【安価SS】飛び級少女がトレセン学園でGIを目指す話
1 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 05:30:15 ID:jpgfrBfaDo
がたん、ごとん。だっだっだっ……。
電車に揺られ、乗り換えて、後は駅から走って、合計1時間……今はお昼の1時くらい。
そこに、わたしの目的地はありました。

「わぁっ……!!」
そこは……門の外から見えるだけでも……とっても広くて、大きくて、通っていた小学校の何倍でしょうか?
明日から通うことになる、トレセン学園を目の前にして、わたしは思わず驚いちゃいます。
たぶん、耳もぴょこぴょこしてるはずです。ウマ娘なので!

学園に見とれていると、緑の帽子を被った女の人が話しかけてきました。
「あなたは……明日からの転入生の方ですね?お待ちしていましたよ。私、学園の事務担当……駿川たづなと申します」
「たづなさんですね!よろしくお願いしますっ!!わたしの名前は______」
わたしの方もきちっと自己紹介をした後、たづなさんに案内されて寮にやってきました!
ここはどうやら、栗東寮というらしく、寮長のウマ娘さんが案内を引き継ぐそうです!
「おやおや、本当にポニーちゃんがやってくるとはね。あ、私の名前はフジキセキ。
これからよろしくね」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
優しそうな寮長のお姉さんに案内されて、私は寮の中をひと通り見て回りました!
そして……。
「______じゃあ、キミの部屋なんだけど……色々あって誰か2人の部屋に3人目として入ってもらうことになっているんだ。その部屋は……」
>>3(公式で判明済み同室コンビの部屋。調べて★)
2 : トレーナーさん   2024/07/05 06:18:01 ID:G1zXMJSBro
ビワハヤヒデ・テイエムオペラオー部屋
3 : トレーナー君   2024/07/05 06:25:48 ID:6WSevywkHo
アニメ基準だとしたら狭すぎないか…?
しかもよりによってオペラ像2体も設置するオージとデカイ姉貴の部屋とか…
4 : トレーナー   2024/07/05 06:26:07 ID:5Q2YZot6M6
スペ&スズカ部屋
5 : トレーナー   2024/07/05 06:26:57 ID:6WSevywkHo
ごめん>>2じゃなかった…>>4にして
6 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 06:53:43 ID:jpgfrBfaDo
「わぁぁぁぁっ!なまら可愛い~!!」
「この子も……トレセン学園の生徒、ですか?」
案内された部屋を使っている2人は、スペシャルウィークさんとサイレンススズカさんって言うそうです。
(……ん?)
ふと、わたしは考えます。
お二人の名前、聞き覚えがあるってレベルじゃないです。
(……はっ!!)
「お二人ともっ!!トゥインクルシリーズの最前線で大活躍されてますよねっ!!わたし、いつもテレビで応援してましたっ!!」
そうです。どちらのウマ娘さんも、GIレースをバンバン勝っていく凄い方だったのです。
「ふふっ、すぐに馴染めそうだね。じゃあ、私は失礼するよ。何かあったら下にいるから」
そうしてフジキセキさんが出ていった後、わたしたちは3人一部屋になりました。
「……」
「……」
「……」
なぜでしょう。3人だけになった途端、チンモクが流れています。どうにか、この開かずのゲートをぶち破らないと……!!
「えっと……あなたの名前は何ていうの?」
(はぁっ……!!!!)
なんとサイレンススズカさんがそれをやってくれました。
流石は”異次元の逃亡者”!。会話のペースも先頭を譲らないんですね!!!
っていうか、名前を聞かれました。
「わたしの名前は______」
>>8
7 : モルモット君   2024/07/05 06:56:08 ID:bkax8PPqsU
シーケンスブレイク
8 : ダンナ   2024/07/05 06:59:24 ID:AexmxqJsoI
バンゲリングベイ
9 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 07:01:45 ID:jpgfrBfaDo
>>8
なんかゲーム名と引っかかりそうですね!!良くなさそうなので再安価>>10で......
10 : お姉ちゃん   2024/07/05 07:10:45 ID:5Q2YZot6M6
シュガーライド
11 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 07:35:59 ID:jpgfrBfaDo
「わたしの名前は、シュガーライドって言います!えっと……シュガーって呼んでくださいっ!」
言えました、わたしの名前。
お母さんがつけてくれたらしい、かわいくてかっこいい名前。大好きです。
「ふふっ。よろしくね、シュガーちゃん。さっきも寮長から説明があったけど、私はサイレンススズカ。そしてこっちが……」
「スペシャルウィークです!シュガーさん、これからよろしくお願いします!」
お二人からも自己紹介をしていただいて、少しだけ仲良くなれた……気がします。
あ、そうだ。大事なことはまだあります。言っておかないと。
「わたし、まだ小学4年生なんですけど……飛び級で通えることになったんです!色々と理由がありまして______」
それは何ヶ月か前のこと。子どものウマ娘……ポニーっ子の競争大会に出たときです。
わたしの走りを、トレセン学園の職員だっていう人がすごーく褒めてくれて、
そしたら両親がいつの間にか願書を出してて……。
「それで通っちゃったんですか!?凄いです!」
「わたしもビックリしました!こんな子どもでも、学園に入れるんだって」
同い年のウマ娘ちゃんたちも、みんなトレセン学園に憧れています。
でも、それは小学校を卒業してからじゃないと選べない道……そう思っていました。
「シュガーちゃんは、どんな走りが得意なの?」
「得意な走りですか!えっと……」
スズカさんに尋ねられました。わたしの得意な走り……確か、あのとき褒められたのは______。
>>13〈類まれなる瞬発力(短距離・マイル)/とても長く続く心肺機能(中・長距離)〉
12 : 貴方   2024/07/05 08:08:48 ID:G1zXMJSBro
瞬発力
13 : トレーナー君   2024/07/05 08:12:18 ID:5Q2YZot6M6
とても長く続く心肺機能
14 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 10:16:41 ID:jpgfrBfaDo
「わたし、同年代のウマ娘ちゃんより長く走れるんです!ぜんぜん息切れしなくって……」
あのとき褒められたのは、”心肺機能”らしいです。
職員の人によると、将来はステイヤー?になれるとかどうとか……。
「じゃあ、デビューしたら中・長距離で走るのかしら?」
「私達のライバルになりますね!楽しみです!」
スズカさんたちの言葉を聞いて、ふと考えます。
将来、勝負服を着て、レースを走る自分のすがたを……。
「えへへ……あっ、すみません!モウソウにふけってました!」
我に返って、今からやることを考えることにします。
……何をすればいいんでしょう?
「そうだ!シュガーさんと同い年くらいのウマ娘が、同じ寮にいるんですよ!」
「えっ!?」
スペシャルウィークさんからの突然の告白。
私は衝撃を受けました。
つまり、飛び級ウマ娘はわたしだけじゃないってことですか!?
(そ、そんなっ……!)
実をいうと小学生であることが自慢だったんです。
わたしは恥ずかしくなって、クッションに顔を沈めます。
いっそダートに埋めてくれませんか。
「あ、会いに行ってみたらどうかしら……?」
そう言ってスズカさんは、そのウマ娘ちゃんの部屋の位置を教えてくれました。
いいですよ、見に行ってみようじゃありませんか!!!!
15 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 10:19:08 ID:jpgfrBfaDo
※書き方こんなので良いですか?
16 : お兄ちゃん   2024/07/05 11:07:10 ID:e1sHFK3Y76
>>15
いいと思います!
17 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 13:14:43 ID:jpgfrBfaDo
______こんこんと、寮のドアをノックしてみます。ちょっと恐る恐るですけど。
すると、「はーい」という返事の後に、部屋から一人の女の子が出てきました。

「あれ?あなたは……」
その女の子は、わたしと同じように耳が頭の上の方にあって、ウマ娘ちゃんだってわかりました。そして、わたしと歳も近そうで……。
「あっ、わたし明日からトレセン学園に通うことになって、今日からこの寮でお世話になります、シュガーライドですっ!」
ちょっと早口になってしまったけど、わたしの方から先に自己紹介。
すると相手の方も、
「私はニシノフラワーです!えっと、シュガーライドさんですね!よろしくお願いしますっ!」
名前がニシノフラワーだって自己紹介してくれました。なんだか喋り方も似ているような?
……それから色々話すうちに、フラワーちゃんも飛び級でトレセン学園に入ったことを知りました。
(……この子だったのかぁぁぁぁぁ!同じ小学生のウマ娘ちゃんッ!!)
わたしよりちょっと早かったみたいで、先を越された悔しさみたいなのを感じましたが、
表には出しません。えらいです、わたし。

「感情・悔しさを検知。そして、新しいトレセン学園の生徒の反応も検知」
(……ッ!?)
すると突然、後ろから聞こえる、ムキシツな声……
振り向くと、スペシャルウィークさんくらい身長のある、
お姉さんウマ娘が立っていました……。
18 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 13:39:12 ID:jpgfrBfaDo
「……なるほど、そういうことでしたか」
「はいっ、よろしくお願いします!!ブルボンさん!!」
フラワーちゃんのルームメイトだというミホノブルボンさんとも知り合えました。
静かで怖い人だと思ってたけど、話してみると意外と優しいお姉さんで良かったです!
……ところで、なんでわたしの心が読めたんでしょうね?

それからスペシャルウィークさんたちの部屋に戻って、夜になって、
食堂でご飯をいっぱい食べました!
「えっ、シュガーちゃん……まだ食べれるの??大盛りご飯を5杯も……」
「はいっ!食うウマ娘と寝るウマ娘は育つって言いますし!」
スズカさんに驚かれるくらいいっぱい食べました!
でも、スペシャルウィークさんのほうが食べてたと思います!
その後はあったかいお風呂に入って、歯みがきもして……。

(……あっ)
パジャマにも着替えて、寝よう!というところで、
大問題が発生しました。
「べ、ベッドが2つしかないです!!」
「そうね、どうしましょう?」
もともとは2人用のお部屋だったので、ベッドが2つしかない!
わたしとスズカさんが頭を抱えていると……。
「シュガーさんっ!一緒に寝ませんか?」
なんとスペシャルウィークさん。ベッドを一緒に使わせてくれるとのこと。
来たばかりのわたしに、いいんでしょうか。

まあ、考えている暇はなかったんです。
キャンプ道具みたいなのも持ってないですし、お言葉に甘えることにしました。
さあ、明日からはトレセン学園で新しい生活が始まります!
すっごく、楽しみ、ですっ!!
19 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 13:41:31 ID:jpgfrBfaDo
シュガーライドのスクールライフを安価で盛り上げてあげましょう。

初日。
>>20>>25の展開を統合。
20 : 貴方   2024/07/05 14:08:59 ID:/NljQWspSk
同じく飛び級(と思われる)スイープトウショウと、ただ単に小さいだけのドリームジャーニーと出会う
21 : アネゴ   2024/07/05 14:14:00 ID:NUK7UrHP2E
アグネスタキオンやマンハッタンカフェにも出会い、実験台にされそうになるが阻止される
22 : トレ公   2024/07/05 14:17:36 ID:5Q2YZot6M6
シュガーがスズカに「なぜレースではいつも先頭大逃げなのか?」と問う。
23 : ダンナ   2024/07/05 14:24:40 ID:7sTsQk4YzU
ちっちゃいステイヤー仲間のライスの不運に巻き込まれる
24 : お兄ちゃん   2024/07/05 15:48:28 ID:P30fE5VN0Y
チケゾーがチョークを折って泣いていたので何とか落ち着かせる
25 : 使い魔   2024/07/05 15:52:23 ID:qQhls77Mgs
カフェテリアで食事しているスペオグリを見て改めて中央のヤバさを実感する
26 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/05 18:30:05 ID:jpgfrBfaDo
(すごく、お母さんみたいだった……)
寮にきて、初めての朝。
というか夜寝ている間……なんだかすっごく暖かかったんです。
スペシャルウィークさんと一緒に寝て、腕の中はまるでお母さんと寝てるみたいな……。
とにかく、おかげでしっかり眠れたようです。
ほわほわした気分は、顔を洗ってシャキッとさせて……今日から登校!頑張ります!

「わあぁぁ……制服っ!!」
初めて着る、トレセン学園の制服!ちょっと大人になった気分です!
サイズもなんとジャスト!
……測った覚え、ないんですけどね?
後は、お母さん譲りの栗毛のショートヘアの右側にヘアゴムを巻いて……
わたし、完成!です!
27 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 05:42:53 ID:MXuy6mXXPw
……さっき知ったんですが、朝ご飯は学園に着いてからカフェテリアで食べる……らしいです!
なんてことでしょう!お腹の虫さんが泣き止まないんです!!
くぅー……って。
わたしは、そんなじょーたいで、トレセン学園の門をくぐるのでした!!

(……!!)
一歩踏み出した瞬間、そこから世界が変わったような感覚に襲われます……!
「シュガーさん?」
「あ、な、なんでもないです!ちょっと緊張してるのかもっ」
ぼーっとしちゃって、スペシャルウィークさんが声をかけてくれました。
実際大した事ないので、ちゃんと笑顔で返しましたよ!!
そういえば、わたしを褒めてくれたあの人、どこにいるのかなぁ……?
そんなことを思いながらも、わたしのお腹の虫さんは泣き続けるのでした。
28 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 05:55:51 ID:MXuy6mXXPw
「……これ、ぜんぶ食べていいんですか」
今、わたしの目の前には、いわゆるビュッフェ形式でたくさんの料理が並んでいます!
ここは高級料理店?いえ違います!学園のカフェテリアですっ!
朝からっ!いいのでしょうかっ!こんなに食べても!!
そう思っていると、身体の大きい芦毛のウマ娘さんとすれ違いました。
聞こえてきた声によると、オグリキャップさんというそうです。
(……!?)
わたしが驚いたのは、そのウマ娘さんがかかえた料理の多さ!
昨日のスペシャルウィークさんより多くないですかあれ。
わたしは甘かった。
上には上がいることを思い知りました……。
その後、朝から5回くらいおかわりをしてようやく満足したわたしは、
編入することになるジュニアクラスへ向かうのでした。
29 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 08:48:05 ID:MXuy6mXXPw
前作からの勢いが体感弱くなってきてるのでじっくり行きたいと思います...
30 : マスター   2024/07/06 11:48:15 ID:YWN1nC6Y2A
乙。ゆっくり待ってる
31 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 18:28:19 ID:MXuy6mXXPw
なんか引っかかってる理由がわかりました。
クラス分けって公式から明確に出てましたっけ?
32 : あなた   2024/07/06 18:39:03 ID:oMKbdIprNk
アニメ1期ではスペ、グラス、エル、スカイ、キングが同じクラスだったが1学年に何クラス有るのかは触れられていなかった。
(ただ、スペのクラスの生徒はG1に出れると担任教師が説明していたので成績は優秀なのだろう。)
33 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 18:42:08 ID:MXuy6mXXPw
>>32
うーん、二次創作ってことで独自解釈で行きますか、内訳......
34 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 18:47:27 ID:MXuy6mXXPw
>>32
しかし教えていただき感謝です
35 : お姉さま   2024/07/06 18:47:51 ID:oMKbdIprNk
まとめサイトでこんな記述が

「年齢に応じて大きくジュニアクラスとシニアクラスに分かれており、ジュニアクラスはさらに年少からA組、B組、C組に分けられている。このうち最年長のC組のみがクラシック三冠レースに出走できるとされる。」(アニメ版)

とありました。
36 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 18:50:22 ID:MXuy6mXXPw
>>35
アニメ公式にも同内容がありましたね。なるほど......
37 : お兄ちゃん   2024/07/06 18:52:00 ID:oMKbdIprNk
ゲーム版だと

生徒は中等部と高等部に大きく分けられており、明言はされていないがその中でも学年の上下はある様子。ただし、各ウマ娘間で判明している世代的な上下関係を照らし合わせると「中等部:3学年」「高等部:3学年」ではとても収まらないため、人間尺度の教育課程とは違う可能性もある

ともありました
38 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/06 19:36:52 ID:MXuy6mXXPw
視界に入ってきたのは、真っ白な天井でした。
……あれ?なんでわたし、上を向いてるんです?
どうやら、わたしは寝ていたみたいです。ここはベッドの上……。
記憶が、ありません!!食堂を出てから!!
しかも、なんとなく身体がだるいような……。
「______よかった。お目覚めになられましたか」
まだ、頭はボーッとした状態。でも、その声はすーっと耳に入ってきました。
その声がした方を向いてみると、難しそうな小説みたいなのを読んでいる、メガネのウマ娘ちゃんがいます。背はわたしよりちょっと大きいくらいで、たいかくは同じくらいかも……。
「えっと……わたし、どうしてここに?」
最初の言い方からさっするに、わたしがここで寝ている理由を知ってそうだったので、
聞いてみることにしました。
「あなたは……先ほど、食堂から出てくるのを見かけたのですが、その瞬間にパタリと倒れてしまったのです。幸い、すやすやと眠られているだけだったので、保健室に運んできたのですが……」
「ええーっ!?」
わたし、寝ていた!!
登校初日からです!!
「……どうやら、もう元気そうですね。そろそろ失礼します。では、良い旅を……」
クールなメガネのウマ娘ちゃんはそう言って、保健室を出ていきました。
……なんだか、優しい子でした。
同じクラスだったらいいなぁ……なんて思っていると、わたしが入るクラスの担任の先生が迎えに来てくれたので、わたしもベッドから起き上がって、保健室を後にしました!!
39 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/07 17:29:49 ID:QxsYcGFa9E
「今日から!みなさんと一緒におべんきょーさせて頂きます!シュガーライドですっ!」
ジュニアクラスの教室に入って、まずは自己紹介です!
元気よく出来て、個人的には100点満点ですね!
ざっと見回してみたところ、ニシノフラワーちゃんは居ないみたいで、別のクラスのようです。それに、さっきの子も……後で会いに行ってみましょうか!
(えっと、席はどこに座れば……)
空いている席はいくつかあるのですが、悩みます。
迷っていると、あるウマ娘ちゃんがアイサインを送ってくれました。
まるで、「座りなさい!」と指示を送られているような気がしたので、
お言葉に甘えます。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ。新入生には優しくしなさいって、グランマも言ってたし!」
そんな優しいウマ娘ちゃんは、フラワーちゃんと同じくらいの身長で、やはり歳も同じくらいなのでしょうか?
名前を聞いてみると、スイープトウショウちゃんというそうです。
印象に残ったのは、マンガに出てくる魔女さんみたいな大きな帽子。
……学校内でこんな大きな帽子を?
そりゃまあ、帽子を被ってるウマ娘は何人かすれ違ったりもしましたけど。
とりあえず!席も決まったことですし、
ここから始まるのです!
わたしのトレセン学園ライフが!!
40 : あなた   2024/07/07 22:20:00 ID:QxsYcGFa9E
「では、この問題分かる人~」
授業の時間です!算数です!
(……いや、これは……数学ッ!?)
ほーていしきです!中学生でやるものです多分!
これが、トレセン学園の恐ろしさ……違うかもしれませんが。
わたしは!飛び級とはいっても!褒められたのは走りのみで!
学力は小学生です!
つまり勉強わかりません!へるぷっ!!
(……ん?)
困り果てていると、隣のスイープちゃんからまたもアイサインが。
(ノート、見せてあげるわ!)
(マジですか~!?)
なんとノートを見せてもらえるとのこと。
しかもその内容は、細かい部分もすっごくわかりやすくまとめられています!
これが、トレセン学園……ッ!!
その後も、スイープちゃんのノートのおかげで午前の授業を頑張ることが出来ました!!
41 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/08 17:07:30 ID:R5vwCYgGqU
お昼休み、食堂にて。
初めての授業を切り抜けて、お腹の虫さんが目覚めちゃったわたしを待っていたのは、”衝撃”でした。
(……ビュッフェじゃないんですか!!)
なんと、お昼ご飯は朝のビュッフェ形式ではなく、メニューから選んで注文する方だったのです!
ひどいです、こんなの。こんなの……
(迷っちゃうじゃないですかー!!)
写真で見るメニューはどれもこれも美味しそうで、
選んでいるだけで時間がなくなってしまいそうです。食べなければ。
……どれにしましょう?
「______こちらの、シーチキンと季節の野菜のサラダをベースに、大麦入りご飯などを選んでみるのはどうでしょうか?」
(……!!)」
迷っていたわたしのウマ耳に、声が聞こえました。
その声は、その声の主は……!!
「ああ、急にすみません。しかし、迷っている様子だったので、つい」
その人は、今朝わたしを助けてくれた、クールなメガネのウマ娘ちゃんだったんです!!
42 : トレーナー   2024/07/08 17:25:00 ID:R5vwCYgGqU
本家キャラとは解釈違いになるかもしれないです。
43 : お兄さま   2024/07/10 07:59:17 ID:vDbuHjsgFM
そのウマ娘ちゃんの言う通り、わたしはシーチキンのサラダと大麦ごはん、それとお味噌汁を選びました。
それと量も今朝の食事の半分です。ご飯のおかわりは1回だけです。
「少ない気がする……」とつぶやくと、「あなたのためです」という返事が返ってきました。
クールなメガネのウマ娘ちゃん、どうしてここまでしてくれるのでしょう?
______しばらくして、食べ終わりました。
おいしかったです。でもやっぱり、足りないような……。
「……今朝のあなたの突然の睡眠について、私から一つ見解が」
「えっ?」
クールなメガネのウマ娘ちゃんは、突然ふところから何枚かの紙を取り出してきました。
なにかの資料のようで、それを読み上げ始めたのです。
「血糖値スパイク……食後、血糖値の急激な上昇とそれに伴う低下によって、突発的な眠気が発生する症状です」
「けっとーちスパイク??」
「まあ、簡単に言えば食後に眠くなるアレです。我々ウマ娘はそれへの耐性が通常ヒトより高いとされていますが……あなたのような低年齢のウマ娘なら話は別です」
「わ、わたし??」
「まだ身体に本格化が始まっておらず、大量の食事に適応できていない……だから今朝、あなたは食堂を出てすぐに眠ってしまった。私はそう考えます」
クールなメガネのウマ娘ちゃんが言ってることは半分くらいしかわからないけれど……つまりわたしはいっぱい食べるとすごく眠ってしまうってことですか!
そういえば昨日も、ご飯のあとにお風呂に入るまではすっごく眠かったような……。
「ですので、今回は血糖値スパイクを引き起こしにくい、血糖値の上昇を緩やかにする食事を提案させていただきました。足りない分は、放課後にでもなにか食べて補ってください」
44 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/10 09:21:02 ID:vDbuHjsgFM
それだけ言うと、クールなメガネのウマ娘ちゃんは食堂を出ようとします。
「待ってっ!」
まだ、まだここでお別れするわけには行きません。まだ聞きたいことがあるので、わたしは呼び止めました。
「あのっ、あなたのっ、名前っ!まだ、聞いてなくって……!!わたしはシュガーライドですっ!!」
「……ああ、そうでしたね。まだ名乗っていませんでした。私はドリームジャーニー。それではシュガーライドさん、良い旅を……」
クールなメガネのウマ娘……ドリームジャーニーちゃんは、今度こそ食堂を去りました。
(いい人、でした……あれ?)
ふと、思い出します。
ドリームジャーニーちゃん、どこのクラスなのでしょう……?
また、聞きそびれましたーっ!!!!!
45 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/10 16:22:59 ID:vDbuHjsgFM
その後、午後の授業も、どーにか頑張れました。
スイープちゃんによると、まとめノートの考案者はフラワーちゃんなのだとか。
感謝です、ニシノ神……!!

「ねえ!アンタまだ、学園のことよく知らないでしょ?あたしが案内してあげてもいいわよ?」
放課後、スイープちゃんからの突然のお誘いです。
しょーじき、すっごくありがたいです……が、これからやりたいことは、
わたし一人のほうがはかどるのかもしれない……です!
(あの日、わたしを誘ってくれたヒトも探したいし……ドリームジャーニーちゃんのことも気になるし……)
どうする? >>46(一人で行動/スイープと行動)
(前回の安価もちゃんと使っていきますので!!)
46 : お姉ちゃん   2024/07/10 16:28:55 ID:XzyHS.ryIo
スイープと
47 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/10 16:49:25 ID:vDbuHjsgFM
「じゃあ……お言葉に甘えますねっ!!」
「ふふーん!スイーピーについてくれば、学園のことがすぐにわかるようになる魔法に、かかっちゃうんだから♫」
というわけで、スイープちゃんといっしょに、トレセン学園探検をすることになりました。
むしろ、学園の中を回っていれば、探している人たちに出会えちゃうかもしれません!

まずやってきたのが……。
「タキオーン!遊びに来たわよー!」
「なっなんですかこの部屋―!!」
学園の隅っこの方の準備室をそのまま部屋にかいちくしたかのような、
物置部屋で実験室みたいなところでした!!くさいですね!
「やぁやぁスイープくん! ……そっちのキミは初めましてだね。私はアグネスタキオン。
趣味と興味で、ウマ娘の観察や実験にあけくれている者さ!」
(えっ、実験?)
アグネスタキオンというウマ娘さん、白衣まで着てて本当に学者さんみたいな……いや、これは”まっどさいえんてぃすと”でしょうか!!!
「キミ、名前は?」
「えっと……シュガーライドですっ……!」
「ではシュガーくん。キミにもさっき出来上がったばかりの新薬を______ぶっ!」
何か言いかけたタキオンさんの横から、なんかブサイクなクッションが顔に押し付けられています!なんなんでしょうかこれ!もう!
「初対面の人を実験台にするのは良くないです……初対面じゃなくてもダメですが」
それをしていたのは、髪が長くてちょっと暗い雰囲気のウマ娘さんでした。
どこにいたんでしょうか!?
「ああ……私は、マンハッタンカフェです。シュガーライドさん、スイープさん……コーヒーを一杯飲んでいきませんか?お砂糖は入れますよ」
その後、マンハッタンカフェさんに意外とおいしいコーヒーをごちそうになり、ほわほわした気分でわたしたちは学園探検を続けるのでした……ほわぁ。
48 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/10 17:46:45 ID:vDbuHjsgFM
そのあとも、折ってしまったチョークさんに泣いて謝っていたウイニングチケットさんを落ち着かせたりと、いろいろな場所を歩きました。なんだか、学園にすっごく詳しくなった気がします。
(……そういえば)
歩きながら、わたしは気づきました。あんまり眠くないです。
午後の授業中も、普段通り起きてられましたし……。
あのメニューが効いたんでしょうか?
だったらなおさら!ドリームジャーニーちゃんにお礼を言いたいですね!!
……まだ、会えてませんが。
「ねえ、次どこ行く?」
「んと……グラウンド、とか?」
「わかったわ!トレセン学園といえばやっぱあそこよね!」
(グラウンドなら、会いたい人がいるかもしれない)
そんなことを思いながら、わたしはスイープちゃんと一緒に、学園で一番広いといわれる専用グラウンドにやってきたのです。
49 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/10 17:46:52 ID:vDbuHjsgFM
「______わぁ!!」
たくさんのウマ娘さんたちが、走って走って走りまくっています!
コースの長さは、2000mくらいでしょうか。
いつかわたしもあそこを走るのかな……そう思っていると、ある人が現れました。
「スイープっ!集合時間とっくに過ぎてるぞ!?」
その人は、スーツを着た男の人でした。スイープちゃんと知り合いでしょうか?
「ごっめーん、使い魔☆でもでも、この子のために学園を案内してあげてたんだから!」
「ん、そっちは転入生の……それでも!遅れるなら連絡しろってー!」
「うるさいわね!夢中で忘れちゃっただけよ!ふんっ!」
な、なにやらケンカをしてるようです……スイープちゃんは「着替えてくる」と言って学園に戻っていっちゃいました……。
「……変な場面、見せちゃったな。ごめん」
「い、いえいえ!それにしても、あなたは……」
その男の人は、スイープちゃんの”トレーナー”さんだと言いました。
トレーナーさんは、ウマ娘と一緒にレースで勝利を目指す人、らしいです。
わたしが出会ったあの人も、そうだったのでしょうか?
50 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/11 16:41:34 ID:CX9fbIb.HY
しばらく待っていると、スイープさんがなんか慌てて戻ってきました。
あ、ジャージには着替えてますね……。
「使い魔!あっちで模擬レースがやってるわよ!見に行きましょうよ!!」
「マジか……って、トレーニングは!?」
「そんなのいつでもできるじゃない!ほら、シュガーも!先輩たちの走り、見れちゃうわよ?」
もぎレースって何ですかと尋ねてみたところ、何人かのウマ娘が独自のルールを決めつつ実際のレースと同じように走って競い合うものだそうです。
どうやらそこでは、ウマ娘のスカウトを考えているトレーナーさんも来るとか……。
これはもう、行くしかないですね!!
てことで、わたしたちは模擬レースの行われている別のグラウンドまで行ってみることにしました。

『さあ、夢の対決です!異次元の逃亡者・サイレンススズカと、青薔薇の黒い刺客・ライスシャワーの模擬レースッ!!』
なんと実況席にマイクとスピーカーまであります。本格的です。
というか、スズカさん!! あともう一人のウマ娘さんは……ライスシャワーさんと言うそうです。
お二人共、すごく人気があるように見えます……お客さんがいっぱいです。
「このレース、どちらもかなり実力が高いけれど……私はステイヤーのライスさんを応援しようかしら」
(あれ……この人……)
私の隣に座ったお姉さん……ジャージを着ていますし、トレセン学園の関係者……トレーナーさんでしょうか?それよりも、なにか見覚えが……。
『両者、スタート地点に構えて、よーい……ドンッ!』
(あっ!!)
51 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/11 16:42:02 ID:CX9fbIb.HY
次の瞬間、レースが始まりました!
スズカさんはスタートしてすぐに、ぐんぐんと前に行きました。
ライスシャワーさんは、それを追いかけずに後ろの方を走っています。
(す、すっごい速い……!!)
テレビで見たレースよりも人数は少ないですが、生で見ると迫力がすごいです。
音だって近くって、わたしもなんだか走りたくなってきそうです!
『サイレンススズカが先頭で1000mを通過!57秒5という超ハイペース!ライスシャワーは追いつけるか!?』
コースを半分まで回ったところで、スズカさんとライスさんの差は全然埋まりません。
あんなに飛ばしていたら、ゴールする前に疲れてしまうのでは……と思ったんですが、
スズカさんは涼しそうに走り続けています。
(……え)
驚きました。すっごく楽しそうに走ってるんですから。
『残り400m!!ここでライスシャワーがスパートを掛ける!サイレンススズカに追いつくが……サイレンススズカが1着でゴールっ!!ライスシャワー、2バ身差で敗れましたッ!』
けっきょく、スズカさんが一着でした。でも、ライスさんもあんなに加速できちゃうなんて……。
「わぁーっ!!すごいレースだったわね!!さー使い魔!あたしたちもトレーニングよ!!」
「や、やっとか!」
楽しそうにレースを見ていたスイープちゃんは、トレーナーさんと戻っていきました。
(わたしは……あっ!)
はっと思い出したわたしは、隣を振り返ります。
「自分もそろそろ戻るか……」
「あのっ、えっと!待って!」
帰ろうとしているお姉さんを、わたしは呼び止めました。
52 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/12 18:17:04 ID:qTbFHVl4Ng
立ち上がろうとしたお姉さんのジャージの裾を掴んで、引き止めました。
「えっと、あなたは……あっ!まさか、あの時の!?」
わたしの眼の前にいるのは、あの日のお姉さんだったんです。
______あの日は、ポニーちゃん運動会がありました。
わたしも走って、3位だったんですけど……まわりの娘が息を切らしている中で、
ぜんぜん苦しくなかったんです。なんかもう一回走れそうなくらい!
そこに、お姉さんが現れて、言ったんです。
「凄いわ!あれだけ走って、涼しい顔をしているなんて!すばらしい心肺機能の持ち主ね!
将来はステイヤー路線を目指すのもありね……」
「ん…?」
「ああ、突然ごめんね。私はトレセン学園でトレーナーをしているの。大きくなったら、トレセン学園で走ってみない?それと、専属トレーナーにならせてもらえたら______」
______その出会いから、たった数ヶ月。
わたしはとんとんびょうしで、トレセン学園にやって来ちゃいました。
「えっ、いや、そんな……大きくなる前にやって来れるとは……」
「えへへ~」
「飛び級の例が他にない訳じゃないけど、……勉強の方は大丈夫?ついていけてる?」
「むりですね!!」
53 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/13 21:27:52 ID:2c.JquOCao
「そっかぁ……よし、ならまずは賢さトレーニング(勉学)ね!」
「お勉強……ですか?」
「そうよ。トレセン学園は学問でもエリートな学校なの。走ることと同じくらい、勉強ができることも必要なのよ」
(そ、そうなんですか……)
たしかに、スイープちゃんに教えてもらってようやく勉強についていけましたし……自分だけでもバンバン問題を解けるくらいの、がくりょくが必要ですね!!
でも……今さっき、あんなものを見せられたら……!!
「わっ、わたし……」
「ん?」
「は、走りたい……ですっ!!」
思えば、脚がうずうずして熱くなって、今にも駆け出したい気分です……!!
「まあ、そうだよね。ウマ娘だものね……あっ」
「なんですか……あっ」
そんな気持ちに”頭を冷やせ”と言わんばかりに、とつぜんの大雨が降ってきました。
いっしゅんで土砂降りです。いけません、わたしたちも室内に戻らないと……。
結局色々あり、わたしとおねえさんは、校舎に戻るのでした。
そして次にやってきたのが、図書室です。
“お勉強”を頑張ることにしました。雨は今日はやまないらしいので。
54 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/14 14:43:34 ID:EtIBKiacQc
勉強に使う本を探していると、読書をするスズカさんと出会いました。
スズカさんはあんなレースをしたあとにも……まだまだ元気いっぱいだったみたいで、もっと走りたかったようです。
「そういえば、あなたに声をかけたっていう人とは会えたの?」
「はいっ!どーやらここのトレーナーさんだったみたいで、わたしの担当トレーナーさんになってくれそうです!」
「それは良かったわね。シュガーちゃんがレースで走るの、楽しみにしてるわ」
「ありがとうございます!」
スズカさんに応援の言葉をもらってから、わたしたちは別れました。
そして次に出会ったのは……
「うーん……と、届かない……」
(あっ、あの人)
高いところにある本を取ろうとして、手を伸ばしている……あれはライスシャワーさんのようです。
どうしよう、脚立でもあればいいのでしょうか。
そう思っていると、
「あっそうだ!」
(ん……んっ!?)
ライスシャワーさん、なんと飛びました。ぴょんと。
「よしっ届いた______きゃっ!」
(危ないっ!!)
高いところにある本に手が届いたはいいのですが、なんとなんと本棚に顔をごっつんしてしまい、その拍子で本棚から本がライスさんにバラバラっていっぱい落ちて______。
「いたた……あれっ?わ、大丈夫!?ど、どうしよう、ライスのせいで……」
「そちらの方こそ……どこも怪我してないですかッ!!」
「う、うん。ありがとう、助けてもらっちゃった……」
かんいっぱつ、でした。
ライスさんの上に私が覆いかぶさって、本が当たるのを防いだんです。
これくらい……ぜんぜん痛くないですよ!ぜんぜん!!
そのあと、二人揃って保健室で手当をしてもらったりがありましたが……。
55 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/14 14:56:40 ID:EtIBKiacQc
夜。
今日はおふとんで寝ることにしました。
一人で、いろいろ考えたくって。

昨日以上にたくさんの人と出会って、トレーナーさんとも会うことができました。
……あ、ドリームジャーニーちゃんにあれから会ってません!!
まだやることがいっぱいありそうで、ちゃんと前に進めるか不安です……けど!
どんなバ群が壁になっても立ち向かうのがウマ娘ですよね!
あ、でも、スズカさんは別なんですよね……スズカさんには前が壁になることがないっていうか……いわく、1番前で逃げて走るのは。とても楽しいらしいです。
わたしは……どんな走りができるのかなぁ?
ってことでもう寝ましょう!
おやすみなさい______。

トレセン学園生活1日目 終わり。

2日目
>>56>>60まで
56 : 貴様   2024/07/14 14:57:51 ID:a4hLgKdHIA
まだ2日目なのに寝坊しちゃった!
57 : トレーナーさま   2024/07/14 19:02:38 ID:bMo1Mb0x/M
タイキシャトルが急にハグしてきた
58 : トレーナー君   2024/07/14 19:15:49 ID:.0HpARmphk
ドリームジャーニーと再会、ついでにオルフェーヴルにも出会う
59 : トレ公   2024/07/15 05:54:05 ID:oIUQkWgH9s
カフェテリアで昼食に「豚(とん)かつ定食」を注文したら、キッチンへの伝達ミスで「鶏(とり)かつ定食」が出て来た(でも文句言わずに食べた)
60 : トレーナーちゃん   2024/07/15 12:28:12 ID:odZsQlWcI.
選抜レースにむけたトレーニングを開始
61 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/15 12:31:08 ID:X1O9dEsXVU
多分前回よりスローになったこのスレでも安価レスを下さって感謝です……
62 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/16 07:19:36 ID:Q3VpzazgWU
~トレセン学園生活 2日目~
(ん……おき、ました)
重い目を軽くこすって、あくびをして、今日も起きました。
えっと……なんか外がすごく明るいです……あ、カーテン開いてる。
今何時です?
時計を確認すると……心臓が止まりそうどころかすごくバクバク言いだしました。

「……あ、そん、な……」
夢ならさめて欲しい。でも、これは現実だってわかっています。
時計がしめす時間は朝の8時。
完全に、寝坊です。
どうしてこうなってしまったのでしょうか。
先輩二人はどこに……あ、「今日は朝練があるから先に行ってるわね」という書き置きを見つけました。
……いえいえ!そもそも自分で起きなきゃいけないでしょう!?
起きれませんでしたっ!!昨日は寝る前まで振り返りをしてたのに!
目覚ましをかけ忘れてましたね!
「あっははははははははっ!!」
(……あほみたいに笑ってどーすんですか、わたし)
そうです、笑ってる場合じゃないです。
りろんじょーは、あと15分くらいで支度すれば8時30分からのホームルームに間に合います!いえ、間に合わせなきゃなりませんっ!!
わたしは、急いで準備を始めました……!!
63 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/16 16:50:31 ID:Q3VpzazgWU
その後、なんとか15分で準備を終えて、
猛ダッシュで寮を出ました。
そして到着です。
上履きはいて、またダッシュです!
(間に合ってぇぇぇぇぇぇ!!)
あと5分でしょうか。間に合うのでしょうか。
いえ、間に合わせなきゃなりません。ほんとうに!!

