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モルモット君 2023/05/16 07:56:35
ID:asmJzwLHQE
聖なる浅草今半
賑わう国際通りを君はゆく。1歩半だけ先を、お腹を空かせたように忙しなく。もろびとこぞる中見世の中を、その細い脚で縫うように淀みなく、騒ぐ参拝客をかきわけて。
店先は情緒に満ちて、きらめくサシは眩しく鮮やかだ。食欲をそそるすき焼きの湯気に脂の匂いが乗って夜を温めている。
この冬の日の喧騒のなかでその一軒の店を見失わずに済んでいるのは、間違いなく長蛇の列のおかげだった。
「何してんの、はぐれないでよ」
振り向いて、ぶっきらぼうに君は言う。頷き返すと、すぐに前を向いてしまう。ただ一歩半だけ先を、それ以上決して引き離さないように、最新の注意を払いながら君はゆく。
時折、ちらちらとメニューを覗く視線に、気づかないふりをして列に並ぶ。気づいたことがわかったら、その途端にこの聖なる浅草今半がぐんと伸びて消えてしまうからだ。
初詣の喧騒を受けて君はゆく。一歩半だけ先を、誰よりも空腹で楽しみそうに。