【AIのべりすと使用,オリウマ娘注意】登り切れ、世界の頂点まで
1 : 1   2023/08/20 07:09:24 ID:cbmdcE/X6o
ゲーム版ウマ娘2.5周年に合わせて作りました
このSSはフィクションです。このスレに登場するオリウマ娘などの要素は実在の人物、事件とは一切関係ありません
AIのべりすと→https://ai-novel.com

⚠以下の要素が含まれます
・オリウマ娘
・キャラ崩壊(出来る限り最低限に収めます)
・史実改変

それでは始めます
(#1)
「はぁ...緊張できますなぁ...」
そう語ったウマ娘はロンシャンの地で勝負服の埃を払っていた。
「無事に出走出来そうで良かったです...」
やがて不安に襲われながらもファンの前に現れた彼女は盛大な拍手で迎えられ、ゲートへと向かった。多くの苦難を乗り越えた彼女の脚は眩しすぎず、しかしながら確かに光を感じるほどのオーラを放っていた。彼女の名は『リノエベレスト』。大井の地方トレセン学園から這い上がり、レースで世界の頂点に立とうと一歩ずつ進んでいったウマ娘だ。
2 : 1   2023/08/20 07:14:30 ID:cbmdcE/X6o
(#2)
リノエベレストの初勝利はジュニア級の9月だった。中央のレース場では勝つことができず、所属である大井で未勝利クラスを脱出した。1勝クラスに昇格した彼女は競走ウマ娘としての未来にしばらく悩んでいた。彼女のトレーナーはいくつかの提案をしたが、それでも彼女の気持ちは晴れなかった。だが同年の凱旋門賞をトレーナーと観たことで状況は打開された。日本のトレセン学園に在籍しているウマ娘が最高峰と呼ばれる戦いで走る姿はリノエベレストの未来を決める最大の要因となった。そのレースの後、彼女の中で何かが変わったのだ。
「今日もよろしくお願いします...!」
彼女がそう言った後、いきなりトレーニングで先頭集団へと合流し、その走りに約3kmもついて行った。なぜこんなに頑張るのかとトレーナーが尋ねると彼女はこう答えた。
「凱旋門賞を制覇したいです...!」
皆が驚く発言だった、凱旋門賞に出走するウマ娘に憧れたとはいえ。地方のウマ娘にとって中央の重賞を制覇することでさえ困難だ。ましてや凱旋門賞を制覇することは想像出来ない程の難しさと言われていた。彼女のトレーナーはこの高すぎる目標に言葉を失った。しかし同時に夢を追いかけるウマ娘の力強さを感じた。このウマ娘ならばいつかきっと...。そんな希望を抱いた彼はすぐに彼女のトレーニングメニューを変更した。それは厳しいものだったが、その分結果を出した時の喜びは大きかった。そして2人は数々の勝利を重ねた。11月に兵庫ジュニアグランプリを制したことで重賞初勝利を掴みとった。それから4ヶ月後、彼女の目標は更に大きくなっていた。
3 : 1   2023/08/20 07:21:30 ID:cbmdcE/X6o
(#3)
「おめでとうございます!今のお気持ちをお聞かせください」
「えっと...とても嬉しいです。今まで支えてくれた全ての方々に感謝しています」
「これからの抱負を教えてください」
「もっと強くなりたいです。中央のG1レースにも挑戦してみたいと思っています」
「ありがとうございました!」
クラシック級の3月にリノエベレストは中央編入試験に合格し、同年4月に中央のトレセン学園の新入生として彼女は歓迎された。彼女のトレーナーが思っていたような歓迎では無かったものの、新しい環境での生活が始まった。まずは自己紹介から始まったのだが、ここで衝撃的な事実が発覚した。
「私はあなたと同じチームに所属することになりました。あなたのことは以前から知っていましたよ。でもまさか同じチームになるとは思っていませんでした。改めてよろしくね、リノちゃん」
なんと同期入学したのはデビュー前にもかかわらず、上がり3ハロン31秒台の参考記録を持つメビウスケイフックというウマ娘だった。他にも同期のウマ娘がいたが、全員が全員とんでもないバケモノ揃いだった。
「初めまして、僕はナンジョウアゲイン。君は確か地方から来たんだよね?お互い頑張っていこう!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします...!」
後にメイクアップアーティストとして活躍することになるナンジョウアゲインとはこの時から仲良くなった。
4 : 1   2023/08/20 08:18:05 ID:cbmdcE/X6o
(#4)
その後も続々と同期ウマ娘たちと交流を持った。その中にはGIを何度も制しているマルゼンスキーや昨年の宝塚記念でレコード勝ちをしたビワハヤヒデもいた。特にビワハヤヒデは中距離コースを得意とするウマ娘だ。得意な教科を互いに教え合う関係となり、レースではあまり関係は持たなかったものの勉強仲間となった。その後ビワハヤヒデの紹介でナリタタイシンとも知り合いになった。またこの頃からビワハヤヒデは地方からの転入生であるリノに対して優しく接してくれた。
「ハヤヒデさんのおかげで中央のトレセン学園に馴染むことが出来ましたなぁ...感謝してもしきれません...」
「私としては君が早く友達を持ってくれて良かったと思っているよ」
5 : 1   2023/08/20 08:19:45 ID:cbmdcE/X6o
(#5)
それと同じ頃、リノのトレーナーはクラシック三冠レースの完走を目標に彼女の確認を取った上で皐月賞の出走登録を行った。時は過ぎて皐月賞当日、他のライバルたちが集う中、リノはレースを順調に進めた。道中は好位につけていた。だが直線に入り、残り200mに差し掛かった時、突然視界がぼやけ始めた。
「あれ...どうなってるの...?」
必死に脚を動かそうとするが思うように動かない。それどころかどんどんと失速していくではないか。そのままゴール板を通過した後、リノは自分の状態を確認した。
「あっ...そっか...今日は調子が悪い日だったんだ...忘れちゃってたな...でも次がある...次はダービーだもんね...!」
そう自分に言い聞かせながら次のレースに挑んだ。しかし日本ダービーを目の前にしてリノエベレストは体調を崩してしまった。
「はぁ...はぁ...まだ治らないのかな...もうすぐ始まるのに...どうして...?」
「無理しない方がいいぞ」
彼女のトレーナーがそう伝えてきた。
「大丈夫ですよ...これくらい...!」
「強がりを言うんじゃない。いいから今日は休んでろ」
「嫌です!絶対に走ります...!」
「ダメだって言ってるだろうが!そんな状態で走ったらお前...!」
「それでも走ります!私は...負けたくない!」
「...分かった。そこまで言うなら止めはしない。ただし条件がある。もし走るのであれば必ず勝ってくれ。それが出来ないのならば今すぐ棄権しろ」
「ええ、もちろんです...」
そして運命のレースが始まった。彼女は自分の出せる力を全て出し切った。そして最後の直線で一気に加速し、後続を引き離すことに成功した。その差は10バ身以上あった。その光景を見た観客たちは歓声を上げた。
「やった...勝った...!」
「おめでとう、よく頑張ったな!」