なんとか教室のドアに手をかけて______。

「……とんだ災難だったわね。お疲れさま!」
「うう、ありがとぉスイープちゃん……」
残り1分で間に合ったわたしは、授業をしっかり受けることができました。
そして3時間目の前の10分休憩で、スイープちゃんに話を聞いてもらっているところ。
「そうえいばシュガー、あんた今日まだ何も食べてないでしょ!?」
「……あっ!そ、そういえばそうですぅ……」
スイープちゃんに言われて、やっと身体がそれに気づいたのか、
きゅるるる……とお腹の虫さんが鳴いています。
お、おなかすいた……。
今思えば、何も食べないであんなに全力疾走……自分がウマ娘として生まれたことを、
あらためてびっくりしたのでした。
おなかすいた。
3、4時間目はどうにか気合で乗り切って……
やっとお昼ご飯の時間ですっ!!
64 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/16 16:51:02 ID:Q3VpzazgWU
「は、はやく……ごはん……」
ゾンビさんみたいに廊下を歩くわたし。
せーかくには……歩くしかないくらいにお腹が空いて、もうダメなんですよね。
(あ……)
地面が、目の前に迫ってきます。倒れますね、これ。
(いたい、のかなぁ……)
このまま昨日みたいに眠れたらいいんですけど、
眠くはないんです……あーあ……。
もう色々あきらめてた、その時でした。
「WoW!!大丈夫デスか!?」
「え……」
なんか、大きくてあたたかい手に受け止められた気がします。
誰だろう……ドリームジャーニーちゃんじゃないのは確かで……。
なんとかそっちの方を向くと、アメリカ帰りのお姉さんみたいなウマ娘さんでした。
「無事でよかったデース!!」
「うげっ!きゅ、急なハグは苦しいですッ!!」
身も心もアメリカンなこの人、タイキシャトルさん。
ウマ娘のハグはとても強烈です。
ウマ娘でさえも結構苦しいのですから、普通の人間さんが同じ力でハグされたら……考えるのはやめておきますッ!!
そんなわけで、危なかったところをタイキさんに助けてもらったわたしは、
今度こそ食堂でお昼ご飯にありつくのでした……。
65 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/17 17:48:59 ID:eizpbbXN3M
「あなた……とんかつですよね?」
わたしは、目の前に置かれたカツ定食に、疑問をぶつけます。
今日の1番人気のメニューらしい、とんかつ定食……を注文したはずなのですが、
いざ一口食べてみると、わたしの中のほんのーが「疑え!!!!!!!!」って叫んでくるんです。うるさい。
わたしの知ってるとんかつはもうちょっと硬くて歯ごたえがあって……この”カツ”はサクサクのころもに対して、お肉がなんか柔らかすぎるんです!!
(でも……おいしい……)
今日はじめてのご飯なんです。もはや何を食べてもおいしいのです。
昨日のドリームジャーニーちゃんのアドバイス通りに、野菜もたっぷりと頼みましたし、これで午後も頑張れます。たぶん。
「______おや、昨日のアドバイスを守っておられるんですね」
(……あ)
後ろから、すっごく聞き覚えがあるしすっごく聞きたかった声。
振り向くと……。
(……ん!?)
そこには、二人立っていました。
一人は、ドリームジャーニーちゃん。もう一人は……誰!?
すっごくイケメンのお姉さんです!!ジャーニーちゃんもイケメンなんだけど!!
「お前、余の顔に見とれているのか。よかろう、隣で食事をする故……その間ならばじっくり拝ませてやる」
(なんかクセが強いお姉さんだー!!)
なんでしょうか、王様?なるしすと?
すっごくイケメンなんですが、クセが強すぎないですか?
66 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/18 22:36:16 ID:uXgnkY5DDY
「こら、オル。困った顔をしているじゃないか。控えて」
「む、姉上……そうか。すまぬ、少女よ」
(んー……!?)
ジャーニーちゃんが、このイケメンウマ娘さんにため口……!?
いや待って。今なんて?
あねうえ??
「ああ、そうか。シュガーライドさんは初対面でしたか。この娘は私の妹で」
「オルフェーヴルだ。……少女よ、姉上と知り合いか?」
(……!?!?!?!?!?)
目の前で起きていることに、理解が追いつきません。
オルフェーヴルさん、明らかにジャーニーちゃんより身体がおっきいですよね。
ていうかなんですか、あねうえ?いもうと?しまい??
「その……ジャーニーちゃんは……学年、は……」
「え?高等部、ですが……」
一番聞きたかったことを聞いたとたん、わたしの頭の中は真っ白じゃなくて真っ黒になりました。
まさか、まさか……と、年上のお姉さんだったなんて。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……)
心の中で何度もそう呟きながら、わたしはまた倒れてしまうのでした……。
67 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 10:17:37 ID:UwB4xLhRiE
「______なるほど。身長で私の年齢を勘違いしていたと」
「はいぃ……」
保健室で目を覚ましてから、ドリームジャーニーちゃ……さんに改めて色々聞かれて、色々答えました。
学年と歳を勘違いしてたり、脳内でちゃん付けしてたり……
(あああああっ!!ダートに埋めて欲しいっ!!)
「いえ。良いですよ、別に。割とよくあることなので」
「えっ!?」
「小学生料金で精算されそうになったりとか、日常的ですから」

意外!
そして頭の中でそれを想像するわたし……いや、やめておきましょう。

「それと……呼び方もあなたのお好きなように」
「えっ! ……じゃあ、ジャーニーちゃん!」
「はい、シュガーライドさん」
ドリームジャーニーちゃんは、ニコッと笑顔で返してくれました。
高校生の大先輩……でも、なんだかやっぱり、すっごくやさしい人で、よかったなぁ……。
「……シュガーライドさんは、契約するトレーナーはもう見つけられたのですか?」
気分が落ち着いて保健室から出ようとすると、ジャーニーちゃんから聞かれました。
「あ、昨日、学園に入るきっかけになったトレーナーさんと再会して……」
「そうでしたか。近々、先発レースがありますね。そのトレーナーさんにあなたの走りを見せつけるのも良いかもしれません」
「せんぱつれーす??」
先発レースは、まだ担当トレーナーが決まっていないウマ娘ちゃんたちが、模擬レースで走ることで自分の力をアピールする場所らしいです。
(そういえばわたし、まだレースで走ったこと……ないです!!!!!)
68 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 10:30:42 ID:UwB4xLhRiE
「というわけでトレーナーさん!! トレーニングしましょう!!」
「い、いきなりね」
放課後、グラウンドで待ち合わせてたトレーナーさんに模擬レースの話をしました。
そして、それに向けてのトレーニングの話も!!
「トレーニングかぁ……待って、私にそんなノウハウないぞ……小学生のウマ娘を、本格化を迎える中高生のウマ娘たちと一緒に走らせるためのトレーニングなんて……」
「えっ!!」
(つまりは、わたしを鍛える練習方法がないということ。そんな……!!)
「でも、あなたはトレセンに入る資格を持ってる……なら、その才能を開花させるのも、トレーナーの役目よね。よし、あの人に相談してみるか」
トレーナーさんはスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めました。

電話をかけた相手>>69
69 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 16:34:46 ID:UwB4xLhRiE
あげ安価下
70 : トレーナー君   2024/07/20 16:39:06 ID:HprIEs5BDs
桐生院トレーナー
71 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 17:51:12 ID:UwB4xLhRiE
「もしもし、桐生院ちゃん?あなたすっごい物知りだったよね?うんうん、それで……」
長電話は30分くらい続きました。
つうわりょーとかバッテリーとか大丈夫なのでしょうか?そんなことを考えながら、わたしは他のウマ娘さんたちとストレッチをしたりウォーミングアップをしたり。
「……よし、わかった。やってみるね、ありがと」
やっと電話が終わったみたいです。
わたしはいつでも運動の準備はばんぜん!なんですけど……何が始まるのかな?
「とりあえず……またあなたの走りを見せてほしい」
「えっ?あ……はいっ!!」
また……っていうのは、ポニー競走のとき以来ってことですね、うん。
ウォーミングアップはもう済ませたので、わたしは練習コースのスタート地点に立ちます。
初めて着る、トレセン学園の体操服、それとジャージ……そして靴には蹄鉄(てーてつ)が打ってあって、普通の靴より歩いた感じがカッチカチです。
いろんな初めてを味わいながら……
「じゃあ、見せてもらうわよ……学園が認めた、あなたの走り……」
トレーナーさんが見守るなか、わたしは2000mのコースを一周走ります。

>>72
走法(ピッチ・スライド)
スタミナ(余裕・ギリギリ)
72 : あなた   2024/07/20 17:51:55 ID:PKInhAa.TU
余裕のスライド走法
73 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 18:10:41 ID:UwB4xLhRiE
私はシュガーライドの走りを見ながら、それをビデオカメラに記録する。
同時に、タブレットにテキストデータとして入力していく。
『スタートダッシュは普通だった。やや荒いか。
走るフォームは……ここもまだ荒い。しかし、身長や体格以上の力強いストライド走法を用いているようだ。
1000mの通過は63秒。平均以下のスロータイムだ。しかし今のところ、ペースが悪くなるような様子は見られない。
終盤。声をかけてペースアップを図らせてみた。
するとどうだろう、涼しく楽しそうな顔でスパートを始める。
残り600m、上がり3ハロンの計測を開始。
そして、最高速に達したままゴール。
ゴールタイムは2分10秒。2200m並みのタイム。
だが上がり3ハロンの記録は33.8とかなり速かった』

(この娘は……やはり……)
計測終了。桐生院ちゃんの言う通り、まずは本格的な走りを見てみたが……凄いの一言だ。
全体的な走力はまだまだだが、並みの追込ウマ娘より速い上がりタイムを出している。
……いやちょっと待て?
2200mが走り切れるのかこの娘は?
74 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/20 18:18:47 ID:UwB4xLhRiE
「トレーナーさん!どうでした!?」
一周走ってもらったあとも、シュガーライドはとても涼しそうな顔をしていた。
「その……疲れてないの?」
「はい!なんかもう一本いけちゃうかも!?」
(な……!!)
私は驚いた。この小さな体のどこに、そこまでのスタミナが詰まっているんだろうと。
確かに息の乱れも少ない。
2000mで2分10秒を出せたのなら、このスタミナの余裕さで考えると2200mや2400mを好タイムで走れるだけの走力を身につけるのも、そう遅くはないかもしれない。
(私の目に、狂いはなかった……!!)
あの日、ポニー競走であなたを見つけたとき、凄い原石を見つけたと思った。
凄い速さで学園にやってきたのだけれど。
……よし、それじゃあ次のプランを実行しよう。
再度、桐生院に連絡を取る……そして、彼女から伝えられたトレーニング内容は______。
>>75>>79までの内容をそれぞれのレス時間の秒数x100(一桁)またはx10(二桁)だけ行う。
75 : キミ   2024/07/20 18:19:59 ID:PKInhAa.TU
坂路
76 : トレぴ   2024/07/20 18:22:07 ID:s.gKTWMQUg
プールトレーニング
77 : 貴方   2024/07/20 19:21:13 ID:Xui2Xof7Ao
新書の黙読
78 : トレーナーちゃん   2024/07/21 01:44:59 ID:IvWx0wcGHE
スペシャルウィークと並走
79 : トレ公   2024/07/21 08:39:43 ID:mJhAsP4eXU
レースの勉強(座学)
80 : 大将   2024/07/21 08:48:59 ID:fhe3G8pLGs
賢さトレーニング多いね!?
81 : トレーナー君   2024/07/21 09:15:13 ID:D7rYjA3Yps
>>80
まぁ、学生の本業は勉強ともいうから多少はね...
82 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/21 18:21:56 ID:fhe3G8pLGs
【桐生院葵の、小学生ウマ娘トレーニングプラン☆】
送ってもらったある程度のデータから算出したところ、本格化はまだですがアスリートとしてのトレーニングをするのに問題はなさそうです!
というわけで私の考案した各トレーニングをこなして、バランスの良い成長を図りましょう!

1. 坂路トレーニング
フォームを整えながらスローペースで走ることで、総合的な負荷をかけることができます。
2. プールトレーニング
水圧を利用して低負荷かつ高効率なトレーニングを行えます。
3. 新書の黙読・レースの座学
トレセン学園の学習単元についていくためにも、様々な本を読みましょう!
4. 実力のあるウマ娘との併走
強い相手とのトレーニングで、実際のレースに心身の感覚を近づけていきましょう。

______というのが、昨日の夜に、トレーナーさんのパソコンに送られてきたそうです。
「次の選抜レースは3ヶ月後の9月よ。夏の間にこれらをこなして、先輩たちに追いつけるように頑張りましょう!」
「はいっ!トレーナーさん! 」
こうして、わたしがトレセン学園に入ってからの、初めてのトレーニング生活が幕を開けたのです!! 勉強のほうが大変かもしれない……です。
83 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/21 18:22:44 ID:fhe3G8pLGs
>>84~90までを統合。
84 : お姉ちゃん   2024/07/21 19:02:50 ID:IvWx0wcGHE
やっぱりスペシャルウィーク先輩は速い…G1を取ってるウマ娘さんとは並んで走るだけで精一杯だよ…
85 : キミ   2024/07/21 21:08:00 ID:/dpgoJIILw
自分よりもスローペースで進むメジロブライトに出会う。
スペに憧れる気持ちが伝わり、一緒にスタミナを鍛える
86 : トレピッピ   2024/07/21 21:11:00 ID:ucNoucWdV6
そしてプールトレーニングにてミラ子に出会う。
ミラ子は後輩にいいところを見せられるのか!
87 : トレーナー   2024/07/22 00:38:49 ID:kc7DqkKEXk
マヤノから読み終わった新書を色々と貰うが意味☆不明!
サクラローレルに心配されて秘密の解説授業が始まる
88 : トレぴ   2024/07/22 00:43:49 ID:AxZAwCZtfI
な~んだ、坂路って言う位だから急な坂なのかと思ったら意外と緩やかだなぁ…これを走って登ればいいの?
89 : 貴方   2024/07/22 01:00:13 ID:nD5szCTk1k
この子にステイヤーの因子が集まっていく…!

クリークに見つかったら絵面が遠足みたいになりそう
90 : マスター   2024/07/22 01:18:13 ID:64L4kbM8Gs
トレーニング中にクリークに遭遇しトレーニングをみてもらうも終了後しっかり赤ちゃんにされる
91 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/22 05:03:48 ID:pEiNM.yXqk
なんだ!?ステイヤーだらけじゃないか!!
92 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/22 05:54:15 ID:pEiNM.yXqk
その日の夜、寮の部屋で……。
「わぁー!ついにトレーニングが始まるんですね!頑張ってください!!」
「はいっ!ありがとうございます、スペシャルウィークさんっ!!」
トレーナーさんとの練習プランが決まったことを報告すると、
スペシャルウィークさんは喜んでくれて、応援もしてくれました。
スズカさんは……あ、夜の走り込みに行っています。
(今日めっちゃ走ってたよね!?)
むしろあの人のほうが、すていやー……長い距離を走れるウマ娘じゃないかとも思いますね。
「それで、あの……」
「はい?」
わたしはスペシャルウィークさんに、とある頼みごとをしてみました。
翌日……。

「______大丈夫ですか!?ついてこれますか!?」
「は、はいっ!!」
放課後からの併走トレーニングが始まりました。
そのお相手は、昨日頼んだ通りにスペシャルウィークさんです。
ええ、もう、速いですね。手加減はされてると思うんですけど……ついていくだけでいっぱいですっ!!
でも……誰かといっしょに走るって、こんなに楽しいんだなって思います。
「さあっ、ラストスパートですよぉー!!」
「は、はぃぃぃぃっ!!」
誰かといっしょに走っていると、不思議と脚がまだ動くんです。すっごく重いはずなんですけど!
「て、ていうかスペシャルウィークさん!!スローペースですよね!?」
「そうですけど!?」
なんと、今走っているのは坂路です。
遅いペースでもこんなにきつい……レースの世界は思った以上に大変みたいですっ……!!
93 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/23 06:19:59 ID:gS3oeRb5A6
あっヤベ!回数設定したのにトレーニング描写合体しちゃった!
失くすか。
94 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/23 06:33:17 ID:gS3oeRb5A6
な~んだ、坂路って言う位だから急な坂なのかと思ったら意外と緩やかだなぁ…これを走って登ればいいの?

……なんて、最初は思ってました。
なんというおろか!わたしのおばか!!
何往復もしてたら、もう、脚が、棒みたいに!!

「こっ、こんなきつくて苦しいトレーニングをっ、やりますなんて言ったの……わたしでしたぁぁぁぁぁぁ!!」
これを週5で合計63往復も繰り返すんです。
んなぁぁぁぁぁ……。
……その時でした。
「もう少し~……スローペースで行ってみてはどうでしょう~」
(だ、誰ッ!?)
わたしが走ってるさらに後ろのほうから、ほわほわとした雰囲気のウマ娘さんが走ってきたのです。
「あっ、申し遅れました~。わたくし、メジロブライトですわ~」
「こっ、こんにちは……シュガーライドです……」
メジロブライトさん……そういえば、
すごく涼しそうな顔をしてます……汗もかいてない……。
「そうよ!シュガーライド!もう少しゆっくり目で!!」
トレーナーさんからも声が飛んできました。なるほど、スローペースですか……。
「そうだ~。わたくしと~、併走されますか~?」
「あっ、はい!お願いします、ブライトさん!」
スローペースなメジロブライトさんといっしょに走ることで、ペースのコツを掴めたらいいな……とか思ったりしました。
速いペースのスぺさんを追いかけようとはせずに、自分に合ったペースで……。
95 : トレーナー   2024/07/23 11:40:13 ID:L/LDmwIKQg
合体できる所は自由に合体させても良さそう
いいぞ~
96 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/23 15:45:10 ID:gS3oeRb5A6
「きょ、今日のぶん……終わりっ!!」
わたしは息をぜぇぜぇと吐きながら、グラウンドの隅っこに戻ってきました。
これがトレセン学園のトレーニング……すっげぇきついです!!!!!
「お疲れ様!」
「あっ、トレーナーさん!!」
トレーナーさんがドリンクを持ってきてくれました。ごくごくと飲みながら、話を聞いてみましょう。
「シュガー……って呼んでいいよね?で、よ。初日にしては並のウマ娘より頑張ってたと思うわ。昨日走ってもらったのを見て、あなたにはスローペースに走ったりレース終盤に後方から追い抜く戦法が向いてるって感じたんだけど……自分的にはどう思うかな?」
「ごくごく……ぷはっ。わたしてきに……ですかぁ」
考えてみます。さっきは、スペシャルウィークさんのペースにはあんまりついていけなくて、メジロブライトさんのゆっくりなペースで一緒に走ったら、走りはじめよりもあんまり苦しくなくなった感じですね。
授業でやりました。ウマ娘の走り方はだいたい4つにわけることができて……最初から最後まで先頭を行く”逃げ”や”先行”、レースの終わりごろまで我慢して最終コーナーくらいで走り出す”差し”や”追込み”……です。
「速いペースで行くのがむずかしいなら、やっぱり追込みが合ってるんだと思います、わたし」
「そうよね!何より、あなたと出会ったときに見た走りは後方向きだったわ。もっと鍛えれば先輩たちにだって通用するようになるわよ!」
「そ、そうですか!?頑張らなきゃ……!!」
きついトレーニングは、いつかきっと力になるはず……そう信じて明日からも頑張ります!!
でも今日は……帰って寝たいですね!!!!!
97 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/25 08:35:48 ID:qT5lgz8ZNI
「ぐぇー……つかれました……」
夕方……。
寮に戻ってきて、制服のままベッドにダイブするわたし……。
全身の筋肉も関節も、ひめいをあげてますね。すっげえ痛いですね。
でも……なんか、強くなっていく気がします!
(……あ、やべーです)
か、体が動かない……疲れてるからでしょうか。ベッドから降りたくない……。
まあ、こういうのも時には良いと思います……ご飯の時間までちょっと寝ちゃおう……。
「ぐー……」
こうして、わたしは初めてのトレーニングを終えたのでした……。

______1時間くらい経ってから、スペさんに起こされました。
「シュガーさんー。ご飯の時間ですよー」
「ご飯ッ!?」
ウマ耳のそばで声をかけられて、わたしはびっくりして飛び起きます。
声をかけられたからじゃなくて、ご飯に反応したからかもしれないけど。
「あ゛っ゛!!!」
「シュガーさん!?」
飛び起きたそのしゅんかん、わたしの体に激痛が走るッ!!
そうでした!全身筋肉痛でした!!痛い!!
「でもっ、ごはん食べたいっ……!!」
わたしは痛みをガマンしながら、食堂へ向かうのでした……。
98 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/25 08:57:00 ID:qT5lgz8ZNI
______なんと、いつもの半分しか食べられませんでした。
食欲が、ないです。
筋肉痛がすごいんです。
むし歯?って聞かれたりもしたんですが、そっちじゃないです。
手足の痛みでこんなにも食欲がなくなるなんて……。
(こんな調子で、明日からも頑張れるんでしょうか、わたし……)
部屋に戻って、またベッドに転がり、考えます。
トレーナーさんも応援してくれてて、わたしも走りたい……だけど、
大丈夫なんでしょうか?こんなで。
(そうだ、お風呂)
なにはともあれ、今日いっぱいかいた汗を流さないとです……わたしは重い体をなんとか起き上がらせて、パジャマその他いろいろを持ってお風呂に入ることにしました。


______ちゃぷん。
4、5人は一度に入れるくらいの大きなお風呂です。泳げそうですけどしませんよ。
(たしかこう、痛いところをもむように……)
あったかいお湯でマッサージをすれば、筋肉痛は治るって聞いたことがありました。
なのでやってみてるんですが……効果あるんでしょうか!?
……まだみんな、ご飯を食べてるはずなので、お風呂場にはわたし一人……ですね。
聞こえてくるのは、水道から時々ぽちゃんと落ちてくる水の音だけ。
そう、わたしは今、ひとり……。
ちょっとさみしくなっていたその時、ドアがガラガラと開きました。
入ってきたのは……。
>>99
99 : お姉ちゃん   2024/07/25 08:59:02 ID:vEPoG4L12I
メジロライアン
100 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/25 09:17:48 ID:qT5lgz8ZNI
「お邪魔しまーす……って、先客がいたんですね!こんばんは!」
「こ、こんばんは」
なんかすごくさわやかそうな、ウマ娘のお姉さんが入ってきました!
ていうかすごいです!筋肉が!お腹もばきばきで、手も足もすらっとしてるのにムッキムキじゃないですか!
「あたし、メジロライアンっていいます!あなたは……」
「さ、最近転入してきたシュガーライドです」
「そっかぁ、シュガーライドちゃんか!よろしくお願いします!」
メジロライアンさんは挨拶を終えると、凄い速さで髪も体も洗っていきました。
そしていざお湯へ……ん?
「それ、なんですか?」
ライアンさんの手に、こびんが握られているのが見えました。
「ああこれ、入浴剤です。筋肉の疲労回復に効果的で、入るときはいつも使ってるんです!あ、寮長の許可はちゃんともらってますよ」
(ひろーかいふくの、入浴剤!?こ、これは今のわたしに必要なものなのでは)
ライアンさんはその液体を、1人用のお風呂の中に流していきます。
お湯の色が、オレンジ色になっていきました。
「ちょっと狭いけど、個人で入浴剤を使って良いのはここだけだし……ガマンっ!」
そう言って、お湯に体をちゃぷん。
「……ああーっ!!効くなぁー!!」
なんか、すごく気持ちよさそうです。
香りも甘くて優しい感じで……。
「あ、あのっ!わたしも……そのお風呂、入ってもいいですか!!」
「え?うん、いいですよ!」
101 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/25 09:17:57 ID:qT5lgz8ZNI
ライアンさんが上がると同時に、わたしも入浴剤入りのお湯の中にちゃぷんです。
(……!!)
こ、これは、効きますッ!!
全身の痛みとか疲れとかがどんどんなくなっていく感じが!!すごい!!する!!
こ、これなら明日も頑張れそうな!!気がします!!する!!!!!
______たっぷり温まって上がってから、ライアンさんに同じ入浴剤をいくつかもらいました。
そしてライアンさんの寮は別の場所らしく、今日は用事があってこっちに来ていたそうです。
走って帰っていきました。また汗をかきそうなんですが?

こうして筋肉痛その他いろいろを、ばっちりいやしたわたし。
食欲も戻ってきたので、今度こそ晩ごはんをお腹いっぱい食べるのでした……。
102 : モルモット君   2024/07/25 18:29:38 ID:PwhrTiLF/o
筋肉痛には筋肉のプロがよく効く
103 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/28 06:49:07 ID:pPSKrb0uzU
次の日……。
まだちょっと体が重い気がしますけど、動けないほどではないですね。
昨日のライアンさんの入浴剤がすっごく効いたみたいで、なんだか前より強くなった気もします!
(……ん?)
違和感がありました。部屋暗くないですか?
おふとんで寝てたので、ゆっくりとベッドの方に顔を向けると……
(二人ともまだ寝てるー!! ていうかまだ3時じゃないですかー!!)
すやすやと眠る先輩たちの姿と、置き時計がしめす時間は3時……夜中じゃないですか!!!!!!
(こ、これ……もう一回寝ましょう☆)
そうです、寝る子は育ちますから。
何もあわてることなんてないのです。寝るだけです。

そして、今度こそ次の日……。
わたしはトレーナーさんから呼ばれて、とある場所にやってきました。
じめじめしてて、ちょっとお薬の匂いがつんとする……
プールです!
朝練をするウマ娘さんがいっぱいで、なんか市民プールにやってきた気分です。
「今日は少しばかり負荷を抑えたトレーニングをするわ。そのためにプールはとても最適な環境なのよ」
「そうなんですか……」
トレーナーさんは昨日のトレーニング後のわたしの身体のことをわかってくれてたみたいで、今日は重くないやり方を提案してくれるみたいです。さすがトレーナーさん……。
「よし、とりあえず水着に着替えてきて」
「あ、はいっ!」
やはりサイズを測った覚えがないけどいつの間にかもらってた、トレセン学園指定のスク水さん……これを着て泳ぐみたいです、わくわく。
104 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/28 07:32:06 ID:pPSKrb0uzU
着替えるため、更衣室に来ました。
(誰かいる……)
ひとり、着替えてる途中のウマ娘さんがいます。水色の髪の毛と、ウマ耳にシマシマの飾りをしてますね。
「んーっ! ……も、もう少しなのに着れないッ!!」
(ん!?)
「どーしよ、太りすぎたか……」
(んんん!?)
そのウマ娘さん、なんか水着が着れなくて困ってるようです。
なんで??
よくみるとお腹がぽっこりふくよかに……。
「見ちゃいましたね?」
「ひっ」
ドアの隙間から見守っていたんですが、ついに見つかってしまいました。
ウマ娘さんは、ヒシミラクルさんと言うそうです。
ヒシミラクルさんも、トレーナーさんに呼ばれてプールトレーニングをしに来たらしいです。
「いいなー小学生……太ってない」
「えっ!?」
ミラクルさんはお腹を擦りながらぼやきます。なんかオジサンくさくなったような!?
「わたしはもうダメだよ……あるから食べるせいでまた、こんな腹に……」
105 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/29 03:21:13 ID:wNqeMeex0c
その後、なんとか水着を着れたミラクルさん。わたしも着替えて、いっしょにプールへ。
「おっ、ヒシミラクルさんと出会ったのね。 ……あなたまた太ったんじゃない?トレーナーが嘆いてたわよ」
「で、ですよね……あはは」
トレーナーさんに指摘されて、なんか申し訳無さそうな顔をするミラクルさん。
そんな彼女に、トレーナーさんはあるものを渡しました。
あれは……泳ぐときに使う、ビート板ですね。
「コレ使ってもいいから、後輩のシュガーライドに、良いところを見せてやりなさい」
「えっ、ええっ!!まさか焚きつける作戦とは……いいですよ、やってやりますとも!!」
(……んん?)
どうやら、わたしに泳ぎの手本を見せてくれるらしいですが……なんか雰囲気があやしいような!?

______準備運動もしっかりやって、いざ水の中へ。
水の温度は……あ、温水ですね。夏でも冬でも泳げちゃいますね。
「よ、よーく見てて!シュガーちゃん! これが、わたしの、泳ぎだぁぁぁぁぁ!!」
ヒシミラクルさんはそう言うと、ビート板ですごく勢いのあるバタ足をくりだします。
さ、さすがウマ娘のきゃくりょくです。水しぶきがとんでもない強さで!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
こ、これは______。

泳げたor泳げなかった >>106
106 : お兄さま   2024/07/29 03:22:45 ID:3GIhjy/GK2
勿論泳げなかった
107 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/29 03:36:35 ID:wNqeMeex0c
「うぉぉぉぉぉごぼぼぼぼぼぼぼ!!」
(えーっ!?)
ほんの数メートル動いただけで、みるみる沈んでいくミラクルさん。
「ごぼぼ……ぶはぁっ。憎い、この腹の肉が……」
(そこーっ!?)
お腹をつまみながら、くやしそうに浮き上がってくるミラクルさん。
いえ、明らかに泳げない人のソレですよね?
小学校でもときどきいましたよそういう子……。
良いところを見せられなかったと、プールサイドで落ち込むミラクルさんを元気づけるために、今度はわたしがやります!
「泳ぎには自信があるのでッ!」
こう見えて結構泳げます。では、やってやりましょう。
「ビート板は……」
「あ、大丈夫です!」
「マジか……」
トレーナーさんはびっくりしてますが、ビート板もいりません!
普通にいけます!!
てことでスタート地点に移動して……。
「……はぁっ!!」
壁をけって、スタートです!!

>>108(どれくらい泳げた?)
108 : トレピッピ   2024/07/29 03:43:32 ID:j9xWhdKWgg
200m
109 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/30 08:27:29 ID:2VKatyTAuY
私は念の為、防水仕様のビデオカメラを使用して記録を開始する。
さて、シュガーライドは泳ぎにどれほどの適性が……。
(……!!)
少しばかり、甘く見ていたと思う。その少女の身体能力を。
私はカメラを向けつつ、しっかりと目を開いてその泳ぎを追った。
フォームはまだ荒い。しかし、水圧を苦にもしてないかのようなスムーズなクロール。
25m毎に技法の変更を指示してみたが、どの泳ぎ方でも完走……200mを泳いでみせた。
「な……なんですと!!??」
私の次に驚いていたのはヒシミラクル。それもそうだろう、トレセン学園に入ってきたばかりの年下の小学生が、アスリート顔負けの水泳を披露したのだから。
「ど、どうでしたかっ!?」
水から上がったシュガーライドが、目を輝かせながら迫ってきた。
どうだったか……ソレを答えるには、今受けた衝撃を言葉にしきれないだろう。
「……文句なしよ!とりあえずプールトレーニングを多めに入れて、長い距離をしっかり走れるスタミナを身につけていきましょう!」
「はいっ!」
なんとか言葉を振り絞り、今後のトレーニングプランを確立した。
プールトレーニングを成熟させれば、坂路をスムーズに走りきれるようになるはずだ。
(この娘は……思った以上に……)
わたしは驚き、期待する。シュガーライドという少女に。
この娘となら、トゥインクルシリーズの頂点を目指せる気がする。そう思うほどに。
110 : ◆wuHHR64l1og   2024/07/31 23:47:22 ID:U31jXMk4.I
午後からは……運動もオーバーワークは良くないということで、図書室でおべんきょうです!!
「何を読めばいいんだろう……」
トレーナーさんは”新書”を読めって言ってましたけど、しんしょってなんですか!!
とぼとぼと図書室を歩いていると、オレンジ色の髪のウマ娘さんに出会いました。
「キミ、新書を探してるの?それならマヤ、読み終わったのいっぱいあるよ?」
マヤノトップガンさんは、沢山の本を両手でしっかりと抱えています。
(わ、わぁ……むずかしそうな本……)
トレーニングに関するものから、歴史の本まで色々あります。
全部漢字で書いてあって、タイトルは薄っすらとしか読めないですが!!
「えっこれ全部読んだんですか」
「うん!マヤ、なんでもわかっちゃうから!」
なんと、沢山のむずかしそうな本をぜんぶ理解しちゃったとのこと。何なんでしょうかトレセン学園。ぶんぶりょーどーってやつでしょうか。すごい人がいっぱいです!!!!
(わ、わたしもなれるんでしょうか?こんなお姉さんに……)
そう思うと、むずかしい本でも読める気がしてきました。
「頑張ってねー」
「はいっ!」
とりあえず何冊か受け取って、机に広げて読んでみることに。
「なになに……>>111

本のタイトル。
111 : 大将   2024/07/31 23:49:36 ID:4rO5CqKlGw
「ウマ娘 その誕生から現代まで」
112 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/01 00:23:11 ID:J8rfbQcuLo
「なになに……「ウマ娘 その誕生から現代まで」ですか……」
歴史の本でしょうか?4年生じゃ、まだやらないじゃないですかーっ!!
しかし、読み進めていくうちに、意外とわかりやすく書かれてることに気づきます。
車ができる前はウマ娘に引っ張ってもらう乗り物があったりとか、色々書いてあります。すごいですね、ウマ娘……。
現在でもウマ娘車の需要はあって、浅草の方では人力車が走ってるとかどうとか……。
「あらあら~、難しい本を読んでて、関心ですよぉ~」
「あなたは……?」
夢中になっていると、一人のウマ娘さんが声をかけてきました。
……本当に学生さんなのでしょうか。なんというか、ぼせいをめっちゃ感じるんです。
「わたしはスーパークリークです~。よろしくお願いしますねー」
この時、わたしはクリークさんを甘く見ていたんです。そう、とても甘く……。
113 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/01 00:24:21 ID:J8rfbQcuLo
赤ちゃんにされる.....をセンシティブにならない範囲で案を募集します。なんなのだ赤ちゃんにされるとは。

>>114>>118
114 : トレーナー君   2024/08/01 00:32:01 ID:DlN2q08XVU
ベビー服を着させられる
115 : アナタ   2024/08/01 00:41:23 ID:qvo/MDmS2g
抱っこされる
116 : トレピッピ   2024/08/01 00:47:01 ID:6F0X6Hm9BM
クリークのことをママだと思い込む
117 : キミ   2024/08/01 00:54:34 ID:8LSrmXW.vs
寝かし付けられる
118 : トレぴっぴ   2024/08/01 01:10:48 ID:GO86DyMIvA
おしゃぶりを咥えさせられる
119 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/01 08:34:14 ID:J8rfbQcuLo
「______ちょい待ちいや!」
(……!?)
クリークさんが本を読んでくれるとのことで、専用スペースまで案内されようとしていると……小柄なウマ娘さんに引き止められました!
「ウチはタマモクロスってもんや。クリーク……お前から溢れ出とるで……そのウマ娘を”甘やかしたくてたまらないオーラ”がなッ!!」
「っ……!!」
(ん!?!?!?)
なんか、しゅらばが始まったようですが……まるで理解できません!!
なんですかこれ!!!
「ちょっと見ときや」
そう言うとタマモクロスさんは、クリークさんの背中を軽くぽんぽんと叩きます。
すると、
(……!!!???)
目の前で起きたことに言葉を失いました。
クリークさんのふところから、ちっちゃい子用のイスとか高そうなガラガラとかがどっさり出てきたんです。
どこにしまってたんですか。
「コレが、スーパークリークや。無尽のスタミナで追っかけ回されて最期は捕まり、赤ちゃんにされる……」
「えっ、無尽のスタミナですか!?」
なんか理解が追いつかないところは忘れて、わたしはスーパークリークさんがすごいスタミナの持ち主だってところが気になりました。
「せ、せやで。学園有数のステイヤーで、菊花賞を制覇したこともある……」
「菊花賞を!?」
菊花賞といえば、クラシック3冠レースの最後の1つ。
それを勝てるウマ娘さんが目の前にいるなんて……!!
「あのっ、クリークさん!」
「何でしょうー?」
「赤ちゃんにはしなくていいので、ステイヤーとしてわたしを鍛えてくださいっ!!」
120 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/02 17:54:16 ID:pdKN5rDqNk
「______で、今日も走ることになったと」
「はいっ!やっぱり走ってこそウマ娘じゃないですか!!!!!」
数分後、ジャージに着替えてグラウンドにやってきたわたしとクリークさんと、タマモクロスさん。
「まさか、これほどのウマ娘にトレーニングを見てもらえるとは……二人も」
トレーナーさんは、二人の大先輩ウマ娘さんに驚いています。
わたしは、過去のレースビデオでもお二人のレースを見たことはないけど……どれくらいすごいんだろう?
「じゃあ手始めに、ウチらの走りを見せたるわ!」
「タマちゃん、頑張りましょうねー」
クリークさんもタマモさんも、スタート地点に立って……。
よーいどん______そう言ったしゅんかんに、
まるで目の前にカミナリがびしゃーんって落ちてきたようなしょーげきを受けました!!

たった1000mを走ってもらうだけでしたが、それはもう凄い走りだったんです。
具体的に説明しようとすると……あれ!?
(なにもわからないッ!!)
これは……凄かったとしかわかりません!!
何が凄かったんでしょう!!びしゃーんの部分でしょうか!?
「ふぅ……短距離は専門外やけど、たまには走ってみるのもええな」
「そうですねぇー。 ……あ、シュガーさーん!どうでしたかー!!」
そうこうしていると、二人が戻ってきました。
どうだったかなんてわかりませんー!!
こうなれば……やはり、いっしょに走るしかないですね!!
121 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/03 11:55:43 ID:bHEK10IOco
ってことで、今度は1600mを3人で走ります。
すごい走りをする先輩たちといっしょに走れるなんて、それもすごい!
わたしは心のなかで喜びながら、同時にドキドキしていました。

「ま、気楽にいこーな」
「ですねぇ。私たちの胸を借りるつもりで、自分のペースで走っていいですからねー」
タマモクロスさんもスーパークリークさんも、わたしを気づかってくれてるみたいです。
でも、レースをするからにはフルパワーで走りたいなって思いもあります。

「じゃあ、全員位置についたわね」
ゴール板の前に立つトレーナーさんの合図で、スタートします。
「よーい、ドン!」
合図のしゅんかん、わたしは走り出しました。
ポニー競走以来の、誰かとの全力の競走です。
また、さっきみたいな”びしゃーん!”は見れるんでしょうか?
わたしはとりあえず、前の方を走るクリークさんの背中を追うように、タマモクロスさんと並びました。
「へぇ、ウチと走るんか」
「はいっ!よろしくお願いしますっ!!」
「先輩ムーブ、かまさせてもらうで!」
タマモクロスさんは少しペースを上げます。それについていこうと思ったけど……まだガマンです。
(わたしは追い込み型、追い込み型……)
心のなかでそう言い聞かせながら、わたしは3番手まで下がりました。
っていうか、タマモクロスさんも全然気楽に走ってなさそう!?
122 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/04 13:43:35 ID:JdRu21k2A6
(さ、そろそろ4コーナーやな)
2番手を走るタマモクロス。
その後ろを走るシュガーライドとは3バ身ほど離れているが、
ラストスパートで引き離せないレベルではなかった。
(ウチはどんな勝負でも、加減はせぇへんで。……それが歳下でもッ!!)
最終コーナーを曲がったその時、彼女の意識が変わった。
「ふぅっ……らぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一瞬であった。僅かな呼吸の後、全身の筋肉を解放する。
そこから放たれる圧倒的な加速力が、彼女を「白い稲妻」と呼ばせる理由であった。

(ここからッ!クリークをぶち抜いて……なッ!?)
超スピードでクリークに迫ろうとするタマモクロスだったが、
その後ろから迫る何かを感じ取った。
(なんでやッ!?)
そう、それはほんの僅かな油断。
圧倒的な力で簡単に引き離せると思った、慢心。
“彼女”は、ついてきたのだ。タマモクロスに。
123 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/04 17:49:09 ID:JdRu21k2A6
シュガーライドは見た。
目の前で、稲妻が発生するのを。
雷が落ちたような衝撃を。
(わ、わぁ……わぁっ!!!!!!)
気分がすごく高揚してきたシュガーは、その本能の向くままに駆け出す。
今の彼女の心のなかには、ひたすら”楽しい”という感情ばかりが巡っている。
そして、3バ身も前を駆けるタマモクロスに迫っていくのだ。
(なんやアイツっ!!ウチの全速力やぞッ!!なのにっ!なんでっ!!)
残り400m。タマモクロスはとっくにクリークを引き離していた。
しかし、そのすぐ後ろにはシュガーライドがぴったりとついてくる。
(なんでついて来れるんッ!?)
タマモクロスが驚いているのは、シュガーライドの尋常ではない加速力だ。
歩幅の大きいストライドだが、加速が始まってからの脚の回転がとてつもなく速いのだ。
ありえない走りだが、今それを目撃した。
“ピッチ走法の回転速度とストライド走法の歩幅”の両方を発揮した走り。
結果、1バ身と迫ったギリギリのところでタマモクロスが先着した。
「はぁっ……はぁっ……危ない危ない……少し油断しとったわ……」
息を荒げるタマモクロス。あまり走らないマイルレースでの強烈なラストスパートをしたことも影響しているが、一番はシュガーライドに追われたことだろう。
そんなシュガーライドはと言うと。
「わぁー!!惜しかったですっ!!」
「うふふっ、すごく速かったですねー」
息を荒げる様子もなく、楽しく走れたことをクリークと語らっていた。
もう一本走れそうな勢いだが……。
(待てや……1600をもう一本走るん?そしたら……)
簡単な計算だった。3200m……長距離の最高峰のG1レース、天皇賞・春の距離である。
(うせやろ……あの年齢、あの体に、まだそんだけの燃料積んどるっちゅーんか!?)
タマモクロスは戦慄した。ステイヤーを目指しているとは聞いていたが、まさかここまで走れるとは思わなかったのだ。
124 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/04 17:53:58 ID:JdRu21k2A6
その光景に一番驚いていたのは、シュガーのトレーナーであった。
(練習の時とは……ぜんぜん違うじゃないッ!!)
坂路トレーニングのときには、なんとかスローペースでの走りをすることが精一杯であった。
だが目の前の現実は、とても凄まじいものである。
後方待機に徹していたところまでは定石通りの走りだ。
だがその後だ。終盤に加速しだしたタマモクロスに追いつけそうなレベルの、爆発的な加速力を見せた。しかも、まだもう半分の距離を走れそうなほど、涼しい顔をしている。
(どういうことなの……この娘、底が全く見えない!!)
そもそもまず、スーパークリークも手を抜いていたわけではなかった。
タマモクロスの追い上げに合わせて彼女も加速をしていた。
追い抜かれはしたが、それでもシュガーが簡単に抜けるレベルではなかった。
しかし現状、シュガーはスーパークリークでさえも抜かしていた。
(本番に強い……のかしら?)
単純な話だが、納得がいく。
これではいきなりデビューさせても戦えるのではないか?そうも思った。
しかし、やはり、まだ身体が出来上がっていないはずだとも思った。
どうする?トレーナーの選択は……

>>125 デビューを早めるor9月の選抜レースまで待つ
125 : アナタ   2024/08/04 18:50:39 ID:EaeKlak1cg
デビューを早める
126 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/04 18:53:29 ID:JdRu21k2A6
>>125
早めちゃったよ!!

