「なぜ泣いていたのですか?」
女は問う。
「泣いてなどいない」
男は答える。
「そうなのですか?」
女は問い返す。自分を乱暴に抱きながら、目に涙を溜めていた男の顔を思い浮かべながら。
「そうだ」
男は女に背を向けたままぶっきらぼうに答えた。
「そうですか……」
女は男の背に身を寄せ、優しく抱きしめる。男は軽く身じろぎをした。
「…私は、他の誰かの代わりでも構いませんよ」
男は驚いて女の方に向き直る。
「貴方が私を通して誰かを見ていても、それでもいいんです」
女は繰り返す。
男は顔を歪めた。
「でもいつかは…いつかは私自身を愛して下さいね……」
女は今にも泣き出しそうな表情の男の目尻に溜めた涙を指で拭うと、自ら唇を男の口元に寄せ──