「ありがとうございます...!」
6 : 1   2023/08/20 08:21:45 ID:cbmdcE/X6o
(#6)
こうしてリノエベレストは皐月賞と東京優駿を走り切り、この年のダービーウマ娘となった。だが彼女の体調は悪化する一方で、ついに入院生活を余儀なくされた。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう...私が弱いせいだよね...」
リノは病室で一人、涙を流した。そんな彼女を励まそうとトレーナーは毎日のように見舞いに来てくれた。しかし彼女にとってその優しさは逆に辛かった。
「ごめんなさい……トレーナーさんまでこんな目に合わせてしまって...」
「気にするなよ。俺も担当が勝つ瞬間に立ち会えないなんて嫌だしさ。それに俺は信じてる。お前は必ず復活してくれる。そんな気がするんだよ」
「...はい、約束します!いつか必ずレースの舞台に帰ってきます。だから私は諦めません...!必ず...必ず...!」
「ああ、待っているよ。いつまでも」
「はい...!ありがとうございました...!」
そうして彼女はリハビリに励むようになった。時には挫けそうになったが、彼女のトレーナーが支えてくれたおかげで乗り越えられた。そして1年後、彼女はようやく退院し、再びレースに出ることが出来るようになった。同じチームのメビウスケイフックもリノエベレストの退院を喜んだ。
「おめでとう!これで一緒に走れるね!」
「ありがとう、これからよろしくね...!」
「うん!こちらこそ!」
7 : 1   2023/08/20 08:27:33 ID:cbmdcE/X6o
(#7)
こうして2人はさらに絆を深めていった。シニア級1年目の年の夏、リノエベレストは改めて凱旋門賞制覇への決意を固めた。この年の出走はリハビリ明けのため断念したが、その代わりに彼女は夏のGⅡレースである札幌記念に出走した。結果は8着だったが、レース後に行われたインタビューでこう答えた。
「悔しいなぁ...でも次は絶対に勝ってみせます...!私の目標は世界一だから...!」
そう語る彼女の瞳には強い光が宿っていた。
「私、頑張ります!だから皆さん、応援よろしくお願いします!」
このインタビューは新聞やテレビでも取り上げられた。またこの時の彼女の姿はSNSでも話題となり、多くのファンを獲得するに至った。その年の天皇賞(秋)では5番人気という低評価を覆して見事に勝利を掴んだ。
「や、やった...やりました...!」
「おめでとう、リノ!」
「はい……これも全てトレーナーさんのアドバイスのおかげです...本当にありがとうございます...!」
「いやいや俺は大したことはしていないさ。それよりも次だ。有馬記念に向けて気合を入れていくぞ!」
「はい!」
8 : 1   2023/08/20 08:31:05 ID:cbmdcE/X6o
(#8)
この勢いのまま年末の大一番である有馬記念に臨んだ。ここでもリノは果敢に先頭に立ってレースを進めた。だが最後の直線に入った時、突然足がもつれ始めてしまった。
「あっ...やばっ...」
転倒まではしなかったが、結局そのまま失速してしまい、7着に敗れた。
「はぁ......はぁ...はぁ...」
「大丈夫か?少し休みながら行こう」
「は、はい...」
そうして二人は息を整えながらターフを去った。
「あの...トレーナーさん...一つ聞いてもいいですか...?」
「ん?なんだい?」
「どうして私をここまで強くしようと思ったんですか?正直、私なんかより優秀なウマ娘はたくさんいます。それなのにどうして……」
「それは君が世界一のウマ娘になる夢を持っているからだ」
「えっ...?」
「君は言ったじゃないか。『凱旋門賞を制覇したい』と。だがその道は決して簡単なものではない。だからこそ君の覚悟を確かめたかった。海外に行くというリスクを負ってまで本気で世界一を目指すのかと」
「そ、そんなことのために……?」
「まあ半分は冗談だけどな。でも君の夢を聞いて本気だということはすぐに分かったよ。だったら俺もその夢を叶えるために全力でサポートするしかないだろう?」
「トレーナーさん...!」
「よし、じゃあそろそろ帰るぞ」
「は、はいっ!」
こうして二人のシニア級1年目の戦いは終わりを迎えたのだった。
9 : 1   2023/08/20 12:32:32 ID:H9sF5yY4FM
(#9)
「うぅ...寒いですね...もうすぐクリスマスですけどトレーナーさん何か予定はありますか...?」
「残念ながら特にないな」
「そうですか...なら今年はデートしましょうよ!せっかくだしイルミネーションとか見に行きたいです!」
「いいぞ。その代わり明日は朝からトレーニングだからな」
「はーい!」
そして迎えた12月24日、この日は雪が降っており、ホワイトクリスマスとなっていた。
「わ...綺麗...」
「そうだな。やっぱり冬といえばこれだよ」
「そういえば去年の今頃は骨折してましたもんね...」
「ああ、よく治ったと思うよ。それもこれも全部お前のおかげだ。ありがとな、リノ」
「いえ、こちらこそ...その...ありがとうございます...!」
「...ところで今日は随分と大人しいな。いつもならもっとテンション高いはずなんだけどな」
「えへへ...だって...その...好きな人と一緒だから...」
「...お前ってそういうところあるよな。普段はしっかり者なくせに急に甘えてきたりするとかさ。まあ可愛いとは思うけど...」
「ふぇっ!?かわ...かわいい...///」
「おい、顔真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃ...」
「だだだだだだ大丈夫ですよ!全然平気なので!ほら行きましょ!早くしないと電車に乗り遅れちゃいます!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
こうして二人は手を繋ぎながら目的地へと向かった。道中は人混みが多く、なかなか思うように進めなかったが、それでも楽しい時間を過ごすことが出来た。
10 : 1   2023/08/20 12:39:32 ID:H9sF5yY4FM
(#10)
「すごい...!大井のイルミネーションは綺麗ですね...大井の地方トレセン学園に通っていた頃が懐かしいです...あれからもう一年以上経つんだなって...」
リノは戸惑いながらも彼女のトレーナーに思いを伝えた。
「思えばあの頃からずっと私はトレーナーさんのことが大好きでした...最初はただの憧れで、いつかこんな風になりたいっていう目標でしかなかったんです...でもいつしかそれが恋心へと変わっていった...私はきっとあなたと出会った時から恋に落ちていたかもしれませんね...」
彼女は息苦しくなりながらも続けた。
「それからも私は何度も挫けそうになりました...でもあなたの言葉があったおかげで私はここまで来れた...本当に感謝しています...これからも私を導いてくださいね...」
「ああ、任せておけ。これからも一緒に頑張ろう」
こうして二人は幸せそうな表情を浮かべながら帰路についたのであった。