あ、1から長く試してしっくり来なかったので書き方を普通に戻してます。
127 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/05 11:25:44 ID:3Gc5tETkaY
まだ走り足りなそうなシュガーライドに、トレーナーは声をかけた。
「……突然だけど、デビューを早めてみる?」
「えっ!?」
シュガーライドは驚いた。まだトレーニングも始まったばかり、今の自分がデビューに値するのかもピンときてはいなかった。
そんな彼女に、トレーナーは説明する。トレーニングのとき以上に走れていた……あとは実践経験を積みながら力をつけていけば良いはずだと。
そしてトレーナーは、改めてシュガーライドに申し出た。
「ちょっと早いけど、トレーナー契約を結ばせてほしい。 ……良いかしら?」
「は……はいっ!これからもよろしくお願いしますっ!トレーナーさん!!」
タマモクロスとスーパークリークも見守る中で、トレセン学園に新たなコンビが誕生した瞬間であった。

______それから数日。メイクデビューに向けての調整を行っている時のこと。
128 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/05 11:27:20 ID:3Gc5tETkaY
「トレーナーさんっ!メニュー終わりましたーっ!」
「あら、もう!?」
タマモクロス達と走ってからというもの、シュガーライドはメキメキと強くなり始めていた。
何が彼女を目覚めさせたのかはトレーナーにもわからないが、それに同調するように先輩のウマ娘たちも気合が入っているので、良しとした。
「ところでシュガー、メイクデビューを走る場所だけど……どこが良いと思う?」
「は、初めてのレースの場所ですか!!すっごい重要なやつですよね!!」
スマホで各地域を調べながら、シュガーライドにも意見を問う。
メイクデビューのレースは殆どの地域で同じ距離が走れるが、遠征に伴う疲労なども考慮にいれる必要があるのだ。それにデビューを決めたら、そこからは早い方が良いが、7-8月はまだ暑い地域が多い。
初っ端からパフォーマンスを発揮できないのであれば、本末転倒である。
「……おや?メイクデビューの出走地域を検討されているのですか?」
「あっ!ジャーニーちゃん!!」
悩む二人の前に現れたのは、これまでもシュガーライドを助けてくれたりした先輩ウマ娘・ドリームジャーニーであった。
トレーナーは思い出す。ドリームジャーニーといえば「遠征支援委員会」を運営しており、これまで海外遠征で輝かしい実績を出してきたウマ娘たちも、彼女のバックアップあってこその活躍だと言えるほどだ。
「ジャーニーちゃんはどこが良いと思いますか!?」
「そうですね……」
ドリームジャーニーの提案>>129(それなりに長文を希望)
129 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/05 19:15:29 ID:3Gc5tETkaY
あげ安価下
130 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/05 21:44:59 ID:3Gc5tETkaY
まあ、なかなか来ないな。
131 : アナタ   2024/08/05 23:12:25 ID:vdpYWH02uo
ドリジャの思考でわりと長文となると全然わからん!
ってなるのかもなった
安価なら下で
132 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/06 01:11:03 ID:mjpd3mx3Mg
>>131
なんで!なんでレスをしたぁーっ!!!


……もう自分で書いてみるか……
133 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/06 06:06:11 ID:mjpd3mx3Mg
ドリームジャーニーは懐からタブレットを取り出すと、慣れた素早い手つきで情報の検索を始めた。そして数分後、結果が出たようだ。
「まずは遠征の必要がない……近場の話からしましょうか。
学園、又は寮からなら、駅で電車を使ってすぐの東京レース場ですね。移動距離が極めて短く、伴う負荷も限りなく最小に抑えられるでしょう。
次点では千葉まで行く必要がありますが、中山レース場があります。ここからでは同じく、そう遠くない距離ですね」

都内近辺の話が終わると、次にジャーニーは遠征となるレース場の話題に移った。
「ここからは遠征の必要があるレース場です。新幹線や航空を使えば遠くはない距離ですが、時間的・精神的余裕を考えて1、2日前からの滞在が有効でしょう。
今の時期でも涼しいのは、中部の新潟や東北の福島、そして北海道の各レース場ですね。逆に冬はパフォーマンスが落ちるウマ娘もいますが。
次に関西方面のレース場です。愛知の中京レース場や京都のレース場、兵庫の阪神レース場があります。この辺りは、レース前後の観光目的で選ぶウマ娘も少なくはありません。
そして最後に九州・小倉レース場ですね。田舎というイメージを持たれることが多いですが、用意された収容人数に見合うだけの観客が毎週やってくるので、他に劣ることはないでしょう。 ……こんなところでしょうか」
134 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/06 06:06:31 ID:mjpd3mx3Mg
説明を終えたジャーニーは、タブレットをしまうと一考する。
それも1分程度であり、すぐに結論を出した。
「ここまでは各地域の説明でしたが、どこがいいかという質問に答えるとなると……私のおすすめは新潟か福島でしょうか。暑すぎず寒すぎず、やはり夏の時期にメイクデビューを迎えるならばこの辺りです」
なるほど……と感心するシュガーとトレーナー。
右も左もわからない状況なので、今回はドリームジャーニーの意見に従ってみようと考えた。
「じゃあ、さっそく選んじゃいます!わたしの初レースの場所は……」
>>135
135 : トレぴっぴ   2024/08/06 06:47:08 ID:PTSdazYk6.
中山
136 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/06 08:14:20 ID:mjpd3mx3Mg
「え、今の話の流れで中山を選ぶんですか」
シュガーライドが出した結論は、メイクデビューの地を中山レース場にするということだった。
それに少し困惑するジャーニー。
「やっぱり初めは近場が良いかなーって。それにわたし、千葉のほうに行ってみたかったんです!!ほら、遊園地があるじゃないですか!!」
シュガーがスマホで見せたのは、千葉にある日本最大のテーマパークのサイトだった。
「なるほど、その目の輝かせ方……千葉でも十分に満喫できそうですね。レースも観光も」
嬉しそうなシュガーを見て、ジャーニーは納得したらしい。
137 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/06 08:14:37 ID:mjpd3mx3Mg
「じゃあ、初レースは中山レース場で決まりね。一番早くて……1週間後。どうかしら?」
「早いですね!でも、すぐレースできるって思うと、今からもうウズウズしちゃってます!!」
「よし、さっそくエントリーを済ませておくわね。芝で、2000m……っと」
トレーナーは専用のスマホで、URAのページからメイクデビューのエントリーを進めていく。
「2000mですか。シュガーさんの適性を見るには無難な距離ですね。私も応援していますよ」
「ありがとうっ、ジャーニーちゃん!!」
ドリームジャーニーからのエールも受けて、シュガーライドは気合を入れる。
そしてその後は、ゲート試験なども難なく突破し……。
1週間後。ついにメイクデビューの日を迎えた。
「私たちも、後で応援に行きますからね!!」
「頑張って、シュガーちゃん」
「はいっ!お二人とも、ありがとうございます!!」
スペとスズカに見送られ、シュガーライドは手荷物とともに寮をあとにする。
外でタクシーを止めていたトレーナーと駅へ向かい、電車に乗って、いざ中山へ。
天気は、良バ場が間違いなしの快晴。少し暑いくらいの夏の天気という感じだ。
がたんごとんと電車に揺られながら、シュガーライドはドキドキしていた。
(やっと、わたしもレースに出られるんだっ!!)
緊張などは一切なく、純粋な楽しみだけがそこにはあった。
>>138->>140
138 : アンタ   2024/08/06 16:27:24 ID:T59fLWlbJg
まずレースコース(本バ場)の様子を見に行ったシュガー
「これが練習じゃない本番のレースコース・・・私たちウマ娘が本気でぶつかり合うターフ・・・」
139 : トレーナーさん   2024/08/07 00:01:00 ID:pwEDu4G8Zs
シュガー「あ、福三の焼きそば美味しそう・・・あっ翠松楼のラーメンも・・・」
140 : アナタ   2024/08/07 06:56:11 ID:6H9Gr89uaM
初めてのレース場を思ったより楽しめたようだ!
141 : お姉さま   2024/08/07 07:04:46 ID:x83C7i/UeY
あれが短い事で世界的に有名な中山の直線…
142 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/07 10:17:46 ID:AVSLer3TOE
「ふわぁぁぁぁっ!!これがレース場ッ!!」
競技ウマ娘とそのトレーナーは関係者用の裏口から入れるので、それを使って入場したシュガー。そして早速足を運んだ観客席……そこから見る本バ場に、シュガーは心を奪われていた。
「ここでっ!ここで走るんですよねっ!たくさんのお客さんに応援されながらっ!!」
「ええ、そうよ」
「ああっ!あれが有名な中山の直線ッ!!」
興奮するシュガーに返事をしつつも、それを見るトレーナーにも自然と笑みが浮かぶ。
(ここまで純粋に喜ぶウマ娘は、なかなか居ないわよね……さすが小学生……)
今まで見てきた中高生のウマ娘たちは、こんなにも目を輝かせてレース場に興奮する者は少なかった……ので、純粋な心で興奮して喜んでいるシュガーを見るのが、うれしいのだ。
今は朝の9時。これからは未勝利ウマ娘たちのレースが始まるが、シュガーの出るメイクデビューは12時過ぎだ。
「まだ時間に余裕があるけど……何する?」
「そうですね……おなか空きました!!」
そういえば、とトレーナーはハッとした。自分もシュガーも、朝は何も食べずに来た。
よくここまで平常でいられたなと驚くとともに、そのツケが回ってきたかのように腹の虫が泣き始める。
「とりあえず……食べに行きましょうか」
二人は観客席から離れ、屋内へ。フードコートのエリアを目指すのだった。
143 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/07 11:26:56 ID:AVSLer3TOE
助けてくれ!!!これ以上、中山競馬場がわからない!!!!

てか小倉しか現地行ったことないです!!!!
144 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/07 12:13:32 ID:AVSLer3TOE
ここはもう、時々登場するめっちゃ書ける人に任せる……>>145から、大体レース時間ちょっと前くらいまで。
中山レース場と食についてを……。
145 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/07 20:13:07 ID:AVSLer3TOE
保守?上げ。安価下。
前スレみたいな文章バケモノの人、来ないかな……(他力本願)
146 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 14:39:14 ID:mwqXMn1BNg
二人が地下まで降りてやってきたのは、とても大きなフードコートエリア。
まだ時間が早いため、人並みはまばらだが……お昼時になると飲食用の座席の取り合いや譲り合いが発生するほどに、人であふれかえる場所だ。
「わぁーっ!なんでもあるんじゃないですか!ここっ!!」
シュガーは、ウマ娘としての”食”に対する本能が刺激されるのか、出展している店舗に目を輝かせている。
そして彼女はいつの間にか、雑誌のようなものを手にしていた。
「シュガー、それは?」
「これはですね、各レース場をもーらした、食とエンタテイメントのガイドブックです!!」
持っているそれは創刊号で、590円……次もあるの?とトレーナは少し困惑する。
「昨日の夜はこれをざーっと読んでいたんですが、じっさいに来てみるとすっごくワクワクしますね!!!!」
おそらくシュガーライドは、ネタバレを聞いてもそれを楽しみにするタイプなのだろうと、トレーナーは思った。
147 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 14:39:54 ID:mwqXMn1BNg
「あっ、永福の焼きそば屋に……あっちには確か……すいしょーまつのラーメン屋!」
「ちょっ、はっ、速いわよッ!時間はあるから!!」
小柄ながらも圧倒的な腕力差にトレーナーが勝てるはずもなく、様々な店舗を見て回るシュガーライドに引っ張り回される。
だが、不思議と悪い気はしなかった。レース場を楽しめている、緊張もしていなさそう……本番ではしっかり走れるはずだと、トレーナーはシュガーに改めて期待を寄せた。
「な、何を食べるにしてもっ、腹八分目にしといてね!?」
「あっそうだった!レース前に眠くなったら大変ですもんね!!」
シュガーは、自身の体質である血糖値スパイクをまだ克服できてはいなかった。
しかし、十分な野菜や健康茶とともに食事を摂ることで、ある程度緩和はできている。
それでも一般的なウマ娘より食事量を減らさなければならないのだが、ここ数週間で彼女の身体は着実に成長できている。トレーナーはそれを信じていた。


(一人でテンパってましたけど、なんとか解決できそうです。ゴメンネ)
148 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 15:19:10 ID:mwqXMn1BNg
「ぷはー!焼きそば、おいしかったですー!!」
永福で焼きそばを腹八分目までたらふく楽しんだシュガーは、とてもごきげんな様子だ。
(か、加減してて、あの量!?さすがウマ娘ね……)
トレーナー1杯に対し、シュガーは大を3杯。これでまだ控えめというのだから、この種族はとてつもないと、トレーナーは驚いていた。
「まだもう少し時間ありますよね!?グッズ売り場行きたいですっ!」
シュガーの希望で次に足を運んだのは、同じフロアにあるグッズショップ。
トゥインクルシリーズで活躍するウマ娘の公式グッズが売られた、ファンなら一度は足を運びたい場所である。
「うおーっ!UFOキャッチャーでもなかなか取れないぱかプチがこのお値段でっ!?あっちにはウイニングライブ用のペンライトっ!!」
たくさんのグッズに、これまた目を輝かせるシュガー。
しかし、ふと、彼女は足を止めた。
「らい……ぶ?」
「______あ」
小さく発した言葉を聞いたトレーナーは、気付いた。シュガーも、気づいてしまった。
「ういにんぐらいぶの……れんしゅう……してないです……」
トゥインクルシリーズのレースと言えば、1着でもそれ以下でも、応援してくれたファンに感謝の思いを伝えるための、ウイニングライブがある。
が、しかし。
シュガーライドはこれまで、レースに出て走ることを考えるしかなかった。それに向けてとても忙しかった。
ダンスレッスンを一切受けていない。
「どどどどどど、どうしましょうトレーナーさん!!!!!」

レースまであと2時間。体操服へ着替えたり、パドックへの参戦の時間も含めると、あまり使えない。
どうする?というか何ができる?
>>149
149 : トレーナーちゃん   2024/08/08 15:25:04 ID:vIEd.MF8a2
トレーナーのスマホでUmatubeの過去のウイニングライブのダンス動画を見て出来る限り覚える
150 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 17:25:41 ID:mwqXMn1BNg
二人は急遽、控室へと向かった。
そしてシュガーライドは早々と着替えを済ませ、軽くストレッチを始める。
「んーっ……2時間で覚えられますかねぇ!?」
体を伸ばしながら、シュガーはトレーナーが即興したプランについて改めて尋ねてみた。
「覚えられるかじゃないわ、やるのよ」
いつにもまして真剣なトレーナーの、プランはこうだ。
着替え→ストレッチ→ダンス練習を2時間で終わらせ、パドックに間に合わせる。
レースに向けてのウォーミングアップは、ダンス練習を通して済ませる。
……超突貫のプランだが、やれることはもうこれしかない。
「さ、ウイニングライブはMake Debutよ。動画サイトに振り付け動画があるから、覚えましょう」
「は、はいっ!なんとしても!!!!」
タブレットで動画を再生しながら、シュガーは振り付けを覚え始める。
とある男性俳優の話だが……リズム感がないが運動ができるその男性は、役としてダンスをする際、”リズム通りの振り付け”を1本の動きとして叩き込んだという。
シュガーもそれをするつもりだ。とりあえず今回は、みっちり踊れれば良いのだ。
ところで、見ている動画はセンター……つまり1着のウマ娘の振り付け。
シュガーは、デビュー戦で2着以下になることは考えていない。
楽しく走って、勝つ。だから練習するのはセンターの振り付けだけで、良いのだ。
151 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 17:26:03 ID:mwqXMn1BNg
そして、2時間後。
「______どっ、どうですか!」
「なんとか様になってきてるわね。あとはぶっつけ本番だけど、いけそう?」
「はいっ!」
ある程度の振り付けを覚えたシュガー。歌の方は……まあこれも聞けないレベルではないので、今日を乗り切ってから考えようということになった。
蹄鉄をしっかり打った競走用シューズに履き替え、水を飲んで少し一息入れてから、シュガーは表情を引き締める。
「……じゃあ、トレーナーさん。いってきますっ!」
「ええ。楽しんできて!」
楽しく走って、勝つ。その思いを胸に、シュガーライドはターフへ向かうのだった。

『さあ!中山レース場も5Rに突入だ!メイクデビューに挑む9人のウマ娘たちは、どのような走りを見せてくれるのでしょうか!?』
12時をまわり、客席にも人が増えてきた中山レース場。
このレースでメイクデビューを迎えるウマ娘たちが、続々とパドックに姿を見せていく。
『そして最後に登場するのは、期待の飛び級ウマ娘! 、1番人気、シュガーライドです!』
実況の声とともに、シュガーライドがパドックに登場した。
(これが、レースに向かうウマ娘さんからみた景色……)
(ていうか、1番人気……えーっ!?)
観客に向けている表情はキリッとしていたが、内心は自分の評判に驚くシュガー。
だが、彼女はその期待すらもエネルギーに変えようと思った。
なぜなら今、ものすごく楽しみだからだ。そのすべてが。
152 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 17:37:25 ID:mwqXMn1BNg
シュガーライドの枠>>153
レース展開>>154
153 : トレ公   2024/08/08 17:42:49 ID:vIEd.MF8a2
1枠2番
154 : 相棒   2024/08/08 17:49:47 ID:LBWhxC3Pkc
ややスローペース、先頭からシンガリまで約10バ身
155 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 18:31:20 ID:mwqXMn1BNg
『ターフに集うは9人の新人ウマ娘たち。スムーズにゲート入りが進み、出走の時を待っています』
内枠となる2番ゲートに収まったシュガーライドは、ゲート内でもいろいろなことを考えていた。
自分よりも大きなお姉さんウマ娘たちのことだったり、ターフの感触だったり。
だが、一番は。
(たのしみ、ですっ!!)
細かい作戦指示もされていない。まずは自分の思うように楽しく走ってほしいとだけ。
彼女の心の中はもう、走りたい気持ちでいっぱいだ。
『最後の一人がゲートイン。各ウマ娘体勢完了か……今、スタートしました!』
ゲートが開き、ウマ娘たちが一斉に飛び出していく。
『さあ、誰が行くでしょうか。まずは4番と8番がハナを奪い合っている。1番人気のシュガーライドは最後方、後半届くでしょうか?』
これを出遅れだと思う観客もいるかも知れない。だが、
(よしっ、たぶんいいスタートなんです!!)
シュガーライドにとっては、最良の位置取りだった。
ポテンシャルの高さはわかっているものの、2000mは未知の距離。そして自身の脚質と合わせて、シュガーライドはギリギリまで脚を溜められる最後方を走ることを選んだのだ。
『最初の1000mは60秒ジャスト。ややスローな展開です』
2コーナーを回って向正面。レースは淀みなく進行している。
(すごいっ、これがレース!足音がたくさん聞こえて、わくわくするっ!!)
最後方に居て、その前方を2、3人のウマ娘にカバーされている状態であったが、今のシュガーにはすべてが新鮮で、楽しいものであった。
『先頭からシンガリまでおよそ10バ身。3コーナーを回って最終コーナーへと進みます。誰が最初に仕掛けるか!?』
156 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 18:31:46 ID:mwqXMn1BNg
シンガリといえば今はシュガーライドであり、スローペースで10バ身もの間隔が開いているのは、後方からくるウマ娘には少し不利な展開だ。
前のウマ娘の脚が生きていることも多く、先行勢が逃げ粘ることも少なくはない。
そんな状況で突入する最終直線。4コーナーを抜けて、残り400m。
(あっ……ここからっ!!)
もうすぐゴールだと気づき、シュガーが動く。
『おーっとここでシュガーライド!凄まじいまくりで大外から上がってくるぞ!!』
タマモクロスたちとの走りで見せた、大股でありながらもその間隔がとても小さい、高速なストライド走法。
その走りで、内を走るウマ娘たちをどんどん追い抜いていく。
「はあぁぁっ!!」
『シュガーライド、先頭を走る8番を追い抜いて先頭に立った!凄まじい走りで心臓破りの坂も難なく突破し、いま1着で、ゴールっ!!』
ラストスパートを掛けるその間、シュガーライドは終始笑っていた。そしてそのまま、楽しくゴールしたのである。
「よしっ!!」
観客席で小さくガッツポーズをするトレーナー。
そしてゆっくりとスピードを落とし、止まるシュガー。
(あ……デビュー戦……勝ったんですね……)
「はぁ……はぁっ……やっ、やったぁー!!」
あれだけの大まくりをして、息は荒かった。だがその笑顔を崩さず、シュガーライドはデビュー戦の勝利を喜ぶ。
彼女のレースは、まだ始まったばかりだ……。
157 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/08 18:32:27 ID:mwqXMn1BNg
次の展開>>158>>160
158 : キミ   2024/08/08 18:38:31 ID:vIEd.MF8a2
ウイニングライブも大成功
159 : お姉さま   2024/08/08 20:44:13 ID:JI7FkGQuyk
大外まくりの豪快な走りとライブの出来から一躍今期の期待の星に!目の肥えたファンからは今年の菊花賞ウマ娘は決まり、あわよくば三冠も!?との声も
160 : お前   2024/08/08 21:47:32 ID:vIEd.MF8a2
早速、雑誌『月刊トゥインクル』の記者である乙名史悦子から「期待の新星に密着取材を」との要望が。
161 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/09 03:37:09 ID:OCmbApAAho
「トレーナーさんっ!! やりましたっ!!」
控室に戻ると、大喜びのシュガーは改めてトレーナーに勝利報告をする。
力いっぱいの握手に応えながら、トレーナーも称賛の言葉を送った。
「凄いわ。デビュー戦で初勝利、しかもあれだけの結果! ……それと」
「はい?」
称賛と同時に、トレーナーは”あの疑問”を投げかける。
「走ってて、楽しかった?」
それに対し、シュガーは迷わず答えた。
「はいっ!すっごくっ!!」
その表情から飛び出した言葉には一切の曇りがなく、
本気で走れたのだと実感するトレーナー。
「あ、そうだ!トレーナーさん!ライブって夕方ですよね!」
「そうだけど……」
「しっかり1着になれましたし、もうちょっと練習しませんか?」
ダンス練習を提案するシュガーライドからは、レースでの疲れはほとんど見えない。
プレッシャーもなく、先ほど以上に集中して取り組めるだろう……そう思い、トレーナーはライブに向けてのダンス練習を再開することにした。
途中、軽食も挟みながら、数時間後……。
162 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/09 03:37:38 ID:OCmbApAAho
『さあ!ウイニングライブの時間がやってまいりました!センターを飾るのは、圧巻の大まくりでレースを制したこのウマ娘ッ!!』
暗くなってきた中山レース場。ライブ専用の中規模なステージには、すでに多くの観客が詰めかけ、皆それぞれ応援グッズを持っている。
そして、そんな大観衆に見守られ登場したのは……。

『期待の新生ウマ娘、シュガーライド!!』
(わ、わぁ……これが、ウイニングライブっ!)
せり上がりエレベーターでステージにやってきたシュガーライドは、たくさんの観客たちに驚き、息をのむ。
(ま、まだデビュー戦だけど、もしGIで勝てたら、どんなことになるんでしょうか!!)
彼女の脳内では一足先に、GIレースで勝った後の話を想像していた。
観客も歓声も、今の比ではないだろう。
そんな景色を思い描きながら、彼女はスタンドマイクを手に取る。
「えっと、シュガーライドですっ!きょうは、楽しいステージにしていきましょうっ!」
まだ大それた言葉も何もないけれど、今日は楽しい走りができて、それを応援してくれた人たちに感謝を伝えたい……そんな思いを胸に、シュガーは歌って踊る。
活舌は安定していないが、子供らしさのある元気な歌声。そして、何時間も練習したキレのあるダンス。センターに特化したおかげでもあるだろう。
初めてのレースに、初めてのライブ。どちらも、大成功で幕を閉じるのだった。
163 : 貴方   2024/08/09 03:46:00 ID:47WW.AvmxI
>>159
メイクデビュー中山2000mなら菊花賞より皐月賞では?
それとも目の肥えたファンが皆何故かステイヤーだと見抜いてるって事?
164 : トレ公   2024/08/09 03:52:18 ID:OCmbApAAho
>>163
後者でいいんじゃないですかね
165 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/12 04:22:51 ID:cmCOWRzSJk
次の日。トゥインクルシリーズ専用SNS「U」では、すでにシュガーライドの話題で持ちきりになっていた。

『メイクデビューのあの娘、凄かったよな』
『身体が小さいね……ってか小学生!?』
『あのまくり方は並のウマ娘にはできないと思う』
『歌とダンスもよかった。推す』
『3冠も目指せるくね?』

午後3時頃。トレーナーはスマホでそれを眺めながら、屋内トレーニングルームでシュガーを待つ。
(いきなり有名人……胃が痛いわ……)
世間からこれだけの期待がかかっているのだ。トレーナーとしてもシュガーの環境にかかわってくる要素を潰すわけにはいかない。
掛けられた期待が重い。
「トレーナーさんっ!わたし今、SNSで有名人になってるって!!」
(まあ、そりゃそうか)
ジャージを着てやってきたシュガーライドの瞳は純粋なキラキラオーラを放っているようだった。その眩しさは、不安や心配などが混ざっていては絶対に成せないものだと思い、
杞憂だったなと納得するトレーナー。そして、用意していた次の計画シートをタブレットで見せる。
「ほうほう……次のレースはGIII札幌ジュニアステークス……え?いきなりじゅーしょーを走るんですか!?」
驚くシュガーに、トレーナーは説明を始めた。
166 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/12 04:24:06 ID:cmCOWRzSJk
「良い?私は、あなたにそれだけの力があると思ってる。多分、他のウマ娘に決して劣らない、あなただけの力が」
「わたし、だけの……」
「そうよ。この調子で走っていれば、きっとそれが”シュガーライドを形作るもの”になっていくはず。 ……要は、あなたにしかできない走り、ね」
小柄でありながら、勝負どころでは異質な末脚を使うことのできるシュガー。
それは同年代のウマ娘にも、先輩ウマ娘たちにも中々マネできないものだ。
自分だけの走りを確固たるものにすれば、GIどころかクラシック3冠にも手が届く……トレーナーはそれを信じている。
「わっ、わかりました!GIIIにでて、えっと……はずみをつけますっ!!」
少し考えて、納得したシュガーの目が、また熱く燃えだした。
次の舞台は8月下旬の札幌。東京と比べるとこの時期でも冷たいが、きっと温めてくれるに違いないと、トレーナーは期待を寄せるのだった。
そして屋外に出て、トレーニングを始めていると……。
167 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/13 05:38:11 ID:0xVA54Iu4.
「すみませんっ!お時間よろしいでしょうか!!」
トレーナーに、一人の女性が話しかけてきた。カメラや手帳を持っていて、動き回るのに良さそうな服装……これらを見て、トレーナーは直感する。
「……記者の方ですか?」
「そうです!!私、雑誌『月刊トゥインクル』の記者で、乙名史悦子と申します!」
トゥインクルシリーズを特集する人気雑誌の記者を名乗るこの女性。
トレーナーがまだ何も言ってないのに、既に目を輝かせているようだ。
話を聞いてみると、まだ10歳でありながら鮮烈なデビューを果たしたシュガーライドに、
とても興味があるという。
「密着取材、させていただけませんか!!!!!」
なんというか悪意はないが圧が強いこの女性記者に、トレーナーは……。
>>168
168 : あなた   2024/08/13 05:43:39 ID:im.4hB/1Qk
1日(24時間)だけですよ。但し、シュガーが嫌悪感を抱いたらその場で即終了です。それでも良いなら密着取材しても構いません。
169 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/13 06:34:30 ID:0xVA54Iu4.
「トレーニングの間なら構いません。ただし、シュガーやその他のウマ娘たちに悪い影響がないように、お願いします」
「すすす、素晴らしいですっ!!」
どうやら、担当だけではなく周りのウマ娘にも配慮した提案に、いい評価をもらったようだ。トレーナーは一瞬困惑したが、乙名史記者といえばこんな性格だったなと納得する。
「ではさっそく、撮らせていただきますね!」
そして乙名史記者は、持っていたデジカメを構えて、シュガーライドの練習風景を撮影し始めた。 
その日の夜……。
「かんぱーいっ!!」
寮の一室で、小さなお祝いパーティーが開かれていた。
祝われているのはシュガーライドで、祝っているのはスペとスズカだ。
それっぽいグラスになみなみと注がれたなまはげジュースを飲みながら、シュガーはご満悦に浸っている。
「初勝利、おめでとう」
「おめでとうございます、シュガーさん!」
「えへへ。お二人とも、ありがとうございますっ!」
昨日は、帰ってきてすぐにシュガーが眠ってしまったため、今日のこの時間にお祝いパーティーを開くことになっていたのだ。
「ところで、次のレースはもう決まってるんですか?」
「はい!札幌ジュニアステークスです!」
「いきなり重賞ですか!頑張ってください!!」
スペもスズカも、シュガーのことを心から祝い、応援してくれている。
シュガーはそれに応えねばと思った。またこんなふうに祝ってもらえたら、自身にとっても嬉しいものである。
そして、明日からも頑張ろう……そう思えたのだった。

>>170>>173
170 : トレーナーちゃん   2024/08/13 09:32:57 ID:im.4hB/1Qk
トレーニングの合間にお茶をしようと思いカフェテリアを訪れたら、今日は誰かの誕生日らしくケーキが全品半額でラッキー!
171 : お姉さま   2024/08/13 10:07:21 ID:FlAx4OaFDY
そして手にしたスイーツを食べようとすると…
「そんな!?昨日から食べたかったメロンパフェを半額で入手するチャンスが…こんなのあんまりですわ!絶対に許しませんわよゴールドシップさん!」という怒りの声が…
哀れに思ったのでたまたま購入していたメロンパフェを声の主に譲ってあげた
そして話を聞いて見ればなんとそのウマ娘はステイヤー系の名家の期待の星だった!
お礼に後日長距離の極意を教わる事になった!
172 : お姉ちゃん   2024/08/13 10:10:52 ID:FlAx4OaFDY
あ、マックちゃんが怒ってるのはゴルシに振り回されてカフェに行くのが遅れたせいです。無駄にレスしてすいません
後1つ ↓
173 : お姉ちゃん   2024/08/13 10:22:40 ID:5aYnfP5YS.
>>171>>172
(文脈的にゴルシのせいでパフェを買えなかったって事か…?)

ついでにゴルシからも同じ後方からの捲りが得意という事で色々教えてくれる事になった(真面目にレース技術を教えるとは言ってない)
174 : モルモット君   2024/08/14 13:46:04 ID:JuopfQKb/Y
>>173
それです!全然補足出来て無かった…すいません
175 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/15 05:06:08 ID:FVCDezNPk2
そして次の日。
今日の放課後は時間に余裕があったので、シュガーライドはトレーニング前にカフェテリアで糖分補給に勤しむことにした。

「わぁー!この時間のカフェテリア、めったに行かないので……こんなにスイーツがあってびっくりです~!!」
ビュッフェ形式で並ぶ豪華絢爛なスイーツたち。
ショートケーキなどの定番メニューや、パティシエ監修の装飾が施されたスイーツがたくさんある。
(……あ、あれは!!)
ふと、テーブルの端のほうに目をやってみると……”特別なメニュー”が掲示されていることに気がついた。
「なになに……おたんじょうび記念……いつもなら1000円のメロンパフェが、半額以下の250え______」
ビュッフェ外の有料メニューであるメロンパフェは、レースで戦績を重ねた一部のウマ娘しか気軽に手が出ないような、良いお値段の限定商品だ。
それが250円で売っている。なんとオトクなことだろうか。
しかし、それを読み上げていた次の瞬間、押し寄せてくるバ群の波に飲まれていくシュガーライド。
(し、しまった!すっごいオトクすぎて、ウマ娘さんたちがこんなに!! ……でもっ!!)
正直なところ、メロンパフェを買いたい。食べたい。
その気持ちに正直になることを誓ったシュガーは、走る構えをとった。
「わたしは、追込ウマ娘なんだーっ!!」
一気に駆け出す。小柄な身体を利用してバ群の隙間を抜けていく。
そして……!
「め、メロンパフェ、ひとつっ!!」
176 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/17 01:37:44 ID:OSTdwbi4M2
多忙のため更新頻度ダウン
177 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/18 17:33:49 ID:XXF81bYPXI
(か、買えた!!!メロンパフェ、買っちゃいましたぁー!!!)
メロンパフェ争奪ステークスをくぐり抜けたシュガーライドは、席に座ってその最初の一口を頂こうとする。
メロンクリームも練り込まれたバニラアイスから行くか、それとも三日月型に切られた一切れのメロンから行くか、悩んでいると……。
「そんな!?昨日から食べたかったメロンパフェを半額で入手するチャンスが…こんなのあんまりですわぁぁぁぁぁっ!!」
(ん!?)
レジの方から悲鳴のような叫びが。
恐る恐る振り向くシュガー。その目に映ったのは、芦毛のウマ娘が芦毛のウマ娘にプロレス技をかけている姿だった。
「絶対に許しませんわよ!ゴールドシップさん!」
「いでででででで!わ、悪かったってマックちゃん!まずはこれほどいてくれよ!?」
(あ……)
技をかけている方のウマ娘に、哀れみを覚えたシュガーは……立ち上がって、持ってきた。自分の買ったメロンパフェを。
「あの……メロンパフェ、食べます?ぜんぶ」
「ええっ!?いいんですの!?」
その芦毛のウマ娘は、シュガーライドの突然の申し出に目を丸くしたが、どうぞどうぞというシュガーの気持ちを汲み、しぶしぶパフェを受け取った……。

「______はぁ、助かったぜ。サンキューな、えっと……」
「あ、シュガーライドです。そちらのお名前は?」
「アタシはゴールドシップ。で、あっちで嬉しそうにメロンパフェを食べてるのが……メジロマックイーンだ」
(……めじろ?)
178 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/18 17:35:35 ID:XXF81bYPXI
ゴールドシップから名を聞いて、シュガーは何かを思い出しかけていた。
(えと……そ、そうだ!わたし、会ってます!メジロブライトさんとメジロライアンさんに!!)
完全に思い出した。学園に来て以来、メジロという名のついたウマ娘2名と知り合っていたことを。それをゴールドシップに話してみると……。
「へぇ、オメーすげぇな!メジロといえばレースでもエリート揃いのお金持ちのトコだ。学園に来てすぐ二人と知り合えるなんてよ」
(おかねもち!?)
つまりはお嬢様ということになる。
「あの人も……」
パクパクとメロンパフェを食べているマックイーンを見て、”とてもそうは見えない”と思うシュガー。
「______今、お嬢様には見えないとか思いませんでした??」
「ひっ!」
いつの間にかパフェをたいらげたマックイーンが、眼前に立っていた。
驚くシュガーに、マックイーンは話を続ける。
「改めまして、メジロマックイーンですわ。先程のことは感謝してもしきれません、シュガーライドさん」
「あれ?わたし自己紹介しましたっけ……」
「ブライトから話を聞いていましたの。あなたも私と同じく、ステイヤーを志すウマ娘……食後の運動も兼ねて、併走しませんこと?メジロの名を背負う覚悟とその実力、お見せしますっ!!」
179 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/19 16:02:07 ID:KpsCyYsVd.
「……シュガー、あなたの人脈が怖いわ……」
トレーニングの時間になり、グラウンドにやってきたシュガーライド。トレーナーはその隣に立つメジロマックイーンを見て、シュガーが短期間で実力派の先輩ウマ娘たちと知り合えていることに唖然としている。

