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【安価SS】飛び級少女がトレセン学園でGIを目指す話
1 :
◆wuHHR64l1og
2024/07/05 05:30:15
ID:jpgfrBfaDo
がたん、ごとん。だっだっだっ……。
電車に揺られ、乗り換えて、後は駅から走って、合計1時間……今はお昼の1時くらい。
そこに、わたしの目的地はありました。
「わぁっ……!!」
そこは……門の外から見えるだけでも……とっても広くて、大きくて、通っていた小学校の何倍でしょうか?
明日から通うことになる、トレセン学園を目の前にして、わたしは思わず驚いちゃいます。
たぶん、耳もぴょこぴょこしてるはずです。ウマ娘なので!
学園に見とれていると、緑の帽子を被った女の人が話しかけてきました。
「あなたは……明日からの転入生の方ですね?お待ちしていましたよ。私、学園の事務担当……駿川たづなと申します」
「たづなさんですね!よろしくお願いしますっ!!わたしの名前は______」
わたしの方もきちっと自己紹介をした後、たづなさんに案内されて寮にやってきました!
ここはどうやら、栗東寮というらしく、寮長のウマ娘さんが案内を引き継ぐそうです!
「おやおや、本当にポニーちゃんがやってくるとはね。あ、私の名前はフジキセキ。
これからよろしくね」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
優しそうな寮長のお姉さんに案内されて、私は寮の中をひと通り見て回りました!
そして……。
「______じゃあ、キミの部屋なんだけど……色々あって誰か2人の部屋に3人目として入ってもらうことになっているんだ。その部屋は……」
>>3(公式で判明済み同室コンビの部屋。調べて★)
192 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/24 19:31:40
ID:LfzwbDgqJw
そしてレース当日。
前日から航空機で現地入りし、ビジネスホテルに宿泊したシュガーとトレーナーは、さっそく札幌レース場へと足を運んでいた。
「どきどき、です」
「東京とは気温差があって少しばかり寒いし、緊張してたら筋肉まで固まっちゃうわよ?」
「そこはだいじょうぶです!ホテル出るまでしっかり体操してたので!」
シュガーにとっては2回目の公式戦。初陣よりは緊張感が増している。
が、札幌の寒さも緊張もはねのけて、彼女は走るのだ。
当日の天候・バ場状態
>>193
193 :
お前
2024/08/24 20:09:16
ID:ur/MDPxx9A
曇 稍重
194 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/24 21:10:13
ID:LfzwbDgqJw
そしてレース当日。
前日から航空機で現地入りし、ビジネスホテルに宿泊したシュガーとトレーナーは、さっそく札幌レース場へと足を運んでいた。
「どきどき、です」
「東京とは気温差があって少しばかり寒いし、緊張してたら筋肉まで固まっちゃうわよ?」
「そこはだいじょうぶです!ホテル出るまでしっかり体操してたので!」
シュガーにとっては2回目の公式戦。初陣よりは緊張感が増している。
が、札幌の寒さも緊張もはねのけて、彼女は走るのだ。
はねのけられないものが、一つだけあった。
それはあらゆる生き物が抗えない自然の摂理……天気である。
夜間降った雨の影響で、現時点では稍重な芝状態だ。
控え室のテレビで会場の天候を聞きながら、トレーナーは少し不安な気持ちになっている。
(札幌レース場の芝は水を吸いやすくて重くなりやすい洋芝……シュガーのバ場適性がはっきりしてないけど、2戦目でこれにぶちあたるのは厳しいかも)
シュガーライドの圧倒的な終盤加速力……それはやわらかく重い芝でも発揮できるものなのか、気がかりはそこにあった。無理して全力を出せば、通常の芝よりも故障リスクが高まるかもしれない。
「レース、たのしみだなぁ!」
既に体操服に着替えて準備は万全の様子なシュガーライド。
“わくわくしている”シュガーに、今の状況をどう伝えようかと悩むトレーナー。
どう伝えるか 「
>>195
195 :
お兄さま
2024/08/24 21:44:01
ID:ur/MDPxx9A
シュガー、今の札幌レース場のバ場状態を簡単に言うと「水を吸った高野豆腐」のようなものだ。
普段のバ場が「乾いて固い高野豆腐」なら、今ここ札幌のバ場は「水を吸った高野豆腐」のようにとてもやわらかくて不安定なバ場になっている。
いつものバ場のつもりで走ると通常の芝よりも故障リスクが高いから、1着になってもらいたいのは勿論だが...決して無理だけはするなよ。
196 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/25 05:55:38
ID:uo1xRLbbhA
(トレーナーさんは女性なんですけどね!?)
197 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/25 06:10:31
ID:uo1xRLbbhA
「ねぇ、シュガー」
「なんですか?トレーナーさん」
きょとんとした表情で振り返るシュガーに、トレーナーはこう言葉をかけた。
「シュガー、今の札幌レース場のバ場状態を簡単に言うと「水を吸った高野豆腐」のようなものよ」
「こ、高野豆腐ですか!?」
「ええ。普段のバ場が「乾いて固い高野豆腐」なら、今のバ場は凄く柔らかくて、重い。ヒトレベルで見てもかなり走りづらいわね。つまり……無理はしないで」
トレーナーからの忠告を聞いて、シュガーライドは表情を固める。数秒の間、けわしくなる。そして。
「わかりましたっ!でも、やっぱり走るなら勝ちたいので!できるかぎりやってみます!」
すぐに表情が明るくなり、いつものようなはつらつとした返事をした後、シュガーはターフへと向かっていった。
(大丈夫かしら……)
根本的な解決に至ることはない。だが、やはりトレーナーとしても……安全な完走と輝かしい勝利を両立させたい。
だからもう、観客席から祈るしかないのだ。
札幌ジュニアステークス 10人 芝 稍重
シュガーライドの枠
>>198
198 :
お姉さま
2024/08/25 06:25:15
ID:FnR1Ac3Xuc
8番
199 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/25 10:09:11
ID:uo1xRLbbhA
『さあ、ここ札幌レース場でまもなく始まります、GIII札幌ジュニアステークス!
昨晩の雨の影響で、稍重の芝状態。デビューしたての若駒たちはどう挑むのか!?』
実況の後、出走ウマ娘たちが続々とターフに姿を見せるその中に、シュガーライドの姿もあった。
(あ……たしかに、いつもの芝とは違います……)
ゲートへ向かう際、一歩一歩芝を踏みしめ、感触を確かめるシュガー。
普段とは違うその地面に心身を慣らすように、じっくりと歩く。
今回も1番人気として推され、本人もやる気は十分だ。
『各ウマ娘、次々とゲートイン。1番人気シュガーライドは外枠8番……』
ほぼ大外となる8番ゲートに収まることになったシュガー。
この重バ場の中、大外ではロスが大きいという見解もある。
それを期待の新星がどう攻略するかがこのレースの話題となっていた。
(お客さんたちの……ねっき?もあって、寒いっていうのはあまり感じないです……少し暑いくらいかも?)
ゲートの中で構えながら、シュガーは会場の熱気を肌で感じていた。それは札幌の寒さを吹き飛ばすレベルで、観客から送られているものである。
GIIIでこの熱量なのだから、GIともなればどれほどなのだろうと胸を高鳴らせている間に、出走ウマ娘が全員ゲート入りをした。
『さあ、各ウマ娘ゲートに入り体制完了。今……スタートしました!』
レース展開
>>200
200 :
トレーナーちゃん
2024/08/25 10:15:33
ID:MgrNa1BaLk
スタート直後、稍重のバ場で転倒する者も居たが特に大きな混乱もなく第1コーナーへ
そのまま第2コーナーも特に変化なくクリアし向正面へ。この時点でシュガーは前から3番目
第3コーナーを抜け、最終コーナーを超えて最後の直線に入ったところで仕掛けるシュガー
驚異の差しとまではいかないが2番手、先頭をあっさり抜き去り後続と2バ身差でシュガー1着
201 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/25 12:49:57
ID:uo1xRLbbhA
ゲートが開く。
曇り空の札幌レース場に、10人のウマ娘が一斉に飛び出していく。
『誰が行くのか……おっと7番が転倒!後方に位置取る形となってしまいました』
稍重なバ場に脚を取られてしまい、1人が軽く転倒。前に行こうとしていたが、後方集団に入ることになった。
(あ、危なかったです!)
シュガーライドは後方から外目3番手の位置。転倒したウマ娘を回避するのに、少し前の方に位置取った流れだ。
(でも、マイルってペースが速いんですよね?それならここの方が上がって行きやすそうですっ!)
2000mの中距離よりも距離が短い1800mのマイルレースは、全体的にウマ娘たちのペースが上がる。なので前を狙いやすい位置にいるこの状況は、シュガーにとって有利と思えた。
『各ウマ娘、平坦さが特徴の直線を駆けて、1コーナーにかかります。先頭は現在4番。逃げています。それを追うように2番。最内1番は現在4番手、虎視眈々と前を狙っているのか』
半径の大きな二つのコーナーを抜けて、ウマ娘たちは向正面へ。
1000m通過タイムは62秒8とややスロー。3コーナーへかかる頃には後続のウマ娘たちのペースも上がっていく。
『3コーナー、そして4コーナーへ。各ウマ娘、ペースが上がっていきます。1番人気シュガーライドは現在3番手。さあどこで仕掛けるのか!』
マイルのペースの速さに押されたシュガーは、前から3番目の位置まで来ていた。
(すっ、少し速すぎたかも……いや、いけます!)
長い距離への適性はあるものの、短めでペースが速くなりがちなマイルレースには少し身体が慣れないシュガー。しかし、彼女の瞳に曇りはない。稍重な芝であっても他のウマ娘に後れをとっておらず、いつでも加速していける状況だ。
202 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/25 12:56:22
ID:uo1xRLbbhA
『さあ4コーナーを回って、最終直線に入った!先頭は変わって1番!最内から切り込むように前へ進出!』
観客の大歓声を浴びる最終直線。ロスの少ない最内を走っていた1番のウマ娘が先頭に立つ。
(わたしもっ、行っちゃいますっ!!)
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ここでシュガーライドもラストスパートをかけに行く。
まず前のウマ娘を抜き、そして1番のウマ娘へ迫る。
『外からシュガーライドっ!並んだ!並んだ!残り100m!シュガーライドあっさりと突き放し、2バ身差でゴールインッ!』
並びかけると同時にさらにギアを上げ、あっという間に追い抜く。そしてその勢いのまま突き放していき、シュガーが先頭でゴールしたのだった。
「はぁっ、はぁっ……やったー!!」
両手を挙げて喜ぶシュガーライド。歓声が彼女を包む。
(少し苦しい場面もあったかしら?でも、あの娘はやりきった……)
無敗の2勝目。声に出さずとも内心で大喜びするトレーナー。
そして、新たな目標を決めたことを、シュガーは控え室で伝えられた。
「シュガー。次は……GIよ。12月の中山レース場で、ホープフルステークスに出るのよ」
「つ、ついにですかっ!やった!GIっ!GIっ!」
トレーナーからGI出走の話を聞いて、レース疲れもないように小躍りで喜ぶシュガーライド。次勝てば、彼女の夢の一つが果たされる。
今後の展開
>>203
~
>>206
203 :
お前
2024/08/25 13:07:34
ID:w2LRFdRZvM
ホープフルステークスはシュガーが初めて挑むG1だ。
というわけで先達に意見を聞こうと思いたち、ホープフルステークスを勝ったメジロブライト、ナリタタイシン、アグネスタキオン、アドマイヤベガ(何れか1人でも大丈夫です)に話を聞きに行くことにした
204 :
相棒
2024/08/25 18:32:03
ID:MgrNa1BaLk
1着だと賞金が7000万円も貰えるんですか!?