11 : 1   2023/08/21 06:50:00 ID:9Y9E5t/8jk
(#11)
リノエベレストはシニア級2年目の年を迎えた。昨年はGIレースである天皇賞(秋)で勝利を飾ったが、有馬記念では7着という結果に終わり、悔しさを滲ませた。しかし彼女は決して諦めなかった。なぜなら世界一になるというのは彼女の昔からの夢であり、今もなおその夢は変わっていないからである。そして2年目の春、彼女は再び海外挑戦への決意を固めた。
「海外初戦ではあるがメイダンレース場に行くことになった。芝かダートか、どのレースに出走するか悩んだが、やはりここはダートトラックのドバイワールドカップに出走することを決めた。距離は2000m、相手は強敵揃いだが、ここで勝てば一気に世界のトップに立てるはずだ」
「はい!必ず勝ってきます!」
こうして彼女は新たなる戦いの場へと向かうべく、飛行機に乗って日本を発った。レース本番までの時間はあっという間に過ぎていった。レース前日、リノエベレストはホテルの一室で緊張していた。
12 : 1   2023/08/21 06:50:59 ID:9Y9E5t/8jk
(#12)
「いよいよ明日か……不安だけど楽しみな気持ちもあるな……」
そんなことを考えていると、突然部屋の扉が開いた。そこには一人の男が立っていた。
「久しぶり、リノ」
「...えっ?」
「どう?驚いた?」
「な、なんでここにいるんですか...?」
「実は俺、こっちで働いててな。それで君がレースに出るって聞いて応援に来たんだよ」
「そうだったんですか...でもどうして私なんかを...」
「もともと俺は大井の地方トレセンでトラックの整備をしていたんだ。だけどある日、君の走りを見て一目惚れしてしまったんだ。あんなにも楽しそうに走るウマ娘がいるなんて思ってもなかった。でも気づいた時には大井の地を離れて、世界各地で仕事をしていたよ。...君は日本一、いや世界一のウマ娘になる素質がある。だから頑張ってくれ」
「はい...でもトレーナーが来たのでこれで失礼しますね...」
「あ、そうだ。これを渡しておくよ」
「これは……?」
「俺からのプレゼントだ。君の勝利を願って作ったパワーストーンだよ。それを身に着けていればきっと勝てる。それじゃあまたな」
「は、はいっ!」
こうして男は去っていった。
「私の勝利を願って作ってくれたのか...嬉しいな...」
13 : 1   2023/08/21 15:16:33 ID:Cb52sXMuag
(#13)
翌日、いよいよ運命のレースが始まった。スタート直後は好位置につけることが出来た。
「よし...このまま行けば...!」
(ここからは一筋縄じゃいかないぞ)
「えっ...?」
(前をよく見てみろ)
リノエベレストに彼女のトレーナーの心の声が聴こえてきた。リノは前を見た。前が塞がれていた。彼女がそれに気付いた数秒後に4人のウマ娘に囲まれてしまった。
「しまった...!」
そして後ろからは次々と他のウマ娘が迫ってくる。
「まずい……このままじゃ……」
(落ち着け...そうすれば道が見えてくるはずだ)
リノは最終コーナーを綺麗に曲がった。すると前と右のウマ娘が少しずつ外側に膨らんだ。彼女のための道が開かれていった。
(包囲は解かれた、今だ!)
「行きます...!」
最終直線の入りでリノは強く地面を踏んで先頭のウマ娘との差を小さくしていった。そしてゴール直前、最後の力を振り絞って追い抜いた。
「やった...勝った...私...ダートレースの頂点に立ったんだ...!!」
こうしてリノエベレストは見事にドバイワールドカップを勝ち取った。
「おめでとう、リノ」
「ありがとうございます...これも全てトレーナーさんのおかげ...あれ...なんだろうこれ...」
「あの男から貰ったパワーストーンか。きっとその石には不思議な力が宿っているかもしれないぞ」
「そうなんですかね...」
「そうだよきっと。さあ、次は宝塚記念だ。行くぞ」
「はい!」
14 : 1   2023/08/21 15:20:49 ID:Cb52sXMuag
(#14)
こうして彼女は更なる高みを目指して突き進んでいくのであった。時は過ぎて6月中旬、宝塚の栄冠を掴むためにトレーニングを続けていた。
「今日は坂路でのトレーニングをやってみようと思う」
「はい、わかりました...」
「じゃあ早速始めていくぞ」
「はい...ふぅ...」
「どうした?疲れたか?」
「大丈夫です...はぁ...はぁ...」
「息遣い荒くないか?本当に大丈夫なのか?」
「はい、平気です...」
「そうか、なら良かったけど無理だけはするんじゃないぞ」
「はい、わかっています」
「じゃあ続けるぞ」
「はい...」
「よし、今日のメニューはこれで終わりだ。おつかれさま」
「はい、お疲れ様でした...」
次の日、彼女は熱を出した。
「38度5分...完全に風邪だな...とりあえず病院に行ってくるよ」
「すみません...」
「謝る必要はないさ。ゆっくり休んで早く治してくれよ」
「はい...」
こうして彼女は入院することになった。
「リノ、調子はどうだ?」
「今は落ち着いているよ」
「そうか、それはよかった」
「ねえ、トレーナー」
「ん?どうした?」
「私、不安で仕方がないんだ」
「どうして?」
「だって私が倒れたせいでせっかくのグランプリレースに出られなくなったんだよ...?」
「そんなことは気にしなくていい。それに僕はレースに出るよりも君が元気になってくれる方が嬉しいんだ」
15 : 1   2023/08/21 18:14:36 ID:YRnHi/O4cQ
(#15)
6月下旬、リノエベレストと同じチームに所属するメビウスケイフックとナンジョウアゲインが宝塚記念に出走した。結果的にメイショウテンゲンは中盤で掛かったせいか最終直線で失速した。一方、最後方に控え続けたメビウスケイフックは残り400m地点で先頭から18バ身差を付けられ16番手だったが、たったの15秒で先頭を捉え、そこからさらに8秒後には2着との差を6バ身まで広げた。このことから『15秒で世界を変えた。そして23秒で世界を反転させた』という形でレースの総評を行う人もいた。その後、リノの体調は回復し退院することができた。ただ疲労も考慮しこの年はこれ以上海外遠征は行わないことになった。
16 : 1   2023/08/21 18:18:16 ID:YRnHi/O4cQ
(#16)
7月7日。七夕の日だった。リノエベレストのデビュー戦(中山芝1200m)がこの日に行われたのだ。結果は6着と惨敗したが、その日の短冊に『レースに勝てますように』と書いていた。デビューから3年経ったシニア級2年目の七夕で、リノは短冊にこう書いた。『世界一になれますように』と。その後、二人は七夕特番のテレビ番組に出演し、番組終了後、リノはトレーナーに話しかけた。
「トレーナーさん、今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「いやいや、俺の方こそ楽しかったよ」
「そうですか...あの...一つお願いがあるんですけど...」
「なんだ?」
