【ウマ娘推理小説】がらがらが鳴る
1 : ダンナ   2023/04/22 17:20:33 ID:cNnwUkUSHo
現時点で書き溜めたものを張っていく。また書き溜めたら随時張っていく。
2 : トレーナー君   2023/04/22 17:21:47 ID:cNnwUkUSHo
登場人物
トレセン学園関係者
・スーパークリーク……トレセン学園生徒。夢遊病者。
・ナリタタイシン……トレセン学園生徒。依頼者。
・オグリキャップ‥‥‥トレセン学園生徒。クリークと仲良し。
・タマモクロス……トレセン学園生徒。クリークと仲良し。
・イナリワン‥‥‥トレセン学園生徒。クリークと仲良し。
・カレンチャン……トレセン学園生徒会長。
・オルフェーヴル……トレセン学園副生徒会長。
・ゼンノロブロイ(善野英子)……トレセン学園副生徒会長。この物語の筆者。
・秋川やよい……トレセン学園新任理事長。
・駿川たづな……トレセン学園新任理事長秘書。
・トーセンジョーダン‥‥‥栗東寮寮長。
・須本由紀……栗東寮寮母。
3 : ダンナ   2023/04/22 17:22:02 ID:cNnwUkUSHo
登場人物2
警察関係者
・山岡静香……警視庁府中警察署の捜査一課ウマ娘犯罪班所属警部補。ウマ娘。
・等々力早苗……警視庁捜査一課のウマ娘犯罪班所属警部補。ウマ娘。
探偵
・今西実……ウマ娘研究センター学園高等部二年生。今西琴音のひ孫。甦死時計の使い。ウマ娘。
・金田一春子……今西の同級生。金田一耕助のひ孫。論理的な捜査と推理を担当。ウマ娘。
4 : トレピッピ   2023/04/22 17:23:28 ID:cNnwUkUSHo
小さな依頼人

 URA立ウマ娘研究センター学園女子寮A棟のフロント、と言っても至って変哲のない寮であり、玄関を入ると正面の受付に寮母らしきふくよかな栗毛のショートボブの三、四十代くらいのウマ娘が立っている。そこに、青いセーラー服のようでそうではないような服を着たとても小さなウマ娘がやってきた。この学園の生徒のものではない。寮母さんに見せた身分証明書によると、この学園の姉妹校、URA立日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園の生徒であり、その名を『ナリタタイシン』。
 「金田一さん、いますか? 」
 タイシンは寮母にまるで子供が母親に尋ねるように言った。寮長は受話器をとってどこかへ電話を掛けた。その会話でなにやら相槌を少し打った後、受話器を元に戻して、
 「ええ、金田一さんはいますよ。……まあ、何かあったの? 」
 「はい……すみません、何階の何号室ですか? 」
 寮母はフロントから見て左後ろにある階段と、最新式であろう、階数が書かれていないただ上か下に光る照明がついたエレベーターを振り返りながら見て、
 「大丈夫よ、金田一さんは降りてきますから‥‥‥奥で待っていてください」
5 : トレーナーさん   2023/04/22 17:23:48 ID:cNnwUkUSHo
>>4
 寮母は慣れたように、フロントに入る腰くらいの高さの扉を手で内側に開き、その後にタイシンはその中に入っていった。フロントの奥には壁と同じ色の白い扉があり、銀色の円いドアノブがついている。中に入るとそこは応接室のようになっていて、テーブルを挟んで座り心地のよさそうなソファーが対にならんでいる。タイシンは上座の方へ座った。
 しばらくすると、タイシンが入ってきたドアから一人の人物が入ってきた。その人物は今の時代には珍しく見えるいで立ちをしている。落ち着いた色の単衣にそれと同じ袴を履いていて、首の後ろまで伸ばした栗毛色の髪はカールがかかっている。そしてその頭上にある、竹を斜めに切ったような耳が彼女はウマ娘であることを示している。その人物はタイシンに向かってペコリと頭を下げると、愛想よくにっこりとした顔で、
 「どうも、金田一です」
 と言った。
