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ウマ娘BBS
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SS:はっ、必死に努力し続けたら誰でも三冠ウマ娘になれるってか?
1 :
お前
2025/04/12 04:23:15
ID:P/2vHxlbPE
・独自解釈独自設定を含みます。おおらかな人だけどうぞ
・細かい部分が気になる方はこの先はご覧にならない事をお勧めします
彼はそう笑った
傑作だというように、私を嘲るように
そして続けた
――そんなんでなれるわけねえのは、お前が一番分かってンじゃねえのか?
――ココの連中はみんなみーんな、お前のいう一生懸命な努力をずぅっとずぅっと続けてるぜ?
――で、その結果そいつらはG1はもちろん、メイクデビューも未勝利戦も勝てねえのが半数ってとこだ、そいつらは一生懸命努力してなかったのか?
彼は睨むように、でもまっすぐに私を見ていた
私は答えた
「それでも――私は三冠ウマ娘になります」
2 :
使い魔
2025/04/12 04:28:20
ID:P/2vHxlbPE
――短距離路線を受け入れられないなら君とは契約を続けられない
たったそれだけで彼女、ミホノブルボンは契約を解除された
三冠ウマ娘になりたい。 それだけを目標に彼女はトレセン学園に入学した
入学前にはトレーナーだった父の指導のもとずっと厳しいトレーニングをつづけていた。
多少は自信もあった。メイクデビューではない、三冠ウマ娘になれるという方の自信だ――しかし現実はその自信をいとも容易く砕いた。
ブルボンの特性は短距離であるのは幼少期からわかっていた。それでも、その短距離ですらブルボンは学園内で"並"かそれ以下の評価でしかなかった。
淡々と状況を理解し次の方法を模索するブルボンですら多少は落ち込んでしまうほどに
3 :
トレ公
2025/04/12 04:32:54
ID:P/2vHxlbPE
さらに、トレーナーから短距離路線に今から絞る事を求められた。
トレーナーの判断は正しい、短距離路線ですら今の実力、タイムではメイクデビューで勝てる率は限りなく低く、掲示板に入れたら十分褒められる程度だ。
それでも、ミホノブルボンはそれを受け入れなかった。
彼女にとっての夢は三冠ウマ娘でありそれは大好きな父がその偉大さを教えてくれたからだ。 自分にとってこのトレセンの全ては三冠ウマ娘になることであってメイクデビュー前から路線変更など考えたくもなかった。
しかし、トレーナーはあっさりと契約を打ち切った。
「……」
ステータス、悲しみ……ステータス……落ち込み……ステータス……
4 :
ダンナ
2025/04/12 04:38:10
ID:P/2vHxlbPE
彼女は気づく、自分は迷子になってしまったのか
トレセン学園はあまりに拾い。 これだけのウマ娘を抱えられるトレーニング場を準備するだけでこの学園一つが一つの小さな町のようだ
その町の疎外地……要は誰もこなさそうなとこまでトボトボ、ふらふらと歩いてしまっていたのだろう。 ここがどこなのかわからなくなる
ブルボンの視界の先には未整備のトラック場がいくつか。
雑草があり石ころが転がり、練習場ではなく今はただの空き地のようで
そして―――
―――なぜか一つの小さな小さなトレーニング場だけに山のように土が盛られている。
――土を保管しておくばしょだろうか
「なんだ、お前」
5 :
トレーナー
2025/04/12 04:43:53
ID:P/2vHxlbPE
『なんだ、お前』
手に持ったシャベル・赤茶色の土まみれの作業着。 軍手、手ぬぐいを頭に巻いて、顔にも土が沢山こびりついている。
背は低い、声も殆ど声変わりしてないが男性だろう。ひたすら目つきの悪い若い男が迷い込んだミホノブルボンを睨むように見ていた。
「あの、私は」
『ここらは危ねえぞ? 空き地だったり何かを放っておいたりするトコだかんな。』
『ここで勝手な自主トレとかすんなよ? マジでココ危ねえしここらでの自主トレ禁止だかんな』
「そうなのですか? いくつかトラックがありますが」
『こんな石だらけ、未整備の硬い硬いとこでトレーニングなんかしてみろ、1日で足が壊れる。 壊れなくても2日め3日め――爆弾爆発まで引き伸ばすだけだ。』
やめとけやめとけ、と男は手を振った
6 :
大将
2025/04/12 04:49:47
ID:P/2vHxlbPE
「詳しいのですね。」『当たり前だ、トレーナーだからな』
ミホノブルボンは少々驚いた、とはいえ彼女の表情は全然変わることがないが
感情はあり考えたり喜んだり悲しんだりはあっても彼女はほとんど表情に出ない。態度にも出ないが、自称トレーナーを名乗る男は言葉を止めしばらく固まる彼女を見て
「……あーそっか、このカッコじゃただの作業員だよな、悪ィ悪ィ」
「でもま、俺は所謂底辺な零細トレーナーでな、担当ウマ娘なんかいやしねえし今日もこうして土を盛るわけだ」
『土を? ……これは、なんですか?』
彼女は大量に盛られた土を見て問いかけた。 遠目から見ればただただ大量に土を山のように盛った土山にしか見えない