「今日、一緒に寝てくれませんか...?」
「えっ!?まぁ一応外泊届は出したが」
「ダメ...でしょうか...?」
「...わかった。じゃあ行くか」
「はいっ!」
そして彼らは同じベッドで一夜を共に過ごした。
「すー...すー...」
「可愛い顔して眠ってるな...まるで天使みたいだ...」
7月中旬、宝塚記念を終えたウマ娘が夏合宿という名のクールダウン期間を迎えていた。そんな中、リノはトレーナーと共に沖縄旅行に来ていた。
「綺麗ですね...海」
「ああ、そうだな」
「ところでトレーナーさん、次の目標はどのレースになりそうですか...?」
「そうだな...まずは天皇賞(秋)だ。このレースにはエアグルーヴも出走する。そこで勝つことが今後の目標だな」
「そうなんですね...楽しみです...!」
「そうだ、せっかくだし写真撮るぞ」
「はい!」
沖縄旅行を楽しんだ2人は確かに成長していた。
17 : 1   2023/08/22 08:59:04 ID:2tQdypWcoY
(#17)
それから1週間後、いよいよリノエベレストは秋のGI戦線に向けて始動しようとしていた。天皇賞(秋)の連覇に向け、彼女はトレーニングに励むのであった。時は流れ、9月上旬。リノエベレストは大井の地方トレセン学園を訪れ、他のウマ娘たちとともにトレーニングをしていた。その日、彼女は一人のウマ娘と知り合った。名前はミントシャワー。彼女は怪我によって現役を引退せざるを得なくなった。だがそれでもまだ走りたいという気持ちがあり、こうして地方のダートコースを借りて練習しているのだという。その話を聞いたリノは彼女に自分の想いを伝えた。
「えと...来年の凱旋門賞に勝ちたいですなぁ...」
ミントシャワーは驚きで少しの間沈黙したが、すぐに口を開いた。
「すごいなぁ...私もいつか海外に行ってみたいなぁ...」
「そういえばあなたの名前、どこかで聞いたことがあるような気がします...」
「あぁ、私は天皇賞(秋)を勝ったことあるんですよ」
「へぇ...じゃあ来年の夏辺りに一緒に行きませんか?夏祭り...!」
唐突な約束にミントシャワーは困惑していた。
「いいんですか?私なんかで」
「もちろんです!それに来年の夏には私も日本に帰ってきていますから。だからその時はよろしくお願いします!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
こうして二人は再会を約束したのだった。10月のある日、同じチームのナンジョウアゲインが天皇賞(秋)の前哨戦である毎日王冠に出走した。結果2着、この時のタイムは1分48秒2。この時、彼女はレース後にこう言ったという。
「やっぱり強いな、でも僕は負けない!」
18 : 1   2023/08/22 09:03:16 ID:2tQdypWcoY
(#18)
10月29日、ついに運命の日が訪れた。この日は天皇賞(秋)当日。リノのチームからは毎日王冠2着の6番人気ナンジョウアゲイン、宝塚記念で残り400m18バ身をひっくり返し6バ身の圧勝をおさめ『世界を反転させる魔術師』という二つ名を持つ2番人気メビウスケイフック、そしてドバイWCを制覇し秋天連覇がかかるダービーウマ娘の3番人気リノエベレストが出走した。一方、オークスを制覇し前走の札幌記念で見事な勝利を見せた女帝エアグルーヴが1番人気に支持された。レースは序盤、逃げを打ったナンジョウアゲインが先頭に立った。2コーナーを越えた向こう正面で、エアグルーヴが少し前に出てリノエベレストと中盤で競り合った。第3コーナー、ナンジョウアゲインは上手く息を入れ残り500m地点で先頭をキープ、そのまま逃げようとした。しかし、リノエベレストとエアグルーヴが少しずつ抜け出し、大外からはメビウスケイフックが猛追。勝負は人気どころの争いとなった。残り200mを切った時点で、エアグルーヴが先頭、リノエベレストとメビウスケイフックが追い込んで2番手を競っていた。レースは最終直線に入り、残り100mでエアグルーヴが先頭に立ち、さらに差を広げようとラストスパートをかけた。だが残り50m地点、ここでエアグルーヴの脚が鈍ったように見えた。リノエベレストとメビウスケイフックの末脚が女帝の末脚を超えた瞬間だった。そして2人はゴールインした。結果は2着にリノエベレスト、3/4バ身差の3着に敗れたエアグルーヴが悔しさを滲ませた。
「くそっ...なぜだ...」
エアグルーヴを慕う後輩ウマ娘がすぐに励ました。
「お疲れ様でした、エアグルーヴ先輩。次は絶対に勝ちましょう!」
「ああ、次は必ず勝ってみせる...」
19 : 1   2023/08/22 09:08:20 ID:2tQdypWcoY
(#19)
1着はメビウスケイフック。まるで魔法のような走りを再び見せた。ケイフックの走りを体感したリノは彼女のトレーナーにこう話した。
「ゴール直前の数秒間だけですが時空がおかしくなっていました...まるで時間が止まったみたいに...」
「そうか...確かにあの時、俺もそう感じたんだ...」
リノはその時の様子を伝えた。
「時空がおかしくなったタイミングで私は強くターフを踏み込みました...すると気付いた頃にはエアグルーヴさんの横を通り過ぎていました」
「なるほど...そういうことだったのか...」
その後、彼女はこう続けた。
「ケイちゃんの本当の強さが分かった気がします...対策をしなければならないですなぁ...世界の頂点に立つためにも...」
時は流れ、12月24日。有馬記念前日。有馬記念には出走しないウマ娘も含め、今年活躍したウマ娘達が集結していた。その中には、ナンジョウアゲインの姿もあった。彼女はこのレースを最後に引退することが決まっていたのだ。そんな彼女のもとに、秋華賞ウマ娘である4番人気ヒシアマゾンと、5番人気の皐月賞ウマ娘がやってきた。
「アゲイン、お前には負けられないよ」
「うん、僕だって譲れない」
「そうかい...じゃあ、明日は覚悟しておくんだよ」
3人はその後、それぞれ別れた。一方、リノエベレストは大井レース場のGⅠレースである東京大賞典に向けて準備を進めていた。またナンジョウアゲインのラストランを必ず観たいと思った彼女はトレーナーの分も含めプレミアムシートを購入していた。
20 : 1   2023/08/22 09:17:43 ID:2tQdypWcoY
(#20)
ついに迎えた有馬記念当日、リノは彼女のトレーナーとともにそのレースが開催される中山レース場へと向かった。
「いよいよですね...!」
「ああ、そうだな。今日はナンジョウアゲインを全力で応援しよう」
「はいっ!」
いよいよ運命のレースが始まった。スタートはきれいに出揃った。1周目の第3コーナーから第4コーナーにかけて、先行集団に目立った動きはなかった。レースが進むにつれて、中段につけていたウマ娘たちが前に出始めた。レースも終盤に差し掛かり、先頭はナンジョウアゲインに変わっていた。
「がんばれ...!あと少し...!」
リノは懸命に声を出した。残り300m、先頭は変わらずナンジョウアゲイン。しかし、後ろから徐々にウマ娘たちが迫ってきた。
「アゲイン...!」