205 :
お姉ちゃん
2024/08/25 20:13:29
ID:n/CF2o/1Xs
スパートはウマ娘それぞれ、いつでもよいのです〜
わたくしは自分だけのタイミングを
トレーナーさまに教えて頂きましたわ〜。
206 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 05:15:59
ID:lGbejPbPog
あげ安価下
207 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 10:25:06
ID:lGbejPbPog
過疎ってしまうのは仕方ないから書きますか...
208 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 13:25:24
ID:lGbejPbPog
札幌ジュニアステークスでの勝利から数日後。少し涼しくなってきた9月の初め。
シュガーライドは、初のGI・ホープフルステークスに向けて、
ホープフルステークスの出走・勝利経験のあるメジロブライトに話を聞くことにした。
トレーニングを終えてすぐ、ブライトの分も水を持ってきたシュガーは、すぐさま彼女にそれを手渡すと話の時間を作ってもらえるようお願いする。
ブライトは快く応え、水分を摂りつつ木陰での雑談に入った。
「アドバイス、でございますか~?」
「はいっ!今度、わたしも出るんです、ホープフルステークスに!」
「なるほど~」
初めてのGIに目を輝かせるシュガーに、ブライトは少し言葉を考える。
(何を言えば~……よいのでしょうか?)
共に併走をする中で、目の前の少女は凄いスピードで成長を遂げている……いつかは自分も追い抜かされるかもしれない、と思うほどに。
そんな少女に、自分がかけてやれる言葉は何だろうかと。
考えるブライトだが、一向に浮かばない。
(……そうですわ!“わたくし”ではなく……)
その時だった。ふと脳裏に浮かぶのは、自身がトレーナーから言われた言葉。
今のシュガーに伝えるなら、それが最もふさわしいとブライトは思った。
「あなたも~……私と同じく、追込みのウマ娘ですわよね~」
「は、はい」
「でしたら~……追込みというものは、レースのギリギリまで後ろにいて、最後の最後に速さを爆発させるようなもの……ですが、そのタイミングはウマ娘それぞれ。あなたも私も、それぞれですのよ~」
209 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 14:03:02
ID:lGbejPbPog
追込みのスタイルは、
どこで仕掛けるかでほぼすべてが決まると言っても過言ではない。
だが、レースに正解はない。様々な条件に左右されるからだ。
「GI……たくさんの”勝ちたい”が集まってきますの~。それはもう、押しつぶされそうなくらいに……」
「そ、そんなにですか?」
ブライトは、思い出していた。
初めてGIを走ったあの頃を。
周りのウマ娘から感じる、”勝ちたい”という気持ち。
それは集まりすぎて、圧を感じるレベルにまで膨らむ。
そんな中で自分を保って走るのは、とても難しいものである。
「”勝ちたい”にも人それぞれ。だからこそ、自分は自分のペースで、いいんですのよ~」
「自分の、ペース……」
210 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 14:17:08
ID:lGbejPbPog
シュガーは実は、少し迷っていた。今の走り方でいいのか、GIで通用するのか。
ペース配分、仕掛けるタイミング……さまざまな部分に迷いを感じていた。
(なんか……掴めた気がします、正解かどうかはわからないですが!)
だが、同じ追込みのスタイルで、なおかつ大先輩のメジロブライトからアドバイスをもらえたことで、シュガーは背中を後押しされたような気持ちになる。
「わたしは……わたしの走りを……」
「ですわ~。あなたにはあなただけの走りが、きっと出来るようになりますわ~」
自分だけの走り……それは、まだちゃんと見えていないけれど、ずっと続けていれば見つけられる気がした。
「ありがとうございますっ、ブライトさん!」
「いえいえ~。また走りましょうね~」
こうして、ブライトと別れたシュガーは、先ほどよりも自信に満ちた表情でトレーニングに励むのだった。
「______ブライト、さっきの娘は?」
「あら~、トレーナーさん。ふふ、将来のライバルですわ~」
声をかけてきた自身のトレーナーに、ブライトは楽しそうな表情で返すのだった……。
211 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 14:17:49
ID:lGbejPbPog
お金の話は解釈が難しいのでいったん保留で。
次
>>212
212 :
お姉ちゃん
2024/08/27 14:24:04
ID:cNLt3EFnRU
今日は学園もトレーニングもお休みの日。せっかくだからどこかへお出かけしようかな?
213 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 14:54:48
ID:lGbejPbPog
それからしばらく経ったある日のこと。
「お休みだぁ~!!」
寮の、他には誰もいない一室に、シュガーライドの元気な声が響く。
ここ最近は練習はトレーニング続きだったため、今日は休日となったのだ。
(先輩たちは遠征とかでいないですし、今はわたしひとり……)
スペもスズカも、それぞれの用事で東京を離れている。
なので、今はシュガーのみだ。
「おやすみで……わたしひとり……暇ですぅ~!!」
残念なことに、ニシノフラワーやスイープトウショウといった同年代のウマ娘たちは、休みではない。
話し相手も遊び相手もいないとなると、子供としての本能が叫ぶのだ「たいくつだ~!」と。
(……こうなったら、お出かけしましょう!なんかお買い物とか!)
思い立ったシュガーは、さっそく外に出る準備をし始めた。
クローゼットから私服を取り出し、着替える。
私服のデザイン
>>214
214 :
お前
2024/08/27 14:58:03
ID:cNLt3EFnRU
薄いピンクのKawaii系ワンピース
215 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 15:24:13
ID:lGbejPbPog
「学園に着てからは、あんまりお出かけすることがないので……久しぶりですねこれ着るの」
前の小学校のときから着ている、薄いピンク色のふわふわ系ワンピースだ。
実は長袖スタイルもあるので、オールシーズン着れる優れものである。
その後は髪を整えたり歯を磨いたりして、準備完了だ。
「よしっ。……なんですけど、どこに行こうかな?」
学園周辺の地理は外回りで大方知り尽くしたつもりではあったが、お出かけスポットまでは把握していなかったシュガー。
着替えたはいいが、どこに行くかを悩み始めた。
場所
>>216
216 :
お前
2024/08/27 15:32:00
ID:cNLt3EFnRU
住宅街の古民家カフェ(紅茶とタルトが美味しいと生徒の間で評判)
217 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/27 15:45:00
ID:lGbejPbPog
昨日にでも同室の二人に聞いておけばよかったと思うシュガーだったが、
ふと思い出す。
(わ、わたしには……これがあるっ!)
どや顔で取り出したのは、自分のスマホであった。
「そうです、こういうときには検索してみましょう。えっと、トレセン学園周辺のお出かけスポット……」
検索エンジンを使い、出かけて楽しそうな場所を調べてみることにした。すると、
「ふむむ、紅茶とタルトのおいしい古民家カフェですか……」
住宅街にあって学園生徒たちからの評判も良いという、古民家カフェが気になったシュガー。値段は結構お手頃で、シュガーの今の財政状況でも大丈夫そうではあった。
「こういう所、一度ひとりで行ってみたかったんですよね……よし、ここにしましょうっ!」
目的地を決めたシュガーは、外へと飛び出していくのだった……。
>>218
~
>>220
218 :
トレピッピ
2024/08/27 17:04:38
ID:cNLt3EFnRU
(トレセン学園前のバス停から)3つ先のバス停で降りて徒歩約5分みたいですね・・・
バス運賃は180円(ウマ娘割引)で、古民家カフェの目印は「赤い屋根」・・・よし!
待つ事約10分、トレセン学園前バス停にやって来たバスに意気揚々と乗り込むシュガーであった。
219 :
トレーナー
2024/08/28 00:00:03
ID:02yNAR8CZA
無事バスを降りたシュガー。
古民家カフェの前には行列が出来ていたが殆どがグループ客だったので、名前を書いて少し待つと店員さんにすぐ1人席に案内してもらえた。
オススメは九州のブランド苺「あまおう」をたっぷり使ったタルトと、店主自らインドまで茶葉を買い付けに行くダージリンティーのセット。
注文して少々待つと、運ばれてきたタルトは美しい芸術品のように白皿に盛られ、紅茶はノリタケのカップ。これで800円とは驚きの安さだ。
肝心の味はというと、タルトも紅茶もどちらもとても美味しくのんびり優雅な一日となった。
220 :
あなた
2024/08/28 01:14:13
ID:IbLcncqnnc
そして学園に戻ると未知のスイーツ臭を漂わせるシュガーに目敏く反応したマックイーンにどこのどんなスイーツなのかを滅茶苦茶問い詰められ、呆れたゴルシにダイナミック頭陀袋運送されるという怒涛の展開に戸惑うのであった…
221 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/28 03:41:42
ID:mDI42uMagA
目的地までは、学園の近くにあるバス停からの公共バスで移動する。
バスが来るまでは約10分。
(この待ち時間も、お出かけのだいごみ……ですね)
シュガーライドはとりあえずベンチに腰を下ろし、時間を潰すためにスマホを操作する。
(バスの進路、もーいっかい確認しときましょうか)
時刻表アプリを開き、自身が降りるべきバス停を再確認するシュガー。
アプリによれば、ここから3つ先のバス停が目的地に一番近い。
運賃はウマ娘価格で180円……だが、シュガーライドは実年齢の影響で子供割も適用され、なんと片道90円だ。あと数年で使えなくなるのが勿体ないので、積極的に使っていきたいと思っている。
「えっと、バス停を降りたら約5分歩いて……赤い屋根が目印の古民家カフェですか、よし」
降りてからの進路も確認するなどして、有効に時間を潰すシュガー。
そしてあっという間に10分が過ぎ、やってきたバスに意気揚々と乗り込むのだった。
222 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/28 04:35:18
ID:mDI42uMagA
信号待ちもあまりなく、バスに揺られること5分……。
シュガーは目的のバス停に到着した。住宅の並ぶ密集地だ。
「よしっ、ここから歩いて5分でしたよね。……待って?」
歩き出そうとしたとき、シュガーはあることに気付く。
(走れば数十秒でいけちゃうのでは!?)
