ウマ落語「死神」
1 : 使い魔   2024/06/10 11:01:42 ID:D29dOFxRxk
トレセン学園というのは3歩歩けば変人に当たる…などという話がありまして、あまり人のことは言えませんが確かに個性豊か…というと聞こえはいいですね。例えばいつも着ぐるみを着ている方や占いのテントを立てている方、毎日が騒がしいものです。

私の知り合いにもおかしな人が多いのですが…その中でも、とりわけおかしなヒトがいまして。一にも二にも研究が好きで…口を開けば実験、試薬、実験、試薬…と、まるで何かに取り憑かれたような者でして。

取り憑かれている、といえば…落語に、死神というお噺がありまして…
2 : あなた   2024/06/10 11:02:08 ID:D29dOFxRxk
『どうしたの、そんな玄関に突っ立って、新しい担当ウマ娘は見つかったのかい?』
「それがどうにもうまくいかなくてね、スカウトしたけどまた断られちゃったんだ。」
『なさけないねぇ、中央のトレーナーの名が泣くよ。もうアンタには呆れたよ、新しい担当が見つかるまでウチには帰ってこないでおくれ』

「まったく…あんなふうに言うことないのに…はあ、全く…もう死んじまおうかな…」
『死んでしまえばいいじゃないですか。』
「あぁ、死んじまうか。」
『えぇ、死んでしまいましょう。』

フッと気づくと気味の悪い声が聞こえてきたので、道向こうの柳の木の下を見やると…みすぼらしい真っ黒な勝負服の髪の長い、目は黄金のように爛々とした痩せ身のウマ娘が立っていたそうです…。
3 : モルモット君   2024/06/10 11:02:42 ID:D29dOFxRxk
「なんだアンタ、いつからそこにいたんだ?」
『私は…死神です。あなたが死にたいというもので…お誘いに来たんです…』
「いやいや勘弁してくれ、まさか、アンタが来たから急に死にたくなったのか?」
『いいえ。…ですが、人には人の寿命というものがありますから…首をくくっても、川に飛び込んでも…あなたはここで死ぬことはできません…。そのかわり…お金が必要なら、お手伝いしますよ?』
「何を言ってるんだ?とにかく、死神のもとで働くなんて真っ平だ…」
『そんなおかしな仕事をさせるつもりはありません…あなた、ウマ娘を診る医者にになるといいです。』
「いやいやいや、勘弁してくれ。俺は中央に来てから1度もレースを勝ったことのないどころか、担当を次々引退に追い込んだヘボだ。そんな俺がウマ娘のケガを治すなんて話にならないよ…。」
『大丈夫です、私が必ずケガが治るおまじないを教えてあげますから。
いいですか、貴方には今後、私と同じようにウマ娘に取り憑く死神が見えるようになります…。その死神が肩に手を置いているうちは…まだまだそのウマ娘は走り続けることができる。そういう時はこう唱えてください…』

『アジャラカモクレン・ニンジンオッチャホイ・テケレッツノパア
それから手を3つ叩く。』
4 : あなた   2024/06/10 11:03:12 ID:D29dOFxRxk
『このおまじないで死神は跡形もなくいなくなり…当然ウマ娘のケガも綺麗さっぱりなくなります…

ただし…死神の手が脚を掴んでいたら…もうそのウマ娘は競技者としておしまいです…絶対に、何があっても…手を出さないようにしてください…。』

「なんだって!?アジャラカモクレン・ニンジンオッチャホイ・テケレッツノパアで手をぱんぱん、ぱんと三つ打つ…って死神さん?
あ、そうか!俺がおまじないを唱えたからいなくなっちまったんだ。
いやしかし、いいことを聞いた!さっそく…」

いうが早いか家へ帰ってありものの板切れに"いしゃ"と書いて吊るしておくと…しばらくして客人が来たそうです。
5 : アナタ   2024/06/10 11:03:39 ID:D29dOFxRxk
『もし…ごめんください。実は私の仕えるさるお家のお嬢様の脚が悪く、主治医も匙を投げるほどでして…藁にもすがる思いでございます…。』

