【短編SS】エース「実はあたし、子供の頃少しだけ土工になりたかったんだぜ?」
1 : あなた   2024/01/28 11:08:04 ID:RL/1c.Nghc
あたしが育った田舎にはまだトロッコがあってさ
つっても遊び用とかじゃなくて完全作業用、工事で出た土砂を運搬するためだけに使われてたんだ
トロッコは作業のおっちゃんが必ず二人乗ってて、土砂と一緒に山の勾配を使ってキーキーって鳴らしながら下っていく…なんか遊園地のアトラクションみたいでいいなーってなってさ、毎日飽きもせず「いいなぁ!あたしもやりてえ!!」って思いながら見てたんだよ
でもおっちゃんたち絶対乗せてくれなくてよー…しかも乗せてって言ったら怒鳴って追い返んだぜ?
だから悔しくて当時のあたしは目標を作ったんだよ、「ぜってー乗ってやる」ってな!
2 : トレ公   2024/01/28 11:08:52 ID:RL/1c.Nghc
それで、その日も見物してたら若いおっちゃん二人がトロッコを坂まで押してたんだ

なんか親しみやすそうで子供相手にも怒鳴るような感じじゃないから、「手伝えば乗せてくれるんじゃないか?」って思ったんだ

それで手伝うから乗せてくれって言ったら予想通りでさ!! 頼めば「おお、頼むぞ」、子供でもウマ娘だったから「ワレ、やっぱり力あるな」。とかも言ってくれたんだぜ!

あたしが「ずっとやっていい?」って言ったら二人同時に「いいとも!」って言ってくれたな~!ほんと、いい人たちだった!
3 : マスター   2024/01/28 11:09:38 ID:RL/1c.Nghc
で、いつの間にかミカン畑まで押してたんだ

ここのどこかから下り坂になっているなーって考えてたら

「やい、乗れ!」

おじさんがそう言ったら、トロッコが押さなくてもずるずる下り始めたんだ! 

おじさんに手を引かれて飛び乗ったらトロッコはぐんぐん下っていって、ミカン畑の匂いがブワーってあたしの顔にかかってきたんだ!

…で、乗ってみた感想は…やっぱり楽しかった!!!

途中止まってまた押さなくちゃいけなかったけど全然苦じゃねぇ!

押すのも好きだし、そこから飛び乗ってまた肌で風を感じるのはもっと好きだって当たり前のことも考えりして…もう、とにかく楽しかったな~!!
4 : モルモット君   2024/01/28 11:09:44 ID:RL/1c.Nghc
…まぁ、この時はなぁ…
5 : お兄さま   2024/01/28 11:10:40 ID:RL/1c.Nghc
まぁその、途中で気づいちまったんだよ…

「…ここ、家から遠すぎないか…?」って

そう思ったら怖くなって全然楽しくなくなっちまって…途中おじさんから包み菓子もらっても全然嬉しくなんかなくて…

今更もうやめたいなんて言えないしよー…そのままずっとトロッコに乗ってて、おじさんたちがお茶屋で休憩してる頃にはもう夕暮れ時になっちまってた…

…で、おじさんたちが無造作に言ってきたんだよ

「ワレ、もう帰んな。俺たちは今日向こう止まりだから」
「あんまり遅くなると、ワレの家でも心配するぞ?」
─ まぁ、ウマ娘だし大丈夫か!
6 : お兄ちゃん   2024/01/28 11:11:26 ID:RL/1c.Nghc
いや~…!あんときは呆気にとられたなッ!

だってよ、昼すぎから初めて夕暮れまでトロッコで移動した距離をだぜ?

それを、ウマ娘だからってだけで

「ワレ、一人で帰りな!」

っだぜ!?

…あたしはてっきりおじさんたちが何とかしてくれるって思ってたんだ

もう泣きそうだったけど何とか耐えれた、「いや!?泣いてる場合じゃないぞ!?」ってな!

んで、そこから急いで線路沿いを走ったんだ
7 : マスター   2024/01/28 11:12:32 ID:RL/1c.Nghc
多分、あんときが死に物狂いで走った、一番古い記憶だなー

無我夢中で走って、走って走って走って…

時々、今顔歪んでるんだろうなってぐらい涙が込み上がったりもしたけど意地はって我慢した

でも、鼻周りだけはどうしてもツーンッってするからずっとくうくう鳴ってて…

あと、上着に汗が染みついてて走りにくいことにも気づいた

いっそ脱ぎ捨てちまおうかと思ったけど物を大切にしないとって思ったからどうにか耐えて、脱いで腰に巻いてシャツ一枚にとどまれた

…ガキでもいちおー女だったから、恥ずかしかったし…
8 : トレーナー   2024/01/28 11:14:40 ID:RL/1c.Nghc
ミカン畑に着いた頃にはもう完全に夜になりかけてた

そこから村はずれの見慣れ工場とかが見えてきたらまた泣きたくなっちまってよー…まぁベソはかいたけど泣くまではいかなかった

だってよ…村はずれ、だからさ…知ってる人とマジで出くわすんだよな

べそかいて喘いで泣きながら死に物狂いで走るあたしを怪訝そうな目で見てくるし、本気で心配もしてくれたから泣きたくても泣けねーよ…

今考えたら、頭から湯気出てたかもな!
9 : 貴方   2024/01/28 11:15:05 ID:RL/1c.Nghc
だから…家に着いたらあたし、大声で泣きだしちまったんだ

泣き声で両親が飛び出してきて、どうしたかって聞かれてもあたしはただただ泣いてた

いつまでも泣いてたから近所の人たちも集まってきて、その人たちにもどうしたかって聞かれてもあたしは泣くのをやめられなかったんだ

今考えたらさ

あんな遠いところから線路沿いを駈け通してきた、それまでの心細さを振り返ったら、大声で泣かない限り気が済まなかったんだろうなーって思えるんだ

それ以来、あたしは土工になりたいなんて思わなくなった
10 : あなた   2024/01/28 11:16:57 ID:RL/1c.Nghc
─────────────

エース「─ ていう、話が昔あったんだよ!いや~今じゃ笑い話になってマジでよかったぜー!」

エースT「そんなことがあったのか…」

エース「今もレースで全力出し切るとあの時のことがフラュシュバックするんだよな…それほど、衝撃だったってことだな!」

エースT「…」

エース「?トレーナー?」

エースT「エース、レース中勝負服に汗が染みついたからって、脱ぎ捨てたり下着だけになって腰に巻いたりするのだけはダメだぞ…?」

エース「いや、ねーよ!!!!!!!!?しねぇから!!?」

11 : お兄さま   2024/01/28 11:17:13 ID:RL/1c.Nghc
おわり

元ネタ
芥川龍之介の「トロツコ」から
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43016.html

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