さいわい、ここにはウマ娘専用レーンがあり、町中でも安心して猛スピードで走ることが出来るのだ。
「それじゃ、さっそく行きますか!」
目的地の古民家カフェに向かって、シュガーは勢いよく走り出すのだった。
その目論見通り、数十秒後……。
「ふぅ……ついたーっ!!」
赤い屋根の建物には、少ないが行列が出来ている。
古民家カフェにたどり着いたシュガーは、名簿に名前を書いて待つことにした。
>>223
(店の外観、内観の説明)
223 :
お姉さま
2024/08/28 05:09:46
ID:02yNAR8CZA
外観はキレイにリノベされているが、内装は元々の古民家(和風)を最大限生かした作り(床は畳なので靴は脱いで下駄箱へ)
224 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/28 06:51:39
ID:mDI42uMagA
待ち時間が少しあるようなので、とりあえずお店の外観を観察してみるシュガー。
(ふむふむ……古いお家と書いて古民家ですが、建物はすっごくきれいですね)
昔からある和風の建物ではあるが、屋根や壁は綺麗に塗り直されていて、古いという言葉を感じさせないものであった。
お客さんは障子のようなドアを開いて入っていくが、軋むような音も一切せず、スムーズに開くらしい。ここも手入れが行き届いていると、シュガーは内心で驚く。
(中も……気になりますね!)
早く自分の番にならないだろうかと、うずうずするシュガー。
そしてしばらくすると、シュガーが先頭になった。
「いらっしゃいませ。1名様ですね。こちらの席にどうぞ」
「わくわく……」
女性の店員に案内されながら、シュガーはお店の内部を観察する。
まず中に入ると、靴を脱ぐ必要があった。
良いお客さんが多いのか、みんな丁寧に下駄箱へと収納しているようだった。
(おお……なんだか、おばあちゃんのお家みたいです)
通路を歩きながら、去年の長期休みに帰省した祖母の家を思い出すシュガー。
いくつか設けられた広間はみな畳部屋で、木目調の机と椅子が数台設置されている。
掛け軸のようなものもあり、和室といえば!という感じであった。
シュガーの案内された部屋も同じような感じであり、数名のお客さんが食事をしている。
「メニューをお決めになりましたら……」
「あ、もう決めてます!タルトと紅茶のセットで、800円のやつです!」
「かしこまりました」
席に座ったシュガーはさっそく、ネットで見たメニューを注文した。
後はまた、待つのみだ。
225 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/29 03:16:37
ID:xvjtdNSF4s
待つこと10分ほど。メニューが到着した。
「こ、これは……!!」
テーブルに並ぶそれに、思わず声を出して驚いてしまうシュガー。
大きくて赤く丸いイチゴが、薄切り状にこれでもかと飾られたタルトは、食べる前から心まで甘酸っぱくなりそうである。
そして普段はあまり飲まない紅茶だが……少し香りを吸ってみるだけで、
とても温かくなる……というのが彼女の今の心境だ。
店員曰く、店長がインドまで買い付けに行くダージリンティーだという。
「さ、さっそく……いただきます」
手を合わせ、次にフォークを持ってタルトから一切れを出し、口内へと運ぶ。
(……!!)
噛んだ瞬間、口から脳に途轍もない衝撃<インパクト>が走るのを、シュガーは感じた。
1口、2口と噛むたびに、タルトから来る濃厚なうまみが食欲を刺激する。
外側のクッキー生地も、中のクリーム生地とイチゴも全てが美味い。
(止まりません……いくらでもいけちゃいそう!)
しかしよく噛むことは徹底しているので、少し時間をかけてタルトをしっかりと堪能し終わった。そして、シュガーは紅茶にも手を付けてみることにした。
「紅茶……砂糖もらうの、わすれてました……」
気付くのが少し遅かった。今更店員を呼ぶのも気が引けるので、とりあえず飲んでみる……すると。
「ごくっ、……あ、おいしい……」
すっきりとした味わいとほのかな渋みは、紅茶初心者であるシュガーにも飲みやすいブレンドを施された結果である。
(なんか……良いですね、こういうの)
紅茶をしっかり楽しめたことで、大人の階段を登った気がして、シュガーは少しうれしくなるのだった。
226 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/29 07:54:53
ID:xvjtdNSF4s
(ほわぁ……おいしかったです……)
美味しいスイーツを堪能し、ふわふわとした気持ちで徒歩で帰っているシュガー。
一人で外食するのも初めての経験だったので、とても嬉しそうな表情を浮かべている。
(次は、トレーナーさんもいっしょに行きましょうか……)
ここまで美味しかったものは、他人とも共有したい。ということで次来るときは、自身のトレーナーと一緒に来ることを誓うシュガーライド。できればGIを勝った後で。
しばらく歩いてとりあえず学園に寄ってみると……。
「パフェ、パフェですわっ!」
「チキンっ!チキンしかありえねーだろッ!」
(んんんんん??)
取っ組み合っている二人の芦毛ウマ娘を目撃する。
なんと、メジロマックイーンとゴールドシップであった。
227 :
◆wuHHR64l1og
2024/08/29 07:55:09
ID:xvjtdNSF4s
「なんなんですかお二人とも!!なにをあらそってるんですかー!?」
______慌ててシュガーが仲裁に入ると、二人は落ち着きを取り戻すのだった。
学園内に待避し、噴水広場のベンチに腰掛ける3人。
「今さっきまでトレーニングしてたんだけどよ、その後に何を食べるかでこうなってたんだ」
「トレーニングの後にチキンなんて……胃がもたれますわよ」
「スイーツも大概だと思うぞ??」
(はわわわ……)
険悪なムードに内心で焦るシュガー。
そのときだった。
「くんくん……シュガーライドさん。あなた、先ほどまでスイーツを食べていたのでは?」
「えっ」
まさか、とシュガーは驚く。
少し自分の匂いを嗅いだだけで、それを見切ってしまったマックイーンに。
「えっと……バスでちょっと行ったところの古民家カフェでタルトと紅茶を」
「タルトですって!?シュガーさん、そのお店のことを詳しく!できたら今から私と2食目を______んんーっ!?」
「わかったから!アタシがいくけど落ち着けって」
さらに問い詰めてきたマックイーンを頭陀袋に放り込んだゴールドシップは、シュガーから詳しい場所を聞くと、そのままマックイーンを連れて行ってしまった。
(な、なんだったんだろう……)
瞬間的な風を吹かせて去って行く、台風のような存在だと二人に感じたシュガー。
こうして、シュガーの休日は過ぎていくのだった。
次
>>228
228 :
アネゴ
2024/08/29 09:02:06
ID:chJMStQpXQ
今日は早朝から並走トレーニング。
相手は足の速いスプリンターの方だって聞いたけど、一体誰だろう?
229 :
トレぴ
2024/08/31 12:10:05
ID:cbfGFXpcvM
ハチャウマ来なくて今は落ち着いて更新が難しいです……
230 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/01 08:49:44
ID:IWpMSoVfgE
ハチャウマの配達が確定したので更新再開。
「ふわぁ……まだねむいれす……」
10月の初め。今日は早朝からのトレーニングだ。
前日のトレーナーからの話では、今週のGI・スプリンターズステークスに出走するウマ娘が併走相手になってくれるという話だが……。
(どんなひとなのでしょうか?)
これまでも個性豊かな先輩たちを見てきたシュガー。しかしまだ、新たな出会いへの好奇心が消えることはないようだ。
そして、待つこと10分。
「______あら、小さな後輩さんですの?」
現れたのは、左耳につけた宝石の髪飾りが特徴的なウマ娘……ムーントラックであった。
彼女はシニア級で活躍するスプリンター。
クラシック時代にスプリンターズステークスを制してから、数々のレースで優秀な成績を残している一人だ。
「シュガーライドっていいます!えっと……」
「ムーントラックですわ。気軽にムーンとでもお呼びくださいませ」
(ま、また……おじょうさま!?)
ムーンと自己紹介を交わしたシュガーは、またもお嬢様ウマ娘と知り合ったことに驚く。
正確にはまだムーントラックがお嬢様だということはわからないが、すごく高そうな耳飾りとお嬢様口調が根拠となっている。
231 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/01 08:50:58
ID:IWpMSoVfgE
二人は準備運動を終えると、さっそく芝コースのスタート地点に立つ。
「今日は併走をしながら、あなたのピッチ走法のフォーム矯正をするように、トレーナー様から任されていますの」
「ピッチ走法の?」
ムーン曰く、シュガーのラストスパートを決める技、ストライド+ピッチの強力な走りは、基本のピッチ走法を磨くことでより洗練されたものになるはずだという。
それで、ピッチ走法で短距離専門のムーントラックが呼ばれたのだ。
「______ピッチ走法といえば、マーチャンもいますよ」
「わぁ!?」
走り出そうとしたとき、横からひょいっと姿を現したウマ娘……こちらも左耳、小さな王冠の飾りが特徴のアストンマーチャンである。
「あなたも呼ばれていたんですの?」
「いえいえ。昨日、お二人が話されているのを聞いて、勝手ながらシークレットゲストとして参戦してみました。どや」
アストンマーチャンも、スプリンターズステークスと高松宮記念での勝利経験がある、優秀なスプリンターウマ娘だ。
……つまり、ムーントラックとアストンマーチャンはライバル同士。
(わわ……見えます、見えますよ。なんか、火花!)
シュガーは、二人の間に小さな火花がばちばちしているのが見えた気がした。
結局のところ併走は、3人で行うこととなった。
展開
>>232
232 :
貴方
2024/09/01 09:55:24
ID:l62nHCY3Og
スタートは、ほぼ横並び。
1コーナーから2コーナーにかけて3人共一歩も譲らぬ展開。
バックストレートでも譲らず3コーナーに入ってシュガーがそろそろ仕掛けようか?という時に急に足を気にし出したムーン。
ムーンはそのままスローダウンしてずるずるとシュガー、マーチャンとの差が開いていく。
4コーナーを過ぎたらシュガーとマーチャンの一騎打ち状態に。この状況で強いのがシュガー。
得意の走法で逃げ切りたいがマーチャンも負けじと追いすがる。
結果はシュガーの1馬バ身差での勝利だったが、ムーンの失速の原因は蹄鉄が外れてしまった為であった。
シュガーにとっては何とも言えないモヤモヤ感が残るレースとなってしまった。
(2人に並走したお礼を言いたかったが、マーチャンはいつの間にかその場から居なくなっていた)
233 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/03 07:38:05
ID:3uIMoreMhQ
シュガーも走りやすい1600mでの併走となり、早速開始することとなる。
よーいドンで、3人同時にスタート。マーチャンが先頭に立ち、シュガーとムーンが後続に控えた形だ。
(これが、GIを走るスプリンターの速さ……!)
ほぼ隣り合わせとはいえ、その位置をキープするためにはムーンのペースについて行く必要がある。シュガーは先輩ウマ娘の速さに必死に追いつきながらも、内心驚いていた。
(今日はわたくしが先輩……しっかり指導して差し上げますわ!)