『―――これか? これは何に見える?』
若い男はにやっと、逆にミホノブルボンに問いかけた。
7 :
アナタ
2025/04/12 04:57:02
ID:P/2vHxlbPE
「私には……山、に見えます。土でできた山です」
『おーそっかそっかあ、山ね。うんうんいいないいな……じゃあちょっと山を見てみるか』
男はミホノブルボンについてくるように目配せし、そのトレーニング場に向かう。
このトレーニング場だけ大きい――1周 6ハロンだろうか。
山はその直線に盛られていた。
直線だけに、容赦なく山のように
『で、これ――何に見える?』
「…………壁、です。 巨大な壁」
ミホノブルボンは思った事をそのまま言った。
厳密には山なので傾斜がついて直線をつくっている
ありえないほどの高低差のついた――坂だ
『アッハッハッハッハ、いいな、その反応とそのたとえ! こっちが欲しい反応をそのままくれるじゃんお前』
男は愉快そうに笑う。そしてにやりと笑いながらブルボンに向いた
8 :
お兄ちゃん
2025/04/12 05:07:39
ID:P/2vHxlbPE
男は愉快そうに笑う。そしてにやりと笑いながらブルボンに向いた
「長さは気に入らないが勾配は4%以上、直線の高低差30m以上。
――最高にキツい"坂路"だ」
壁、ではなく坂
直線にだけこれがあるせいでゴールであろう頂点からはゆっくりと下り坂でようやくそれが終わったと思えばもうこの直線。 つまりこの坂だ。
『お前、そのトモだとまだメイクデビュー前か? いきなりこれを登れとは言わねえよ。 中山競馬場の最終勾配ですら2.24% これの半分だからな』
男は坂の頂上を見つめながら、夕日に少し目を細める
『これなら同じトレーニング量でも確実に心肺能力がつく、しかも足への負担がかからねえ。 これが最強のトレーニング……なんだが』
男は締まらない顔で肩をすくめる
『いかんせん俺みたいな実績もないトレーナーの理論言い分なんか相手にもされなくてなあ、土を運んでもらって、重機でならしてもらうだけありがてえ。 あとは』
9 :
貴様
2025/04/12 05:14:09
ID:P/2vHxlbPE
『"これ"だ』
男はシャベルを持ち上げ肩に担ぐ。本来、重機でやるコースの地均しを手作業でやるという
『盛ってもらえば手作業で全部坂路作って、まあローラーだけはどうしても理事長にしてもらっちゃいるが、ここまで好き勝手やらせてもらってるならありがてえってもんだな』
「ずっと、このトレーニング場……坂路トレーニング場を作っていると?」
『ああそうだ。これが認められればウマ娘の能力だけじゃなく確実に故障が減る。』
「故障? 坂路は足への負担が減るのですか?」
『そりゃな、まずスピードが出ない。 ウマ娘ってのはヒトミミより圧倒的に筋力が高い、スピードも加速も車みたいなもんだからな。』
『だがな、その反面――関節や骨みたいなとこは実は筋肉ほど極端な違いはないんだ』
10 :
トレーナーさん
2025/04/12 05:22:05
ID:P/2vHxlbPE
『とんでもないスピードで走って、その蹴った足はそのスピード……つまりエネルギーと衝撃を全部受けながら前で接地する……そこにかかる負担やダメージがえげつないのぐらい想像できるだろ?』
「坂路なら、スピードが落ちる分その負担が減ると?」
『そうだ、坂路イコールスピードが落ちるってすぐ出てきたのは大したもんだ。
勿論負担はそこそこに掛けなきゃいけない。 トレーニングってのは筋肉を痛めつけて超回復で筋肉を太くする。 そこはヒトミミもウマミミも一緒だ。 脚への負担を減らすためにスピードを落としたらなーんの意味もねえ』
「坂路であれば、全力でトレーニングをして負担を平地より増やしつつ脚への負担を減らせるわけですね」
『そゆこと、そもそもひたすら走ってるだけ、筋トレだけ、頑張るだけのトレーニングなんかなんの意味もねえよ』
男はトレーナーにあるまじき発言のような言葉を口にする
「一生懸命に努力して頑張るのは……無意味でしょうか?」
11 :
トレーナーさま
2025/04/12 05:26:09
ID:P/2vHxlbPE
「一生懸命に努力して頑張るのは……無意味でしょうか?」
『あ? 』
「私は――三冠ウマ娘になります。 そのために今までずっと、努力して頑張ってきました。 幼い時からずっとずっと、父とトレーニングをしてきました」
『……で、三冠ウマ娘になれそうか?お前』
男はまっすぐに問いかける。 ミホノブルボンは首を横にふって
「いいえ、今の私では無理です。ですが、もっと努力をして、頑張ります」
『はっ、そんなんで三冠ウマ娘になれるなら世の中みーんな三冠ウマ娘ばっかだぞ?まさかお前頑張ってるのは自分だけだとでもおもってんのか?』
彼はそう笑った
傑作だというように、私を嘲るように
12 :
あなた
2025/04/12 05:31:47
ID:P/2vHxlbPE
「…………」
『俺はな、お前が最初"駆け込み寺"にきた奴かと思ったんだよ』
「駆け込み寺? それはなんですか?」
『…………』
苦いものを飲んだかのような男の顔。 今までの少し軽薄な男の顔とは少し違う
『なあ、トレセン学園で"1勝"できる割合って知ってるか?