残り200m、先頭はナンジョウアゲインのまま。しかし後方のウマ娘たちが一斉に襲いかかり、激しいデッドヒートが繰り広げられた。そして残り100m、ナンジョウアゲインは粘っていたが、他のウマ娘たちにかわされ、結局3着に終わった。だが、それでも満足そうな表情を浮かべていたという。
「楽しかった、とにかく楽しかった!僕を応援してくれて本当にありがとうございました!」
有馬記念が終わった後の夜は本当に眩しかった。リノエベレストは彼女のトレーナーと渋谷付近を歩いていた。
「来年の目標は?」
「もちろん凱旋門賞です!そしてその後はアメリカに行きます!」
「だよな!でも今年は東京大賞典がまた残っている。まずはそこで頑張ってくれ」
彼女は笑顔で返事をした。翌日、彼女はトレセン学園に戻り、すぐにトレーニングを始めた。年末の大掃除を終わらせた後、彼女は寮の自室で勉強をしていた。有馬記念は終わったが、まだ今年は終わっていないとリノは自分に言い聞かせた。東京大賞典前日、彼女はレースに備えて早めに就寝した。
21 : 1   2023/08/22 09:38:57 ID:2tQdypWcoY
(#21)
そしてレース当日、彼女はパドックへ向かった。パドックではドバイWCを勝ったリノエベレストを観るために多くのファンが集まっていた。
(すごい人だかりだ...でも私ならやれるはず...)
パドックで待機している間、彼女はレースの展開について考えていた。このレースに勝つために、そしてメビウスケイフックの魔術師のような走りに対抗出来る走りを身に付けるために。
(残り400mあたりで抜け出したらいいのかな...?)
パドックで待つこと数分、ファンファーレが鳴り響いた。ついに運命のレースが始まる。ゲートが開き、ウマ娘達がスタートした。レース序盤、典型的な逃げウマ娘がいないためかリノエベレストが押し出される形で先頭に立った。しかし、後方から一気に差し切るウマ娘が現れ、リノは焦った。残り200mを切ったところで、2番手のウマ娘がリノに追いつき、そのまま追い越していった。しかし、リノは諦めなかった。
「ここで負けたくないです...私はここで勝つ!」
それと同時にパワーストーンが僅かに黄色く光った残り100m、2番手のウマ娘との差はわずか2バ身。残り50mでリノが差し返して先頭に立つと、そのままゴールインした。2着は追い込んできた2番人気のウマ娘、3着はハナ差の3番人気となった。
「はぁっ、はぁっ...」
ゴール後、彼女は呼吸を整えながらスタンドを見渡した。そこには彼女のトレーナーと、親友のナンジョウアゲインの姿があった。
「ありがとう...僕は感動したよ」
「お疲れ様、リノ」
ドバイWCの凱旋を兼ねて有馬記念の参戦を蹴って出走した東京大賞典はリノエベレストの勝利に終わり、これで彼女はGⅠ4勝を達成。リノのシニア級2年目が3戦2勝という形で終えた。そしてリノはメビウスケイフックに対抗できる走りを少し身に付けた。
22 : 1   2023/08/23 07:50:03 ID:rtcno5AgDk
(#22)
時は流れ、1月7日。リノはシニア級3年目の健康を祈願し彼女のトレーナーと七草粥を食べていた。
「これからもよろしくお願いしますね、トレーナーさん...」
「ああ、こちらこそ」
昨シーズンの1年間、様々なことがあった。風邪をひいてグランプリレースを回避してしまったものの海外遠征も経験できた。何より、彼女とトレーナーは絆を深め合った。
「また1年、頑張りましょう...!」
「ところで次のレースはどうするんだ?今年もドバイに行ってもいいが...」
「うーん...ちょっと考えさせてもらっていいですか?」
そして1月下旬、ついにその時が来た。それは有馬記念3着のメイショウテンゲンが現役引退を発表したのだ。
「テンゲンちゃんの戦いが終わったんだね...」
そのニュースを聞いた時、リノはメイショウテンゲンの分まで頑張って走ろうと思った。そして時は過ぎ、2月中旬。ドバイ遠征か国内レースの出走か悩んでいたリノはようやく決断を下した。
「決めました、私は日本にいることにしました」
「そうか...じゃあ、次はどこに行くつもりなんだ?」
「そうですね...まずは大阪杯でしょうか」
一方、メビウスケイフックはドバイシーマクラシックの出走を決めた。そして遠征の直前、彼女はリノエベレストにこう告げた。
「このレースが私の最後の戦いになるかもしれない。でも絶対に勝ちたい。リノちゃんもパソコンの前でもいいから応援してほしいんだ」
リノはメビウスケイフックと二度と戦えないと思いながらも元気な声を出した。
「うん、分かったよ。必ず応援する!」
23 : 1   2023/08/23 08:19:34 ID:rtcno5AgDk
(#23)
そして迎えた当日、メビウスケイフックは4番人気だった。レースが始まると、やはり欧州勢が前に出てきた。レース中盤まで彼女達は積極的に動いてこなかった。しかしメビウスケイフックは第3コーナーから第4コーナーにかけて、徐々にペースを上げていった。そして最後の直線では4人のウマ娘が入り乱れる大接戦が繰り広げられた。メビウスケイフックもこの集団に含まれていた。だが、メビウスケイフックは最後の競り合いを勝ち切れず2着。レースを制したのは3番人気のフランス在住のウマ娘。ネット配信でこのレースを観ていたリノは肩を落とした。
「はぁやっぱり世界の壁は厚いな...」
一方、レースを終えたメビウスケイフックはレース直後、取材陣に囲まれていた。
「レースを振り返ってみていかがでしたか!?」
「正直言ってかなり緊張したけど、なんとか走れてよかったです。それに、今回は自分のためだけじゃない。ライバルであるリノのために走ることができたことが嬉しかったんです」
その後、予告通りメビウスケイフックは引退を宣言。そしてレースの翌日、彼女は故郷のアイルランドへと帰国した。
「ありがとうございました!」
ドバイシーマクラシックは負けたものの宝塚記念,天皇賞(秋)を最後方からの強襲で制覇したメビウスケイフック。リノはドバイシーマクラシックでそんな彼女に勝ったウマ娘を見て、フランスが最高峰の地にふさわしい場所だと感じた。
24 : 1   2023/08/23 08:22:50 ID:rtcno5AgDk
(#24)
数日後、大阪杯が開催される阪神レース場に多くの観客が詰めかけた。そんな中リノエベレストは圧倒的な1番人気だった。
「ついにこの時が来ましたね...」
「そうだな。まぁ、リラックスしていけばいい」
そして迎えた当日、彼女はいつものようにパドックへと向かった。パドックでは彼女のトレーナーとともに、他のウマ娘たちの様子をうかがっていた。
「うわ、みんな気合入ってますねぇ...」
「そりゃそうだろう。だってGIだから」
「でも、私は私なりに頑張ればいいんですよね?」
「もちろん。とにかく怪我だけはしないようにな?」
「はい!」
レースが始まり、彼女はスタートから好位置についた。レース中盤の向こう正面で彼女は少しずつ仕掛け始めた。残り200mを切ったところで、彼女は先頭に立った。
(ケイちゃんは引退したけど、彼女に対抗しようとした経験は決して無駄ではない!)