 ここで彼女、金田一春子について詳しく説明しておこうと思う。彼女はこの学園の高等部二年生、つまり十八であるからもう成人である。そして名前から察せられるように彼女は日本三大探偵の一人、金田一耕助のひ孫である。彼女もやはり遺伝なのだろうか、優れた頭脳を持ち、放課後は探偵業じみたことを始めた。同室の今西実とは曾祖父の耕助と今西の曾祖母琴音と同じように親友でライバルという関係であるそうだ。この部屋は学校側と協議し、今西と仮の事務所として使わせてもらっている。
 この応接室の入り口と反対側にもう一つ扉があり、春子はその中に入ってノートパソコンを持って応接室に戻った。
 「大丈夫です‥‥‥これはネットに繋がらないようになっていますから。依頼内容を整理するために使わせてもらいますが構いませんね? 」
 タイシンはコクリと頷いた。
6 : 大将   2023/04/22 17:26:37 ID:cNnwUkUSHo
>>5
依頼人にはつきもので、なかなか話をきりださなかった。かれこれ先の面会から三十分は経っただろうか。しびれをきらした春子が遂に水を差しだした。そしてようやくタイシンは話し始めた。
 「私があなたに依頼したいことはその……クリークさんのことなんです。スーパークリーク……ご存じですか? あのオグリキャップのライバルの」
 春子もレースは見る。しかし毎年大勢新しいウマ娘が出るものだから、少ししか名前が覚えられなかった。しかしあのオグリキャップと同期という枕詞がつけば誰なのかが頭の中に浮かんできた。
 「ええ、存じております。そのクリークさんが何か? 」
 「そうです」
 タイシンは少しも間をあけずに即答した。
 「金田一さんは、夢遊病というのはご存じですか」
 春子は突然夢遊病について話が出されたために一瞬フリーズしたがすぐに立ち直った。脳内には眠った人が起きているかのように動き回る映像が浮かび上がった。
 「はい。もしかしてクリークさんがその……」
 「そうです。今朝のニュース見ました? あの顔のない屍体の……」
 「話題がコロコロかわりますね。なるほど、その事件とクリークさんが絡んでいると」
7 : トレ公   2023/04/22 17:28:50 ID:cNnwUkUSHo
>>5
依頼人にはつきもので、なかなか話をきりださなかった。かれこれ先の面会から三十分は経っただろうか。しびれをきらした春子が遂に水を差しだした。そしてようやくタイシンは話し始めた。
 「私があなたに依頼したいことはその……クリークさんのことなんです。スーパークリーク……ご存じですか? あのオグリキャップのライバルの」
 春子もレースは見る。しかし毎年大勢新しいウマ娘が出るものだから、少ししか名前が覚えられなかった。しかしあのオグリキャップと同期という枕詞がつけば誰なのかが頭の中に浮かんできた。
 「ええ、存じております。そのクリークさんが何か? 」
 「そうです」
 
8 : 大将   2023/04/22 17:29:02 ID:cNnwUkUSHo
>>7
タイシンは少しも間をあけずに即答した。
 「金田一さんは、夢遊病というのはご存じですか」
 春子は突然夢遊病について話が出されたために一瞬フリーズしたがすぐに立ち直った。脳内には眠った人が起きているかのように動き回る映像が浮かび上がった。
 「はい。もしかしてクリークさんがその……」
 「そうです。今朝のニュース見ました? あの顔のない屍体の……」
 「話題がコロコロかわりますね。なるほど、その事件とクリークさんが絡んでいると」
9 : トレーナー   2023/04/22 17:30:52 ID:cNnwUkUSHo
>>7
>>8
重複、忘れてください
10 : モルモット君   2023/04/22 17:32:13 ID:cNnwUkUSHo
>>6
「はい。そうです」
 「どうしてそれらがからんでいるとお思いになったのでしょうか? 」
 「わかりました。私頭がぐるぐるしているので、分かりにくいと思いますが、そのときは質問してください」
 ここからタイシンによる経緯の説明があるのだが、この小説の形式上会話文として記すと大変くどくどしく、話が前後したりして非常に分かりにくくなるし、記述者の私の便宜を含めて三人称で話を始めてゆくこととする。