未勝利でも良い。 勿論メイクデビューでもいい。 中央にきてたった一回……
一回でも、"センターに立てる"確率』だ
「……50%ほどでしょうか」
『35%だ。 メイクデビューから夏の未勝利戦線が終わるまでに勝てるのは50%ぐらいかもだがな』
「??」
13 :
アンタ
2025/04/12 05:37:20
ID:P/2vHxlbPE
「メイクデビューも未勝利も同じ1勝というならば50%が勝てる可能性があるなら35%というのは低すぎます。計算が合いません」
『ああ、そうだ――だってその前に入学した30%以上がメイクデビューにも出れないからな。…………能力不足で地方にいくならまだいい。 この30%には沢山の故障者がいる。』
苦い何かを飲み下すような、そんな顔をして男は続けた
『勝てないから、トレーナーがつかないから、模擬レースで結果が出せないから、選抜レースで結果が出せないから』
『みんなそうやってオーバーワークを繰り返して――最悪一生走れなくなる。
地方に行くとか、競争ウマ娘としてじゃなく――歩くことすらできなくなるやつもいる……メイクデビュー前にココを去る30%の中にはそいつらがいて』
『メイクデビューを無事果たした70%のうち――1勝出来るのがその半分、35%ってとこだ。』
14 :
相棒
2025/04/12 05:43:20
ID:P/2vHxlbPE
『トレセン学園に入学できて、メイクデビューをして、人生競争にかけたんだから――1回は立ちたいよな、センター。
一回だけでいい。 人生をかけたもので主役になりたい。
最後にはな、こういう勝てない奴らはこう思うんだ』
――脚なんて壊れてもいいから、それでも私は強くなりたい
「っ……!!」
『学生時代の競争人生だ。 そこからだって十分やり直しが効く。
それでも、自分が人生かけた夢を一回掴みたいって思う奴らがいて
――ハードワークだとしても度外視で1勝を掴むために異常なスパルタをするトレーナーがいるってこった。』
「……それが"駆け込み寺"ですか」
『で、お前三冠ウマ娘になるって言ってたけどさ、この自分の人生、脚と引き換えに1勝ほしいですって奴らに勝てるのか?』
15 :
トレぴっぴ
2025/04/12 05:50:14
ID:P/2vHxlbPE
男はまっすぐ、ミホノブルボンに向き合う
男の背は低い、身長が160のミホノブルボンと殆ど変わらない。
それでもミホノブルボンが一歩だけ足を下げるほどの圧があった
『一生懸命結構。 努力も結構。 お気楽に手軽に勝てるやつなんてそういない。』
『でもな――努力すれば勝てる? 努力を増やしてもっと頑張れば三冠ウマ娘になれる? 嘘つけよ』
『ここにいる連中はみんな一生懸命に、必死に、命も人生も自分の脚もかけてやってるんだ』
『脚が折れたら三冠どころかレースも、トレーニングもできねえ。 脚が折れてでも、一生走れなくなってもいい……それでも大舞台に立てねえのが中央だぞ』
「……確かに、貴方の言うとおりです。 今の私には、無理です。
――ですが、一つだけ出来ることがあります
――この坂を、登り切ります」
16 :
トレ公
2025/04/12 05:54:10
ID:P/2vHxlbPE
『無理だ、やめとけやめとけ。 俺はお前を虐めたいわけでもねえし三冠路線をやめろって言ってるわけでもねえよ。 ただただ根性論でなんとか出来る話じゃねえってのを受け入れろって言ってんだ。』
ミホノブルボンはトモからモモ、ふくらはぎ、かかと、立ち位置も歩き方もどう見ても短距離型だ。
それでも三冠に固執してるのはなにか理由があるのかもしれないが、どういう方向でも"夢を掴もう"とすることには違いない。
それのために必死になるウマ娘をトレーナーが愛さないわけもないのだ。短距離であっても、三冠路線であっても。
――そうでなければ、トレーナーの時間もなにもかも掛けて、この坂路を作っていない
17 :
大将
2025/04/12 05:59:29
ID:P/2vHxlbPE
『この坂路はジュニアじゃさすがにいきなりで一本登り切るのすら無理だわ
基礎から鍛えて身体が出来上がってくる時期からじゃないとな』
4ハロンには届かぬ3ハロン600Mの直線
中山の大勾配の倍の坂路を全力で走り切るのには並ならぬ馬力と、それを全開で回し続ける心肺能力がいる。 メイクデビューもまだのジュニアがやれることではない
「やります。 ……修正します、"やれます"」
『っ』
「私は、この坂以上のものを知っています。だから、やれます」
『……好きにしろ。 まずアップしてこい』
18 :
トレぴっぴ
2025/04/12 06:04:31
ID:P/2vHxlbPE
言っても無駄。 実際にやってみれば痛感するだろう、この坂路はそんな生易しいものじゃない。 そんなただのいじめ、スパルタ、無意味に見えるものだからこそ、公の承認がおりずに一人でやっているのだ。
しつこいまでの陳情に理事長のお情けで土と運搬、盛るための重機を何回かにわけて手配してくれた。 盛り土をならせば理事長はローラーで乗り込んでくれた。
それ以外は全部自分で坂路を、何年もかけて作った。この無為に見えるものには――自分が人生をかけて良いだけの理由と根拠がある。
『直線前の4角からスタートだ。 坂路である直線はレースの最終直線と思え。 登りきったらゴールだ』
「オーダー了解しました。」
パァン
両手を叩く音と共にミホノブルボンが飛び出す。
19 :
トレピッピ
2025/04/12 06:09:05
ID:P/2vHxlbPE
上半身が強そうだ、トレーニングを一切怠ってないどころかかなりハードなトレーニングをしていたのは間違いない。 ジュニア期でそこまで集中してトレーニングをできるのは先程の話と矛盾はするが貴重なほう。 身体が出来上がってないウマ娘も多い、なにより脚や身体が丈夫でないとハードなトレーニングができない。
『だが……動きがガチガチだ、トモが強くなさそうなのに力がありそうってのは無駄な肉が多いんだろうな』
