星降る石畳を踏んで君はゆく。
1歩半だけ先を、怒ったように忙しなく。
もろびとこぞる市場の中を、
その細い脚で縫うように淀みなく、
騒ぐ人波をかきわけて。
店先は光で満ちて、
きらめく品々は眩しく鮮やかだ。
甘いホットチョコレートの湯気に、
シナモンの香りが乗って夜を温めている。
この冬の日の喧噪の中で
その小さな肩を見失わずに済んでいるのは、
間違いなく君自身のおかげだった。
「何してんの、はぐれないでよ」
振り向いて、ぶっきらぼうに君は言う。
頷き返すと、すぐに前を向いてしまう。
ただ1歩半だけ先を、
それ以上決して引き離さないように、
細心の注意を払いながら君はゆく。
時折、ちらちらと振り返る視線に、
気づかないふりをして後を追う。
気づいたことがわかったら、
その途端にこの聖なる1歩半が
ぐんと伸びて消えてしまうからだ。
聖夜の月明かりを受けて君はゆく。
1歩半だけ先を、誰よりも優しく慎重に………