【ウマ娘推理小説】ウマロンパ 絶望の孤島とウマ娘達
1 : アナタ   2023/05/05 09:51:43 ID:MuWf/GCv02
 それは二〇二二年の七月七日、七夕の日のことだった。私、シンボリルドルフは学園内に起きている問題についてトレセン学園の理事長、沢村隆に相談するため理事長室を訪れていた。
 問題について説明しておこう。二〇二二年の七月当時、トレセン学園の中で勢いを伸ばすチームの一つに、ムーン(以下、甲と称する)というチームがあった。甲のチームトレーナーは水田恭平と言って、彼の両親はウマ娘の医療業界の中で絶大な権力を持つ、MTグループの会長であり、URAへほぼ全額出資していた。だからそれなりにトレセン学園の中でも特別扱いされていた。甲には数人サブトレーナーが在籍していて、これはウマ娘風俗業界と深い関わりがあった。
2 : トレーナーちゃん   2023/05/05 09:52:48 ID:MuWf/GCv02
 ここまでだったら、たかがURAのお偉いさんのボンボンと怪しげな男達のチームでしかないが、とある疑惑がもたれていた。その疑惑とは、甲のチームに所属しているウマ娘が次々と風俗業界へ売り飛ばされているのではないかというものだ。最初はほんの噂に過ぎなかったが、瞬く間に学園内に拡まった。そういう悪い噂が広まれば普通、甲へ所属を希望・若しくは所属しているウマ娘は減少するはずだが、その逆に甲へ所属を希望・所属しているウマ娘は増えていったのだ。その挙句に、生徒会が設置する目安箱にこのような手紙がきっちり封をされた名無しの封筒に入れられていた。
3 : キミ   2023/05/05 09:53:13 ID:MuWf/GCv02
『生徒会会長シンボリルドルフ殿、どうか生徒たちを甲の魔の手から救って、防いでください。
 先日、甲へ移籍されたクックロビンというウマ娘について記します。クックは甲に対して不信感を持っていたようで独自に調査をしていました。クックは甲へ移籍する一週間前に、水田恭平と接触して甲のチーム部屋に入っていく様子を私は目撃致しました。おそらくは潜入調査気取りだったのでしょう。そのときの態度は情報を引き出すためにただ淡々とした口調で水田と話していました。
 しばらくしてクックが水田と共に部室からでてきたのですが、私は驚きました。クックは水田の右腕に恋人のように抱き着いていたのです。その態度というのが本当に水田にベタ惚れと言いますか、しかもディープキスまで。尻尾もブンブンと嬉しそうに振っていました。ウマ娘に本音は隠せません。つまりクックは本当に水田にベタ惚れしたのです。人間、ウマ娘そうそう人への印象や態度は変えられません。くそみたいなハーレムものではありませんから。あの部屋の中でクックは何かしらの方法で洗脳されてしまったんでしょう。おそらく、他のウマ娘もそうやって。しかもクックはその後に甲への調査資料を処分しようとしていました。それを私が回収し、保管しています。その捜査資料の中で私が重要だと思うものの写しをこの手紙を入れました。私のようなしがない只の生徒が学園に盾突いても、もみ消されるのがオチです。どうか、生徒たちを救ってください』
4 : トレーナー君   2023/05/05 09:53:53 ID:xS3dTgSmws
長い
3行で結末だけ教えろ
5 : 大将   2023/05/05 09:55:25 ID:MuWf/GCv02
 次に同封されていた資料をここに一部写しておこう。

『マンデーサニー 鈴谷礼子
生年月日 二〇〇四年 五月七日 
毛色 栗毛
本人からの供述
 順調に戦績を積み上げてきた頃に水田恭平達にスカウトされた。彼らに好意を抱き、今までついていたトレーナー(専属契約)に凄まじい嫌悪を抱くようになった。
 その後甲に移籍すると、かなり快適にレース生活を過ごせていた。しかし体へ衰え(チームに所属してから三か月しか経っていない)が来たのでレース引退を決意。それと同時に退学を決意。現在働く風俗店に就職する。

アリスドロシー 鴨宮春陽
生年月日 二〇〇三年 四月二十日
毛色 鹿毛
本人からの供述
 順調に戦績を積み上げてきた頃に水田恭平達にスカウトされた。彼らに好意を抱き、今までついていたトレーナー(専属契約)に凄まじい嫌悪を抱くようになった。
 その後甲に移籍すると、かなり快適にレース生活を過ごせていた。しかし体へ衰え(チームに所属してから三か月しか経っていない)が来たのでレース引退を決意。それと同時に退学を決意。現在働く風俗店に就職する。』
6 : トレーナーちゃん   2023/05/05 09:56:22 ID:MuWf/GCv02
 他にも甲に所属しており、退学している生徒達の資料があり、それらをすべて読んだことで共通点が判明した。

