些細なきっかけでダンナを意識してしまうイナリワン
1 : トレーナー君   2023/11/17 21:11:28 ID:e1Im0/uZ8M
きっかけは些細なことだった。
ある日の夕方、トレーナーとイナリワンがトレーニングが終えて、寮に帰るまでの少しの時間を潰すために、商店街をぶらついていた時のこと。
「はぁー、揚げたてのコロッケはうめえなあ。トレーニング後の揚げ物は体に染みるぜ」
「ああ、まったくだな」
二人が談笑しながら歩いていると、突然、イナリがバランスを崩した。
足元に空いていた、拳ほどの大きさのくぼみに気付かなかったのだ。
「おっとっとぉ!」
「イナリ!」
トレーニング後で疲労が溜まっていたせいか、足がもつれて倒れそうになったイナリの手を、トレーナーが間一髪掴んで自分のほうに引き込んだ。
2 : トレーナー君   2023/11/17 21:12:03 ID:e1Im0/uZ8M
その時だった。
トレーナーに強く抱き寄せられた時、イナリの心臓がどくんと跳ねた。
今まで感じたことのない、熱い感情が身体を駆け巡った。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、ありがとなダンナ。けど、コロッケを落としちまった」
イナリは、地面に落ちたコロッケを残念そうに見た。
するとトレーナーは、自分が持っていたコロッケをイナリに渡して、落ちたコロッケをを拾い上げた。
「ああ、このくらいなら汚れたとこを取り除けば食えるさ。俺が食うよ」
「けど、落としたのはあたしで……」
「何言ってんだ、レースが控えてるのに、腹を壊されたらたまったもんじゃねえ。まあ、そっちは俺の食いかけだから、嫌なら食わなくても……」
「く、食わねえとは言ってねえだろ。ありがたく頂くぜ」
二人はまた歩きだしたが、イナリの身体からは、トレーナーの体温を感じた時に身体の奥からこみ上げてきた、熱い感情が抜け切らずにいた。

3 : お兄さま   2023/11/17 21:13:52 ID:e1Im0/uZ8M
その翌日から、イナリの様子が変わった。
走り込みトレーニングの最中。コース1周のタイムを測った後、トレーナーがストップウォッチを見て笑った。
「やったぞイナリ!タイム更新だ!」
イナリは汗を拭って応える。
「おう!やったぜ!これでますますイナリ様の名が上がっちまうなあ!」
いいタイムを出した後、いつも二人は拳をぶつけ合って喜ぶのだが、トレーナーが拳を突き出した時、急にイナリの顔がかあっと赤くなった。
「あー、ダンナ、その……」
「どうしたイナリ?」
イナリはトレーナーのごつくて固い拳をちらと見て、赤くなった顔をそむけた。
「い、いや、なんでもねえ!次!走ってくるぜ!」
「あ、ああ」
どこか様子のおかしいイナリを、トレーナーは見送ることしかできなかった。

4 : あなた   2023/11/17 21:16:12 ID:e1Im0/uZ8M
また、昼食の時。イナリはレースに向けた打ち合わせを兼ねて、トレーナー室でトレーナーと一緒に昼飯を食べるのだが、その時も様子がおかしい。
「ほら、イナリ。今日も腕によりをかけて作ってきたぞ。たんと食べてくれ」
そう言って、トレーナーはいなり寿司が詰まった弁当箱を開けてみせた。
イナリの好物がいなり寿司ということで、たびたび自宅でいなり寿司を作って持ってくるのだ。
「おう!頂くぜ!ありがとな、ダンナ!」
イナリがいなり寿司を食べだした時、ふとある考えが頭によぎる。
こうして手料理を食べる仲というのは、世間ではかなり親密な仲ではないのか。
いや、あたしからも時々手料理をごちそうしてるから、そうじゃない。
でも、それだともっと親密な仲ということに……
そこまで考えが至ると、イナリの顔がかあっと赤くなる。
「イナリ?大丈夫か?」
「え?あ、ああ!大丈夫だぜ!ダンナが作ってくれたいなり寿司のおかげで、元気いっぱいよ!」
顔を真っ赤にしたままいなり寿司をばくばく食べるイナリを、トレーナーは首をかしげて見ていることしかできなかった。