残り100m、後方との差はわずか1バ身。残り50mでリノはさらに脚を爆発させ、そのまま押し切って勝利、GⅠ5勝目をあげた。
「やった...!また勝った...!」
「おめでとう、リノ。本当によく頑張ったね」
ゴール後、観客席で観戦していたリノのトレーナーは涙を流しながら彼女を祝福してくれたという。そのとき彼女はパワーストーンが僅かに緑に光っていた事に気付いた。
「もしかしたら...これが私の運勢なのかも...!」
25 : 1   2023/08/23 08:25:47 ID:rtcno5AgDk
(#25)
レースの翌週、彼女のトレーナーのもとに一通の手紙が届いた。手紙の差出人はなんとあのナンジョウアゲインだった。
「えっ...アゲインちゃんから...?」
「ああ、読んでみよう」
〈拝啓 リノエベレストへ あなたはシニア級3年目にもかかわらずGⅠレースを制覇し、長く活躍していることが伺え、僕は嬉しいです。僕にとってリノは憧れの存在で、いつか一緒にレースに出てみたいと思っていました。そんな君と一緒に走れたことは僕の誇りであり、夢でもありました。僕は今年度からメイクアップアーティストの仕事に就きました。まだ見習いだけど、これからも頑張ります。最後に...君はもう立派なアスリートです。自信を持って、今後も頑張ってください〉
ナンジョウアゲインの直筆メッセージを読んだ彼女は感動のあまり泣き崩れたという。そしてその涙は、パワーストーンにも伝わった。彼女は突然トレーナーにこう言った。
「トレーナーさん、この石、すごく綺麗になりました...!」
「本当だ、前よりも輝きが増している!」
「もしかすると、私が成長した証かもしれませんね...」
26 : 1   2023/08/23 08:27:21 ID:rtcno5AgDk
(#26)
その次の日、次のレースをどちらにするか悩んでいた。1つはグランプリレースの宝塚記念。もう1つは春のマイル戦線の総決算である安田記念。リノにとってはどちらも初めての挑戦となる。
「うーん、どっちに出ようかなぁ...」
「悩むところだよな」
「はい...」
そして迎えた4月下旬、リノエベレストはついに決断を下した。
「私は安田記念に出ることにします!」
「そうか、確かに凱旋門賞は2400mのレースだが、凱旋門賞を勝つには世代最強マイラーに負けないようなスピードと勝負根性が必要だと俺は考える。つまり、マイルのレースで力をつければ勝てる確率は高くなると思うんだ」
「そうですよね...じゃあ、私、頑張ります!」
こうして、リノは新たな目標に向けて走り出した。
「次も絶対に勝ちたい...!」
27 : 1   2023/08/23 08:32:15 ID:rtcno5AgDk
(#27)
そして迎えた当日、彼女は3番人気だった。レース序盤、彼女は前から2番手の位置についていた。レース中盤、彼女が3コーナーに差し掛かったところで、外から一気に上がってきたウマ娘がいた。
「まずい、このままじゃ追い抜かれる...!」(焦ったらダメ、落ち着いていこう)
そして最後の直線では、彼女の目の前でデッドヒートが繰り広げられた。そして、わずかに前に抜け出した方が先にゴールイン。3着となった彼女は悔しさのあまり唇を強く噛み締めた。
「うぅ...」
レース後、インタビューを受けた彼女は悔しさを滲ませながらこう答えた。
「今日は勝ちたかったんですけどね...でも、最後まで諦めずに走ることができてよかったと思います。次はもっといい結果を残したいですね...」
その後、彼女はトレーナーにこう話した。
「今日は負けたけど凱旋門賞に向け自信が湧いてきました...!それに、レース後のパワーストーン、ちょっとだけ赤くなってたんです。何かしらの予兆かもしれませんがきっと大丈夫なはず...」
「そうか...そうだよな」
「はいっ!」
一方、出走しなかった方の宝塚記念。リノは再び2人分のプレミアムシートを購入して観戦する予定だった。何かしらのヒントが宝塚記念で得られるだろうという理由で。
「宝塚記念かぁ、どんなレースになるのかな」
そして迎えた当日、やはり彼女はパドックへと向かい、出走ウマ娘の確認を行った。1番人気は異次元の逃亡者サイレンススズカ、前走の金鯱賞を大差で勝利したウマ娘だ。2番人気は女帝エアグルーヴ、前走のヴィクトリアマイルで勝利をおさめている。3番人気はヒシアマゾン、シニア級4年目を迎えたが大阪杯3着,ヴィクトリアマイル2着と好走が続いている。そして4番人気はメジロブライト、前々走の大阪城ステークスをロングスパートで制した。
「うわぁ、すごいメンバーだ……」
28 : 1   2023/08/23 08:37:10 ID:rtcno5AgDk
(#28)
そしてレースが始まり、1番人気のサイレンススズカはスタート直後から後続を離していった。レース中盤、2番手に12バ身のリードを付けたサイレンススズカが先頭。エアグルーヴは4番手、ヒシアマゾンとメジロブライトが競り合って13番手集団を形成していた。
「うわっ、あんなに離れてるのか...!やっぱり強いんだなぁ」
第3コーナーでメジロブライトが仕掛け始め位置を上げようとした。ヒシアマゾンも数秒遅れてそれに追随。それでもサイレンススズカは2番手とのリードをキーブしていた。最終コーナーに入り、エアグルーヴも先団から仕掛け始めた。
「リノ、エアグルーヴさんも動き始めたぞ」
最初に直線に入ったのは2番手の集団に6バ身差を付けサイレンススズカ。しかし、その直後、そこで構えていたエアグルーヴが徐々に追い上げてきた。
「エアグルーヴさんが動いた!ここから差し切るつもりか!?」
残り200mを切ったところでエアグルーヴは一気に加速。それを見たメジロブライトもさらにペースを上げた。
「いけーっ!!頑張れーっ!!」
「行けーっ!!!」
残り100mでついにエアグルーヴが先頭に立った。
「よし、そのまま押し切れ―――ッ!」
しかし、そこからサイレンススズカがエアグルーヴを差し返そうと必死にエアグルーヴを追った。コースの外側を見るとヒシアマゾンとメジロブライトが追い比べをして前の2人を捉えようとした。
「えぇっ、まさか...!」
そして最後の50m、ついに3人がほぼ同時にゴールイン。
結果は写真判定へ持ち込まれた。