一.戦績を積み上げられるようになった、もともと別のトレーナーがついているウマ娘をスカウトしている。

二.甲に移籍したウマ娘は移籍後三か月で退学し、風俗関係に就職している

三.水田達に好意を抱いている

四.入部希望したウマ娘がチームに入れることはない
 
の四つだ。私は規則性を感じた。人為的なものが動いていることは間違いなさそうだと思った。
7 : お兄さま   2023/05/05 09:58:25 ID:MuWf/GCv02
私は最初、両親を頼ろうと思った。URAの重鎮であるからこの事態を見たならば解決へ協力してくれるに違いないと。しかしよくよく考えてみれば、例えば大株主の気分を損ねることを会社はするだろうか? 否、ない。次に警察に相談しようと思ったが、洗脳だの意識を変えるだの信じてくれるわけがない。沢村理事長もURAの関係者だが、先々代の生徒会長のとき、URAが反対した生徒たちの要求をどうにかこうにか実現させてくれた実績があった。だから今回の件でも信頼がおける人だと思い、相談に行くことにしたのだ。
 理事長室の向かい合ったソファーに私と沢村は座った。沢村は薄い白髪にふくよかな体をしている。
 私が資料から纏めた情報を印刷したプリントと調査資料の写しのコピーを読んだあとに沢村は言った。「なるほど」頷いた後に「これは調査するべきですね、第三者委員会を立ち上げるような。お父さんは? ————駄目だったみたいですね」
 沢村は全てを察しているようだった。沢村は手に持った資料をテーブルの上に置いて「ええ、協力しますよ。なるべく早く」沢村は何かを思い出したように目を大きく開くと、デスクへ向かって、書類を持って帰ってきた。
8 : 相棒   2023/05/05 09:59:23 ID:MuWf/GCv02
その書類とは、生徒への学校環境についてのアンケート用紙のコピーだった。名前はのり弁にしてあったが、水田についての悪事に関することが記載されていた。「もしかしたら、役に立つかもしれません」
 そのあとも様々なことを話したが、今回のことと何らかかわりがないので、記さないでおく。
 理事長室を出ると、扉の前にメジロラモーヌが立っていた。いつもより淫靡さを醸し出しているように思えた。私は思わず耳を後ろに倒した。
 「おはよう、ラモーヌ。女を知ったかい? 」
 ラモーヌは微笑んだ。「ま、どうでしょうね」ラモーヌの口元には縮れ毛がついていた。
 「大胆じゃないか、早朝から。誰と? 」
 手を挙げて「さあ? とりあえず、トレーナーがニュクスにって。行きましょう? 」
 ついにラモーヌが手を上げたか、と思った。私は怒りに心を支配された。
9 : トレぴっぴ   2023/05/05 10:01:30 ID:MuWf/GCv02
私が愛する大神君に手を出されたと思った。これはもう、襲うしかない。私で上書きしなければとどこかで思ったが、冷静でいようと思った。ラモーヌについていこうとしたその瞬間、
 「‥‥‥!? 」
 目の前の景色はゆがみ、どろどろと飴細工のように溶け、やがて暗転した。
 誰かに揺さぶられる感覚がしたので私は顔を上げた。私はどうやらテーブルに腕を置き、それを枕のようにして眠っていたみたいだった。揺さ振られる手が止んだ。手は左手から伸びていたのでつい左を向いた。そこには私服のラモーヌの姿があった。彼女は酷く驚いているようで耳を後ろに倒しており、眉を八の字にしていた。「おめざめね、どんな夢を見ていたのかしら? うなされていたけど」
 先ほどのラモーヌの様子とは違っていた。私は何とか返事を脳内から探し、推敲もせずに言った。「お楽しみだったじゃないか、早朝からうまぴょいとは」
 「何言ってるの? 」あきれたように瞳を閉じ、「気でも狂ったのかしら、私をそんな安い女だとお思い? 」
10 : トレーナーちゃん   2023/05/05 10:02:33 ID:MuWf/GCv02
 「口元に立派な縮れ毛付けて、よく言えるな」私は煙草に火をつけて、口に咥えた。「トレーナー君の匂いはどうだったかい? いい香りだろ? 」私はその手に煙草を握っていたことに気づき、すぐさまに先ほどまで腕を置いていた、テーブルクロスに押し付けた。
 「あなた、何を」ラモーヌが遅れて言う。言葉が見つからなかったのだろう。
 私はかぶりを振った。よく見ると私の服も私服に変わっていた。先ほど無意識に手を伸ばしたズボンのポケットに手を突っ込むとNANATUBOSIという煙草の箱とライターが出てきた。先ほど消した煙草以外、すべて入っていた。「違うんだ————私がこんな外道をすると思うか? それより」私は辺りを見回した。漆喰の壁、寄せ木細工の床、東の壁だけにある大きな窓、長いテーブルの上に伏せて寝ている見知った者たちの耳。最も驚いたのが、西側の一番端の席に水田恭平が眠っていたことだ。
 「君の趣味か? 」私はラモーヌに言った。ラモーヌは葉巻に燃えたマッチを近づけるところだった。「おい! 君もか! 」
 ラモーヌは驚いて、葉巻を投げ、マッチを床に落とし、踏みつぶした。そのあとには黒い粉が飛び散っていた。「まさか。起こしましょ、とりあえず」
11 : トレーナー君   2023/05/05 10:03:11 ID:MuWf/GCv02
 今は緊急事態だと思った。ラモーヌの意見が正しい。こんな状況で立ち話をしている場合ではないと思った。「分かった。後で」
 ラモーヌも頷いて「わかったわ」
 私たちは寝ている者たちの肩を揺さぶっていった。やがてみんなが目覚めた。この当時部屋にいたのは以下の人物たちだ。
##チームオルフェウス
シンボリルドルフ
エアグルーヴ
サクラローレル
グラスワンダー
ミスターシービー
アドマイヤベガ
スーパークリーク
メジロラモーヌ
サトノダイヤモンド
12 : モルモット君   2023/05/05 10:04:29 ID:MuWf/GCv02
##チームニュクス
サイレンススズカ
ゴールドシチー
スペシャルウィーク
ダイワスカーレット
スイープトウショウ
キタサンブラック
ダイイチルビー
##その他
水田恭平