見ると、仕立てのいい燕尾服に身を包み、いかにも名家に仕えているというような老爺ではありませんか…。

「へぇ、わかりました。診てみましょう。」

そうこうして通された部屋には芦毛の若いウマ娘が寝ておりまして…苦悶の表情を浮かべています…。見ると、いつぞやの死神とそっくりのウマ娘が薄ぼんやりと見え…ウマ娘の肩に手をかけていました。
それを見て、しめた…と思い

「えぇ、治してあげましょう。
アジャラカモクレン・ニンジンオッチャホイ・テケレッツノパア」
ぱんぱん、ぱん

そうして教わったまじないを試すと、今まで肩に手を置いていた死神は綺麗さっぱりいなくなり、ご令嬢はむくりと起き上がりました。
『ふぅ、よく寝ましたわ。少々お腹が空きましたわね。メロンパフェが食べたい気分ですわ。』

老爺は喜んで謝礼を支払いました。
6 : 貴様   2024/06/10 11:04:06 ID:D29dOFxRxk
それに気をよくした男は…次々にウマ娘を治していき…いつしか名医と呼ばれるようになっていきました…。

しかし、栄光は長続きしないもので…
一気に成功体験を積んだせいで遊び放題になった男は、すぐさままたお金が尽きたので医者の仕事をするんですが…どうにも最近診るウマ娘は皆脚に死神が憑いていまして…治らないものはお礼ももらえず、男は途方に暮れました。

と、そこへ…また客人が訪ねてきて
『ごめんください。こちらウマ娘専門の医者とお聞きしました…どうか私の友人を助けていただきたく…。』

ひと目見ただけですぐにわかりました…。かの華麗なる一族、そのご令嬢が訪ねてきたのです。これはしめた…と、男は事情も聞かず二つ返事で了承しました。金に目が眩んだのです…。

そうしてご令嬢に案内された療養先の邸宅へ赴きますと、ベッドに横たえられ…青い顔の、儚げなウマ娘がいました。
辺りをぐるぐる見まわして、男ははぁっ、とため息をつきました。ウマ娘の左の脚を引っ掴んだ死神が見えたのです…。
7 : トレ公   2024/06/10 11:04:29 ID:D29dOFxRxk
「残念ですがこれは無理です。もう彼女は走れない…。」
『どうか、どうかあと1度でも走ることはできませんか?どうか最後に彼女と走る約束を果たしたく…。もちろんお礼は、ご随意に。』

ますます金に目が眩んだ男は一計を案じます。
ベッドをぐるりと回して死神が肩の方に来るようにすればいい…そうして夜半過ぎ、死神にも疲れが見え、脚を掴む力が抜けたか、という頃に使用人たちに合図を送り…バッ、とベッドを反転し、すかさず

「アジャラカモクレン・ニンジンオッチャホイ・テケレッツノパア」
ぱんぱん、ぱん

死神はたちまち消え去り、顔面蒼白だったウマ娘もむくりと起き上がると

『うぅん、おれ、寝ちゃってたのか。なんだか脚が軽い…』
8 : トレぴっぴ   2024/06/10 11:04:50 ID:D29dOFxRxk
そうして男は若人たちの感動的な抱擁と…随分分厚くなった財布の重さに満足げに家に帰ったわけです。

家に着くとそこには最初に会った死神がおりまして

「いつぞやの死神さん、大層儲けさせてもらってます。」

そんな冗談めかしていう男と裏腹に…死神は冷たい声でこういうのです…。

『なぜ…あんな真似を…脚元の死神には手を出さないとお約束しましたよね…?まあ、やってしまったことは仕方ありません…ちょっとこちらへ…』

そういうと死神の足元に黒々とした穴がぼっかりと空いて、地下に続く階段が現れました…。
死神に気押された男は渋々と地下へと進んで行きました。
中は薄汚れた洞窟のようで、そこかしこに無数の蝋燭の火が灯っていました。
9 : マスター   2024/06/10 11:05:21 ID:D29dOFxRxk
『これは…トレセン学園中のウマ娘たちの…競技者としての寿命です。1本1本、違うウマ娘たちの…』
「へ、へぇ…じゃあこのまだまだ長くて爛々と燃えてる蝋燭はデビューしたての子ってわけか?」
『それは、シンボリルドルフ会長です…。
まあそれはさておき…あなたが先ほど助けたウマ娘…それは本来この消えかけの蝋燭だった…それが今はこっちの長い蝋燭に移っている…。
いま…その消えかけの蝋燭はあなたの命にすげ変わったんです…もう、消えてしまいそう…。』
「冗談じゃない!だいいち俺はウマ娘じゃないのに…あんなことしたせいで…?な、なぁ…どうにかならないかな…?心を入れ替えて真面目にトレーナーになるからさ…頼む…頼む…」