5 : あなた   2023/11/17 21:19:08 ID:e1Im0/uZ8M
「はあ……」
放課後、屋上の手すりに寄りかかって、イナリはため息をついていた。
悩みはもちろん、トレーナーのことである。
「まったく、どうしたもんかねえ……今じゃ、ダンナの顔を見ただけで、胸がきゅうううってなりやがる。恥ずかしいやら、照れくさいやら、あたしはどうしちまったんだか」
「おう!イナリのチビ助!」
背後から呼びかけたのは、タマモクロスだ。
「なんでい、タマかい。今は構ってる余裕がねえんだ。あっちいってくんな」
「へっ、そう言わんときや。みんなして噂しとるで。イナリの様子がおかしいってな」
「そうかい」
「なんや、そないぐったりして。体調でも悪いんか?」
タマの声色が真剣になる。イナリはため息ひとつついて、
「言ったらバカにすんだろ」
「アホ、もうしとる」
「じゃあ言っても言わなくても、変わんねえか。……その、うちのダンナだけどよ」
「イナリのトレーナーか。なんかあったんか?」
6 : アナタ   2023/11/17 21:20:25 ID:e1Im0/uZ8M
「その、最近、ダンナの顔を見たり、少し体に触れただけで、なんつうか、体がかっかと熱くなっちまうんだ。それで、照れくさい気分になっちまって、おかしなことをしちまうっていうか」
タマは途端に呆れ顔になる。
「なんや、盛っとるだけかいな」
「さ、盛っ……?!」
「ええか、イナリ。ウチを見てみい。トレーナーとどういう付き合いをしとる?」
「タマがタマのトレーナーと?そりゃ、丁々発止の掛け合いをしたり、楽しそうに一緒に出かけていたり……よくもまあ、あんな自然にべたべたできるもんだなって思うぜ」
「そや、ウチとトレーナーは家族やからな、照れたり恥ずかしがったりしないんや。せやからイナリも、トレーナーと家族になった気で接すればええんや」
「か、家族って……」
イナリの顔がかあっと赤くなるが、イナリは気合いを入れるように拳を握りしめた。
「そうだよな。いつまでも照れて逃げてちゃ、みっともねえよな」
イナリは階段口に向かって走り出す。
「ありがとな、タマ!」
「おう、がんばってきいや、チビイナリ」
「うるせえチビタマモ!」
荒っぽい口調とは裏腹に、二人の表情は晴れやかであった。

7 : トレーナー君   2023/11/17 21:22:08 ID:e1Im0/uZ8M
そして、イナリの様子が変わった。

8 : アネゴ   2023/11/17 21:26:06 ID:e1Im0/uZ8M
昼飯の時。トレーナーとイナリは食堂で一緒に食べるようになっていた。
その日のメニューはカレーである。
「てやんでい!今日も食堂のメシはうまいぜ!」
「ああ、そうだな」
イナリとトレーナーは、対面に座ってカレーを食べている。
「おっ、ダンナ。ほっぺにルーがついてるぜ」
そう言って、イナリはトレーナーの頬についたルーを指で取ってぺろりと舐めた。
「へへっ、ごちそうさんってな」
「その、イナリ」
「なんでい、周りをきょろきょろ見て」
「かなり、恥ずかしいんだが」
トレーナーがそう言うのも無理はない。二人がいるのはウマ娘たちが食べるスペースのド真ん中である。

9 : お姉ちゃん   2023/11/17 21:26:56 ID:e1Im0/uZ8M
当然、ウマ娘たちの視線がちらちらと二人に注がれている。
「てやんでい!あたしにとってダンナは家族同然!誰にも文句は言わせねえぜ」
イナリの言う通り、普通の生徒は最高学年であるイナリに口出しできず、またそういった行為を取り締まる風紀委員のバンブーメモリーは……
「ほら、トレーナーさん!あーんっス!えへへ、トレーナーさんとアタシは家族っスから、風紀違反にはならないっスね」
と、イナリに『トレーナーは家族概念』を吹き込まれたことで、使い物にならなくなっていた。
「つまらねえこと考えてねえで、そら!あーんってな!」
そう言って、イナリはトレーナーに、自分のスプーンでカレーを差し出すのだった。

