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「スティルちゃん、ごはん行くよ」
マヤノトップガンは、さっそうとした姿で、弟弟子のスティルインラブをよく食事に連れていってくれた。華やかさへの憧れはもちろん、幸にもある。その最たる存在であるマヤノからの誘いはうれしかった。手の届かない存在なのに、いつも身近な存在でいてくれた。
「あまりレースに関して話した記憶はないです」
スティルはそう笑う。意外でもある。田原は文筆業にも才能を発揮していた。言葉に変えられる希有なウマ娘なのに、熱くレース論を語ったりしなかったようだ。
「それより楽しい時間という印象です」
人を育てるには技術論はもちろん必要だが、息の抜き方を教えるのも意外と重要である。そうした“私”の時間にこそ、学びがあることが多い。高級な店に行くことも、おいしいものに舌鼓を打ち、舌触りのなめらかな酒に留飲を下げ、美しい女をめでることも課外授業でしか経験できない。そんな暮らしを目の当たりにすることは、夢へとも変わる。よくよく思えば、スティルがトゥインクルシリーズを志した原点も実はそこにあったのではないか。