「どうなるんだろう、ドキドキしてきた...!」
そして10分後、掲示板に表示されたのは、ハナ差でのエアグルーヴの勝利だった。
「すごいレースでしたね...」
リノは驚きを隠せなかった。
「ああ、本当に凄かった...」
「このレースを見て、私も頑張りたいと思いました!」
「そうだな...俺もだ!」
「はい...!」
29 : 1   2023/08/23 08:47:25 ID:rtcno5AgDk
(#29)
宝塚記念の後、リノは凱旋門賞の前哨戦であるフォワ賞に向けトレーニングに励んだ。7月下旬、トレーニングも一段落したところでミントシャワーとの約束を果たしに合宿所の近くで開催される夏祭りに行った。
「あ、ミントシャワーさん!久しぶりだなぁ...」
「あのウマ娘がミントシャワーか?」
「はい!そうです...」
「こんにちは、あなたがリノエベレストさんのトレーナーですか?私はウマ娘の勝負服デザイナーをしています、ミントシャワーと申します。よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくな」
「とりあえず屋台でご飯を買いましょうかぁ...」
その後、彼らは焼きそばやたこ焼きなどを食べながら楽しく会話を交わした。しばらくすると櫓の太鼓が鳴り始め、リノたち3人も円に入って踊り始めた。ミントシャワーとは21時頃に解散し、リノと彼女のトレーナーは合宿所に戻った。
「楽しかったですね...!」
「うん、とても良かったな」
「来年もまた行きたいですね...!」
「そうだな!」
そして、いよいよ8月1日。ついにフランス遠征の航空便が羽田空港に到着した。
「いよいよだな」
「はい...!」
出発ロビーで荷物を受け取り、搭乗口へと向かった。機内に乗り込むと、そこにはURAの関係者たちが既に待機しており、展望テラスには美浦寮長のヒシアマゾンの姿もあった。
「ヒシアマゾン先輩、この前の宝塚記念をもって現役引退を発表をしたようですよね...」
「そうだな。本来はシニア級2年目の有馬記念で引退する予定だったがリノの秋天の復活勝利に心が動かされて、もっと長く活躍したいと思ったらしい...」
そんな話をしていたら飛行機が動き始めついに離陸した。やがて飛行機はパリ・シャルルドゴール空港へと着陸し、ついにリノエベレストと彼女のトレーナーは海外の地を踏んだ。
30 : 1   2023/08/24 07:11:05 ID:k4lOlqO.pQ
(#30)
「ここがフランスの大地か」
「そういえばパリのトレセン学園ってどこにあるんですか...?」
「確かパリの郊外にあったはずだ」
そして、その日の夜。2人はホテルのレストランにて夕食をとった。その夜、2人の部屋のドアが激しくノックされた。ドアを開けるとそこにいたのはエアシャカールだった。フランスのレースについてのデータの解析しにパリに留学していたらしい。
「オメェらも来てたンのか」
「凱旋門賞に出走してほしいと招待状を貰いましてね...」
「そうか……まァ、とにかくレース頑張れよ。オレも応援に行くンだし」
「ありがとうございます...!」
「エアシャカール、また会おうな」
こうして約2ヶ月半に渡るフランス遠征が始まった。トレーニングではフランスのレース場の芝に慣れるところから始まった。
「さすがに日本のレース場とは違うよな」
「でも、ここで結果を残さないとですね...」
「ああ、分かってる...」
一方、レース場でのレース練習も始まった。
「模擬レースですね...」
「欧州のレースの雰囲気に慣れていくぞ」
リノは模擬レースで少しずつ感覚を掴んでいった。一方でエアシャカールの方はパリのトレセン学園に在学しながら過去30年間のレースデータを解析していた。
31 : 1   2023/08/24 07:13:55 ID:k4lOlqO.pQ
(#31)
そして迎えた凱旋門賞の前哨戦、フォワ賞。ここを勝利して凱旋門賞に弾みを付けたいと思ったリノのトレーナーは作戦を立てた。
「いいか、リノ。お前は前目の位置についていけ。その上で最後の直線で一気に仕掛けるんだ」
「分かりました……!」
そして、本番を迎えた。ゲート入りが始まり、リノは少し緊張していた。
(大丈夫かな……)
しかし、すぐに気持ちを切り替え、集中した。ガシャンッ! 8人が一斉にスタートした。スタート直後、イタリアのウマ娘が先頭を走り、リノは3番手を位置取った。そのまま集団が固まったままフォルスストレートに差し掛かった。最終直線と勘違いするウマ娘も少なくなく、注意が要るポイントだ。しかし、ここからがリノの本領発揮だ。残り800m地点で一気にギアを上げ始めた。リノは上手くロングスパートをかけたまま順位を1つ上げ最終直線に突入した。そこからは先頭との差を詰め始めた。残り300m地点、ついに先頭を捉えるとそのまま先頭でゴールインした。
「やった...!勝った...!」
「よく頑張ったな!」
「はいっ...!」
「次はいよいよ凱旋門だな」
その時パワーストーンは太陽の眩しさを吸収して緑と黄にはっきりと輝いていた。フォワ賞が終えた後はさらに仕上がりが良くなるようにリノは必死に練習を頑張った。そして、10月に入り、ついにエアシャカールの解析のデータがリノエベレストのもとに届いた。
「これで準備万端だな」
「はい...!」
32 : 1   2023/08/24 07:18:24 ID:k4lOlqO.pQ
(#32)
そして、ついに運命の日が訪れた。
「凱旋門賞の前哨戦、フォワ賞を制したのは日本からやってきたリノエベレストです!」
実況の声と共に会場から歓声が上がった。
「はぁ...緊張できますなぁ...」
「いつも通りに頑張れば勝てるはずだ」
リノはロンシャンの地で勝負服の埃を払っていた。
「無事に出走出来そうで良かったです...」
「そうだな...皆の力があるからこそ今この地に立つことができたんだよな」
やがて不安に襲われながらもファンの前に現れた彼女は盛大な拍手で迎えられ、ゲートへと向かった。多くの苦難を乗り越えた彼女の脚は眩しすぎず、しかしながら微かな光を感じるほどのオーラを放っていた。そしてパワーストーンは虹色に輝いていた。
(何度も挫折した...何度も助けてもらった...でもやれることはやったんだ...!)
