692 : 貴方   2023/05/20 15:19:41 ID:W26jXLXH7I

「・・・ラモーヌさん」
アドマイヤベガが星を眺めようと屋上に行くと、先客がいた。
メジロラモーヌだ。
アヤベはドアノブを握っていた手を離す事無く引き返そうとする。
「あら、星を見に来たんじゃないの?」
視線を動かさないままラモーヌが問いかける。
「・・・ラモーヌさんの邪魔をしたら悪いと思って」
ラモーヌはアヤベの方を向いて答える。
「星の輝きは誰にだって平等よ。貴方が私の邪魔になると言うのなら、私が貴方の邪魔という事にもなるのではなくて?」
このロジックに則ると、どちらかが先に去る事は出来ない。
アヤベは諦めてラモーヌから近くもなく遠くもない位置で星を見る事にする。
「レースでこもった熱は、夜風が冷ます。星が輝くのはそんなウマ娘達の帰り道を照らすためなのかしらね」
ラモーヌは独り言ともそうでないとも言えるトーンで呟く。
迷いつつも、アヤベは答えた。
「星は帰り道を照らす事は出来ても、一緒に帰る事は出来ないわ。同じ場所で輝き続ける事しか出来ない」
ラモーヌは肯定する訳でも否定する訳でもなかった。
「だからと言って帰るのはやめないのでしょう?レースという愛しき場所に」
どこまで見透かされているのかも分からず、居心地の悪さを感じるアヤベ。
しかし、ラモーヌが星を見る目は幼い少女のように純粋に輝いていた。
ラモーヌはそこまで深く考えていないのかもしれない。
思わずため息を吐いてしまう。
「・・・やっぱり詩的な人は苦手だわ」