贅肉、ではない。 "無駄な"筋肉だ。 競争に必要な筋肉、身体を支える体幹、腕をふりきり胸を張る背筋……これらが必要以上にあるのだろう。
20 :
使い魔
2025/04/12 06:18:20
ID:P/2vHxlbPE
『まあ……やっぱ無理だろうなあ。』
4角からゴール地点に向かいながらミホノブルボンを見つめる。
坂路に差し掛かるとミホノブルボンの速度は一気に落ち込む。
「くっ、ぅっ……」
モモに、ふくらはぎに、足首に、アキレス腱に
まるでおもりがついたように重い。今までのトレーニングでは感じない重さを感じる。【登りきれない】という男の言葉の意味は、確かにわかる
――だが――ミホノブルボンには一つの大きな才能がある
『さすがに止めるか……お――』
大声でミホノブルボンを止めようとして、異変に気づく
確かにラストスパートとは思えない鈍足さ、正直力尽きて止まると思ったが
確実に、しかし倒れることなく、ゆっくりと
ミホノブルボンは坂を登る。 減速したきり、加速できない坂路を
『……いやおい、そんなノロノロが全力なのに、……まさかまさか』
男の広角が上がる。
根性論を否定し、一生懸命なのは皆そう。 だからそれだけじゃ意味がない
そういった男が見たものは
――幼少期から山でスパルタトレーニングをうけ、そして決して諦めず身体を動かし続けることを愚直に、愚直に繰り返したミホノブルボンが
止まってしまいそうな坂路を、それでも走ることをやめず。ノロノロと――確実に
自分がつくったこの壁のような坂路を登り続ける姿
21 :
使い魔
2025/04/12 06:24:03
ID:P/2vHxlbPE
――脚が重い
――それ以上に心臓が張り裂けそう
――肺が悲鳴を上げている
――心拍数、レッドゾーン危険。肺活量、レッドゾーン危険。
――それでも、私は
『もう少しだ……もう少し―――いけっ、ミホノブルボン!もうすぐゴールだ……頑張れっ、頑張れっ、頑張れっ!』
いつしか
男はミホノブルボンにそう叫んでいた。 アップでようやく自己紹介をした、さっき出会った並程度の才能しかない――努力と一生懸命だけで三冠ウマ娘になろうとしてたウマ娘の名前を、必死に叫ぶ
『いけえっ!ミホノブルボン!!』
「わたしは――」
―――視界がひらける。 その瞬間脚が空を駆けた気がした。
坂を登りきりゴールをした瞬間、レッドゾーンのままフル回転してた心臓が、肺が、からだが全力で悲鳴をあげた
22 :
トレーナーさん
2025/04/12 06:27:51
ID:P/2vHxlbPE
「全身、エラー……活動限界」
『――――止まるなっ!!!』
突然の怒鳴り声に、ミホノブルボンは閉じかけた目を開く。
脚が動かず前のめりに倒れそうになった身体にムチをうちギリギリで脚を一歩前にだし、踏みとどまる
『そのまま止まるな!ジョグでも無理なら歩いてでもいいからゆっくり歩きながらすすんで4角まで回ってこい!! いいか? 絶対止まるな、クールダウンしながら4角だぞ!!』
ミホノブルボンはもう返事もできず、歩くような速度でゆっくりと歩をすすめた
23 :
トレぴ
2025/04/12 06:35:52
ID:P/2vHxlbPE
『おいおいおいおいおい! お前なにもんだよ、あの坂路のぼりきっちまった』
「……いえ、あれはもう最後は走ってたというようなものでは」
『関係あるもんか、お前本当にすげえよミホノブルボン!最高に根性がある……それに一本でもアレを登り切るまで動けるのはほんとすげえんだって』
確かに遅い
しかしこの坂路トレーニングをするのに必要なのは最低限の馬力だ。 たった600Mのトレーニングとはいえ、それを途中で切り上げるのと最後まで登りきり、止まることなくクールダウンが出来るかは大きい。
「私は、山でくらしてました。 だから、勾配のある坂を走り回ってました」
だから、もう少しうまく走りきれると思ってました。 心臓が、破れそうでした。」
『ああ、普通は心肺に限界が来てどんなに頑張っても限界が来る。文字通り脚がとまってリタイヤだ。 本当によくやった。』
「あの、飯山トレーナー」
初めて男を……飯山と、トレーナーと呼ぶ
「このトレーニングは、心肺機能にも効果がありますか?」
『……ある』
24 :
お前
2025/04/12 06:43:29
ID:P/2vHxlbPE
「そう、ですか。 では――このトレーニングを続ければ、3000Mを走り切れますか?」
『……レースの3000M……菊花賞の話だよな?』
「はい、私は短距離適正なので菊花賞を走り切るスタミナが必要です。
スピードも、心肺機能もパワーもすべてが必要です。 これをつづければ――私はクラシックを戦い切れますか?」
『…………そりゃ無理だ――普通はな』
「普通は……ですか?」
『そりゃ心肺機能もつく、競争に必要なパワーもスピードもつく。それでも、短距離ウマ娘がクラシックまでに3000Mを走り切る心肺機能を得るのは難しい。』
「では、普通ではないやり方なら可能ですか」
飯塚はミホノブルボンを睨むように見る。
『可能じゃない、だが……不可能って話でもない。』
「では飯塚トレーナー、私と契約してください。 」
『いやいやいや待てよブルボン。 不可能じゃないけど出来るよって話じゃねえよ? そもそも……うーん……』
「脚を壊すか、壊れなければ走り切る心肺能力がつくかということでしょうか」
25 :
トレーナーちゃん
2025/04/12 06:47:55
ID:P/2vHxlbPE
『…………』
「トレーナー、私はずっと山でハードなトレーニングをしてきました。
トレーニング内容だけでいえばトレセン学園でのトレーニングよりずっとハードです。
だから……私はトレセン学園でも三冠ウマ娘として努力できる自信がありました。」
『……』
「でも、それでも私は"短距離なら並"のウマ娘でしかありませんでした。
それじゃダメなんです。 私は、三冠ウマ娘になりたい。
私は、丈夫さなら自信があります。 父とのトレーニングでも脚を壊したことはありません。」