「では、早速始めましょう」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!!」
先の一部始終と併走の件をトレーナーに伝えた後、二人はスタート地点に立つ。
距離は同地点からの一周2000m。シュガーライドの要望に、マックイーンが応えてくれた形だ。
(マックイーンさん、どんな走りをするんだろう?)
(シュガーライドさん……メイクデビューを勝ったばかりとはいえ、ブライトが目をかけるその実力、警戒していきますわよ!)
未知なる相手との走りに心を弾ませるシュガーと、始まったばかりの実績……それ以上の力を警戒するマックイーン。両者思惑は違えど、やる気は十分。
「じゃあ、そろそろ行くわよ。よーい……」
トレーナーの合図で、二人は構える。そして、
「ドン!」
スタート。それと同時に瞬時に走り出す両者。
本番のレース基準で考えても出遅れはないだろうと感心するトレーナーは、すでにかなり先を走っている二人を見守り始めた。
(後ろから……追い込むつもりですわね?)
最初のコーナーを通過し、先頭を走るマックイーン。
おそらく自身の4バ身ほど後ろを走るシュガーの作戦を予想しながら、ペースをキープする。
(それならば、最終コーナーで一気に引き離します!)
180 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/19 16:03:51 ID:KpsCyYsVd.
______時を同じくしてシュガーライドは、マックイーンを追うように走っている。
(すごいっ、これがメジロマックイーンさんの走り……うん、楽しいっ!)
自分の気持ちをわくわくさせてくれる相手との併走……というかこれはもはや模擬レースであるかもしれないが、シュガーライドの気分はじわじわと高まっていた。
そしてそのまま、バ身を維持したまま2コーナーを曲がる。
仕掛けどころはまだ先。このレースの行方は……>>181
181 : お姉さま   2024/08/19 18:51:18 ID:lJkdsk72qI
アタマ差
182 : アナタ   2024/08/19 18:54:21 ID:KpsCyYsVd.
>>181
アタマ差の、……!?
183 : 貴様   2024/08/19 19:00:41 ID:KpsCyYsVd.
勝敗は委ねるってことでいいですね!?!?!?
184 : 貴方   2024/08/19 19:01:06 ID:lJkdsk72qI
>>183
よろしくお願いします
185 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/20 19:21:53 ID:3rDdJ1X6ss
二人ともに一歩も譲らず、余力を保ったまま、最終コーナーを曲がる。
ここからが本当の真剣勝負。逃げ切りか、差し切りか。
「このタイミング……ですよねっ!」
後方にいたシュガーライドが得意の加速走法でメジロマックイーンを追い始める。
前回のレースで勘を養ったのか、踏み込みには自信が宿っていた。
ここでスパートをかければ確実に追い越せる、その気持ちを胸に前へ進出していくシュガー。
(なるほど、これが……!ですが、私もメジロのウマ娘として、負けるわけにはいかないんですのよっ!)
未熟で小柄な身体からは想像も付かない脚を使ってくるシュガーに対し、マックイーンは一歩も引かない、屈することはない。
前の方を走ってはいたものの、脚は十分に溜まっている。
それを、一気に、爆発させる……!!
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「だぁぁぁぁぁっ!!」
最終直線。二人は激しい競り合いに突入。
並ばせない、追い抜く……両者の意思もぶつかり続ける。
この場の空気感はもはやGIレースに匹敵するほど熱く、高まっていた。
が、そんな時間も、終わりの時______。
「えー……ビデオカメラによる写真判定の結果、1着はアタマ差でメジロマックイーンでした。シュガーライドもお疲れ。すごい走りだったわ」
ゴールしてから10分もの映像判定が行われ、今回の併走はメジロマックイーン1着という結果で終わりを告げた。
「はぁっ……負けたけど……やっぱり走るのってすっごく楽しいです!」
「私も、併走とは思えないほどの熱いレースができて、とても楽しめましたわね」
シュガーライドとメジロマックイーンは握手を交わし、公式戦での再戦を誓う。
願わくばそれは、GIレースで。
186 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/22 06:45:03 ID:gATzVCGUrs
メジロマックイーンとの併走から数日後。
札幌ジュニアステークスへの出走を間近に控えたシュガーライドは、いつものようにトレーニングを終えていた。
普段通りの生活を送りながらも、毎日少しずつ、何かが違ってきていると心のどこかで思っている。走るたび、鍛えるたびに自身の成長を感じているのだ。
(あれ?なんか今日、まだ走れそうです……)
グラウンドのベンチで水分補給をしながら、シュガーは予感めいたものを覚える。
脚に余裕があり、軽いペースならもう少し走れるかもしれない……と。
そう思うと、はやる気持ちを抑えられなくなっていく。
走れるなら、もっと走りたい。
「トレーナーさん!えっと……」
「シュガー、どうかした?」
「なんだか落ち着かないので、くーるだうん行ってきてもいいですか!!町中を走りたいですっ!!」
こうしてシュガーライドはトレーナーに許可をもらい、学園の外……町中での外回りに向かうのだった。


>>187(外回り中に起きる出来事と、出会うウマ娘)
187 : トレーナーさま   2024/08/22 07:17:54 ID:dAywy.xSII
何かをやらかしたと思われるパーマー、ヘリオスとそれを鬼の形相で追うエアグルーヴに巻き込まれ、何故か一緒に爆逃げするハメに
188 : トレぴ   2024/08/22 07:23:15 ID:gATzVCGUrs
(わたし追込なんですけどね!?)
189 : トレーナーさん   2024/08/22 07:34:31 ID:dAywy.xSII
火事場の馬鹿力って事で…(忘れてた何て言えない…)
190 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/22 10:26:07 ID:gATzVCGUrs
「はっ、はっ、はっ……」
ビル街・商店街・公園______学園周辺のエリアを、スローペースだが軽快に走るシュガーライド。
時間あたりの進む距離は比べものにならないが、走る速度は人間のランニングレベルだ。
「マイル~中距離はよく出来ているから、長い時間・距離を走ることを見据えたスローペーストレーニングを」というトレーナーのアドバイスを受けての走法である。
(これっ、けっこうっ、きますね)
実はランニングを始めてから1時間は経過しているのだが、シュガーは身体的に少し疲れが見えてきたようだ。それもそのはず、5周は走っているのだから。
(そろそろっ、どこかでっ、休憩を……ん?)
公園まで戻ってきたころ、背後から複数の激しい足音を感じるシュガー。
本能的にウマ耳が感じ取る。まだ距離は遠い。しかし近づいてくる。凄い勢いで走っているのは間違いなかった。
「お前らぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
(……!?)
振り向くと、悲鳴を上げながら逃げるウマ娘が二人。そしてそれを鬼の形相で追い掛けるウマ娘が一人。
逃げるウマ娘たちはとてつもないスピードで、駆け足だったシュガーを追い抜いていく。
「キミ、ちょっと手伝ってくれないか!?後ではちみードリンクをおごろう!」
「手伝うって何を!?」
「あの二人を捕まえたいのだッ!!」
追っていた3人目のウマ娘が、シュガーに声をかけてきた。
前を走る二人を捕まえれば、公園で売っているはちみーをおごってくれるとのことで……。
「わかりました、やりますっ!」
急に元気がわいてきたシュガー。
トレーニング疲れが減っていき、それはどんどんやる気へと変化していく。
191 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/23 07:41:41 ID:SaXs3.9nUA
______スイッチが、入った。
そこからはもう、ノリノリである。
シュガーより少し先行したウマ娘を一瞬で追い抜くと、前を逃げる二人にぐんぐん迫っていく。
(……!! とてつもない加速力だ。あの娘は一体……!?)
そのウマ娘______エアグルーヴは、シュガーライドの加速力に驚きを隠せない。
彼女は、自身と同じティアラ路線を目指すニシノフラワーに近いものを、シュガーから感じていた。
そしてわずか数秒後。
「おふたり、捕まえましたぁ~!!」
「……そ、そうか!助かった!今向かう!」
少し離れたところで、逃げていた二人______ダイタクヘリオスとメジロパーマーを捕まえたことを知らせるシュガーの声を聞いて、エアグルーヴは急いで向かうのだった。

「おいしぃ~!生き返りますねぇ……」
「無理させてすまなかったな。2杯目もいるか?」
「いえいえ、大丈夫です!ありがとうございます、エアグルーヴさん!」
救援に来た他の生徒にヘリオスとパーマーを引き渡した後、シュガーは最初の約束通り、エアグルーヴにはちみードリンクを奢ってもらっていた。
「にしても、凄い走りだったな。キミは……シュガーライドは、何を目標に走っているんだ?」
「もくひょう……ですか。なんでしょうね、今はまず……GIで勝ちたいですっ!」
「そうか。走り始めたころの目標は、それくらいがまだちょうど良いだろう。頑張れよ」

こうして、はちみーとエールをもらったシュガーライドは、るんるんとした気持ちで学園に戻るのだった。
(フラワー……だけじゃない。脚質は違うが、”アイツ”に近い何かを感じるな)
エアグルーヴはそれを見送りながら、過去に偉大な戦績を残したあるウマ娘を内心に思っていた。
192 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/24 19:31:40 ID:LfzwbDgqJw
そしてレース当日。
前日から航空機で現地入りし、ビジネスホテルに宿泊したシュガーとトレーナーは、さっそく札幌レース場へと足を運んでいた。
「どきどき、です」
「東京とは気温差があって少しばかり寒いし、緊張してたら筋肉まで固まっちゃうわよ?」
「そこはだいじょうぶです!ホテル出るまでしっかり体操してたので!」
シュガーにとっては2回目の公式戦。初陣よりは緊張感が増している。
が、札幌の寒さも緊張もはねのけて、彼女は走るのだ。

当日の天候・バ場状態>>193
193 : お前   2024/08/24 20:09:16 ID:ur/MDPxx9A
曇 稍重
194 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/24 21:10:13 ID:LfzwbDgqJw
そしてレース当日。
前日から航空機で現地入りし、ビジネスホテルに宿泊したシュガーとトレーナーは、さっそく札幌レース場へと足を運んでいた。
「どきどき、です」
「東京とは気温差があって少しばかり寒いし、緊張してたら筋肉まで固まっちゃうわよ?」
「そこはだいじょうぶです!ホテル出るまでしっかり体操してたので!」
シュガーにとっては2回目の公式戦。初陣よりは緊張感が増している。
が、札幌の寒さも緊張もはねのけて、彼女は走るのだ。

はねのけられないものが、一つだけあった。
それはあらゆる生き物が抗えない自然の摂理……天気である。
夜間降った雨の影響で、現時点では稍重な芝状態だ。
控え室のテレビで会場の天候を聞きながら、トレーナーは少し不安な気持ちになっている。
(札幌レース場の芝は水を吸いやすくて重くなりやすい洋芝……シュガーのバ場適性がはっきりしてないけど、2戦目でこれにぶちあたるのは厳しいかも)
シュガーライドの圧倒的な終盤加速力……それはやわらかく重い芝でも発揮できるものなのか、気がかりはそこにあった。無理して全力を出せば、通常の芝よりも故障リスクが高まるかもしれない。
「レース、たのしみだなぁ!」
既に体操服に着替えて準備は万全の様子なシュガーライド。
“わくわくしている”シュガーに、今の状況をどう伝えようかと悩むトレーナー。

どう伝えるか 「>>195
195 : お兄さま   2024/08/24 21:44:01 ID:ur/MDPxx9A
シュガー、今の札幌レース場のバ場状態を簡単に言うと「水を吸った高野豆腐」のようなものだ。
普段のバ場が「乾いて固い高野豆腐」なら、今ここ札幌のバ場は「水を吸った高野豆腐」のようにとてもやわらかくて不安定なバ場になっている。
いつものバ場のつもりで走ると通常の芝よりも故障リスクが高いから、1着になってもらいたいのは勿論だが...決して無理だけはするなよ。
196 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/25 05:55:38 ID:uo1xRLbbhA
(トレーナーさんは女性なんですけどね!?)
197 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/25 06:10:31 ID:uo1xRLbbhA
「ねぇ、シュガー」
「なんですか?トレーナーさん」
きょとんとした表情で振り返るシュガーに、トレーナーはこう言葉をかけた。
「シュガー、今の札幌レース場のバ場状態を簡単に言うと「水を吸った高野豆腐」のようなものよ」
「こ、高野豆腐ですか!?」
「ええ。普段のバ場が「乾いて固い高野豆腐」なら、今のバ場は凄く柔らかくて、重い。ヒトレベルで見てもかなり走りづらいわね。つまり……無理はしないで」
トレーナーからの忠告を聞いて、シュガーライドは表情を固める。数秒の間、けわしくなる。そして。
「わかりましたっ!でも、やっぱり走るなら勝ちたいので!できるかぎりやってみます!」
すぐに表情が明るくなり、いつものようなはつらつとした返事をした後、シュガーはターフへと向かっていった。
(大丈夫かしら……)
根本的な解決に至ることはない。だが、やはりトレーナーとしても……安全な完走と輝かしい勝利を両立させたい。
だからもう、観客席から祈るしかないのだ。

札幌ジュニアステークス 10人 芝 稍重
シュガーライドの枠>>198
198 : お姉さま   2024/08/25 06:25:15 ID:FnR1Ac3Xuc
8番
199 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/25 10:09:11 ID:uo1xRLbbhA
『さあ、ここ札幌レース場でまもなく始まります、GIII札幌ジュニアステークス!
昨晩の雨の影響で、稍重の芝状態。デビューしたての若駒たちはどう挑むのか!?』

実況の後、出走ウマ娘たちが続々とターフに姿を見せるその中に、シュガーライドの姿もあった。
(あ……たしかに、いつもの芝とは違います……)
ゲートへ向かう際、一歩一歩芝を踏みしめ、感触を確かめるシュガー。
普段とは違うその地面に心身を慣らすように、じっくりと歩く。
今回も1番人気として推され、本人もやる気は十分だ。
『各ウマ娘、次々とゲートイン。1番人気シュガーライドは外枠8番……』
ほぼ大外となる8番ゲートに収まることになったシュガー。
この重バ場の中、大外ではロスが大きいという見解もある。
それを期待の新星がどう攻略するかがこのレースの話題となっていた。
(お客さんたちの……ねっき?もあって、寒いっていうのはあまり感じないです……少し暑いくらいかも?)
ゲートの中で構えながら、シュガーは会場の熱気を肌で感じていた。それは札幌の寒さを吹き飛ばすレベルで、観客から送られているものである。
GIIIでこの熱量なのだから、GIともなればどれほどなのだろうと胸を高鳴らせている間に、出走ウマ娘が全員ゲート入りをした。
『さあ、各ウマ娘ゲートに入り体制完了。今……スタートしました!』
レース展開>>200
200 : トレーナーちゃん   2024/08/25 10:15:33 ID:MgrNa1BaLk
スタート直後、稍重のバ場で転倒する者も居たが特に大きな混乱もなく第1コーナーへ
そのまま第2コーナーも特に変化なくクリアし向正面へ。この時点でシュガーは前から3番目
第3コーナーを抜け、最終コーナーを超えて最後の直線に入ったところで仕掛けるシュガー
驚異の差しとまではいかないが2番手、先頭をあっさり抜き去り後続と2バ身差でシュガー1着
201 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/25 12:49:57 ID:uo1xRLbbhA
ゲートが開く。
曇り空の札幌レース場に、10人のウマ娘が一斉に飛び出していく。
『誰が行くのか……おっと7番が転倒!後方に位置取る形となってしまいました』
稍重なバ場に脚を取られてしまい、1人が軽く転倒。前に行こうとしていたが、後方集団に入ることになった。
(あ、危なかったです!)
シュガーライドは後方から外目3番手の位置。転倒したウマ娘を回避するのに、少し前の方に位置取った流れだ。
(でも、マイルってペースが速いんですよね?それならここの方が上がって行きやすそうですっ!)
2000mの中距離よりも距離が短い1800mのマイルレースは、全体的にウマ娘たちのペースが上がる。なので前を狙いやすい位置にいるこの状況は、シュガーにとって有利と思えた。
『各ウマ娘、平坦さが特徴の直線を駆けて、1コーナーにかかります。先頭は現在4番。逃げています。それを追うように2番。最内1番は現在4番手、虎視眈々と前を狙っているのか』
半径の大きな二つのコーナーを抜けて、ウマ娘たちは向正面へ。
1000m通過タイムは62秒8とややスロー。3コーナーへかかる頃には後続のウマ娘たちのペースも上がっていく。
『3コーナー、そして4コーナーへ。各ウマ娘、ペースが上がっていきます。1番人気シュガーライドは現在3番手。さあどこで仕掛けるのか!』
マイルのペースの速さに押されたシュガーは、前から3番目の位置まで来ていた。
(すっ、少し速すぎたかも……いや、いけます!)
長い距離への適性はあるものの、短めでペースが速くなりがちなマイルレースには少し身体が慣れないシュガー。しかし、彼女の瞳に曇りはない。稍重な芝であっても他のウマ娘に後れをとっておらず、いつでも加速していける状況だ。
202 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/25 12:56:22 ID:uo1xRLbbhA
『さあ4コーナーを回って、最終直線に入った!先頭は変わって1番!最内から切り込むように前へ進出!』
観客の大歓声を浴びる最終直線。ロスの少ない最内を走っていた1番のウマ娘が先頭に立つ。
(わたしもっ、行っちゃいますっ!!)
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ここでシュガーライドもラストスパートをかけに行く。
まず前のウマ娘を抜き、そして1番のウマ娘へ迫る。
『外からシュガーライドっ!並んだ!並んだ!残り100m!シュガーライドあっさりと突き放し、2バ身差でゴールインッ!』
並びかけると同時にさらにギアを上げ、あっという間に追い抜く。そしてその勢いのまま突き放していき、シュガーが先頭でゴールしたのだった。
「はぁっ、はぁっ……やったー!!」
両手を挙げて喜ぶシュガーライド。歓声が彼女を包む。
(少し苦しい場面もあったかしら?でも、あの娘はやりきった……)
無敗の2勝目。声に出さずとも内心で大喜びするトレーナー。
そして、新たな目標を決めたことを、シュガーは控え室で伝えられた。
「シュガー。次は……GIよ。12月の中山レース場で、ホープフルステークスに出るのよ」
「つ、ついにですかっ!やった!GIっ!GIっ!」
トレーナーからGI出走の話を聞いて、レース疲れもないように小躍りで喜ぶシュガーライド。次勝てば、彼女の夢の一つが果たされる。

今後の展開>>203>>206
203 : お前   2024/08/25 13:07:34 ID:w2LRFdRZvM
ホープフルステークスはシュガーが初めて挑むG1だ。
というわけで先達に意見を聞こうと思いたち、ホープフルステークスを勝ったメジロブライト、ナリタタイシン、アグネスタキオン、アドマイヤベガ(何れか1人でも大丈夫です)に話を聞きに行くことにした
204 : 相棒   2024/08/25 18:32:03 ID:MgrNa1BaLk
1着だと賞金が7000万円も貰えるんですか!?
205 : お姉ちゃん   2024/08/25 20:13:29 ID:n/CF2o/1Xs
スパートはウマ娘それぞれ、いつでもよいのです〜
わたくしは自分だけのタイミングを
トレーナーさまに教えて頂きましたわ〜。
206 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 05:15:59 ID:lGbejPbPog
あげ安価下
207 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 10:25:06 ID:lGbejPbPog
過疎ってしまうのは仕方ないから書きますか...
208 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 13:25:24 ID:lGbejPbPog
札幌ジュニアステークスでの勝利から数日後。少し涼しくなってきた9月の初め。
シュガーライドは、初のGI・ホープフルステークスに向けて、
ホープフルステークスの出走・勝利経験のあるメジロブライトに話を聞くことにした。

トレーニングを終えてすぐ、ブライトの分も水を持ってきたシュガーは、すぐさま彼女にそれを手渡すと話の時間を作ってもらえるようお願いする。
ブライトは快く応え、水分を摂りつつ木陰での雑談に入った。
「アドバイス、でございますか~?」
「はいっ!今度、わたしも出るんです、ホープフルステークスに!」
「なるほど~」
初めてのGIに目を輝かせるシュガーに、ブライトは少し言葉を考える。
(何を言えば~……よいのでしょうか?)
共に併走をする中で、目の前の少女は凄いスピードで成長を遂げている……いつかは自分も追い抜かされるかもしれない、と思うほどに。
そんな少女に、自分がかけてやれる言葉は何だろうかと。
考えるブライトだが、一向に浮かばない。
(……そうですわ!“わたくし”ではなく……)
その時だった。ふと脳裏に浮かぶのは、自身がトレーナーから言われた言葉。
今のシュガーに伝えるなら、それが最もふさわしいとブライトは思った。
「あなたも~……私と同じく、追込みのウマ娘ですわよね~」
「は、はい」
「でしたら~……追込みというものは、レースのギリギリまで後ろにいて、最後の最後に速さを爆発させるようなもの……ですが、そのタイミングはウマ娘それぞれ。あなたも私も、それぞれですのよ~」
209 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 14:03:02 ID:lGbejPbPog
追込みのスタイルは、
どこで仕掛けるかでほぼすべてが決まると言っても過言ではない。
だが、レースに正解はない。様々な条件に左右されるからだ。
「GI……たくさんの”勝ちたい”が集まってきますの~。それはもう、押しつぶされそうなくらいに……」
「そ、そんなにですか?」
ブライトは、思い出していた。
初めてGIを走ったあの頃を。
周りのウマ娘から感じる、”勝ちたい”という気持ち。
それは集まりすぎて、圧を感じるレベルにまで膨らむ。
そんな中で自分を保って走るのは、とても難しいものである。
「”勝ちたい”にも人それぞれ。だからこそ、自分は自分のペースで、いいんですのよ~」
「自分の、ペース……」
210 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 14:17:08 ID:lGbejPbPog
シュガーは実は、少し迷っていた。今の走り方でいいのか、GIで通用するのか。
ペース配分、仕掛けるタイミング……さまざまな部分に迷いを感じていた。
(なんか……掴めた気がします、正解かどうかはわからないですが!)
だが、同じ追込みのスタイルで、なおかつ大先輩のメジロブライトからアドバイスをもらえたことで、シュガーは背中を後押しされたような気持ちになる。
「わたしは……わたしの走りを……」
「ですわ~。あなたにはあなただけの走りが、きっと出来るようになりますわ~」
自分だけの走り……それは、まだちゃんと見えていないけれど、ずっと続けていれば見つけられる気がした。
「ありがとうございますっ、ブライトさん!」
「いえいえ~。また走りましょうね~」
こうして、ブライトと別れたシュガーは、先ほどよりも自信に満ちた表情でトレーニングに励むのだった。

「______ブライト、さっきの娘は?」
「あら~、トレーナーさん。ふふ、将来のライバルですわ~」
声をかけてきた自身のトレーナーに、ブライトは楽しそうな表情で返すのだった……。
211 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 14:17:49 ID:lGbejPbPog
お金の話は解釈が難しいのでいったん保留で。
>>212
212 : お姉ちゃん   2024/08/27 14:24:04 ID:cNLt3EFnRU
今日は学園もトレーニングもお休みの日。せっかくだからどこかへお出かけしようかな?
213 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 14:54:48 ID:lGbejPbPog
それからしばらく経ったある日のこと。
「お休みだぁ~!!」
寮の、他には誰もいない一室に、シュガーライドの元気な声が響く。
ここ最近は練習はトレーニング続きだったため、今日は休日となったのだ。
(先輩たちは遠征とかでいないですし、今はわたしひとり……)
スペもスズカも、それぞれの用事で東京を離れている。
なので、今はシュガーのみだ。
「おやすみで……わたしひとり……暇ですぅ~!!」
残念なことに、ニシノフラワーやスイープトウショウといった同年代のウマ娘たちは、休みではない。
話し相手も遊び相手もいないとなると、子供としての本能が叫ぶのだ「たいくつだ~!」と。
(……こうなったら、お出かけしましょう!なんかお買い物とか!)
思い立ったシュガーは、さっそく外に出る準備をし始めた。
クローゼットから私服を取り出し、着替える。

私服のデザイン>>214
214 : お前   2024/08/27 14:58:03 ID:cNLt3EFnRU
薄いピンクのKawaii系ワンピース
215 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 15:24:13 ID:lGbejPbPog
「学園に着てからは、あんまりお出かけすることがないので……久しぶりですねこれ着るの」
前の小学校のときから着ている、薄いピンク色のふわふわ系ワンピースだ。
実は長袖スタイルもあるので、オールシーズン着れる優れものである。
その後は髪を整えたり歯を磨いたりして、準備完了だ。
「よしっ。……なんですけど、どこに行こうかな?」
学園周辺の地理は外回りで大方知り尽くしたつもりではあったが、お出かけスポットまでは把握していなかったシュガー。
着替えたはいいが、どこに行くかを悩み始めた。

場所>>216
216 : お前   2024/08/27 15:32:00 ID:cNLt3EFnRU
住宅街の古民家カフェ(紅茶とタルトが美味しいと生徒の間で評判)
217 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/27 15:45:00 ID:lGbejPbPog
昨日にでも同室の二人に聞いておけばよかったと思うシュガーだったが、
ふと思い出す。
(わ、わたしには……これがあるっ!)
どや顔で取り出したのは、自分のスマホであった。
「そうです、こういうときには検索してみましょう。えっと、トレセン学園周辺のお出かけスポット……」
検索エンジンを使い、出かけて楽しそうな場所を調べてみることにした。すると、
「ふむむ、紅茶とタルトのおいしい古民家カフェですか……」
住宅街にあって学園生徒たちからの評判も良いという、古民家カフェが気になったシュガー。値段は結構お手頃で、シュガーの今の財政状況でも大丈夫そうではあった。
「こういう所、一度ひとりで行ってみたかったんですよね……よし、ここにしましょうっ!」
目的地を決めたシュガーは、外へと飛び出していくのだった……。

>>218>>220
218 : トレピッピ   2024/08/27 17:04:38 ID:cNLt3EFnRU
(トレセン学園前のバス停から)3つ先のバス停で降りて徒歩約5分みたいですね・・・
バス運賃は180円(ウマ娘割引)で、古民家カフェの目印は「赤い屋根」・・・よし!

待つ事約10分、トレセン学園前バス停にやって来たバスに意気揚々と乗り込むシュガーであった。
219 : トレーナー   2024/08/28 00:00:03 ID:02yNAR8CZA
無事バスを降りたシュガー。
古民家カフェの前には行列が出来ていたが殆どがグループ客だったので、名前を書いて少し待つと店員さんにすぐ1人席に案内してもらえた。
オススメは九州のブランド苺「あまおう」をたっぷり使ったタルトと、店主自らインドまで茶葉を買い付けに行くダージリンティーのセット。
注文して少々待つと、運ばれてきたタルトは美しい芸術品のように白皿に盛られ、紅茶はノリタケのカップ。これで800円とは驚きの安さだ。

肝心の味はというと、タルトも紅茶もどちらもとても美味しくのんびり優雅な一日となった。
220 : あなた   2024/08/28 01:14:13 ID:IbLcncqnnc
そして学園に戻ると未知のスイーツ臭を漂わせるシュガーに目敏く反応したマックイーンにどこのどんなスイーツなのかを滅茶苦茶問い詰められ、呆れたゴルシにダイナミック頭陀袋運送されるという怒涛の展開に戸惑うのであった…
221 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/28 03:41:42 ID:mDI42uMagA
目的地までは、学園の近くにあるバス停からの公共バスで移動する。
バスが来るまでは約10分。
(この待ち時間も、お出かけのだいごみ……ですね)
シュガーライドはとりあえずベンチに腰を下ろし、時間を潰すためにスマホを操作する。

(バスの進路、もーいっかい確認しときましょうか)
時刻表アプリを開き、自身が降りるべきバス停を再確認するシュガー。
アプリによれば、ここから3つ先のバス停が目的地に一番近い。

運賃はウマ娘価格で180円……だが、シュガーライドは実年齢の影響で子供割も適用され、なんと片道90円だ。あと数年で使えなくなるのが勿体ないので、積極的に使っていきたいと思っている。

「えっと、バス停を降りたら約5分歩いて……赤い屋根が目印の古民家カフェですか、よし」
降りてからの進路も確認するなどして、有効に時間を潰すシュガー。
そしてあっという間に10分が過ぎ、やってきたバスに意気揚々と乗り込むのだった。
222 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/28 04:35:18 ID:mDI42uMagA
信号待ちもあまりなく、バスに揺られること5分……。
シュガーは目的のバス停に到着した。住宅の並ぶ密集地だ。
「よしっ、ここから歩いて5分でしたよね。……待って?」
歩き出そうとしたとき、シュガーはあることに気付く。
(走れば数十秒でいけちゃうのでは!?)
さいわい、ここにはウマ娘専用レーンがあり、町中でも安心して猛スピードで走ることが出来るのだ。
「それじゃ、さっそく行きますか!」
目的地の古民家カフェに向かって、シュガーは勢いよく走り出すのだった。
その目論見通り、数十秒後……。
「ふぅ……ついたーっ!!」
赤い屋根の建物には、少ないが行列が出来ている。
古民家カフェにたどり着いたシュガーは、名簿に名前を書いて待つことにした。

>>223(店の外観、内観の説明)
223 : お姉さま   2024/08/28 05:09:46 ID:02yNAR8CZA
外観はキレイにリノベされているが、内装は元々の古民家(和風)を最大限生かした作り(床は畳なので靴は脱いで下駄箱へ)
224 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/28 06:51:39 ID:mDI42uMagA
待ち時間が少しあるようなので、とりあえずお店の外観を観察してみるシュガー。
(ふむふむ……古いお家と書いて古民家ですが、建物はすっごくきれいですね)
昔からある和風の建物ではあるが、屋根や壁は綺麗に塗り直されていて、古いという言葉を感じさせないものであった。
お客さんは障子のようなドアを開いて入っていくが、軋むような音も一切せず、スムーズに開くらしい。ここも手入れが行き届いていると、シュガーは内心で驚く。
(中も……気になりますね!)
早く自分の番にならないだろうかと、うずうずするシュガー。
そしてしばらくすると、シュガーが先頭になった。
「いらっしゃいませ。1名様ですね。こちらの席にどうぞ」
「わくわく……」
女性の店員に案内されながら、シュガーはお店の内部を観察する。
まず中に入ると、靴を脱ぐ必要があった。
良いお客さんが多いのか、みんな丁寧に下駄箱へと収納しているようだった。
(おお……なんだか、おばあちゃんのお家みたいです)
通路を歩きながら、去年の長期休みに帰省した祖母の家を思い出すシュガー。
いくつか設けられた広間はみな畳部屋で、木目調の机と椅子が数台設置されている。
掛け軸のようなものもあり、和室といえば!という感じであった。
シュガーの案内された部屋も同じような感じであり、数名のお客さんが食事をしている。
「メニューをお決めになりましたら……」
「あ、もう決めてます!タルトと紅茶のセットで、800円のやつです!」
「かしこまりました」
席に座ったシュガーはさっそく、ネットで見たメニューを注文した。
後はまた、待つのみだ。
225 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/29 03:16:37 ID:xvjtdNSF4s
待つこと10分ほど。メニューが到着した。
「こ、これは……!!」
テーブルに並ぶそれに、思わず声を出して驚いてしまうシュガー。
大きくて赤く丸いイチゴが、薄切り状にこれでもかと飾られたタルトは、食べる前から心まで甘酸っぱくなりそうである。
そして普段はあまり飲まない紅茶だが……少し香りを吸ってみるだけで、
とても温かくなる……というのが彼女の今の心境だ。
店員曰く、店長がインドまで買い付けに行くダージリンティーだという。
「さ、さっそく……いただきます」
手を合わせ、次にフォークを持ってタルトから一切れを出し、口内へと運ぶ。
(……!!)
噛んだ瞬間、口から脳に途轍もない衝撃<インパクト>が走るのを、シュガーは感じた。
1口、2口と噛むたびに、タルトから来る濃厚なうまみが食欲を刺激する。
外側のクッキー生地も、中のクリーム生地とイチゴも全てが美味い。
(止まりません……いくらでもいけちゃいそう!)
しかしよく噛むことは徹底しているので、少し時間をかけてタルトをしっかりと堪能し終わった。そして、シュガーは紅茶にも手を付けてみることにした。
「紅茶……砂糖もらうの、わすれてました……」
気付くのが少し遅かった。今更店員を呼ぶのも気が引けるので、とりあえず飲んでみる……すると。
「ごくっ、……あ、おいしい……」
すっきりとした味わいとほのかな渋みは、紅茶初心者であるシュガーにも飲みやすいブレンドを施された結果である。
(なんか……良いですね、こういうの)
紅茶をしっかり楽しめたことで、大人の階段を登った気がして、シュガーは少しうれしくなるのだった。
226 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/29 07:54:53 ID:xvjtdNSF4s
(ほわぁ……おいしかったです……)
美味しいスイーツを堪能し、ふわふわとした気持ちで徒歩で帰っているシュガー。
一人で外食するのも初めての経験だったので、とても嬉しそうな表情を浮かべている。
(次は、トレーナーさんもいっしょに行きましょうか……)
ここまで美味しかったものは、他人とも共有したい。ということで次来るときは、自身のトレーナーと一緒に来ることを誓うシュガーライド。できればGIを勝った後で。
しばらく歩いてとりあえず学園に寄ってみると……。
「パフェ、パフェですわっ!」
「チキンっ!チキンしかありえねーだろッ!」
(んんんんん??)
取っ組み合っている二人の芦毛ウマ娘を目撃する。
なんと、メジロマックイーンとゴールドシップであった。
227 : ◆wuHHR64l1og   2024/08/29 07:55:09 ID:xvjtdNSF4s

「なんなんですかお二人とも!!なにをあらそってるんですかー!?」
______慌ててシュガーが仲裁に入ると、二人は落ち着きを取り戻すのだった。
学園内に待避し、噴水広場のベンチに腰掛ける3人。
「今さっきまでトレーニングしてたんだけどよ、その後に何を食べるかでこうなってたんだ」
「トレーニングの後にチキンなんて……胃がもたれますわよ」
「スイーツも大概だと思うぞ??」
(はわわわ……)
険悪なムードに内心で焦るシュガー。
そのときだった。
「くんくん……シュガーライドさん。あなた、先ほどまでスイーツを食べていたのでは?」
「えっ」
まさか、とシュガーは驚く。
少し自分の匂いを嗅いだだけで、それを見切ってしまったマックイーンに。
「えっと……バスでちょっと行ったところの古民家カフェでタルトと紅茶を」
「タルトですって!?シュガーさん、そのお店のことを詳しく!できたら今から私と2食目を______んんーっ!?」
「わかったから!アタシがいくけど落ち着けって」
さらに問い詰めてきたマックイーンを頭陀袋に放り込んだゴールドシップは、シュガーから詳しい場所を聞くと、そのままマックイーンを連れて行ってしまった。
(な、なんだったんだろう……)
瞬間的な風を吹かせて去って行く、台風のような存在だと二人に感じたシュガー。
こうして、シュガーの休日は過ぎていくのだった。

>>228
228 : アネゴ   2024/08/29 09:02:06 ID:chJMStQpXQ
今日は早朝から並走トレーニング。
相手は足の速いスプリンターの方だって聞いたけど、一体誰だろう?
229 : トレぴ   2024/08/31 12:10:05 ID:cbfGFXpcvM
ハチャウマ来なくて今は落ち着いて更新が難しいです……
230 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/01 08:49:44 ID:IWpMSoVfgE
ハチャウマの配達が確定したので更新再開。



「ふわぁ……まだねむいれす……」
10月の初め。今日は早朝からのトレーニングだ。
前日のトレーナーからの話では、今週のGI・スプリンターズステークスに出走するウマ娘が併走相手になってくれるという話だが……。
(どんなひとなのでしょうか?)
これまでも個性豊かな先輩たちを見てきたシュガー。しかしまだ、新たな出会いへの好奇心が消えることはないようだ。
そして、待つこと10分。

「______あら、小さな後輩さんですの?」
現れたのは、左耳につけた宝石の髪飾りが特徴的なウマ娘……ムーントラックであった。
彼女はシニア級で活躍するスプリンター。
クラシック時代にスプリンターズステークスを制してから、数々のレースで優秀な成績を残している一人だ。
「シュガーライドっていいます!えっと……」
「ムーントラックですわ。気軽にムーンとでもお呼びくださいませ」
(ま、また……おじょうさま!?)
ムーンと自己紹介を交わしたシュガーは、またもお嬢様ウマ娘と知り合ったことに驚く。
正確にはまだムーントラックがお嬢様だということはわからないが、すごく高そうな耳飾りとお嬢様口調が根拠となっている。
231 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/01 08:50:58 ID:IWpMSoVfgE
二人は準備運動を終えると、さっそく芝コースのスタート地点に立つ。
「今日は併走をしながら、あなたのピッチ走法のフォーム矯正をするように、トレーナー様から任されていますの」
「ピッチ走法の?」
ムーン曰く、シュガーのラストスパートを決める技、ストライド+ピッチの強力な走りは、基本のピッチ走法を磨くことでより洗練されたものになるはずだという。
それで、ピッチ走法で短距離専門のムーントラックが呼ばれたのだ。
「______ピッチ走法といえば、マーチャンもいますよ」
「わぁ!?」
走り出そうとしたとき、横からひょいっと姿を現したウマ娘……こちらも左耳、小さな王冠の飾りが特徴のアストンマーチャンである。
「あなたも呼ばれていたんですの?」
「いえいえ。昨日、お二人が話されているのを聞いて、勝手ながらシークレットゲストとして参戦してみました。どや」
アストンマーチャンも、スプリンターズステークスと高松宮記念での勝利経験がある、優秀なスプリンターウマ娘だ。
……つまり、ムーントラックとアストンマーチャンはライバル同士。
(わわ……見えます、見えますよ。なんか、火花!)
シュガーは、二人の間に小さな火花がばちばちしているのが見えた気がした。
結局のところ併走は、3人で行うこととなった。
展開>>232
232 : 貴方   2024/09/01 09:55:24 ID:l62nHCY3Og
スタートは、ほぼ横並び。
1コーナーから2コーナーにかけて3人共一歩も譲らぬ展開。
バックストレートでも譲らず3コーナーに入ってシュガーがそろそろ仕掛けようか?という時に急に足を気にし出したムーン。
ムーンはそのままスローダウンしてずるずるとシュガー、マーチャンとの差が開いていく。
4コーナーを過ぎたらシュガーとマーチャンの一騎打ち状態に。この状況で強いのがシュガー。
得意の走法で逃げ切りたいがマーチャンも負けじと追いすがる。
結果はシュガーの1馬バ身差での勝利だったが、ムーンの失速の原因は蹄鉄が外れてしまった為であった。
シュガーにとっては何とも言えないモヤモヤ感が残るレースとなってしまった。
(2人に並走したお礼を言いたかったが、マーチャンはいつの間にかその場から居なくなっていた)
233 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/03 07:38:05 ID:3uIMoreMhQ
シュガーも走りやすい1600mでの併走となり、早速開始することとなる。
よーいドンで、3人同時にスタート。マーチャンが先頭に立ち、シュガーとムーンが後続に控えた形だ。
(これが、GIを走るスプリンターの速さ……!)
ほぼ隣り合わせとはいえ、その位置をキープするためにはムーンのペースについて行く必要がある。シュガーは先輩ウマ娘の速さに必死に追いつきながらも、内心驚いていた。
(今日はわたくしが先輩……しっかり指導して差し上げますわ!)
シュガーを横目に見ながら、ムーンは自分のペースを慎重にコントロールする。
前を走るマーチャンに追いつきすぎず、さらにはシュガーも突き放さないベストなペースで。シュガーのトレーナー曰く、こうすることでシュガーに自然と”走るフォーム”を丁寧に身につけさせることができるという。
(それにしても……小柄な体とは思えないストライド走法ですわね)
ムーンもよく分かっている。一般的に小柄で大成したウマ娘は、小幅で跳ねるようなピッチ走法をする者が多い。しかしシュガーは、やや大きく足を開くストライド走法。
本人に自覚があるかは分からないが、おそらく股関節周りの柔軟性も非常に高いはずだ。
(おやおや。二人とも、いい空気感ですね)
先頭で逃げながら、アストンマーチャンは時折ちらりと後ろを見る。
火花散らす二人のウマ娘を、後方腕組みで見守るような気分で想うマーチャン。
自分もあの中に入ってみたいが、逃げウマ娘としてその役割は全うしなければならない。
(私にできることは……前を走って譲らないこと!)
マーチャンも得意のピッチ走法で駆けながら、1コーナーと2コーナーを通過していくのだった。
234 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/04 18:36:06 ID:IG18.80QiY
どちらも譲らぬままバックストレートを抜け、3コーナーにかかる。
(自分には自分のタイミング……ならっ、ここで!!)
先頭のマーチャンと距離が4、5バ身開いていることを考慮し、メジロブライトから言われた話も思い出して、シュガーが動いた。
広い歩幅に急激な回転数が加わる。決めの一手のストライド+ピッチ走法で、前を走るマーチャンに迫っていく。
(ふふっ、来ましたね。ですがマーチャンも、ここからです!)
“追われている”。そう感じ取ったマーチャンの走りも、さらに強く鋭くなっていく。
彼女の場合は、小幅かつ高速回転のピッチ走法……そこに、瞬間的な爆発が発生したかのように、回転速度が急上昇する。
「だぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁ!」
4コーナーを回り、早めに仕掛けた二人の一騎打ちとなった。
(くぅっ、もう少しで、追いつくのに……!)
粘るマーチャンを抜かそうとするシュガーだが、その一歩が中々届かない。
極限状態の中、考える。ここから何ができるか。
(……はっ!)
前を走るマーチャンの脚を見て、シュガーは気付く。
(すっごい回転速度です!わたしはスプリンターじゃないけど、でも、これを真似できたら……!!)
そして思い出す。今回の併走の目的を。
基本のピッチ走法を磨けば、自分の走りはもっと強く______
「もっと、もっと速く……もっと先へぇぇぇぇぇっ!!」
「なっ!?」
マーチャンが驚いたのは、雄叫びを上げたシュガーの脚がさらに伸びてきたこと。
最終直線、残り100mほどで、シュガーが迫る。迫る。そして、
かわした。
235 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/06 20:36:29 ID:Uby7AhpjQE
うっかり扇風機を破壊してしまったので休みです……暑い
236 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/07 13:22:10 ID:0.RVVDKV8.
「______はぁっ、はぁっ……!」
ゴール直後、ターフに倒れ込むシュガー。
彼女は一つ、壁を破った。スプリンターのマーチャンから技を盗む形で、自身のピッチ走法に新たな鍵を見つけられた。
(これは……いつか当たったら、とても強敵になりそうですね)
満足げなシュガーを見て、アストンマーチャンは新たなライバルの登場を予感し、内心で少しばかり恐怖を感じていた。
そんな2人の元に、遅れてゴールしてくる3人目が。
「……ムーントラックさん!?」
もはや歩いてきたムーンを見て、シュガーは大急ぎで駆け寄る。
ムーンは、右足を少しかばうようにしていた。
237 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/07 13:22:30 ID:0.RVVDKV8.
何があったのかとシュガーが尋ねると、ムーンは気丈に返事をする。
「たいしたことじゃありませんわ。……落鉄、していましたの。ほら」
彼女は右足の靴裏を見せた。確かに、蹄鉄が外れかかっている。
ウマ娘にとって蹄鉄は、全力で走るために必要不可欠なものであり、それなしでレースを行おうと思えば故障のリスクは大きく高まってしまう。
「こうなってしまっていたので……朝練でケガするのは困りますから、ラストスパートあたりで私は降りさせて頂きましたわ」
シュガーが最後に仕掛けたあたりで、ムーンは競走を中止していた。
それを知ったシュガーは、うるうると瞳に涙を浮かべる。
「よ、よかったですぅー!!ケガしてなくてぇー!!」
「ちょ、大げさですわ!?泣きすぎでしてよ!!」
大泣きするシュガーをなだめるムーンを、マーチャンは遠くから傍観するような空気で眺めていた。
「……」
(落鉄……それだけでは、ないのかもしれません。マーチャンには、わかります。人がいなくなっていくタイミングが……だから、ムーントラックさんも、その”時期”が来てしまったのかもしれません……)
マーチャンは心の中で、ムーントラックに対する深読みな感情を抱く。
それが意味するものは、まだ彼女にしかわからない。

