られない。

(なるほど、短期間で状態がとても良くなっている。しかし、最終直線でどうなるか……)
ドリームジャーニーは走りながら、シュガーの心の問題を気にしていた。
ここを解決しなければ始まらない。次のダービーにも100%では臨めない。
そして問題の3・4コーナー。
「行きますっ!だぁぁぁぁぁっ!!」
シュガーが前に出てスパートを掛けに行く。
その瞬間、感じる。
(……っ!!)
とてつもないプレッシャー。今にも脚を止めたくなるほどの、強いプレッシャー。
しかし、今は違う。

「これは……!!」
ドリームジャーニーがシュガーに並ぶ。そして追い抜こうとする。だが、抜けないのだ。

(なるほど、これがオルに迫ったというっ!!)

妹・オルフェーヴルから聞いていた……突き放したものの、ギリギリまで迫られたという話。
前回見られなかったその末脚を、彼女は今この目で見ている。

そしてシュガーはそのまま、2バ身ほどの差をつけてゴールするのだった。

併走の後、木陰で水分を摂る二人。
とてつもない進化を遂げていたシュガーに、ジャーニーが尋ねる。

「……何があなたを変えたんです?」
「なんでしょうね?むずかしいですけど……」



______数日後。ついに日本ダービー当日を迎えた。
342 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 16:35:47 ID:N5jlIM3Er6
『オークスの熱気冷めない中、東京レース場ではついに日本ダービーが開催されます』

クラシック級ウマ娘の出るクラシックGIの中でも、日本ダービーは特に格式の高いレースと言われている。この路線に進んだウマ娘たちは、3冠の中でも特にダービーだけは絶対に勝ちたいという娘が多い。

そんな人気の高さは観客たちにも現れており、東京レース場の指定席も自由席も開始30分前の今の時点ですでに超満員となっている。

「シュガー。ダービーよ」
「はい、トレーナーさん!ダービーですね!」

控室で勝負服に着替えたシュガーは、備え付けのソファに座ってトレーナーと会話をしていた。
クラシック2冠目……今度こそ勝ちたいという想いは、ヒトもウマ娘も同じ。
ここ最近のシュガーの変化に最初は驚きを隠せないトレーナーであったが、走りにも現れているのを感じ取って納得したようだ。

「日本ダービー……ぜったい勝ってきます!」
「ええ、記念撮影もしましょう。絶対」
「はいっ!!それに、ライブのセンターで歌ってるのも、しっかりろくがしてくださいねっ!」

勝った暁の様々な約束事を交わし、シュガーライドは控室を後にする。
343 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 16:36:16 ID:N5jlIM3Er6

「ふぅ……」
少し呼吸をするだけで、その音すら反響する地下バ道。この空気感をシュガーは意外と気にっているのだ。

「……来たね」
少し歩くと、待ち構えていたかのようにホワイトテイルの姿があった。

「私は、ここも勝つ。そして3冠目も」
「いいえ、ダービーも菊花賞も、わたしが勝っちゃいますから!」
「……すごい自信」

物静かで、やや寡黙な一面のあるホワイトテイルも、シュガーの熱意には表情を変えて驚く。
そんな彼女に、シュガーは少し話をしてみることに。

「気になってたんですけど、どうしてそんなに強いんですか!つまり原動力ってなんですか!?」
「……走るの、好きだから。それで1番になって、もっと上の頂点に立ちたい」
「へぇー!わたしと似てます!わたしも、走るの大好きですからっ!」

普段は無口なホワイトテイルも、話してみれば自分と似たような熱意を持っている。
ギリギリまで抱いていたクールなイメージが少し和らぎ、心の中で彼女を想う感情に変化があることを感じ取ったシュガー。

(……今日は、今まででいちばん頑張れそうですっ!)

さらなる自信をつけて、ターフへと向かっていくのだった。
344 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 03:43:57 ID:I0FsyMs1uI
『まもなく発走を迎えます、日本ダービー。前走の覇者であり1番人気のホワイトテイルは4番ゲートです。今回はどのような走りを見せてくれるのか』

5月の暖かさが感じられる晴れ模様となった東京レース場のターフに、18人のウマ娘が集う。
ホワイトテイルは内寄りの4番ゲート。
シュガーライドは10番ゲートだ。
バ場状態も良く、芝の荒れはどのレーンでも少ないようである。