10 : お姉ちゃん   2023/11/17 21:27:55 ID:e1Im0/uZ8M
続きは明日のどこかで連投します
11 : トレーナーちゃん   2023/11/17 21:50:03 ID:9Q5mcZDmSE
定期的なイナリスレすき
もっとしてほしい
がんばって
12 : 相棒   2023/11/18 04:43:22 ID:IDGfjQ2Bxk
走り込みトレーニングの最中。
「やったぞイナリ!記録大幅更新だ!」
「やったぜダンナ!」
イナリはトレーナーに抱きついて、尻尾をぶんぶんふりながら、
「へへっ!これもダンナの指導あってのもんだぜ」
「いや、イナリがきついトレーニングを頑張ってきたからだ。よくやったな」
「ダンナ、これからもみっちりしごいてくれよな」
「ああ、任せてくれ。おれはイナリの相棒だからな」
「ダンナ……」
「イナリ……」
という会話を、今にも鼻が触れそうな距離で、見つめ合ってするからたまったものではない。
トレーニングに集中できなくなるウマ娘がいるのはともかく、
「お兄ちゃん♪いつもトレーニングメニューを考えてくれて、ありがとう!常日頃から感謝してまーす!え?本気に見えないって?じゃあ、こうして……ほら、カレンの目を見て?カレンがどれだけお兄ちゃんに感謝してるか、よく分かるでしょ?ふふ、お礼にキスさせてあげても、いいよ?そしたら……カレンたち、どうなっちゃうかな?」
と、それを真似する者まで出てきた。

13 : ダンナ   2023/11/18 04:44:30 ID:IDGfjQ2Bxk
美浦寮にて。
寮長室には、寮長のヒシアマゾンと、呼び出されたイナリがいた。
「イナリ、こりゃなんだい?2日に1回は、外泊届を出してるじゃないか。なにか理由があるのかい?」
「おう、ヒシアマ寮長!うちのダンナのメシを作りに行くんでい!ダンナとあたしは相棒で家族だからよ、一緒に料理すると楽しいんでい!」
「分かるよ!アタシもトレ公と飯を食べると、幸せな気分になるからね!それで、タイマンすんのかい!?」
「あたぼうよ!みっちりタイマンでい!」
「ならよし!楽しんできな!」
かくして、寮長印が外泊届に押されるのである。

14 : お姉ちゃん   2023/11/18 04:45:15 ID:IDGfjQ2Bxk
トレーナーが借りているアパートにて。
「おうダンナ!みそ汁できたぜ!」
「おお、こりゃうまそうだ」
夕飯の食卓に並ぶのは、白飯に、メンチカツとイカフライの揚げ物と千切りキャベツに、トレーナーが野菜を切ってイナリが煮込んだみそ汁だ。
「へへっ、こうして食卓を囲むと、本当に家族みてえだな」
メンチカツを食べながら、イナリが言う。
「……そうだな」
トレーナーはみそ汁を飲みながら、一言答えるだけだった。

