741 : 貴様   2023/07/08 10:57:24 ID:zc8yDSb6bQ

「最後の一つだな」
ナカヤマフェスタは食堂のデザートを取ろうとした所で手を止めた。
「あ、良いよ。あたしの方が遅かったし!」
「いや、アンタは普段デザートを食わねぇ。なのに今日は取ろうとした。それなりに理由があるはずだ」
メジロライアンは身体作りのために徹底した栄養管理を行っている。
食堂でデザートを食べる事はほとんど無い。
「ううん!ただ模擬レースで一着を取れたから自分へのご褒美にって思っただけで!」
「なるほどな。じゃあ勝負で決めるか」
「えー、何でそうなるの?」
譲ると言っているのに何故かデザートを賭けて勝負する事になってしまった。
「ルールは簡単だ。私のどちらかの手の中にコインがある。入っている方の手をアンタが当てられればアンタの勝ちだ」
「うん、分かった」
ナカヤマはコインを真上に弾き、両手を高速かつ連続で交差させながら掴み取った。
どちらの手に握られているのか全く分からない状態だ。
「さぁ、どっちだ」
不敵に笑うナカヤマ。
ライアンは少し考える。
「今日は右回りコースでトレーニング、だから右!」
ほぼ勘だが、他に判断材料も無い。
「本当に右で良いのか?今なら変えても良いぜ?」
「ううん、このままで行くよ」
自信が無く、思い悩んでしまいがちなライアン。
だが、こんな時くらいはきっぱりと決めたかった。
ナカヤマが両手をゆっくり開く。
「ふっ、当たりだ」
コインは右手の上にあった。
「やった!」
ナカヤマはデザートの皿をテーブルの上で滑らせた。
「アンタの勝ちだ。食いな」
「でも、やっぱり悪いよ・・・」
ナカヤマは席から立ち上がりながら言う。
「私は勝負出来ただけで満腹だよ」
残されたライアンは首を傾げる。
「勝負したかっただけなのかな・・・」