『変な寮』
日本ウマ娘トレーニングセンター学園生Aへの取材と調査の記録

「私の部屋、変なんです。」
都内某所の閑静な住宅街にある喫茶店にて、私の対面に座った少女は、耳を絞りながらおずおずとそういった。

彼女、Aさんは日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称『トレセン学園』に所属する学生だ。小柄ながらがっしりとした筋肉質な体つきからアスリートであることが伺える。

こうして彼女へ取材を行ったのは、彼女のオカルト好きの級友から私が以前執筆した不動産ミステリーのWEB記事を紹介され、ファンレターと共に自身の入寮した学生寮の違和感について相談されたことがきっかけだった。

A「私、トレセンに入学して寮に入ったんですけど、私の部屋だけ他の部屋と間取り？が違うんです。前に友達の部屋に遊びに行った時に気づいたんですけど、なんというか…収納スペースとかが少ないんです。見様見真似で間取りというか、部屋と家具の配置図を書いてみたんですけど」

そう言って彼女はスマートフォンの画面を表示した。どうやら今はモバイルアプリで部屋の間取りが作れるらしい。

A「こっちが私の部屋でこっちは同じ寮の友人の部屋に行って書いたものです。仲のいい友人に声をかけて3〜4部屋行ったんですが、やっぱり私以外の部屋は全部同じ間取りなんです。」

筆者「たしかに、家具や設備はほとんど同じですが収納スペースの位置なんかが違いますね。でも、この位置に窓があるってことはAさんの部屋は角部屋ですよね。敷地の関係でこの部屋だけ若干寸法が違うんじゃ。」

A「私も最初はそう思ったんです。おっしゃるとおり私の部屋は4階の角部屋です。だからそういう位置とかが関係あるのかなって…でもこの間取りを書くときに私の部屋の真下の部屋にも確認に行ったら、他の部屋とおんなじ間取りだったんです。」

他にも部屋以外の設備、例えば物置などがあってそれによって階下の部屋よりスペースが圧迫されている可能性も考慮したが、そういった設備もないという。
Aさんの言葉が本当ならば確かに妙である。この部屋は他の寮室と全く同じ配置にできる状態にありながら、あえてそうしなかったということになる。
と、ここで収納スペースと同等以上に目を引く他の部屋との際について質問を投げかける。

筆者「そういえば、このベッドの前にある家具はなんですか？ベッド自体の位置も違うようですが…」

A「あ、これですか？棚と小さい冷蔵庫があるんですよ。低めの、ちょうど腰あたりかな？目覚まし時計を置いたりもできるんですよ。とはいえ、半分はこっち(西側)のベッドに潰されちゃってるんですけどね。」

ここで強烈な違和感を覚えた。はたしてそのように家具を無駄にするような形で家具の配置をするのだろうか。もしそうならば、収納スペースとあわせて、この部屋は他の部屋との扱いの差が大きすぎる。多感な学生にとってその差はあまりにも差別的なようにすら感じる。

と、話し込んでいるうちに彼女の寮の門限が近づいてきた。まだ学生の彼女を遅くまで拘束するわけにはいかないため、話を切り上げることにした。

筆者「わかりました。もし、なにかわかればご連絡します。同室の方にもよろしくお伝えください。」

A「え、あ…。そういえばいってなかったんですが、私の部屋って1人部屋なんですよ。まだ同室の子はいないんで。来年は入ってきたらいいんですけどね。」

＊＊＊

彼女が帰寮した後の喫茶店で今回の取材記録をまとめながら日本トレーニングセンター学園について調べる。
日本有数のウマ娘レースの名門校だけありHP等にもかなり注力しているようだ。中には入寮を希望する生徒向けの案内なども個別に掲載されていた。

HP『トレセン学園では全国のウマ娘の可能性を見出すため、学生寮を用意しています。
また学生寮は美浦寮と栗東寮に分かれ、寮対抗の行事や各寮が隔年で主催を務めるイベントなどを通して……』

そこまで読み、私の中に生じたある疑問を解消するため、Aさんに連絡を行った。

＊＊＊

ヒシアマゾン「アンタの言うとおり、確かにあの部屋は2つの寮に共通してある、意図的に作った部屋だよ。」

フジキセキ「まさかうちの寮生がそんな風に思い悩んでいたなんてね。もっとしっかり説明すべきだったよ…。」

Aさんから相談を受けてから数日後、私は学園の応接間に案内されていた。
彼女たちは美浦、栗東の現寮長。今回の件について取材を申し出たところ2名合同で行うことを条件に承諾してくれたのだ。
そして、私が感じた疑問についても解消された。やはりあの部屋は"2つの寮の双方に存在していた"。

フジキセキ「あの部屋はね、いわゆるパーソナルスペースなんだ。例えば、大事なレースの前にひとり集中したい、そんな子のためのね。その分、収納なんかは他より少なかったんだ。」

ヒシアマゾン「それから、おんなじレースに出るやつの前じゃおちおち作戦練ることだってできないだろ？そういう時はあの部屋を使うってわけさ。
…だけどねいいことばっかりじゃなかったんだ。同室が気に食わなくてあの部屋に入り浸ったり、サボりに使ったりさ。」

フジキセキ「だからあの部屋は1人部屋じゃなく、他と同じ2人部屋にしたんだ。もし集中したい子がいれば寮長室を代わりに使ってもらおうってことにしてね。」

あの部屋の正体は意外なほどあっさりと判明した。おそらく、スポーツ名門校…特に一種類の競技に特化したトレセン学園だからこそ生じた、救済措置だったのだろう。
取材後、トレーニングの休憩中のAさんにことの真相を報告し、トレセン学園を後にした。

＊＊＊

筆者「以上が今回の取材の内容でして。」

梅ヶ丘のアパートの一室で、建築士であり私の記事執筆の協力者である栗原氏にそう告げる。

栗原「なるほど、よかったじゃないですか。若いウマ娘さんたちとの交流、いい刺激になったんじゃないですか？」

筆者「冗談言わないでください。でも、確かにいい刺激にはなりましたよ。なんせ全国有数のマンモス学園での話しでしたから。」

栗原「しかし、気になったんですがね。」

栗原「本当にサボりなんかのせいで家具を買い足したり2つの寮両方でレイアウト変更をするんでしょうか。部屋が足りなかった、とかかもしれませんけど、少なくとも今は1人部屋だそうですし、そこまで緊急で逼迫するようには思えないんですよね。」

筆者「え？」

勿体ぶった彼の口調に思わずたじろぐ。確かに言われてみればそうだ。あの部屋は以前まで1人部屋として機能していた。ならばベッドや机ももちろん1組ずつだったはずである。Aさんによると部屋の南部にある棚は半分が機能を失っているとのことであるが、西側のベッドを後から追加したとすれば説明がつく。配電の関係で冷蔵庫の位置が変更できず、ベッドの位置がずれているとすれば辻褄も合う。

栗原「どうしても1人部屋を潰してしまわないといけない事情があったとか。
まあ、ここからはあくまで私の憶測に過ぎませんが、例えばこの部屋を利用したウマ娘がレースのプレッシャーに耐えかねて…なんて。特にこの部屋は4階にあるそうじゃないですか。4階だと…大体10メートルってところですから、人間ならひとたまりもないでしょう。私はあまりウマ娘の身体能力や耐久力には詳しくないのでなんとも言えないんですけどね。」

そう言って栗原さんはすっかりぬるくなったコーヒーを飲み干した。

〜終〜

最後にゾワッと来る終わり方が本家っぽくて良かったです

乙でした

ここの栗原さんは栗毛巨乳キャラに違いないと思う（錯乱）