『……この坂路はトレーニングで故障する馬鹿な根性論を減らすためのもんだ』
26 :
モルモット君
2025/04/12 06:51:45
ID:P/2vHxlbPE
『ウマ娘ってのは、走れば走るほど脚に負担がかかって故障する。
一度故障すればまた故障しやすくなる。 その脚をかばえば逆の足がぶっ壊れることもある。
でもな』
「……はい」
『ウマ娘が強くなるには、走るしかねえ。 だったら出来るだけ低負荷で最大効率のトレーニングが必要だ。
そしてそれの実績を、坂路トレーニングの実績をトレセン学園が認めてこの坂路トレーニングを一般化する必要がある。 勿論坂路のトレーニング場もトレセン学園にはある。タイム計測もあるが大した勾配じゃない。 タイムを取るには良いだろうがトレーニング効率はそんなでもない』
27 :
トレピッピ
2025/04/12 06:55:33
ID:P/2vHxlbPE
『俺は、実績が欲しい。 実績があればこれの脚部への安全性が認められる』
「……三冠ウマ娘は実績にはなりませんか?」
『そのためにブルボンを実験台にしろってか? 馬鹿言うな。 ウマ娘の脚砕いてまで認められたかねえよ』
「砕けません。 私の脚は強いです、スピードもスタミナもパワーも足りないですが……私の夢と身体はとてもとても丈夫です。」
『……』
「私は、トレーナーを信じます。 トレーナーも私を信じてください。」
「私は、必ずあなたのオーダーを完遂します。」
28 :
トレーナーちゃん
2025/04/12 06:59:17
ID:P/2vHxlbPE
『負けたよ、オーケーわかった。 お前を三冠ウマ娘にすりゃいいんだな?』
「はい、宜しくお願いしますトレーナー。」
『その代わり、俺のオーダーは絶対だぞ。 それ以下も、それ以上も許さねえ。
俺の指示以外の自主トレも禁止、食生活にも口出しをするけどいいな?』
「はい、わかりました。」
メシは絶対食え、トレーニングでメシが食えなくてもなんとしてもつっこめ
21時には就寝できるように風呂に入ること
それだけを指示し、翌日ミホノブルボンに尋ねる
29 :
マスター
2025/04/12 07:05:42
ID:P/2vHxlbPE
『昨日はメシちょっとは食えたか?』
「おはようございますマスター。 昨日の食事は人参ハンバーグが1kg コロッケが1kgと……」
『いやいやいやいやいやまってまってまって?』
「?」
『聞きたいことがもう複数あるんだけど、まずマスターってなに?』
「はい、私を管理しすべてにオーダーをいただく存在としてトレーナーの事を"マスター"と呼ぶことにしました。」
『……お、おう? で、メシ食えたの? そんなにいっぱい? なんで?』
「??? たくさん運動したらご飯がとても美味しかったので。食事制限をしたほうがいいでしょうか?」
『……嘘だろこいつ、あんだけ心肺限界まで回してメシ食えるのか?』
もちろん喜ばしいことだが競争能力以外の必要な事はすべてクリアしてる事になる
とても丈夫で、トレーニングで食欲が落ちず、愚直になにかをこなす
『……じゃあ、俺も覚悟決めますか。 んじゃ行こうか』
「どこにでしょうか?」
『もちろん――お前の親御さんとこだ』
30 :
相棒
2025/04/12 07:06:05
ID:P/2vHxlbPE
1話終了 2話は明日以降
31 :
お姉さま
2025/04/14 10:49:17
ID:eC0EMjgj5.
ほす
32 :
アンタ
2025/04/14 18:57:44
ID:hpHokQLCjk
ミホノブルボンと飯塚トレーナーは電車に揺られる
トレセン学園のある都市からかなり遠いそこに特急を使いさらに鈍行に乗り継ぐ
平野から山あいに景色が変わっていき
『嬉しそうだな、ブルボン。』
「はい。 学園に入学して以来父とは殆ど話もできてませんでした。」
『スマホがあるだろ。 親御さん厳しくてそういう電話も嫌がるのか?』
「否定します。 私の体質による問題でスマートフォンで父と通話が殆どできません。
通話をする時は他の生徒にお願いしてスマホを持ってもらう必要があります」
『?? なんでまたそんな面倒な事を』
「私は得意体質で電子機器に触れると壊してしまいます。」
やはり不思議そうな顔で眉を寄せるトレーナー
しかし車窓から見える山々を見つめるブルボンの表情に、細かいことはどうでもいいか。と話を忘れる。
33 :
トレ公
2025/04/14 19:04:23
ID:hpHokQLCjk
「マスター」
『そのマスターってのやめろ。 俺はトレーナーであってお前の御主人様でもなんでもないんだ。 お前の親御さんに娘がトレーナーにマスターなんて呼ばせてると思われてみろ。 契約だトレーナーだ担当だの話の前に殴り倒されるわ』
「否定します、マスター。 この呼び方はもう父も承諾済みです」
『……は?』
「昨日、食後寮室のフラワーさんにお願いして父と通話をしました。 その時に新しい担当トレーナーが決まったことと、その手腕から"マスター"と呼ばせて頂く事にしたと伝えました」
『お、おう……で、お父様はなんと?』
「なんと、とは?」
『いやその俺に対してなにかこう、ほら、苦情というかそのマスター呼びにたいして苦言というか』
「理解不能、父は頑張れと応援してくれました。マスター呼びに対しては特に言及はありません」
『…………なんかお前んち行くのこえーなーこえーなー』
34 :
アンタ
2025/04/14 19:13:38
ID:hpHokQLCjk
「マスター、私から質問があります」
『ん、なんだなんだ?』
「前のトレーナーは家族に挨拶はしませんでした
周囲でも担当契約を結んだことで家族に挨拶をするという話が私のメモリーにはありません。
担当契約を結ぶ際に"オヤゴサン"に挨拶をするという理由があるとは思えませえん」
『あー……』
トレーナーは電車の天井を仰ぐ。
何かを考えるように、一度車窓から景色を眺めて
ミホノブルボンの瞳をまっすぐ見つめる
『お前、どうやったら3000Mを走りきれると思う?