観客たちが今回期待しているのは、ホワイトテイルの作戦だ。逃げても追い込んでも圧倒的な走りを見せる彼女の変幻自在な脚質に、注目が高まっているのだ。
対するシュガーはこれまでの戦績もあって2番人気。やはり前走での敗北が響いた形だ。

「すーっ……はぁー……」

ゲートの中で、ゆっくりと深呼吸をするシュガー。
時折、地面を踏みしめて感触を確かめたりもしている。

(日本ダービー……ウマ娘たちの、おっきな目標……)

まだ普通の小学生だったあの頃も、毎年の日本ダービー開催時はテレビに食いつくように見ていたのを思い出す。シュガーにとっても、ダービーというのは何か大きな輝きを感じるGIレースなのだ。

『最後に、大外枠18番のウマ娘がゲートインして……各ウマ娘、体勢完了です。
さあ……これから始まるのは、優駿たちの夢の祭典ッ!日本ダービー……今、スタートしました!』

〈日本ダービー 東京2400m 芝 晴・良 18人 左〉
345 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 06:05:19 ID:I0FsyMs1uI
『各ウマ娘、揃っての綺麗なスタート。果たして誰が行くのか……』

シュガーライドも出遅れることなく、スタートダッシュを決めた。
夢に向かって駆ける18人のウマ娘たちが、それぞれの走りでレースを作っていく。

『まず前に出たのは最内1番のウマ娘!……おおっと!これは意外ッ!1番、大逃げに打って出たッ!!』

最内枠を走るウマ娘が、最初から前を突き放し続ける「大逃げ」を選んだ。
2400mという距離にもなれば、そのハイペースさから終盤に失速してしまうこともあるが、ハマればそのまま逃げ切ってゴールしてしまう、博打のような脚質作戦だ。

後続のウマ娘たちはそれに付いていかない選択をした。同じだけのペースで走れば、自分も失速してしまうリスクを伴う。突き放される覚悟と追いついて追い抜く覚悟の両方を兼ね備えなければならない。

(前、どうなってるんでしょう……)
シュガーは最後方に控える形を取った。
いつもの通りの終盤の末脚を発揮するのに、このポジションは十分すぎる。
前の状況が全く把握できなくなるというデメリットはあるが、最後は全員を追い抜くのだから関係ない話なのだ。

(また、中団からか)
1番人気ホワイトテイルは、大逃げを警戒して団子になっている中団の、13人中7番手ほどにいた。本人としてはどこでも走れるのだが、個人的には逃げを好んでおり、皐月賞と同じく先頭にいけないことに憤っているようだ。


『各ウマ娘、スタンド前を通過し1コーナーに掛かります。しかし先頭1番は、すでに2コーナーを過ぎる大逃げを続けているッ!』

大逃げを続ける1番のウマ娘は、まだペースが落ちないようだ。
そして後方のウマ娘たちが同じく2コーナーを通過する頃、1000m通過タイムが発表された。
『最初の1000mは57.6!これはとてつもないハイペース!先頭は粘り切れるのか!後続は間に合うのかーッ!?』
346 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 06:54:53 ID:I0FsyMs1uI
そして、坂を下って3コーナーに入った所で、展開が動き出す。

『ここで後続のウマ娘たちが前に行き始めるッ!先頭1番は厳しいか!?』
流石のハイペースも、ここまでといったところだろうか。
徐々に遅くなりだし、それに合わせて後続が一気に差をつけようと前に出る。

(ここからっ……!)
最後方にいたシュガーライドも、団子状態が解消され始めていることに気づき、急加速を始めた。
4コーナーを回れば最終直線の前に急坂が待ち構えており、この地点で一瞬だけペースが落ちる。
そこを、天才少女は見逃さなかった。

「だあぁぁぁぁぁぁっ!!」

『ここで大外からっ!最後方からぐんぐん伸びてくるのはシュガーライドッ!皐月の雪辱を果たせるか!!』
小柄な身体と圧倒的な瞬発力で、外からバ群を追い抜いていき、トップに躍り出る。

(……させない!)
ペースが早くなりだして5番手ほどにいたホワイトテイルも加速を始める。
残り525mの最終直線。前回、シュガーライドを追い抜くに至った末脚で、ここでもまた勝利を攫わんと駆ける。

(来ましたねっ!でもっ、もうっ、止まりませんッ!!)
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ホワイトテイルが自分の後ろにいることに気づくシュガー。しかし、少女の脚は止まらない。
何が彼女をそうさせているのか。恐怖心はどこへ行ったのか。
(わたしはっ!思ってるよりっ!とっても強いんですっ!!)