 それは三か月前、ちょうど「トレセン事件」が起こったころからスーパークリークは深夜、がらがらを持ち、保育士がするようなくまが縫い付けられたエプロンを付けて外出するようになったのだという。最初、タイシンは新手の趣味だろうと思ったそうである。スーパークリークは常日頃から友人達に幼児の服を着せてあやす、いわゆる子供のごっこ遊びから派生したでちゅね遊びの趣味があったから何も不思議には思わなかった。
 しかし最近になってどういうきっかけか忘れたが不安に思い始めたタイシンはクリークの尾行を始めたのである。そして昨夜、つまり屍体が発見される前日のこと、タイシンはクリークを尾行していたが途中で警察官に呼び止められ、職質を受けてしまったのである
11 : お兄ちゃん   2023/04/22 17:33:07 ID:cNnwUkUSHo
>>10
。色々あって職質から解放されたタイシンは残り香を辿ってクリークを追いかけた。
 その道中の、ゴミ捨て場のネットに黒いものを発見した。それはただのゴミではない。屍体だったのである。しかもその近くにクリークがよく握っているブリキ製のベル形のがらがらが落ちていたのでまさかと思ったそうである。
 このときは屍体を見た衝撃のせいでそのとき顔や手足がつぶされていたかははっきり覚えていないそうである。タイシンは恐怖の余りすぐさま寮に戻った。寮に戻ると何事もなかったように寝間着姿で自分のベットで眠っているクリークの姿があったという。
 「今朝、クリークさんが私が持っていたガラガラがみんななくなっていると言って大騒ぎになったんです」
12 : 相棒   2023/04/22 17:34:38 ID:cNnwUkUSHo
今朝の騒ぎ

「起きて、起きて、タイシンちゃん! 」
 タイシンの体を揺さぶって、クリークはとても焦っているように声をかけた。それが朝六時頃、いつも通りの起床時間である。
 「どうしたんです、クリークさん! 」
 タイシンはあの後すぐには眠れず、つい先ほど眠りに入ったばかりであるがつい驚いて大声を上げた。昨夜のこともあってタイシンの胸の中にはとてもヒヤリとするものがあった。
 「私のがらがら、しらない!? みんなないの! 」
 その取り乱すさまは普段の全てを手玉に取るような魔性さはなく、大事なおもちゃを無くした子供のようにおろおろとしているそのものだった。クリークはおもちゃ箱のようなピンク色のボックスの中をタイシンに見せた。普段はそこにがらがらが整理されて置かれているのであるが、何も入っていなかった。
 「がらがらはいつまでありました? 」
 タイシンは冷静に質問した。しかしクリークは首を横に振って、
 
13 : トレーナーさん   2023/04/22 17:35:49 ID:cNnwUkUSHo
今朝の騒ぎ

「起きて、起きて、タイシンちゃん! 」
 タイシンの体を揺さぶって、クリークはとても焦っているように声をかけた。それが朝六時頃、いつも通りの起床時間である。
 「どうしたんです、クリークさん! 」
 タイシンはあの後すぐには眠れず、つい先ほど眠りに入ったばかりであるがつい驚いて大声を上げた。昨夜のこともあってタイシンの胸の中にはとてもヒヤリとするものがあった。
 「私のがらがら、しらない!? みんなないの! 」
 その取り乱すさまは普段の全てを手玉に取るような魔性さはなく、大事なおもちゃを無くした子供のようにおろおろとしているそのものだった。クリークはおもちゃ箱のようなピンク色のボックスの中をタイシンに見せた。普段はそこにがらがらが整理されて置かれているのであるが、何も入っていなかった。
 「がらがらはいつまでありました? 」
 タイシンは冷静に質問した。しかしクリークは首を横に振って、
 
14 : 使い魔   2023/04/22 17:36:07 ID:cNnwUkUSHo
>>13
重複、忘れてください
15 : マスター   2023/04/22 17:38:07 ID:cNnwUkUSHo
>>12
「わからないわ。私のがらがら‥‥‥」
 どてどてどてと廊下を走る音が聞こえ、それはクリークとタイシンの部屋の扉の前に止まった。