>>238
238 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/07 20:19:16 ID:0.RVVDKV8.
安価下
239 : あなた   2024/09/07 20:30:23 ID:BvwZh6rYMo
早朝トレーニングを終えたシュガーは急いで制服に着替え、カフェテリアへ。今日は月に一度だけの「オーロラの日」らしい。

~昨晩の回想~
スペシャルウィーク「明日は『オーロラの日』で、限定メニューの『オーロラバーガー』が食べられるんですよ!」

揚げたサーモンに特製オーロラソースをかけたハンバーガーが数量限定で食べられると、急いでカフェテリアに向かったが物凄い行列!
並ぶ事数十分、ようやく順番が回って来た。「オーロラバーガー」ください!
しかし、皿の上にバーガーが2個。「?」と思っていると、『某Мのバーガーより少し小さいでしょ?だから一人前2個なのよ。』
なるほど・・・と思っていると、『只今を持ちましてオーロラバーガー完売です!』のアナウンスがあり、阿鼻叫喚しているウマ娘も居た。
席に座り、いざ食べようとすると隣の席に山盛りのサンドウィッチを抱えたウマ娘・・・スペシャルウィークさんだ。
『シュガーちゃんはオーロラ買えたんですね・・・私はダメでした・・・それでサンドウィッチをドカ食いして気を紛らわせ・・・』
・・・良かったら、1個食べます?2個あるので。
『良いの!?それじゃあこの中から代わりに好きなサンドウィッチ1パックあげる!』
じゃあ・・・ハムサンド頂きます。
満面の笑みでオーロラバーガーを食べるスペシャルウィークさん。私も一口・・・うん、確かに美味しい。

◇「また買えなかった・・・」⚡「来月まで我慢しぃや」
240 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/07 21:45:57 ID:0.RVVDKV8.
朝練を終えたシュガーライドは、普段よりも急いで制服へ着替えていた。
そして向かったのは、いつものカフェテリア……だが、今日はいつもと様子が少し違っている。
(まだっ、まだありますように……!)
更衣室を出て廊下を駆けながら、シュガーは祈るような想いでいた。
それほどまでに今日は、狙っている食品があるのだ。
昨晩のことである。
スペシャルウィークが、シュガーにその話をしたのは。
「明日は「オーロラの日」で、限定のオーロラバーガーが食べられるんです!」
「オーロラの日の、オーロラバーガーですか……」
ネーミングが直球過ぎないか?そもそもオーロラの日とは?と不思議に思うシュガーだったが、話を聞いていくうちに……ウマ娘の本能・“食欲”への刺激が止まらなくなり始めたのだ。

(______これでもかとサクサクに揚げられたサーモンのフライに、とくせいのオーロラソースをかけて、バンズをがっちゃんこ……すっごく美味しそうじゃないですか!!!!!)
シュガーはカフェテリアを目指しながら、スペから聞いていたハンバーガーの特徴を想像してさらにお腹をすかせ続けていた。
そして、カフェテリアにやってくると……。
(……!?)
その光景に、驚きのあまり声すら出なくなるシュガー。
いつものカフェテリア……などではなかった。その場所は。
まずシュガーが感じたのは、熱。とてつもない熱気。
(も、もうすぐ10月ですよ……あつすぎる……)
夏かと思うほどに上がる体感温度。クーラーを付けたくなる室内の暑さ。
その発生源を見つけるのは、とても簡単なことであった。
「ただいまこちら最後尾となっておりまーす!」
(え、列……?)
正体は……カフェテリアらしからぬ、大行列。
メロンパフェの時など比ではないほどの、大行列である。
241 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/08 07:19:36 ID:btRilqPXFo
(これは……買えるんでしょうか!?)
とりあえず急いで並ぶシュガーだったが、1列に数十人は居る。
もう間に合わないんじゃないかと思いながらも、わずかな可能性を信じて列から離れないようにしていた。
そして、待つこと10分……。
やっと自分の番だ。シュガーは肌身離さず持っていた財布から現金を出し、オーロラバーガーを受け取った。
(買えました……あれ?)
テーブルに座って、やっと一息。ふと皿を見ると、よく知るハンバーガーより一回り小さなバーガーが二つのっている。具材はサーモンフライで、オーロラソースもかかっているが。
(サイズが小さいから二つなんでしょうか?これはこれでおトクです!)
自己解釈して、納得したシュガー。
いただきますをして、口元にオーロラバーガーひとつを運ぶ。そしてキラリと光る白い歯が、それを噛み砕こうとした瞬間……!
「買えませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(……ん!?)
カフェテリア内に響き渡る絶叫。
なんだかデジャブを感じるシュガー。
またマックイーンだろうか?
おそるおそる振り向くと、そこには。
「最後の1セットだったのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
(す、スペシャルウィークさん……!?)
捌ていく行列の中で叫びうなだれる、日本総大将の姿があった。
242 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/09 03:57:47 ID:dTVfKr5gPA
「およよ……およよ……」
なんともいえない声で泣くスペシャルウィークにいたたまれなくなったシュガーライドは、声をかけることにした。
「だ、だいじょうぶですか……」
「大丈夫に見えますか……?」
「ひっ!?」
シュガーの差し出した手を握って立ち上がるスペの声色には、何やらいろいろな感情が混ざり合っているらしい。それが凝縮されたものを受け取ったシュガーが感じたのは……恐怖であった。迂闊に話しかけない方が良かったかもしれない……そう思うレベルの恐怖。
「最後の……1セット……」
そう言いながらスペが指さす先は、「完売」の文字が並ぶ購入カウンターであった。
オーロラバーガーが売り切れたことを示すそれは、スペをこの状態にするにはとても十分すぎたのだ。
「シュガーさんは……買えたんですね」
「は、はい」
「いいな……私は……特大サンドイッチで我慢することにします……」
(む、むう……これは……)
そろそろスペシャルウィークが可哀想になってきたシュガーライド。
手元には、オーロラバーガーが二つある。
一つなら、彼女にあげても良いかもしれない。
「……おひとつ、いかがです?」
「えっ、いいんですか!!じゃ、じゃあ私もサンドイッチをあげます!!これでおあいこですね!!」
こうして、朝の食事を分け合ったシュガーとスペの絆が、少し深まるのだった。
そしてこの週の日曜日……GI・スプリンターズステークスが幕を開ける。
>>243
243 : お姉さま   2024/09/09 13:08:41 ID:1IuqUgzj5s
清々しい晴天!「雲一つ無い天気」とはまさにこの事だろう。天候は晴、バ場も良だ。
11人が走る予定だったが、直前に1人が脚を痛めて出走を取り消したので10人での競争となった。
シュガーは1枠2番の好位置からスタート。だが「中山の坂」は厳しいぞ。果たして・・・?
発走時刻になり旗が振られ、ファンファーレが鳴る。盛り上がるスタンドを遠くに見ながら各バ順調にゲートイン。

暫しの静寂の後各バ一斉にスタート!

スプリンターズステークスは1200m。後方に居ると不利なのでシュガーは集団の中程に位置を取る。先頭から数えると5番手。
スタート地点から約275mは下り坂が続き、体力の消耗は少なめ。最終コーナー手前でシュガーは1人抜いて4番手に位置を上げた。
そして最終コーナーを周ってあの「中山の坂」が待ち構える。約2.4mの高低差をたった300mで駆け上がるのだ。

ここでシュガーがその「怪物ぶり」を遺憾なく発揮する。

「中山の坂」でシュガーの前3人が疲れで次々スローダウンする中、持ち前の強力な心肺とピッチ走法で一気にごぼう抜き。
「中山の坂」を軽々と超えたシュガーは文句なしの1着でゴール板の前を通過した。
タイムは1:08.0 レコードではないが、シュガーは観客にそのパワーを十分過ぎる程見せつけたのであった。
244 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/09 13:31:48 ID:dTVfKr5gPA
>>243
待って?待って......?
今回シュガーじゃないんです......
245 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/09 14:07:30 ID:dTVfKr5gPA
スプリンターズステークス開催、当日。
その日……レース界隈に衝撃が走った。

朝8時頃。
「プリファイ♪プリファイ♪今日はどんな話なんだろう?」
朝練を終え、寮に戻ってきたニシノフラワー。彼女もシュガーと同じく凄いスピードで成長していて、短距離・マイル路線での活躍が期待されているウマ娘だ。
日曜朝の魔法少女アニメを楽しみにしている彼女は、テレビを見るためにルンルン気分で食堂に入ってきた。
食事の準備をし、テーブルについて、テレビをつける。
「えっと、チャンネルは……あっ!?」
テレビの選局をしようとすると、URA臨時の報道番組がやっているのに気づいたフラワー。
「み、みなさーんっ!」
慌てて叫ぶフラワーの声で、寮にいた何名かが食堂に集まってきたのだった。
246 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/09 14:08:40 ID:dTVfKr5gPA
______報道番組は、あるウマ娘の記者会見。

『えー、みなさま。今日は朝早くからお集まりいただき、感謝いたしますわ。
今日はわたくしムーントラックより……大切なお知らせがありますの』
(……ムーンさん!?)
フラワーの声で駆けつけたシュガーライドは、会見を開くその少女を見て驚く。
そして、何を言い出すのかという不安が心中を覆う。
とてもいやな予感がしているのが、シュガーには分かった。
……先輩ウマ娘たちには、それが何なのかわかっている者もいた。
こんな時間から大々的に会見を開くなど、あまりない。
“あまりない”からこそ、わかっていた。
テレビの向こうで、報道各社たちも見守る中、ムーントラックはゆっくりと口を開く。
『わたくし……ムーントラックは、本日開催のスプリンターズステークスで、トゥインクルシリーズを引退させていただきます』
その日……レース界隈に衝撃が走った。

今度こそ次>>247(スプリンターズステークスへ)
247 : お前   2024/09/10 00:00:38 ID:Y9rYAjfy3.
スプリンターズステークス当日の中山は小雨で、バ場は重と発表された。
出走は16人で、ムーンは一番外の8枠16番。あまり良い場所ではないが・・・
そうこうしているうちに、出走時刻を迎えてスターターが旗を振ったのを確認し、各バがゲートに収まりスタートの時を待つ。
「嫌な予感がする...」と、中継映像を固唾をのんで見守るフラワー。
そしてゲートが開き一斉にスタート・・・

のはずだったが、テレビの中継映像がトラブルで突然停止して黒い画面のまま音声も出ない。

「これじゃあムーンさんの最後のレースが見られない!」
騒然となるテレビ前のウマ娘たち。
約1分後に中継映像が回復したが、レースはすでに終わっていた。

ただ、一つ解ったのはムーンさんが1着だという事だけ・・・
248 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 00:28:40 ID:SVyQ5ZBT/k
昼頃になって、雨が降りだした。
寮の自室の窓からそれを目撃したシュガーは、急いで窓を閉める。
(東京で雨ですか……あっ、千葉の方はどうなんでしょう?)
千葉、中山レース場……ムーントラックが引退を宣言したGI・スプリンターズステークスの発走時間が迫る中、東京の雨で千葉の天気も心配になったので、シュガーはアプリで天気予報を見てみた。
「そんな……あっちでも雨じゃないですか」
千葉の天気も、雨。今のところは、大雨だ。梅雨シーズンの名残とは書いてあるが、
この時期としては珍しいとも書いてある。
(ムーンさん、しっかり走れたらいいな……)
引退レースで、天候に左右されて実力を発揮できないとなれば、とても悔しいはず。
まだまだデビューしたてのシュガーにも、ウマ娘としての本能がそう告げている。
(……一緒のレースで、走ってみたかったなぁ)
シュガーとムーンは、一度の併走をしたのみであった。
来年、クラシック級に昇格してから、改めてGIで戦ってみたい……そう思っていた矢先の引退発表。シュガーだけでなく、他のウマ娘にも影を落としていることは間違いない。
「凄い雨ですねぇ……早めに切り上げて良かったです!」
「あっ。スペシャルウィークさん!」
部屋のドアがガチャリと開き、白いタオルで顔を軽く拭きながら入ってくるスペシャルウィーク。
スズカはまだ走っているということなので、シュガーはスペに話を聞いてみることにした。
「______こんな重バ場に強いウマ娘、ですか」
シュガーが尋ねたのは、スペシャルウィークが今まで走った相手で、大雨に見舞われようとも強かったウマ娘はいたか?というものだ。
その質問に、スペは……何かを懐かしむように、答えた。
「いますよ、知る限りでは一人」
「ひとりですか?」
「はい、たった一人です。私の一つ下で……通称が”泥の女王”なんて呼ばれてましたね」
249 : モルモット君   2024/09/11 00:33:15 ID:SVyQ5ZBT/k
あ、ムーントラックと泥の女王に関しては

https://umabbs.com/patio.cgi?read=19480&ukey=0&log=past&res=500

前スレを
250 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 06:49:11 ID:SVyQ5ZBT/k
泥の女王……ダートが強かったのかとシュガーが聞くと、スペはこう答えた。
「いえ、あの娘は……今日みたいな雨の日の重バ場でも、難なく勝っちゃうんです。私も、宝塚記念では負けちゃって」
「た、宝塚記念で、ですか!?」

______春最後のGI・宝塚記念。ファン投票によって選ばれたウマ娘たちが走る、レースの祭典とも呼べるGI競争だ。
“泥の女王”は当時、トリプルティアラGIのうち桜花賞とオークスを制覇し、秋の3冠目に期待がかかっていた……同時に、ファン投票ではクラシック級のウマ娘でありながら1位の最多票を得る等とてつもない人気を誇り、それに応えて出走。
雨の中……前年度の有馬記念の覇者であり、宝塚記念での勝利でグランプリ連覇のかかっていたグラスワンダーの猛追から果敢に逃げ続け、なんと同着での優勝……クラシック級でのグランプリ制覇を成し遂げてしまったのだ。

「そ、そんな凄いウマ娘さんが……」
「今は海外遠征に行ってるみたいですけど、日本に帰ってきたらまた一緒に走りたいですね」

“泥の女王”に関する昔話をスペに語ってもらっていると、
時間はあっという間に過ぎていた。
お昼を食べたり、いろいろなことをしてさらに時間を潰すシュガー。
そして、ついにその時がやってきた。

GI・スプリンターズステークス。雨の中山レース場で、雷のような電撃戦が幕を開ける。
251 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 10:21:18 ID:SVyQ5ZBT/k
元よりある種の続編として書きたかったんですが、アリですかね......?
252 : トレぴっぴ   2024/09/11 10:23:43 ID:f6NLhVpsjI
好きにやればいいじゃない
253 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 10:31:47 ID:SVyQ5ZBT/k
>>252
まぁそれもそうか...
254 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 18:25:49 ID:SVyQ5ZBT/k
『ここ中山レース場は、急な天気の崩れにより雨が降っています。バ場状態は重の発表です』
スプリンターズステークスの出走まで30分を切った、中山レース場。
予報が大外れな雨により、傘を持たずに慌てふためく観客もちらほら見られる。
そして今年は、例年に比べて……観客が多い。
理由は簡単だ。
スプリント界をわかせたスターウマ娘の引退、それを見届けたいのだ。
観客の数は、年末の有馬記念に劣らない程となっていた。

(……ああ、こんなにも観客がいる中で、わたくしは花道を飾るのですね)
控え室のテレビで外の中継映像を見ながら、ムーントラックは最後のGIにむけて心身を整えている。
ふと、手のひらにガーネットの耳飾りを乗せ、ムーントラックは回想する。
自身の、引退の理由ときっかけを。 
255 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 18:26:14 ID:SVyQ5ZBT/k
______話は、数週間前に遡る。
8月の始め。
ムーントラックが走っていたのは、新潟1000mの祭典、GIIIアイビスサマーダッシュ。
彼女はいつも通り後方に控え、終盤でのごぼう抜きを狙う。
バ場状態は良。自身の体調も良い。いつも通り、最高の条件だった。
『残り350m!前に出るウマ娘は内からか外からか!?はたまた逃げのウマ娘が勝ちきるのかー!?』
(さあ、行きますわよッ!)
大外のポジションを取っていたルナトラックは、そのまま急加速を始める。
『ここで1番人気ムーントラックが上がってきた!前を走るウマ娘たちをどんどん追い抜いていく!』
観客たちも、いつも通りの彼女の勝利を疑わなかった。
ライバルであるアストンマーチャンは今回出走しておらず、ムーンの独壇場。
そう思っていた観客たちの期待をムーンもわかっていたから、応えた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
……見事に、ゴールイン。2番手とは1バ身差。追い込みのウマ娘にとってはギリギリかつ理想的な勝ち方である。
『ムーントラック1着!秋のスプリンターズステークスに向けて、快勝です!!』
(今回も、勝ちました……わ……あれ?)
「はぁっ……はぁっ……なん、ですの……息、戻らない……」
実況を聞き、観客たちからの歓声を待ち構えようとした彼女は、自身の体に起こる違和感に気づいた。
心拍数が速い。息が少し苦しい。いつも通りのペースで走ったはずなのに。
気温のせいかとも思った……だが、周りのウマ娘たちはここまで疲れている様子は見られない。
256 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/11 18:26:40 ID:SVyQ5ZBT/k
______その後も、トレーニングで走ったりもした。
同じであった。
好タイムに矛盾するかのように、走った後はとても疲れてしまう。
いつも通り走れるのに、速いままなのに。
(……ああ、そういうことですの?)
ムーンは、一つの可能性に達する。
自分の競争寿命は、もう長くはないのだと。

「ピークを過ぎた……というのかい?」
「ええ。自分のことくらい、よくわかっていましてよ」
「そうか。なら……」
学園1の変人で頭脳家であり、かつては自身も引退宣言をしたウマ娘・アグネスタキオンに、それを伝えたムーントラック。
タキオンは言う。それならば早めにターフを去るのが良いと。
衰えにより大敗をしてしまう前に、最後に一花咲かせる方が良いと。
257 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/12 22:47:28 ID:t9Ci/y45dI
______そのための調整も兼ねて、シュガーライドとの併走に臨んだムーン。
スプリンターとしてのライバル、アストンマーチャンも飛び入りで参戦してきたが。
模擬レース程度なら普通にやれるだろうと、いつもの態度を崩さずに挑む。
しかし、現実はそう甘くなかった。
シュガーが早めに仕掛けていった3コーナーで、ムーンは既に体に違和感を感じていた。
このまま走れば、とてもまずい気がする……本番前に折れるわけにはいかないと、シュガーやマーチャンに追いつこうとせず、ゆっくりと減速する。
そして、ふと気づいたのだ。片足の蹄鉄が外れていることに。
______それは、今日この日のためだったのだと、今は思う。
「ふぅっ……さあ、そろそろ時間ですわね。行ってまいりますわ、トレーナーさま」
改めてすべてを思い出し、それを闘志として燃やす準備もできた。
ムーンは自身のトレーナーに挨拶をし、ターフへと歩いていくのだった。
258 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/16 09:32:11 ID:ffH9o1B0yQ
『さあ、まもなく発走となります、スプリンターズステークス。各ウマ娘がゲートインしていますが……雨は止まず、雷雨となっているとの情報もあるようです』
土砂降りとは言えないが、降り止まぬ雨が続く中山のターフ。
大外枠を引いたムーントラックは、自分のゲート入りの順番を待つ中……雲覆い雫が降り注ぐ空を見上げながら、考えていた。
(これが、最後……)
泣いても笑っても、これで終わり。トゥインクルシリーズで走る、最後のレースとなる。
それを選んだのは、紛れもない自分自身。
もっと、走りたかったと思うムーン。
衰えは絶対に来るものであるし、いつかは誰でも死んでしまう。
終わらないものはない。では、どうするのか。
(シュガーライドさん……併走ではいい格好を見せられませんでしたが……見ていてくださいませ)
中継を見ているであろう後輩に、ムーンは伝えたいと思った。
(わたくしの、最後の走りを。引退という概念を。今後のあなたのレース人生に、焼き付けて差し上げますわ!)

後輩に、次を託す。未来を繋げる。そのために、絶対に勝つ。

『大外枠でのゲートインとなります、このレースでの引退を発表したムーントラック。ラストランを、勝利で飾れるか!?』
自分の番が来た。ムーンは覚悟を決めて、ゲート入りする。

(……ああ、こんな重バ場。"彼女"を思い出しますわね)

かつて共に走った、泥の女王をふと思い出しながら、ムーントラックのラストランが今、幕を開けるのだった。
259 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/16 09:33:07 ID:ffH9o1B0yQ
栗東寮のTVルームには、既に大勢のウマ娘が集まっていた。
ラストランを発表したムーントラックの、最後の走りを見るためだ。
それに、同じ寮の一員であるアストンマーチャンも出走しており、スプリンター同士の対決にも期待がかかる。

「大丈夫でしょうか……」
「フラワーさん、何を心配されているのですか?」
モニター越しに、ゲート入りを進めるウマ娘たちを見ながら、ニシノフラワーは不安げな表情を浮かべていた。
同室のミホノブルボンは、その表情を見ても心配事が何なのか読めず、彼女に尋ねる。
「かみなり、鳴ってるってテレビで言ってたんです……」
「それは……」
ブルボンも、それを知らないわけではなかった。事前に調べた予報よりも、発雷確率が高まっているのは確かであり、
しかしそれがレースに影響を及ぼすかは定かではないのだが……。

(ムーントラックさんは、走りきってくれます……絶対に)
二人の会話を聞いていたシュガーは、テレビに期待の眼差しを向ける。
まだ、ムーンと知り合って間もないが……なんとなくだが、期待を向けてしまうのだ。
根拠はない。しかし、応援したい。そんな気持ちである。

『さあ、各ウマ娘ゲートイン完了。最内枠のアストンマーチャンか、大外枠のムーントラックか、はたまた他のウマ娘か。見届けよう、この電撃戦を』
スプリンターズステークスが、いよいよ始まる。
その時だった。ニシノフラワーの心配が的中してしまったのは。

『いま、スタートし______』
瞬間、中継マイクに爆音が入った。
そして、映像が途切れ、「しばらくお待ち下さい」という表示が出るのみ。
音も、聞こえなくなる。

「えっ!ま、まさか本当にかみなりが……」

予感が当たってしまったフラワーや、他のウマ娘たちがうろたえてしまう中。
映像が回復するまでの約1分間、シュガーライドはじっと画面を見続けていた。
260 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/19 02:41:36 ID:yQzkYFulXQ
『______熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』

突然の放送事故から1分後、映像と音声が回復した。

『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』

その瞬間映ったのは、ムーントラックのラストランが1着であったということを示すものだった。
大歓声に包まれながら、姿勢良く深々と礼をするムーン。
この映像を見ていた誰もが、レースがまともに見られなかったことよりも、今この瞬間に"衝撃"を受けている。

(終わり……引退……いつか、わたしにも来るのでしょうか……)
シュガーとて例外ではなく、彼女の心に"引退"というワードを深く刻みつけていた。
そうした点では、ムーンの思惑通りになったと言えるだろう。

夜頃、URAからお詫びのメッセージとスプリンターズステークスのアーカイブ映像が配信された。
トラブルの原因は雷雨による配信機材の故障で、撮影・保存はできていたが送信の部分に影響が出たという。

夕食の際に、皆でそれを見ることにした栗東寮の面々。
特に、シュガーとフラワーは今か今かと待ち遠しくしていた。

「ほいほーい。それじゃ、映像出すよん」
栗東寮1のガジェット使い・トランセンドの操作により、テレビとケーブルで繋いだノートPCから、アーカイブ動画が出力される。
(どきどき……)
シュガーは、早く見たくて仕方がなかった。どのように走ったのか、どんなレースであったのか。
そして、映し出された映像に刻まれていた記憶が、読み解かれる______。

レース展開>>261
261 : トレーナー君   2024/09/19 07:29:05 ID:uXThdvtgtA
周知の通り、当日の中山は小雨でバ場は重。一番外の8枠16番ムーンはまずまずのスタートで先頭から10人目。
最初のコーナーで内枠の数名のウマ娘がカーブでスピードを落とすのを見逃さなかったムーンが一気に抜いて4~5人の先頭集団に加わる
向正面に入り、重いバ場でやや疲れてきたと思われる一番先頭のウマ娘がズルズルと順位を落とす。
ムーンは先頭集団の3番手にまで順位を上げていた。
第3コーナーは3人が団子状態で通過し、最終コーナーを抜けていよいよ最後の直線。
中山の坂でついに1位のウマ娘と、いつの間にか1人抜かして2位に上がったムーンの一騎打ちに。
このまま1位が逃げ切って1着・・・と思いきや、重バ場+坂という悪条件が重なりゴールまで残り僅かの所で1位のウマ娘がまさかの転倒。
その事態に動じず、落ち着いて差したムーンが1着でゴールした。
262 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/19 08:09:27 ID:yQzkYFulXQ
なんか前スレから転倒好きな人がいるな……?
263 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 07:07:13 ID:EWaN7mhWzc
『今、スタートしました!』
ゲートが開き、16人のウマ娘が一斉に走り出した。
その瞬間、激しい光と音の雷がレース場を覆う。

が、走り出した彼女たちにとって、そんな現象は恐れるに足らないこと。
一部の機材が止まろうと、会場が停電しようと、ウマ娘は走り続けるのだ。

『会場が大変なことになっておりますが、観客の皆様は係員の指示に従って行動してください。ウマ娘たちは走るのをやめていません!
なので、実況に戻りましょう!』
実況席の女性も、一切動じずに実況を続ける。
1番人気のムーントラックは、ラストランでも動じずに最後方……いつものスタイルを貫いている。
対抗として挙げられた2番人気のアストンマーチャンは現在、先頭から4番目ほどの位置。
しかし最初のコーナーで、後続の数名のウマ娘がスピードを落としたのを見たムーンは、覚悟を決めた。
(この重バ場……"いつも通り"だと、バ群に飲まれかねませんわ!)
スローペース化すると最後方から行っても届かなくなる。
ならば、いま位置を上げてもプラマイはゼロだ。
そう思い、ムーンはそのウマ娘たちの間を駆け、前へ進出していく。
(絶対に、勝ちますのよ)
ラストラン……もう、脚質も何も関係ない。
ただただ走って、勝つ。もはやそれだけである。
264 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:10:45 ID:EWaN7mhWzc
『さあ、電撃戦もいよいよ終盤!逃げる4番、じわじわ後退っ!ここで先頭変わって、アストンマーチャンっ!!』
先団4番手をキープしていたアストンマーチャンが、圧倒的な回転数のピッチ走法で一気に前に出る。
ここで逃げて突き放して、勝負を決めるつもりだ。

しかし、まだ。一人、負かしていない。
「ここからっ!ですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あ……っ!?」
マーチャンは、数日前の併走を思い出す。
あの日と同じような……いやそれ以上の熱・気迫……そして、勝利への執念。
後ろから迫ってくる雄叫びに、様々なものを感じる。
『ここで中団からムーントラックが上がってきたぁぁぁ!これはアストンマーチャンとの一騎打ちッ!!』
最終直線には高低差2.4mの坂がある。ここを乗り越えた者が、勝者となるにふさわしい。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
残り310m。二人が併(なら)び、両者一歩も譲らない。
が、僅かに______。
265 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:11:01 ID:EWaN7mhWzc
『僅かに突き放して、ゴォォォォォルっ!!熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』
半バ身差であった。だが、その僅かな差で、ムーントラックがゴールした。
『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』
(あ……やり、ましたのね……わたくし……)
ムーンはゆっくりと減速し、呼吸を整える。今まで起きていた症状はない。本気で走って、勝てたのだ。
観客からの大歓声を浴び、その衝撃に浸る。
「ああ、もっと走っていたかった。こんなにも素晴らしい気分が、これっきりだなんて」
自分はもう衰えた。最後に、凄く頑張れただけだ。次はない。
そう思うと、自然と名残惜しくなってしまう。
「これっきり……では、ないですよね?」
「え?」
諦めの表情を浮かべていたムーンに、アストンマーチャンが声を掛けた。
「このレースを見た、たくさんのヒトもウマ娘も、今日はきっとあなたの走りに感動したことでしょう。
そしてそれは、次の世代へと繋がっていく……マーちゃんはそう思います」
「わたくし……そのような存在に、至れたのでしょうか?」
「はい、きっと」
自分が走れなくなっても、その意志は誰かの心に火をつけ、次へと繋がっていく。
そう思えたら、少しだけ気分が軽くなった気がしたムーンであった。

(___わたしも、もっと……!)
アーカイブ動画を見て、シュガーライドは改めて感じていた。"引退"というものを。
彼女の心のなかにも、きっとムーンの意志は受け継がれている。
そしてシュガーは誓うのだった。こんなふうに、感動させられるレースをしてみたいと。
266 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:31:30 ID:EWaN7mhWzc
それから1ヶ月後。寒さが目立ち始めてきた、11月の半ば。
早朝のトレセン学園グラウンドに、ウマ娘が一人。
(ふぅ……なかなかさむいですぅ……)
機能性に優れたトレセンジャージだが、寒いものは寒い。
シュガーライドは身体を温めるため、軽く走っていた。

今日は、10月に行ったムーントラック・アストンマーチャンとの併走以来の、先輩ウマ娘との合同トレーニングだ。
GI・ホープフルステークスも近いので、より強くなるためのトレーナーからの提案ということだが……?

(はふぅ……今日は誰が来るんでしょう……)
いろいろな先輩と会ってきて、だいぶ顔を覚えてきたシュガー。
が、併走の経験はあまりないので、誰が来るかドキドキしている。
そして数分後、彼女は姿を現した。
「______ほう、お前だったか」
(……っ!?)
シュガーは感じた。とてつもない"威圧感"を。
同時に、寒さが吹き飛ぶような熱も。
堂々とした態度で、ゆっくりと歩いてくるそのウマ娘は……金色の暴君、オルフェーブルであった。
(いつかのクセの強いイケメンウマ娘さんー!?)
しかし、シュガーの第一印象はそれであった。
267 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/21 08:31:44 ID:EWaN7mhWzc
「お前のトレーナーから頼まれた。GI初挑戦に向けて、実力のある我に併走をしてほしいと」
(やっぱりナルシストなんですかね)
「……我に、並ぼうというのか?」
(!!)
ナルシストな発言の中に、その一つ一つに、圧を感じる。
まだ幼いシュガーにも、伝わるものがあった。
絶対的に手が届かない、圧倒的な実力。
隣に居てはいけないと思うような、空気感。
だが、彼女はひるまない。
「……はいっ!並んで、いつか追い越しますっ!」
強気な態度で返事をするシュガーに、オルフェーブルは。
「……姉上が見込むその力、全て発揮して見せなければ許さぬぞ?」
姉・ドリームジャーニーは、シュガーに目をかけている。
自身が最も慕う存在が注目するウマ娘なのだから、当然の走りを見せられるだろう……そう思っている。
「はいっ!!」
シュガーもそれに答えるように、返事をした。

併走の展開>>268
268 : トレーナー   2024/09/21 08:56:12 ID:ggpr/EdL9A
コイントスの結果、内枠がシュガーで外枠がオルフェと決まる。

いざスタートすると、さすがは暴君と言われるだけあってオルフェからグイグイと引き離されるシュガー。
「やっぱり先輩は強いや...」シュガーが第1コーナーに差し掛かった時、オルフェはすでに第2コーナーを抜けていた。
第2コーナーを抜けたシュガーのはるか前方、オルフェはもう向正面の終わりに近い位置。
しかし、ここでシュガーの中の「何か」が吹っ切れた。
「やはりその若さで我に勝つ…いや、並ぼうというのは無謀だったようだな……」
第4コーナーに差し掛かったオルフェは少し残念そうに、少し軽蔑するかのように後ろを振り向く。すると

シ ュ ガ ー が そ こ に 居 た

「!?」

何かが吹っ切れたシュガーが猛烈なスパートで追い上げ、オルフェにわずか2バ身差まで迫っていたのだ。
「こやつ、何者!?」
第4コーナーを過ぎ、最後の直線。さきほど2バ身差あった差はもう1バ身差も無い。
「何故だ!そんなパワーとスタミナがその小さな体のどこにあるというのだ!?」
どんどん追い上げるシュガー、オルフェは焦っていた。
「姉上の前で醜態など晒せられない!でもこれでは勝ち目が無いではないか!!」
残り100mでついにオルフェはシュガーに並ばれて・・・

結果、アタマ差とはいえ勝ったのはシュガーだった。
269 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 18:58:07 ID:g.d1pB4DW.
なんかずっと"ブル"って書いてました
270 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 19:28:12 ID:g.d1pB4DW.
オルフェーヴルが律儀にも用意していた、どこの国の物かも分からない黄金のコインを使い、コイントスで外枠・内枠を決める。
結果、オルフェが外でシュガーが内枠となった。

そして、二人並んで一斉にスタートを決める。
最初はオルフェーヴルがペースを作り、少しばかりのバ身があったが……。
(ほう、悪くはない動きだ)
1コーナーを抜けた所で、シュガーは彼女と並んでいた。
自分に遜色なくついてくるシュガーに、オルフェーヴルは僅かだが感心を寄せる。
(これが、超強いってひょーばんの、オルフェーヴルさん……ついていくだけで結構きついかも……!)
しかしシュガーの方は、並んで走るのがやっとの様子。
(だが、それがやっとであるなら……)
オルフェーヴルはそれに気づくと、ペースを上げた。
シュガーをどんどん引き離し、5バ身ほどのリードを作る。
(は、速いっ!!すっごく引き離されてます!!)
力の底が見えない。その感覚を言葉にすることは、シュガーはまだ難しかったが、なんとなくわかっていた。
だが、だからこそ。シュガーライドは、燃えるのだ。
(あんな人にも……追いつきたいッ!!)
271 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/23 20:10:28 ID:g.d1pB4DW.
___2コーナーを抜けて、向正面を独走するオルフェーヴル。
(やはり、まだ若いか。しかし姉上が気に掛けるその才能……いつかは我と対等に走れる日が……)
今はまだ足元にも及ばない。しかし、もっと経験を積み……身体も成長すれば、もっと走れるようになる。
シュガーに悪くない評価を下したオルフェーヴルは、4コーナーまで来たときに一瞬ふと、後ろを向いた。
「……ッ!?」
「つかまえっ、ましたっ!!」
シュガーライドが、背後に迫っているのだ。
まさか。そう思った。あれ以上は、走れないと思っていたのに。
(我としたことが……傲慢であったッ!)
オルフェは、今までの油断的な行動を全て流すように……加速した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
残り400mの最終直線。シュガーを引き離そうとする。しかし……。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シュガーもまた、オルフェに迫る。
得意の走法が、暴君を追い抜かんと。
(お前は……強い……しかし、しかしッ!!!)
今にも追いつかれそうだ。だがオルフェーヴルは、それを認めなかった。
最強なのは自分だ。シュガーライドが強くなるのは、もっと先の話。
「我は……我が頂点なのだあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
玉座に君臨するのは、自分自身でなければならない。
そのプライドが、彼女にさらなる力を与える。
シュガーをまた、どんどん突き放していき……最終的に、1着でゴールするのだった。
272 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/25 04:50:40 ID:JiJbEjh4XI
「はぁっ……はぁっ……」
ギリギリで突き放され、ゴール地点で息を荒げるシュガーライド。
いけたと思った。このまま追い越せると思った。
だが、眼の前にいるそのウマ娘は、信じられないほど強かったのだ。

(なんて、強さなんですか……それに、息が、みだれてない……)
シュガーが驚いたのは、オルフェーヴルが息を一切乱していなかったところだ。
あれだけのペースで走って、まだもう一周も行けそうな雰囲気の、余裕の表情を浮かべている。

「……良い」
「えっ?」
「貴様の強さ、認めよう。だが……まだ我には届かぬ」

オルフェーヴルは、シュガーの強さを……潜在能力の高さを認めた。
そして、ゆっくりと近づいてくると、あるものを手渡す。

「GIで、我に勝つその時……これを返すのだ」
(えっ、これっ。えっ……?)
手渡されたモノに驚愕するシュガーを置いて、オルフェーヴルはグラウンドを去ってしまった。
シュガーの手の中には、コイントスに使った"どこの国の物かも分からない黄金のコイン"が握らされているのだった……。
そして日は流れ、ついにホープフルステークス当日を迎える。

次の展開>>273
273 : お前   2024/09/25 10:44:16 ID:O05YrWhJo.
師走の中山レース場、気温は低いが快晴だ。
出走は18人。シュガーは2枠4番からのスタートだ。スターターが旗を振り、各バがゲーに収まり・・・

スタート!