 彼女たちは混乱していた。
 「会長、一体どういうことです? 」女帝が言った。
 「何? ドッキリ? 」魔女が言った。
 「水田トレーナー、なぜあなたが? 」緋色の女王が言った。
13 : トレーナーさん   2023/05/05 10:05:15 ID:MuWf/GCv02
「みなさん、ここは冷静に」母性の暴走が言った。
 「会長、何かご存じ? 」最速の機能美が言った。
 「ねえ、ダイヤさん、これって」
 「しりませんよ、まったく……わからないです 」
 「拉致? 」
 「まさか————ねぇ、スズカさん? 」
 「会長」
 私は低い声で言った「静粛に! 」辺りは一帯シーンと静まり返った。続けて「今、おそらく皆、困惑しているかもしれない。だが、落ち着いてほしい。冷静にならなければ事態は悪化するばかりだ————そうだろう? 少し確認させてほしいことがある。この部屋に自らの意思で入った者はいるか? 」
 十七人が次々と否定の意思を表示した。誰も望んでこの場に入った者はいない、いや、誰かは嘘を————みな耳をピコピコ動かしていたから違いない。水田もキョロキョロと目を動かしている。困惑していることに違いない。つまり彼が仕組んだことでもなさそうだ。
14 : あなた   2023/05/05 10:06:25 ID:MuWf/GCv02
 「では」私は一度空咳をした後、「この部屋に来るまでの記憶を教えてくれないか? 」
 私がそう聞くと、クリークが手を挙げた。私はクリークにめせんと耳を向けた。ほかの皆もそうだった。クリークはぎこちなく椅子から立ち上がり、話し始めた。耳はピコピコと動かしている。「スカーレットさんに、”ニュクスの部屋に皆さんを呼んで来てほしい”ってメールが来たから」
 スカーレットは椅子から立ち上がり、両手をテーブルにつけ、「言ってませんよ! そんなこと! s」
 「落ち着きなさい、話を聞きなさい」ラモーヌが珍しく注意するように言った。スカーレットは身を縮こませて席に座った。
 クリークは口を少し開け、驚いたように目を見開いた表情でスカーレットを見ていたが、目線をもとに戻した。「オルフェウスの、そう、会長さん以外はみんなウマインで呼んで」周りに目を向けて「ね? 」
 オルフェウスのメンバーは私と頷いた。クリークが席に座った後、ニュクスの面々が立ち上がった。
15 : トレぴ   2023/05/05 10:07:15 ID:MuWf/GCv02
その表情は自分たちの記憶と乖離していると言わんばかりに困惑したり、眉を顰めたりする者もいた。スカーレットが口を開いた。「信じてくれないかもしれませんが————」私に視線を向けて「私たち、みんなあの部屋でトレーナーが来るのを待っていたんです」スカーレットは横に並んだチームメイトの顔を見て「だよね? 」ニュクスの面々は頷いた。「トレーナーが来たかな、と思ったんです。ドアが開いたとき。そしたら、袋が投げ込まれたんです。その中からモワモワって、ダートの砂ぼこりみたいに————ピンク色でした。とにかく、突然投げ込まれた袋の中から、砂ぼこりみたいのが広がって、みんなせき込んでいたら、目の前がグルグルってなって、真っ暗になって、ここです」
 私は「ニュクスのみんな、違いは」
 私が話し終わる前に揃って、「ないです」
 「それに」スカーレットが付け足すように「クリークさんに、私そんなこと送ってませんよ? 
 「でも———」クリークはポケットから取り出したのは煙草だった。
16 : あなた   2023/05/05 10:07:51 ID:MuWf/GCv02
それに皆、注目を集めた。クリークは煙草の箱を投げた。焦って自己弁護をするように早口で、「違うです! 私じゃないんです、誰かが! 」
 皆も自分のポケットを漁ったが皆、煙草の箱とライターか又はマッチ箱だった。
 「一体————」エアグルーヴはか細い声で言った。何がなんだかわからないようだ。
 「私のじゃない! 」
 「知りません! 」
 「誰がこんな! 」
 次はルビーが珍しく大声で「静粛に! 」と言ったらまた静かになった。続けて「みなさん、投げないでください、自分が持っていたものを、自分のテーブルの前に」
 投げられたものは、煙草のパッケージはどれも個性的で、記憶違いなどはなかった。みな、それぞれ整理すると、ラモーヌとキタサンは葉巻でそれ以外は全く違う紙煙草だった。
17 : 使い魔   2023/05/05 10:08:55 ID:MuWf/GCv02
「ルドルフ」ラモーヌが言った。「さっきあなた手慣れたように」
 「君こそ」
 「スぺちゃん! 」スズカが言った。スぺに視線を合わせると、スぺの目の前にあった煙草の箱をスぺが持ち、その中から一本、取り出そうとしていた。
 「あっ」シービーが咥えていた煙草を口から離した。
 ルビーが言った。「みなさん、随分手慣れておりますね、吸い方が、その」
 アヤベが口を挟んで「みなさん、喫煙の経験はないですよね? なのに————」
 皆頷いた。「変ですね、どうも、いや、先ずここは何処か分からないじゃないですか」
 暫く沈黙が続いた。私はそこで「手慣れた喫煙、見知らぬ部屋、どうも私たちは変だぞ」
 「会長さん」水田がその鍛え上げた日焼けして黒い肌をピクつかせていった。「どうも俺たち、とんでもないことに巻き込まれたみたいじゃないですか、あはは……」
 皆の視線は冷たいものだった。
 「ラモーヌさんの後ろ」スカーレットが言った。
18 : お兄さま   2023/05/05 10:09:28 ID:MuWf/GCv02
振り返ると、漆喰の壁の中に黒い観音開きのドアがあった。ドアノブがついていて、片方に鍵がかかっていた。こちらから開けることはできない。
 だが、かちっと鍵が開く音がして、扉に動く気配があった。
 「みなさま、お目覚めのようですね」扉の隙間からマンハッタンカフェに似た、低く、落ち着いた声が聞こえた。
 皆は黙ったまま、扉が開くのを待っていた。二つの扉がゆっくりと開いた。開き終わると、扉の前に二人のウマ娘が立っていた。一人は完全にマンハッタンカフェに瓜二つで、彼女の勝負服を着ている。両目はどちらも赤い。もう一人もマンハッタンカフェと体や顔は瓜二つなのだが葦毛で白いタキシードを着ていたし、左目には片メガネがかかっていた。さながら執事である。
 マンハッタンカフェと瓜二つの赤目が軽くおじきをして、「私はこの館————死刑館の主の、ジャスティスと申します。以後、お見知りおきを」ジャスティスは自分から見て左斜め後ろに立つ、白毛の執事風のウマ娘に目線を送った。自分は頭を上げ、それと入れ違いに執事が頭を下げた。
