普段よりちょっと早めにトレーナー室へと着いた時、私が見たのは虚ろな目をしたトレーナーさんだった。
いつも使ってる施設予約の書類を手にしてはいるが、ぼんやりと眺めたまま動かない。
アタシが近づいてようやく入室に気付いたトレーナーさんが豆鉄砲で弾き飛ばされたかのように表情を取り繕う。
「あっ……! お、おおはようネイチャ。今日もトレーニング頑張っていこうな!」
あまりにも白々しい挨拶、違和感を覚えずにはいられないその態度を訝しがらない理由などなく、トレーナーさんの全身を舐め回すように観察してしまったのは不可抗力だろう。
そして、アタシは見た。アタシは気づいた。トレーナーさんの左手に。
――――消えている。そう、消えているのだ。あれだけ目障りだった白色が。ブロンズでは絶対に退かせられないあのプラチナが消えている。
それはつまりそういうことなのだ……!
アタシは今までずっと手に入らないと思っていた宝物が自分の手の届く場所に降りてきたと狂喜した。同時に、トレーナーさんがかけがえのない人と別れることとなった不幸で喜ぶ自分を猛烈に嫌悪した。
喜びと嫌悪をミキサーの容量いっぱいに詰め込んでかき回して出来上がった感情がアタシの思考を焼き尽くす。ほどなくアタシを突き動かすのは衝動だけになった。
――――そうだ。手放してくれたなら、他の誰に拾われる前に、手に入れないと……。