ホームストレッチを2回走るので、いったんゴール板を素通り。逃げも数名居るが、シュガーは約6名の第2集団につけた。
1コーナーで坂の頂点に達し、向こう正面までは下り。これを利用してシュガーは第2集団の先頭に。

向こう正面で特に順位に変化は無く、そのまま第3コーナーへ。
だが第3、第4コーナーではスピードに乗ったまま小回りするため馬群が膨らみやすく、先頭集団がスピードを落としたのをシュガーは見逃さなかった。

第4コーナーで先頭集団に並び、最後の直線でついに先頭集団を抜いて先頭に立ったシュガー。
持ち前の強い心肺で2度目の坂でも他を差しバを寄せ付けず、2バ身差の1着でゴールした。
274 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/27 05:45:12 ID:ucKb9iSs0o
12月、下旬。師走の中山レース場。
GI開催も最終週を迎えるだけあって、とても多くの観客が足を運んでいる。
日曜日には有馬記念が開催されるが、前日の土曜日に開催されるのは……。

『ここ中山レース場では、ジュニア級GI・ホープフルステークスの発走が迫っています。ここで勝利し、来年のクラシック戦線に名乗りを上げるのはどのウマ娘か!?』

___控室で中継を聞きながら、シュガーライドとトレーナーは"最後の準備"を整えていた。

「一応、サイズ合わせは事前にやったけれど……合ってる?」
「はい!とってもばっちりですよ!!」

それは、GIに挑むウマ娘の誰もが通る道。シュガーライドも、何度それを夢見たことか。
『勝負服』。ウマ娘たちの走る力の源となる、特別な衣装。
どれだけ派手な装飾で彩っていても、それを着るウマ娘一人一人に合ったものなら、
GIでも超人的な走りを発揮できるのだ。

「ゆ、URAのデザイナーさん、すごいです!」
自らが纏っている勝負服を鏡で確認しながら、シュガーは驚いていた。
GIに出るなら、かっこよくもかわいくも走りたい……という願いで、日曜朝のプリファイシリーズを思わせるようなデザインを提案したシュガー。
ポップ感のある黄色の水玉リボンを両耳に装着し、
白を基調としたインナーに制服スタイルの黄色アウターを重ね、
スカートもフリフリ感にこだわった仕立てをしてある。

「ほとんどのウマ娘は片耳に飾りをすることが多いけど……シュガーはこれが良いのよね?」
「はい!なんかしっくりくるので!」

色々話していると、発走までもう少しの時刻となった。
初めてのGI挑戦……勝つことはもちろん、楽しんで走ってこようという気持ちで、
シュガーライドは控室を後にするのだった。

275 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/28 10:01:16 ID:qPNrzRqKW2
『ここ中山レース場。現在のバ場状態は、芝ダート共に良の発表です。ホープフルステークスに出走するウマ娘たちが、続々とターフに姿を現しています』

ジュニア級といえど、GIレース。観客の歓声がピークを迎える中、ウマ娘たちが集う。
デビューから好成績を残している者、やや遅咲きでGIに間に合わせた者など、彼女たちの戦績は様々だ。その中に、シュガーライドの姿もあった。

『シュガーライド、現在一番人気です。メイクデビューから無敗の2連勝を重ねながら、トレーニングではGI最前線を走るウマ娘たちと切磋琢磨しているとのことで、大きく期待が持てます』

(た、確かにそうなんですけど!!そんなにですか!?)
実況の解説を聞きながら、シュガーは少し恥ずかしくなっていた。
正直なところ、自分はただ練習に付き合ってもらっていただけであり、
さらには若さ故か、その行動の重さ・尊さ・影響力を理解しきれていない部分もあるのだ。
永世3強、メジロ家、黄金世代、暴君……みな強さと実績を持つウマ娘たち。
そんな環境でトレーニングしたともなれば、注目されぬ訳が無い。
276 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/28 10:01:29 ID:qPNrzRqKW2
(それにしても……風が冷たくて寒いのに、寒くない……ふしぎです)
ターフの感触を確かめ、ウォーミングアップをしながら、変な感覚に陥る。
寒いはずなのに、どこからか熱気が伝わってくる。
彼女は気づいた。観客たちから来ているものだと。
初めてのGI挑戦。それを見に来る観客たちから、とても強い熱が伝わる。

同時に、それを周りのウマ娘たちからも感じた。
(……!これが、そうなんですね)
過去、メジロブライトから言われたことを思い出すシュガー。
『___GI……たくさんの”勝ちたい”が集まってきますの~。それはもう、押しつぶされそうなくらいに』
たくさんの”想い”が集まって、それは熱と同時に大きなプレッシャーを生む。

「でも、わたしは……わたしのペースで!」
しかし、シュガーはそれに潰されない。
自分の最大限の走りで、勝ちを目指す。


______各ウマ娘がゲートイン。
シュガーライドは内枠4番ゲート。
ついに、始まる。GIが。
277 : トレぴっぴ   2024/09/28 22:22:31 ID:DDI.VDZZw6
ところでこの子の外見って>>274な感じなん?
278 : トレーナーちゃん   2024/09/28 22:23:42 ID:qPNrzRqKW2
>>277
そうれす
279 : 使い魔   2024/09/28 22:26:00 ID:qPNrzRqKW2
絵は描けないけど形にしないと文章に出来なかったので、アバター作成サイトを使いました
280 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/29 06:47:44 ID:aEC0jkX3D.
吹奏楽隊による生ファンファーレと、それに合わせた観客のコール。
GIに欠かせないこの二つが完了したとき、レースは幕を開ける。

『各ウマ娘、体勢完了。……スタートしました!』

18人のウマ娘が一斉にスタート。出遅れなく、スムーズな出走だ。

(は、始まりましたーっ!!)
スタート直後。自分がGIを走っているという実感がわいてきたシュガーライド。
しかしここはじっくり、冷静に。彼女は後方に位置取った。

先頭を走るのは2名の逃げウマ娘。両者が競り合うことでレースのペースが作られていく。
しかし、逃げウマ娘とそれを追う4名の先行集団のペースは、それほど速くはない。

『さあ、スタート直後には登り坂があります。ここでのペースはややスローか』
1コーナーへ向かう途中、高低差2.2mの坂を登ることになる。
このあたりではペースが速いと、後半で先行勢の脚が鈍ってしまうことが多い。

一部の観客たちはこの模様を見て、
(ジュニア級でこの走りができるのはとてもレベルが高い……来年からのクラシックも期待できる……)と思うのだった。

シュガーライドは現在、6名ずつで2分割された後方集団の2つ目……その中の3番手ほどにいる。
(坂では、おさえておさえて……)
彼女はメイクデビューで同じコースを勝っているが、今回はGIというのもあってしっかりと対策を学習して臨んでいる。同じく、ペースが速くなることはない。

『各ウマ娘、坂を登って1コーナーへ。その後はグーっと下り坂』
1コーナーを抜けると、スピードに乗りながら向正面へ進む。
シュガーはこの勢いで僅かに前に出て、集団の先頭に。
道中で1000mを通過し、タイムは59.5。坂の影響か、やや速いペースだ。
281 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/29 06:48:15 ID:aEC0jkX3D.
が、レースが動くのはここからである。
坂を下った勢いのスピードのまま、各ウマ娘たちが3コーナーへ進出。
中山のコーナーは小回りがあり、スピードを落とさなければ外へ大きく膨らんでしまうことになる。

(……ここですッ!)
シュガーは、しばらく続いていた速いペースが落ち着いた一瞬を狙って、
じわじわと前に進出していく。

『3コーナー・4コーナーを回って、1番人気シュガーライドが上がってきた!小回りのコーナーを苦にせず、先頭集団に並びかける!』
小回りの強い部分ではピッチ走法に切り替えて、小柄な体躯も利用してバ群をするすると抜けていくシュガー。
(よしっ、できてますできてます!あともう少しっ!)
あとは最終直線を競り勝つだけ。ここで彼女のスイッチが入る。
「行くぞーっ!!」
310mの短い最終直線。シュガーはピッチxストライド走法を惜しみなく発揮し、
ラストの急坂で先頭のウマ娘を追い抜く。
『ここでシュガーライド先頭ッ!そのままゴールインッ!!』
1バ身ほどの差でゴールした。……1着で、ゴールしたのだ。

「はぁっ……はぁっ……あ、わたし……勝ったんです?じ、GI……?」

勝者を称える大歓声に包まれながら、シュガーはまだ実感がわいていないようだ。

『勝ったのはシュガーライド!無敗の3連勝で、見事ホープフルステークスを制しました!!』
が、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、世間の目は“二人目”の天才少女の出現を称え、クラシック期への期待を寄せるのだった……。
282 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 22:42:59 ID:Rp6tDt3Oxg
年明けに組まれた、とある特番。
それは、クラシック級に昇格したての二人のウマ娘へのインタビュー番組であった。
『本日は、クラシック世代での活躍が期待され、”小さな天才少女”との呼び声が多い2名のウマ娘さんにお越しいただきました!』
明るい雰囲気のセットに、番組メインMCの女性が一人と、インタビュー対象である二人の席が並んでいる。そこに座っていたのは……。

「ニシノフラワーです!今日はよろしくお願いしますっ!」

「しゅ、シュガーライドですっ!よよ、よろしくです!!!!!」

ジュニア級で輝かしい戦績を残し、二人はどちらも飛び級であったことから、小さな天才少女と呼ばれるようになったニシノフラワーとシュガーライド。

フラワーはテレビ出演であっても緊張や物怖じせずに挨拶できたが、シュガーの方は少し固めな表情だ。

『それではまず、お二人のジュニア級での活躍を振り返ってみましょう』

VTRに切り替わり、まずフラワーのレース映像が流れる。
彼女はメイクデビューから3戦3勝で、阪神ジュベナイルフィリーズに挑んだ。
前目の先行策で走り、後半一気に押し切っての勝利。
283 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 22:43:11 ID:Rp6tDt3Oxg
次に、シュガーのVTRが流れる。
シュガーもメイクデビューから2戦2勝。
ホープフルステークスに挑み、器用な後方策で勝利した。

ジュニア級GIの無敗制覇ウマ娘が、二人も誕生……世間の目は、SNSなども含めて彼女たちに集中している状況だ。
そういった書き込みなども、VTR中に取り上げられている。

「わぁー!応援してくれている人が、こんなにいるんですね!」
「す、すげーのです……」
世間からの反応に喜びと興奮の表情を浮かべるフラワーに対し、シュガーの方はそれらにとても驚き、困惑していた。
トゥインクルシリーズを走り出して、いきなりのGI制覇。
とても嬉しかったが、GIをたった一度勝つだけで、こんなにも沢山の人の心を動かすものなのだと、影響力の高さに驚いているのだ。
284 : ◆wuHHR64l1og   2024/09/30 23:42:23 ID:Rp6tDt3Oxg
クラシック級でのフラワーの目標>>285
シュガーの目標>>286
285 : トレピッピ   2024/09/30 23:59:30 ID:pIjjWpDtI.
牝バ三冠です!
286 : トレーナーちゃん   2024/10/01 00:00:00 ID:1AYxpaAtgE
私も同じです!
287 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/02 11:25:33 ID:EALMat.7vs
『ではここで、お二人に伺ってみましょう!ずばり、クラシック級での目標は?』

MCの話振りとともに副題テロップが変化し、「天才少女ふたりの目標は!?」というものになる。

少し悩むシュガーとフラワーだったが、結論が出るのは同時であった。

「クラシック3冠です!!」
「トリプルティアラです!!」


皐月賞・日本ダービー・菊花賞の3つを勝つ、クラシック3冠。そして桜花賞・オークス・秋華賞を勝つトリプルティアラ。……どちらも、大きな望みだ。だが、それを笑う者はあまりいないだろう。
小さな身体に宿るのは、とてつもない潜在能力と競争能力。
ジュニアGIを無敗で勝利したこの二人なら、目指せないことはない。
ふと、カメラに抜かれたシュガーの表情は……とても自信に満ち溢れていた。

>>288 (皐月賞までの展開)
288 : トレぴっぴ   2024/10/02 12:31:22 ID:bpOrArTAqo
(両方トリプルティアラなのでは…)
289 : ダンナ   2024/10/02 12:36:02 ID:EALMat.7vs
>>288
違うんだ……シュガーの方は3冠なのだ……
290 : 貴様   2024/10/02 12:37:54 ID:EALMat.7vs
トリプルティアラの主人公はもう書いたので……

再安価>>291
291 : キミ   2024/10/02 13:21:00 ID:oBEV8yTMpU
なら最初からそう宣言してから書きなよ
安価両方トリプルティアラで、それをガン無視するような書き方したら突っ込まれて当たり前
自分の説明不足を棚に上げて他所で愚痴るとか女々しい真似すんなよ
292 : 使い魔   2024/10/02 13:27:58 ID:EALMat.7vs
>>291
ごめん、そこは悪かった。ところで流れを止めるよりあっちで話したほうがいいと思う
293 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/02 13:41:02 ID:EALMat.7vs
ということで大変申し訳無い。この路線で進めさせてください。
最安価>>294
294 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:46:43 ID:pSqjmPwIQs
もう少し書きます。

テレビ収録・放映から数日。
トレーニング休養日に出かけると、街の人の明るい視線を受けるようになり……少し恥ずかしいシュガー。
(これアレですか、時の人ってやつですか?)
ここに来てようやく、GI制覇の重みをなんとなく理解したような気がするが、
彼女の目標はこれ以上のその先を目指している。

クラシック3冠。その名の通り、クラシック級のウマ娘にしか目指せない栄光。
そしてシュガーは、今のところ3戦3勝の無敗だ。
まずは4月の皐月賞だが、トレーナーいわく目指せるかもしれない。
……無敗の3冠ウマ娘を。

無敗3冠。それはただクラシック3冠を勝つだけではなく、最終戦の菊花賞で勝つまでに"すべてのレースで負けないこと"。
3冠レースはおろか、叩きの前哨戦を挟む場合はそれすらも負けてはならない。

(……でも、やれるなら、やりたいなぁ)
今の自分に、それほどの力があるかはわからない。
だから、"やれるならやりたい"レベルの感情に留めるシュガー。

「あーっ!キミはーっ!」
(ん!?)
すると突然、後ろから声をかけられた。
やや甲高いその声に振り向くと……。
295 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:47:25 ID:pSqjmPwIQs
キミ、この前ホープフルステークスで勝ったし、テレビにも出てたよねっ!?カッコよかったー!まあ、カイチョーには及ばないけどねっ」
「あ、あなたは……トウカイテイオーさん!?」

シュガーに声をかけたのは、かつて無敗で皐月賞・日本ダービーを制覇したウマ娘、トウカイテイオーであった。

「いやぁ寒いねー!そうだ、なにかの縁だし、あったかはちみー奢るよ!」
「えっ、ありがとうございます」

テイオーから冬仕様のはちみードリンクを奢ってもらったシュガーは、二人で公園のベンチに腰を下ろす。

(あ、あまい……!)

ハチミツといえば、温めると甘みの低下を引き起こしてしまうものだが、
このはちみーは普段の冷製はちみーより甘かった。
おかわりしたくなるほどに。

「……もう一杯欲しそうだね?」
「はいっ!!」
それを察したテイオーに、2杯目も奢ってもらうのだった
296 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:47:33 ID:pSqjmPwIQs
「___無敗の3冠かぁ。すごく大きな目標だよ?それ」
シュガーの夢と、その上を行く大きな到達点。それを聞いたテイオーは、少し困ったような顔をした。
「いい?無敗の3冠ウマ娘っていうのは、ただ速いだけじゃなれないんだ。なんというか……一番運が強いウマ娘が、それを得られるんだと思う」
「運、ですか?」
「いくら脚が速くても、心肺能力が強くても、レース展開っていうのはどうなるか最後までわからない。それに……」
「それに??」
「すごくいいところで故障して、その夢を絶たれてしまうウマ娘だっている。……ボクとかね!」
(あ……)
シュガーは思い出した。このトウカイテイオーというウマ娘は、ダービーのあとに故障して菊花賞を断念せざるを得なくなったことを。
それに、フジキセキやアグネスタキオンなど、夢を絶たれたウマ娘は過去にも大勢いる。
「だから、"運"なんですね」
「でも、そこからやり直せたウマ娘だっている。……これまた、ボクもそうなんだけど」
「えっ!あ、そういえば……」

『______トウカイテイオー奇跡の復活ーッ!!』

長い休養期間を越えて、目の前にいる少女は有馬記念を勝った。
それを思い出したシュガーは、

(あれ?なんかものすごい人とお話してます!?)
まるでスター芸能人と会話しているかのような状態に陥ったのだった。
297 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/03 06:48:34 ID:pSqjmPwIQs
それから数日後。
1月の終わりごろ……。

トレーニングを終えたシュガーは、休憩しながらトレーナーとミーティングをしていた。

「いい?シュガー。次の目標……皐月賞へ進むには、いくつかの重賞で好成績を出す必要があるの」
「え、まだわたしは駄目だったんですか!?」
「あっ、違うわね。あなたの場合はもうGIを勝っているから、戦績としては十分よ。ごめん」

軽く頭を下げたあと、トレーナーはホワイトボードを少し書き直した。
「……つまりはこの重賞には、あなたのライバルとなるであろうウマ娘が出走してくることになるわ」
「ライバル……」

3月期に開催される3つのレース……「弥生賞」・「若葉ステークス」・「スプリングステークス」で最低でも2着以内という成績を残せば、
皐月賞への優先出走権が与えられる。
ここで勝ったウマ娘が、シュガーライドを追う形になるのだ。

「3月は皐月賞へ向けての最終調整期間よ。だから、あまり他に時間を割けない……けれど、1つくらいなら、このトライアルレースの観戦に行ってもいい。どこにする?」
「そうですね……」

>>298
298 : 貴方   2024/10/03 07:05:36 ID:vHLG2Mw8CE
若葉ステークスで行きましょう
299 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/04 14:33:05 ID:uWXxKCbK.M
「若葉ステークスがいいです!」
このレースは、他2つと違って重賞ではなく、ひとつ下のリステッド競走と呼ばれるクラスだ。
しかし、集まってくるウマ娘は重賞出走にも劣らない実力を持っている。
そしてその中からの勝者ともなれば……ライバルとして警戒すべき相手となるだろう。

(わかばって、なんかかわいい響きじゃないですか!)
……シュガー本人は、そこまで考えてはいないのだが。

どのトライアルレースも、開催は3月。
それまでにも、しっかりとトレーニングをしておかなければならない。

(GIを勝ったことで、今のシュガーには自信も満ち溢れているでしょう。
そんな中で、本番までどうトレーニングをすればいいのかしら?)
皐月賞はホープフルステークスと同じレース場・距離で開催される。
走りに対する不安は一切ないのが現状であり、今後のトレーニング方法に悩むトレーナー。

「シュガー。どんなトレーニングがしたい?4月の皐月賞までの間、あなたの意見も取り入れてみようと思うの」
「えっ、わたしのですか! いざそう言われると、うーん……」

数分悩んで、シュガーは自分の考えを伝えた。
>>300
300 : 相棒   2024/10/05 04:58:54 ID:n9GCN0Nafs
age安価下
301 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 12:08:48 ID:n9GCN0Nafs
「……そのままで!いつもしてるトレーニングを頑張りたいです!」
「そのまま?」
「はいっ!何事もきそが大事って言うじゃないですか!」

シュガーは、普段通りのことをしたいと言った。
それを聞いて、トレーナーはハッとする。
(そっか、そうよね。何もすることが思いつかないなら、いつもしていることに真剣に取り組めばいい。結果はそれについてくるもの……か)

______結局、普段通りのトレーニングを続けるということで、話がまとまった。

それから2ヶ月後、3月中旬。


阪神レース場・11R「若葉ステークス」

『勝ったのはホワイトテイル!2着のウマ娘の追走をものともせず、逃げ切ってのゴールイン!』

良バ場開催となったこのレースで、ホワイトテイルというウマ娘が逃げ切った。
このレースでは2着までの優先出走権があるが、
1着のホワイトテイルが見せつけた圧倒的な走りはまるで「主役は自分だ」と言っているかのようであった。

(す、すごい……たしか、1000mのタイムが57.8って言ってましたよね……そんなに飛ばして、逃げ切るなんて……!)

レースの観戦に来ていたシュガーを驚かせたのは、先頭で走り続けたホワイトテイルが出した1000m57.8というタイムであった。

後半は少し鈍ったものの、それでも後続に3バ身という差での勝利。

(きょ、強敵になりそうですぅ……!!)

本番でも同様の走りをしてくるのであれば、最終的に追い抜かなければならない相手ということになる。
皐月賞まで数週間。最終調整として、越えなければならない壁ができたシュガーであった。
302 : トレぴっぴ   2024/10/05 19:00:37 ID:0jKUN0WUw6
取り急ぎ私服verをば

303 : ダンナ   2024/10/05 19:26:15 ID:n9GCN0Nafs
>>302
ねえ!?うちのここんな美少女で良いんですか!?
304 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:45:38 ID:n9GCN0Nafs
次の日。
シュガーはとあるウマ娘に、併走をお願いしていた。
「私と併走を……?」
「はい!皐月賞のイメージトレーニングに、スズカさんの大逃げがぴったりなんです!」
異次元の逃亡者、サイレンススズカ。
彼女もまた、1000m57.4などのハイペースなタイムを出しながらも後半の逃げ切りに定評のある、中距離が専門の逃げウマ娘の一人だ。

若葉ステークスで見た、ホワイトテイルの逃げ。それに追いつくためには、近いかそれ以上の走りをするスズカこそ併走相手にふさわしいと、シュガーは考えたのだ。

「……わかったわ。私が持ってるものを、できる限りあなたにぶつけてみようと思う」
「ありがとうございます!」
305 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:45:52 ID:n9GCN0Nafs
そして放課後、シュガーとスズカはグラウンドにやってきた。
異次元の逃亡者と、これから皐月賞に挑む”天才少女”。
見ごたえのありそうな併走ということで、周りには少しばかりの人だかりができている。
そんな中で、シュガーたちはウォーミングアップをしていた。

「ちょっと……きんちょーしますね?」
「そうね。でも、走れば気にならないわよ」

視線が気になるシュガーに対し、スズカは自分の世界に入る術を熟知しているようだ。

(走れば気にならない……)
スズカの見ている世界がどんなものか、静かに興味を馳せるシュガー。
……気がつくと、軽く心拍数が上がり、やや高揚した状態になっていることに気づく。
ウォーミングアップが終わったのだ。
(こ、これがそうなんでしょうか!?)
いわゆる”ゾーン”の片鱗に触れるシュガーなのであった……。

「距離は2000mで、良かったわよね?」
「はい!お願いします!」

スタート位置に立つ二人。今日は朝からずっと晴れていて、春の陽気が気持ちいい天気である。芝の状態も良好で、殆どのウマ娘にとって最高のコンディションだ。

「スタート、行くわよ」

シュガーのトレーナーがスターターとなり、片手を天に突き出す。
「よーい……ドン!」
掛け声とともに片手を振り下ろした直後、両者が一斉にスタートを決めた。
306 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 19:47:41 ID:n9GCN0Nafs
>>302
遅れながらも感謝を。大感謝。ありがとうございます
307 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/05 21:05:44 ID:n9GCN0Nafs
スタート直後、サイレンススズカが一気に前に出る。
(はやいっ!これが、スズカさん!!)
最序盤からのハイペースな逃げを見せつけられ、驚くシュガー。だが、自身は追い込みウマ娘なので、まだ前には出ない。逆転のチャンスは絶対にあると信じて。

______中盤、向正面を回って3コーナーへ差し掛かったところで、レース展開が変わる。
(ここから……っ!!)
シュガーが動いた。6バ身ほどの差で走るスズカに対し、ギアを上げて近づいていく。
「ここで引き離しますッ!!だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
このあたりでもう、距離を突き放しておいたほうがいいと思ったのだ。
4コーナーを回る頃には、スズカとその前を走るシュガーの差は3バ身はあった。
残り310の短い最終直線のコースは、中山レース場を想定したものだ。
が、異次元の逃亡者がそれを黙ってみているわけもない。
(先頭の景色、返してもらうわッ!!)
1着しか見られないその景色を、勝つことで返上してもらう……スズカの脳内も走りも、先頭の景色を見ることだけでいっぱいであった。
308 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 00:23:18 ID:OTW287ZlNE
うちのこにはスッと勝たせちゃったけど凱旋門賞の壁はまだまだ高い。
309 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 06:01:42 ID:OTW287ZlNE
______静かに、プレッシャーが襲いかかる。

(っ……!?)

すべてを押しのけるようなそれを感じたと思った次の瞬間、シュガーの目の前にはスズカが走っていた。

(譲らない……!!)
(わたしだってっ!!)

最終直線でさらにバ身を開こうとするスズカに、シュガーが必死に猛追する。
この短い直線では、圧倒的回転数のピッチ走法では有利に働いているのだ。
しかし、結果は……。

スズカが1バ身差での1着。
シュガーはギリギリ、異次元の逃亡者を捕らえることはできなかった。

「はぁっ……はぁっ……」
流石はGIを走る大先輩だと、悔しさと同時に感激すら覚えているシュガーの内心。
疲れながらも微笑んでいるその表情に、スズカは。

「何か、掴めたかしら?」
「……はい!ありがとうございましたっ!!」

シュガーの中に芽生えた確信を感じ取り、皐月賞に向けてのエールを送るのだった。

それから数日後。4月に入り、桜が舞う春の季節がやってきた。

まずは、ニシノフラワーの出走する「桜花賞」
ここから始まる、クラシックGIシーズンの開幕である。
310 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/07 12:20:19 ID:OTW287ZlNE
『ここ阪神レース場は桜満開の快晴模様です。バ場状態は良の発表で、もうすぐ発走となる桜花賞では、スピード勝負に期待がかかります』

スマホのラジオ機能を横に置きながら、シュガーはトレーニングに励んでいる。
桜花賞観戦は兵庫まで出向く必要があるので、スケジュールに余裕のない今回は断念することにしたのだ。

(フラワーちゃん……頑張って!)
心の中でエールを送りながら、シュガーは走り込みを続けた。
ふと思い出すのは、代わりにスイープトウショウが応援に行っているらしいが……。


「フラワー!ここで勝ってGI2勝目よっ!」
「もちろんです!がんばります!!」

阪神レース場の控室で、発走を待つフラワーにスイープが応援をしに来ていた。
自身のデビューはまだ先であるが、スイープのトレーナー曰く「今後のための視察」も兼ねてとのこと。

(うう……この前のチューリップ賞で、”無敗”じゃなくなっちゃって……)
フラワーは、前哨戦であるチューリップ賞に挑んだのだが、2着となってしまった。
持ち前の明るさとやる気で、どうにか繋いできたのだが、本番前になって蘇ってしまったようである。

「……しっかりしなさいよっ!」
「あ……」
フラワーの心境の変化になんとなく気づいたスイープが、背中を叩くように言葉をかける。
「たった一度負けたくらいじゃ、アンタがレースに掛けた”魔法”は消えないのよ!なんだったら、アタシが掛けなおしてあげるわ!」

(スイープさん……そうだ。わたしはまだ全然、がんばれますっ!)

スイープの言葉で、魔法にかかったかのように自身を取り戻したフラワー。
その後、トレーナーからもエールをもらい、ニシノフラワーはトリプルティアラ1戦目・桜花賞へと向かっていくのだった。
311 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/08 07:39:22 ID:1jZU3PZW6s
「はっ、はっ、はっ……」
グラウンドでトレーニングを続けるシュガーライド。
フラワーのことは気になったが、自身も皐月賞のために頑張らなければならないのだ。

(いいわね……ホープフルステークスの時よりも、仕上がりがいい。8割ってところかしら?)

それを見守るトレーナーは、シュガーの成長に感心していた。今の時点で8割なので、事後報告で知ったサイレンススズカとの併走では、それよりも低い仕上がりで僅差に迫ったということになる。

(本番も、やれそうね)

トレーナーは、自信を持って確信していた。シュガーなら皐月賞を勝てると。

……そんな時だった。周りのウマ娘たちがざわつき始めたのは。

「あの人よ……!」
「今度皐月賞に出るっていう?カッコイー!!」
(誰??)

声が向けられているその主を見つけると、トレーナーは驚く。

(あの娘は……ホワイトテイル!)

雪のような白毛。尻尾までふわっとしている白毛。
美青年と見紛うくらいの、整った顔立ち。
そして、実力。

……シュガーの次に皐月賞制覇に期待のかかっているウマ娘・ホワイトテイルが、
グラウンドに姿を見せたのだ。
312 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/10 05:40:39 ID:vaPKi5llv.
(……あの人、この前の!!)
暖かくなってきた春だというのに、一瞬だけ冬のような寒気と空気感を覚えたシュガーも、
グラウンドにやってきたホワイトテイルに気付く。

周りからの視線も歓声も、全く微動だにせず、
ホワイトテイルはゆっくりと歩き、シュガーライドの目の前まで来た。

「併走、良い?」
「えっ、あっ、どど、はいっ!」
(なんかいきなり、一緒に走ることになっちゃいましたー!?)

突然の誘いに驚いて語彙力も変になるシュガーであったが、半分は意図しない形で皐月賞のエキシビジョンマッチが実現したことに対する驚きである。


「これはチャンスよ、シュガー。リステッド勝ちでありながらも一番注目されている、スノーホワイトと走れるのは……」

「ですよねっ!本番に向けて、GIウマ娘としてがんばっちゃいます!」

「ま、まあ……油断はしないようにね?」

準備をするシュガーに言葉を送りながらも、トレーナーは少し不安であった。
GIウマ娘であることへの自信……それは時に、油断や慢心へと繋がってしまう。
だが、こうも考えた。それを本番前に解消できる機会が得られたことに、ホワイトテイルへ感謝したいと。


「……何歳なの?」
「歳ですか!?えっと……この前、たんじょうびを迎えたので……11歳ですっ!」
「……そう。私は14歳。それだけ」
(んんー!?!?)

スタート地点に立ち、ただお互いの年齢を知り合う会話を交わす二人。
それだけで終わってしまったので、シュガーは困惑しまくっている。
(14歳のお姉さん……でも、わたしはいつもどおりにっ!)

そして、併走……というか模擬レースが始まった。
313 : トレぴっぴ   2024/10/11 13:42:27 ID:5JVEnlQu.I
せいふくのすがた。
身長サバ読んだせいで少しサイズが大きいとかなんとか。

314 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/11 14:02:05 ID:ajotV/KjO6
>>313
あり、がとう……ありがとう……!!
315 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/11 20:59:10 ID:rbTx7fk8zI
2000m設定で、併走が始まった。
両者ともに良いスタート。

ホワイトテイルは若葉ステークスの時と同じく、序盤からペースを上げて飛ばしていく形に。
(思ったとおり、です!)
が、それはシュガーライドの思惑通りであった。
スズカとの併走で、大逃げに対する走り方を見出しているシュガーにとって、
もう同じような走りは怖くない。

淡々とペースを刻むホワイトテイルに対して、シュガーライドは4バ身ほど後ろでしっかりと脚をためる。

(いいわよシュガー。ハイペースで飛ばす相手にも、しっかりとマイペースでついて行っている。あとは終盤で追い越せば……)
シュガーのスタミナと、適応力の高さ。この2つにトレーナーはとても感心していた。
相手が逃げの手を打っても、自分自身が走れるペースで追走できれば、攻略しきれるかもしれない。レースの定石の一つであったが、トレーナーの中ではそれをシュガーに対して実感している。

1コーナー、2コーナー、向正面と行っても、レースは淀みなく進む。
1000mは58秒台と少し早めのペースであった。

シュガーが仕掛け始めたのは、3コーナーを過ぎた時。
「行きますッ!!だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スズカの時よりも仕掛けをやや遅くすることで、レース最終盤までしっかりと全力の脚を使い切れるように、トレーナーが考えた走りだ。
4コーナーを曲がりながら、小回りの効いた加速でホワイトテイルを追い抜き、先頭に立つ。
……はずだった。
316 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/12 05:02:45 ID:FUQraIS7lQ
追い抜いた直後だった。シュガーに変化があったのは。

(っ……!? なに……?脚、うごかないっ……)
ほんのコンマ1秒にも満たない、しかし何秒にも感じられるような感覚。
シュガーは実感したのだ。”脚が完全に止まって、動かなくなってしまう”のを。

その僅かな瞬間に、ホワイトテイルは二の脚でシュガーを差し返し、振り切る。

(あ……っ!)
「くぅぅぅぅぅっ!!」
シュガーは我に返り、ホワイトテイルを追いかける。
しかし、僅かなフリーズが命取りの超速レースの世界……その差は縮まらなかった。

……結果は、3バ身差でホワイトテイルの1着。

周りの観衆たちは「惜しかった」という感情を抱く者が多かった。
しかし、シュガー自身は納得していない様子。

「はぁっ……はぁっ……あのとき……なんで……!?」

ほんの一瞬だった。4コーナーでホワイトテイルを追い抜いた時、シュガーの脚は確実に”動かなくなっていた”。

トレーナーにそれを伝えると、彼女はまず顔を真っ青にした。

「しゅ、シュガー……脚の精密検査を、受けてみましょう……」
「えっ!?」

トレーナーが疑ったのは、脚の故障。
皐月賞前にそれが発生したとなると、まずは出走を断念せざるを得ない。
さらには、それがどこまで深刻な症状であるか……もしや選手生命にも関わるレベルかも知れないのだ。

「わ、わかりました!」

が、シュガーには内心の大部分は伝えていなかった。今から不安にさせてしまっては、まだ幼い子供心を傷つけすぎてしまうからだ。

そして大病院へ行き、シュガーは検査を受けることになる。
317 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 04:17:29 ID:oEOUlCNK4E
出た結論は……「異常なし」。

MRI検査などを行い、徹底的に身体の不調や異常をチェックしたのだが……シュガーはあまりにも健康体そのものであったのだ。
もちろん、脚部不安なんてものもなく、近頃は食事に対する血糖値スパイクも抑制できている。

検査の後でトレーナーから真意を聞かされたシュガーは「そんなに心配してくれたんですか!?大げさですよ~」
とその場では笑って流したのだが……。

(……じゃあ、あのときのアレはなんなんでしょう!?)
4コーナーでホワイトテイルを追い抜いた瞬間の、脚のフリーズ。
医者からも異常なしと言われてしまえばそこまでであり、あと数日に迫った皐月賞に不安を残す結果となってしまった。


次の日。栗東寮では、桜花賞を勝利したニシノフラワーのための祝賀会が開かれていた。

前目につけての好位抜け出しで、トリプルティアラの1冠目を掴んだフラワーの目前には、好みの料理がたくさん並べられている。

「わぁ……!こんなに、食べてもいいんですかっ!!」

夢のような空間に目をキラキラとさせるフラワー。

「はい。今日はあなたのためのお祝いです。"モード変更、楽しむ"に移行しましょう。フラワーさん」

ルームメイトのミホノブルボン含め、上の学年のウマ娘たちがサプライズで仕込んだものである。

(……いいなぁ。わたしも、皐月賞で勝ったら……)
今日は参加者の一人として……シュガーライドは、お祝いイスに座るフラワーに自分を重ねていた。

(でも……なんだろ……こんなに不安で……)

前日のホワイトテイルとの併走で、シュガーの心に影を落とすこととなってしまった謎の現象……解決策が見出せないままで皐月賞当日を迎えてしまうことに、
心の中で焦りも少し出ている。
318 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 04:18:09 ID:oEOUlCNK4E
そんな時だった。
「……シュガーライドさんも、食べて良いんですよ?」
「あ、ジャーニーちゃん!」

不安な表情を浮かべるシュガーに声をかけてきたのは、ドリームジャーニー。
シュガーが学園内で出会った先輩ウマ娘の一人であり、なんとオルフェーヴルの姉である。
歳の離れた先輩でありながらも"ちゃん"付けで呼ぶシュガーだが、ジャーニーの方は気に入っているとか。

「なんというか、しょくよくが……」
「それは……いけませんね。レース前に節制気味であるならまだしも、食欲が無いとなれば本番に響いてしまう。……何か、悩みでも?」
「そ、それは……」
何かを心中に抱えている事を察していたドリームジャーニーと、それを見抜かれたシュガーライドは、話してみることにした。

シュガーは語った。皐月賞への優先出走権を手に入れたホワイトテイルとの併走の話……そこで起きた不可解な現象の事を。


「……なるほど。ではシュガーさん。軽く食べたら、少し併走をしませんか?」
「えっ!?ジャーニーちゃんと!?」
ジャーニーからの突然の申し出。走れるのは嬉しいが、それで何か解決の策が見つかるのかと心配するシュガーだったが、
そこはウマ娘としての本能が前に出ることになり、それを承諾するのであった。
319 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/14 19:14:03 ID:oEOUlCNK4E
昼食を兼ねたパーティーを抜け、ドリームジャーニーと併走をすることになったシュガーライド。
二人はトレセン学園に行き、ジャージに着替え、グラウンドへとやってきた。

(ジャーニーちゃんと走れるんだ……オルフェーヴルさんもすっごく速かったけど、ジャーニーちゃんはどうなんだろう?)

シュガーから見て、ジャーニーの走りはひたすらに未知数だ。”暴君”オルフェーヴルの姉であること、自分と同じぐらい小柄なこと……その2つの要素が上手く混ざりきらず、予想も何も無い。

「……どうかしましたか?」
「あっ、ジャーニーちゃんと走るの、楽しみだなって!」
「そうですか。私もです、シュガーさん」

自身をじっと見つめるシュガーに、笑顔で返すジャーニー。
一瞬、シュガーは背筋がゾクッとした気がしたが……違和感はすぐに消えたので、気のせいだと思うことにするのだった。


(……姉上、催しを突然抜けられたかと思えば、こんな所に)

木陰から二人を見つめるウマ娘……オルフェーヴル。
ドリームジャーニーたちの不審な行動に目をつけ、真意を探るべく追ってきた。

「それにしても、久しいな……”あのような状態”の姉上を見るのは」
320 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/15 00:45:43 ID:MS2V7DzGv2
「______私も追い込み脚質なので、シュガーさんの好きなタイミングでスパートを掛けてください」

その申し出の通り、スタート直後からドリームジャーニーとシュガーの走るペースはほとんどピッタリであり、同じ歩幅で走っていると言っても過言ではなかった。

(シュガーライドさん……思った以上の成長を遂げているようだ)
(ジャーニーちゃんっ! あなたのおかげなんですけどね!!)

シュガーと並びながら、ジャーニーは心のなかで驚いていた。去年の夏のデビューからの、この少女の進化に。

シュガーもなんとなくジャーニーの考えていることを理解し、返事をするようにアイサインを送った。

そして展開が動いたのは、4コーナーに差し掛かってからである。

(じゃあっ、ここからっ!!)

シュガーは広めのストライドに超人的なピッチを加え、歩幅を強化しながらスパートを掛け始めた。
ドリームジャーニーを3、4バ身も突き放し、一気に先頭に立つ。

その瞬間であった。先日と同じく、足がすごく重たくなり、走っていないようにも感じてしまう。そして、するどい刃物か何かで刺されたような、冷たい衝撃。
同時に湧き上がってくる、恐怖。

(やだっ、なんで、なんで。……っ!?)