シュガーを横目に見ながら、ムーンは自分のペースを慎重にコントロールする。
前を走るマーチャンに追いつきすぎず、さらにはシュガーも突き放さないベストなペースで。シュガーのトレーナー曰く、こうすることでシュガーに自然と”走るフォーム”を丁寧に身につけさせることができるという。
(それにしても……小柄な体とは思えないストライド走法ですわね)
ムーンもよく分かっている。一般的に小柄で大成したウマ娘は、小幅で跳ねるようなピッチ走法をする者が多い。しかしシュガーは、やや大きく足を開くストライド走法。
本人に自覚があるかは分からないが、おそらく股関節周りの柔軟性も非常に高いはずだ。
(おやおや。二人とも、いい空気感ですね)
先頭で逃げながら、アストンマーチャンは時折ちらりと後ろを見る。
火花散らす二人のウマ娘を、後方腕組みで見守るような気分で想うマーチャン。
自分もあの中に入ってみたいが、逃げウマ娘としてその役割は全うしなければならない。
(私にできることは……前を走って譲らないこと!)
マーチャンも得意のピッチ走法で駆けながら、1コーナーと2コーナーを通過していくのだった。
234 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/04 18:36:06
ID:IG18.80QiY
どちらも譲らぬままバックストレートを抜け、3コーナーにかかる。
(自分には自分のタイミング……ならっ、ここで!!)
先頭のマーチャンと距離が4、5バ身開いていることを考慮し、メジロブライトから言われた話も思い出して、シュガーが動いた。
広い歩幅に急激な回転数が加わる。決めの一手のストライド+ピッチ走法で、前を走るマーチャンに迫っていく。
(ふふっ、来ましたね。ですがマーチャンも、ここからです!)
“追われている”。そう感じ取ったマーチャンの走りも、さらに強く鋭くなっていく。
彼女の場合は、小幅かつ高速回転のピッチ走法……そこに、瞬間的な爆発が発生したかのように、回転速度が急上昇する。
「だぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁ!」
4コーナーを回り、早めに仕掛けた二人の一騎打ちとなった。
(くぅっ、もう少しで、追いつくのに……!)
粘るマーチャンを抜かそうとするシュガーだが、その一歩が中々届かない。
極限状態の中、考える。ここから何ができるか。
(……はっ!)
前を走るマーチャンの脚を見て、シュガーは気付く。
(すっごい回転速度です!わたしはスプリンターじゃないけど、でも、これを真似できたら……!!)
そして思い出す。今回の併走の目的を。
基本のピッチ走法を磨けば、自分の走りはもっと強く______
「もっと、もっと速く……もっと先へぇぇぇぇぇっ!!」
「なっ!?」
マーチャンが驚いたのは、雄叫びを上げたシュガーの脚がさらに伸びてきたこと。
最終直線、残り100mほどで、シュガーが迫る。迫る。そして、
かわした。
235 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/06 20:36:29
ID:Uby7AhpjQE
うっかり扇風機を破壊してしまったので休みです……暑い
236 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/07 13:22:10
ID:0.RVVDKV8.
「______はぁっ、はぁっ……!」
ゴール直後、ターフに倒れ込むシュガー。
彼女は一つ、壁を破った。スプリンターのマーチャンから技を盗む形で、自身のピッチ走法に新たな鍵を見つけられた。
(これは……いつか当たったら、とても強敵になりそうですね)
満足げなシュガーを見て、アストンマーチャンは新たなライバルの登場を予感し、内心で少しばかり恐怖を感じていた。
そんな2人の元に、遅れてゴールしてくる3人目が。
「……ムーントラックさん!?」
もはや歩いてきたムーンを見て、シュガーは大急ぎで駆け寄る。
ムーンは、右足を少しかばうようにしていた。
237 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/07 13:22:30
ID:0.RVVDKV8.
何があったのかとシュガーが尋ねると、ムーンは気丈に返事をする。
「たいしたことじゃありませんわ。……落鉄、していましたの。ほら」
彼女は右足の靴裏を見せた。確かに、蹄鉄が外れかかっている。
ウマ娘にとって蹄鉄は、全力で走るために必要不可欠なものであり、それなしでレースを行おうと思えば故障のリスクは大きく高まってしまう。
「こうなってしまっていたので……朝練でケガするのは困りますから、ラストスパートあたりで私は降りさせて頂きましたわ」
シュガーが最後に仕掛けたあたりで、ムーンは競走を中止していた。
それを知ったシュガーは、うるうると瞳に涙を浮かべる。
「よ、よかったですぅー!!ケガしてなくてぇー!!」
「ちょ、大げさですわ!?泣きすぎでしてよ!!」
大泣きするシュガーをなだめるムーンを、マーチャンは遠くから傍観するような空気で眺めていた。
「……」
(落鉄……それだけでは、ないのかもしれません。マーチャンには、わかります。人がいなくなっていくタイミングが……だから、ムーントラックさんも、その”時期”が来てしまったのかもしれません……)
マーチャンは心の中で、ムーントラックに対する深読みな感情を抱く。
それが意味するものは、まだ彼女にしかわからない。
次
>>238
238 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/07 20:19:16
ID:0.RVVDKV8.
安価下
239 :
あなた
2024/09/07 20:30:23
ID:BvwZh6rYMo
早朝トレーニングを終えたシュガーは急いで制服に着替え、カフェテリアへ。今日は月に一度だけの「オーロラの日」らしい。
~昨晩の回想~
スペシャルウィーク「明日は『オーロラの日』で、限定メニューの『オーロラバーガー』が食べられるんですよ!」
揚げたサーモンに特製オーロラソースをかけたハンバーガーが数量限定で食べられると、急いでカフェテリアに向かったが物凄い行列!
並ぶ事数十分、ようやく順番が回って来た。「オーロラバーガー」ください!
しかし、皿の上にバーガーが2個。「?」と思っていると、『某Мのバーガーより少し小さいでしょ?だから一人前2個なのよ。』
なるほど・・・と思っていると、『只今を持ちましてオーロラバーガー完売です!』のアナウンスがあり、阿鼻叫喚しているウマ娘も居た。
席に座り、いざ食べようとすると隣の席に山盛りのサンドウィッチを抱えたウマ娘・・・スペシャルウィークさんだ。
『シュガーちゃんはオーロラ買えたんですね・・・私はダメでした・・・それでサンドウィッチをドカ食いして気を紛らわせ・・・』
・・・良かったら、1個食べます?2個あるので。
『良いの!?それじゃあこの中から代わりに好きなサンドウィッチ1パックあげる!』
じゃあ・・・ハムサンド頂きます。
満面の笑みでオーロラバーガーを食べるスペシャルウィークさん。私も一口・・・うん、確かに美味しい。
◇「また買えなかった・・・」⚡「来月まで我慢しぃや」
240 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/07 21:45:57
ID:0.RVVDKV8.
朝練を終えたシュガーライドは、普段よりも急いで制服へ着替えていた。
そして向かったのは、いつものカフェテリア……だが、今日はいつもと様子が少し違っている。
(まだっ、まだありますように……!)
更衣室を出て廊下を駆けながら、シュガーは祈るような想いでいた。
それほどまでに今日は、狙っている食品があるのだ。
昨晩のことである。
スペシャルウィークが、シュガーにその話をしたのは。
「明日は「オーロラの日」で、限定のオーロラバーガーが食べられるんです!」
「オーロラの日の、オーロラバーガーですか……」
ネーミングが直球過ぎないか?そもそもオーロラの日とは?と不思議に思うシュガーだったが、話を聞いていくうちに……ウマ娘の本能・“食欲”への刺激が止まらなくなり始めたのだ。
(______これでもかとサクサクに揚げられたサーモンのフライに、とくせいのオーロラソースをかけて、バンズをがっちゃんこ……すっごく美味しそうじゃないですか!!!!!)
シュガーはカフェテリアを目指しながら、スペから聞いていたハンバーガーの特徴を想像してさらにお腹をすかせ続けていた。
そして、カフェテリアにやってくると……。
(……!?)
その光景に、驚きのあまり声すら出なくなるシュガー。
いつものカフェテリア……などではなかった。その場所は。
まずシュガーが感じたのは、熱。とてつもない熱気。
(も、もうすぐ10月ですよ……あつすぎる……)
夏かと思うほどに上がる体感温度。クーラーを付けたくなる室内の暑さ。
その発生源を見つけるのは、とても簡単なことであった。
「ただいまこちら最後尾となっておりまーす!」
(え、列……?)
正体は……カフェテリアらしからぬ、大行列。
メロンパフェの時など比ではないほどの、大行列である。
241 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/08 07:19:36
ID:btRilqPXFo
(これは……買えるんでしょうか!?)
とりあえず急いで並ぶシュガーだったが、1列に数十人は居る。
もう間に合わないんじゃないかと思いながらも、わずかな可能性を信じて列から離れないようにしていた。
そして、待つこと10分……。
やっと自分の番だ。シュガーは肌身離さず持っていた財布から現金を出し、オーロラバーガーを受け取った。
(買えました……あれ?)
テーブルに座って、やっと一息。ふと皿を見ると、よく知るハンバーガーより一回り小さなバーガーが二つのっている。具材はサーモンフライで、オーロラソースもかかっているが。
(サイズが小さいから二つなんでしょうか?これはこれでおトクです!)
自己解釈して、納得したシュガー。
いただきますをして、口元にオーロラバーガーひとつを運ぶ。そしてキラリと光る白い歯が、それを噛み砕こうとした瞬間……!
「買えませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(……ん!?)
カフェテリア内に響き渡る絶叫。
なんだかデジャブを感じるシュガー。
またマックイーンだろうか?
おそるおそる振り向くと、そこには。
「最後の1セットだったのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
(す、スペシャルウィークさん……!?)
捌ていく行列の中で叫びうなだれる、日本総大将の姿があった。
242 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/09 03:57:47
ID:dTVfKr5gPA
「およよ……およよ……」
なんともいえない声で泣くスペシャルウィークにいたたまれなくなったシュガーライドは、声をかけることにした。
「だ、だいじょうぶですか……」
「大丈夫に見えますか……?」
「ひっ!?」
シュガーの差し出した手を握って立ち上がるスペの声色には、何やらいろいろな感情が混ざり合っているらしい。それが凝縮されたものを受け取ったシュガーが感じたのは……恐怖であった。迂闊に話しかけない方が良かったかもしれない……そう思うレベルの恐怖。
「最後の……1セット……」
そう言いながらスペが指さす先は、「完売」の文字が並ぶ購入カウンターであった。
オーロラバーガーが売り切れたことを示すそれは、スペをこの状態にするにはとても十分すぎたのだ。
「シュガーさんは……買えたんですね」
「は、はい」
「いいな……私は……特大サンドイッチで我慢することにします……」
(む、むう……これは……)
そろそろスペシャルウィークが可哀想になってきたシュガーライド。
手元には、オーロラバーガーが二つある。
一つなら、彼女にあげても良いかもしれない。
「……おひとつ、いかがです?」
「えっ、いいんですか!!じゃ、じゃあ私もサンドイッチをあげます!!これでおあいこですね!!」
こうして、朝の食事を分け合ったシュガーとスペの絆が、少し深まるのだった。
そしてこの週の日曜日……GI・スプリンターズステークスが幕を開ける。
>>243
243 :
お姉さま
2024/09/09 13:08:41
ID:1IuqUgzj5s
清々しい晴天!「雲一つ無い天気」とはまさにこの事だろう。天候は晴、バ場も良だ。
11人が走る予定だったが、直前に1人が脚を痛めて出走を取り消したので10人での競争となった。
シュガーは1枠2番の好位置からスタート。だが「中山の坂」は厳しいぞ。果たして・・・?