 「タマモクロスや! どうしたんや、クリークがおかしうなっとるって……」
 「オグリキャップだ! クリークどうしたんだ⁈ 気でも狂ったか! とにかく開けてくれ! 」
 この状況をなんとかできるのは二人しかいないと感じたタイシンは扉の鍵を開け、二人を中に招き入れた。クリークはわんわんと泣き始めた。タイシンは二人に先に起きたことだけをできるだけ手際よくはなした。
 「本当にないんだな、トレーナー室に置き忘れたとか……出張だったな」
 「てことは昨日のどこかまではあったんやな、みんな。寝る前とか……」
 タマモクロスの言葉を聞いたクリークがなんとか涙をこらえて、
 「寝る前は……そう、ありました」
 とだけ言った。
 「タイシン、クリークにあれ、されたのか」
 「あれされたからって、別にいやではありませんし……」
 オグリとタイシンが言う「あれ」とはでちゅね遊びのことである。
16 : トレぴっぴ   2023/04/22 17:39:40 ID:cNnwUkUSHo
>>15
タイシンは見ていた。あのゴミ捨て場の近くで血まみれのクリークが愛用していたがらがらの一つが落ちていたことを……しかし言い出せなかった。それは深夜に無断で外出しましたと自白するようなものだから。
 テレビが突然ついた。普段はこれを見ながら朝の支度をするのである。ちょうどニュース番組がやっていて、一覧表のような、ゴシック体の羅列にタイシンの目は向いた。それが赤くなり、巻物を巻くようにテロップが動いて、アナウンサーが、
 「府中市のとある住宅街で一人の男性と思われる遺体が発見されました……」
 そして事件の概要が話されていくうちに昨日タイシンが見た屍体であることが判明した。しかし、「頭部と手足の指が砕けている」ということ「ゴミ袋の下敷きに……」という言葉を聞いたタイシンは、犯人が一度あの現場に、自分達が通ったあとに犯人が戻ってきたということが分かった。犯人は屍体の上にごみ袋、おそらくは深夜に明日回収なのだからと早く捨てられたゴミ袋を拾ってきて、隠ぺいしたのである。

 春子は一通り話を聞いた。なるほど、これは面白い。ガリガリと五本の指で綺麗な髪を掻き回し始めた。やはりこういう悪癖も遺伝するものである。少しタイシンは引き気味に……
 「何か、わかりそうですか? 」
17 : お姉ちゃん   2023/04/22 17:40:22 ID:cNnwUkUSHo
>>16
こ、これは、はぁ、なるほど。がらがらの消失と屍体の近くで見つかったがらがらがクリークさんのがらがらの一つと同じものと思われたんですね」
 春子は昂奮あまりに言葉がたどたどしくなってゆく。しかし頭の中では今聞いた出来事を順序良く整理し、それから読み取れる謎と情報を纏めあげている。そこでタイシンが、
 「あの……おもちゃのオレンジとレモンの理由わけ、分かりますか? 屍体から発見された」
 オレンジとレモン……ニュースで屍体からは、おもちゃの、おまごごとでつかうような安い、プラスチック製のオレンジとレモンが発見され……と言っていたことを春子は思い出す。
18 : トレーナーさん   2023/04/22 17:42:01 ID:cNnwUkUSHo
>>17
出頭命令
 「えっ、ほんと? うん、そう、わかった」
 タイシンは誰かと電話で話していた。春子との相談中に電話がかかってきたのである。やがてそれが終わると、
 「クリークさんが警察に出頭したそうです、学園にパトカーが来て……」
 「出頭? きっと手掛かりが見つかったんでしょうね。ああ、そうオレンジとレモン。そういえばそのブリキ製のがらがらというのはどんな形をしてるんですか?  」
 タイシンはこの質問に困惑したが、すぐに立ち直ると
 「ベルです。握るやつ。福引で大当たりってするみたいな」
 「変わった形ですね。やっぱりそういうことでしたか……ちょっと待っててくださいね」
 そう言って春子はまた奥の部屋に入って一冊の本を持って戻ってきた。題名は「まざあ・ぐうす」。子供に聞かせる英国童謡輯である。
 「それ、クリークさんがよく読んでました。だァれがころした、こまどりのおすを……そォれはわたしよ、すずめがこういった」