3000Mを走り切るなんて実は簡単なことなんだ』
35 :
使い魔
2025/04/14 19:20:32
ID:hpHokQLCjk
息を呑み、トレーナーの言葉の続きを待つ
トレーナーは意地悪なガキのような顔をして
『3000Mゆっくりマラソンで走れば良い。 ジョグでもいい。 そうすりゃ3000Mだろうが5000Mだろうがいくらでも走りきれる』
「……」
『もちろんビリッケツだ。
重要なのは"どうやったら1着になれるスピード"で、2000Mを、2400Mを、3000Mを、走りきれるか、だろ。 そもそもお前はスプリンターだ。 それに……そのスプリンターとしてもスピードは足りてない』
「…………はい」
『ないないないない、ないもの尽くし。才能ある奴らが必死こいて努力してそれでも届かないG1、しかも人生一度きりのクラシック三冠を全部勝つための能力
それはスタミナだけじゃない。
今のお前を根本から――お前の身体も脚も全部作り直す必要がある』
「作り………直す」
36 :
トレ公
2025/04/14 19:26:33
ID:hpHokQLCjk
『そうだ。 お前は幼少期からずっと続けてきたハードトレーニングで大きなメリットとデメリットを抱えてる。』
「デメリット……ハードトレーニングは、いけない事なのでしょうか?」
『いいや、お前はそのハードトレーニングのおかげで俺のこしらえた坂路を登りきった。 それは今殆どのジュニア級のウマ娘ができるこっちゃない。
お前のやってきたハードトレーニングは無意味な事でも逆効果だったわけでもねえ、自信もて。』
「はい、マスター。 ステータス状況"安堵"です」
『だが、その卓越したパワー……いや馬力のために色々と無駄な筋肉がついてる。
無駄っていうか、非効率的な筋肉だな』
37 :
貴方
2025/04/14 19:32:20
ID:hpHokQLCjk
「筋肉に非効率があるのですか?」
『早く走るために筋肉を鍛える。 筋肉を鍛えるってのは筋繊維にダメージと栄養と睡眠……休息を与え超成長を起こさせるってことだ。 ここまではわかるな?』
「はい、習ったことはあります」
『筋繊維を負荷などで傷つけ、そこに栄養と休息を与えると傷に耐えられるように前より強靭になる。 当然ここで筋肉が重くなる。お前の身体の重量が増すわけだ』
「はい……あーー」
『お前は身体にウェイトを巻きまくった状態で走ってる。あの坂を何度も登り切るための身体づくりからしなきゃならん』
「それは、どのような身体づくりをするんですか」
『簡単なこった――坂路しかしない』
38 :
トレ公
2025/04/14 19:58:56
ID:Q/YY/qjh6Q
『簡単なこった――坂路しかしない』
「それだけ、ですか?」
『お前には十分すぎる馬力がある。 さっきも言ったがあの坂路を登り切る基礎体力や身体ってのはまずそこから造る必要があるはずなんだ。
でも、お前はアレを登りきれる能力がある。ならもうひたすらそれをやる。 坂路に不要な筋肉は使われないから勝手にシェイプアップされる。 ひたすら坂路をはしるためのロボみたいにそのための身体になってもらう』
「わかりました、マスター。 オーダー"坂路を登るだけのウマ娘になれ"を今後遂行します」
『いや、まってまって? なんであっさり納得してんの?
不安になったりしないの? 色んなトレーニングがあるのに坂路しかしないとか本当に大丈夫ですか? とかもっと別のトレーニングを混ぜるのが王道なんじゃないですか?とかさ』
「不要です。 私はマスターのオーダーを信じます。なぜなら」
――こんなに私を真剣に、3000Mで1着になれる方法を考えてくれる人だからです
39 :
アナタ
2025/04/14 19:59:54
ID:Q/YY/qjh6Q
『……』
「私の適性は短距離です。 長距離どころか中距離にもまったく適正はありません。
過去のトレーナーも短距離路線に切り替えることを推奨していました。
周囲も同様でした。 私は才能があるわけでもありません、短距離なら速いわけでもありません。
長距離にも中距離にも才能のない並かそれ以下の短距離馬です。」
ブルボンの表情には憂いも悲しみも自嘲もない。
ただ、事実を述べるように言って
「だから、マスターがはじめてです。 出来るかどうかではなく――どうしたら――3000Mで1着になれるか
どうしたら、私を三冠ウマ娘にできるかを真剣に考えてくれた人は
だから――私はマスターの言葉をすべて信じます。
脚が折れるまで、いいえ、折れても復帰したらマスターのオーダーに従います。
ですから、私がマスターのオーダーに拒否や疑問を抱く必要がありません」
『そうか……そう、か』
嬉しくないはずがない
学園の関係者には狂人扱い、ときに駆け込み寺としてたった1勝を掴むためにやってはいけないハードなトレーニングをする