発走時刻になり旗が振られ、ファンファーレが鳴る。盛り上がるスタンドを遠くに見ながら各バ順調にゲートイン。
暫しの静寂の後各バ一斉にスタート!
スプリンターズステークスは1200m。後方に居ると不利なのでシュガーは集団の中程に位置を取る。先頭から数えると5番手。
スタート地点から約275mは下り坂が続き、体力の消耗は少なめ。最終コーナー手前でシュガーは1人抜いて4番手に位置を上げた。
そして最終コーナーを周ってあの「中山の坂」が待ち構える。約2.4mの高低差をたった300mで駆け上がるのだ。
ここでシュガーがその「怪物ぶり」を遺憾なく発揮する。
「中山の坂」でシュガーの前3人が疲れで次々スローダウンする中、持ち前の強力な心肺とピッチ走法で一気にごぼう抜き。
「中山の坂」を軽々と超えたシュガーは文句なしの1着でゴール板の前を通過した。
タイムは1:08.0 レコードではないが、シュガーは観客にそのパワーを十分過ぎる程見せつけたのであった。
244 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/09 13:31:48
ID:dTVfKr5gPA
>>243
待って?待って......?
今回シュガーじゃないんです......
245 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/09 14:07:30
ID:dTVfKr5gPA
スプリンターズステークス開催、当日。
その日……レース界隈に衝撃が走った。
朝8時頃。
「プリファイ♪プリファイ♪今日はどんな話なんだろう?」
朝練を終え、寮に戻ってきたニシノフラワー。彼女もシュガーと同じく凄いスピードで成長していて、短距離・マイル路線での活躍が期待されているウマ娘だ。
日曜朝の魔法少女アニメを楽しみにしている彼女は、テレビを見るためにルンルン気分で食堂に入ってきた。
食事の準備をし、テーブルについて、テレビをつける。
「えっと、チャンネルは……あっ!?」
テレビの選局をしようとすると、URA臨時の報道番組がやっているのに気づいたフラワー。
「み、みなさーんっ!」
慌てて叫ぶフラワーの声で、寮にいた何名かが食堂に集まってきたのだった。
246 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/09 14:08:40
ID:dTVfKr5gPA
______報道番組は、あるウマ娘の記者会見。
『えー、みなさま。今日は朝早くからお集まりいただき、感謝いたしますわ。
今日はわたくしムーントラックより……大切なお知らせがありますの』
(……ムーンさん!?)
フラワーの声で駆けつけたシュガーライドは、会見を開くその少女を見て驚く。
そして、何を言い出すのかという不安が心中を覆う。
とてもいやな予感がしているのが、シュガーには分かった。
……先輩ウマ娘たちには、それが何なのかわかっている者もいた。
こんな時間から大々的に会見を開くなど、あまりない。
“あまりない”からこそ、わかっていた。
テレビの向こうで、報道各社たちも見守る中、ムーントラックはゆっくりと口を開く。
『わたくし……ムーントラックは、本日開催のスプリンターズステークスで、トゥインクルシリーズを引退させていただきます』
その日……レース界隈に衝撃が走った。
今度こそ次
>>247
(スプリンターズステークスへ)
247 :
お前
2024/09/10 00:00:38
ID:Y9rYAjfy3.
スプリンターズステークス当日の中山は小雨で、バ場は重と発表された。
出走は16人で、ムーンは一番外の8枠16番。あまり良い場所ではないが・・・
そうこうしているうちに、出走時刻を迎えてスターターが旗を振ったのを確認し、各バがゲートに収まりスタートの時を待つ。
「嫌な予感がする...」と、中継映像を固唾をのんで見守るフラワー。
そしてゲートが開き一斉にスタート・・・
のはずだったが、テレビの中継映像がトラブルで突然停止して黒い画面のまま音声も出ない。
「これじゃあムーンさんの最後のレースが見られない!」
騒然となるテレビ前のウマ娘たち。
約1分後に中継映像が回復したが、レースはすでに終わっていた。
ただ、一つ解ったのはムーンさんが1着だという事だけ・・・
248 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 00:28:40
ID:SVyQ5ZBT/k
昼頃になって、雨が降りだした。
寮の自室の窓からそれを目撃したシュガーは、急いで窓を閉める。
(東京で雨ですか……あっ、千葉の方はどうなんでしょう?)
千葉、中山レース場……ムーントラックが引退を宣言したGI・スプリンターズステークスの発走時間が迫る中、東京の雨で千葉の天気も心配になったので、シュガーはアプリで天気予報を見てみた。
「そんな……あっちでも雨じゃないですか」
千葉の天気も、雨。今のところは、大雨だ。梅雨シーズンの名残とは書いてあるが、
この時期としては珍しいとも書いてある。
(ムーンさん、しっかり走れたらいいな……)
引退レースで、天候に左右されて実力を発揮できないとなれば、とても悔しいはず。
まだまだデビューしたてのシュガーにも、ウマ娘としての本能がそう告げている。
(……一緒のレースで、走ってみたかったなぁ)
シュガーとムーンは、一度の併走をしたのみであった。
来年、クラシック級に昇格してから、改めてGIで戦ってみたい……そう思っていた矢先の引退発表。シュガーだけでなく、他のウマ娘にも影を落としていることは間違いない。
「凄い雨ですねぇ……早めに切り上げて良かったです!」
「あっ。スペシャルウィークさん!」
部屋のドアがガチャリと開き、白いタオルで顔を軽く拭きながら入ってくるスペシャルウィーク。
スズカはまだ走っているということなので、シュガーはスペに話を聞いてみることにした。
「______こんな重バ場に強いウマ娘、ですか」
シュガーが尋ねたのは、スペシャルウィークが今まで走った相手で、大雨に見舞われようとも強かったウマ娘はいたか?というものだ。
その質問に、スペは……何かを懐かしむように、答えた。
「いますよ、知る限りでは一人」
「ひとりですか?」
「はい、たった一人です。私の一つ下で……通称が”泥の女王”なんて呼ばれてましたね」
249 :
モルモット君
2024/09/11 00:33:15
ID:SVyQ5ZBT/k
あ、ムーントラックと泥の女王に関しては
https://umabbs.com/patio.cgi?read=19480&ukey=0&log=past&res=500
前スレを
250 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 06:49:11
ID:SVyQ5ZBT/k
泥の女王……ダートが強かったのかとシュガーが聞くと、スペはこう答えた。
「いえ、あの娘は……今日みたいな雨の日の重バ場でも、難なく勝っちゃうんです。私も、宝塚記念では負けちゃって」
「た、宝塚記念で、ですか!?」
______春最後のGI・宝塚記念。ファン投票によって選ばれたウマ娘たちが走る、レースの祭典とも呼べるGI競争だ。
“泥の女王”は当時、トリプルティアラGIのうち桜花賞とオークスを制覇し、秋の3冠目に期待がかかっていた……同時に、ファン投票ではクラシック級のウマ娘でありながら1位の最多票を得る等とてつもない人気を誇り、それに応えて出走。
雨の中……前年度の有馬記念の覇者であり、宝塚記念での勝利でグランプリ連覇のかかっていたグラスワンダーの猛追から果敢に逃げ続け、なんと同着での優勝……クラシック級でのグランプリ制覇を成し遂げてしまったのだ。
「そ、そんな凄いウマ娘さんが……」
「今は海外遠征に行ってるみたいですけど、日本に帰ってきたらまた一緒に走りたいですね」
“泥の女王”に関する昔話をスペに語ってもらっていると、
時間はあっという間に過ぎていた。
お昼を食べたり、いろいろなことをしてさらに時間を潰すシュガー。
そして、ついにその時がやってきた。
GI・スプリンターズステークス。雨の中山レース場で、雷のような電撃戦が幕を開ける。
251 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 10:21:18
ID:SVyQ5ZBT/k
元よりある種の続編として書きたかったんですが、アリですかね......?
252 :
トレぴっぴ
2024/09/11 10:23:43
ID:f6NLhVpsjI
好きにやればいいじゃない
253 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 10:31:47
ID:SVyQ5ZBT/k
>>252
まぁそれもそうか...
254 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 18:25:49
ID:SVyQ5ZBT/k
『ここ中山レース場は、急な天気の崩れにより雨が降っています。バ場状態は重の発表です』
スプリンターズステークスの出走まで30分を切った、中山レース場。
予報が大外れな雨により、傘を持たずに慌てふためく観客もちらほら見られる。
そして今年は、例年に比べて……観客が多い。
理由は簡単だ。
スプリント界をわかせたスターウマ娘の引退、それを見届けたいのだ。
観客の数は、年末の有馬記念に劣らない程となっていた。
(……ああ、こんなにも観客がいる中で、わたくしは花道を飾るのですね)
控え室のテレビで外の中継映像を見ながら、ムーントラックは最後のGIにむけて心身を整えている。
ふと、手のひらにガーネットの耳飾りを乗せ、ムーントラックは回想する。
自身の、引退の理由ときっかけを。
255 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 18:26:14
ID:SVyQ5ZBT/k
______話は、数週間前に遡る。
8月の始め。
ムーントラックが走っていたのは、新潟1000mの祭典、GIIIアイビスサマーダッシュ。
彼女はいつも通り後方に控え、終盤でのごぼう抜きを狙う。
バ場状態は良。自身の体調も良い。いつも通り、最高の条件だった。
『残り350m!前に出るウマ娘は内からか外からか!?はたまた逃げのウマ娘が勝ちきるのかー!?』
(さあ、行きますわよッ!)
大外のポジションを取っていたルナトラックは、そのまま急加速を始める。
『ここで1番人気ムーントラックが上がってきた!前を走るウマ娘たちをどんどん追い抜いていく!』
観客たちも、いつも通りの彼女の勝利を疑わなかった。
ライバルであるアストンマーチャンは今回出走しておらず、ムーンの独壇場。
そう思っていた観客たちの期待をムーンもわかっていたから、応えた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
……見事に、ゴールイン。2番手とは1バ身差。追い込みのウマ娘にとってはギリギリかつ理想的な勝ち方である。
『ムーントラック1着!秋のスプリンターズステークスに向けて、快勝です!!』
(今回も、勝ちました……わ……あれ?)
「はぁっ……はぁっ……なん、ですの……息、戻らない……」
実況を聞き、観客たちからの歓声を待ち構えようとした彼女は、自身の体に起こる違和感に気づいた。
心拍数が速い。息が少し苦しい。いつも通りのペースで走ったはずなのに。
気温のせいかとも思った……だが、周りのウマ娘たちはここまで疲れている様子は見られない。
256 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/11 18:26:40
ID:SVyQ5ZBT/k
______その後も、トレーニングで走ったりもした。
同じであった。
好タイムに矛盾するかのように、走った後はとても疲れてしまう。
いつも通り走れるのに、速いままなのに。
(……ああ、そういうことですの?)