直後、シュガーのスローになった視界に映ったのは……獣のような目つきで自分を追い抜くドリームジャーニーの姿であった。
321 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/15 04:10:25 ID:MS2V7DzGv2
そして結果は、ドリームジャーニーの圧勝。
ホワイトテイルの時よりもバ身が開くことになってしまった。

「はぁっ……はぁっ……また、だ……」
息を荒げながら、あの感覚を思い出し続けるシュガー。
ハッキリと理解した。
自分は、怖かったのだと。


「……すみません、あの様な走り方をシュガーさん相手に」

立ち尽くすシュガーに、ジャーニーは頭を下げて謝罪した。
同時に、この併走の真意を伝えた。

「ホワイトテイルというウマ娘は……恐らく先程の私と同じ様に、自分の前を走ったシュガーさんに”ぶっ潰す”という強い感情をぶつけたのでしょう」
「ぶっつぶすっ!?」
「あくまで競争の中でですが、ある意味それを逸脱した物だとも言えます。私にもあるんですよ、とても強いライバルがいたら……喉元に食らいついてやるとか思うこと」

(わ、わぁ……)
いつもは平静で優しいドリームジャーニーにも、そんな一面があるのだと……心のなかで語彙力を失うシュガー。

「お話を聞いて、もしかしたらと思って……かなり近いと思う感情をむき出しにしてみたのですが、やはりという感じですね。あなたは……とても強い感情をぶつけられて、恐怖心が勝ってしまっている」

「きょ、恐怖心……わたしの心に……」

理解したつもりだった。だが、ジャーニーの説明でさらに腑に落ちた。
自分の脚は不調というより、ライバルからのプレッシャーによる強い恐怖心で止まってしまったのだと。
本番まで時間がない。シュガーは新たな課題の登場に、焦りを見せ始めるのだった。
322 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 04:48:46 ID:n8d0UQ0gn6
皐月賞、当日。

かなりの快晴に恵まれ、バ場状態もいい。

桜吹雪の中で、絶好のレース日和であった。


「ああああああっ!どうしましょおおおおおおおっ!!」

「落ち着きなさいシュガー」

ついに課題を解決できないまま本番を迎えてしまったシュガーライド。
トレーナーとも協力して色々考えたが……あまりにも時間が足りなかった。

(レースが動くのは終盤……恐らく、ホワイトテイルとシュガーの一騎打ちになる……問題はその瞬間よね……)

シュガーから事情をしっかり聞いたトレーナーも一人で出来ることを探したが、解決には至らずである。
後方にいる、バ身が近いウマ娘から強いプレッシャーを受けたとき、一瞬でも脚が止まってしまうという問題……実戦にそれを持ち込んでしまえば、GIで1着を目指すのはとても困難だ。

……しかし、いくら狼狽えていようとも、シュガーライドは走る気だ。

なぜなら、彼女は既に勝負服へと着替えているからである。

「……はぁ。こ、ここまで来たら……やるしかないんですよね。いいですよ、やってやります。そして、勝ってきますから!!」

トレーナーは正直なところ、行かせたくなかった。皐月賞が穫れなくても、ダービー・菊花賞がある。しかし、そんな話をしてしまえばシュガーはとても怒ってしまうだろうというのは目に見えていたので、

ターフに向かう小さな天才少女の後ろ姿を……見送るしかなかったのだ。
323 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 06:42:39 ID:n8d0UQ0gn6
ちょっとここで安価復活>>324(ホワイトテイルの勝負服)

容姿
・雪のような白毛
・イケメン寄りのお顔
・尻尾はもふっとしている
324 : 使い魔   2024/10/17 07:00:00 ID:YFFPHpKrmE
自分同様、真っ白な燕尾服。
325 : モルモット君   2024/10/17 07:22:33 ID:n8d0UQ0gn6
>>324
デュランダルさん!?
326 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 07:56:53 ID:n8d0UQ0gn6
いやこれデュランダルじゃない……アルダン??
327 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 08:17:28 ID:n8d0UQ0gn6
地下バ道を進むシュガーライドの視界に、一人のウマ娘が映る。

(あれ、は……あっ!)

彼女にとっては、見覚えがありすぎる相手であった。
それと同時に、今回立ちはだかる強大な壁。

「……あなた、この間の」

足音と気配に気づいたのか、ホワイトテイルが振り向く。

彼女の勝負服は、燕尾服を思わせるデザインのものだ。
細身ではあるがそのスタイルの良さが際立つ、おそらくパドックでもビジュアルだけで注目を集めるであろうそれに、

(かっこいい……)
思わず見惚れてしまうシュガーであった。
「何か用でも?」
「あっ!すみません、勝負服がかっこよくてついつい……」
「……なんだ、それだけか」

ホワイトテイルは踵を返してターフへと向かう。
そんな彼女をシュガーは大声で呼び止める。

「あのっ!!」
「……だから何なの?」
「こっ、この前はギリギリで負けちゃいました!でもっ、今日は負けません!皐月賞、わたしが勝ちますからっ!!」

シュガーが言い放った宣戦布告は、ホワイトテイルだけに向けられているものではない。
自分自身への言葉でもあった。絶対に勝つ。恐怖にも、勝負にも。
そんな思いを込めながら、シュガーは叫んだ。

「……同じ」
「えっ?」
「私も、同じ。一番人気である、あなたにだけじゃない。全員に勝つ」

それに答えるように、ホワイトテイルも宣戦布告。あっけにとられるシュガーに背を向け、今度こそターフへと歩いていくのだった。

(全員、かぁ……)

そう、ライバルとなるウマ娘はホワイトテイルだけではない。
全員を追い抜かなければ、一着はありえない。
シュガーは両頬を叩くと、気合を入れる。

そして自分も、ターフへと向かうのだった。
328 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 19:14:51 ID:n8d0UQ0gn6
『快晴に恵まれた中山レース場。クラシック3冠の第1戦・皐月賞がまもなく発走となります』

桜花賞から続く、クラシックGIの2戦目……会場には大勢の観客たちがいて、既に大歓声だ。

パドックで、ポージングによる自己アピールをする出走ウマ娘たち。その中に、シュガーライドの姿もあった。

(わ、わたし、ついにこのレースまで来ちゃったんですね……!)

まだ着慣れていない勝負服に身を包み、クラシック3冠の舞台に立っていることを驚く少女は、圧倒的一番人気である。
ホープフルステークスでの勝利もあるが、まだ小学生というハンデすら感じさせない圧倒的な走りが、ファンの心を掴んでいるようだ。

(不安なことはまだあるけど、後はもう走るだけ。ですっ!)

走ってみないことには何もわからない。上手くいくかもしれない。
だから自分は自分の走りをするだけ。
強い意志に飲まれるなというメジロブライトからのメッセージも思い出し、
シュガーライドは前を向く。

シュガーの枠>>329
ホワイトテイルの枠>>330
レース展開(中盤まで)>>331
329 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 20:27:58 ID:n8d0UQ0gn6
あー待ってこれは自力がいいかぁ……
330 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/17 20:50:45 ID:n8d0UQ0gn6

シュガーの枠は18枠中の最内1番ゲートであった。
ロスなく走れるポイントではあるものの、追い込みのウマ娘にとってはバ群からの抜け出しが必須になってくる場所でもある。
対して、ライバル・ホワイトテイルの枠は大外。
逃げを打つのならば、臨機応変な展開が求められる。外目はスタミナを多く消費するというのは、レース界での常識である。

(……)
ゲートの中で、出走を待つシュガー。
太陽の日差しに温められた中山の芝はとてもふかふかしていて、
踏んでいるだけでも気持ちがいいようだ。

『さあ、最後に大外枠・2番人気のホワイトテイルがゲートイン。これで18人がゲート入りして、体勢完了です』

「よしっ……!」

実況が聞こえて、シュガーは気持ちを切り替える。

『最初の1冠目を掴むのはどのウマ娘か?皐月賞……今、スタートしました!』


ちょうど埋まるから>>331だけ安価
331 : アンタ   2024/10/17 21:07:13 ID:YFFPHpKrmE
皐月賞は芝2000m。後方に居ると不利なのでシュガーは集団の中程に位置を取る。先頭から数えると5番手。ホワイトテイルは7番手だ。
スタート地点から約275mは下り坂が続き、体力の消耗は少なめ。第1コーナー、そして第2コーナーを無事通過。
向正面でシュガーは1人抜いて4番手に位置を上げた。ホワイトテイルも6番手。
第3コーナーを周り、そして最終コーナーを周ると「中山の坂」が待ち構える。約2.4mの高低差をたった300mで駆け上がるのだ。
332 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/18 03:59:18 ID:gLUKOWhDoM
『4番・5番が逃げてペースを作ります。1番人気シュガーライド・2番人気ホワイトテイルは
共に中団。後半の末脚に期待がかかります』

スタートしてすぐ、会場のざわつきが大きくなった。
各ウマ娘が揃っての駆け出しだったのだが、逃げると思われていたホワイトテイルは先頭から7番手ほどに構えたのだ。
(えっ!?逃げないんですか!?)
驚くシュガーも5番手の位置を走っている。今回は中団で脚を溜め、最後の短い直線で爆発させるという計画があるのだ。
だからこそ、ホワイトテイルのポジション取りは都合がいいと思った。
一番警戒したいライバルがもしも埋もれるようなことがあれば、あとは独走するだけなのだ。

『バ群はやや縦長の展開。各ウマ娘、下り坂を超えていきます』
先頭を逃げる二人のウマ娘のペースは速いようで、それに釣られてか全体の空間がやや広くなっている。
その後、滞りなく1コーナーと2コーナーを回り、向正面へ。
(少し、位置を上げないとっ!)
ポジションをキープしていたシュガーだったが、後半の仕掛けどころを確保するために、前を走っている一人を空いた隙間から抜いた。それと同時に最内レーンからも外れている。

……が、シュガーが気づいていないのは、ホワイトテイルも同様にポジションを上げてきている事である。

『さあ、3コーナー・スパイラルカーブに掛かります。ここからが仕掛けどころ!』
333 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/18 03:59:29 ID:gLUKOWhDoM
レース終盤。小回りの強い3・4コーナーに入った。
外目を回るウマ娘や大回りな走りのウマ娘は、ここで脱落するかロスを大きく受けやすい。
(ここからッ!)
『シュガーライド仕掛けたっ!ややインを突く形で前に出て、先頭を捉える勢い!』
前が膨らんだり、逃げのウマ娘たちのペースが下がってきたのを見て、ここで仕掛けることを選択したシュガー。
闘志に火をつけ、脚の回転数を大幅に上げながら、前をどんどん追い抜いていく。
『シュガーライド先頭!シュガーライド先頭ッ!』

(いけますっ!3冠の最初の一つ!わたしがッ!!)
眼の前には誰もいない。あとは最後の坂を登るのみ。
……のはずだった。

(あ。)

感じる、硬直。
まさか?何で?と不思議に思うシュガー。
もう少し、なのに。もう少しで、勝てるのに。

スローになっている視界に入ったのは、後続をぐんぐん抜いて上がってきたホワイトテイルの姿だった。
334 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 04:35:39 ID:N5jlIM3Er6
______動いて、動いて、動いて。
何度そう願っても、先頭からある程度引き離されるまで、
また脚が動き出すことはなく。


『ホワイトテイル1着ーッ!前走とは打って変わった圧倒的な末脚で、皐月賞を制しました!!』

実況とともに、勝者へと送られる歓声。

今年の皐月賞を勝ったのは、2番人気のホワイトテイル。
リステッド勝ちからの大舞台での勝利ということで、SNS等では既に大盛りあがりを見せている。

(まけ、た……)
シュガーライドは最終直線で追い抜かれ、巻き返せなかったものの後続を引き離しての2着。それにより2冠目・日本ダービーへの出走権も獲得したのだが……、

(わたし、かてなかった……1冠目……とれなかった……)

ここでの敗北は3冠ウマ娘への道が閉ざされたことを意味している。
しかも、無敗でもなくなってしまった。
シュガーの心に渦巻くのは、くやしさ。
ただひたすらに、色々な目標が閉ざされた事へのくやしさ。

またやってしまったと思った。ドリームジャーニーから言われた「恐怖心」を克服できずに、
脚が止まってしまった。本番でそれを発生させてはいけなかったのに、やってしまった。
335 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 04:36:04 ID:N5jlIM3Er6
(……)
ターフの上で立ち尽くすシュガー。
そこに……。

「本気じゃなかったね」
「あっ……!」

ホワイトテイルが話しかけてきた。少しばかり苛立ちを見せているようにも感じて、シュガーは驚いてしまった。

「今回、私は勝った。でも、つまらない」
「どう……してですか?」
「最後、あなたを追い抜いても、何も感じなかった。前に走った時と同じで」
「それ、は……」

シュガーはなんとなく察した。ホワイトテイルは、実力を最大限発揮した相手と戦いたいのだ。しかし、2度の対決でも、シュガーは恐怖心によって力を出しきれずに敗北している。

「……ダービー。ここでは見せてくれるかな?あなたの本気」

ホワイトテイルはそう言い残して、記念撮影や勝者インタビューへと臨んでいった。

(わたし……どうすれば……)

シュガーは色々な不安を抱えつつも、その後のウイニングライブ「winning_the_soul」を2番手でしっかり歌って踊り、最後まで気丈に振る舞っていた。

帰りの電車の中ではトレーナーに抱かれながら、降りる駅までずっとすすり泣いていたのだが……それはまた別のお話。
336 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 07:05:07 ID:N5jlIM3Er6
皐月賞が終わって数日。休みも終わったシュガーライドは、トレーニングに復帰していた。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!」
練習コースの最終直線。普段の自分のスタイルを意識して、末脚で駆ける。
「いい上がりタイムよ!シュガー!これなら次の日本ダービーでも……」
計測をしていたトレーナーからも高評価で、皐月賞からの悪影響は感じられない。

次はダービー。今度こそ、負けられない。負けたくない。本気で走って、勝ちたい。
そう思ってはいるのだが……。

(わたし……やれるのかな?)
2本目を走りながら、シュガーは悩んでいた。
ここでいい走りをしていても、本番で最高のパフォーマンスを発揮できるのかと。
何より、恐怖心を克服できていないのだ。後方から強い闘志を向けられた際の、脚のフリーズを。

ダービーでもそうなってしまえば、勝ちはないとわかっている。
ホワイトテイル以外からもそれを向けられてしまうかもしれない……誰が相手でも、
この状態は克服しなければならない大問題なのだ。

______トレーニングが終わり、更衣室で制服に着替えたシュガーは、噴水前のベンチに座っていた。

「はぁ……」
大きなため息を吐き、うなだれるシュガー。
今の彼女の心の中には、おそらく人生最大の不安が詰まっている。
そこに、一人のウマ娘が現れた。

>>337
337 : トレーナー君   2024/10/19 11:05:15 ID:N5jlIM3Er6
安価下 次で来なきゃ自力で

(公式化ウマ娘で)
338 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:37:28 ID:N5jlIM3Er6
書けたので停止で
339 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:52:15 ID:N5jlIM3Er6
「シュガーライドさんも来てたんですね!」
「あ、フラワーちゃん……」

自身も練習終わりなのか、少し火照った様子でベンチに腰を下ろすニシノフラワー。
今のシュガーとは対象的に、明るい表情を浮かべている。

「フラワーちゃんは……いいですよね」
「えっ?何がです??」
「この前、桜花賞で勝てて……次のオークスで勝ったら2冠目……だけど、わたしはもう……」

不安げに話すシュガーを見て、フラワーはグッと彼女の手を握った。

「えっと、そのっ! わたしもっ、ほんとは不安でいっぱいで……しかも1回負けちゃってますし、シュガーさんの気持ち、わかりますっ!!」
(あ……)
熱心に喋るフラワーに、シュガーは思わずハッとしてしまう。
ニシノフラワーも、桜花賞の前哨戦を勝てずじまいに終わっていたじゃないかと。
だけどこの少女は、一生懸命に前を向いている。
そして桜花賞を制覇した。

「だけどっ!負けちゃってもっ!無敗じゃなくなってもっ!1度かけた”魔法”は消えないんですっ!!」
「……まほう?」
「あっ、すみません!スイープさんからの受け売り、です」

そういえばと思うシュガー。
スイープトウショウといえば、いつも熱心に魔法の研究をしている。
彼女が、よく言っていることがある。
340 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:52:37 ID:N5jlIM3Er6
「レースの、魔法……」

ふと思い出す。トレセンに来てからのことを。
色々な人と出会って、様々な形で応援をしてもらっている。
シュガーは気づく。自分の持つ影響力というものを。

それはまるで魔法のように、シュガーから誰かへ、誰かからシュガーへ移っていく。

その魔法は、簡単には消えない。
自分がやってきたことは、負けたくらいじゃ無駄にはならない……!

(応援してくれてるみんなが、いまの”わたし”を作ってる……そうなんですね。
ああ、なんだろう……そう思うだけで、安心してきます)
自分の中の、記憶や経験、想いを改めて感じ取ったシュガー。
そうしているうちに、不安や恐怖心はどんどん薄れていっているのがわかった。

「……ありがとう、フラワーちゃん。わたし、次の日本ダービーは勝ちます!」
「じゃあこっちも、オークスを勝ちますっ!」

前を向いたシュガーはフラワーに向けて誓い、
改めて日本ダービー制覇を目指すのだった。


そして数週間後、5月の半ば。

オークスは、予想外の結末を迎える。

『なんと1番人気ニシノフラワー!7着ッ!着外という結果になってしまいました!!』

最終コーナーまではスムーズに回れたものの、そこから伸びきれずの7着。
テレビで中継を見ていたシュガーにも、衝撃的な出来事となった。

(フラワーちゃん……でも、わたしは絶対、ダービーを勝ちますから……!!)

あの日の誓いを、自分も破ってしまうことだけは避けたい。
きっと、どちらも変な空気が流れてしまうかもしれない。
友人関係的な話でも、シュガーにダービーを勝つ理由が増えてしまった。
341 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 13:53:10 ID:N5jlIM3Er6
その後シュガーは、今度は自分からドリームジャーニーに声をかけに行く。
「おや、また併走ですか?……あの日よりも、なんだかいい目をしていますね」
「はいっ!今度は負けませんっ!」

1ヶ月前のリベンジで、もう一度併走を行うことになったシュガーとジャーニー。

シュガーは、ただ気持ちを切り替えただけではない。
それをここで試したいのだ。自分の成長を。

「よし、それじゃあ……スタートッ!」

グラウンドに移動し、トレーナーの合図で駆け出す両者。
どちらとも絶好のスタートを切り、そこでのロスは見られない。

(なるほど、短期間で状態がとても良くなっている。しかし、最終直線でどうなるか……)
ドリームジャーニーは走りながら、シュガーの心の問題を気にしていた。
ここを解決しなければ始まらない。次のダービーにも100%では臨めない。
そして問題の3・4コーナー。
「行きますっ!だぁぁぁぁぁっ!!」
シュガーが前に出てスパートを掛けに行く。
その瞬間、感じる。
(……っ!!)
とてつもないプレッシャー。今にも脚を止めたくなるほどの、強いプレッシャー。
しかし、今は違う。

「これは……!!」
ドリームジャーニーがシュガーに並ぶ。そして追い抜こうとする。だが、抜けないのだ。

(なるほど、これがオルに迫ったというっ!!)

妹・オルフェーヴルから聞いていた……突き放したものの、ギリギリまで迫られたという話。
前回見られなかったその末脚を、彼女は今この目で見ている。

そしてシュガーはそのまま、2バ身ほどの差をつけてゴールするのだった。

併走の後、木陰で水分を摂る二人。
とてつもない進化を遂げていたシュガーに、ジャーニーが尋ねる。

「……何があなたを変えたんです?」
「なんでしょうね?むずかしいですけど……」



______数日後。ついに日本ダービー当日を迎えた。
342 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 16:35:47 ID:N5jlIM3Er6
『オークスの熱気冷めない中、東京レース場ではついに日本ダービーが開催されます』

クラシック級ウマ娘の出るクラシックGIの中でも、日本ダービーは特に格式の高いレースと言われている。この路線に進んだウマ娘たちは、3冠の中でも特にダービーだけは絶対に勝ちたいという娘が多い。

そんな人気の高さは観客たちにも現れており、東京レース場の指定席も自由席も開始30分前の今の時点ですでに超満員となっている。

「シュガー。ダービーよ」
「はい、トレーナーさん!ダービーですね!」

控室で勝負服に着替えたシュガーは、備え付けのソファに座ってトレーナーと会話をしていた。
クラシック2冠目……今度こそ勝ちたいという想いは、ヒトもウマ娘も同じ。
ここ最近のシュガーの変化に最初は驚きを隠せないトレーナーであったが、走りにも現れているのを感じ取って納得したようだ。

「日本ダービー……ぜったい勝ってきます!」
「ええ、記念撮影もしましょう。絶対」
「はいっ!!それに、ライブのセンターで歌ってるのも、しっかりろくがしてくださいねっ!」

勝った暁の様々な約束事を交わし、シュガーライドは控室を後にする。
343 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/19 16:36:16 ID:N5jlIM3Er6

「ふぅ……」
少し呼吸をするだけで、その音すら反響する地下バ道。この空気感をシュガーは意外と気にっているのだ。

「……来たね」
少し歩くと、待ち構えていたかのようにホワイトテイルの姿があった。

「私は、ここも勝つ。そして3冠目も」
「いいえ、ダービーも菊花賞も、わたしが勝っちゃいますから!」
「……すごい自信」

物静かで、やや寡黙な一面のあるホワイトテイルも、シュガーの熱意には表情を変えて驚く。
そんな彼女に、シュガーは少し話をしてみることに。

「気になってたんですけど、どうしてそんなに強いんですか!つまり原動力ってなんですか!?」
「……走るの、好きだから。それで1番になって、もっと上の頂点に立ちたい」
「へぇー!わたしと似てます!わたしも、走るの大好きですからっ!」

普段は無口なホワイトテイルも、話してみれば自分と似たような熱意を持っている。
ギリギリまで抱いていたクールなイメージが少し和らぎ、心の中で彼女を想う感情に変化があることを感じ取ったシュガー。

(……今日は、今まででいちばん頑張れそうですっ!)

さらなる自信をつけて、ターフへと向かっていくのだった。
344 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 03:43:57 ID:I0FsyMs1uI
『まもなく発走を迎えます、日本ダービー。前走の覇者であり1番人気のホワイトテイルは4番ゲートです。今回はどのような走りを見せてくれるのか』

5月の暖かさが感じられる晴れ模様となった東京レース場のターフに、18人のウマ娘が集う。
ホワイトテイルは内寄りの4番ゲート。
シュガーライドは10番ゲートだ。
バ場状態も良く、芝の荒れはどのレーンでも少ないようである。

観客たちが今回期待しているのは、ホワイトテイルの作戦だ。逃げても追い込んでも圧倒的な走りを見せる彼女の変幻自在な脚質に、注目が高まっているのだ。
対するシュガーはこれまでの戦績もあって2番人気。やはり前走での敗北が響いた形だ。

「すーっ……はぁー……」

ゲートの中で、ゆっくりと深呼吸をするシュガー。
時折、地面を踏みしめて感触を確かめたりもしている。

(日本ダービー……ウマ娘たちの、おっきな目標……)

まだ普通の小学生だったあの頃も、毎年の日本ダービー開催時はテレビに食いつくように見ていたのを思い出す。シュガーにとっても、ダービーというのは何か大きな輝きを感じるGIレースなのだ。

『最後に、大外枠18番のウマ娘がゲートインして……各ウマ娘、体勢完了です。
さあ……これから始まるのは、優駿たちの夢の祭典ッ!日本ダービー……今、スタートしました!』

〈日本ダービー 東京2400m 芝 晴・良 18人 左〉
345 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 06:05:19 ID:I0FsyMs1uI
『各ウマ娘、揃っての綺麗なスタート。果たして誰が行くのか……』

シュガーライドも出遅れることなく、スタートダッシュを決めた。
夢に向かって駆ける18人のウマ娘たちが、それぞれの走りでレースを作っていく。

『まず前に出たのは最内1番のウマ娘!……おおっと!これは意外ッ!1番、大逃げに打って出たッ!!』

最内枠を走るウマ娘が、最初から前を突き放し続ける「大逃げ」を選んだ。
2400mという距離にもなれば、そのハイペースさから終盤に失速してしまうこともあるが、ハマればそのまま逃げ切ってゴールしてしまう、博打のような脚質作戦だ。

後続のウマ娘たちはそれに付いていかない選択をした。同じだけのペースで走れば、自分も失速してしまうリスクを伴う。突き放される覚悟と追いついて追い抜く覚悟の両方を兼ね備えなければならない。

(前、どうなってるんでしょう……)
シュガーは最後方に控える形を取った。
いつもの通りの終盤の末脚を発揮するのに、このポジションは十分すぎる。
前の状況が全く把握できなくなるというデメリットはあるが、最後は全員を追い抜くのだから関係ない話なのだ。

(また、中団からか)
1番人気ホワイトテイルは、大逃げを警戒して団子になっている中団の、13人中7番手ほどにいた。本人としてはどこでも走れるのだが、個人的には逃げを好んでおり、皐月賞と同じく先頭にいけないことに憤っているようだ。


『各ウマ娘、スタンド前を通過し1コーナーに掛かります。しかし先頭1番は、すでに2コーナーを過ぎる大逃げを続けているッ!』

大逃げを続ける1番のウマ娘は、まだペースが落ちないようだ。
そして後方のウマ娘たちが同じく2コーナーを通過する頃、1000m通過タイムが発表された。
『最初の1000mは57.6!これはとてつもないハイペース!先頭は粘り切れるのか!後続は間に合うのかーッ!?』
346 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 06:54:53 ID:I0FsyMs1uI
そして、坂を下って3コーナーに入った所で、展開が動き出す。

『ここで後続のウマ娘たちが前に行き始めるッ!先頭1番は厳しいか!?』
流石のハイペースも、ここまでといったところだろうか。
徐々に遅くなりだし、それに合わせて後続が一気に差をつけようと前に出る。

(ここからっ……!)
最後方にいたシュガーライドも、団子状態が解消され始めていることに気づき、急加速を始めた。
4コーナーを回れば最終直線の前に急坂が待ち構えており、この地点で一瞬だけペースが落ちる。
そこを、天才少女は見逃さなかった。

「だあぁぁぁぁぁぁっ!!」

『ここで大外からっ!最後方からぐんぐん伸びてくるのはシュガーライドッ!皐月の雪辱を果たせるか!!』
小柄な身体と圧倒的な瞬発力で、外からバ群を追い抜いていき、トップに躍り出る。

(……させない!)
ペースが早くなりだして5番手ほどにいたホワイトテイルも加速を始める。
残り525mの最終直線。前回、シュガーライドを追い抜くに至った末脚で、ここでもまた勝利を攫わんと駆ける。

(来ましたねっ!でもっ、もうっ、止まりませんッ!!)
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ホワイトテイルが自分の後ろにいることに気づくシュガー。しかし、少女の脚は止まらない。
何が彼女をそうさせているのか。恐怖心はどこへ行ったのか。
(わたしはっ!思ってるよりっ!とっても強いんですっ!!)

今のシュガーの心を支えているのは、ある種の自己暗示であった。
学園に来てから、たくさんの想いが自分を成長させて……今の自分は、強くなったと。
恐怖心なんて跳ね除けられるくらい、強くなったんだと。

だからもう、少女は止まらない。

『シュガーライド先頭ッ!ホワイトテイルも追いすがる!しかし差が縮まらないッ!
4バ身ッ!シュガーライド、先頭でゴールッ!!!!』
347 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 07:27:24 ID:I0FsyMs1uI

______何があなたを変えたんです?
______なんでしょうね?むずかしいですけど……。



「はぁっ……はぁっ……!!」

激走の末、シュガーライドは1着になった。
GIを、それも日本ダービーを制覇したのだ。

大の字になってターフの上に寝転ぶ形となり、大きく息を吸って吐くを繰り返す。

「か、かてっ、ましたっ!!」

歓声に包まれながら、宙に向かってガッツポーズのように手を伸ばし、喜ぶ。
ダービーを制覇できた。そして、弱点を克服できた。
最高の気分であった。やりきったと感じた。

「……そんなに強かったんだ」
「あ、ホワイトテイルさん……」

見下ろし、話しかけてくるホワイトテイル。
笑みの中に、僅かだが驚きも混ざっている。

「……やっと、本気で勝負できたね」
「はいっ!やっと、本気のわたしを出せましたっ!」

皐月賞の後に言われたこと……

本気で走っておらず、そんな自分を追い抜いても嬉しくなかったと。
何も感じなかったとまで言われた。

しかし今回は違った。
どちらも、最後の瞬間まで燃える走りができたのだ。

「……あと1冠。菊花賞は、私が貰う」
「いえ!菊花賞も勝って、わたしが2冠ウマ娘ですっ!」

だが、まだ終わりではない。クラシック3冠の最後の1つ、菊花賞が残っている。
10月に行われる、京都レース場での3000mという長い距離で行われるGI競争だ。

「ふぅっ……よし!」
呼吸を整えたシュガーはゆっくり立ち上がると、客席に向かって深々と一礼。
こうして天才少女は日本ダービーを制し、心身ともにさらなる成長を遂げるのであった。
348 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 19:19:18 ID:I0FsyMs1uI
激走の日本ダービーから数日。
トレセン学園は梅雨に入り、夏の気配を感じ始めていた。

「______それで、相談ってなによ?フラワー」
「はい、スイープさん。実はですね……」

雨降る渡り廊下で、
まるで密談のように会話をするニシノフラワーとスイープトウショウ。
フラワーがスイープに相談したのは、自身の今後の路線についてであった。

「トリプルティアラを諦めて……短距離路線に挑戦したい?」

フラワーはマイル中距離路線を諦め、短距離・マイル路線を戦っていきたいという。
一番は距離適性の問題があり、トレーナーの見立てでは2000mの距離も体力が持たないとのこと。

「わたしは、自分の走りが誰かにとっての魔法になるんだって気づきました。
でも、今のままじゃそれをしっかり届けることができないんです。だから……」

満足に走れないようでは、自分の想いを周りに届けられない。
そのためには、短距離路線が一番合っている……ということだ。

それに対してスイープは数秒黙り込んだ後、返事をする。

「いいんじゃない?グランマにも言われたの、人生は1度しかないから、思ったことをやりなさいって。まぁ、アタシはトリプルティアラを目指そうと思ってるから、中距離で当たれなくなるのは残念ね」

最も尊敬する祖母の言葉を引用し、フラワーに肯定の言葉を返すスイープ。
フラワーは意外そうな顔をした。少しでも否定されるものかと思っていたからだ。
そもそもなぜスイープに話を持ちかけたのか。
349 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/20 19:19:26 ID:I0FsyMs1uI
今のフラワーにとって、スイープがある種の特別な存在であったのだ。
デビューはまだ先だが、自分じゃたどり着けない考えや言葉をいくつも持っていて、
憧れの的のような存在なのだ。

「じゃあとりあえず心機一転で……アタシのことをタメ口で呼ぶこと!」
「えっ!それじゃあ……スイちゃんとか?」
「良いわねスイちゃん!それでいきましょ!!」

スイープのことをあだ名で呼ぶようになったフラワーは、
自分の中で小さな何かが成長したのを感じた。
そして先程よりも確かに、短距離路線への意識を強く持つのだった。
350 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 02:54:06 ID:poree9YDWI
シュガーの方はというと、ダービーの後はトレーニングを行いつつの休養期間に入ることにしていた。
サマーシリーズなどの重賞には参加せず、菊花賞に向けてのカラダつくりを徹底するのだ。
宝塚記念の投票では1桁順位に推されたりもしたが、これは当然回避。
過去にはクラシック級でありながら人気投票1位となって出走し、シニア級ウマ娘との同着で制覇したウマ娘もいるが、秋のクラシックGIへの参加が危ぶまれる程の怪我を負ったというケースがある。
そういった点も踏まえて、無理はさせないというトレーナーの方針だ。

「雨ですねぇ……」

屋内トレーニング場の窓から、土砂降りの外を見つめるシュガー。
本人としては外で思い切り走りたいところではあるが、この天気では難しいものがある。

(おへやでも出来るトレーニングかぁ……ここにはトレーニング道具がいっぱいありますけど、
今日はどれを使いましょうか?)

200kg程度のバーベルや時速60km出るランニングマシンなど、常人ではないウマ娘向けの器具は一通り揃っているのだ。

(トレーナーさんの話では、菊花賞に向けてのトレーニングは、これまたいつも通りでいいってことで……)

日々のトレーニング成果から、3000mもの長距離に対する適性の良さは既に把握されている。加えて、シュガーには並のウマ娘より強い心肺機能もあり、距離延長にも対応しきれるというのがトレーナーの考えである。

(この前なんてプールに入ったら、40分くらいもぐっちゃって……みんなビックリしてましたね……)

シュガーが出したこの記録は、競技大会であるUAFでの上位入賞の目安25分を大幅に超えており、トレーナーやその他関係者をハラハラさせたのだが、シュガーは特に気にしない話である。
351 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 15:50:55 ID:poree9YDWI
そして宝塚記念も終わった7月の初め。
季節はついに夏を迎える。

「うっみっでっすぅーっ!!」

太陽照りつける白い砂浜に、シュガーライドの甲高い声が響き渡った。

トレセン学園の夏の恒例行事、合宿トレーニングの始まりである。

そうは言っても、今日はまだ初日なので……

「使い魔!ボンベを持ちなさい!失われた海底都市を探しに行くわよ!」
「本気かスイープ!?」

海に潜りに行く者、

「おやおや?砂のお城ですかぁ。セイちゃんじっくり作るのは得意なのだ~」
「手伝ってくれるんですか!?スカイさんっ、ありがとうございます!!」

砂で遊ぶ者、

「泳ぎでも先頭は譲らない……!!」

遊泳を楽しむ者など、みなが思い思いに海を満喫していた。
ところで、先ほど高らかに声を上げていたシュガーはというと……。


「水着わすれましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

学園指定のスク水ではなく、今日遊ぶために選んでいたマイ水着……それを寮に置いてきてしまっていたのだ。
シュガーは酷くショックを受けていた。スク水では何故だか遊ぶ気が全く起きない。

「……ダービーのウイニングライブのビデオでも、見る?」
「はぁい……そうします……」

見かねたトレーナーの助言で、自身が勝った日本ダービーの、ウイニングライブの動画を鑑賞することにした。ビーチパラソルの下で日光による液晶への映り込みを避けながら、スマホを使っての鑑賞会だ。

______皐月賞での悔しさを晴らし、日本ダービーの舞台でもセンターで歌うことができたシュガー。
自分が一着なんだよとアピールするかのように、カメラへの目配りも欠かさず、まるで本職のアイドルのようだと当時のSNSでは密かな話題となっていた。
352 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 17:50:27 ID:poree9YDWI
______動画を楽しむシュガーとトレーナーを、物陰から見つめるウマ娘が一人。

「まだ小学生だよね?それであの歌とダンス、目配り……あの娘もウマドルの才能が……」

ダートの鬼だったりウマドルだったりと色々な呼ばれ方を持つ美少女ウマ娘・スマートファルコンだ。
そもそもウマドルというのはウマ娘のアイドルのことであり、ウイニングライブ以外でもステージ活動を行っている娘も少なくはない。
中でもスマートファルコンは絶対的な自信と努力心を持っていて、ライバルが出れば闘志を燃やすのだ。

そして今、スマートファルコンはシュガーライドに目をつけた。
レースの面で「小さな天才少女」と呼ばれ、ホープフルステークスと日本ダービーを勝っている。
皐月賞以外負けておらず、そこにおいても2着とウイニングライブの歌唱には参加。
ウマドル方面においても、近頃は人気が高まっているようだ。

「い、今の間に挑戦状叩きつけといたほうが良いのかな……」
目をつけたにしてはこのウマドル、弱気である。
確かにライバル宣言は早いほうが良いのだが。

「……よしっ!…………たのもぉーっ!!」

「うわぁ!道場やぶり!?ていうか道場なんですか!?」

意を決したスマートファルコンは、シュガーライドに話しかけてみるのだった。
353 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 18:27:12 ID:poree9YDWI
「……ということで、ファル子!あなたにライバル宣言します!」
「ら、ライバルですか……?」
自信満々のスマートファルコンと、これまたクセの強い先輩に絡まれてしまったと想うシュガーライド。
そもそもレースの世界でしっかり生きていくつもりでいたし、まだ心は小学生。
ウマドルとは何?な状態のシュガーは、頭上にハテナを浮かべている。


「じゃあ、難しい話は抜きにして……今から言う勝負で決着をつけちゃおう☆」
「うわあ!すごい速さのけっちゃく!!」

(何を見せられているのかしら、私は)

二人のやり取りを見ながら、置いてきぼりのトレーナー。
同じく頭上にハテナを浮かべ、困惑の表情を浮かべる。

そして、スマートファルコンが出したウマドル勝負の条件とは……

>>353
354 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 18:27:52 ID:poree9YDWI
被った>>355
355 : トレぴっぴ   2024/10/21 21:34:38 ID:w8MDlnmwus
しりとり
356 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/21 22:30:12 ID:poree9YDWI
『さあ、こちら某市のウマ娘用アスレチックゾーンで始まりますのは、No1ウマドルステークスっ!レースをしながらお題を解決し、なおかつ観客にも素晴らしいアピールを決めるのは、果たしてどのウマ娘か!?』

海の家から少し離れたエリアで始まるこの競技は、なんと毎年行われているものだという。
つまりは競技を通じて自身の可愛さなどをアピールし、ウマドル力を競うのだ。
障害物の多いアスレチックゾーンということで、走りの難易度も高めである。

(えっと……ナニコレ?)

観客席で無表情になっているのは、シュガーのトレーナー。
スマートファルコンから話を持ちかけられ、連れてこられたのだ。
シュガーの方はノリノリで準備をしている。

(夏休み……夏休みは?)

合宿初日。謎の行事に巻き込まれてしまい、困惑が止まらない。
シュガーの方はやはりノリノリで準備をしている。

「わたしたちの他に、16人も……ふつうにレースっぽいですね!」
「でしょでしょ?だから燃えるんだ☆」

シュガーライド・スマートファルコン以外にも、粒ぞろいな16人のウマ娘が選手として参加している。
人数で考えれば日本のURAレースと大差ない。

皆、それぞれの思いでこの競技に臨んでいるようだ。

『それでは!今回のお題を発表します!……しりとりですっ!しりと「り」から始まり、レース中に誰よりも速く次の文字へたどり着きながら、1着を目指しましょう!ドローンカメラがしっかり徘徊しておりますので、アピールも忘れずに!』

しりとり……単純な遊びだが、そこにウマ娘のレースという要素が入ると、それは途端にハイレベルなものとなる。
(こ、これは……トレーニングの一環になるのかしら?)
トレーナーはようやく、ここに来た意義を理解し始めたようであった。
357 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 08:46:54 ID:ta9OWnYVWY
(シュガー……まあ、大丈夫よね?)

未知過ぎるレースを走るシュガーを心配しながら、トレーナーは観客席で、
手元の用紙を確認する。
事前に渡されたこのパンフレットによれば、このレースは1600mの距離で開催されるという。
そして4つのコースを駆け抜け、1着を目指すのだ。

まず、スタートから200m地点までは……2mもの長さの草をかき分けながら進む。
今回はしりとりルールなので、おそらくお題の言葉を道中で見つけなければならない。

次に、400m地点までは……なんと砂のお城を破壊しながら進むという。
その中にお題が隠れているのだろうが、カメラにその姿が写ったとき、少女たちは綺麗な顔でいれるのかと不安に想うトレーナー。

そこから1000m地点までは、登ったり降りたりと立体的な迷路を進むアスレチックコースだ。どうやら、この競技のメインイベントらしい。ここでもまた、しりとりお題を突破すると……。

最後の3ハロン……つまり600mは、全速力で駆けるラストスパート。
“レース”の部分である。3つ目まででお題は終了のようで、ウマ娘の本能に従って走り続けるのみ。


「……あ、そろそろ始まるみたい」

パンフレットに一通り目を通し終えると、公式さながらのファンファーレがスピーカーから聞こえてくる。

『さあ、No1ウマドルステークス!間もなく出走です。レースに勝つだけではなく、ウマドル力をアピールできるのは、果たしてどのウマ娘でしょうか?』

「うおー!頑張れーッ!!」
「推しー!キミが一番だーっ!!」

(んん……??)