そのせいでトレーナーの間では"壊し屋"なんてあだ名がついた
そんな自分の理論をただ信じてくれる人がいる
40 :
トレーナー
2025/04/14 20:00:32
ID:Q/YY/qjh6Q
『じゃあ、先に言っておく。俺は超高確率でお前の脚を壊すトレーニングプランをやらせようとしてる』
「はい」
『……もうちょっとなんか、こう、ない?』
「ありません。 その必要があるからマスターがそのプランを選んだのだと推察しました。」
『いやまあ、そりゃその通りなんだけど……』
「それに――そのミッションをクリアしたら、三冠ウマ娘になれるのですよね?」
『ああ、なれる。 菊花賞までにお前に最強の脚をプレゼントしてやる。』
「承知しました。 マスターのオーダー通り、脚を壊さずミッションを完遂します。」
『で、まあ非常識……というか、俺がやるプランってのが"医学的に見てもタブーで絶対やってはいけないコト"をする。
前提が脚が壊れるであろうしこんなのはやってはいけないわけだ。
だから、お前の親御さんにも先に挨拶する。
娘さんの脚をぶっ壊させてください、一生歩けなくなるかもしれません。 でもうまく行ったら三冠とれます。
ってな。 多分俺はお前のお父さんからぶん殴られる』
「それは」
『覚悟決める。って言ったろ? 嘘でも五体満足でお返ししますってのが常識だ。
でもな……こんな非常識なURA人生選ぶならもう正直に言うしかねえんだ。 それぐらいしないと』
「私が三冠を取るのは不可能」
41 :
アネゴ
2025/04/14 20:10:55
ID:Q/YY/qjh6Q
『……そうだ。 真っ当な一流どころが毎年毎年毎年3冠を目指す。
仕上がりが早ければ2000Mならと長距離には向かないウマ娘が皐月賞に挑戦し
第一コーナーで勝負を決めたいウマ娘が枠順と奇跡に祈ってダービーに挑戦する
春までに頭角を出せなかったウマ娘、2400でも距離が足りなかった長距離向きも含めて大成したウマ娘が3000Mでぶつかり合う菊花賞
一個取れるだけでとんでもないことだ。それを3つ取らなきゃいかん。 こいつらを全部ぶちのめさなきゃいけないんだ。
そんなの並の短距離ウマ娘ができるわけねえだろ、ちょっと才能あるウマ娘がクラシック回避して短距離路線行ったら無双して伝説になりました~……とか漫画かよ、それと一緒だ。 化け物が揃ってる中そいつらを全員ぶっ倒す化け物になるにはシンプルに一番つよくなるしかねえ』
「それでも、私は三冠を取ります。 マスターのオーダーをすべてコンプリートします。
そして、マスターが正しいことを証明します。 マスターの造る、私の脚で」
『……そうだな。まずは親御さんに承諾して貰うことから、だな』
「? 父はすぐ了承すると思いますが。 きっと喜びます。」
『そんなワケねえだろ……娘の脚を壊すような男だぞ』
『ですが……その坂路を登り切るようになるほどのスパルタなトレーニングをしていたのが父です』
『…………』
「…………」
『サンキューブルボン、俺ちょっと緊張で胃が痛くなってたとこだわ。ちょっと楽になった』
「???」
42 :
キミ
2025/04/14 20:23:44
ID:Q/YY/qjh6Q
[遠路はるばるお越しくださったのに、なんのもてなしもできず本当に申し訳ない。]
『いえ、我々も日帰りで帰らなくてはなりませんから。多少複雑な話ですので長くなります、本題に入らせて頂くのは速いほうがいいです』
畳の上
挨拶をしてブルボン父と正座で向かい合うトレーナー
同じく正座をして向かい合うブルボン父、 その様子にミホノブルボンは父に
「お父さん――マスターに異常を検知しました。 非常事態です。」
『……はい?』
[ああ、いや、ひょっとして……挨拶とか喋り方のことかい?]
「肯定します。 マスターは普段もっと――比喩表現"ワイルド"であり"フランク"です。このような喋り方をしません。 マスターのステータス"緊張"の可能性がありあす。 今すぐリラックスさせる事を提案します」
『ブルボンさん? 大人というのはね初対面の相手には敬意をもってお話をするんでございますよ? だからふだんとはちょお~~っと違う喋り方になっちゃうんですよ』
「危険です、マスター、お父さん。」
[あっはっは、申し訳ありませんトレーナーさん。 娘はちょっと変わっておりまして。 マイペースというか独自の感性をもっておりまして。 いやはやお恥ずかしい。]
「いえいえ、とんでもないです。今回はその」
[ええ
私もトレーナーだった人間です。 担当と契約をしただけで挨拶に伺うことが普通ではないのは存じてるつもりです。
娘からは担当として契約をした。 と伺ってますが……なにか大きな問題があったのではないでしょうか?]
『…………』
[もしかして、娘の夢である三冠ウマ娘の事ですか?]