ムーンは、一つの可能性に達する。
自分の競争寿命は、もう長くはないのだと。
「ピークを過ぎた……というのかい?」
「ええ。自分のことくらい、よくわかっていましてよ」
「そうか。なら……」
学園1の変人で頭脳家であり、かつては自身も引退宣言をしたウマ娘・アグネスタキオンに、それを伝えたムーントラック。
タキオンは言う。それならば早めにターフを去るのが良いと。
衰えにより大敗をしてしまう前に、最後に一花咲かせる方が良いと。
257 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/12 22:47:28
ID:t9Ci/y45dI
______そのための調整も兼ねて、シュガーライドとの併走に臨んだムーン。
スプリンターとしてのライバル、アストンマーチャンも飛び入りで参戦してきたが。
模擬レース程度なら普通にやれるだろうと、いつもの態度を崩さずに挑む。
しかし、現実はそう甘くなかった。
シュガーが早めに仕掛けていった3コーナーで、ムーンは既に体に違和感を感じていた。
このまま走れば、とてもまずい気がする……本番前に折れるわけにはいかないと、シュガーやマーチャンに追いつこうとせず、ゆっくりと減速する。
そして、ふと気づいたのだ。片足の蹄鉄が外れていることに。
______それは、今日この日のためだったのだと、今は思う。
「ふぅっ……さあ、そろそろ時間ですわね。行ってまいりますわ、トレーナーさま」
改めてすべてを思い出し、それを闘志として燃やす準備もできた。
ムーンは自身のトレーナーに挨拶をし、ターフへと歩いていくのだった。
258 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/16 09:32:11
ID:ffH9o1B0yQ
『さあ、まもなく発走となります、スプリンターズステークス。各ウマ娘がゲートインしていますが……雨は止まず、雷雨となっているとの情報もあるようです』
土砂降りとは言えないが、降り止まぬ雨が続く中山のターフ。
大外枠を引いたムーントラックは、自分のゲート入りの順番を待つ中……雲覆い雫が降り注ぐ空を見上げながら、考えていた。
(これが、最後……)
泣いても笑っても、これで終わり。トゥインクルシリーズで走る、最後のレースとなる。
それを選んだのは、紛れもない自分自身。
もっと、走りたかったと思うムーン。
衰えは絶対に来るものであるし、いつかは誰でも死んでしまう。
終わらないものはない。では、どうするのか。
(シュガーライドさん……併走ではいい格好を見せられませんでしたが……見ていてくださいませ)
中継を見ているであろう後輩に、ムーンは伝えたいと思った。
(わたくしの、最後の走りを。引退という概念を。今後のあなたのレース人生に、焼き付けて差し上げますわ!)
後輩に、次を託す。未来を繋げる。そのために、絶対に勝つ。
『大外枠でのゲートインとなります、このレースでの引退を発表したムーントラック。ラストランを、勝利で飾れるか!?』
自分の番が来た。ムーンは覚悟を決めて、ゲート入りする。
(……ああ、こんな重バ場。"彼女"を思い出しますわね)
かつて共に走った、泥の女王をふと思い出しながら、ムーントラックのラストランが今、幕を開けるのだった。
259 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/16 09:33:07
ID:ffH9o1B0yQ
栗東寮のTVルームには、既に大勢のウマ娘が集まっていた。
ラストランを発表したムーントラックの、最後の走りを見るためだ。
それに、同じ寮の一員であるアストンマーチャンも出走しており、スプリンター同士の対決にも期待がかかる。
「大丈夫でしょうか……」
「フラワーさん、何を心配されているのですか?」
モニター越しに、ゲート入りを進めるウマ娘たちを見ながら、ニシノフラワーは不安げな表情を浮かべていた。
同室のミホノブルボンは、その表情を見ても心配事が何なのか読めず、彼女に尋ねる。
「かみなり、鳴ってるってテレビで言ってたんです……」
「それは……」
ブルボンも、それを知らないわけではなかった。事前に調べた予報よりも、発雷確率が高まっているのは確かであり、
しかしそれがレースに影響を及ぼすかは定かではないのだが……。
(ムーントラックさんは、走りきってくれます……絶対に)
二人の会話を聞いていたシュガーは、テレビに期待の眼差しを向ける。
まだ、ムーンと知り合って間もないが……なんとなくだが、期待を向けてしまうのだ。
根拠はない。しかし、応援したい。そんな気持ちである。
『さあ、各ウマ娘ゲートイン完了。最内枠のアストンマーチャンか、大外枠のムーントラックか、はたまた他のウマ娘か。見届けよう、この電撃戦を』
スプリンターズステークスが、いよいよ始まる。
その時だった。ニシノフラワーの心配が的中してしまったのは。
『いま、スタートし______』
瞬間、中継マイクに爆音が入った。
そして、映像が途切れ、「しばらくお待ち下さい」という表示が出るのみ。
音も、聞こえなくなる。
「えっ!ま、まさか本当にかみなりが……」
予感が当たってしまったフラワーや、他のウマ娘たちがうろたえてしまう中。
映像が回復するまでの約1分間、シュガーライドはじっと画面を見続けていた。
260 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/19 02:41:36
ID:yQzkYFulXQ
『______熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』
突然の放送事故から1分後、映像と音声が回復した。
『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』
その瞬間映ったのは、ムーントラックのラストランが1着であったということを示すものだった。
大歓声に包まれながら、姿勢良く深々と礼をするムーン。
この映像を見ていた誰もが、レースがまともに見られなかったことよりも、今この瞬間に"衝撃"を受けている。
(終わり……引退……いつか、わたしにも来るのでしょうか……)
シュガーとて例外ではなく、彼女の心に"引退"というワードを深く刻みつけていた。
そうした点では、ムーンの思惑通りになったと言えるだろう。
夜頃、URAからお詫びのメッセージとスプリンターズステークスのアーカイブ映像が配信された。
トラブルの原因は雷雨による配信機材の故障で、撮影・保存はできていたが送信の部分に影響が出たという。
夕食の際に、皆でそれを見ることにした栗東寮の面々。
特に、シュガーとフラワーは今か今かと待ち遠しくしていた。
「ほいほーい。それじゃ、映像出すよん」
栗東寮1のガジェット使い・トランセンドの操作により、テレビとケーブルで繋いだノートPCから、アーカイブ動画が出力される。
(どきどき……)
シュガーは、早く見たくて仕方がなかった。どのように走ったのか、どんなレースであったのか。
そして、映し出された映像に刻まれていた記憶が、読み解かれる______。
レース展開
>>261
261 :
トレーナー君
2024/09/19 07:29:05
ID:uXThdvtgtA
周知の通り、当日の中山は小雨でバ場は重。一番外の8枠16番ムーンはまずまずのスタートで先頭から10人目。
最初のコーナーで内枠の数名のウマ娘がカーブでスピードを落とすのを見逃さなかったムーンが一気に抜いて4~5人の先頭集団に加わる
向正面に入り、重いバ場でやや疲れてきたと思われる一番先頭のウマ娘がズルズルと順位を落とす。
ムーンは先頭集団の3番手にまで順位を上げていた。
第3コーナーは3人が団子状態で通過し、最終コーナーを抜けていよいよ最後の直線。
中山の坂でついに1位のウマ娘と、いつの間にか1人抜かして2位に上がったムーンの一騎打ちに。
このまま1位が逃げ切って1着・・・と思いきや、重バ場+坂という悪条件が重なりゴールまで残り僅かの所で1位のウマ娘がまさかの転倒。
その事態に動じず、落ち着いて差したムーンが1着でゴールした。
262 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/19 08:09:27
ID:yQzkYFulXQ
なんか前スレから転倒好きな人がいるな……?
263 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/21 07:07:13
ID:EWaN7mhWzc
『今、スタートしました!』
ゲートが開き、16人のウマ娘が一斉に走り出した。
その瞬間、激しい光と音の雷がレース場を覆う。
が、走り出した彼女たちにとって、そんな現象は恐れるに足らないこと。
一部の機材が止まろうと、会場が停電しようと、ウマ娘は走り続けるのだ。
『会場が大変なことになっておりますが、観客の皆様は係員の指示に従って行動してください。ウマ娘たちは走るのをやめていません!
なので、実況に戻りましょう!』
実況席の女性も、一切動じずに実況を続ける。
1番人気のムーントラックは、ラストランでも動じずに最後方……いつものスタイルを貫いている。
対抗として挙げられた2番人気のアストンマーチャンは現在、先頭から4番目ほどの位置。
しかし最初のコーナーで、後続の数名のウマ娘がスピードを落としたのを見たムーンは、覚悟を決めた。
(この重バ場……"いつも通り"だと、バ群に飲まれかねませんわ!)
スローペース化すると最後方から行っても届かなくなる。
ならば、いま位置を上げてもプラマイはゼロだ。
そう思い、ムーンはそのウマ娘たちの間を駆け、前へ進出していく。
(絶対に、勝ちますのよ)
ラストラン……もう、脚質も何も関係ない。
ただただ走って、勝つ。もはやそれだけである。
264 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/21 08:10:45
ID:EWaN7mhWzc
『さあ、電撃戦もいよいよ終盤!逃げる4番、じわじわ後退っ!ここで先頭変わって、アストンマーチャンっ!!』
先団4番手をキープしていたアストンマーチャンが、圧倒的な回転数のピッチ走法で一気に前に出る。
ここで逃げて突き放して、勝負を決めるつもりだ。
しかし、まだ。一人、負かしていない。
「ここからっ!ですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あ……っ!?」
マーチャンは、数日前の併走を思い出す。
あの日と同じような……いやそれ以上の熱・気迫……そして、勝利への執念。
後ろから迫ってくる雄叫びに、様々なものを感じる。
『ここで中団からムーントラックが上がってきたぁぁぁ!これはアストンマーチャンとの一騎打ちッ!!』
最終直線には高低差2.4mの坂がある。ここを乗り越えた者が、勝者となるにふさわしい。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
残り310m。二人が併(なら)び、両者一歩も譲らない。
が、僅かに______。
265 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/21 08:11:01
ID:EWaN7mhWzc
『僅かに突き放して、ゴォォォォォルっ!!熾烈な電撃戦を制したのはッ!ムーントラックだぁぁぁぁぁぁ!!』
半バ身差であった。だが、その僅かな差で、ムーントラックがゴールした。
『これがッ!ラストランっ!!このラストランでッ!やりましたムーントラックっ!!』
(あ……やり、ましたのね……わたくし……)
ムーンはゆっくりと減速し、呼吸を整える。今まで起きていた症状はない。本気で走って、勝てたのだ。
観客からの大歓声を浴び、その衝撃に浸る。
「ああ、もっと走っていたかった。こんなにも素晴らしい気分が、これっきりだなんて」
自分はもう衰えた。最後に、凄く頑張れただけだ。次はない。
そう思うと、自然と名残惜しくなってしまう。
「これっきり……では、ないですよね?」
「え?」
諦めの表情を浮かべていたムーンに、アストンマーチャンが声を掛けた。
「このレースを見た、たくさんのヒトもウマ娘も、今日はきっとあなたの走りに感動したことでしょう。
そしてそれは、次の世代へと繋がっていく……マーちゃんはそう思います」
「わたくし……そのような存在に、至れたのでしょうか?」
「はい、きっと」
自分が走れなくなっても、その意志は誰かの心に火をつけ、次へと繋がっていく。
そう思えたら、少しだけ気分が軽くなった気がしたムーンであった。
(___わたしも、もっと……!)