19 : トレぴ   2023/05/05 10:09:53 ID:MuWf/GCv02
「私はジャスティス様の執事を務めております、ジュディシアリー、ジュディとお呼び下さい」
20 : あなた   2023/05/05 10:10:26 ID:MuWf/GCv02
 沈黙が空気を包んだ。低く、まるでウマ塚の男役のような低く凛々しいジュディの声が脳内を反芻していた。誰かが声を上げた。ゴールドシチーだった。モデル仕事時のテキパキとした口調で「あなたたち、誰ですか? 私達を拉致したのは」
 ジャスティスは口を開いた。「要約すると、あなた達は望んでここに来ましたよ」
 そんなわけがない、ふざけるな、という声が沸き上がった。
 「お静かに! 」ジュディが言った。また皆は黙った。
 ジャスティスは空咳をして、「ええ、水田さんは別です。拉致しました。いえ、まあ記憶がないでしょうけど」
 水田は不安げに顔をピクつかせた。黙っているだけだった。
 「サンデーさん、カフェさん、なんのつもりですか? 」ローレルが怪訝な顔をして言った。
 ジャスティスはかぶりを振った「言っておきますが、私達は私達、サンデーサイレンスさんもマンハッタンカフェさんとも関係がありません」
 「ねえ」ラモーヌが言った。「あなた達、あの男と」水田に振り向いた。「私たちで何をさせるつもり? あなた達、彼の手先? それともただの愉快犯? 」
21 : トレーナーちゃん   2023/05/05 10:12:26 ID:MuWf/GCv02
ジュディが小さく手を挙げた。「僭越ながら、私がお答え致します。ジャスティス様」ジャスティスに目線を送った。ジャスティスは頷いた。一度空咳して、「私共からのお願いは、皆さまにはここで一生、共同生活を送っていただくことです————いえ、衣食住はこちらで用意させていただきますから、セルフサービスです」
 ルビーは耳を絞った。「一体、私達を貴方方が————メリットがありません。本当の目的、隠していますね? 」
 ジャスティスはにやりと笑い、青鹿毛の尻尾を嬉しそうにブンブンと振った。「勿論、貴方方には愛しのトレーナーさんがいらっしゃいます。まるで運命の人ってレベルまで惚れて。いやあ恋する乙女はかわいらしい! まあ、そうです。出たいですよね、ここから」
 みんな、そうだ、そうだ、そうよ、そうです、など賛同の意を示した。ジャスティスは言った。「だったら、誰かを殺してください」
 沈黙、先ほどまで各々が好き勝手言っていて騒がしかった周りがいきなり静かになった。エアグルーヴが口を開いた。小さな声で「それだけでいいのか? 」
22 : モルモット君   2023/05/05 10:12:58 ID:MuWf/GCv02
 「エアグルーヴ! 」私は言った。先ほどの発言はまるで殺人をすることを厭わないようにも聞こえる口調だった。
 「副会長、何を仰ってるんです?! 」アヤベがにらむような目つきでエアグルーヴを見た。エアグルーヴはうつむいた。 
 「さて」ジャスティスはエアグルーヴにかまわず「そうです、誰かを殺すだけで、とは言葉足らずですね。正確にいうならば、誰かを殺し、その後に開かれる裁判でみなさんから犯人は逃げてください。トリック、嘘を駆使して自分が真犯人だと気づかせないでください」ジャスティスは「ジュディ、皆さまにあれを! 」
 ジュディはうなずき、指を鳴らした。途端に私たちのポケットにある重みが生まれた。私はポケットの中から重みのもとを取り出した。それはスマートフォンに似た、端末だった。側面には音量ボタンと電源ボタンがあり、私は電源ボタンを押した。
 画面には「URA立日本ウマ娘トレーニングセンター学園生徒No.0802 シンボリルドルフ 2022年 10月20日 22:34」と表示されていた。
 「時間おかしいんじゃない? 」スイープが言った。だが、ジュディはかぶりを振った。「いえ、間違っておりません、では」
23 : トレーナーちゃん   2023/05/05 10:13:29 ID:MuWf/GCv02
ジュディは手を西側のディスプレイが埋め込まれた方に手を向けた。私たちの視線はそれに集まった。テレビがつき、ニュース番組の映像が始まった。
 それはいつも私が見ているニュース番組だった。見慣れたアナウンサーが会釈して、「こんばんは、一〇月二〇日、夜のニュースをお送りします」
 つまり私たちは三か月と二週間ほど意識を失い、ここに連れてこられたわけだ。
 「ジャスティスさん」クリークが言った。
 「なんです? 」
 「私達、警察から捜索されていますよね? だったらもう時間の問題」
 ジャスティスは首を横に振った。「それはないと思いますよ、言ったでしょう? あなた達は望んで、水田さん以外はここに来た、と」
 ジャスティスは白い歯を見せてにやりと笑った顔を水田に向けた。「まあMTグループのボンボンが行方不明ってこりゃあ大ごとです! 血眼ですよ警察は、あはは! 」突然真顔になり、「でも世間の注目ももうないですからね、あなた方は思う存分コロシアイができます————では、手帳の画面をご覧ください」
24 : アンタ   2023/05/05 10:15:03 ID:MuWf/GCv02
ジュディは手を西側のディスプレイが埋め込まれた方に手を向けた。私たちの視線はそれに集まった。テレビがつき、ニュース番組の映像が始まった。
 それはいつも私が見ているニュース番組だった。見慣れたアナウンサーが会釈して、「こんばんは、一〇月二〇日、夜のニュースをお送りします」
 つまり私たちは三か月と二週間ほど意識を失い、ここに連れてこられたわけだ。
 「ジャスティスさん」クリークが言った。
 「なんです? 」
 「私達、警察から捜索されていますよね? だったらもう時間の問題」
 ジャスティスは首を横に振った。「それはないと思いますよ、言ったでしょう? あなた達は望んで、水田さん以外はここに来た、と」
 ジャスティスは白い歯を見せてにやりと笑った顔を水田に向けた。「まあMTグループのボンボンが行方不明ってこりゃあ大ごとです! 血眼ですよ警察は、あはは! 」突然真顔になり、「でも世間の注目ももうないですからね、あなた方は思う存分コロシアイができます————では、手帳の画面をご覧ください」
25 : 使い魔   2023/05/05 10:15:39 ID:MuWf/GCv02
画面が勝手に切り替わって、そこに『共同生活の規則』が表示された。黒の角ゴシック体である。

