>>453(続き)
そんなある日、私がトレーナー室に入ると、トレーナーはソファに仰向けになって寝ていた。普段なら私が来る頃には目を覚ましているのに、今日はよっぽど疲れているのか起きる気配がない。多分、昨日も夜遅くまで私のトレーニングメニューを考えていたんだろう。
近くまで寄ってみると、最近になって購入したと言う電気タバコを手に持ったままだ。おそらくは直前まで吸っていたのだろう。校内は禁煙だとこの間たづなさんに怒られたばかりだというのに、全く懲りていない。
ヒョイと手から取り上げて、机の上に置いておく。そしてその流れで、なんとなくトレーナーの手に目がいった。
(手、大きいな…)
なんとなく片手を取って、手のひらを重ねてみる。私の手よりも関節一つ分くらい大きくて、指もゴツゴツしていて太い。厚くて大きくて、そして暖かい。いつも不器用に私の頭を撫でてくれる、大人の男の人の手だ。
そのまま少し横にずらして指を絡めてみる。軽く力を入れてキュッと握ってみると反射的なものだろうか、トレーナーの方からも握り返してくる。それがなんだか無性にくすぐったくて、胸の奥の方がポカポカしてくる。