アーカイブ動画を見て、シュガーライドは改めて感じていた。"引退"というものを。
彼女の心のなかにも、きっとムーンの意志は受け継がれている。
そしてシュガーは誓うのだった。こんなふうに、感動させられるレースをしてみたいと。
266 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/21 08:31:30
ID:EWaN7mhWzc
それから1ヶ月後。寒さが目立ち始めてきた、11月の半ば。
早朝のトレセン学園グラウンドに、ウマ娘が一人。
(ふぅ……なかなかさむいですぅ……)
機能性に優れたトレセンジャージだが、寒いものは寒い。
シュガーライドは身体を温めるため、軽く走っていた。
今日は、10月に行ったムーントラック・アストンマーチャンとの併走以来の、先輩ウマ娘との合同トレーニングだ。
GI・ホープフルステークスも近いので、より強くなるためのトレーナーからの提案ということだが……?
(はふぅ……今日は誰が来るんでしょう……)
いろいろな先輩と会ってきて、だいぶ顔を覚えてきたシュガー。
が、併走の経験はあまりないので、誰が来るかドキドキしている。
そして数分後、彼女は姿を現した。
「______ほう、お前だったか」
(……っ!?)
シュガーは感じた。とてつもない"威圧感"を。
同時に、寒さが吹き飛ぶような熱も。
堂々とした態度で、ゆっくりと歩いてくるそのウマ娘は……金色の暴君、オルフェーブルであった。
(いつかのクセの強いイケメンウマ娘さんー!?)
しかし、シュガーの第一印象はそれであった。
267 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/21 08:31:44
ID:EWaN7mhWzc
「お前のトレーナーから頼まれた。GI初挑戦に向けて、実力のある我に併走をしてほしいと」
(やっぱりナルシストなんですかね)
「……我に、並ぼうというのか?」
(!!)
ナルシストな発言の中に、その一つ一つに、圧を感じる。
まだ幼いシュガーにも、伝わるものがあった。
絶対的に手が届かない、圧倒的な実力。
隣に居てはいけないと思うような、空気感。
だが、彼女はひるまない。
「……はいっ!並んで、いつか追い越しますっ!」
強気な態度で返事をするシュガーに、オルフェーブルは。
「……姉上が見込むその力、全て発揮して見せなければ許さぬぞ?」
姉・ドリームジャーニーは、シュガーに目をかけている。
自身が最も慕う存在が注目するウマ娘なのだから、当然の走りを見せられるだろう……そう思っている。
「はいっ!!」
シュガーもそれに答えるように、返事をした。
併走の展開
>>268
268 :
トレーナー
2024/09/21 08:56:12
ID:ggpr/EdL9A
コイントスの結果、内枠がシュガーで外枠がオルフェと決まる。
いざスタートすると、さすがは暴君と言われるだけあってオルフェからグイグイと引き離されるシュガー。
「やっぱり先輩は強いや...」シュガーが第1コーナーに差し掛かった時、オルフェはすでに第2コーナーを抜けていた。
第2コーナーを抜けたシュガーのはるか前方、オルフェはもう向正面の終わりに近い位置。
しかし、ここでシュガーの中の「何か」が吹っ切れた。
「やはりその若さで我に勝つ…いや、並ぼうというのは無謀だったようだな……」
第4コーナーに差し掛かったオルフェは少し残念そうに、少し軽蔑するかのように後ろを振り向く。すると
シ ュ ガ ー が そ こ に 居 た
「!?」
何かが吹っ切れたシュガーが猛烈なスパートで追い上げ、オルフェにわずか2バ身差まで迫っていたのだ。
「こやつ、何者!?」
第4コーナーを過ぎ、最後の直線。さきほど2バ身差あった差はもう1バ身差も無い。
「何故だ!そんなパワーとスタミナがその小さな体のどこにあるというのだ!?」
どんどん追い上げるシュガー、オルフェは焦っていた。
「姉上の前で醜態など晒せられない!でもこれでは勝ち目が無いではないか!!」
残り100mでついにオルフェはシュガーに並ばれて・・・
結果、アタマ差とはいえ勝ったのはシュガーだった。
269 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/23 18:58:07
ID:g.d1pB4DW.
なんかずっと"ブル"って書いてました
270 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/23 19:28:12
ID:g.d1pB4DW.
オルフェーヴルが律儀にも用意していた、どこの国の物かも分からない黄金のコインを使い、コイントスで外枠・内枠を決める。
結果、オルフェが外でシュガーが内枠となった。
そして、二人並んで一斉にスタートを決める。
最初はオルフェーヴルがペースを作り、少しばかりのバ身があったが……。
(ほう、悪くはない動きだ)
1コーナーを抜けた所で、シュガーは彼女と並んでいた。
自分に遜色なくついてくるシュガーに、オルフェーヴルは僅かだが感心を寄せる。
(これが、超強いってひょーばんの、オルフェーヴルさん……ついていくだけで結構きついかも……!)
しかしシュガーの方は、並んで走るのがやっとの様子。
(だが、それがやっとであるなら……)
オルフェーヴルはそれに気づくと、ペースを上げた。
シュガーをどんどん引き離し、5バ身ほどのリードを作る。
(は、速いっ!!すっごく引き離されてます!!)
力の底が見えない。その感覚を言葉にすることは、シュガーはまだ難しかったが、なんとなくわかっていた。
だが、だからこそ。シュガーライドは、燃えるのだ。
(あんな人にも……追いつきたいッ!!)
271 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/23 20:10:28
ID:g.d1pB4DW.
___2コーナーを抜けて、向正面を独走するオルフェーヴル。
(やはり、まだ若いか。しかし姉上が気に掛けるその才能……いつかは我と対等に走れる日が……)
今はまだ足元にも及ばない。しかし、もっと経験を積み……身体も成長すれば、もっと走れるようになる。
シュガーに悪くない評価を下したオルフェーヴルは、4コーナーまで来たときに一瞬ふと、後ろを向いた。
「……ッ!?」
「つかまえっ、ましたっ!!」
シュガーライドが、背後に迫っているのだ。
まさか。そう思った。あれ以上は、走れないと思っていたのに。
(我としたことが……傲慢であったッ!)
オルフェは、今までの油断的な行動を全て流すように……加速した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
残り400mの最終直線。シュガーを引き離そうとする。しかし……。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シュガーもまた、オルフェに迫る。
得意の走法が、暴君を追い抜かんと。
(お前は……強い……しかし、しかしッ!!!)
今にも追いつかれそうだ。だがオルフェーヴルは、それを認めなかった。
最強なのは自分だ。シュガーライドが強くなるのは、もっと先の話。
「我は……我が頂点なのだあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
玉座に君臨するのは、自分自身でなければならない。
そのプライドが、彼女にさらなる力を与える。
シュガーをまた、どんどん突き放していき……最終的に、1着でゴールするのだった。
272 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/25 04:50:40
ID:JiJbEjh4XI
「はぁっ……はぁっ……」
ギリギリで突き放され、ゴール地点で息を荒げるシュガーライド。
いけたと思った。このまま追い越せると思った。
だが、眼の前にいるそのウマ娘は、信じられないほど強かったのだ。
(なんて、強さなんですか……それに、息が、みだれてない……)
シュガーが驚いたのは、オルフェーヴルが息を一切乱していなかったところだ。
あれだけのペースで走って、まだもう一周も行けそうな雰囲気の、余裕の表情を浮かべている。
「……良い」
「えっ?」
「貴様の強さ、認めよう。だが……まだ我には届かぬ」
オルフェーヴルは、シュガーの強さを……潜在能力の高さを認めた。
そして、ゆっくりと近づいてくると、あるものを手渡す。
「GIで、我に勝つその時……これを返すのだ」
(えっ、これっ。えっ……?)
手渡されたモノに驚愕するシュガーを置いて、オルフェーヴルはグラウンドを去ってしまった。
シュガーの手の中には、コイントスに使った"どこの国の物かも分からない黄金のコイン"が握らされているのだった……。
そして日は流れ、ついにホープフルステークス当日を迎える。
次の展開
>>273
273 :
お前
2024/09/25 10:44:16
ID:O05YrWhJo.
師走の中山レース場、気温は低いが快晴だ。
出走は18人。シュガーは2枠4番からのスタートだ。スターターが旗を振り、各バがゲーに収まり・・・
スタート!
ホームストレッチを2回走るので、いったんゴール板を素通り。逃げも数名居るが、シュガーは約6名の第2集団につけた。
1コーナーで坂の頂点に達し、向こう正面までは下り。これを利用してシュガーは第2集団の先頭に。
向こう正面で特に順位に変化は無く、そのまま第3コーナーへ。
だが第3、第4コーナーではスピードに乗ったまま小回りするため馬群が膨らみやすく、先頭集団がスピードを落としたのをシュガーは見逃さなかった。
第4コーナーで先頭集団に並び、最後の直線でついに先頭集団を抜いて先頭に立ったシュガー。
持ち前の強い心肺で2度目の坂でも他を差しバを寄せ付けず、2バ身差の1着でゴールした。
274 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/27 05:45:12
ID:ucKb9iSs0o
12月、下旬。師走の中山レース場。
GI開催も最終週を迎えるだけあって、とても多くの観客が足を運んでいる。
日曜日には有馬記念が開催されるが、前日の土曜日に開催されるのは……。
『ここ中山レース場では、ジュニア級GI・ホープフルステークスの発走が迫っています。ここで勝利し、来年のクラシック戦線に名乗りを上げるのはどのウマ娘か!?』
___控室で中継を聞きながら、シュガーライドとトレーナーは"最後の準備"を整えていた。
「一応、サイズ合わせは事前にやったけれど……合ってる?」
「はい!とってもばっちりですよ!!」
それは、GIに挑むウマ娘の誰もが通る道。シュガーライドも、何度それを夢見たことか。
『勝負服』。ウマ娘たちの走る力の源となる、特別な衣装。
どれだけ派手な装飾で彩っていても、それを着るウマ娘一人一人に合ったものなら、
GIでも超人的な走りを発揮できるのだ。
「ゆ、URAのデザイナーさん、すごいです!」
自らが纏っている勝負服を鏡で確認しながら、シュガーは驚いていた。
GIに出るなら、かっこよくもかわいくも走りたい……という願いで、日曜朝のプリファイシリーズを思わせるようなデザインを提案したシュガー。
ポップ感のある黄色の水玉リボンを両耳に装着し、
白を基調としたインナーに制服スタイルの黄色アウターを重ね、
スカートもフリフリ感にこだわった仕立てをしてある。
「ほとんどのウマ娘は片耳に飾りをすることが多いけど……シュガーはこれが良いのよね?」
「はい!なんかしっくりくるので!」
色々話していると、発走までもう少しの時刻となった。
初めてのGI挑戦……勝つことはもちろん、楽しんで走ってこようという気持ちで、
シュガーライドは控室を後にするのだった。
275 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/28 10:01:16
ID:qPNrzRqKW2
『ここ中山レース場。現在のバ場状態は、芝ダート共に良の発表です。ホープフルステークスに出走するウマ娘たちが、続々とターフに姿を現しています』
ジュニア級といえど、GIレース。観客の歓声がピークを迎える中、ウマ娘たちが集う。
デビューから好成績を残している者、やや遅咲きでGIに間に合わせた者など、彼女たちの戦績は様々だ。その中に、シュガーライドの姿もあった。
『シュガーライド、現在一番人気です。メイクデビューから無敗の2連勝を重ねながら、トレーニングではGI最前線を走るウマ娘たちと切磋琢磨しているとのことで、大きく期待が持てます』
(た、確かにそうなんですけど!!そんなにですか!?)