エアシャカールはリノの様子を観た。
「まァ、簡単に言うと最高の仕上がりなンだ、元気に溢れているン訳だ」
そして、遂にファンファーレが鳴り響いた。
いよいよ凱旋門賞が幕を開ける。
凱旋門賞の1番人気は、フランスダービー馬である、クロンデュロイだった。
リノエベレストは2番人気。
「さあ、各ウマ娘綺麗なスタートを切りました。まずは先行争いが繰り広げられています。ハナを切るのはクロンデュロイか?...」
「残り2000m。先頭12番のウマ娘が掛かり気味か。クロンデュロイが2番手、リノエベレストはクロンデュロイの後ろを追走しています...」
この日のロンシャンは絶好の良バ場。ロンシャンの土は固いため、バ場が乾き切っていると脚の負担が大きい。これもエアシャカールのデータからリノが理解したことだ。
33 : 1   2023/08/24 07:21:04 ID:k4lOlqO.pQ
(#33)
「さて、第3コーナーを越えて第4コーナー、先頭は12番のウマ娘。2番手はクロンデュロイ、外からリノエベレスト...」
リノはフォルスストレートを前に3番手に付けていた。フォルスストレートに入って残り800m、虹色のパワーストーンがリノエベレストに物凄い力を注いていた。
「おおっと!?ここでリノエベレストが仕掛けてきた!ほぼ同時にクロンデュロイもギアを上げてきた!後続のウマ娘たちを引き離す!これはすごい!最終直線を目前にクロンデュロイが逃げるウマ娘を捉えた!最終直線に入ってリノエベレストも順位を1つ上げた!残り400mで先頭はロワジャルダンに変わっているが、その差は2バ身まで縮まっている!フランスダービーウマ娘と日本ダービーウマ娘の意地のぶつかり合いだ!2人の力はほぼ互角!この2人の対決を制するのはどちらなのか!」
...リノは脚の疲れを感じ始めていた。一方、彼女が目の前の頂点に踏み込もうとしている。頂点は頂点でも世界最高峰...世界一標高が高い、エベレストの頂点だ。
(必ず踏み込んでみせる。世界の頂点を...!)
「残り200m!先頭はクロンデュロイだが、リノエベレストも食らいついている!2人の力が拮抗しております!ここでリノエベレストが更に末脚を爆発させた!2頭のデッドヒートが繰り広げられる!」
「行けぇーっ!!リノ!!」
「リノさん!頑張ってください!」
「頑張れェッ!!!」
観客席からはたくさんの歓声が届いた。
「もっと動け、私の脚...!」
リノは叫んだ、パリの地で。
「リノエベレストが並んだ!そしてクロンデュロイをかわした!リノエベレストが先頭に立った!そしてそのままゴールイン!リノエベレスト1着、1着!世界最高峰の150秒の戦いを制したのはリノエベレストだ...!」
その実況と同時にリノが持つパワーストーンが粉砕されたのである。
34 : 1   2023/08/24 07:39:20 ID:k4lOlqO.pQ
(#34)
「ありがとう...!」
「やっぱり強いな、リノは」
「エアシャカールさんの解析データも効果がありましたね...」
「ああ、そうだな。本当によくやったよ」
2人は喜びを分かち合った。その後インタビュー会場に向かうため廊下を歩いているとある男に止められた。その男は世界を転々とし、リノにパワーストーンを与えた人だった。
「急に声を掛けてすまない、パワーストーンが砕けているようだな。正直な話、君はこれから強い走りが出来なくなるだろう」
リノエベレストは愕然とした。
「パワーストーンの効果はレースの素質が少し上がるだけでなく早熟寄りのウマ娘の成長曲線を晩成型に出来るという効果がある。君にこれを与えなかったらシニア級2年目以降の戦績はボロボロだっただろう。しかしパワーストーンの効力は無限に続くわけではない。赤く光った場合は数ヶ月後にパワーストーンが砕けるというサインだ。また、パワーストーンを付けていたらトレーナーの心の声が聞こえるようになったことについてだが、それはパワーストーンその物の効果ではない。君の思いの強さがその現象に結び付いた、それ以上のことは事実と言い切れない」
リノエベレストはなぜパワーストーンを渡したのか尋ねた。
「君は世界の頂点に立つと言ったにもかかわらず早熟寄りのウマ娘にとって最も大切な1年間で一度もレースに出られなかった。そんな君を救いたかったわけだ。最後に言うが、今日はパワーストーンが虹に光っていたよな。それはパワーストーンがラストランを望んだということだ」
その話を聞いたリノエベレストは決意した。
35 : 1   2023/08/24 07:43:53 ID:k4lOlqO.pQ
(#35)
世界最高峰のダートレースであるドバイワールドカップと世界最高峰のターフレースである凱旋門賞を制覇し、パワーストーンの喪失によって素質が枯れてしまった以上、こうすべきとリノは考えた。凱旋門賞の勝者インタビューにて『現役を続ける意志はありますか?』という質問に対し微妙な反応を見せた彼女は日本に帰国した数日後に現役引退の発表を行った。
「え...?」
「ど、どういうことですか...!?」
「引退って...!」
「ごめんなさい...もう走ることが出来なくなってしまったんです...」
記者会見の会場はしばらくの間沈黙に包まれた。
「今まで応援してくれて、支えてくれて、ありがとうございました...!」
その日の夕方、都市の駅前では『リノエベレスト 現役引退』という号外が配られ、SNSは大騒ぎになった。号外の記事には『アメリカ遠征も計画していたが、その挑戦は志半ばで途絶えた』という文も見られた。
「...そうか、ついに決断したんだな」
「はい、私は最後まで悩み続けていました。でもリノは前を向いています...」
「そうか...いつかはこんな日が来るとは思っていたが、やはり寂しいものだな」
リノエベレストは中央のトレセン学園を卒業した数ヶ月後、彼女のトレーナーと結ばれた。その頃、エアシャカールはデビュー戦を勝利した。多彩なデータを武器に走る姿にリノはホッとした。その後、リノエベレストと彼女のトレーナーは共に大井で活躍するトレーナーとして働いている。
36 : 1   2023/08/24 07:46:08 ID:k4lOlqO.pQ
(#36)
ここまでの話は虚構に過ぎないが、はたして今後のウマ娘世界で誰が凱旋門賞を勝つのか?もしかしたらこの画面の目の前に居るあなたが推しているウマ娘かもしれない。

[おしまい]

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