第一条 生徒達はこの島の中で共同生活を行うべし。共同生活の期間は無期限とす。

第二条 夜十時から朝七時までの間に必ず六時間以上睡眠をとるべし。コレに従わざる者はルールに反したるモノとして罰す。尚、不眠症の者あらば館長のジャッチメントに申すべし。さすればウマ娘用睡眠薬を支給す。

第三条 就寝は己れの個室のみでせよ。コレに従わざる者はルールに反したるモノとして罰す。

第四条 馬頭島並びに其の他施設を調査すること、これを妨げざるを茲に誓う。
26 : 使い魔   2023/05/05 10:16:27 ID:MuWf/GCv02
第五条 館長たるジャスティス並びに執事のジュディシアリーへの暴行の一切コレを禁ず。防犯カメラの破壊並びに生徒が故意に向きを変えることコレを禁ず。

第六条 生徒内に於いて殺人が発生せるとき、犯人ことクロはこの島脱出する権利を得。しかし、自らがクロたることを他人に見破られることコレを禁ず。

 「みなさん、よくお聞きください。ここにある馬頭島とは、この屋敷がある島のことです。つまり、あなた方はこの屋敷から出て、島を探索できる”権利”があります。私共は最初、探索できる場所を所都合によって制限いたしますが、徐々に開放し、やがて全土、自由に探索できます。それでは次に移ります」再びジャスティスが指を鳴らすと、馬頭島の地図が表示された。この地図をそのままここに載せることができないので、簡単な写しを載せておこう。一枚目は今回の事件において必要な箇所だけ抜粋して描いた。二枚目は、当時探索可能であった範囲を示したものである。斜線の部分が探索不可能範囲である。

27 : アナタ   2023/05/05 10:16:27 ID:MuWf/GCv02
第五条 館長たるジャスティス並びに執事のジュディシアリーへの暴行の一切コレを禁ず。防犯カメラの破壊並びに生徒が故意に向きを変えることコレを禁ず。

第六条 生徒内に於いて殺人が発生せるとき、犯人ことクロはこの島脱出する権利を得。しかし、自らがクロたることを他人に見破られることコレを禁ず。

 「みなさん、よくお聞きください。ここにある馬頭島とは、この屋敷がある島のことです。つまり、あなた方はこの屋敷から出て、島を探索できる”権利”があります。私共は最初、探索できる場所を所都合によって制限いたしますが、徐々に開放し、やがて全土、自由に探索できます。それでは次に移ります」再びジャスティスが指を鳴らすと、馬頭島の地図が表示された。この地図をそのままここに載せることができないので、簡単な写しを載せておこう。一枚目は今回の事件において必要な箇所だけ抜粋して描いた。二枚目は、当時探索可能であった範囲を示したものである。斜線の部分が探索不可能範囲である。

28 : トレ公   2023/05/05 10:17:18 ID:MuWf/GCv02
ジュディが続けて「現在探索可能なエリアにマークをしておりますので、説明させていただきます。この館は丘の上に建っていて、外に出ると丘を降りる道がございます。そこを降りますと左手に焼却炉がございます。そこでこの共同生活で出たゴミは全て、廃棄していただきます。
 次に、北東にございます、屠畜場。そこは牧場で飼育している鶏・牛・豚を殺し、食肉に加工する施設です。ええ————勿論冷凍設備も消毒設備もございます。用具もそちらに御座います。スペシャルウィーク様、ご経験がございますね? 」
 スペシャルウィークは突然自分に話題を振られたことにより、耳をピコピコと動かし、目をキョロキョロさせながら「はい、一応」
 ジュディは言った。「そうですか————皆様にお伝えしておきますが、食肉は調達してください。スペシャルウィーク様は屠畜のご経験が御座いますので、頼りにしてはいかがでしょうか? まあ、万が一のときはこの私が」
 万が一とは、スペが死亡した状況ということだろう。
29 : トレーナーさま   2023/05/05 10:17:45 ID:MuWf/GCv02
誰かの口が開きそうになったが、ジャスティスは手を挙げて、「何て身勝手な、と思いでしょうが、そうですよ。これは共同生活、嫌ならコロシアイをして、皆様を欺いてください」
 また、ジャスティスが指を鳴らすと、今度、端末に『共同生活脱出ノ方法』と表示され、条文がまた文語体で書かれている。