19 : 相棒   2023/04/22 17:42:42 ID:cNnwUkUSHo
>>18
タイシンは慣れた口調でこまどりのお葬式の一節をつぶやいた。すると今度は春子がこうつぶやいた。
 「オレンジにレモン、セント・クレメンツの鐘がなる。鐘bells、ですよ」
 一瞬タイシンは春子が何を言っているのか理解できなかったが一個一個単語で区切ることで理解した。
 「つまり今回の殺人はその歌の『見立て』ということですか? 」
 タイシンが首をかしげながら春子の顔を窺う。しかしそのまるぼったい眼鏡が反射して目が見えなかったが口元では笑っていた。タイシンはやはり天才は変人が多いと確信したように小さなため息を吐いた。
 「クリークさんのがらがらはいくつありましたか? 」
 「九つです」
 タイシンはまたも間を開けずに即答した。
 「よく覚えていますね? あなたは人間観察が得意なんですか? 」
 タイシンは春子の真意を読み取れなかったが、
 「毎日大事に手入れしているとこ見てますから。それよりも金田一さん、大丈夫なんでしょうか、クリークさんは」
 「タイシンさん、貴女の話を名前は出しませんから警察に今聞いたことをお伝えしてよろしいでしょうか? もしかしたらクリークさんを助けられるかもしれません」
20 : マスター   2023/04/22 17:43:21 ID:cNnwUkUSHo
>>19
「分かりました。あの、私は……」
 「貴女の依頼はクリークさんの疑惑を晴らしたい、間違いありませんね? 」
 春子が念を押すように強く言った。
 「そうです、お願いします金田一さん」
 「では私はこれから警察へ行きます。タイシンさんはどうされますか? 」
 「もしよろしければ学園へ……」
 「わかりました、大丈夫です。明日の放課後、また来てください」
21 : アネゴ   2023/04/22 17:44:14 ID:cNnwUkUSHo
>>20
事件のあらまし
 
 今西実は府中警察署捜査一課の一角、ウマ娘犯罪班のスペースで、山岡静香警部補とその部下、宮村刑事と共に出前で頼んだ鍋焼きうどんを食べていた。先程まで追っていた事件がひと段落ついたからである。十月の下旬というととても肌寒い季節である。それだから実も今は室内だから二重回しを脱いでいるけれど、単衣の下には長袖のTシャツを着こんでいる。実は先に聞いた事件の話を頭の中で反芻していた。その事件のあらましをここで説明しておこう。
 それはこの日の早朝のことだった。府中の郊外の淋しい住宅街でゴミ捨て場に生ごみに交じって一人の男の屍体が発見されたのである。その屍体というのがとてもおぞましいものであった。顔と手と足の指がまるで鈍器で殴られたように柘榴がはじけたようにぐちゃぐちゃになっていた。どれくれい酷いか普通のこういう「顔のない屍体」の例で話しておこう。
 通常、「顔のない屍体」が人為的に作成されたものとした場合、ウマ娘がやらなければ、綺麗にぐちゃぐちゃにできないのである。せいぜい頭蓋骨にヒビが入るかその程度である。しかし、今回の屍体は訳が違った。粉々に砕けているのでまるっきり復顔ができないのだ。
22 : 大将   2023/04/22 17:44:58 ID:cNnwUkUSHo
>>21
科学捜査が発達した現在、DNA鑑定という方法もあるがこれも万全ではない。そして指紋を示す指も全てペシャンコに砕けているので鑑定のしようがない。ということは犯人はウマ娘であるという憶測が立つ。
 ここからが奇妙なのである。被害者の遺留品は着用していたグレーのスーツにネクタイ、長袖のYシャツ。そしておもちゃのオレンジとレモンである。そして生ごみが入ったゴミ袋の境に血まみれのブリキでできた、ベル形の緑色の「がらがら」が落ちていたのである。
 おもちゃのオレンジとレモン、そして血まみれのがらがら、これらはこの殺人にどのような効果をもたらしているのだろうか。実の脳内にはいくつもの探偵小説の名前が沸き上がる。「僧正殺人事件」、「そしてだれもいなくなった」、「ABC殺人事件」どれもが見立て殺人がテーマであった。つまり実の脳内では今回の殺人事件が見立て殺人と紐づけられて考えているということだ。
