トレセン学園昔話 泣いた赤鬼
1 : マスター   2023/12/02 21:14:16 ID:Jfg/yX9iVA
砂の上を、一人のウマドルが走っていました。ウマドルは、トレーナーさんともっと仲良くしたいと考えて
トレーニング中にライブにと、たくさんのアピールをトレーナーさんにふりまきました。

けれども、ウマドルのトレーナーさんはにぶかったので、まったくウマドルのアピールになびきませんでした。
ウマドルは悲しみ、大好きだって気持ちがうまく伝わらないことを悔しがり、おしまいには腹を立てて
レースでは鬱憤を晴らすように他のウマ娘をちぎり捨ててしまいました。
2 : キミ   2023/12/02 21:15:40 ID:Jfg/yX9iVA
そこへ、友達のドイツウマ娘が声をかけました。ドイツウマ娘は、わけを聞いて
ウマドルのために次のようなことを計画しました。

ドイツウマ娘が自分のトレーナーさんと二人の前でイチャイチャする。
その様子をウマドルと、ウマドルのトレーナーさんに見せつける。
そうすれば、ウマドルのトレーナーさんだって、ウマドルとそういう関係になっても良いということがわかるだろう、と言うのでした。
しかし、それは恥ずかしいし、やっぱりファル子はウマドルだし…☆としぶるウマドルを
ドイツウマ娘は、無理やり引っ張って、街へ出かけて行きました。

計画は成功して…、なら良かったのですが、ウマドルのトレーナーさんは特にそれを見ても何も変わりませんでした。
毎週、毎週、ダブルデートと称して二人のイチャイチャを眺めていても
「ああエイシンフラッシュのところは本当に仲が良いんだな」と感心するだけでした。
ウマドルはそんなトレーナーさんに「…うん、そうだね☆」と返すのが精一杯でした。
3 : お姉さま   2023/12/02 21:17:23 ID:Jfg/yX9iVA
ある日の晩、ウマドルが地方のレースを終えて寮に帰ってくると、そこにはドイツウマ娘の姿がありませんでした。
そして、自分の机の上に、何か手紙が置かれているのを見つけました。
そこにはこう書かれていました。

「ファルコンさん、急な話となり申し訳ありません。
しばらくの間トレーナーさんとドイツに帰省します。両親に挨拶に行ってきます。
いずれドイツに帰るつもりでしたが、これからもずっとトレーナーさんと一緒に日本で暮らすことになったからです。
昔立てた予定は大幅に変更になりますね。これからは彼と二人で新たな予定を立てていくことになるでしょう。
あなたもどうか、トレーナーさんと仲良くしてください。いつまでも応援しています。
お土産を楽しみにしておいてください。どこまでもあなたの友人、エイシンフラッシュ」

ウマドルは、だまって、それを読みました。二度も三度も読みました。
そうして机にうつぶせて一言、しゃい…☆と呟くのでした。
4 : お兄さま   2023/12/02 21:20:10 ID:Jfg/yX9iVA
いつからかダートは変わってしまいました。闇の時代が訪れました。

去年の大井で起きた惨劇を私は忘れられません。
確定のランプの下方に示されたタイムはその年の皐月賞よりも早いものでした。正直意味が分かりませんでした。
この大舞台に駒を進めた数々のトップウマ娘たちが極限の疲労と絶望感で打ちひしがれる中、ただ一人だけスタンドに向けて笑顔を振りまく彼女。
息も絶え絶えに10着に破れた私はそんな彼女の偉業にほんの少しの憧れと、そんな気持ちをかき消すくらい大きな畏怖の気持ちを抱きました。
5 : お前   2023/12/02 21:21:20 ID:Jfg/yX9iVA
そうして迎えた今年…、今年は本当に酷いものでした。
各地のレース場で繰り広げられる彼女の圧巻のレースっぷり、そしてそのレースを上回る程に圧巻のウイニングライブでのパフォーマンス。
人々は皆彼女のきらきらに魅了されました。しかし一緒のレースを走る他のウマ娘にとって彼女は絶望に等しいものでした。
誰一人彼女に勝てないのは当たり前。それどころか道中一瞬でも先頭に立つことすら許されませんでした。