第一条 一人ノ殺害スルヿヲ許サルル人数ハ二名ヲ上限トス。其以上ニ殺害ニ及ビタルトキハ、問答無用ニテ処刑ス

第二条 犯人ハ他者ニ己ノ殺害シタル者ノ骸ヲ三名以上ニ発見サレテカラ十時間経過シタル後ニ執行スル、学級裁判ニテ己ノ犯人タルヿヲ隠シ通スベシ。若シ犯人タルヿ見破ラレヌル場合、犯人ハ処刑サル。或ハ犯人ノ犯人タルヿヲ見破ラレザル場合、犯人ハ此ノ島カラ脱出スルコトヲ得。其以外ノ者ハ全テ処刑サル
30 : トレーナー君   2023/05/05 10:17:58 ID:MuWf/GCv02
「簡単に言ってしまえば、一人が殺せるのは二人まで。犯人はそれ以外の三人に死体を目撃されてから十時間後に、殺人犯探しの学級裁判にて、自分が犯人だと見破られなければこの島を出られます。その代わり、それ以外の皆さんは死にます」
31 : トレ公   2023/05/05 10:32:03 ID:eDuzSpgJC.
乙、面白かった!最後に黒幕のゴルシにマックイーンがそれは違いますわ!(BREAK! するの熱かったな!
32 : モルモット君   2023/05/06 16:41:30 ID:5q6QYVTND6
 「死ぬ?! 」スイープが言った。
 冗談だろ、何を言っている、死にたくない、出して、という声が上がった。
 ジャスティスは頷いた。「そうですよ。ですが————もしその裁判で犯人が見破られてしまったら、犯人だけが処刑され、皆さんは生き残ります。ですが、共同生活を続行していただきます。詳しいことはそのときになってからお話するとしましょう」
 私は苦し紛れに鼻で笑った。ジャスティスの目線がこちらに動いた。「あったら、か。だったら何もせず、死ぬまでここに居てもいいんだな? 」
 そうくると思ってました、というようにジャスティスはにやりと笑った。「そうですね————じゃあ、これ」
 端末の画面が切り替わって、映像が再生され始めた。
 「そうそう、この端末は『電子身分証明書』っていうんですよ。————まあスマホですが」
 映像の内容は暗転から始まる。
 「おい、大丈夫か! 」聞き覚えのある声———————確かクックロビンのトレーナー、三木謙一のものだ。
33 : 大将   2023/05/06 16:42:05 ID:5q6QYVTND6
 ブレていたカメラのアングルが安定する。そこはまるで、昔興味本位でのぞいたラブホテルのような内装の部屋であり、壁の色も床の色もどれも派手の色である。正面には大きめのツインベットがあり、使用済みのコンドームらしきものがに散乱している。カメラのアングルから察するに撮影者はカメラを体につけて固定しているようだ。そのベットの上で男が仰向けに倒れていた。呼吸が荒く、体が上下している。
 カメラはベットに近づき、ベットの横まで歩いた。ベットで倒れていた男の顔がよく見える。男の顔が見えた瞬間、私はぞっとして、体が内側から冷え、鳥肌が瞬く間に全身を覆った。それは大神藤四郎君———私達チームオルフェウスのチームトレーナーだった。顔はあざだらけで、鼻血がたらたらと流れて、ベットの白いシーツに血の染みをつくっていた。
 大神君はぼそぼそとした声で「大丈夫、撮れた。警察も……うん、頼める? あ……」
 何かを言いかけようと口を開けた瞬間、映像が切り替わった。ジャスティスがどこか暗い部屋で椅子に座っている。背後のモニターでは先ほどの映像が流れていた。
34 : アネゴ   2023/05/06 16:42:37 ID:5q6QYVTND6
「さて、君たちオルフェウスの親愛なるトレーナー君がこんな風になったのは何故でしょう? それは学級裁判で勝った犯人のみ、知ることができます、では」
 動画は終了した。それを視聴し終えたときの率直な感想は、不安で、愛している人を傷つけられた怒りが沸いてきた。
 「一体どういうことだ……お前か」私は声をわなわな震わせながら言った。
 「さあ」ジャスティスは挑発するように言った。
  周りを見渡してみると、みんな絶望に染まったような、目を見開き、口を少し開け、顔色が悪かった。
 「最後に」ジャスティスは言った。「あくまで犯人になれるのは殺害を実行した本人のみ、です。ですから犯行に協力しても意味がありませんよ、では」
 ジャスティスとジュディがお辞儀をすると、忍者が消える前の煙のようなものが急激に部屋を包んだ。視界不良である。
 「なにこれ!? 」
 「大丈夫ですか! 」
 「キタちゃん! 」
35 : お前   2023/05/06 16:43:07 ID:5q6QYVTND6
 「動かないで! 窓を開けて! 」
 「はい! 」
 窓を開けたことによって、部屋の中は次第に視界が綺麗になった。だが、ジャスティスとジュディの姿はどこにもなかった。一体ドアを開ける音も立てずにどうやって消えたのかわからなかったが、それはどうでもいい話だった。
 「私から提案があるわ」アヤベが手を挙げた。「一度、その電子身分証明書の機能を確かめてみない? あと、探索は明日にしましょう? もう十一時だし。夜に見知らぬところをうろつくなんて、あの話をマジで受けた誰かに殺されるかもしれないから」
 みんな黙って頷いた。電子身分証明書の機能については、以下のようにまとめておこう。これはここにいた全員が入手した情報である
36 : 貴方   2023/05/06 16:43:43 ID:5q6QYVTND6
・マップ機能
この館死刑館などの建築物や馬頭島全体のマップが収められている。しかし、前に載せたマップの斜線部分についての情報はなにもなかった

・録音・再生機能
 音声を録音、それをしたものの再生ができる。音質は高品質だ

・ポータブルプレイヤー機能
 あらゆる音楽を聴くことができる

・カメラ機能
 写真を撮影したり、動画を録画することができる。画質も音質も高品質だ
37 : トレピッピ   2023/05/06 16:44:36 ID:5q6QYVTND6
・チャット・電話機能
 チームオルフェウスとニュクス、水田の連絡先しかのっていない。グループを作ることもできる

 上記以外、何もできないのである。
「ルドルフ」シービーが言った。「今のうちに明日探索するメンバー、決めない?
それと集合場所と時間」
 「じゃあ」シチーが言った。「十時、私朝弱くて」
 「ここでいいんじゃないですか」ダイワスカーレットが言った。「みなさんがわかる場所ですし」
 「では」私が言った。「朝の十時に、ここで集合ということでよろしいかな? 」
 異議はなかった。
 「それでは————————解散」
 私たちはマップに書かれた自分の部屋に向かって歩いて行った。私たちの部屋は二階と三階なので、一階までみんなと連れ立って行った。
 二階まで登ると、同行していた水田は理科室の方へ向かおうとしていた。私は怪しくなって、呼び止めた。「なにをなさるつもりで? 」
 スポーツ刈りの頭を掻きながら、「いや、少し————————見てくださいよ」
 私の部屋の扉を指さした。「自分のをタッチしてしか入れないですから、安心してください」
38 : お兄ちゃん   2023/05/06 16:45:17 ID:5q6QYVTND6
「ラモーヌ」私は言った。「ちょっと確認してくれないか? 」
 扉のドアノブの下には、駅によく設置されている、電子決済対応自販機の、端末を読み込ませるところのようなものが取り付けられていた。
 「ええ」
 私は、証明書の画面をそれにタッチした。ピッと言い、カチッとボルト錠が外れる音がした。ドアノブを捻りながら内側に開けることができた。また閉めると、カチッと、今度はボルト錠が閉まる音がした。そこで再びドアノブをひねってもあかなくなった。これはその場にいた皆に確認してもらったから嘘ではない————————真実である。では次にラモーヌの証明書をタッチして見た。しかしピピっと言うだけだった。そこでまた扉を開けようと思ったが、鍵がかかってあかなかった。つまり、部屋の持ち主の身分証明書でしか個室の扉は開かないのである。
 「それにしても」グラスが言った。「監視カメラが多いですね、さっきから もう二十台はありましたよ」確かに、天井を見てみれば、数メートルおきにありとあらゆるところに死角なきように心がけるように何台も監視カメラがついていた。
 「プライバシーってものがないんですかね」ダイヤが言った。
39 : トレーナーさま   2023/05/06 16:45:53 ID:5q6QYVTND6
私たちは自分の部屋に入ってゆくのだった。
 部屋に入ると、私が先ずしたことは衣類の確認である。ジャスティス達は私達を制服か体操服か—————どちらだともしても私服をそのまま着せてきた。つまり、学園にあるはずだろうものと同じものを着せたというわけだ。もしかすれば、寮にあるだろうタンスと中身が同じかもしれないと、論拠もなしに思った。結果は、寮のタンスと中身が同じであった。唯一違うならば服の並び順だけである。靴下の色も、セットの数も、下着もなにもかもが同じだった。今は裸足だがきっと、玄関にいけば私の靴があるはずだ。最後にいうならば、制服がなかったことがどうも不思議だ。
 脱衣所のドラム缶洗濯機に着ていたものを全て入れた。洗剤は、洗濯機の横にある籠の中にジェルボールが入っていたので、それを使った。脱衣所と風呂場だけは幸い防犯カメラはなかった。
 風呂から上がり、私は服も着ず、ベットにダイブした。正直言って、不安と恐怖と孤独感が入り乱れていて、とても心ぐるしかった。
 ベットのサイドテーブルに先ほど食堂に放置したままだったはずのNANATUBOSIと安物のちっぽけなライター、灰皿が置かれていた。
40 : トレーナーさん   2023/05/06 16:46:13 ID:5q6QYVTND6
このような状況では致し方あるまい、私はそう思って、箱から一本、煙草を取り出し、ライターで火をつけた。吸ったことがないはずなのに、まるで慣れているようにスゥーっと肺に煙を取り込んだ。なんだか安心するし、リラックスもできる。今まで知らなかったはずの、知っている感覚。私は既に心が汚れているのだろうか?
41 : マスター   2023/05/06 16:46:43 ID:5q6QYVTND6
死刑館一階