15 : トレピッピ   2023/11/18 04:46:58 ID:IDGfjQ2Bxk
夜。イナリとトレーナーは布団に寝転がっていた。
布団は一つしかなく、それにイナリとトレーナーが一緒に入っている。
いつか、「敷き布団と掛け布団、もう一組買おうか」とトレーナーが言ったこともあったが、今まで布団を買い足していないのは、「てやんでい!あたしの身体は小せえからよ、布団は一つでちょうどいいってもんよ」とイナリが言ったからだ。
イナリの体温が高いおかげか、布団の中は暖房を入れているかのように暖かい。
本当は、イナリの身体を抱きしめたいとトレーナーは思っていたが、そうしないのは男としての最後の自制心を守るためだ。
16 : モルモット君   2023/11/18 04:47:23 ID:IDGfjQ2Bxk
「ダンナ」
イナリが言う。
布団の中で向き合って話すと、まるで外の世界から隔絶された、二人きりの空間で話していると錯覚してしまい、トレーナーは妙な気恥ずかしさを感じてしまう。
「なんだ?」
「その、えっとな……」
しどろもどろな口調がしばらく続いた後、イナリは腹を決めて言った。
「あたしは、ダンナのことを、一生の相棒だと思ってる」
「……」
イナリには、もっと伝えたい気持ちがたくさんあった。感謝、信頼、愛情。だが、これ以上の言葉は無粋である。心が繋がった相手に思いを伝えるには、たった一言あればいい。
トレーナーはイナリを優しく抱き寄せて、言った。
「俺も、イナリのことを、一生の相棒だと思っている」
イナリとトレーナーは、吐息を絡ませながら、じっと目と目で見つめ合い、その奥で燃え盛る情動を確かめ合った。
それから、二人はタガが外れたように、お互いの体をひしと抱きしめた。
17 : ダンナ   2023/11/18 04:49:02 ID:IDGfjQ2Bxk
「なあ、トレーナー」
タマモクロスが聞いた。
「なんだ?」
「ウチ、イナリのやつに間違ったアドバイスをしたかもしれへん」
「なんでそう思う?」
「だってな、イナリのやつがトレーナーとべたべたべたべたするせいで、学園中が変な空気になっとるんや。アルダンとそのトレーナーなんて一日中ひっついとるで」
「あれは元々だろ」
「それにな、生徒会が風紀の乱れを正すために、ウマ娘とトレーナーの接触を制限する校則を作ろうっていう話が出たらしいんやけどな、生徒会の面々がトレーナーといちゃいちゃできなくなることを恐れて、可決しなかったって聞いとるで。ホンマ、だらしない連中や!」
「シンボリルドルフの、トレーナーに対する独占力は有名だからな……」
「しかもイナリのやつ、あんだけ爛れといて、レースへの情熱がさらに増したらしくてな。自己ベストをがんがん更新してるってのも聞いとる。まあ、ウチとトレーナーの世界最強コンビが負けるわけないけどな!」
「その通りだ。思い知らせてやろう」

18 : キミ   2023/11/18 04:50:06 ID:IDGfjQ2Bxk
それから、タマモクロスは眉間にしわを作り、
「それにしても、学園の風紀を元通りにして、トレセン学園の硬派な気風を取り戻さなあかん。どうしたもんかなあ……」
「そこまで考え詰める必要もないんじゃないか?」
「いやいや、ここいらでウチがびしっと、レースに真剣になるっちゅうことがどういうことか、みんなに示さなアカン。この浮ついた空気をばしーっと吹き飛ばしてやるんや。それには、どうすればええんやろか……なんか思いつくまで、こうさせといてや」
タマモクロスは、トレーナーの膝の上に座りながら、体の前に回されたトレーナーの腕を抱きかかえて、うんうん唸って考えるのだった。

19 : お兄さま   2023/11/18 04:50:54 ID:IDGfjQ2Bxk
以上です。秋イナリの季節になったので書きました。
20 : 相棒   2023/11/18 08:03:56 ID:obIa8C52uo
ちょうどイチャイチャイナリ成分を
切らしてたトコだから助かった
21 : トレ公   2023/11/18 11:59:05 ID:PFVwJvvtxI
良いものでした
トレセン学園の風紀は定期的に乱れまくっててほしい
22 : マスター   2023/11/18 12:50:53 ID:5hn1nZQ9Jg
美しい…
貴方のおかげで百万人が救済される
23 : 相棒   2023/11/25 06:06:00 ID:.CeQQDLanY
ヒソヒソ…永世三強世代よ…
ヒソヒソ…トレーナーと担当ウマ娘は家族同然という概念を広めているわ…
ヒソヒソ…大胆な行動をとるようになりつつあるザマス…
ヒソヒソ…やっぱりトレセン学園は爛れてるわね…

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