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キミ 2023/11/15 08:12:42
ID:wFWuMZJt1g
夕方のトレーナー室でふたりが向き合っていた。窓からは夕日が差し込んでいる。
「ネイルするなら、自然な色合いがいいっしょ?」
手際よく準備をする少女の言葉に男が「そうだね」と答えた。
「ん。ほら指出して」
準備を終えた少女は机の上をトントンと叩き、男に手を差し出すように促した。
「ふーん。あんたって結構爪の手入れしてるんだ。指も奇麗だし」
手入れの行き届いた男の指を見ながら少女は言う。
「それは君に影響受けたおかげかな。前はケアなんて何もしてなかったよ」
「そっかそっか、じゃあアタシがもっとキレイにしてあげっかんね」
少女ははにかみながらそう言うと、早速作業に取り掛かった。
作業をしてもらいながら、男は窓からの夕日が照らす、真剣な少女の顔を見つめる。この数年間、ずっと見てきた表情だった。
ある時は自分が作ったトレーニングメニューを読み込んでいる表情、またある時は試験前に一緒に試験範囲のおさらいをしている表情、
そして、レース直前、控室で集中を高めている表情──
見た目から勘違いされがちだが、その印象よりずっと真剣に、一生懸命にやって来たのを男はずっと見てきた。
「うん、奇麗だ」
「そうっしょ〜? ネイルはベースコートの塗りのキレイさでかなりデキが変わるかんね〜」
少女は顔を上げず答える。男はふたつの意味を込めたつもりだったが、少女には片方しか伝わらなかった。