 「山岡さん、さっきの事件の屍体見せてくれませんか? 」
 山岡警部補はきょとんとした顔で実を見た。
 「もうあの事件は解決したじゃないの。それともまだ何かあるの? 」
 実は箸を鍋に置いて、右手を縦にして左右に振った。
 「いや、それじゃありません。今朝のやつです」
23 : アナタ   2023/04/22 17:45:20 ID:cNnwUkUSHo
>>22
 勘違いに気付いた山岡警部補は何かを言おうとしたが宮村刑事が話しはじめたのでやめた。
 「それならX大学の付属病院に運ばれて検死されてますね、今頃。もうすぐ終わると思いますが……」
 「それならもう確認は取ってるから。だからこれ食べ終わったらすぐ行けるよ 」
 山岡警部補が割り込むように言った。
24 : トレーナー君   2023/04/22 17:46:13 ID:cNnwUkUSHo
>>23
死因
 今西実と山岡警部補、宮村刑事はX大学附属病院へ着くと、すぐに屍体を拝見する準備が整えられた。その屍体は前にも言った通り頭と手足の指全てが潰されているので見るものをただただ不快にさせるばかりではなく、恐怖させるグロテスクなものだった。しかし実は何の嫌悪も示さず、懐から蓋に髑髏の刻印がされている懐中時計を取り出して屍体にかざした。そして、側面についている釦ボタンを押して蓋を開けると目を閉じた。彼女が所持している時計、すなわち「メメント・モーテム(オブラ・ディン号の帰還を参照されたし)」は屍体がいかにして屍体となったか、その瞬間が見られるそうである。しかし、それは実以外の人物が使ってもただ時計が見えるだけなので真偽はわからない。ここではその瞬間について簡単にまとめておこう。
 そこは暗かった、ただ一つ月明かりがそこを照らしている。そこは巨大なコンテナのようで、波の音が聞こえる。一人のグレーのスーツをまとった白髪交じりの男が煙草をふかしていた。とてもやつれていて、病的だった。
 「何故君は私を呼び出したのだね、私はあの事件について何も知らなかったんだ」
 コツコツと硬いコンクリートを歩く音がする。男の方に向かう、顔をフードで隠している尻尾を持った、恐らくはウマ娘が一人いた。
25 : 大将   2023/04/22 17:46:52 ID:cNnwUkUSHo
>>24
 「おい、何を持っている? 」
 ウマ娘は急に男へ突進した。そして両手に握っているひも状のものを男の首にまきつけると、紐の両端をぎゅっと強く握った。男の首は強く引き締められてゆく。
 「あぁあ゛っ」
 男はかすれた声をコンテナの中に響き渡らせるが、すぐにそれは止んだ。その瞬間世界は停止したのだ。そしてようやく実は動けるようになった。屍体の主の魂が体から抜けるまでこの空間を動けないという制約があるからだそうだ。
 まず二人に近づいてみる。二人はコンテナの中央にいて、男は首にかけられた紐を握る姿勢で、ウマ娘は、紐を引っ張る姿勢で停止している。ウマ娘の顔をしたからのぞいてみる。しかし、ここで容姿をいうと犯人がばれてしまうので言わないこととする。続いて、苦悶の表情を浮かべる男の顔をのぞいてみる。男の革靴に先ほどまですっていたたばこの吸い殻が落ちていた。
 この男の顔は実にも覚えがあった。トレセン事件の期に責任をとって辞職したトレセン学園の前理事長、沢村隆さわむらたかしである。犯人のウマ娘の顔は実も知らなかった。しかし、もう一人、現場にいた人物の顔は見覚えがあった。スーパークリークである。彼女は寝間着にエプロンを纏い、それのポケットに色とりどりのベル形のがらがらが入っていた。
26 : 貴様   2023/04/22 17:47:35 ID:cNnwUkUSHo
>>25
彼女はこの巨大なコンテナの入り口の扉の前を横切っている姿が僅かに開いている隙間から見えた。しかし、今にもがらがらの一つが落ちそうになっている。そこで停止しているのだから結果的に落ちたか落ちていないかは分からない。緑色だった。