42 : モルモット君   2023/05/06 16:47:37 ID:5q6QYVTND6
死刑館 二階

43 : お姉ちゃん   2023/05/06 16:48:05 ID:5q6QYVTND6
死刑館 三階

44 : お兄ちゃん   2023/05/07 17:02:24 ID:LAeb.298.Y
 目が覚めたのは、朝の七時だった。生徒会の仕事がなかった分、ぐっすりと眠れて頭がさえる。癖になったのか、箱から一本煙草を取り出し、口に咥え、ライターで火をつけた。灰皿の中の煙草は短く、燃え尽きていた。全裸で、空間を感じることがとても開放感があって好きだ。煙を取り込むたびに思考が冴えわたっていく。素晴らしい。
 「おはようございます。皆様、起床時刻となりました」寝室と納戸を隔てる壁に埋め込まれた、中華屋の角に置かれるテレビぐらいのモニターにジュディが映っている。
 私は起きねばなるまいと思った。タンスから下着と服を取り出し、袖を通した。無地の緑の半そでに、灰色のスカート。知らない服なのにしっくりとくる。下着もなぜか、乳輪までしか覆えない、縦筋を隠すギリギリのマイクロビキニ。これもしっくりくる。体に馴染んでいる。
 私は部屋の中を観察してみることにした。リビングと寝室を隔てる引き戸の付近に、勉強机が設置されていた。椅子はかなり上質なもので座り心地がよい。勉強机の上には、充電ケーブルにつながれたノートパソコンが置かれているだけだった。
45 : 使い魔   2023/05/07 17:03:02 ID:LAeb.298.Y
パスワードは、私の好きな小説のページ数だった。私はその通りに入力し、ログインをした。それには、今、これを書いているワープロソフトしか入っていなかった。ネットにも電話にも———外部と連絡することができない。
 次に私はテレビを点けることにした。いつもは見ることがないこの時間帯は、昨夜から今朝にかけてのニュースを再編集して、放送する時間だ。私は一通りこれをみた。途中でスポンサーのみこしを担ぐような白々しいコーナーがあり、それが不愉快だった。だが、ここで私はまことに信じられぬ情報を得たのである。
 「昨日の午後五時、中央トレセン学園の生徒会選挙で人気ウマスタグラマーカレンチャンさんが生徒会長に就任しました。彼女は————————」
 いきなり画面が崩れたのを見て、ジャスティスに何かしらの思惑があるのではないかと思えた。私は何の思惑があるのか、問い詰めたくなり、監視カメラに向かって叫んだ。「ジャスティス。見ているんだろ?! こい!! 」
 私が座っている、テレビ前のソファーの背後に、いきなり気配が現れたかとおもうと、
46 : お姉さま   2023/05/07 17:03:40 ID:LAeb.298.Y
 私の右肩に手が乗る感覚がした。「およびでしょうか? 」
 私は驚きを隠しつつも(耳をピコピコ動かしているのでバレバレである)振り返ると、黒のベストに黒ネクタイ、黒のズボンといういでたちのジャスティスが立っていた。私は椅子から立ち上がり、彼女と向かい合った。、それより「今、テレビをみていたんだ。カレンチャンがトレセン学園の生徒会長になった、というニュースを見た。そうしたら急激に画面が、ほら———————」私はテレビの画面を指さした。画面は荒く、たまに元に戻ってもとぎれとぎれで、見るものではない。
 ジャスティスは鼻で笑った。「検閲ですよ、犯罪者が新聞を読むときは、自分の起こした事件のところはのり弁になる、それと」
 「私を犯罪者だと言いたげだね」私は耳を絞った。
 「さあ」ジャスティスはほくそ笑んだ。「見せられないよ、ということです。理由はお答えしません———知りたければ、誰かを殺して」
 「皆を騙して勝ち残れ、か」
 ジャスティスは頷いた。「よくお分かりで。でも、しないんでしょう? 品行方正な、未成年喫煙者———不良”元”生徒会長」
47 : 大将   2023/05/07 17:04:06 ID:LAeb.298.Y
 「私が”社会的に”話題になる犯罪をしたのかい? 」
 「トレセン学園生徒会長、シンボリ一族の令嬢が喫煙をしたなら、そりゃあ」
 「今これを知っているのは」
 「私が通報すれば」
 「今、私は生徒会長ではない。つまり別の理由で———しかも世間から忘れられているなんて」
 ジャスティスは耳を絞り、手を振った。「うるさいですね、じゃあちょっとだけ教えておきましょう」ジャスティスは乱れたテレビの画面を指さして、「あなたが愛してやまない大神トレーナーが、なぜああなったかのヒントがあるからですよ」
 「つまり、私達に知られると困る? 」
 ジャスティスは頷いた。「動機さえなければ、”こんなこと”しないでしょう? 」
 「自分でもよくわかってるじゃないか。で、それは私たちがこんな目にあっていることと関係があるのかい? 」
 ジャスティスは怒りを抑えるような笑みを浮かべて、「そうですよ。大ありです」声が異様に低かった。「さて、私は戻ります」
48 : お兄ちゃん   2023/05/07 17:05:21 ID:LAeb.298.Y
 ジャスティスは速足で廊下へ通ずる扉の方へ向かった。私は本当のことをいうと、不安で仕方がなかった。だからと言って私達をこんなことに巻き込んだ奴に向かって弱い姿を見せるなど、絶対に御免だ。意外にも強がってみると、ジャスティスが思い通りにいかずにイラついているように見えた。やはり見栄を張ることは一定のメリットがある、そう思った。
 私はまた、煙草を一本、箱から取り出して、火をつけた