唯一もしかしたら対抗できるのではないか?と期待された私の同期のウマ娘でもダメでした。
クラシック期から砂のエリート街道を歩み、あのドバイでも結果を出した同期の一等星。
その一等星ですら子ども扱いでした。大井の砂は彼女の独壇場でした。
6 : 使い魔   2023/12/02 21:23:09 ID:Jfg/yX9iVA
「…やっぱりアキュートさんは東京大賞典にいくんだ」
「そうだねぇ」
「でもあそこは先輩の庭だよ?去年だって…」

大井で敗れはしたものの、やはりその力に疑いはなく次のG1の舞台では私を2着に下した彼女。
ですが今の彼女はとても勝者の姿には見えません。鬼の居ぬ間に洗濯…、今日の勝利はその言葉そのものなのかもしれません。
少なくとも彼女自身が今日の勝利を、そう感じているのは明らかでした。

しかしながら私はこの一年間を、もう一度東京大賞典を走る為に費やしてきたのです。
あの気持ちを…、悔しさを感じることすら許されなかった絶望感を振り払うには、もう一度挑戦するしかないのです。
実家のジムで研鑽を重ねる数々の門下生を幼いころからずっと見てきた私は、本能的に知っていたのです。
このまま挑むことなく逃げれば確実に自分の中の何か終わってしまうということを。
事実この同期は今日を最後にその後、ただ一つの勝利すら上げることは出来ませんでした。
7 : アナタ   2023/12/02 21:25:49 ID:Jfg/yX9iVA
「その為にトレーナーさんとこの一年準備してきたんだからねぇ」
「そっか…そうだね。うん、頑張って!私、絶対応援に行くから!」
「ありがとうねぇ。どこまで出来るかはわからないけど、頑張るよぉ」

私にとっては今日のG1すら叩きの一戦でした。年末にピークが来るよう調整は完璧です。
季節が肌寒くなるにつれ、しかし私は日に日に自分の心が、体がぽっぽっと熱くなっていくのを感じていました。
これで負けたなら仕方ない。だけど悔いだけは残したくない。
彼女から逃げるなんて選択肢は、はなっから無かったのです。

「もう一度挑んでくるよぉ…ご立派な赤鬼さんにねぇ」
8 : お姉さま   2023/12/02 21:27:28 ID:Jfg/yX9iVA
そうして再び訪れた東京大賞典の舞台。去年を上回る大勢の観客。
人々は皆、誰一人として彼女の勝利を疑ってはいません。
あるいは一緒に走るウマ娘だって、彼女に勝つことをどこか諦めているのかもしれません。

「それじゃあ、いつもの頼むよぉ」
「ああ!頑張れアキュート!」

ビシッ!ビシバシッ!ビシッ!

控室でいつものように、いやいつも以上に強く肩を叩くトレーナーさん。
もしかしたら彼は、私以上に緊張しているのかもしれません。
今日がこの一年間の集大成。
あの日から二人三脚で歩んできた道が正しかったのかどうかは、全て今日次第なのですから、それは仕方のないことなのでしょう。
しかし私はそんな彼の気持ち、魂が篭ったエールを受けて、今この瞬間、自分が本当の意味で心身共に完璧に仕上がったことを実感するのでした。
9 : お姉ちゃん   2023/12/02 21:29:58 ID:Jfg/yX9iVA
あと一歩、本当にあと一歩でした。
しかしその一歩は、とても近くてとても遠いものでした。

勝ったと思いました。しかしあと一歩、ゴール寸前で彼女をかわせると思ったその瞬間、私は彼女の背中に鬼を見ました。
それは彼女の覚悟か、執念か、あるいは矜持なのでしょうか…。

私の一年の研鑽は嘘をつきませんでした。
あれだけの差を、1着と10着という大差を、私は一年で、ここまで詰めることが出来ました。
しかしそれでも、ついに彼女の背中を追い越すことは出来ませんでした。

スタンドに響き渡る大歓声。勝者を讃える怒号のようなファル子コール。
去年と同じようにそれに笑顔で応える彼女はやはりきらきらしています。
大井の誰もが皆彼女を、彼女だけを見ています。
10 : お兄ちゃん   2023/12/02 21:33:55 ID:Jfg/yX9iVA
「…アキュート、本当にお疲れ様!」
「トレーナーさん…」