『そこまで言うなら…わかりました。この燃えさしに、消えかけの火を移せたら、貴方はまだまだ生きながらえる…うまく、移せるでしょうか?』
「わかった…わかったよ…移せばいいんだな…」
『そんなにふるえると消えますよ…』
「やめてくれ…あと少し……くっ……」

「移った…!移った!!火が移った…これでまだ生きられる!」
『あぁ、運がいい…。では、その火は後生大事に、くれぐれも消えないように気をつけてくださいね…』
10 : お姉ちゃん   2024/06/10 11:05:48 ID:D29dOFxRxk
目を覚ますと男は学園のレース場にいまして…あぁ、夢かと思いましたが手元には火の灯った蝋燭まである…。
ですがそんなことは些事で、死神に言ったとおりこれからは真面目にトレーナーとして再出発することに決めたのです…。
コースを走るウマ娘を見てそう考えを改めたわけで…ほら、今も…1人のウマ娘が一陣の風の如く男の前を通り過ぎて…ビュン…

「あぁ、消える…」
11 : アネゴ   2024/06/10 11:58:02 ID:hCDFZHnLpg
歌丸師匠で脳内再生余裕でした
12 : トレーナーさま   2024/06/10 12:02:16 ID:hCDFZHnLpg
乙でした
この一陣の風って……いえなんでもないです
13 : 相棒   2024/06/10 12:25:48 ID:9z1gU60kYM
ウイニングライブが米津玄師の「死神」になる
14 : トレぴっぴ   2024/06/10 12:26:29 ID:L0MYayat9U
カイチョーはいつまで走り続ける気なのだ
15 : トレーナー君   2024/06/10 12:50:36 ID:ObAxIm4bSE
男塾の寿命蝋みたいなもんか
16 : トレーナー   2024/06/10 13:24:15 ID:l2QGzvXnJU
担当の怪我や病気が治るならと、当然のように自分の寿命を差し出すトレーナーはゴロゴロいそう
17 : アナタ   2024/06/10 14:05:00 ID:hCDFZHnLpg
>>16
他人の命を吸って走り続けるウマ娘
本当に死神なのは誰なのかな、というサゲですね
18 : トレーナー君   2024/06/10 19:38:08 ID:oXigwY1ISI
これ本家だと医者は火を移せないで4ぬんだっけ?
19 : アンタ   2024/06/10 20:03:16 ID:D29dOFxRxk
蛇足を承知で少しばかり補足を。

『死神』の演目は、そのサゲ(オチ)に特徴があって、演者によって様々な改変がされているんです。
例えば、
・火が移せず消えてしまい、「消える」と言い残して演者が倒れるもの
・移せたはいいが死神が意地悪をして吹き消すもの
・移せた男に「枕を高くして寝たらいい、それで起きたら枕元に俺が座ってら」というもの
・「お前の2度目の誕生だ、誕生日おめでとう」といわれ、ケーキのように自分で吹き消してしまうもの
・明るいうちから蝋燭に火をつけた旦那に腹を立てた妻が吹き消してしまうもの
などなど。

それから、米津玄師の同名の曲の歌詞に「どうせ俺らの仲間入り」という歌詞があって、これは男が死んで死神になり、また別の男が医者になるサゲのパターンからだと思われます。
20 : 相棒   2024/06/10 23:30:19 ID:J901WZ3gsI
旧Twitterで見た、死神を演じているカフェの絵を思い出した
「嗚呼、面白くなるところだったのに」
21 : ダンナ   2024/06/11 01:00:09 ID:T.M307mGSA
六代目円楽師匠は話の中で
「洞窟の中に無数の蝋燭が→あの緑の蝋燭は何→そりゃ歌丸だ」
てやってましたね
22 : トレピッピ   2024/06/11 09:53:15 ID:jvxUn9aFMY
昭和元禄落語心中だと演者が倒れる方と夢オチの方があったな
石田彰さんと関智一さんのでまた全然違うのが面白かった

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