『よく、お気づきで』
43 :
お兄さま
2025/04/14 20:30:37
ID:Q/YY/qjh6Q
[ええ、三冠という夢を熱く語った私の影響で、娘はずっと三冠ウマ娘になることを固執していました。
理解はしてます……娘はどう見ても短距離適正です。 親の贔屓目にみても才能ですべてを解決できるわけではない。
それでも――娘は三冠ウマ娘になろうとしてる。]
『……その件で
……その件で今回は挨拶と、お許しを得たく参上いたしました。』
[お許し? それは、一体]
『俺たちは、三冠路線……いいえ、三冠ウマ娘になるためにミホノブルボンのレース人生を歩むことにしました。
しかし、そのためには大きな大きなリスクを背負う必要があると
そのリスクを常に背負ったまま、クラシックが終わるまで戦い続けることが必要だと』
トレーナーの言葉がとまる。
息を飲み込み、吐き出す。 なんども、なんども
大きなトレーナーの呼吸音だけがしばし続いて
『そのトレーニングプランは、前提として
……前提として、 脚を壊す可能性のほうが高い事をご理解いただくためにご挨拶にきました。』
44 :
貴方
2025/04/14 20:36:44
ID:Q/YY/qjh6Q
「……っ、お父さ――」
ブルボンの父は立ち上がっていた
ブルボンが知らない顔をしている。 こんな顔をした父は見たことがない
父は立ち上がり、ブルボンが見たことがない顔で、目で、トレーナーを見下ろしてから……大きく、息を吐いた
[大変、みっともないところを見せました。 申し訳ありません。]
深々と頭をさげて平伏する父を、トレーナーが狼狽したように制する
「お顔をあげてください。娘の脚をこわすような事を言われて黙ってる親はいません。 お父様の反応は至極全うで正統なものです。」
[いえ、貴方の言葉を最後まで聞けなかった。
私もトレーナーだった身です。 ウマ娘の脚が脆いのはよく知っている。 だからこそ、脚に細心の注意を払う必要があるというのも知っている。
――そして、それをいたずらに博打で壊すコトを是とするトレーナーなどいない。
ましてや、それをわざわざ娘の親に伝えるために会いに来るトレーナーがいるはずがない]
『……』
[あるんですね、貴方の中に――娘を、三冠ウマ娘にするプランが]
45 :
お兄さま
2025/04/14 20:47:30
ID:Q/YY/qjh6Q
『アスリートのトレーニングの基本は、超回復を目的とした筋肉へのアプローチと心肺機能を高める有酸素運動です。
このうち筋肉の超回復の基本は負荷などで傷をつけた筋繊維に栄養と休息を与え、筋繊維が完全に回復したときにもっとも大きな強化が起こります』
『私のプランでは坂路によって強い負荷と心肺機能の向上の両立のために完全な回復を待ちません。 意図的に筋繊維が完全回復をする手前での同一のトレーニングをします。』
[……それは、ハードというより]
『ヒトミミのマラソン選手などが筋力を維持しながら心肺機能を高めるための手法です。 勿論これは本来マラソンとは比較にならない速度と脚部への反動が生まれるウマ娘のトレーニングとしては禁忌です。』
[筋肉への負担は蓄積します。 その疲労の蓄積は筋肉のクッション効果を減らして甚大な故障、事故へのリスクが増えます
……脚が壊れるのも当たり前。 脚が壊れる前提のプランですね、確かに]
46 :
お前
2025/04/14 20:52:41
ID:Q/YY/qjh6Q
『私の知る限り……いえ、他の手法で心肺機能をいくら向上させても限度があります。 3冠になるには、スピード、パワー、スタミナすべてが高次元で必要です
今からどんなトレーニングをしても菊花賞までに3000Mを走り切るスタミナをつけさせる方法が、これしかありませんでした。
もっとも心肺を鍛えられ、筋力を向上させられる坂路トレーニング。 それで限界ギリギリ……いえ、それ以上の危険なトレーニングを、故障させないように続けるしか手がありません。
父親として娘の脚を壊すようなことが許されるわけありません。
ですが、
ですが……』
トレーナーは深く、平伏する。
土下座をして、大きく叫んだ
『娘さんの脚を、俺にください。 彼女を三冠ウマ娘にするには、これしかないんです!』
47 :
ダンナ
2025/04/14 20:59:19
ID:Q/YY/qjh6Q
[……]
すぅ
はぁ
今度は、父が深く、深く呼吸をしていた。
なにか考えるように。思い悩むように。
[バカバカしい、とは思いませんでしたか?]
[短距離向きの、長距離の適正なんかこれっぽっちもないウマ娘が三冠を狙うなんて、そんな荒唐無稽なわがままのような事を強請るのは]
『わかりません。 俺はトレーナーです。 彼女たちの夢がなんなのか、どれほど大きいのかはわかりません。 適当に"なれたらいいな"と思うウマ娘もいます。 身の程をわきまえないウマ娘もいるかもしれません。
でも、彼女の根性も、覚悟も、努力も、本当です。
だったら――俺がそれを出来る可能性があるならやらせるしかないじゃないですか。
全力で――必死に――その夢へ向かうのを支えるしか無いじゃないですか』
[でも、父親としては脚は壊してほしくない。
ウマ娘が大きな事故を起こせば、走るどころか一生歩けなくなる事もある]
[ブルボン――覚悟はできているか? 三冠か、脚一本か――お前が選びなさい]
ブルボンは、まっすぐ父を見ながら即答した
「両方です。 マスターは私を壊さず、三冠を取らせてくれます」
48 :
トレーナーさん
2025/04/14 21:05:43
ID:Q/YY/qjh6Q
「マスターだけが、真剣に私を三冠ウマ娘にする方法を考えてくれました。」
「私はまだ浅慮で、頑張れば、もっと努力すれば――そうしたらなれると思ってました。でも、そんなことは全然なくて――でも、マスターは真剣に、その危険も考えながら方法を考えてくれました」
ブルボンは正座をして父に向き、頭を下げる。
「お父さん……私は三冠ウマ娘になりたいです。
でも、きっとこのままではなれません。 そんなのはいやです。
私はマスターの事を信じたい……この人といっしょに、戦いたいです。」
[はあ……頑固なところは母さんみたいだ]
[飯塚さん。]
[この子は変わり者で、それでいてちょっと抜けていてね]
[とても不思議なことを言い出したりする。]
[人見知りはしないんだがあまり折り合いがつく相手が少ないんじゃないかと心配していました。でも貴方のようなトレーナーに会えて本当に良かった]
父は深々と頭を下げる。 平服でもなく土下座でもなく、心から娘のことを頼み込むように
[どうぞ、娘をよろしくお願いします。]
[脚一本覚悟した娘です、もし迷うことがあっても――その覚悟で進んでください]
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