ダートにまで入って来て、大歓声に負けないように大きな声で私を呼び、迎えてくれたトレーナーさんは泣いていました。
とびきりの笑顔で、しかしぽろぽろと涙を流していました。

「ごめんねぇ…もう少しだったんだけどねぇ…」

謝る私に、ふるふると首を横に振るトレーナーさん。
11 : お姉ちゃん   2023/12/02 21:35:17 ID:Jfg/yX9iVA
「よく頑張った、本当に心からそう思ってる」
「でも…」
「今日がダメでもまた来年、それでもダメならその次だろ?」
「…」
「君が諦めないなら、俺はずっと一緒に頑張るから」

悔しいのは彼だって一緒です。
それでも彼は今日の私を讃えてくれるのです。
もう二度とこの人を泣かせたくはないと、いつか思ったことがあったでしょうか。
また泣かせてしまいました。彼は十分に立派で、私のことをこんなに支えてくれているのに、です。
12 : トレピッピ   2023/12/02 21:36:39 ID:Jfg/yX9iVA
気付けば私は自然に涙するトレーナーさんを抱きしめていました。

「あ、アキュート…?」
「ごめんねぇ。次は絶対、嬉し泣きさせるからねぇ」
「うん…でもちょっとこれは恥ずかしいかな?」
「…今は誰も見てないと思うよぉ」

また一年頑張ろう。今度こそ自分がきらきらして、彼に極上の笑顔を届けて見せよう。
皆が皆赤鬼さんを讃える大井の砂の上で、私は今一度の誓いを、この誰よりも大切なトレーナーさんと一緒に。
13 : モルモット君   2023/12/02 21:38:18 ID:Jfg/yX9iVA
砂の上を、一人のウマドルが走っていました。ウマドルにはレースとライブしかありませんでした。
勝ち続けて、センターで歌って踊って、それで一番想いを届けたい人にアピールする。それが今のウマドルにとっては全てでした。

今日は本当にギリギリでした。追いすがるアキュートさんは本当に強いウマ娘でした。
最後の最後は意地でした。ここで負けたら自分には何も残らない、それ位の気持ちで何とかしのぎ切れました。

レースが終わり、ひとしきりファンの皆に応援してくれたことへの感謝を振りまくウマドル。
ファンサを終えて控室へ向かおうとするウマドルの目にちらりと、今のレースで自分をすんでのところまで追い詰めたアキュートさんが見えました。

彼女は自分のトレーナーさんと抱き合っていました。それはとても良い雰囲気に見えました。
それを見てウマドルは、自分の胸がチクリと痛むのを確かに感じてしまいました。
14 : トレ公   2023/12/02 21:40:00 ID:Jfg/yX9iVA
ウマドルとはいばらの道なのです、そしてこれは自分で選んだ道なのです。
その先に待つ幸せは、おそらく誰もが味わえるものではないものでしょう。
ですがウマドルは、ああやって素直になれたらどれだけいいかと、ずっとそんなことを考えていました。
勝っても負けても、大好きな自分のトレーナーさんに、ああやって抱きしめたり抱きしめられたりしてみたいと、ずっとそんなことを考えていました。

勝った自分がそれを我慢し、負けた彼女がそれを得られる。そしてその事実に嫉妬してしまう。
そんな悪い気持ちが湧いてくること自体、ウマドルにあるまじき行為なのです。

これでは本当に自分は、ファル子ではなくわる子ではないだろうか。
トレーナーさんが待つ控室までの道すがら、そんなことを考えてしまいます。
ウマドルは泣いてはいけない、これもまた自分が自分に課した、いばらの哲学です。
ですがウマドルの目には自然に、でも確かにじわりと涙が溜まっていたのでした。
15 : アナタ   2023/12/02 21:44:09 ID:Jfg/yX9iVA
以上です。

みんなも自分に素直になろうね☆
ウマドルとの約束だぞ☆
16 : トレーナーさま   2023/12/02 21:46:12 ID:JU1OnYc8XE
(´;ω;`)
17 : トレーナーさま   2023/12/02 22:29:43 ID:r82boG35vs
ばぁばとトランセンドって同期だったのか
今調べて初めて知った

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