208 : トレーナーさん   2024/04/28 21:23:21 ID:TZ1Rz4qw9k

星降る石畳を踏んで君はゆく。

1歩半だけ先を、怒ったように忙しなく。

もろびとこぞる市場の中を、

その細い脚で縫うように淀みなく、

騒ぐ人波をかきわけて。

店先は光で満ちて、

きらめく品々は眩しく鮮やかだ。

甘いホットチョコレートの湯気に、

シナモンの香りが乗って夜を温めている。

この冬の日の喧騒の中で

その小さな肩を見失わずに済んでいるのは、

間違いなく君自身のおかげだった。

「何してんの、はぐれないでよ」

振り向いて、ぶっきらぼうに君は言う。

頷き返すと、すぐに前を向いてしまう。

ただ1歩半だけ先を、

それ以上決して引き離さないように、

細心の注意を払いながら君はゆく。

時折、ちらちらと振り返る視線に、

気づかないふりをして後を追う。

気づいたことがわかったら、

その途端にこの聖なる1歩半が

ぐんと伸びて消えてしまうからだ。

聖夜の月明りを受けて君はゆく。

1歩半だけ先を、誰よりも優しく慎重に。