今のシュガーの心を支えているのは、ある種の自己暗示であった。
学園に来てから、たくさんの想いが自分を成長させて……今の自分は、強くなったと。
恐怖心なんて跳ね除けられるくらい、強くなったんだと。

だからもう、少女は止まらない。

『シュガーライド先頭ッ!ホワイトテイルも追いすがる!しかし差が縮まらないッ!
4バ身ッ!シュガーライド、先頭でゴールッ!!!!』
347 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 07:27:24 ID:I0FsyMs1uI

______何があなたを変えたんです?
______なんでしょうね?むずかしいですけど……。



「はぁっ……はぁっ……!!」

激走の末、シュガーライドは1着になった。
GIを、それも日本ダービーを制覇したのだ。

大の字になってターフの上に寝転ぶ形となり、大きく息を吸って吐くを繰り返す。

「か、かてっ、ましたっ!!」

歓声に包まれながら、宙に向かってガッツポーズのように手を伸ばし、喜ぶ。
ダービーを制覇できた。そして、弱点を克服できた。
最高の気分であった。やりきったと感じた。

「……そんなに強かったんだ」
「あ、ホワイトテイルさん……」

見下ろし、話しかけてくるホワイトテイル。
笑みの中に、僅かだが驚きも混ざっている。

「……やっと、本気で勝負できたね」
「はいっ!やっと、本気のわたしを出せましたっ!」

皐月賞の後に言われたこと……

本気で走っておらず、そんな自分を追い抜いても嬉しくなかったと。
何も感じなかったとまで言われた。

しかし今回は違った。
どちらも、最後の瞬間まで燃える走りができたのだ。

「……あと1冠。菊花賞は、私が貰う」
「いえ!菊花賞も勝って、わたしが2冠ウマ娘ですっ!」

だが、まだ終わりではない。クラシック3冠の最後の1つ、菊花賞が残っている。
10月に行われる、京都レース場での3000mという長い距離で行われるGI競争だ。

「ふぅっ……よし!」
呼吸を整えたシュガーはゆっくり立ち上がると、客席に向かって深々と一礼。
こうして天才少女は日本ダービーを制し、心身ともにさらなる成長を遂げるのであった。
348 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 19:19:18 ID:I0FsyMs1uI
激走の日本ダービーから数日。
トレセン学園は梅雨に入り、夏の気配を感じ始めていた。

「______それで、相談ってなによ?フラワー」
「はい、スイープさん。実はですね……」

雨降る渡り廊下で、
まるで密談のように会話をするニシノフラワーとスイープトウショウ。
フラワーがスイープに相談したのは、自身の今後の路線についてであった。

「トリプルティアラを諦めて……短距離路線に挑戦したい?」

フラワーはマイル中距離路線を諦め、短距離・マイル路線を戦っていきたいという。
一番は距離適性の問題があり、トレーナーの見立てでは2000mの距離も体力が持たないとのこと。

「わたしは、自分の走りが誰かにとっての魔法になるんだって気づきました。
でも、今のままじゃそれをしっかり届けることができないんです。だから……」

満足に走れないようでは、自分の想いを周りに届けられない。
そのためには、短距離路線が一番合っている……ということだ。

それに対してスイープは数秒黙り込んだ後、返事をする。

「いいんじゃない?グランマにも言われたの、人生は1度しかないから、思ったことをやりなさいって。まぁ、アタシはトリプルティアラを目指そうと思ってるから、中距離で当たれなくなるのは残念ね」

最も尊敬する祖母の言葉を引用し、フラワーに肯定の言葉を返すスイープ。
フラワーは意外そうな顔をした。少しでも否定されるものかと思っていたからだ。
そもそもなぜスイープに話を持ちかけたのか。
349 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 19:19:26 ID:I0FsyMs1uI
今のフラワーにとって、スイープがある種の特別な存在であったのだ。
デビューはまだ先だが、自分じゃたどり着けない考えや言葉をいくつも持っていて、
憧れの的のような存在なのだ。