実況の解説を聞きながら、シュガーは少し恥ずかしくなっていた。
正直なところ、自分はただ練習に付き合ってもらっていただけであり、
さらには若さ故か、その行動の重さ・尊さ・影響力を理解しきれていない部分もあるのだ。
永世3強、メジロ家、黄金世代、暴君……みな強さと実績を持つウマ娘たち。
そんな環境でトレーニングしたともなれば、注目されぬ訳が無い。
276 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/28 10:01:29
ID:qPNrzRqKW2
(それにしても……風が冷たくて寒いのに、寒くない……ふしぎです)
ターフの感触を確かめ、ウォーミングアップをしながら、変な感覚に陥る。
寒いはずなのに、どこからか熱気が伝わってくる。
彼女は気づいた。観客たちから来ているものだと。
初めてのGI挑戦。それを見に来る観客たちから、とても強い熱が伝わる。
同時に、それを周りのウマ娘たちからも感じた。
(……!これが、そうなんですね)
過去、メジロブライトから言われたことを思い出すシュガー。
『___GI……たくさんの”勝ちたい”が集まってきますの~。それはもう、押しつぶされそうなくらいに』
たくさんの”想い”が集まって、それは熱と同時に大きなプレッシャーを生む。
「でも、わたしは……わたしのペースで!」
しかし、シュガーはそれに潰されない。
自分の最大限の走りで、勝ちを目指す。
______各ウマ娘がゲートイン。
シュガーライドは内枠4番ゲート。
ついに、始まる。GIが。
277 :
トレぴっぴ
2024/09/28 22:22:31
ID:DDI.VDZZw6
ところでこの子の外見って
>>274
な感じなん?
278 :
トレーナーちゃん
2024/09/28 22:23:42
ID:qPNrzRqKW2
>>277
そうれす
279 :
使い魔
2024/09/28 22:26:00
ID:qPNrzRqKW2
絵は描けないけど形にしないと文章に出来なかったので、アバター作成サイトを使いました
280 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/29 06:47:44
ID:aEC0jkX3D.
吹奏楽隊による生ファンファーレと、それに合わせた観客のコール。
GIに欠かせないこの二つが完了したとき、レースは幕を開ける。
『各ウマ娘、体勢完了。……スタートしました!』
18人のウマ娘が一斉にスタート。出遅れなく、スムーズな出走だ。
(は、始まりましたーっ!!)
スタート直後。自分がGIを走っているという実感がわいてきたシュガーライド。
しかしここはじっくり、冷静に。彼女は後方に位置取った。
先頭を走るのは2名の逃げウマ娘。両者が競り合うことでレースのペースが作られていく。
しかし、逃げウマ娘とそれを追う4名の先行集団のペースは、それほど速くはない。
『さあ、スタート直後には登り坂があります。ここでのペースはややスローか』
1コーナーへ向かう途中、高低差2.2mの坂を登ることになる。
このあたりではペースが速いと、後半で先行勢の脚が鈍ってしまうことが多い。
一部の観客たちはこの模様を見て、
(ジュニア級でこの走りができるのはとてもレベルが高い……来年からのクラシックも期待できる……)と思うのだった。
シュガーライドは現在、6名ずつで2分割された後方集団の2つ目……その中の3番手ほどにいる。
(坂では、おさえておさえて……)
彼女はメイクデビューで同じコースを勝っているが、今回はGIというのもあってしっかりと対策を学習して臨んでいる。同じく、ペースが速くなることはない。
『各ウマ娘、坂を登って1コーナーへ。その後はグーっと下り坂』
1コーナーを抜けると、スピードに乗りながら向正面へ進む。
シュガーはこの勢いで僅かに前に出て、集団の先頭に。
道中で1000mを通過し、タイムは59.5。坂の影響か、やや速いペースだ。
281 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/29 06:48:15
ID:aEC0jkX3D.
が、レースが動くのはここからである。
坂を下った勢いのスピードのまま、各ウマ娘たちが3コーナーへ進出。
中山のコーナーは小回りがあり、スピードを落とさなければ外へ大きく膨らんでしまうことになる。
(……ここですッ!)
シュガーは、しばらく続いていた速いペースが落ち着いた一瞬を狙って、
じわじわと前に進出していく。
『3コーナー・4コーナーを回って、1番人気シュガーライドが上がってきた!小回りのコーナーを苦にせず、先頭集団に並びかける!』
小回りの強い部分ではピッチ走法に切り替えて、小柄な体躯も利用してバ群をするすると抜けていくシュガー。
(よしっ、できてますできてます!あともう少しっ!)
あとは最終直線を競り勝つだけ。ここで彼女のスイッチが入る。
「行くぞーっ!!」
310mの短い最終直線。シュガーはピッチxストライド走法を惜しみなく発揮し、
ラストの急坂で先頭のウマ娘を追い抜く。
『ここでシュガーライド先頭ッ!そのままゴールインッ!!』
1バ身ほどの差でゴールした。……1着で、ゴールしたのだ。
「はぁっ……はぁっ……あ、わたし……勝ったんです?じ、GI……?」
勝者を称える大歓声に包まれながら、シュガーはまだ実感がわいていないようだ。
『勝ったのはシュガーライド!無敗の3連勝で、見事ホープフルステークスを制しました!!』
が、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、世間の目は“二人目”の天才少女の出現を称え、クラシック期への期待を寄せるのだった……。
282 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/30 22:42:59
ID:Rp6tDt3Oxg
年明けに組まれた、とある特番。
それは、クラシック級に昇格したての二人のウマ娘へのインタビュー番組であった。
『本日は、クラシック世代での活躍が期待され、”小さな天才少女”との呼び声が多い2名のウマ娘さんにお越しいただきました!』
明るい雰囲気のセットに、番組メインMCの女性が一人と、インタビュー対象である二人の席が並んでいる。そこに座っていたのは……。
「ニシノフラワーです!今日はよろしくお願いしますっ!」
「しゅ、シュガーライドですっ!よよ、よろしくです!!!!!」
ジュニア級で輝かしい戦績を残し、二人はどちらも飛び級であったことから、小さな天才少女と呼ばれるようになったニシノフラワーとシュガーライド。
フラワーはテレビ出演であっても緊張や物怖じせずに挨拶できたが、シュガーの方は少し固めな表情だ。
『それではまず、お二人のジュニア級での活躍を振り返ってみましょう』
VTRに切り替わり、まずフラワーのレース映像が流れる。
彼女はメイクデビューから3戦3勝で、阪神ジュベナイルフィリーズに挑んだ。
前目の先行策で走り、後半一気に押し切っての勝利。
283 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/30 22:43:11
ID:Rp6tDt3Oxg
次に、シュガーのVTRが流れる。
シュガーもメイクデビューから2戦2勝。
ホープフルステークスに挑み、器用な後方策で勝利した。
ジュニア級GIの無敗制覇ウマ娘が、二人も誕生……世間の目は、SNSなども含めて彼女たちに集中している状況だ。
そういった書き込みなども、VTR中に取り上げられている。
「わぁー!応援してくれている人が、こんなにいるんですね!」
「す、すげーのです……」
世間からの反応に喜びと興奮の表情を浮かべるフラワーに対し、シュガーの方はそれらにとても驚き、困惑していた。
トゥインクルシリーズを走り出して、いきなりのGI制覇。
とても嬉しかったが、GIをたった一度勝つだけで、こんなにも沢山の人の心を動かすものなのだと、影響力の高さに驚いているのだ。
284 :
◆wuHHR64l1og
2024/09/30 23:42:23
ID:Rp6tDt3Oxg
クラシック級でのフラワーの目標
>>285
シュガーの目標
>>286
285 :
トレピッピ
2024/09/30 23:59:30
ID:pIjjWpDtI.
牝バ三冠です!
286 :
トレーナーちゃん
2024/10/01 00:00:00
ID:1AYxpaAtgE
私も同じです!
287 :
◆wuHHR64l1og
2024/10/02 11:25:33
ID:EALMat.7vs
『ではここで、お二人に伺ってみましょう!ずばり、クラシック級での目標は?』
MCの話振りとともに副題テロップが変化し、「天才少女ふたりの目標は!?」というものになる。
少し悩むシュガーとフラワーだったが、結論が出るのは同時であった。
「クラシック3冠です!!」
「トリプルティアラです!!」
皐月賞・日本ダービー・菊花賞の3つを勝つ、クラシック3冠。そして桜花賞・オークス・秋華賞を勝つトリプルティアラ。……どちらも、大きな望みだ。だが、それを笑う者はあまりいないだろう。
小さな身体に宿るのは、とてつもない潜在能力と競争能力。
ジュニアGIを無敗で勝利したこの二人なら、目指せないことはない。
ふと、カメラに抜かれたシュガーの表情は……とても自信に満ち溢れていた。
>>288
(皐月賞までの展開)
288 :
トレぴっぴ
2024/10/02 12:31:22
ID:bpOrArTAqo
(両方トリプルティアラなのでは…)
289 :
ダンナ
2024/10/02 12:36:02
ID:EALMat.7vs
>>288
違うんだ……シュガーの方は3冠なのだ……
290 :
貴様
2024/10/02 12:37:54
ID:EALMat.7vs
トリプルティアラの主人公はもう書いたので……
再安価
>>291
291 :
キミ
2024/10/02 13:21:00
ID:oBEV8yTMpU
なら最初からそう宣言してから書きなよ
安価両方トリプルティアラで、それをガン無視するような書き方したら突っ込まれて当たり前
自分の説明不足を棚に上げて他所で愚痴るとか女々しい真似すんなよ
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