中央トレセン学園にはハルウララというウマ娘がいた。
面接のみで入学試験をパスした彼女はお世辞にも強いとは言えず、しかし持ち前の純粋で明るい人柄によって周囲に元気と希望を振りまく存在だった
しかしハルウララがシニア期に挑んだ、奇跡の有マ記念と後に呼ばれる事になるあの日から、彼女は別人のように強くなった。
それまではダート専門だったはずが芝ダート問わず出走し、スプリンターだったはずが長距離レースも構わず出走し
そしてそれら全てのレースに勝ってみせた。
まるで人生を何周も繰り返したかのような卓越したレース技術と、執念とすら言える並外れた根性でもってあらゆるレースを蹂躙。
しかし、ファンからの歓声の中で彼女が見せる顔は常に虚無を形にして張りつけたかのような無表情だった。
そしてまるで"隣に自身のトレーナーに話しかけるかのように"虚空に向けて声をかけるのだ。
彼女はトゥインクルシリーズで唯一認められている"担当トレーナーが存在しないウマ娘"であるのに……。

その尋常ならざる強さであらゆるレースを蹂躙する近年のトゥインクルシリーズは春風が呼んだ暗黒期と呼ばれた。
ウマ娘達はハルウララの出るレースの出走を避け始め、どうせ話題は全て持っていかれる、とデビューすら諦めてしまう者すら出る始末。
誰もハルウララを止めようとする者はいなかった。たった一人のウマ娘を除いて。
ハルウララの連勝を止めようと、何度負けても不屈の精神で彼女に挑み続けるそのウマ娘の名は、キングヘイロー。
ハルウララ113連勝目を賭けた有マ記念で、かつて友人同士だった二人のウマ娘は最後の勝負に挑む――。