 十時になったので食堂へ向かってみると、皆、後ろめたさを見せずに煙草を吸っていた。私は昨日座っていた席に座った。隣では、葉巻をくゆらせる、ラモーヌの姿があった。
 「どうしたんだい、こんなに」
 ラモーヌは灰皿にそっと葉巻を置くといった。「ルビーが先陣を切った」
 水田も昨夜の不安げそうな感じではなく、堂々と煙草をふかしていた。私は昨夜、水田にここへ連れてこられる前のことを聞いていなかったので、訊こうと思った。水田と私は、テーブルを挟んで向かいに座っている。彼も吸っていたのはNANATUBOSIだった。
49 : お前   2023/05/07 17:06:39 ID:LAeb.298.Y
 「水田トレーナー」私は灰皿に煙草を置いた。
 水田は顔を上げて私の顔を見ると、右手の人差し指を立てた。しかし、その意味を読み取ることができなかった。「なんです? 」
 水田はかぶりを振って「いや、会長———いや、ルドルフさんが俺に何の用が? 」水田もテレビを見ていたのだろう。
 「貴方、拉致されたどうのこうのって」
 いつの間にか、私達の会話に全員が耳も視線を向けていた。
 「全く記憶にないですね」何か考え込んだ後に、「家で暁《あかつき》達、うちのサブトレーナー達と遊んでて、電話が掛かってきたんですよ、確か七月の二十四日くらい———電話の話を聞いているうちに、目がグルグルっと、で、ここです」
 「電話の内容は、それと誰とでしたか? 」
 水田の顔が引きつった。何か後ろめたい話だったのだろう。ええと、それは、と言いながら嘘でも考えているのだろうか、目が泳いでいた。
 「言いたくないこと、なんですね? 」
50 : トレぴっぴ   2023/05/07 17:07:27 ID:LAeb.298.Y
 水田は頷いた。「そういえば、ルドルフさんたちは、七日、俺は二十四日———気を失うまでに二週間のラグがありますね」急な話題転換だ。話をそらさせようとしているのだろう。だがしかし、私達と水田とでは二週間、気を失うまでのラグがある。それは気になるところだ。私たちが気を失ってからここまで連れてこられるまでの何かを知っているかもしれない、と思った。
 「私達、二十四日まで何をしていましたか? 」
 今度は考える間もなく、水田は即答した。「普通にトレーニングなされていましたよ」
 「じゃあ」スカーレットが灰皿に煙草を擦り付けていった。「あの投げ込まれた袋の話とかどうなっていました? 」
 「それは」また黙った。思い出しているのか捏造しているのか。
 「隠してますね、何か」ルビーが言った。水田はルビーの顔を見た。
  何も言わず、水田は灰皿に置いていた煙草をまた、口に咥えた。また灰皿に戻して「いや、思い出しましたよ———とは言っても信用されないでしょうね。信じないなら結構、俺から言えることはただ一つ、そんなことは聞きませんでした」
51 : アナタ   2023/05/07 17:08:00 ID:LAeb.298.Y
 「本当にですよね? 」アヤベが言った。目が据わっていた。
 水田はうなずいた。「勿論」
  アヤベはそれ以上、何の詮索もしなかった。
 「ルドルフ会長」シチーが遠慮気味に言ったが私はかぶりを振って「ルドルフで構わないさ」といった。シチーは続けて、「決めませんか? 探索班」
 「そうしようか」
 「では」エアグルーヴが挙手をした。「まず人を分けましょうか。一斉に移動していれば効率が悪いですから、十七人———五人組二つと七人組一つでどうです? 」私に目線を向けた。判断を仰ぎたいのだろう。確かに、そういう風に探せば、効率的だし、奇数でバランスがいい。それに、ほどよく人がいるので、見落とすリスクも減らせるだろう。
 「いいと思う。私は」私は周りを一通り見て、「構わないな?」 皆、頷いた。
 「じゃあ」今まで黙っていたライスが声を上げた。「一チーム二カ所」電子身分証明書をみながら。「例えばこのお屋敷と、この裁判場、牧場と……」
52 : トレピッピ   2023/05/07 17:09:29 ID:LAeb.298.Y
 ライスの隣に座っていたスぺが「屠畜場とちくじょう」ライスは続けて、「A砂浜と、この、耳みたいなところにある岩って分けて、分かったことをここに集まって話し合うの」
 「何時くらいに? 」シチーは言った。「六時とか、どうかな? 」
 クリークが言った。「長過ぎませんか? 四時ぐらいが長くても……」
 シービーが言った。「誰がどう捜すかも———ほら向き不向きとかありそうじゃない? 
 ローレルが言った。「屠畜場とか牧場とかは、スぺちゃんは絶対適任だと思うんだけど」
 水田が言った。「俺、図書室とか実験室とか見てみたいんで、ここを調べたいんですけど」
 これ以上、どういう経緯でチーム決めをしたかを綴るのは話が冗舌になるので控えておく。ではここで話し合われた結果、このような班が構成された。
53 : アナタ   2023/05/07 17:10:10 ID:LAeb.298.Y
死刑館・裁判場探索班 七名
シンボリルドルフ
エアグルーヴ
メジロラモーヌ
スイープトウショウ
キタサンブラック
サトノダイヤモンド
水田恭平
54 : お姉さま   2023/05/07 17:10:30 ID:LAeb.298.Y
牧場・屠畜場探索班 五名
サクラローレル
グラスワンダー
スーパークリーク
スペシャルウィーク
ダイワスカーレット

A砂浜・岩探索班 五名
ゴールドシチー
ミスターシービー
ダイイチルビー
アドマイヤベガ
サイレンススズカ

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