トレセン有数の敏腕トレーナーが居る。彼には絶対の信頼を寄せるサブトレが居るのだが、とても有能であるとは思えない。
善人なのは間違いないのだが、要領が悪く、よくトレーナー試験をパス出来たものだと陰口を叩かれる日々を送っていた。
あるウマ娘がレース中に足首を粉砕骨折し、意識不明の重体となった。青ざめる関係者を尻目に、そのサブトレは普段とはまるで違う俊敏さで、彼女に駆け寄ると砕けた足首に優しく口付けた。
警備員に直ぐ様取り押さえられるも、周囲は異なる理由で唖然とした。
命が危ぶまれていたウマ娘がその足で立ち上がったのだ。押っ取り刀で駆け付けた医療班達もしきりに頭を捻るも、原因はついぞわからなかった。
警備員から解放されたサブトレはよろめきながらトイレに入ると、口から大量の蠅の様なものを大量に吐き出した。
虚空に吐き出された雲海の如き蠅の群れは大海に墨を垂らす様に、溶けるようにして消えてしまった。