『もしもし、大地紅玉(だいち・こうぎょく)さんのお電話でしょうか。『小説新世界新人賞』担当の山田と申します。大地さんの応募作『蠍の灯』が二次参考を通過しましたのでご連絡差し上げました。次は最終選考で...はい？ええ、一次通過時のご連絡はしておりません。誌上での発表のみです。で、最終選考ですが来月第一週月曜日の午後3時に行われます。結果をお電話しますので、当日はご連絡とれる状態でいてください...個人情報？ああ問題ございません。写真NG、年齢ご職業など秘密ということですよね。弊社は応募者が実在すると確認できればよいので。では引き続きよろしくお願いいたします』

(なんかいきなり最終選考に残った私...)

(最終選考の日...さすがに結果が気になる私...)
(トレーナーさんに「練習場にスマホを持ち込むなんて珍しいね」と指摘される私...こういうときばかりめざといトレーナーさん...シニア期に入って以来、用途不明な資料作成をしているトレーナーさん...何の資料かは知りませんがそんなものは不要だと近々わからせるつもりの私...)
(それはともかく練習中に電話がかかってきたら少し困るとも思う私...ちょうどトレーナーさんがお手洗いに行ったタイミングで電話が鳴ってびくっとする私...)

『お世話になります、小説新世界新人賞の山田です。大地さんですか。ただいま最終選考が終わりました。おめでとうございます！大賞受賞です！実は今年度の選考はかなり揉めまして、大賞受賞者は二人に──(ここらへんで意識が遠のいた私)──さん、大地さん？聞いていますか？で、高評価の理由ですが、上流社会の描写のリアリティと、主人公ウマ娘「セカンドサファイア」の心理描写が緻密だったとのことです。一方で、サファイアのトレーナー兼恋人兼婚約者が都合よく使われすぎているとの指摘もありました。サファイアがピンチに陥ってもとりあえずトレーナーがなんとかするじゃないですか。ここは出版までに改稿が必要です。改稿については選考委員との顔合わせの際に改めて...えっ、受賞辞退？！本当ですか？困ったな。もう一人の受賞者も先程辞退するとおっしゃって...うーん、実はもう一方の受賞作もウマ娘レースを題材にした作品で、あちらは中央のトレーナーが主人公なのですが。我々としてはぜひ2作同時に出版し、話題性を出したいと思っています。せめて選考委員顔合わせに出席していただいてもかまいませんでしょうか』