歓声の中に、アイドルのライブに来ているかのような若者たちの声が混ざっていることに気づくトレーナー。
しかし、すぐにレースに目を向け直した。

(……それもそうか。ウマドルですもの)
358 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 16:49:08 ID:ta9OWnYVWY
『各ウマ娘、一斉にスタート!まずは「り」から続く単語の書かれた紙を探して、背丈2mの草ゾーンを進みます!』

観客たちが見守る中、No1ウマドルステークスが始まった。

シュガーライドも遅れを取らず、草の中に入っていく。

「こっ、この中を進むなんて……!!」
普通に考えてもなかなかやらないコースでのレース。初めての経験に驚きながらも進む。
(り、ですよね。どこでしょうか?)
お題に答えるための用紙を探さなければならない。
しかし、2mの草に阻まれているので視界がとても見えづらくなっている。

(待って……そもそも紙って、どういうふうに置かれてるんでしょう?)
周りのウマ娘たちの足音や、草をかき分けるガサガサという音にも邪魔されないかのように、集中し始めるシュガー。
紙といえば、なにかに置かれているか、貼られているか、落ちているかがよくある。
(ここでは、なんだか地面に落ちてそうな……よしっ!)
“紙は地面に落ちている”と直感したシュガーは、視界を阻む草ではなく地面に集中して探し物を続行した。
そんな時だった。”アレ”が姿を現したのは。

「______しゃい!」
(なんの音……!?)

掛け声とともに、何かを引き裂くような音が聞こえてくる。
この大自然の中で、誰も刃物なんて持ってきてはいない。
その筈だった。

(なんだか……明るい空がみえてきて……ええっ!?)

草に潜って空からの光はかなり遮断されていた。
それが明るくなり続けている。かなり速い。
その答えを見て、シュガーは絶句する。


「しゃい☆しゃいしゃい☆」

「草をきってるー!?!?!?!?」

スマートファルコンが、自身のツインテールで、2mの草を斬り刻みながら進んでいたのだ。

『でたぁ~!!夏の風物詩、ファルコオオクワガタだー!ウマドル的にはアリなのかーッ!?』
359 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/22 17:50:25 ID:ta9OWnYVWY
(でっ、でもっ!おかげで見やすくなってます!)
次々と草が斬り刻まれて行くお陰で、視界が拓けてきていることに気づいたシュガー。
用紙を発見したのは、そのわずか数十秒後であった。

「ありましたーっ!!」
思った通り、地面に落ちていた紙を見つけたシュガーは、空中のドローンに向かって笑顔で手を降る。
無邪気に喜ぶ姿に、今の一瞬だけで2000人はファンが増えたようだ。


「これですよね!!」
「はい、確認します」
そうして最初の200mに到達し、係員に紙を渡すシュガー。

「りんご、ですね!通ってよし!」
「やったー!!」

無事に次へ進むことに成功。どうやら16人中9番手らしいので、次へのエリアへ急ぐ。
次の200mは、砂のお城を破壊しながら進むのだが……。

「……えっ」

シュガーは、眼の前にそびえ立つ”城”に、衝撃を受ける。
何人がかりで何日掛けたのかも想像つかないほどの大きさの、砂の城。
それが眼の前にあるのだ。

『さぁ次のエリアは、特注原寸大サイズの砂のお城をぶっ壊しながら進み、道中で次のメモを発見しましょう!!』

既に城の一部が欠けており、先行しているウマ娘たちがぶっ壊しているのがうかがえる。

「わ、わたしも急がないと!そりゃーっ!!」
砂のお城内部に突入したシュガー。
砂を掘りながら走り、城を崩壊させるつもりだ。

※最終的に崩壊する瞬間、砂は落ちるが城全体は簡易的な骨組みで出来ているので、砂に生き埋めになるようなことはない。


そして、そこにまたあの影が……。

「しゃいっ☆しゃいっ☆」

声の主……というかスマートファルコンは、既にしりとりの紙を見つけただけでなく、
城をかなり破壊している。
彼女はこの城を、どのようにして崩しているのだろうか?

方法>>360
360 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 04:02:25 ID:Y/RT8rUMAI
続行


「ウマドルはパワー! ウマドルはパワーッ!」
(……!?!?)
シュガーライドは思った。世界は広いんだなと。
スマートファルコンは拳一つで、砂の壁を崩し続けていたのだ。

『おーっとここでもスマートファルコンっ!アキュート仕込みのパンチが止まらないーッ!!
他のウマ娘たちも頑張れーッ!!』

目にも止まらぬ高速パンチ……アイドルじゃなくてプロのボクサーなのでは?とも思う。

「あ……メモ……」

そうこうしているあいだに、余波でしりとり用紙が飛んできた。

「ご、ゴリラ……」

りんご→ゴリラ。単純すぎるだろうと心の中で突っ込むが、言ってはいられない。
これはもしかしたら、素手より速い手段があるのでは?と思ったシュガーは、
即行動に移した。


「てぇやぁーっ!!」

右脚を素早く・高く上げてのハイキックを繰り出す。
前に動画サイトで偶然見かけた格闘技の映像を思い出し、放った。
見様見真似だがとてつもない威力だ。

スマートファルコンに劣らず、道がどんどん拓けていく。


そして続けること数分……。

「ふーっ……い、いま何番目でしょうか?」

無事に特大砂の城を脱出したシュガーは、係員に紙を渡して先へ進む。
流石はステイヤーを見込まれただけあって、息は乱れていない。
わずか200mの距離ではあるが、実質の運動量は5倍くらいに増えているにも関わらずだ。

次は3番目のエリア、アスレチックコースだ。


『このアスレチックコースで、しりとりは終わりとなります。ここまで結構単純だったなと思うウマ娘さんもいるかもしれませんが、ここは特に凶悪なステージですので、ご注意ください』

(きょ、きょうあく……?)

急に落ち着いて話す実況の声を聞いて、少し怖くなるシュガーであった。
361 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 04:20:27 ID:Y/RT8rUMAI
『第一関門ッ!水上に設置されたロープウェイを下り切りましょうっ!』

「こ、これは……」

シュガーが見たのは、ここまで脱落することのなかった6人ほどが、既に水中から這い出て失格となっている光景であった。

ハンドルにぶら下がり、超高速で下るロープウェイをくぐり抜けるには、
何よりも冷静な心が必要らしい。

「ファル子、行きまーす☆」

シュガーの前に、スマートファルコンが行くようだ。
どうやり切るのか見守ることにしたシュガー。すると……。



「しゃぁぁぁぁぁい☆」
なんとカメラを意識したのか、全く笑顔を崩さず、華麗とも呼べる動きでロープウェイを突破してしまった。

(な、これは……すごいです、ファルコンさん)

これがウマドルに必要なものなのかと痛感するシュガーだったが、尚更自分も負けてはいられない。そもそも夏合宿の初日で休養日だということをすっかり忘れているのだが。

「いやっほぉぉぉぉぉ!!」

下ってみると結構楽しいもので、楽しさから自然と溢れた笑顔がドローンカメラに記録されていく。

(意外と行けるのかしら……)
(しょ、小学生に負けてられない……)

見ていた他の参加ウマ娘たちも、ファルコンとシュガーに遅れないよう、意を決してロープウェイに挑むのだった。


『では次の関門ッ!逆バンジー!!』

(なに、これ……)
それは、テレビで時折見かける大掛かりな仕掛けであったが、シュガーは実際に見るのは初だった。

さながら人間スリングショット。
いやウマ娘スリングショットか。

先行したウマ娘が、ひたすら空中に打ち上げられるのを繰り返している光景を、
シュガーは見てしまった。
362 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 04:47:33 ID:Y/RT8rUMAI
(これもうレースじゃないですよね?バラエティ番組ですよね????)
頭の中で困惑が止まらないシュガー。
やっていることは最早レースではないことに、ようやく気づいたのだ。

『この逆バンジーでは、ひとりひとり違うしりとりの答えを、天辺にあります小型モニターから読み取っていただき、先に進む形となります』

ルールは単純である。
逆バンジーで打ち上げられた時、しりとりの回答を見ればいいだけ。
しかし、それが出来ないウマ娘が多いようで……ここでも3人ほどが脱落した。

「しゃぁぁぁぁぁああああああい☆」

ここでもスマートファルコンの独壇場。カメラ目線に笑顔を向けながら、逆バンジーを難なく終わらせた。1回で。

「えっとねー、さっきが「ごま」だったから、次は……孫の手☆」

モニタに映った言葉をしっかり読み取り、先へ進む。

(ま、まずいです。ファルコンさんが先に行っちゃう……)
「わ、わたしも行きますっ!!」

ファルコンに遅れを取りたくないシュガー。だが、この逆バンジーというものはあまりにも、未知の体験である。

しっかりと安全ベルトを固定して、スタンバイ。
そのわずか3秒後。

「ぉっ、うおぉぉぉぉぉっ!?!?!?」

とてつもない勢いで、シュガーライドの身体が宙に跳ね上がった。

(も、文字……!!)
次は”ら”の言葉だ。シュガーはなんとか目を凝らし、それを見ようとする。

(これ、は……ランドセルっ!!)

自身もつい1年半くらい前まで背負っていた、小学生の必須アイテム……”ラ”ンドセルだ。

シュガーも逆バンジーを1回で終わらせ、次のエリアへと進む。
363 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 05:19:44 ID:Y/RT8rUMAI
『さあ3つ目のアスレチックは、迷路ゾーンっ!ウマドルには知力も必要です。最後の難関を突破できるのか!?』

(あ……あれ?)
迷路に入ろうとした所で、シュガーは気づく。
先行していったスマートファルコンを除いて、後ろから誰も来ていないということに。
(ま、まさか全員、あのバンジーで……)
あまり考えたくはなかったが、有り得る話ではあった。
つまり、残っているのはスマートファルコンとシュガーだけ。

と、そこにドローンカメラがやってくる。

「い……いえいっ☆」

不安な表情を見せず、カメラに向かって白い歯を見せながらニコッとピースサイン。
(これが……ウマドル……)
なんて過酷なんだろうと思った。
それをスマートファルコンはやり続けている。とても凄いと思うシュガー。

……実際はここまで過酷なことはしていないのだが。

「……行くぞー!!」

もうすぐレースも終わる。シュガーは声で自分を奮い立たせ、先へ進むのだった。

______植物で作られた壁で隔たれる迷路は、大自然の香りが漂っている。
立っているだけでリフレッシュできそうな空間だが、急がなければならない。

「えっと……ここでもしりとりの答えを探すんですよね……あっ!」

2、3個所の曲がり角を抜けた所で、台座に宝箱を発見したシュガー。
早速、それを開けてみる。

「バか、はずれです……えーっ!!」

ここまでやってきた苦労を嘲笑うかのようなメモに驚くが、気を取り直して迷路を続行。

その後も、宝箱を見つけるがハズレばかり。

(はぁ……まず迷路の出口もありませんし……どうすれば……)

なかなか先に進めず、気分はセンチメンタル。
そんな時であった。

「……あーっ!シュガーライドちゃーん☆」
「ファルコンさん!?」

先に迷路に入っていたスマートファルコンと、ばったり再会したのは。
364 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 05:41:38 ID:Y/RT8rUMAI
『ここでスマートファルコンとシュガーライドが合流っ!』

実況とともに、撮影用ドローンがその場へ座り込む二人のウマ娘を捉えている。

「ウマドルって……大変なんですね……」
「でもっ、苦労した分だけ楽しいの☆」

やや表情が崩れてきたシュガーに対し、スマートファルコンは余裕の笑顔だ。

「このままじゃ……ファル子が余裕で勝っちゃうかも☆挑戦状を叩きつけたのはこっちの方だけど☆」

「っ……!!」

余裕の笑みで余裕の発言。少し悔しくなるシュガー。
立場が逆転していることにも気づく。
挑まれたはずなのに、こちらが挑んでいるというか……。

(はっ……)
ここでシュガーは、ふと閃いた。

「余裕そうですけどっ!ファルコンさんも迷ってるんですよね!!」
「あー☆……うん」

そもそも、余裕なら既に迷路を脱出しているはずだ。
それなのに新しい紙も持たず、ここで自分と談笑している。

相手もここから出られないのだ。

「……よし、休憩終わり☆ ファル子、今度こそ脱出しちゃうんだから!またねー!」

ある程度休めると、スマートファルコンは笑顔で走り去っていく。

「わたしも……がんばりますっ!」

シュガーもその熱に押され、立ち上がる。

そうして歩き回って、なんと10分後。

「る……る……ルビーっ!!」

宝箱の中から、やっとしりとりの続きを発見したシュガー。
後は迷路を脱出するだけ……と思ったら、すぐ目の前に出口があった。
(わかりやすすぎる……)

紙を見つけることが出口につながるというのは単純なものであったが、
やっと出られる。そう思い、駆け出す。

「……あっ」
「……あっ☆」

係員に紙を渡していると、別の出口から出てきていたスマートファルコンと目が合ってしまった……。 ここから始まるのは、ラストスパートだ。
365 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 08:50:06 ID:Y/RT8rUMAI
『さあここからがメインイベント!3ハロンのラストスパートを走りきれーッ!!』
「いくよー!!」

実況と同時に駆け出すスマートファルコン。
そして走りながら、観客席に向かって大きくコール。

「ファル子が逃げたら~!!」

「追うしかなーいっ!!」

逃げの得意なスマートファルコン独自のコーレスが会場に響き渡る。
が、走っているのは彼女だけではない。

「わたしだってっ!!」

後方からシュガーライドが追う。最後はレース勝負となれば、負けられない。
最終コースのバ場は雑草なども生えている普通の地面だ。やや芝に近いか。


「うおー!!ファル子―!!」
「シュガーライドッ!負けるなー!!」

観客たちも、ラストを走る二人のウマ娘に声援を送る。
GIレースにも負けないくらいの声援を。
3ハロン……600mはかなり速いペースになるので、レースとしての迫力も凄まじい。

「だあぁぁぁぁっ!!」
『シュガーライド必死に追いすがる!しかしスマートファルコン!脚色衰えないッ!!』

得意の走法でファルコンを追いかけるシュガー。だが、距離が一向に縮まらないのだ。
(これっ、どうして……いや、これが……ウマドルっ!!)

シュガーは、改めて思い知った。世界は広いと。普段戦うことのない相手だが、こんなにも速いウマ娘がいるのだと。

『スマートファルコン!1着でゴールッ!!』

5バ身の圧勝で、スマートファルコンがゴールした。

そして直後、やってきたドローンに向かって……
「しゃい☆」
スマートファルコン渾身のスマイル。
彼女はシュガーに対して、ウマドルとしての威厳を示し、見せつけたのであった。


(あの……これ、いいトレーニングにはなったはずだけど……なんなの?本当……)

大歓声の中、シュガーのトレーナーは消化不良が収まらない様子……。
366 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 09:07:00 ID:Y/RT8rUMAI
「すっごく、いい経験になりましたっ!!」

合宿所までの道を歩きながら、トレーナーに向かって楽しそうに話していたシュガーだったが……。

“それ”は次の日にやってくる。


「いたいぃぃぃ!!全身がいたいですぅぅぅぅっ!!」

起きてすぐ、全身筋肉痛に襲われるシュガーライド。
今日から始まるはずのトレーニングも、少し休まなければならない。

(こうなっちゃったか……)
止めるべきだったかと思うトレーナー。だが、昨日の出来事はシュガーにプラスとなったのも事実。とても複雑な心境である。

なんとこの筋肉痛の回復には1週間も掛かり……。

「やっと治りました!!元気いっぱいですっ!!」

「遅れた分、取り戻さないとね」

「はいっ!!」

秋に向けてのトレーニングが、ようやく始まる。
トレーナーとして着目したいのは、やはり有り余る持久力だ。
それはマイル・中距離ではなく、完走に時間を要する長距離でこそ真価を発揮する。

この前も、全身筋肉痛になっただけで、その前日は全く息が乱れていなかったのだ。

(スタミナの面ではもう大丈夫そうで……じゃあ次は______)

こうして、夏のトレーニングが幕を開け、日はあっという間に流れていく。

そして2ヶ月後。トレセン学園に帰るバスの中で……。


「トレーナーさん」
「なぁに?シュガー」

バスに揺られながら、トレーナーに話しかけるシュガー。
周りのウマ娘たちは皆寝ているので、静かな声で。

「菊花賞も、勝ちたいです」
「そうね。今のシュガーなら、勝てるわ」
「ほんとですか?」
「夏の間に、すごく成長したもの」
「えへへ……ありがとうございます」

シュガーの決意は、既に2ヶ月後の菊花賞に向いている。
トレーナーも、今の彼女には絶対的な信頼がある。
それほどまでに、たくさん成長できたのだ。
367 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 10:28:21 ID:Y/RT8rUMAI
具体的には……

・浜辺での高負荷なトレーニングにより、重馬場に対する脚力を手に入れた。
・暑い日差しの中でトレーニングすることにより、根性と我慢強さを磨いた。
・急激な筋肉痛からの回復で、身体能力が飛躍的に向上。

などなど……、様々な方面での成長ができた。
加えて、シュガーライドはまだ小学生。通常、レースに向けて鍛えていくのは中高生からなので、その年代よりも成長力がとても高いのだ。

(どこまで伸びるのかしらね……この娘は)
トレーナーはPCにデータを打ち込みながら、シュガーの未来を想像して微笑む。
菊花賞はもちろん勝つ。その後は海外レースだってありかもしれない。


(……あ、英語まで覚えるのは大変ね……)
それもそうである。

周りのライバルたちも、秋のGIに向けて本格的に動き出した。

トレーナーが特に目を引いたのは、セントライト記念を勝ったホワイトテイルの記事だ。
彼女は逃げも追い込みも出来る万能な脚を持っているが、今回は2200mの距離を逃げて制したという。

(本番は、どんな作戦でやってくるか……)
一番警戒したいライバルだ。シュガーからは恐怖心という弱点が消えたとはいえ、ホワイトテイルの実力が高いことに変わりはない。
菊花賞への出走を既に表明しているので、長距離勝負にも自身があるということだろう。
シュガーとの瞬発力勝負に持ち込まれれば、結果は読めない。

(だけど……シュガーは強い。トレーナーである私が、それを信じなきゃ)

シュガーと出会ったあの頃から、彼女の強さを見てきた。成長を見てきた。
だからこそ、信じなければならない。信じない理由もない。

菊花賞での勝利を。ダービーから続く、クラシック3冠最後の1つの戴冠を。
368 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 11:23:53 ID:Y/RT8rUMAI
菊花賞の前に開催される、芝GIが一つある。それは……。

『ここ中山レース場は現在くもり。バ場状態は良の発表です』

今年は9月中旬の開催となった短距離GI、スプリンターズステークスだ。

秋のGI開催を飾る最初の1戦であり、クラシック世代からシニア世代までの快速自慢が集う中山レース場には、既に多くの観客が詰めかけている。
『さあ、スプリンターズステークスの発走時刻が迫ります。パドックに入場するウマ娘たちを見ていきましょう。まずは1番人気、ダイタクヘリオス!』

「うぇいうぇーい!パマちん見てるー!?バクアゲで行くべー!!」

既に短距離路線で戦績を残し、有馬記念でも5着に入るなど大番狂わせな走りが特徴のテンション高めなバク逃げウマ娘・ダイタクヘリオスだ。
スプリンターズステークスでの勝利経験はなく、今年こそと狙っている様子。

『2番人気はニシノフラワー!天才少女の脚は短距離GIでも発揮されるのかー!?』

「今度こそ……また、GIを勝ちますっ!」

オークス敗北からひと夏を越し、同年代のシュガーライドにも劣らず成長を遂げた、小さな天才少女・ニシノフラワー。2番人気に推され、それがむしろやる気に変わっているようだ。
369 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 11:24:12 ID:Y/RT8rUMAI
『3番人気はこの娘、サクラバクシンオー!!』

「はっはっはー!GI初挑戦でも、委員長としてバクシンしてやりますともっ!!」

短距離路線に入ってきた新星であり、トレセン学園内では所属クラスで学級委員長を務めるウマ娘・サクラバクシンオー。
ヘリオスとは違うベクトルでテンションが高い。

『4番人気はヤマニンゼファー!安田記念から続き、短距離GIの連覇を成し遂げられるのか!?』

「今日の風は……まだ、静か。しかし、私が吹かせます。烈風を」

ヘリオスやダイイチルビー、ケイエスミラクルといった短距離路線のウマ娘たちと活躍しており、今年のマイルGI・安田記念を勝っているのが、このヤマニンゼファー。
スプリンターズステークスではアストンマーチャンやムーントラックの活躍で結果は残せておらず、こちらも勝ちを狙っている。


「今年のスプリンターズステークス、濃いな……」
「そうだな。去年のムーントラックの引退は衝撃的だったけど、まだスターウマ娘はこんなにもたくさんいるって、よくわかるよ」

とある二人の観客が言うように、今年のメンバーは4番人気まででもかなり強い。
ニシノフラワーでさえも、先輩ウマ娘たちには劣っていないという前評判がある。
370 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 11:25:01 ID:Y/RT8rUMAI
1992年のスプリンターズステークス、ほんとにメンツが濃い……
371 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 13:27:34 ID:Y/RT8rUMAI
「フラワーちゃん……頑張って」

ちょうどトレーニング休みの日だったので、シュガーライドも会場に行き、観客として見守っていた。

スイープからも少し話を聞いている、フラワーの路線転向。そしていきなりのGI。
既に3回もGIを走っていて場数を踏んでいると言えるが、それでもなおシュガーの不安が消えないのは、周りにいるのが先輩たちばかりだからかもしれない。


「彼女なら……やれます」
「……あっ、ミホノブルボンさん!」

フラワーのルームメイトであるミホノブルボンも、応援に駆けつけていた。

(……あれ?たしか販売機でにゅーじょーけんを買わないと……ブルボンさんって機械さわれなかったはずだし、どうやったんでしょうか……)

中山……というかほとんどのレース場でそうなのだが、入場券を機械で購入して受付に渡す必要がある。
操作するだけで機械がなぜか故障してしまうブルボンは、果たしてどうやってここまでこれたのだろうか。

(だれかが買った……トレーナーさんとか?)

シュガーがまず思ったのは、ブルボンが自分のトレーナーと一緒に来ていて、券を買ったことだ。
だが、隣りに座っているようにも見えない。

(……いやいや、こんなこと考えるのはやめときましょう……)
野暮なことは考えないでおこうと、忘れることに決めたシュガーなのであった。


『さあ、スプリンターズステークス、間もなく発走!まずはファンファーレです!』

自衛隊の吹奏楽隊による生ファンファーレには、いつも会場の観客の手拍子が連動する。

(……おお……)
シュガーは客席でGIを見るのは初めてだったので、自分もそっち側に回ったことに興奮しているようだ。
372 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 16:20:19 ID:Y/RT8rUMAI
ダイタクヘリオスは6番ゲート。サクラバクシンオーは4番ゲート。ヤマニンゼファーは最内1番ゲート。そしてニシノフラワーは4番ゲートと、有力ウマ娘は内寄りに収まっている。

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢完了。……スタートしました!』

〈スプリンターズステークス 中山1200m 芝 曇・良 16人 右〉

揃っての綺麗なスタートとなり、出遅れはない。
先陣を切って下り坂を駆けるのは5番。そこに3番と15番が追走する。

「はっはっは!バクシンバクシーン!!」
「ふっ……!!」

間を抜けるように、バクシンオーとゼファーも先頭を追いかけての追走。
先頭グループ5人が固まったまま坂を下り続けている。

「やばみー!完全に出遅れてるっしょー!?」
ダイタクヘリオスは中団の好位置にいるが、彼女の本来の逃げ脚質を全然活かせない位置だ。

(すごいペースですっ……でも、まだっ!!)
ニシノフラワーは後方の外目にいた。短距離重賞では勝ちを収めている彼女だが、GIという環境での勢いのある走りと熱を全身で感じながら走っている。それでも掛かったりすることはなく、仕掛けどころまで耐え忍ぼうとしているようだ。
373 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 16:21:19 ID:Y/RT8rUMAI
『さあ、各ウマ娘!緩やかな3コーナーを回って4コーナー!そして最終直線へと駆けていきます!』

隊列が横いっぱいに広がっての最終直線。中山名物である短い直線とゴール前の急坂の両方が、ここまでハイペースで飛ばしてきたウマ娘たちに襲いかかる。

『先頭で粘る5番!そこにサクラバクシンオー!おっとヤマニンゼファーが抜け出した!』

(今こそ、烈風を……!!)

自身が風になるような走りで、内から一気に抜け出すヤマニンゼファー。
3番のウマ娘も追いすがるが、これはヤマニンゼファーで決まったと誰もが思った……
その時だった。

「やあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『ここで大外ニシノフラワーだ!!ニシノフラワー!!ぐんと追い込んで迫るっ!』

隊列が広がった時点で後ろから4番手程にいたニシノフラワーが、とてつもない脚で上がってきたのだ。
前を走るゼファーに追いつき、少しでも追い越そうとする。
(勝ちたいっ!勝ちたいっ!!)
(その気持ち、私も同じ……!ですが、あなたの風は……!!)

ゼファーも粘るが、結果は……。
『ニシノフラワーとヤマニンゼファー!並んでのゴールインっ!!わずかに、わずかにニシノフラワーが体勢有利かっ!?』
374 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 16:45:16 ID:Y/RT8rUMAI
「フラワーちゃん、勝ったんですか!?」
「私の目には、確かにそう見えましたが……!」

大外から追い込んだフラワーの生み出した結果に、シュガーとブルボンだけでなく、観客たちにざわめきが起きている。

その十数秒後、掲示板にはフラワーが1着であることを示しすランプが点灯。
瞬間、会場を大歓声が包んだ。

『勝ったのはニシノフラワーですッ!!小さな天才少女が、電撃のような走りを見せてくれましたッ!!』

(______わたし、勝ったんだ……!!)
結果が確定すると、フラワーは喜びのあまり言葉を失い、ターフの上で両手でのガッツポーズ。

一度は閉じてしまったつぼみが、たゆまぬ努力によって花開いた瞬間であった……。

「わぁぁぁぁ!!フラワーちゃんが勝ったー!!」
観客席で自分のことのように大喜びするシュガーライド。
やはり、勝つ瞬間というのは素晴らしいのだ。応援している人物が勝った瞬間であれば、特に。

「やりましたね、フラワーさん……!!」
ルームメイトとして、様々な時のフラワーを見てきたミホノブルボンにとって、久々の勝利はとても嬉しかったようだ。


その後、ウイニングライブも終わって観客たちも引き上げた中山レース場で……。


「凄かったねぇぇぇぇフラワーちゃんッ!!」
「よ、喜びすぎですよシュガーさん……」

小さな天才二人が、観客席で会話をしている。

「えっとね……フラワーちゃんの走りで、わたしすっごく勇気をもらえたよ!」
「ほんとうですか!?」
「うんっ!だから……わたしも勝つよ!菊花賞、ぜったい勝つ!」

フラワーの走りに力をもらったシュガーは、GI菊花賞での勝利への誓いを新たにするのだった。

そして、秋も深まる10月中旬……。
クラシック路線に、決着がつく。
375 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 17:13:35 ID:Y/RT8rUMAI
『少し涼しくなってきた10月の京都レース場で、本日ついに開催されますGI・菊花賞。クラシック3冠の最後ということで、レース場内は既に超満員となっている模様です』

「わぁぁ……ついに、ですねぇ」

京都レース場の控室で、テレビ中継を聞きながら、シュガーライドは心を踊らせていた。

「ここまで大きな怪我をすることなくやってこれたのは、本当にすごいことよシュガー。
だから本番も……」
「わかってますよトレーナーさん!えっと、”全ウマ娘無事”ですよねっ!!」

本番で、GIレースで故障して選手生命を絶たれるなど、絶対にあってはならないこと。
だからこそトレーナーは改めてシュガーに伝えたが、彼女はちゃんとわかっているようだ。

「ダービーの時みたいに、待っててくださいね。わたし、1番になって帰ってきますから!
そのときは……えっと……」
「何か、して欲しいの?」
「その……ぎゅーって!しても、いいですか?」
「ふふっ、良いわよ」

シュガーは1年以上帰省していないので、そろそろ家族が恋しくなっている部分もあった。
そんな中で、今ではトレーナーもある意味家族のように考えている。
なので、勝って戻ってきたら……いっぱい抱きしめて欲しい。そう思ったのだ。
トレーナーも快く快諾し、準備は万全。

「じゃあ……トレーナーさん、行ってきますっ!!」

シュガーは今までで最高のコンディションで、ターフへと向かうのだった。
376 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 17:13:55 ID:Y/RT8rUMAI
「……来たね」
「はいっ、来ました!!」

地下バ道では、シュガーの到着を待っていたかのようにホワイトテイルが立っていた。

「私も……日本ダービーの時より強くなった。前哨戦も勝ってる。
だから……負けない」
「こっちこそ!まけないですっ!!ぶっ飛ばしちゃいますよ!」
「い、言うね」

無邪気な表情から放たれた宣戦布告ワードにやや驚くホワイトテイルだったが、気を取り直して先にターフへ進む。

(よーし……行きますっ!)

シュガーも、ゆっくりと歩きながら向かう。夢の舞台へと。
377 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 17:37:55 ID:Y/RT8rUMAI
菊花賞のバ場状態:晴・良 18人立て

シュガーの枠・ホワイトテイルの枠>>378


せめてこれだけでも……!
378 : お姉ちゃん   2024/10/23 23:24:00 ID:bGWWBc/aP2
シュガー:2枠3番
ホワイトテイル:2枠4番

何と隣同士!
379 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/23 23:27:04 ID:Y/RT8rUMAI
>>378
助かりました。書き始めてたので。凄く感謝。
380 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 04:08:20 ID:m0eyXdj82g
『間もなく発走となります、菊花賞。現在、枠入りが進んでいる模様です』

現在のバ場のコンディションは良。天気も晴れていて、スムーズなレース展開が期待できる状態だ。

(……よし、入りますっ)
1番人気に推されているシュガーライドは、2番ゲートへ。結局のところ最後方で走るのだが、内側でロスなく走れるのが嬉しいのだ。長距離だと特に。

「……あ」
「となり同士、ですねっ!」

2番人気ホワイトテイルは、なんとシュガーの隣3番ゲートであった。
シュガーはまるで「どこにいても隣同士で走るのは楽しいですよねっ!」と言いたげな笑顔でホワイトテイルを見つめる。
本人はそのあたたかい眼差しにやや困惑するが、

(……いいや、私は自分の走りをするだけ)

気を取り直して、前を向く。

他のウマ娘たちも、各々のゲートへ入っていき、準備が整った。

『各ウマ娘、体勢完了! さあ……最後の1冠を手に入れるのはどのウマ娘か!? 菊花賞、今……スタートしました!』

〈菊花賞 京都3000m 芝 晴・良 18人 右〉

歓声響き渡る中、ウマ娘たちが一斉にスタートを決める。
まず先手を奪ったのは最内1番のウマ娘。
そこにホワイトテイルが追走し、2人がペースを作っていく。

坂の途中から始まるこのコースは、全体でコーナーを6回も回ることになる。
つまりは、内側でロスなく走れているウマ娘が有利な傾向があるのだ。

(シュガーライド……今回は、追いつかせない)

1番のウマ娘をすぐに突き放すと、なんとホワイトテイルは3バ身差ほどの先頭を走る。

『おーっと!ホワイトテイル単騎の逃げ!これは作戦なのかーッ!?』

〈何が起きてるんですかー!?!?)
バ群を避けつつ後続を走るシュガーライドには、やはり前のレース展開が認識できていないようだ。
1周目は、この状態が保たれたまま通過していく。
381 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 04:41:53 ID:m0eyXdj82g
『各ウマ娘、向正面を通り2周目に入って、まだ隊列は固まっている!どこで仕掛けるのかー!?』

先頭は相変わらずホワイトテイルだ。
1000mの通過タイムも1分・2分と、それほどペースが早いわけではなく、まだ脚にも余裕を残している。

(スローペースで行けば……後続は届かなくなる……)

彼女の思惑通り、バ群はひと固まりのままだ。後続勢に蓋をしており、一番マークしているシュガーライドも簡単には前に進めていない。

(後は一気に引き離せば……勝てる!)

そして3コーナーを抜ける頃、ホワイトテイルは二の脚を開放する。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

『4コーナーに掛かった所で、ホワイトテイルが一気にペースアップ!後続を引き離していくッ!!』

先行集団の反応も遅れるほどの急なスピードアップで、4バ身は差をつけながら最終直線へ。

『ホワイトテイル先頭!後続は不意を突かれ……おーっと!!』

(私の、勝……え、なっ!?)

急坂を越え、勝利を確信した。脚もまだ生きている。
それなのに、襲いかかるプレッシャー。

まさかと思った。来られるはずがないのだ。

だが……!

『なんと外からシュガーライドォ!!』

圧倒的な脚の回転数で生まれる音とともに、天才少女がやってくる。

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『シュガーライド並ぶ!シュガーライド並ぶ!ホワイトテイルかシュガーライドか!皐月賞・日本ダービーから続く、2強の最終決戦だぁぁぁぁ!!』
382 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 04:57:43 ID:m0eyXdj82g
______レースは、1周目の時点で動いていた。

(何が起きてるんですかー!?!?)

最後方を走ろうとしていたシュガーライドは、レース展開が全く追えないことに気づく。
そして、トレーナーから言われていたことを思い出していた。

《______いい?最終戦、何としても勝ちにいきたい……前が凄く固まるようなことがあれば、最後方からの追い込みは止めて前を目指すの》


「今が、そのとき……よしっ!!」

トレーナーの言葉と、今まで走ってきて磨かれたレース直感を信じ、
シュガーライドは隊列の合間を縫うように前へと進出を続けていたのだ。


『シュガーライド交わすか!内で粘るホワイトテイルか!』

「だぁぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」

片方の作戦は的中し、もう片方の作戦は外れた。
そして最終直線は、ただただ一騎打ちとなっている。

後続を置き去りにする二人の走りは、既にSNS上で話題だ。

たった十数秒の戦いにも、「頑張れ」の応援メッセージが大量。

その思いが通じたのは______。

『僅かにっ、シュガーライドだぁぁぁぁぁぁ!!』

ほんの、アタマ差であった。
小柄なその少女がアタマ差で追い抜けたのは、もはや走りの力に他ならない。


「はぁっ、はぁっ……ふぅーっ……」
ゴール板を駆け抜けたシュガーは、ゆっくりと止まり、息を整える。

(勝った……勝ったんだ……菊花賞でっ!!)

皐月賞での悔しさから一転、日本ダービーと菊花賞を勝つことが出来た。
とても嬉しくて、最高の気分に浸るシュガー。

「……また、負けたね。でも、まだトゥインクルシリーズは、終わらない。
来年でもなんでも、いつかリベンジする……」

称えられるシュガーを見ながら、ホワイトテイルやその他のウマ娘たちは、打倒・小さな天才少女を誓うのであった。
383 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 05:29:56 ID:m0eyXdj82g
「トレーナーさんっ!トレーナーさーんっ!!」

地下バ道を走って戻るシュガーを、トレーナーが迎える。

「頑張ったわね。おかえりなさい」
「はいっ、ただいまっ!!」

レース前にシュガーが最も望んだ、ぎゅーっと温かなハグで、
トレーナーはシュガーの頑張りとGI勝利を労うのだった。


その後は、聞き納めとなるウイニングライブ「winning the soul」も、大成功で幕を閉じる。

ホテルに戻るタクシーの中で、シュガーは……。

「明日は京都をかんこうしたいところですが……すぐ帰りましょう!」
「えっ、なんで??」
「ふふふ……トレーナーさん!わたし、ずっと前から行きたかった場所があるんですっ!」

そういうことなので、次の日は早々と荷物を整え、帰りの新幹線で東京へ戻る二人。
更に次の日、”シュガーが行きたかった場所”に足を運んでいた。


「遊園地っ!!決めてたんです、クラシック3冠でしっかり走れたら、トレーナーさんといっしょに来ようって!」

「なるほどね……じゃあ、とりあえずチケットを買いましょうか」
(あ、結構高いわね。でも、かわいい教え子のためなら……!)

目を輝かせながら待機しているシュガーに勝てず、トレーナーは”ネズミ頭のキャラで有名な遊園地”の1日パスを2人分購入。

こういうのも経費で落としてくれたら良いのだがと思うトレーナー。しかし……実費だ。

そしてシュガーはたくさんのアトラクションや食事を楽しんで、すっかりリフレッシュするのであった。
384 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 05:30:32 ID:m0eyXdj82g

月日は流れ、年末。
季節はすっかり冬になり、寒くなっている。

「おー……すっかりまっしろですね。雪です」

トレーナー室の窓から外の景色を眺めるシュガー。例年よりも積もっているので、興味津々のようだ。

「シュガー、そろそろ始まるわよ。……有馬記念」
「あっ、はいー!」

もうそんな時間なんだと、こたつに入ってテレビを点けるシュガー。
年の終わりを告げるGI・有馬記念の鑑賞だ。
シュガーもファン投票で上位に入ったものの、今年は菊花賞までで活動を終えるという方針で、休憩に入っているのだ。
『一着は泥の女王・キタノダイヤモンドォー!!なんとこれで、秋シニア3冠を達成だー!!』

______今年の有馬記念を勝ったのは、シュガーよりも先輩で凱旋門賞などの海外レースの優勝経験もある、国内ではトリプルティアラを獲った最強のウマ娘・キタノダイヤモンド。

彼女は10月に帰国してすぐ、天皇賞・秋への参戦を表明。
そしてジャパンカップと共に難なく勝ち抜くと、ファン投票1位を獲得。
後は先に言った通りである。

達成例が少ない秋シニア3冠をも勝ち抜いたことで、世代最強を証明することとなった。

「す、すごい人がいますね」
「そうね。彼女、来年も走るみたいだし……挑戦してみる?」
「もちろんですっ!あんなに強いウマ娘さんと走れたら、すごく楽しそうなのでっ!」

トレーナーから促され、シュガーは来年の目標が定まった。
打倒・キタノダイヤモンド。

“泥の女王”と”小さな天才少女”のカードには、どれだけの観客が注目するだろうか。

まあ、来年になってみないとわからないのだが。

「トレーナーさんっ!来年も、これからも、よろしくお願いしますっ!!」


シュガーライドは走り続ける。まだ何も見えない未来へ向けて……。
385 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 05:33:10 ID:m0eyXdj82g
はい、終わりです。今度こそ、終わりです。

勢い余って続編を建てて、かなり色々あったけど終わらせることが出来ました。

もう見切り発車はしない……それはそれとして、

安価レスをしてくれた皆様・シュガーのイラストを描いてくれた方……本当にありがとうございました。

特にイラスト提供がなければ、モチベーションを保てなかったはず。
386 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 05:34:47 ID:m0eyXdj82g
とてもいい経験になりました。
正直に言えば楽しかったです。
でももう長編は書かない。疲れます。


結論

ありがとうございました。普通のBBS民に戻ります。
387 : ◆wuHHR64l1og   2024/10/24 06:24:40 ID:m0eyXdj82g
以下、感想(甘くても辛くても……)
388 : ダンナ   2024/10/24 09:31:19 ID:PH1g3BwW1A
長編は書かないなら短編書けば良いじゃない
(毎回安価で住民に頼っても良いんだし)
389 : トレぴっぴ   2024/10/24 09:35:12 ID:m0eyXdj82g
>>388
そうです、長編は書かない。
安価に頼ろうとしてたら何故か来なくなったのがこのスレの後半ですね
390 : トレーナーちゃん   2024/10/24 09:37:08 ID:PH1g3BwW1A
でも、まぁお疲れさまでした
そのうち気が向いたらまたスレ立ててよ
391 : トレーナー君   2024/10/24 09:40:55 ID:m0eyXdj82g
>>390
ありがとう。

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