「じゃあとりあえず心機一転で……アタシのことをタメ口で呼ぶこと!」
「えっ!それじゃあ……スイちゃんとか?」
「良いわねスイちゃん!それでいきましょ!!」

スイープのことをあだ名で呼ぶようになったフラワーは、
自分の中で小さな何かが成長したのを感じた。
そして先程よりも確かに、短距離路線への意識を強く持つのだった。
350 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 02:54:06 ID:poree9YDWI
シュガーの方はというと、ダービーの後はトレーニングを行いつつの休養期間に入ることにしていた。
サマーシリーズなどの重賞には参加せず、菊花賞に向けてのカラダつくりを徹底するのだ。
宝塚記念の投票では1桁順位に推されたりもしたが、これは当然回避。
過去にはクラシック級でありながら人気投票1位となって出走し、シニア級ウマ娘との同着で制覇したウマ娘もいるが、秋のクラシックGIへの参加が危ぶまれる程の怪我を負ったというケースがある。
そういった点も踏まえて、無理はさせないというトレーナーの方針だ。

「雨ですねぇ……」

屋内トレーニング場の窓から、土砂降りの外を見つめるシュガー。
本人としては外で思い切り走りたいところではあるが、この天気では難しいものがある。

(おへやでも出来るトレーニングかぁ……ここにはトレーニング道具がいっぱいありますけど、
今日はどれを使いましょうか?)

200kg程度のバーベルや時速60km出るランニングマシンなど、常人ではないウマ娘向けの器具は一通り揃っているのだ。

(トレーナーさんの話では、菊花賞に向けてのトレーニングは、これまたいつも通りでいいってことで……)

日々のトレーニング成果から、3000mもの長距離に対する適性の良さは既に把握されている。加えて、シュガーには並のウマ娘より強い心肺機能もあり、距離延長にも対応しきれるというのがトレーナーの考えである。

(この前なんてプールに入ったら、40分くらいもぐっちゃって……みんなビックリしてましたね……)

シュガーが出したこの記録は、競技大会であるUAFでの上位入賞の目安25分を大幅に超えており、トレーナーやその他関係者をハラハラさせたのだが、シュガーは特に気にしない話である。
351 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 15:50:55 ID:poree9YDWI
そして宝塚記念も終わった7月の初め。
季節はついに夏を迎える。

「うっみっでっすぅーっ!!」

太陽照りつける白い砂浜に、シュガーライドの甲高い声が響き渡った。

トレセン学園の夏の恒例行事、合宿トレーニングの始まりである。

そうは言っても、今日はまだ初日なので……

「使い魔!ボンベを持ちなさい!失われた海底都市を探しに行くわよ!」
「本気かスイープ!?」

海に潜りに行く者、

「おやおや?砂のお城ですかぁ。セイちゃんじっくり作るのは得意なのだ~」
「手伝ってくれるんですか!?スカイさんっ、ありがとうございます!!」

砂で遊ぶ者、

「泳ぎでも先頭は譲らない……!!」

遊泳を楽しむ者など、みなが思い思いに海を満喫していた。
ところで、先ほど高らかに声を上げていたシュガーはというと……。


「水着わすれましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

学園指定のスク水ではなく、今日遊ぶために選んでいたマイ水着……それを寮に置いてきてしまっていたのだ。
シュガーは酷くショックを受けていた。スク水では何故だか遊ぶ気が全く起きない。

「……ダービーのウイニングライブのビデオでも、見る?」
「はぁい……そうします……」

見かねたトレーナーの助言で、自身が勝った日本ダービーの、ウイニングライブの動画を鑑賞することにした。ビーチパラソルの下で日光による液晶への映り込みを避けながら、スマホを使っての鑑賞会だ。

______皐月賞での悔しさを晴らし、日本ダービーの舞台でもセンターで歌うことができたシュガー。
自分が一着なんだよとアピールするかのように、カメラへの目配りも欠かさず、まるで本職のアイドルのようだと当時のSNSでは密かな話題となっていた。
352 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 17:50:27 ID:poree9YDWI
______動画を楽しむシュガーとトレーナーを、物陰から見つめるウマ娘が一人。

「まだ小学生だよね?それであの歌とダンス、目配り……あの娘もウマドルの才能が……」

ダートの鬼だったりウマドルだったりと色々な呼ばれ方を持つ美少女ウマ娘・スマートファルコンだ。
そもそもウマドルというのはウマ娘のアイドルのことであり、ウイニングライブ以外でもステージ活動を行っている娘も少なくはない。
中でもスマートファルコンは絶対的な自信と努力心を持っていて、ライバルが出れば闘志を燃やすのだ。

そして今、スマートファルコンはシュガーライドに目をつけた。
レースの面で「小さな天才少女」と呼ばれ、ホープフルステークスと日本ダービーを勝っている。
皐月賞以外負けておらず、そこにおいても2着とウイニングライブの歌唱には参加。
ウマドル方面においても、近頃は人気が高まっているようだ。

