無事に退院して仕事に戻ったハヤヒデだったが、全てが順調とはいかなかった
奇跡的に我が子は一命を取り留めて成長してはいるものの、かつて医者に指摘されていたことが現実となってしまった
「出産直後の酸欠状態が長引いた影響で、脳に障害が残っています」
「幸い、生命維持に必要な部分ではありませんが…お子さんの発達にはかなりの時間を要することになるでしょう」
医者が言うには、記憶や思考に関する部分に障害があり、おそらく言語の習得や集団生活は無理だろうとのことだった
一度は諦めたトレーナーとの結婚、しかし思いがけず手に入れたチャンスでトレーナーの子を授かったのだ、どんなに困難でも育ててみせる
強い意思をもって育児にあたるハヤヒデであったが、我が子は母親の顔さえも認識できないようで抱きかかえても泣くばかり、それどころかミルクも吐き出し満足に栄養も取れていない
育児休暇を取得したものの、部下からは頻繁に連絡が入るし、夜泣きも多くハヤヒデはまたも体調を崩していた
こんな状況なのに、どうしてトレーナーは来てくれないのか
当たり前だ、彼には家庭がある。妻こそいないが二人の子供を抱える父親だ
わかってはいるのだが、一人でこの状況を乗り越えなければならない事実に涙が止まらなかった