 実は目を開けて現実世界に戻った。あれだけ動いていたのに現実世界では瞬きを一回したくらいしか時間は経っていない。まだ記憶が薄れないうちに、沢村と犯人の顔をスケッチし、犯人の顔をスケッチしたページだけ引きちぎって、懐に入れている紙入れに素早くしまった。
 「実ちゃん、どう? 」
 山岡警部補は振り返って実の顔を窺っている。実は顔を横に振って、
 「被害者の顔は分かりました、しかし犯人はフードを被っていて見えませんでした」
 山岡警部補は実の過去の実績と共に過ごした日々を含めてそれを信じた。実は沢村の顔をスケッチしたページを見せた。
 「おそらく、前の理事長の沢村だと思います。親族にDNA鑑定を依頼してください」
 実はそういうと、屍体の頭部を見ていた。よきみると首が潰されている。死因を隠すためだろうと実は考えた。しかし犯人は内臓を潰したり、屍体を見つからないようにバラバラにして燃やしたりはしなかったことからそこまでは頭が回らないのだとそのときの実は考えた。
27 : トレーナーさま   2023/04/22 17:47:57 ID:cNnwUkUSHo
>>26
「死因や、死亡推定時刻とかは出てますか? あとがらがらについていた血の鑑定も」
 そういうと、死亡診断書を取りにどこかへ行ってきた宮村刑事が読み上げた。
・年齢 五十代後半から六十代前半
・死因 絞殺
・胃の内容物 白米と漬物と焼き魚とアルコールを少々
・死亡推定時刻 午前零時頃から一時頃の間
・遺体損傷は死後に行われたもの
 あの光景とは矛盾していない。ということはあの後になんらかあってクリークのがらがらは犯人へ渡り、そしてそのがらがらで犯人は沢村の頭と手足の指を潰す。しかしクリークは犯人の殺人に協力する理由があったのだろうか……それを確かめるためには一度クリークに話を聞かなければならないと感じた。もし、そのがらがらがクリークのものであり、尚且つ不本意に犯人のもとへ渡った場合、被害届や盗難届がでているはずである。そう考えた実は血まみれのがらがらとクリークが届け出を出しているか、また、訊問を行いたいと山岡警部補に相談した。周りには実が突然の行動や要求があることが当然だったし、それが事件解決の糸口になることを知っていた。だからその相談はすべて良い結果で終わった。
28 : お姉さま   2023/04/22 17:49:30 ID:cNnwUkUSHo
>>27
怪文書
トレセン学園生徒会は週に一度、生徒達の目安箱に入ったものを読む決まりがある。これは先代の生徒会長シンボリルドルフが考案したことで、現生徒会長のカレンチャンもそれを踏襲した。勿論、中身の確認はカレンチャンだけではなく、副会長のオルフェーヴル、この物語の筆者の一人である私、副会長のゼンノロブロイもする。
 「ランニングマシンをもっと増やして欲しい……そうっすよ姉あね……」
 オルフェーヴルはマスク越しでモゴモゴとした口調でカレンチャンに言った。
 「私は会長だよ、オルフェちゃん。……そうだね、もっと増やした方がいいかもね。次、ロブロイさん」
 「すみません、気を付けるんで、鉄拳制裁は勘弁してくださいっす」
 私も特に注目すべき意見が書かれているものを捜していたが、そういうものはなかった。大半は保健室でカウンセリングを受ければ済むようなことだった。しかし、ほかのものとは雰囲気が異なる、ハガキに明朝体が印刷されたものがあった。私はそれを紙屑の中から拾い上げると、つい癖で読み上げてしまった。
「オレンジとレモン、緑色のがらがらが鳴る」
29 : お姉ちゃん   2023/04/22 17:49:54 ID:cNnwUkUSHo
>>28
「は? 」
 この部屋、生徒会室にいる私、オルフェーヴル、カレンチャンの三人は予め仕込んでいたかのように揃って声をあげた。
 「なんすか、それ? オレンジとレモン……がらがら? 今朝のあれみたいっすね」
 もちろんあれとは沢村の屍体のことである。このとき我々のような善良な市民が沢村の屍体とはわからなかった。
 「それにわざわざハガキ、明朝体……まるで誰が書いたのかを分からせないようにしてるみたいですね……」ミステリーマニアの私はそう口にした。「念のために警察に届けてみましょうか? 」