「い、今の間に挑戦状叩きつけといたほうが良いのかな……」
目をつけたにしてはこのウマドル、弱気である。
確かにライバル宣言は早いほうが良いのだが。

「……よしっ!…………たのもぉーっ!!」

「うわぁ!道場やぶり!?ていうか道場なんですか!?」

意を決したスマートファルコンは、シュガーライドに話しかけてみるのだった。
353 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 18:27:12 ID:poree9YDWI
「……ということで、ファル子!あなたにライバル宣言します!」
「ら、ライバルですか……?」
自信満々のスマートファルコンと、これまたクセの強い先輩に絡まれてしまったと想うシュガーライド。
そもそもレースの世界でしっかり生きていくつもりでいたし、まだ心は小学生。
ウマドルとは何?な状態のシュガーは、頭上にハテナを浮かべている。


「じゃあ、難しい話は抜きにして……今から言う勝負で決着をつけちゃおう☆」
「うわあ!すごい速さのけっちゃく!!」

(何を見せられているのかしら、私は)

二人のやり取りを見ながら、置いてきぼりのトレーナー。
同じく頭上にハテナを浮かべ、困惑の表情を浮かべる。

そして、スマートファルコンが出したウマドル勝負の条件とは……

>>353
354 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 18:27:52 ID:poree9YDWI
被った>>355
355 : トレぴっぴ   2024/10/21 21:34:38 ID:w8MDlnmwus
しりとり
356 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 22:30:12 ID:poree9YDWI
『さあ、こちら某市のウマ娘用アスレチックゾーンで始まりますのは、No1ウマドルステークスっ!レースをしながらお題を解決し、なおかつ観客にも素晴らしいアピールを決めるのは、果たしてどのウマ娘か!?』

海の家から少し離れたエリアで始まるこの競技は、なんと毎年行われているものだという。
つまりは競技を通じて自身の可愛さなどをアピールし、ウマドル力を競うのだ。
障害物の多いアスレチックゾーンということで、走りの難易度も高めである。

(えっと……ナニコレ?)

観客席で無表情になっているのは、シュガーのトレーナー。
スマートファルコンから話を持ちかけられ、連れてこられたのだ。
シュガーの方はノリノリで準備をしている。

(夏休み……夏休みは?)

合宿初日。謎の行事に巻き込まれてしまい、困惑が止まらない。
シュガーの方はやはりノリノリで準備をしている。

「わたしたちの他に、16人も……ふつうにレースっぽいですね!」
「でしょでしょ?だから燃えるんだ☆」

シュガーライド・スマートファルコン以外にも、粒ぞろいな16人のウマ娘が選手として参加している。
人数で考えれば日本のURAレースと大差ない。

皆、それぞれの思いでこの競技に臨んでいるようだ。

『それでは!今回のお題を発表します!……しりとりですっ!しりと「り」から始まり、レース中に誰よりも速く次の文字へたどり着きながら、1着を目指しましょう!ドローンカメラがしっかり徘徊しておりますので、アピールも忘れずに!』

しりとり……単純な遊びだが、そこにウマ娘のレースという要素が入ると、それは途端にハイレベルなものとなる。
(こ、これは……トレーニングの一環になるのかしら?)
トレーナーはようやく、ここに来た意義を理解し始めたようであった。
357 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 08:46:54 ID:ta9OWnYVWY
(シュガー……まあ、大丈夫よね?)

未知過ぎるレースを走るシュガーを心配しながら、トレーナーは観客席で、
手元の用紙を確認する。
事前に渡されたこのパンフレットによれば、このレースは1600mの距離で開催されるという。
そして4つのコースを駆け抜け、1着を目指すのだ。

まず、スタートから200m地点までは……2mもの長さの草をかき分けながら進む。
今回はしりとりルールなので、おそらくお題の言葉を道中で見つけなければならない。

次に、400m地点までは……なんと砂のお城を破壊しながら進むという。
その中にお題が隠れているのだろうが、カメラにその姿が写ったとき、少女たちは綺麗な顔でいれるのかと不安に想うトレーナー。

そこから1000m地点までは、登ったり降りたりと立体的な迷路を進むアスレチックコースだ。どうやら、この競技のメインイベントらしい。ここでもまた、しりとりお題を突破すると……。

最後の3ハロン……つまり600mは、全速力で駆けるラストスパート。
“レース”の部分である。3つ目まででお題は終了のようで、ウマ娘の本能に従って走り続けるのみ。


「……あ、そろそろ始まるみたい」

パンフレットに一通り目を通し終えると、公式さながらのファンファーレがスピーカーから聞こえてくる。

『さあ、No1ウマドルステークス!間もなく出走です。レースに勝つだけではなく、ウマドル力をアピールできるのは、果たしてどのウマ娘でしょうか?』

「うおー!頑張れーッ!!」
「推しー!キミが一番だーっ!!」

(んん……??)

歓声の中に、アイドルのライブに来ているかのような若者たちの声が混ざっていることに気づくトレーナー。
しかし、すぐにレースに目を向け直した。

(……それもそうか。ウマドルですもの)
358 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 16:49:08 ID:ta9OWnYVWY
『各ウマ娘、一斉にスタート!まずは「り」から続く単語の書かれた紙を探して、背丈2mの草ゾーンを進みます!』

観客たちが見守る中、No1ウマドルステークスが始まった。

シュガーライドも遅れを取らず、草の中に入っていく。

「こっ、この中を進むなんて……!!」
普通に考えてもなかなかやらないコースでのレース。初めての経験に驚きながらも進む。
(り、ですよね。どこでしょうか?)
お題に答えるための用紙を探さなければならない。
しかし、2mの草に阻まれているので視界がとても見えづらくなっている。

(待って……そもそも紙って、どういうふうに置かれてるんでしょう?)
周りのウマ娘たちの足音や、草をかき分けるガサガサという音にも邪魔されないかのように、集中し始めるシュガー。
紙といえば、なにかに置かれているか、貼られているか、落ちているかがよくある。
(ここでは、なんだか地面に落ちてそうな……よしっ!)
“紙は地面に落ちている”と直感したシュガーは、視界を阻む草ではなく地面に集中して探し物を続行した。
そんな時だった。”アレ”が姿を現したのは。

「______しゃい!」
(なんの音……!?)

掛け声とともに、何かを引き裂くような音が聞こえてくる。
この大自然の中で、誰も刃物なんて持ってきてはいない。
その筈だった。

(なんだか……明るい空がみえてきて……ええっ!?)

草に潜って空からの光はかなり遮断されていた。
それが明るくなり続けている。かなり速い。
その答えを見て、シュガーは絶句する。


「しゃい☆しゃいしゃい☆」

「草をきってるー!?!?!?!?」

スマートファルコンが、自身のツインテールで、2mの草を斬り刻みながら進んでいたのだ。

『でたぁ~!!夏の風物詩、ファルコオオクワガタだー!ウマドル的にはアリなのかーッ!?』
359 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 17:50:25 ID:ta9OWnYVWY
(でっ、でもっ!おかげで見やすくなってます!)
次々と草が斬り刻まれて行くお陰で、視界が拓けてきていることに気づいたシュガー。
用紙を発見したのは、そのわずか数十秒後であった。

「ありましたーっ!!」
思った通り、地面に落ちていた紙を見つけたシュガーは、空中のドローンに向かって笑顔で手を降る。
無邪気に喜ぶ姿に、今の一瞬だけで2000人はファンが増えたようだ。


「これですよね!!」
「はい、確認します」
そうして最初の200mに到達し、係員に紙を渡すシュガー。

「りんご、ですね!通ってよし!」
「やったー!!」

無事に次へ進むことに成功。どうやら16人中9番手らしいので、次へのエリアへ急ぐ。
次の200mは、砂のお城を破壊しながら進むのだが……。

「……えっ」

シュガーは、眼の前にそびえ立つ”城”に、衝撃を受ける。
何人がかりで何日掛けたのかも想像つかないほどの大きさの、砂の城。
それが眼の前にあるのだ。

『さぁ次のエリアは、特注原寸大サイズの砂のお城をぶっ壊しながら進み、道中で次のメモを発見しましょう!!』

既に城の一部が欠けており、先行しているウマ娘たちがぶっ壊しているのがうかがえる。

「わ、わたしも急がないと!そりゃーっ!!」
砂のお城内部に突入したシュガー。
砂を掘りながら走り、城を崩壊させるつもりだ。

※最終的に崩壊する瞬間、砂は落ちるが城全体は簡易的な骨組みで出来ているので、砂に生き埋めになるようなことはない。


そして、そこにまたあの影が……。

「しゃいっ☆しゃいっ☆」

声の主……というかスマートファルコンは、既にしりとりの紙を見つけただけでなく、
城をかなり破壊している。
彼女はこの城を、どのようにして崩しているのだろうか?

方法>>360

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