 普通は誰かのいたずらに決まっている。そんなことは気にしないで捨ててしまえとなるだろう。しかし、この学園は訳が違った。三か月前の、理事長だった沢村が辞職せざるを得ない程の大失態を犯しているのである。少しでも犯罪にかかわるようなことがあればすぐさま新理事長の秋川やよいに届け出よということになっていた。これには私共三人は全会一致で賛成したので、理事長を通して警察に届けられた。
30 : 大将   2023/04/22 17:51:00 ID:cNnwUkUSHo
>>29
合流
 
 午後八時頃、スーパークリークは府中警察署に到着した。そしてそのまま取り調べ室へと案内され、中に入った。中には実と春子、山岡警部補、宮村刑事、調書を書く若い男の刑事、計五人とが居て隣の監視室にも何人かの人影が見える。部屋の隅には監視カメラが、デジタル表示で時間を計測する、バスケットボールの試合で時間を表示するパネルの長細いバージョン的なものが壁にかけられていた。
 山岡警部補は事情聴取の最低限なルールを説明した後、クリークに椅子へ腰かけることを勧めた。その顔はとても蒼白していて、まるで病人であった。実達は春子から「学園の関係者から聞いた」ということにして、クリークの夢遊病、屍体、まざあ・ぐうすの見立ての可能性、犯人の行動などの推理を聞いた。ちなみに学園がよこしてきた怪文書のことも承知している。
 「まず貴女に見て頂きたいものがあります」
 そう言って机の下から取り出した一枚の書類に、緑色のハンドベルのようながらがらの写真が印刷されていた。それは血に染まっていて、どこか凸凹していた。これを見た瞬間にクリークは耳を後ろに垂れさせた。よほど恐怖と緊張に心が支配されているようだ。
31 : トレ公   2023/04/22 17:51:33 ID:cNnwUkUSHo
>>30
そこを推すように警部補が、
 「貴女のものですね? 」
 クリークは少し俯いて首を縦に振った。
 「これは、どこで見つかったんですか? 」
 白々しく、クリークはボソボソと頭が真っ白になっているようで、自分でも何を言っているかわからない様子で言った。警部補は少し溜めて、
 「屍体の近くですよ。今朝、ゴミ捨て場から見つかったアレです」
 クリークの表情が引きつり始めた。
 「わ、私知りません。どうして、そこにこれが……私は犯人じゃありません! 本当です! 信じてください! 」
 この話題を続けるとクリークはヒステリーを起こしかねないので実が、
 「あなた、夢遊病なんですか? 」
 は? としたような顔でクリークは実と春子の方へ視線を向けた。二人とも着物に袴姿であり、尚且つウマ娘であったから困惑と不可思議なものが入り乱れた表情、筆舌に尽くしがたい表情でフリーズした。しかし、ある程度整理をつけたようで、首を横に振り、
32 : アンタ   2023/04/22 17:52:01 ID:cNnwUkUSHo
>>31
「私、知りません。夢遊病だなんて……」
 春子が口を挟むように、
 「学園の関係者からあなたが深夜に徘徊しているところを目撃したという情報もあります、しかもその屍体の前を通ったようですね」
 「知りません、知りません、私は何も知りません、わかりません。私が人殺し……その人になんの恨みがあるというのですか! 」
 「沢村隆……この人に心当たり、ありませんか? 」
 宮村刑事がクリークのかおを覗き込むように見ながら言った。
 「さわむら……あの男! あいつか! あいつがどうしったっていうんですか! まさかそれが今朝の屍体だっていうんですか! ねぇ、刑事さん! 」
 ついにクリークはヒステリーを引き起こし、怒りをあらわにした。
33 : アネゴ   2023/04/22 17:52:17 ID:cNnwUkUSHo
以上。書き溜めたもの終了。
34 : お姉さま   2023/04/23 09:53:19 ID:45z42uwMr.
犯人はヤス

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